以前にTwitterでなげた雑ピ君の話です。
二次創作ですので、ある程度はお許しいただけると幸いです。
とにかく自分の推しキャラをたくさん出したいがための話です。
よろしくお願いします。
ある休みの日、俺は散歩に出かけた。
いつも歩く道とは違う道。
全く知らない道を歩くことで、新しい光が見える気がしたんだ。
そよ風も背中を押してくれているようだ。
「……って、ネタ探しに知らない公園まで出向いてみたけど、ちょっと迷ってしまった…………まあでも、なんかいい詩が浮かびそうな気がする」
とりあえずは少しの間、公園のベンチに座り、ぼんやりと風景を見ていると、前を何周も走っている女の子がいることに気が付いた。
汗を流しつつもひたすらに前を見て走っている女の子を見て、俺は差し込む木漏れ日とその子を題材に持っていたメモ帳に詩を書き始める。
そしてちょうどその子が前を通った時、俺の詩が完成した。
我ながらよく書けたと少し満足げに息を吐き、何気なく女の子の方を向くと、彼女もまたこちらをジッと見つめていた。
これはまさか……!
「……なんて都合のいい展開は流石に無理があるか。というかさっきからずっとあの子のこと見てたから不審者に思われてそうだな……そろそろ行こ」
太陽の陽を浴びて、まるでその娘自体が輝いているように見える……そんな彼女を背に、足早にその場を立ち去った。
~~~~~~
休日、自主練に励んでいた隠岐紅音は、先ほどまでベンチに座っていた青年のことを気にかけていた。
「あの人さっきから、ずっと何か考え込んでたみたいだったけど、大丈夫だったのかな……あれ? 落とし物……? あの人の?」
ベンチの下に何かがあるのを発見した紅音は少し頭を悩ませる。
「……メモ帳……うーん勝手に見るのは……でも、住所とかあるかもしれないし…………ごめんなさい! 拝見します!! ……えっと、これは…………わぁ……!!」
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公園を出た俺は人通りの少ない街を歩く。
こういった通りにある物静かな雰囲気は、何かを見失い、それでもその何かに手を伸ばすような、そんな詩が浮かんでくる。
浮かんだ詩をメモしようとポケットを弄るが、先ほどまで持っていたメモ用紙がない。
どうやらどこかで落としたらしい。
「……マジか、割といい出来だったんだけどなぁ……」
そう言ってカバンから新しいメモを取り出し、さっそく今浮かんだ詩を書き記していく。
歩きながら書くのは危険な行為なのは重々承知していたが、人通りの少なさと、歩いているからこそ書ける詩だと思ってしまったが故、そのまま進んでしまった。
そう、進んでしまったのだ。
「いだっ」
前を見ていなかった俺は、とうとう壁にぶつかり倒れ込んでしまう。
「あ?」
いや、壁などではない。
「…………おい、大丈夫か」
男だ。それも筋肉質の大男。人相もとても悪い。
これは、ヤのつく方に違いなかった。
「は、ははははははいいいいい!!!!! 前見てなくてすみませんでしたぁぁぁぁっ!!」
「だ、おい!!」
俺は一目散に走りだす。
なりふり構わず走り出す。
ちゃんと前見て歩いてなかった俺が悪いです。
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取り残された男はぼそりと呟く。
「…………ビビりすぎだろ……」
総合格闘家、三澄真澄。
就いてる職が職なだけありガタイも良いし、本人も人相の悪さは自覚していたが、それでも初対面の学生と思しき青年に必要以上に怯えられたことに、僅かながらショックを受けていた。
そして視線が下がったことで、紙の束が落ちていることに気が付く。
「んだこれ……さっきの奴のか? ……………………っ!!?」
拾い上げて中を確認し、思わず真澄の動きが止まる。
「三澄さぁん!! お待たせしました! 車来ましたよー……って、え!? な、泣いてる!? ど、どどどうしたっすか三澄さん!?」
「っ…………るせぇ……ちょっと黙れ……くぅ……っ」
~~~~~~
危ないことはやめよう。
前を見ずに執筆などするものではない。
今回は目に入った、全く知らないカフェでゆっくりと考えるのも一興だろう。
おっと、過去の例があるからな。一応周りに知り合いがいないかどうかだけ確認してと……大丈夫だな。
一人ゆっくりと紅茶を飲みつつ詩を思い浮かべる。
今何となく浮かんだのは、片思い……それも、ライバルのとても多い片思い。弱気になりがちな心を奮い立たせるように、一歩踏み出せるように、そんな思いを込めて詩を書き始める。
ある程度進んだところで、後ろの席から思わず聞き覚えのある名前が聞こえ、詩を書くペンが止まる。
「はぁ……やっぱり、暁ハート先生のポエムいいわね……」
「あはは、カッツォ君から聞いてたけど、ほんとに好きだね? シナモンちゃん?」
「……クオンさんだって気に入ってるって聞いたけど?」
「まあね?」
暁ハート。
思わずその名前に照れくさくなってしまう。
いっそ明かすのもアリかな? いや、暁ハートの名前はそんなふうに扱ってはいけない。
等と考えていると、後ろでの話はあらぬ方向へ向かう。
「それにしても、どんな人なんだろうねぇ? 暁ハート先生」
「あんなに女の子の気持ちを代弁できるんだから、女の子に決まってるじゃない」
「いやいや、結構男の子の気持ちもわかってる感じあるって聞くし、意外と女慣れしたイケメンとかじゃない?」
何やら無駄にハードルが上がっていた。
正体を明かす気はほとんどなかったけれど、これは意地でも明かすわけにはいかなくなって……。
「後はアレ、女装が似合う感じ? 実は男の娘だったりして?」
「女装して女の子の気持ちに近づこうってこと……? 意外とあるのかしら……」
に゜。
歴史の底に深く沈めた何かが俺を襲ってきたので、そっとカフェを出ることにした。
と、その前に帰り際に店員さんにあるものを渡して。
~~~~~~
「お客様よろしいですか?」
「「はい?」」
「先ほど隣の席にいらしたお客様が、こちらをあなた方に渡すようにと……」
シナモンと呼ばれた女性とクオンと呼ばれた女性が顔を見合わせる。
「ありがとうございます」
とりあえず危険なものではなさそうだということで、渡されたメモ帳を受け取り、店員が離れたところで二人はヒソヒソと話し出す。
「ヘイヘイ夏目ちゃん、心当たりある?」
「ある訳ないじゃない。はぁあ……やっぱり天音さんと一緒だと大変だわ……」
シナモンとクオンは偽名であり、その正体はプロゲーマーの夏目恵とカリスマモデルの天音永遠だった。
二人はかつて一緒に司会をしたJGEでの受けがよく、番組が一緒になることが増えていた。
「それはいくら何でもひどくない? 今回のは私関係ないと思うんですけどぉ?」
「……まあとりあえず中を見てみましょうか………………え!? こ、これって!?」
「…………マジ?」
~~~~~~
「……今日のネタ探し、やたら疲れたな……」
見知らぬ道から、勝手知ったるいつもの道に戻った俺はトボトボと家路につく。
それもそのはず、持ってきたメモ帳は全てなくなり、今日の成果はゼロと言っていい。
最後は自分で手放したとはいえ、他二つは少し惜しいが、それも仕方ない。
思い出して書こうにも、ああいうのはその場の空気で出来上がるものだからな。
「……まあ、これも巡りあわせなのかもな……」
「何がだよ」
「おわぁぁぁぁっ!!」
「よ、ザッピ―」
「なんだお前か……脅かすなよ……」
急に声をかけてきたのは陽務楽郎、クラスメートの友人……いろいろ茶化しては来るが、なんだかんだ最後は褒めてくれたりする、趣味馬鹿だがいい奴だ。
「お前今何考えた」
「なんでわかんだよ!」
「当たりかよ。まあいいや……で? 雑ピさんはトボトボとどうされたんですかねぇ?」
「ああ……実はさ――――」
特に隠し立てする理由もないので、今日あったことを一通り話すことにした。
……もちろん、歴史の底に沈めた話はしていないが。
「ほーん、さしずめ放浪記ってとこか……明日の話題を総なめ出来るな」
「お前はまたそうやって―!!!!」
「でも実際そうだろ? 最後に渡したポエム以外のほうも、もしかしたら誰かが拾って心打たれたりしたかもしれないし」
「んん……っ、そう言ってくれるのはありがたいが……」
「一応さ、これでも尊敬してるんだって……流石――」
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「ということがあったんですよ!! すっごく素敵な詩でした!! それでこの後一応交番に届けようかと思うんですけど……」
「隠岐さん、まって見せてそれ! …………隠岐さんこれ……多分――」
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「つー訳で、そん時に拾ったメモ帳に書いてたこれが、俺の中でこう、がっちりぶっ刺さった訳なんだよ!」
「はぁぁぁ…………三澄さん、それって多分アレっすよ、今話題の――」
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「あ、天音さん……これってそう、よね? つまり今まさに隣にいたって事、よね!?」
「うーん……正直出来すぎな気はするけど……流石にこのクオリティは……間違いなく――」
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「――流石――」
『暁ハート先生』
「――だなってさ」
「………………そのニヤニヤ顔はやっぱり茶化してるだろお前―!!」
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――これは。一人の学生の休日の物語であり、後に愛の伝道師と呼ばれる一人のポエマーの、静かで小さな、それでいて確実な、始まりの一歩目である。
紅音ちゃんから最後の楽郎君まで推しを出しまくりました。
もちろん雑ピ君も推しなので推しづくしですわね。
本当は、エイトちゃんも出したかったのですが、彼女がうまく書ける気がしなかったので……。