NieR:ZERO   作:ナスの森

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無課金でAutomataコラボのキャラ全員引けたので投稿です。


舞イ降リルケンシ

 調査担当のヨルハがキャンプに到着したという知らせを聞き、ポポルと別れた私はさっそく現場へと戻る。持ち場へ戻ると、そこには戦闘型と思われる少女と、スキャナータイプと思われる少年のアンドロイドが立っていた。黒い布切れのような戦闘ゴーグルで目を隠し、ベルベット製に拵えられた黒い隊服という特徴的な衣装は、間違いなくヨルハ部隊のアンドロイドのものだった。

 歓迎の言葉を口にしようとした私だが、戦闘型と思しき少女の方を見て、無意識にある言葉を呟いてしまった。

 

「お前達は・・・・・・二号・・・・・・」

 

 連絡も取れなくなったかつての仲間。

 もう死んでしまったのだろうか? それとも、今もどこかで生きているのだろうか?

 もし生きているのならば、今頃どこで何をしているのだろうか・・・・・・。

 

「あれ? 2Bのこと、知ってるんですか?」

 

 私の言葉を聞いた少年が、そう聞き返す。

 いけない、他人の空似で勝手にセンチメンタルに浸ろうなど、目の前の2人に失礼だったな。

 

「・・・・・・いや、バンカーから連絡が来ていたからな」

 

 尤もな理由を言って誤魔化す。

 連絡が来ていたのは本当だ。だから事前に2人の名前は知っていた。

 2人がここに来るであろう事も・・・・・・そして、彼らよりも“前”の2人がゼロに破壊されたことも、私は知っている。幸い、あの地下区域は通信帯域が狭かったためか、この前の2人の死にゼロや私の指示が関わっていることはバンカーに知られていない。

 そう、私は間接的にこの2人を一度殺している。

 降下作戦を成功させたという点で見れば、ゼロや11Bよりもよほど恩人であるにも関わらず。その恩を仇で返す事となってしまった。

 

「ようこそレジスタンスキャンプへ。私の名前はアネモネ、この辺り一帯のアンドロイドレジスタンスを取りまとめるリーダーだ」

 

 せり上がる罪悪感を押し殺し、私は歓迎の言葉と自己紹介を並べた。

 後悔しているわけではない。だが、調査担当となった以上、この2人もまたレジスタンスにとっては欠かせぬパートナーとなることだろう。そうなれば、必然的に彼らを一度破壊したゼロとも会う機会が増える。

 いつかは、そのことを明かさなければならない日がやってくるかもしれない。何も知らない彼らはともかく、ゼロの方は会って大丈夫だろうか? 思い悩んでいる様子はなかったが、どこかで気にしているかもしれないと思うと少し心配になってしまう。

 ・・・・・・いいや、ゼロの方はまだいい。一番の問題は――

 

「さて、さっそく君たちの疑念についても解消しようか。ここに来るまでに君たちヨルハと我々の間で一悶着あったのは知っているだろう? 何か、我々に聞きたいことはないか?」

「・・・・・・そうですね・・・・・・」

 

 まずは、彼ら――2Bと9Sがどこまで知っているかを確認しよう。そして、なるべく彼らの疑問には答えてあげよう。それが今、私が二人にできる精一杯の誠意だろうから。

 私の言葉に、9Sが真剣な様子になって考え込む。どうやら、彼らなりにも疑問に思っているらしい。私が考える限りで、彼らはおそらく11Bの裏切り、その処分命令の撤回、そしてゼロの存在とその戦闘能力までは知らされている筈。だが、おそらくこれらを結びつける理由は大して説明されていないと私は踏んでいた。

 点と点を結びつける線についての疑問は、できるだけここで解消していきたい。

 

「実は、司令官からの命令の1つとして、今貴女の所にいる、僕たちの裏切り者が、貴女たちに危害を及ばさないか監視しろという命を受けています。・・・・・・今、彼女の様子はどうですか?」

 

 9Sが聞いてくる。

 やはり、最初に聞いてくるのは11Bのことか。これが、一番の問題。

 彼らは11Bが一度はヨルハを抜け出した裏切り者と知りつつも、彼女の裏切りの理由を知ることはなく、同時に処分命令が撤回された訳についても知らされてはいない。

 そして、その状態でこれからも顔を合わせなければいけないこと・・・・・・これ以上に気まずい関係はない。目の前の二人もそれが分かっているからこそ、一番にこれを聞いてきたのだ。

 

「彼女は、今は私たちの仲間から治療を受けている。降下作戦時に義体に深い損傷を負ったらしくてな、今はまだ歩ける状況じゃないんだ。安心してくれ、今の所暴れた様子はないし、大人しく治療を受けてくれているよ。論理ウイルスの症状や潜伏反応も出てはいない」

「・・・・・・そうですか。それと、できれば彼女が裏切った理由を知りたいのですが・・・・・・」

 

 ・・・・・・それにだけは答えられない。何せ、私たちは知らないのだから。

 だが、知らない理由を教えることはできるだろう。

 

「生憎だが、私も知らない。“彼女が知ってしまったことに踏み込まないこと”が、バンカーとの契約の1つだからな」

「・・・・・・知ってしまったこと?」

 

 実際の所、ゼロと11Bに関するバンカーとの契約は、かなり薄氷の上で成り立っているといっても過言ではない。1つの項目でも破られれば、11Bとゼロはレジスタンスにはいられなくなるだろう。・・・・・・それだけは、させないようにしないといけないな。

 

()()()()()()()()()()・・・・・・おそらく11Bはそこに踏み込んでしまったのだろう。彼女をここに保護した時も、彼女は自分の知ってしまったことを私たちに話すことは決してなかったよ。おそらく、私たちを守るために・・・・・」

「ちょ、ちょっと待って下さい! その言いぶりじゃまるで・・・・・・」

 

 ――彼女がバンカーを裏切ったというよりかは、バンカーが自分たちにとって不都合な存在を消しにかかっただけなんじゃ・・・・・・。

 

「・・・・・・今のは、私の憶測だ。後のことは本人に直接問いただしてみるといい。話してくれれば、だがな」

 

 これ以上踏み込むのは、全員にとってよくはない。知ってしまえば、私たちも11Bの二の舞になる可能性がある。私が思うに、結局は彼女がバンカーを裏切るのが先か、それともバンカーが彼女を消しにかかるのが先か、おそらくそんな違いくらいしかなかったのではないか? 降下作戦時のメンバーの中に7Eがいたことが、それを裏付けている。

 未だ煮え切らない、といった様子を見せる9Sとは裏腹に、2Bはこちらから視線を逸らしながら拳を僅かに握っていた。・・・・・・もしかしたら、彼女は何か知っているのかもしれないな。

 

「とにかく、彼女には彼女の訳がある、ということだけは覚えておいてくれ。それと・・・・・・無理にとは言わない。彼女に心を許せとまでは言わないが、もし君たちが彼女に・・・・・・11Bに対してまだ仲間意識が残っているのであれば、何も言わずに以前のように接してあげてほしい」

 

 私のその言葉に、2Bと9Sの両名は意外だといいたげな様子を見せる。無理もないだろう。いくら訳ありと理解していても、私たち自身がその裏切った訳を知ることがないまま保護しているのだ。裏切り者というのは、基本的にそうと知れ渡れば何処の勢力だろうと信用を獲得することは難しい。にも関わらず、私たちは既に一度はバンカーを裏切った11Bを、仲間と認めている。11Bを家族だと、レジスタンスの一員だと認めているのだ。

 

「・・・・・・分かった」

「2B?」

 

 先に返事をしたのは2Bの方だった。

 

「彼女とは知らない仲じゃない。仲間を殺さずに済むのなら・・・・・・それが、一番いい」

 

 淡々とそう言う2Bだが、彼女はどこかほっとしているかのように見えた。

 隣にいた9Sもそれを悟ったのだろうか、彼もまたまだ見ぬ11Bに対する感情がある程度定まったようだ。

 そうだ。理由は分からずとも、仲間を殺さずに済むのだ。本来ならば規定により処分しなければならない所を、処分せずに済む。この2人は、まずはそこを喜ぶべきだろうさ。

 ・・・・・・一度、この2人を殺しておきながら、図々しい話ではあるが。

 

「今はゼロが・・・・・・君たちが赤いイレギュラーと呼んでいた彼が、11Bの義体の修理のための部品を集めて回っている所だ」

「赤いイレギュラーが!?」

 

 ゼロの名前を出すと、9Sが驚いたように反応してくる。

 ・・・・・・バンカーとしても彼のことは気になるだろうが、そんなに驚くべきことだろうか?

 

「あぁ・・・・・・すみません。赤い・・・じゃなくて、そのゼロさんが、11Bさんのために戦っているというのは、本当なのですか?」

 

 声を上げたことに対して謝罪した後、9Sはそのように聞いてくる。

 ・・・・・・なるほど、11Bの処分を実行するリスクは伝えられているわけか。

 ゼロという、魔法兵器を敵に回すことのリスクを。

 

「本当だ。私が彼から信頼を得ることができたのも、私たちが11Bを治療したことが大きいだろう。少なくとも、彼にはアンドロイドの義体を直す知識も技術もなかっただろうしな」

 

 自分で言ってみて、ふと疑問を抱く。ゼロは、私たちを信頼してくれているだろうか?

 私たちの仲間になってくれた時点である程度は勝ち取れたと思っているが・・・・・・まあ、それはこれからだろう。

 

「私から言えるのはこれくらいか。調査担当とは言っても、今すぐに何かをしてほしいことはないんだ。君たちが調査を手伝ってくれる代わりに、私たちもできる限り君たちの手助けをしよう。持ちつ持たれつ、という奴だ。

 これからよろしく頼むよ」

「はい、よろしくお願いします」

「此方こそ、よろしく・・・・・・」

 

 言えることを言い終えた私たちは挨拶を終えると、私は彼らにこのキャンプを自由に聞き回る許可を出す。

 

「今言った以上のことは、私よりも他の連中の方が詳しいだろう。私を通さなくていいから、好きに聞いてくれ」

 

 願わくば、ゼロが“前”の2人のように、今の2人とのすれ違いが起こらんことを。

 

 

     ◇

 

 

 キャンプを自由に聞き回る許可をアネモネから得た2Bと9Sは、さっそくキャンプ中の情報収集に専念することにした。できれば懸念材料である11Bとゼロについての調査もしていきたいが、これまでの情報と鑑みるにゼロと11Bが揃っていなければこの話は進まないだろうと思った9Sは、2人に関する調査は赤いイレギュラー――もといゼロがキャンプに帰ってきてからにしようと2Bに提案した。心なしかゼロへの興味を隠し切れていない9Sに複雑な思いを抱きつつも、9Sの言う事に一理あると思った2Bは、それまでにできる限りの情報収集に専念するのが効率いいと、彼の提案を呑むことにした。

 機械生命体の頭を模した変な被り物をした女レジスタンス、片足が壊れたままの道具屋の男、その男からの依頼の受注、メンテナンス屋などを周り、キャンプの雰囲気や現地での彼らの奮闘ぶりをある程度把握する2人。

 順調に情報を集めていた二人であったが、武器屋の男を訪れた時に、転機が訪れた。

 

「ああ、あんた達がヨルハ部隊か。姐さんから聞いてるよ。ウチでは武器を扱っていてね、過去の遺産である武器を使えるように修理し直しているのさ」

「・・・・・・その割には、周囲にそういった武器は見当たりませんが?」

「ああ、実は今ちょっと道具が壊れててね。この道具箱に入っている整備デバイスさえ直れば、武器の整備販売が再開できるんだが・・・・・・」

 

 武器屋の男――褐色スキンヘッドの男性型アンドロイドは自分の横にあるアンドロイド一人が丸々入れそうな大きさの箱を優しく叩きながらそう言う。

 

「そのデバイス、少し見せて貰えませんか?」

 

 さすがに頼みの道具が壊れては商売上がったりだろうと思った9Sは武器屋の男に断りを入れ、道具箱の中にあるデバイスの中身を点検することにした。こういう時こそ、自分たちスキャナータイプの出番である。

 

「これ・・・・・・結構壊れていますね。このキャンプに誰かデバイス修理が得意な方はいらっしゃらないんですか?」

「・・・・・・残念ながら。パスカルたちならあるいは・・・・・・」

 

 なにやら意味深なことを呟く武器屋の男であったが、少なくとも今ここにはいないらしいと9Sは取る。

 

「あんた、スキャナータイプだろう? 俺は見ての通り、デバイス修理みたいな繊細な作業が得意じゃなくてね。頼む、これを何とか修理できないか?」

 

 懇願してくる武器屋の男を見た9Sは、隣にいる2Bと顔を見合わせる。対して2Bは、無言で9Sに向かって小さく頷いた。

 確認した9Sは再び武器屋の男と向かい合う。

 

「了解しました。このデバイスは過負荷で内部がショートしているので、『複雑な機械』が4つほどあれば修理できると思います」

「本当か・・・・・・助かる。『複雑な機械』っていうとこの辺りじゃあ・・・・・・」

「・・・・・・どうかしましたか?」

 

 修理に必要なパーツが入手可能な場所を9Sたちに教えようとした武器屋の男だったが、何かを思案するように手にアゴを乗せて考え始めた。

 

「いや、廃墟都市の中央付近でよく見掛けるんだが、確か今ゼロたちがそこで任務を遂行中だった筈だ・・・・・・」

『――――ッ!?』

 

 ゼロ、その名を聞いて、両名は口を開いて呆然となった。戦慄に近いものが二人に迸る。それだけヨルハにとって、ゼロという存在は衝撃的だったのだから。

 

「少し待っててくれ! 今アネモネ姐さんに確認してくる」

 

 そう言うや否や、武器屋の男は立ち上がると、小走りでアネモネの元へと向かっていった。

 置いて行かれた2人。2人は、特に9Sの方は心なしか、ゼロに会えるかもしれないという期待と関心に胸を馳せるのであった。

 

 

     ◇

 

 

 ――私たちは、何のために戦っているのだろう?

 長く、戦い続けているとついその理由を忘れそうになる。

 今だって、自分たちが生き残る戦いに没頭するのに精一杯で、時々機械兵としての本懐を忘れそうになってしまう。

 私たちは、元々は人類軍が過去に実行してきた降下作戦――その部隊の生き残り、もしくはその前からこの機械共が跋扈する地球で戦い続けてきた。

 創造主への、人類への忠誠心は、今でもこの頭脳回路にプログラムとして刻み込まれている。それでも、平和主義の機械生命体であるパスカルたちや、長らく人類軍から独立したレジスタンスに身を置いていると、本気で忘れそうになってしまう。

 今や、人類のために地球を取り戻そうという思いの他にも、私たち自身のため生きる場所を取り戻そうという思いさえもがある。けれど、それが自分たちが人間に近付けている、もしくは模範できているということならば、決して悪い気分ではないように思う。

 そういう思考を抱くのは――やはり私たちが一度月の人類軍から見捨てられたが故、なのかもしれない。何も取って代わろうというわけじゃない――ただ、ほんの少し、見返してやりたい。そんな細やかな反抗心だ。

 此方は死ぬ程憎んでもおかしくはない立場にいる訳だから、それくらい反抗心を抱くことは許されてもいいだろう。

 

 ――とまあ、こんな事を考えるレジスタンスのアンドロイドは、私くらいなのかもしれませんけれど。

 

 そんな戦いの日々を続ける私たちであったが、先日、レジスタンスに2人のメンバーが新しく加わった。

 1人は、何らかの理由で脱走したヨルハ部隊。もう1人に抱えられながらやってきた彼女を保護した私たちは、バンカーと交渉して、彼女が知ってしまった機密には触れないことを条件に彼女をレジスタンスのメンバーに加えることに成功しました。

 

 そして、問題は彼女を連れてやってきたもう1人――私はその人を現在・・・・・・

 

「ゼロさん、2時の方向に敵!! 援護します!」

「・・・・・・」

 

 私の視界の奥には――残骸の山とした機械生命体たちの中心に立つ、赤いアンドロイドがいる。正確には人類が地球に存在していた頃の、旧世界と呼ばれる時期に作られた魔法兵器で、正確にはアンドロイドではないのだが、仲間を兵器と呼ぶのもあれなのでアンドロイドと仮別することにする。

 この機械の残骸の山は、勿論、私たちが積み上げたものではない。

 ――すべて、この人の仕業だ。

 私以外のレジスタンスの仲間達が、まるで破壊神でも見るような目でその人に視線を送っているが、私はこの光景を見るのは二度目なので、驚きはしない。

 

 今でも、この記憶領域に鮮明に刻み込まれている。

 私の部隊が同じ場所で機械生命体の部隊に包囲され、弾も尽きて万事休すかと思ったその時――颯爽と降ってきた赤い閃光の彼。

 右手に持つ光る剣で、ものの数秒で機械生命体の包囲網を全滅させた赤い戦士。

 暫し、現実かと疑った。

 胸の内の回路が熱くなっていくのを感じる。見ているだけで落ち着きが止らない。

 だって、目の前で颯爽と現れて見せたことも、あっという間に敵を切り伏せていった所も、その壮烈な強さと、独特の美しさも――すべてが現実離れしていて、アンドロイドらしくもなくこれは夢ではないのかと疑った。

 

 だが、目の前で起こっているあの時の再現が、あれは現実だったのだと否が応でも思わせる。

 ――あぁ、私は、この人に助けられたんだ、と。

 

 今、私たちの部隊は、遠距離攻撃の手段を持たない彼を支援する任務についている。

 私たちの新しい仲間――彼が連れてきた元ヨルハのアンドロイドの修理に使う素材を集めるために、こうして樹液に集る虫の如く寄ってくる機械生命体共を片端から破壊していっている。最新型のアンドロイドだけあって『複雑な機械』やその他諸々の貴重な物資が必要らしい。

 幸い、機械生命体のパーツの中からも再利用できるパーツはたくさん取れるので、向こうから寄ってきてくれるのは良いことだ。・・・・・・あくまで、ゼロさんがいる状況に限られるのだけれど。

 

「・・・・・・他に敵は?」

 

 ・・・・・・そんな思考に耽っていると、ゼロさんの言葉でようやく我に返る。

 襲ってきた機械生命体たちは、既にゼロさんの手により全滅。取りこぼしも私たち射撃支援部隊が片付けた。

 

「は、はい、今ので最後です。材料もそろいましたし、これだけあれば11Bさんの治療にも事欠かないかと」

 

 しどろもどろになりつつも、廃墟都市に落ちていた部品や機械生命体の中から回収したパーツなどを確認しながら報告する。

 靡く金髪に赤いアーマー――まるで燃える炎のような印象を受ける見た目とは裏腹に、彼はとても冷静で寡黙なアンドロイドだった。男らしい精悍さを思わせつつも、冷たい刃物のような声音。光を映さない目は、本当に私たちを見ているのか、そんな不安に駆られる。

 そのせいか、未だにゼロさんを心底では仲間として受け入れられないメンバーも一定数、いるのではないかと思う。

 私は、彼のそういう所は、とても魅力的だと思っている・・・・・・というのは、助けられた弱みという奴なのだろうか。

 打算ありきとはいえ、初めて会ったときも助けてくれたし、素っ気ないだろうけれど、決して冷酷な人ではないように思うのだ。

 ・・・・・・そう、考えていたら、ゼロさんの背後の、敵の残骸の山から、ボコッ、と何かが盛り上がるのが目に入った。

 やがて、それは残骸の山の中から飛び出し、巨大な斧を携えてゼロさんの方へ飛びかかってきた。

 まずい! 援護が間に合わない。

 

「ゼロさん!! あぶな――」

 

 慌ててて叫ぼうとした私であったが、その前に――ゼロさんは身体を反転させ、飛び出してきた小型機械生命体のボディを蹴り上げ、そのまま傍にあったコンクリートの壁に叩きつけた。

 そして、その勢いを殺さずゼロさんは叩きつけたままの機械生命体の身体を蹴りつけた足ごと引きずっていく。コンクリートの壁と鉄の身体との、耳鳴りするような激しい摩擦音が迸り――そして、機械生命体の目の光りが消え、ようやくゼロさんはモノ言わなくなった機械生命体の身体から足を離すのでした。

 

「これで、最後か?」

「・・・・・・は、はい・・・・・・」

 

 コンクリートの壁跡に着いた凄まじい摩擦跡を目にして、私は身震いを感じつつも返事することしかできなかった。突然の奇襲、それに対して涼しい顔をして、何の武器も使用せずにこの戦闘能力。・・・・・・私たちレジスタンスのアンドロイドは過去に行われた降下作戦の生き残り――所謂、旧式であることは百も承知だが、ゼロさんはそれよりも遙か昔に作られた兵器の筈。・・・・・・なのにここまで差があると、少し自信をなくしてしまう。

 もし、このような、目の前の彼のように、遙か昔の技術が私たちの手元に残っていたのならば、今頃機械生命体たちなんて敵ではなかっただろうか。彼らの進化の早さやネットワークによる情報共有を加味すれば一概にはそう言えないかもしれないが、少なくとも今のような現状にはなっていない筈だと思えてならない。

 これほどの芸当を可能にしてしまう魔法技術――人類軍はどうして、これほどの技術を手放してしまったのだろう? 彼が積み上げた機械生命体たちの残骸を見ながら、私はそう考えてしまう。

 

 兎にも角にも思うことは――彼が、ゼロさんが私たちの敵でなくてよかったということだけだ。

 

 

     ◇

 

 

 身体にこびりついた敵の返り血(オイル)を拭い、ゼロは周囲に残りの敵影がないかを確認する。自分の周りにはアネモネが後援として付けたレジスタンスの部隊がおり、彼らはゼロが取りこぼした機械生命体の始末や、残骸からの材料集め、そして射撃支援を担当していた。なお彼らの面子の中には、ゼロが初めて接触したレジスタンス部隊の中にいた面子も何人かいた。

 ここは廃墟都市の中央付近。危険な機械生命体が多く彷徨いていることでレジスタンスの間では知られているが、今日に限ってはなぜかその数が多かった。おかげで材料こそ集まるものの、レジスタンスの者たちはそのことに違和感を覚えていた。無論、違和感を覚えた彼らはすかさず入って間もないゼロにそのことを伝えてきた。

 ――材料も、もう十分に集まったことだろう。ここが引き際か。

 ・・・・・・そう思い、アネモネに通信を入れようと端末に手を取ったとき、それより先に、端末の着信音がなった。

 

「・・・・・・?」

 

 周波数はアネモネの物――一体何の用だと思い、ゼロは端末のスイッチを押して通信ホログラム映像を映し出す。映像に出てきたのはやはりというべきか、アネモネだった。

 

『ゼロ、11Bの修理の材料は集め終わったか?』

 

 映像の中のアネモネがそう聞いてくる。

 聞かれたゼロは傍にいる女性アンドロイド(あの時助けた部隊の中にいたレジスタンスのメンバー)に顔を向ける。察したレジスタンスは「もう十分に揃ってます」という意図を込めて頷いた。

 ゼロは再び画面の向こうのアネモネの方を見やった。

 

「・・・・・・あぁ。周辺の敵も掃討し終えた。これから帰還する所だ」

『そうか。ゼロ・・・・・・少し頼みたいことができたんだが、聞いて貰えるか?』

「・・・何だ?」

 

 どうやら、アネモネの方もゼロに用があって連絡を寄越してきたらしい。

 

『先ほど、連絡が来ていた調査担当のヨルハ部隊がここにやってきた。名前は2Bと9S、君が工場での任務で遭遇した2人だ・・・・・・』

「・・・・・・そうか」

『・・・・・・幸い、2人が工場での出来事を覚えている様子はない。で、ここからなんだが、ウチの武器屋にある整備デバイスが壊れているのは覚えているか? やってきた2人が快くそのデバイスの修理を引き受けてくれたんだが、その際に『複雑な機械』が4つほど必要らしい。今君がいる廃墟都市の中央付近によく見かけられるらしいのだが、もし回収が終わっているのならば、良ければ分けてくれないか?』

 

 ――・・・・・・あの2人が、来たのか。

 アネモネの言葉にゼロは己の眠っていた場所で出会った2人のヨルハ隊員を思い出す。一度は自分の手で破壊した2人が、再び新しい義体を持ってレジスタンスキャンプにやってきたのだという。

 ヨルハとレジスタンスの交渉が済んだ以上、もうあの2人とのすれ違いが起こる心配もない筈だ。

 

「・・・・・・足りるか?」

 

 取りあえず心配は無用かと考えたゼロは、再び傍にいた女レジスタンスに確認を取る。

 

「『複雑な機械』ですね。・・・・・・確かにいくつかは回収していますし。4つくらいならばなんとか・・・・・・」

 

 どうやら、4つ分けても必要数は足りているらしい。ならば、何の問題もない。

 確認を終えたゼロは再びアネモネの方に向き直る。

 

「大丈夫だ。・・・・・・その2人は今どこに?」

『デバイスの傍で待機中さ。お前と11Bに会いたがっている様子だったが、お前は大丈夫か?』

 

 心配そうな様子を見せるアネモネ。

 そんなアネモネの質問の意図を、ゼロは察した。アネモネは、ゼロが2人を破壊してしまったことを気にしているのではないかと心配なのだ。

 ――・・・・・・迷惑をかけたのは此方だというのに、お人好しなことだ。

 内心で苦笑しつつ、ゼロは答えた。

 

「オレは問題ない。11Bの方は、分からんが」

『彼女については治療役のデボルとポポルに確認を取らせてみよう。交渉済みとはいえ、君を傍に置かずに彼女をヨルハと会わせるわけには、いかないからな・・・・・・』

「・・・・・・了解した。これより――」

 

 帰還する、と告げようとしたその時。ゼロの第六感が告げる。

 ――何か、来る。

 

「ゼ、ゼロさん!! 工場廃墟の方向から、巨大な機械生命体の反応が近付いてきて・・・・・・!!」

 

 女性のレジスタンスが慌てた声でそう叫ぶと同時――巨大な影がゼロ達のいる場所を覆い被さる。咄嗟のことに、その場の全員が上を見上げた。

 見えたのは、丸いナニカだ。

 その丸いナニカは、此方に降りてくるに従って、どんどんと大きく見えるようになってくる。

 そして、それは、ゼロたちの前に着地した。

 パッと見て、一般的な機械生命体の数十体分以上の図体を持つ巨大な球体。

 そして――球体が回転し、そこに赤い単眼が露わになり、ゼロ達を睨み付けた。

 

「な、なんだ此奴は!?」

「撃て!撃て!」

 

 慌てて陣形を組んでレジスタンスのアンドロイドたちが小銃を球体の機械生命体に向けて乱射して応戦するが――それは球体を囲むエネルギーシールドに阻まれる。

 銃が効かないことにすぐに気付いたレジスタンスのアンドロイドたちは、一端乱射をやめて様子を伺う。

 ――しかし、相手はその時間を待ってはくれない。

 巨大な機械生命体の球体が跳ね上がる。そして――再び地面にドスり、と着地すると同時――辺り一面に稲光が迸った。

 

「な――」

 

 全員が、死んだと思ったその時。

 レジスタンスのアンドロイド全員の視界が、ブラックアウトする。

 気が付けば、彼らの内の1人がナニカに叩きつけられたような衝撃と共に意識を取り戻した。

 

「ゼ、ゼロ!?」

 

 1人が目を覚ますと、そこにはレジスタンス部隊全員を抱えているゼロの姿があった。あの球体の機械生命体が遠巻きに見えるくらいには、先ほどとは距離が離れている。

 ゼロは他のレジスタンスのアンドロイドを地面に投げ置く。

 

「い、生きてる・・・・・・」

 

 ここに来て、ようやく全員が今の状況を理解した。

 ――自分たちは、ゼロに助けられたのだ。

 あの広範囲の電撃を一瞬で察知し、彼はその場にいたレジスタンス全員を抱え、一瞬でここまで飛び込んできたのだ。

 彼ら全員の無事を確認した、ゼロは、そのまま彼らに背を向ける。靡く金髪だけが、彼らの視界を支配した。

 

『ゼロ、今の音は何だ? 一体何があった!?』

「――雑魚が一匹増えた」

『ざ、雑魚って――』

「後でかけ直す」

 

 そう言ってゼロは端末を切ると、冷静な顔を崩さぬまま、赤く光る単眼で此方を睨み付ける球体の機械生命体を見据えた。

 Zセイバーを握り直し、彼は一歩前に出る。

 

「ま、待って下さいゼロさん!! 私たちも――」

「下がっていろ」

 

 女性のレジスタンスがその背中に慌てて声をかけるが、ゼロは振り向きながらそう答える。

 僅かな間でも、己から意識が逸れた瞬間――その瞬間を、相手は見逃さなかった。

 巨大機械生命体はその球体を高速で転がして、ゼロ達の所まで突進してくる。

 それを見た女性のアンドロイドが危ないと声をかけようとしたが、既に眼前まで迫っている。

 もう終わりだと、全員が目を瞑るが。

 いつまで立っても己の意識が消えないこと、そしてナニカが衝突し合うような衝撃音が鳴り響き、彼らは再び、恐る恐る前を見た。

 

「――嘘、だろ?」

 

 それは、彼らの内の、誰が言った言葉だったか。

 誰もが、その光景に呆気に取られる。

 そこにあったのは――差し出した左手で、突進してきた巨大機械生命体の球体を受け止めているゼロの姿だった。

 

「ここから先は、オレ1人でやる」

 

 エネルギーシールドとの摩擦などモノともせず、ゼロは片手でその巨体を受けて止めながら、後ろのレジスタンスたちに淡々とそう宣言すると――彼は、受け止めたZ(ゼット)ナックルから魔素を放出し、その巨体を押し返してみせた。

 押し飛ばされた巨大機械生命体は、一端ゼロから距離を取ると、再びその単眼でゼロを睨み付ける。

 

 そして――球体の一部の面が飛び出し、それらは6本の足となって地に着ける。

 飛び出した球体の面がそのまま外敵から身を守るシールドとなり、そして――その単眼の前方に展開された左右それぞれ2本の足の先には、巨大なブレードが取り付けられていた。

 ――戦闘形態、という訳か。

 そして、その球体を囲むエネルギーシールドは未だに健在。よく見ると、巨大機械生命体の頭上から、光の柱が伸びていることに、ゼロとレジスタンスの全員が気付く。

 光の線が延びている先は――工場廃墟。

 なるほど、とゼロは納得する。おそらく、工場廃墟から莫大なエネルギーが供給され続け、あのような強力なエネルギーシールドが全面に展開されているのだろう。

 工場の電源をなんとかしない限りは、この敵をどうにかすることはできない。

 その事実にレジスタンスの者たちは絶望する他なかった。

 

 しかし、そんなもの、ゼロには関係ない。

 

 巨大機械生命体は左右に装備したそのブレードを、同時に振ると――それぞれの振われたブレードから放たれた光のソニックブームが1つとなり、三日月状の巨大な斬撃波に姿を変え、ゼロに襲いかかった。

 己に迫り来る巨大なソニックブームをZセイバーで両断して消し飛ばしたゼロは、そのまま巨大機械生命体に向かって、走り寄った。

 巨大機械生命体はその多脚を交互に地面に叩きつけ、連なる衝撃波を周囲に放ち、近づくゼロを牽制するが、ゼロは跳躍してそれを回避。

 ひとっ飛びで巨大機械生命体の眼前へと躍り出る。

 そして、まずブレードが取り付けれた前方のアームを切り落とす。

 

 魔素による攻撃は、あらゆる防御システムを貫通する。その翠色に輝く光剣の前では、その頑強なエネルギーシールドは何の意味も成さなかった。

 巨大機械生命体はすかさずその球体を回転させ、回転する脚でゼロを弾き飛ばさんとするが、逆にゼロはすれ違いざまに全ての脚を切り落としていく。

 巨大機械生命体の猛攻は止らない。地に足を付ける脚とは別に、上方の面から細長い三関節のアーム、更に後方から、先端に矛が取り付けられた太尾が飛び出すが、それらは攻撃行動に移る前に――前者は、ゼロのZセイバーに切り落とされ、後者はゼロのナックルにより千切られる。

 エネルギーシールドの障壁をものともせず、巨大機械生命体は瞬く間に全ての攻撃手段を失い、緊急用のスラスターをふかして上空へ逃げようとするが。

 

 赤い閃光は、それを見逃さない。

 

 スラスターを吹かす速度よりも早く、廃墟ビルの壁を走り昇り、跳躍。

 上空へ先回りしたゼロは、上がってくる巨大機械生命体に、翠色に輝く刀身を振り下ろし

 

 一閃。

 

 その身に包むエネルギーシールドごと、巨大機械生命体の球体をまるごと両断した。

 瞬間――上空に花火が散り、地上に燃えさかった残骸が降り注ぐ。

 

 

『―――――――』

 

 

 その圧倒的な様を、レジスタンスのアンドロイドたちは呆気に取られたまま見つめていた。一瞬、ほんの一瞬の攻防で、気が付けば決着が付いていた。否、これは攻防などではない。ただの、一方的な蹂躙だった。

 

 残骸と共に、地上に着地するゼロ。

 立ち上がると、彼の左手――Zナックルには、先ほど撃破した巨大機械生命体のコアの一部らしきものが握られている。

 

「・・・・・・」

 

 ゼロは暫しそれを見つめた後、そのコアの一部は粒子状となってナックルに取り込まれていく。

 その瞬間――ナックルの解析能力が機能し、その結果がゼロの脳裏にインプットされる。

 先ほど撃破した巨大機械生命体の固体名は「ケンシ」。製造された多脚型機械生命体の内の一体で、ゼロの予測通りあの工場廃墟で生産された個体だった。

 

 そして。

 

 ――YOU LEARNED 斬空波

 

 あの時と同様のメッセージが、脳裏に焼き付くようにインプットされる。

 この機械生命体のコアの一部を取り込むことによって、ゼロはまた新たなラーニング魔法を獲得したようだった。

 解析結果を一通り吟味したゼロは、遠くで見ているレジスタンス部隊の方へ向き直り、彼らの元へ歩み寄っていく。

 

「・・・・・・怪我人は?」

「――――あ」

 

 しばらく呆然としていた彼らであったが、ゼロの声でようやく意識が現実に返る。無理もなかろう。最初の機械生命体の部隊を相手していた時すら歯牙にもかけぬ強さを見せつけられたのに、その直後に、あの光景である。

 我に返った彼らは、各々怪我がないことをゼロに報告すると、ゼロは端末を手に取り、アネモネに通信をかけた。

 

「こちらゼロ、任務(ミッション)完了した。これより帰還する」

 

 アネモネへの淡々としたゼロの報告により、彼らの、ゼロとの波乱な初の共同任務は幕を閉じたのだった。

 

 

     ◇

 

 

 場所を打って変わり、11Bの治療室。

 そこで11Bは呼び出したデボルに、端末を手渡し、中にある資料を見せていた。

 資料というよりかは――11Bが端末の中にあったゼロのデータとポッドのデータをかき集め、即席で作成したレポートのようなものだった。

 しかし、そのレポートの内容はデボルにとっては十分驚愕に値するもので、その目には歓喜の感情が宿っていた。

 

「・・・・・・おい、これって・・・・・・!?」

「どう、いけるでしょう?」

 

 デボルは、レポート文書をスクロールして何度も内容を見返す。

 ゼロの魔素と、ポッドのエネルギーとの互換性を示唆する内容。さらにはポッドの武装を作り替え、Zセイバーをカートリッジとして使用する魔法銃の案と設計図までもが丁寧に作成されていた。

 彼女のポッドの、標準武装は「バスター」。「ガトリング」ほど連射は効かないものの、単発のエネルギー弾を連射する射撃兵装を備えていた。

 この兵装を手持ちの小銃として作り替える。カートリッジとして取り付けたZセイバーから供給される魔素を弾丸として打ち出す銃――その名は、バスターショット。

 

「た、確かに凄いが・・・・・・こんなモノ誰が作るんだよ!? あたしもポポルも最新のアンドロイド部隊の武器にまでは精通していない。一体どうやって――」

「私が作る」

「――なっ」

「私なら、作れる。ポッドを、この武器に作り直すことができる」

 

 強く宣言する11Bの目に、嘘は見えなかった。正気かと疑うデボルであったが、それをなせるだけの意思の強さが、彼女から感じられた。

 

「私が一番、ポッドのことを知っている。構造も、部品も、直し方も」

「・・・・・・確かに、あたし達は今ゼロの武器の復元のために、サンプルとしてゼロからZセイバーを1本預かってる。完成すれば、セイバーとの同時使用も可能だな・・・・・・」

 

 ・・・・・・ようやく、納得するデボルであったが、このレポートを見せられた瞬間の、胸にハンマーを打ち付けられたかのような衝撃は未だに残っていた。

 ゼロの武器を復元しようと、武器データやサンプルとして預かったZセイバーを必死に解析して、ようやく「武器チップを埋め込み、セイバーの形状を変形して再現する」という結論までにこぎ着けたというのに、彼女はソレと並ぶ偉業を瞬く間に成し遂げようとしている。

 

「今の私のこの状態じゃ。1人で作るのは無理だわ。だから、武器屋さんの人の力を借りたいの。この構造なら旧式の整備デバイスでも何とかなりそうだし。これなら――」

「・・・・・・残念だけど、今は故障中だって聞いている。すぐにどうこうできる話じゃないな」

 

 11Bの案に多大な感心を抱きつつも、デボルは残念そうに目を伏せる。だが、これは光明だ。今、自分たちが開発中の武器チップの内、「トリプルロッド」は勿論近距離戦用の武装で、「シールドブーメラン」すら遠距離メインの武装としては物足りない。

 ようやく、ゼロの魔素を弾丸として撃ち出すという、まともな遠距離武装の目処が立ったのだ。

 ・・・・・・ほんの少し、悔しいと思いはするが、これは大きな光明である。

 

 後は、武器屋の整備デバイスさえ修理できれば――

 

「その心配はない」

 

 部屋の入り口から響く、聞き覚えのある声。

 11Bとデボルが振り向くと、そこには入り口から入ってきたアネモネが立っていた。

 

「アネモネ!」

「ゼロたちの帰りを知らせに来たんだが、どうやらすごい話しをしているそうじゃないか」

 

 言いながら、アネモネは11Bとデボルの元へ歩み寄る。

 

「先ほど、調査担当のヨルハがキャンプに到着してね。そこで整備デバイスの修理を快く引き受けてくれたんだ。そして、その材料はゼロたちが持ち帰ってきてくれた。

 ――よかったな、お前達。 すぐにでも作成に取りかかれるぞ、その武器」

 

 嬉しそうに語るアネモネの言葉は、2人にとってはまるで天啓のようだった。

 




ケンシからEX技をキャプチャーした!
「ザンクウハ」をゲットした!

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