ミリシタ田中琴葉さん誕生日SS 『いつか涙とともに溶かすことになっても』 作:琴葉さん沼初級
原作:アイドルマスターミリオンライブ!
タグ:アイドルマスター 田中琴葉 田中琴葉生誕祭 田中琴葉生誕祭2020 10月5日は田中琴葉の誕生日
※また、にわか琴葉ファンがバースデーコミュを見て衝動的に書き殴ったSSです。
しかも間に合いませんでしたm(_ _)m
色々ご容赦ください。
「プロデューサー。どうかしましたか?」
なんてわざとらしい言葉。
バースデーライブ後にプロデューサーがこっそり、
プレゼントを渡してくれるということは、
既に劇場のみんなの共通認識だった。
多分始めは、贔屓に見えないようにという配慮や、
照れくささからだと思うのだけれど。
いつ頃からか、
バースデーライブの後は、
『主役のアイドルが屋上で一人きりになる』
という暗黙の了解が出来上がっていた。
よく晴れた今日は10月にしては暑いくらいで、
練習も本番も、汗とエアコンの設定に悩まされたけれど、
夜ともなると冷えてくる。
上着を着てくるべきだったか、という後悔が頭をよぎるも、
『バースデーライブのステージに立ったそのままの姿でここに来たかったから』なんてバカな理由をつけて打ち消す。
あるいは、
「バースデーライブはまだ終わっていない」
なんてさらにバカみたいな思いつきが浮かんで、一人苦笑した。
バカな思い。
…………きっと私には、私たちには、
許されない思いがある。
淡く、仄かに、幽かで、色さえない。
それは、私たちの心の奥底で燃えるように煮詰められて、
氷のように固まっていく。
決して浮かび上がることのないように。
アイドルである限り。
アイドルでいようとする限り。
…………あぁ、やっと来てくれた。
「琴葉、ここにいたのか」
そんな白々しいセリフにも喜ぶ自分と、
プロデューサーの様子に、劇場のみんなとの間に差がないか、分析する自分がいる。
「あっはい。お疲れ様です、プロデューサー」と返しながら、
きっと何も違いはないんだろうな、僅かな落胆とともに判断を下しつつ、
「どうかしましたか?」
なんてわざとらしい言葉は脊髄反射でありながら、どこか意趣返しのようだった。
一瞬の間に、『ちょっと失礼だったか』とか、
『でも言葉づかいに失礼な要素はないはず』やら、
『誕生日プレゼントなことはわかっていますよアピールが出来るほど器用ではない』とか、
器用そうな友人たちの顔が浮かんで消えて、ぐるぐる様々な考えが去来するも
「バースデーライブお疲れ様。それから……」
「お誕生日おめでとう!これ、プレゼントなんだ。受け取ってくれ」
というプロデューサーの単刀直入な展開に思考を打ち切られる。
「あ、ありがとうございます!」
と少しつまりながらも、やはりほぼ反射で答えて受け取ってしまう。
ロマンスの発生する余地もないやりとりでありながら、ほのかに顔を熱くしてしまうのは、自省の羞恥か、それとも……。
またしても思考の沼に沈みそうな自分を叱咤して、プレゼントの開封を進めると、途端に沸き立つような香りに包み込まれる。
プレゼントの中身は、バラの花の形をした入浴剤だった。
思い出す。
『一緒に、トップアイドルを目指そう』
アイドルについて何にもわからない私が、
みんなからかけてもらった少しの期待と、自分の覚悟だけであなたの前に立った日のことを。
だから私は、……………
「……わあ、バラの形の入浴剤ですね。花びらも、本物みたいで素敵……♪」
プレゼントの感想を伝えつつ、胸に閊えそうになった思いを飲み込む。
まだ、ここはアイドル田中琴葉のバースデーライブ中なのだから……。
最高の笑顔で締めくくらなくては。
屋上から出来るだけアイドルらしく立ち去って、
プレゼントを胸に抱きしめたまま階段を駆け下りて、
誰にも捕まらないようその勢いのまま更衣室に駆け込む。
ほとんど前も見ず感覚任せだったから、誰にもぶつからずに済んだのも、また更衣室にもう誰も残っていなかったのも幸運だ。
……もしかしたら、気をきかせてくれた誰かがいたのかもしれない。
とにかく今は一人で溢れそうな思いをしずめる時間がほしかった。
ズルズルとどうにも崩れ落ちそうな体を動かして、
本番の後に特有のポツンとどこか寂しげな椅子に腰掛ける。
抱きしめた入浴剤の香りがやけに優しく感じて、
…………なんだか泣き出してしまいそうだ。
ふと
『私はいつまでアイドルでいられるのかな』
そんな益体もない問いが浮かび上がって、答えを出せないままそれを沈める。
『肉体が、とかではなく気持ちを抑えられなくなった時がアイドル田中琴葉の限界では?』
なんてバカな考えが思い浮かんでそれも沈める。
私は、あなたが……。
アイドルを思う。
トップアイドルって何なんだろう。
未熟な私がいつか辿り着けるものなんだろうか?
私は、
あなたにとって、誰かにとって、みんなにとって、
最高のアイドルでありたい。
最高の笑顔を届けたい。
この今にも張り詰めて、泣き出してしまいそうな思いを届けたい!
最高の夢を見せたい!
その為ならすべてを、擲ってもいい!
最高のアイドルになりたい!
最高のアイドルでありたい!!
きっと、この劇場のみんなが「すべて」を賭けている。
すべてを賭けて夢見ている。
叶う、とか叶わないとか、そんな考えを置き去りにして。
アイドルとそれに魅せられた人たちにとって、そのバカみたいな夢がすべてなんだ。
劇場のみんなだけじゃなく、
きっと詩歌さんや玲音さんだって、他のアイドルだって。
アイドルとして、最高の夢を見たい!
最高の夢を見せたい!
きっと恋よりも、青春よりもアイドルで、
もしかしたら人生よりもアイドルなのかもしれない。
たった十数年生きただけの私たちでさえこんなにもこの世界に魅せられているのだ。
彼や社長や小鳥さん、劇場に来てくれているファンの思いは、いったいどれほどだろう。
美咲さんもアイドルに夢を見たんだろうか?
きっと衣装を前に、それを着たアイドルが劇場で輝く姿への期待に胸を膨らませて。
私はそんな期待に応えられているのかな?
そんな誰かの、みんなの期待に、魔法をかけてもらって。
夢を階段にして私たちはステージに上がる。
夢を見て、夢を見せる。
私たちはアイドルなのだから。
周年のステージに立てた時にこんなに幸せなことはないと思えた。
アイドルとして、誕生日をみんなに祝ってもらえるなんてやっぱりすごく幸せで。
私は、
いつまでアイドルでいられるだろう?
いつまでもアイドルでいたい。
トップアイドルになりたい。
夢を見たから、夢をみせてくれたから。
……でも、いつかアイドルとして……。
……考えてはいけない。
だから、いつかの日に
『私を幸せにしてくれますか?』
なんて、はしゃぎすぎた日に見た夢を心の奥底に沈めていく。
私へのプレゼントは
バラの形の入浴剤。
花びらの一枚一枚まで精巧に作り込まれた。
人の手による薔薇。
きっと彼はこんな薔薇をずっと守ろうとしてくれて、
きっと私は、いつかこの薔薇を涙とともに溶かすのだ。
苦くて、しょっぱくて、胸のはり裂けそうな思いを、
このバラに溶かしてもらう日が、出来るだけ遠いことを願って。