神さまばっかの世紀末な世界に、俺が望むこと   作:赤サク冷奴

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めぐり逢いにはならなかった模様(え

そして何気にちゃん様のまともな出番。
side by sideはいいぞ……!(宣伝)


この素晴らしい神機に祝福を!

 

 

 私、日霊トウカの朝は早い。

 

 午前4時。整備班の方々の起床と共に神機保管庫に直行。あふれんばかりの大量の神機を目の前に、思わず抱き着いてほっぺスリスリしたくなる衝動を顔面を殴り飛ばして堪える所から始まります。

 

「君は朝からいつも倒れてるよね」

「うひひ……ごめんなさい」

「ほら立った立った、もう仕事始めるよー」

「了解です、楠整備長!」

「整備長なんて役職ないんだけどなぁ」

 

 リッカ……もとい楠整備長は私の先輩です。

 

 彼女も私と負けず劣らずの神機ヲタかつ、数少ない女性整備士なので、初対面で気が合いましたね。

 あと、前はここで整備士をしていたという男性が、神機が性癖という私の同志だったそうなのですが、今はクレイドルで野戦整備士をしているらしく、滅多に会えないんだそう。残念です……

 

「第一、第二整備班は集合した?」

「はい、整備長!」

「こちらも到着致しました、整備長!」

 

 私が整備長と呼び始めたからか、皆してリッカを整備長呼びしているんです。

 

 リッカは私の整備長ですよ!

 どうか気安く呼ばないで頂きたいっ。

 

 でも、ここに居る整備士さんは皆リッカの手腕に惚れて付いてきている職人の方々なので、私だけが独占する訳にもいかず……こればかりは仕方ありませんね。

 

「それじゃあ、メンテ始めよっか」

『うっす!!』

 

 整備士の一日は長い。

 

 何せ、神機使いはとにかくパーツを換装するからです。

 

 ターミナルから要望が届く度に部品を付け替えるので、換装後の調整などでかなり時間が取られます。何十人もいるので、ひっきりなしですね。

 

 でもそれは言い換えればつまり、止むことの無い神機のフルコースなのです。使い手によって滲み出る味が違いますし、それぞれのパーツの組み合わせからは、客を喜ばせる設計理念(遊び心)が窺えます。

 これ以上の幸せが他にあろうか……いやない!

 

 思わず神機に延ばしかけた右腕を抑える。

 

 ぐっ……我が右腕が疼く……! 例の機関が我が脳に拵えたという、慾望を解放せし器か……!

 

 ところで機関って何なのだろう、と自分で自分にマジレスをかましつつ、真面目にパーツ換装作業に取り掛かっていると、青みがかったシルエットが視界の端に見えた。

 

「……あれ? ギル、どうしてここに?」

「いや……今日は非番みたいなものでな。整備風景を眺めに来た」

「ほほう、分かってますね我が同志。では手始めに、我等が整備長、リッカの見事な神機パーツ換装技術を見に行きましょうか!」

 

 その前に、この最後の作業を完了させてからですがね!

 

「……そういう事じゃあ、ねぇんだがな」

「ん、何か言いましたか?」

「何でもねぇ」

 

 鼻歌交じりに換装作業を終えて、最終確認。

 うむうむ、我ながら素晴らしい出来栄えです。では連絡を入れてと……

 

「よし、行きましょうギル! 神機道の未知なる探究の始まりですよ!」

「あいよ」

 

 ギルの手を引いて、上機嫌で整備室を進むと、おやっさんこと班長と出くわしました。

 

「おう、もう休憩か嬢ちゃん」

「ええ、おやっさん。さっきノルマ分を終わらせたので、一時間だけ休憩をとらせて頂きますね」

「カーッ、痺れるねぇ! 流石はテル坊以来の神機ヲタクだ!」

 

 いやぁ、そこまで称賛されると照れますね〜。

 実家でただの厄介オタクだった時代とは大違いですよ〜。

 

「それにギル坊も一緒か。なんだなんだ? こんな無骨で煙と潤滑油の臭いしかしねぇ場所でデートかぁ?」

「なっ……ぶ、無骨とは何ですか無骨とは! 班長でも言って良いことと悪いことがありますよ! ここはゴッドイーターには最適のデートスポットじゃありませんか!」

 

 と、衝動のまま言い放ってから気付きました。

 

 ……これ、私とギルがデートしてると思われてるじゃないですか。

 

 無骨で、と言われたあたりから思考が反論モードになってました。

 というか、手とか繋いじゃってますし……

 

 恥ずかしくなって、スッと手を抜いた。

 勢いに任せたら碌な事が無いとは解ってるんですけど……ぐぬぬ。

 

「……ヲタク過ぎる彼女を持つと苦労するなあ、ギル坊よう」

「彼女じゃあないですって……」

「そ、そうですよ! これは神機道の探究であって、決して男女のお付き合いとかそういうのでは」

「あーハイハイ、リア充乙ってな。ほれ、こんな老いぼれの相手してねぇで行きやがれ」

 

 これ分かってもらえてない奴じゃないですか……

 

 抗弁しようにも、さっさと整備の仕事に入ってしまったので、聞いてくれないでしょう。

 最近のおやっさんは偶に裏切り者がいると聞きますし、その類いなんですかね……

 

「……行こうか」

「……はい」

 

 すごーく気まずい雰囲気で、第一整備室の方にやってきました。

 

 ですが、杞憂に終わりました。

 なんたって、私が大興奮したからです。

 

「ギル、ギル! 見て下さいよあの寸分の狂いもない接合を……! アームを動かす手捌きも然ることながら、指定の位置を完璧に狙い撃つ目測の力……ポール型神機の調整は、制動性を司るマニピュレータとオラクルアクチュエータ関連を除けば、この〝脚〟と刀身の接合の完璧さが神機のパフォーマンスの九割を占めると言っても過言ではありません! ブーストハンマー、チャージスピア、ヴァリアントサイズはどれも脚に多大なる影響を与える武器ですから、一ミリのズレが生死を分けるのです」

「ああ……そいつは、この前のチューニングで思い知ったよ。調整一つで、こうも扱いやすくなるとは思わなかった。整備する側の世界を見てなけりゃ、整備士への有難みも感じられなかっただろうさ」

「良い心掛けです。……っと、ここも見逃せませんね〜。接合時に使われるこの細いネジのような部品は、いわば脚部と刀身の緩衝材で特殊なオラクル合金で作られているのですが、これの調整がとても大変でしてね。きつく締めると破損を招き、刀身との強度が低下してしまうのですが、弛くても意味を為さなくなるというクセ者でしてね────」

 

 私が目を輝かせて解説していくのを、ギルは真剣な様子で聞いてくれます。

 

 元々は、神機の魅力を布教するという下心ありきで相談に乗ってあげましたが、まさか私と同好の士になるとは思いませんでした。

 やはり神機。神機は人と人とを繋ぐのです。

 

「……お前の知識量には、毎度驚かされるよ」

「これでも一級神機整備士ですからね。ギルはまだまだひよっこですから、精々私に追い付くよう勉学に励む事です」

「へいへい」

 

 勉学と聞いた途端、ギルが顔を難しくしました。

 これはアレですね。もしかしなくても勉強嫌いですね。

 

「なんともやる気のない返事ですね」

「嫌、という程じゃないんだが、机と向き合うのはあまり好きじゃなくてな……やるなら、その場で実践していく方が向いてる」

 

 分からないでもないですが、実践で細かい事を覚えていくにしろ、最低限の知識というものは必要です。

 

 ここは、私が一肌脱ぐことにしますか……

 

「良いでしょう。やる気が出るまでボコりましょうか」

「そりゃなんつうスパルタだ」

 

 ふっふっ、と軽めにジャブをしていると、いきなりギルに頭を押さえつけられました。

 あまりに突然だったので思考がフリーズしましたが、ふとこの状況を俯瞰してみると、私が子供扱いされてるような気がしてイラッと来ました。

 

「……何してるんですか。殴りますよ?」

 

 えいや、とストレートを放つと、十センチくらい手前で拳が静止しました。

 

 ……ぐぬぬ、これでは私が負けたようではありませんか。

 

「ふぬっ! いあっ!」

「……身長差、だな」

 

 ギルが180センチ以上あるのに対し、私は157センチ。

 手を伸ばしてギルの頭に手が届くかどうかという距離です。腕の長さは身長に比例するものですから、当たらないのも当然でしょう。

 

 仕方ありませんね……こうなったら奥の手です。

 

 私の頭を押さえつける腕を掴むと、思いっきり力を入れます。

 すると、大体の人はミシミシっとなります。

 

「────ッ!!」

 

 これをやられても声を上げない胆力は褒めますが、目論見は外れましたね。

 トウカちゃん大勝利です。

 

「痛ってぇ……折れるかと思ったぞ」

「ふっふっふ……適合率98%を舐めない事ですね」

 

 さて、私の自尊心を補いましたし、整備の続きを観察しましょうか。

 

 そう思って身体を戻すと、リッカがスパナ片手に仁王立ちしていまし。

 

「……背後で見せつけてくるなんて、君達は中々高度な事するよね」

「見せつけ……? あっ、いやいや見せつけるって何ですか! 別に何もしてませんよ! そうでしょうギル。……ギル?」

 

 そうだそうだ、とリッカの言葉を否定してくれると思ったら、何故か帽子を目深に被って顔を逸らしていました。

 もしや……ギルまで私を裏切ろうと言うのですか。

 

「ちょっ……ギルも何か言ってくださいよ!」

「へぇ〜? 否定しきれないような事してたんだね」

「してません! してませんから!」

 

 リッカのニヤニヤながらの追及から逃れ、元いた私の整備室まで逃げ帰ると、どっさりとした疲れに襲われました。

 

 なんでしょうね……ギルと私って、そんな彼氏彼女の関係にでも見えるのでしょうか。

 

 まあ……ギルなら、全然悪くは……

 

 …………。

 

「────ま、まだですからね! テル坊とやらと会うまでは、決められられませんから!!」

「はっ? 何を……」

 

 す、好いてはいますがそれは神機ヲタという親近感とブラッドという身内補正が掛かっているだけで、異性として好きという訳ではないのです。ええ、そうですとも。

 

 そもそも、5歳も下の青臭いガキなんて、ギルは相手にもしないでしょう。前提が間違っているのですから、恋仲になるなどおかしな話です。

 

「さ、さあ仕事の続きです! このままではあれこれ解説し始めて作業になりませんから、ギルもフリーの任務を周回して神機強化に邁進するなりして、お互い神機道の究明に戻りましょう!」

「……そうだな」

 

 ギルをさっさと帰して、私は作業に没頭します。

 

 とにかく、何も考えずに済むように。

 

 

 ○ ✕ △ □

 

 

 部屋を追い出されてしまうとは、俺は何か変なことでも言ってしまったのか。

 急かすようなあの態度を見て、少し、そんな不安を抱いてしまった。

 

「……年下、か」

 

 自分でも、まさかとは思っていた。

 

 憧れの女性とは、俺の中でずっと一人だけだ。あの人を嫁に娶れたハルさんを正直羨ましく思っていたし、俺も、できる事ならああいう女性と生涯を共にしたいと考えていた。

 

 だから、あの騒がしい後輩の少女と居る時間が楽しいと感じ始めている事には驚かされた。

 

 だが、今になって考えてみれば、むしろ当然だったとさえ思う。

 

 あんな奴を見て、何も思わないはずがないってのは、あの少し呑気な副隊長と関わる内にも感じていただろうにな。

 

『なるほど……我等が隊長の神機を改良したいと』

『ああ。それで、お前の力を借りたいんだ』

『くふふ、このトウカにお任せ下さい。スキル構成も一から考えた新作パーツを作ってみせましょう!』

 

 人を惹き付ける、そんな輝きをトウカに視た。

 

 ケイトさんやヒロとも違う、強引に包みこんでくるような光ではあったがな。

 

『新しい神機? ……うーん。それならバスターブレードがいいのかな』

『おおっ、隊長のバスターブレードですね! デカいはロマンと言いますし、何より溜めに溜めたチャージクラッシュの一撃と言ったらそれはもう素晴らしい……!! ハァハァ……!』

『……と、トウカ? 大丈夫……なのかな、これ?』

『気にするな副隊長。いつもの発作だ』

『……まあ、楽しそうだしいっか』

 

『リッカと新世代神機開発なんて夢の様です……これ本当に夢じゃないですよね? ギル、ちょっと引っ叩いて下さい』

『叩かなくともコイツが現実だ。……俺も巻き込まれるとは思わなかったがな』

『し、しかも知ってますか……この開発の裏に、実はあの神がいらっしゃるとか……!』

『……神ってのはなんだ?』

『神ヲタにとっての神と言えば一人ですよ! 神機開発のパイオニア、第零世代からほぼ全ての神機開発に貢献している犬飼アキヒコ博士に決まっているでしょう! あの人なくしてゴッドイーターという職はありませんよ!!』

 

 その熱量は、太陽でもぶつけられてんのかってぐらいだ。

 常に眩しいぐらい輝いていて、正直目を塞ぎたくなる時もあるが、それを見ていると妙に心地が良かった。

 

 ……端的に言えば、楽しかったのだ。

 

「……ハッ」

 

 これが、異性としての好意なのかはハッキリしていない。

 今はまだ、させるべきではない。

 

 この極東は苦境に立たされていると言っていい。

 

 ロミオを襲ったマルドゥークの件。

 そして、ロミオを救っておきながら自分の命を投げ捨てようとしたヒト型アラガミ、シアンの件。

 

 特に、後者はジュリウスとヒロ、ロミオが絡んでいるからな。

 

 マルドゥークがいつ襲ってくるかも分からん状況で、感応種に対応できるブラッドの三人が縛り付けられているのは、かなりまずいと言ってい。

 

 ……まあ、そういう事情無しに、早く復活して欲しい事は確かだがな。

 

 トウカやリッカ達と次世代型神機の開発に携われたのは、シアンが自分専用の神機開発の要望と研究素材の提供を行ってくれたからだった。

 最新の技術を盛り込んだ上で、俺の出したアイデアで開発が進んだ時は胸が踊った。あの体験は二度と忘れられないだろう。感謝してもしきれないくらいだ。

 

 それに、あのバカ野郎の命を救ってくれた事にも、礼を言わないとならない。

 

「全く……」

 

 初対面がアレだったからか、強面だからか……いずれにしろ出会う度シアンには避けられていた。

 

 いつも表情が無いせいで、怖がられているのかどうかもよくわからないがな……

 

「……あ?」

 

 その時、ぶるりとポケットが震える。携帯だ。

 画面を確認すると、オペレーターからの連絡が通知されていた。

 

『旧市街地にて、クアドリガとラーヴァナを確認。爆撃により周囲に被害が出始めている為、討伐任務を要請します』

 

 ミッション内容の詳細は記載されていなかったが、任務要請となれば出向くしかないだろう。

 

 その場から逃げるように、足早に神機保管庫を出た。

 

 

 ○ ✕ △ □

 

 

「ようこそ極東の窓際族、第四部隊へ。歓迎するぞ〜、ギル」

「あっ、どうもギルさん! この前のミッションではお世話になりました!」

 

 ラウンジで俺()を出迎えたのは、ハルさんとその唯一の部隊員であるカノンだった。

 

 そう。

 今回はこの三人でのミッションじゃあなかった。

 

「……え、ええと。初めまして。日霊トウカです。よろしくお願いします」

 

 四人目は、さっき整備室で別れたばかりのトウカだ。

 オペレーターから聞いた時は、一体何の冗談かと思ったがな。

 

 エントランスで鉢合わせれば、お互い失笑しか無かった。

 気まずさも、ここまで来れば笑いもんだ。

 

「ほぉ、君が最近噂のトウカちゃんか。俺は真壁ハルオミ。ギルとは昔からの付き合いでな。ま、よろしく頼むぜ」

「よ、よろしくお願いします、トウカちゃん!」

「お二人共、よろしくお願いしますね」

 

 が、第四部隊が絡むと聞いて、俺は嫌な予感しかしなかった。

 

 そりゃあ、ハルさんも突然変な事を言うだろうが、戦闘は至って真面目にやる。

 

 ……問題は、こっちのピンク髪だ。

 

 

 

「キヒヒヒッ、逃げないと穴だらけになっちゃうよぉ〜!!」

 

 ハルさんがクアドリガを引き付けている間、耳の良いラーヴァナを三人で撃破するという作戦だったのだが、俺は攻めあぐねていた。

 

 っつうのも、コイツのせいだ。

 

「ほらほらぁ、犬みたいに這いつくばっちゃって〜。ワンワン! なんちゃって、キャハハハッ!!!」

 

 ……どうにかならないのか、これは。

 

 なんでも、神機を握ると人格が豹変するという。

 車に乗ると人格が変わる奴はまあまあ居るが、神機なんてのは聞いたことがねぇ。

 

 あの博士曰く、神機との高い適合率の弊害みたいなものだそうだが、真隣に世界最高値を叩き出したウチの新米(トウカ)がいる。そっちは特に変わりなく変態だ。

 

「おおおっ、なんて規格外の出力でしょうか……流石は私に次ぐ適合率なだけはありますね。ですが、私のカゲロウだって負けてはいませんよ!」

 

 対抗するようにトウカが突っ込んでいったが、あの地雷原に飛び込む勇気は俺には無かった。

 

 たとえ適合率世界一の座は奪われようとも、誤射率世界一の座は未来永劫あいつのものだろう。

 不用意にアラガミに近付けば、丸ごと吹き飛ばされて終いだ。

 

 ……ハルさん、もしかしなくても俺に押し付けましたね。

 

 陽気な笑い声で「後は任せたぜギル」とか言ってるのが聞こえてきた気がして、後で絶対に誤射に巻き込んでやろうと考えつつ、身動き一つ取れなくなったラーヴァナを見る。

 

「纏めて吹き飛んじゃえ!!」

「ほいっと」

 

 背後から吐き出された放射弾をトウカは軽々と避けて宙に舞い、ショートブレードの乱撃を繰り出した。

 

「自分で避けちゃうので、カノンさんはお好きにぶちかまして下さいね!」

「アハハッ、貴女最高!! 一緒にアラガミをチタタプにしましょうねえ!!!」

 

 チタタプは分からんが、碌でもない意味で使われている言葉なのは分かった。

 現に、ラーヴァナの頭は原型が無くなるぐらいに潰れて、砲身は半ばで折れて、延々とダウン状態でボコボコにされている。

 

 適合率が高い同士息が合ったのか、それともトウカが人外じみてるだけなのか……見る限り、どっちも正しいんだろうが。

 爆発と斬撃の嵐が飛び交う戦場を前に、耳のインカムに手を当てた。

 

「……なあ、オペレーター」

『はい、何でしょう?』

「カノンと一緒に戦うには、どうすればいい?」

『…………吹き飛ばされながら戦う、ですかね』

 

 つまり、諦めろと。

 

『遠距離型の第一世代の方でもない限り、極東でカノンさんと一緒の任務に行って吹き飛ばされた事の無い人は居ませんよ』

「追い打ちをかけるのはやめてくれ……」

 

 このオペレーター、肝が据わってやがるな。

 一体どれだけの悲鳴(誤射)を聞いてきたんだ。

 

「仕方ねぇな……」

 

 神機を構え、チャージを始める。

 

 悪いが、この一撃で決めさせてもらう。

 

「……響けッ!!」

 

 ──チャージスピア・チャージグライドBA『バンガードグライド』

 

 紅い閃光に乗ってラーヴァナのドタマを貫き、半身を抉り取るように突き進んで、加速が終了する。

 

『ラーヴァナ、オラクル反応消失。完全に沈黙しました』

 

 槍を地面に突き立てて静止すると、背後からトウカの非難の声が飛んできた。

 

「最後の最後、美味しいところだけ奪っていくとはズルいですよ。途中からずっと見ていただけじゃないですか」

 

 あんな爆心地に飛び込めるか、馬鹿野郎……なんて文句の一つもつけてやりたいが、傍観してた事には違いない。

 

 それに、コイツはえげつなく頑固だ。納得の行かない時に意見を曲げたところを見たことが無い。

 こうなっちまったら、俺も降参だ。

 

「分かったよ。コアの部分はお前が持ってけ」

「話が分かるようで助かりますよ」

 

 途端に気を良くして、鼻歌を歌いながらラーヴァナを捕食し始めた。このチョロさが、なんとも憎めない。

 

「……あれ? も、もう終わっちゃいましたか?」

「お前が散々サンドバッグにしてたからな」

「さ、サンドバッグなんてそんな……! ……ち、チタタプ程度ですよ、チタタプ」

「そのチタタプって一体何だ?」

「北にある郷土料理です。肉をすり身にするくらい細切れにするんですよ」

 

 それはサンドバッグ以上って言うんじゃないか。

 

 ……まあ、コレにツッコミを入れるだけ無駄か。

 

「ハルさん、今からそっち向かいます」

『ようギル、可愛い女の子とのデートは楽しかったか?』

 

 クアドリガを引き受けてくれているし、一応通信を飛ばしておくかと思ったらコレだ。こめかみに血が集まって、青筋がピクピクと動くのを感じる。

 ハルさんのジョークで殺意を覚えたのは、久しぶりかもしれない。

 

「はは…………殴りますよ?」

『お、おお、怖いな。カノンを押し付けたのは悪かったって』

 

 今押し付けたの認めましたね。

 

「……ハァ。もういいですよ。後で存分に巻き込まれて下さい」

『俺に死ねと?』

「いつも吹き飛んでるんですから大丈夫でしょう」

『酷いなぁギル。吹き飛ばされた後にアラガミの一撃貰うと痛いんだぜ?』

 

 割と洒落にならない話を聞きつつ、三人でクアドリガとの交戦ポイントに入った。

 

 さほど傷も無い様子のハルさんは、ミサイルをガードしつつ、戦闘から一旦離脱して合流してくる。

 

「よし、全員来たな。今から作戦を伝える、よく聞いとけよ?」

 

 ハルさんが伝えた作戦はこうだ。

 

 ①トウカとカノンは、クアドリガを背後、もしくは側面から叩く。ミサイルポッドの結合崩壊が望ましい。

 ②ハルさんと俺は正面から引き受ける。ハルさんが履帯を、俺が前面装甲を破壊することでダウンを取る。

 ③あとはなんか、こうボコボコにする。

 

 作戦、というにはあまりにお粗末だが、こう指示した意図は、言われずとも察せた。

 

 ハルさん、どんだけカノンに誤射されるの怖いんすか……

 

「そういう訳だ。頼んだぞ、トウカちゃん、カノン」

「了解です。では、早速行ってきますね」

「あ、ああ──って早いな!?」

 

 クアドリガの知覚範囲に肉薄すると、下から大振りの斬り上げを繰り出して跳ぶと、背中に神機を突き刺して張り付いた。

 

「カノンさん! 援護お願いします!」

「アハッ…………ワンちゃん二号目はっけ〜ん♪」

 

 ブラストの火を吹かせ、その巨体に大爆発を叩き込んでいく。

 

 それに俺達も続き、作戦通り前面から攻めていく事に成功した。

 

 だが、コイツはずっと張り付いていられるほど楽な敵じゃない。

 

「っ、来るぞ!」

 

 ハルさんの声の後、炎の嵐を巻き起こす。

 しかも、おまけにトマホークミサイルときたもんだ。今回は寸前で避けれたが、いつもは盾で防ぐのが精一杯であり、厄介なことこの上ない。

 

 だが、トマホークが俺に来た分、ハルさんは炎が消えた後に前面装甲に突っ込んで、弱点にバスターの一撃を叩き込める。

 そうすれば、中に格納されたミサイルが誘爆し、ダウンが取れるって寸法だ。

 

「ナイスですハルオミ隊長! 行きますよ、カノンさん!」

「良いよ……どっちが先にこのウスノロを塵に出来るか、勝負しましょうねえ!!」

「あっ、塵にする前に、コアだけは摘出させて下さいね〜」

 

 打ち上がる爆発の華と吹き飛ぶ装甲。

 惨い音を立てて撒き散らされるアラガミの血液。

 

 俺達が介入する余地もなく、クアドリガの討伐が進んでいた。

 ラーヴァナの時の焼き直しでも見ているかのようだ。

 

 行かないんですか、と目で訴えかけると、ハルさんが笑ってクアドリガの方に目を向けた。

 いや、正確には、バカスカ弾丸を撃ち込むカノンの方だ。

 

「あんなに楽しそうなカノンは、初めて見たなあ」

「……まあ、思いっきりアラガミを弄んでますから」

「ギル、お前なぁ……純粋に楽しそうにしてるのがだよ。トウカちゃん、全く誤射食らってないし、なんだかタイミングを合わせて避けてる節もあるんだが、そうやって何事もなく戦えているからかねぇ……生涯の友を見つけた、って顔に見えるんだ」

 

 そんな事を思っているとは到底想像できない、口を横に裂いたような凶悪な面をしているが。

 ハルさんの見間違いじゃないですかね、と口を開こうとすると、ハルさんは安心したように肩を下ろした。

 

「カノンはな、あんなバーサーカー状態でも、仲間を撃ちたくて撃ってるんじゃない。仲間が倒れたら、アラガミに向かって罵詈雑言を吐きながら救出に向かうし、一度、任務で仲間を死なせちまった時は、泣きながらアラガミを倒してたぐらいだ。神機持っても持たなくても、カノンの心根はいつだって優しい女の子なんだぜ?」

 

 ミッションが終わる度、必死で頭を下げているカノンを思い出す。

 誤射は、下手をすれば重大な事故に繋がるもので、本来なら忌避されて当然の行為だ。

 

 ただ、カノンは昔から射撃のセンスが壊滅的で、敵に攻撃が当たるようになっただけでもかなり進歩しているのだと、当時を知る神機使いが言っている。

 だから、射線上に仲間が重なった時、カノンは上手いこと爆撃を逸らすとか、放射弾の方向を調整するとかいった芸当はできないという。

 

 だが、トウカはいくら射線が被ろうと、持ち前の技量で躱し続けてしまう。

 

 ……まあ、誤射しちまう心配の無い相手が居るのなら、そりゃ嬉しくもなるか。

 

「ま、カノンの射撃センスは教官先生に任せるとして、俺達もできることをやろうぜ」

「そうっすね……いっちょ、やりますか」

「ははっ、そうこなくっちゃなぁ!」

 

 意気揚々と飛び出す。

 クアドリガの正面を捉えて、神機をチャージさせた。

 

 だが、その時クアドリガは、俺達の頭上を飛び越すような大ジャンプを繰り出していた。

 

 そして、クアドリガ(破壊神)の姿から、ロシアの有名な人形のマトリョーシカのように、台場カノン(破壊神)が現れた。

 

 光が、視界を覆い隠した。

 

 

 

「────射線上に入るなって、私言わなかったっけ」

 

 

 

 浮遊感に襲われながら、大の字で空を舞うハルさんと、丸い夕焼けはよく見えた。

 

 

 ああ、畜生……

 

 カノンに誤射されるのは、ハルさんだけにして欲しいもんだ……

 

 

 

 ○ ✕ △ □

 

 

「そう言えば聞いたぞ? お前んとこのロミオ君、シアンを助けるために頑張ってるってな」

「……取り敢えず、その煤けた顔とか服をなんとかして下さい」

「おお、悪い悪い」

 

 ミッション後、休憩がてら寄ったラウンジでその名前を口にされて、意表を突かれた気分になった。

 

 ロミオは、まあ分かる。何回かミッションを共にしているのを見た事があるしな。

 

「……ハルさん、シアンと面識があるんすか」

「当たり前じゃないか。あんな新雪の如き儚げな美少女に、俺がちょっかいを掛けない訳無いだろ?」

 

 ああ……とそれで納得してしまう所に、ハルさんの駄目さが滲み出ている。

 

 だが、ハルさんはシアンについて最も重要な事実を知らない。

 粉をかけているのがアラガミだと知れば、流石のハルさんと言えど、ショックで寝込むに違いない。

 

 そういう関係になってしまう……事にはならないと信じたいがな。

 

「そんで任務に誘ったら一発オーケーでな。聖域探索に付き合ってもらって、そこでかなり色々あって……それ以来ちょくちょく、一緒にラウンジで飲んでるんだよ」

「マジっすか……」

 

 あの無口無表情を極めたような、人形のような顔の少女がハルさんと会話している所を、俺は全く想像できなかった。

 

 恋愛という文字や概念すら知らなさそうな奴が、ハルさんと話して楽しいものなのか。

 

 さては信じてないな? とハルさんは肩を竦めると、手を首筋に当てて頭を一捻りした。

 

「どうも、気が合うんだよなぁ。……しかも、いつもお互いの昔話で盛り上がっちまう。辛気臭く終わりたくなくて、俺もシアンも毎回話題を変えてるんだが、ふとしたら大事な人の自慢大会だ。おかしいだろ?」

「…………それって」

「こういうので気が合っちまう同僚が、この先居なくなればいいんだがねぇ」

 

 ……シアンに、かつて愛する人がいた。

 

 衝撃的という言葉では済ませられなさそうだった。

 

 誰かを愛して、その人と死に別れた事がある。

 その悲しみを、シアンは知っている。

 

『シアン君はロミオ君の喪失をキッカケとして、言わば負の意志の力を発現してしまった。悲しみ、後悔、怒り……多様な負の感情の矛先が自分自身に向けられた事で、彼女の持つ偏食場が乱され、オラクル細胞の統御が不可能になった。普段のシアン君はコアの機能停止では死には至らないんだけど、アラガミとして死亡したと明言したのは、こういう訳なんだよ』

 

 お前も……そうだったのか。

 

 守りきれなかった後悔や力無き自分への怒りも、俺には痛いほどよく分かる。どうして、あの時、あの場所で死んだのが俺じゃなかったのかと、何回も思った。

 そうなっていれば、ケイトさんはハルさんと結ばれていた筈なのにと。

 

「……良い人ほど先に行ってしまうのは、どうしてなんですかね」

「そりゃ、決まってんだろ。……そいつが良い奴だからだよ」

 

 ずっと、勘違いをしていた。

 

 ……よっぽど人間より人間らしいじゃないか。

 

「今回も、戻ってきてくれるよな……」

「ええ、戻ってきますよ……アイツなら、必ず説得してきてくれます」

 

 ビールをもう一缶開けて、喉に流し込む。

 

 もう一度、きちんと会って話がしたい。

 謝って、そんで礼も言う。後は第四世代神機の開発協力も取り付けないと、トウカの奴に怒られそうだな。

 

「これから、忙しくなりそうです」

「ああ……俺も、まだまだ聖なる探索は続きそうだ。お互い、頑張ろうな」

「ハルさんのナンパと一緒にしないでくれますか……?」

「ハハッ、こりゃ手厳しいぜ」

 

 軽口を叩き合いながら、示し合わせるでもなく、自然と缶をぶつけ合う。

 

 あの、純白の少女の帰還を願って。

 

 

 

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