――ゼロたちが帰ってきた。
その報が伝わったレジスタンスキャンプは騒がしく、その勢いに2Bと9Sは圧倒されるばかりだった。未確認の大型機械生命体が襲いかかり、その部隊は窮地に立たされていたという。その大型機械生命体を単身で撃破してみせたゼロを見たレジスタンスのメンバーたちはようやくゼロの実力に確信を持てたのである。
当然だ。ゼロの戦いをこの目で見たレジスタンスのアンドロイドたちは少数。
過半数ほどのレジスタンスのメンバーたちはゼロの実力に懐疑的であった。
――本当に、ヨルハと敵対しかねないリスクを背負ってまで、ゼロを引き入れた価値はあったのか、と。
しかし、今回の戦いでより多くのアンドロイドたちがゼロの実力を目にしたことで、キャンプ中でのゼロへの見方は変わりつつあった。
「ほ、本当に凄かったんだって。丸い形をしたすっごく大きい機械生命体を、こう、あっという間に真っ二つにしてさぁ!」
「強力なエネルギーバリアが張られていたんです。それなのに、いとも容易く両断しまして・・・・・・」
「アネモネ姐さんがゼロを引き入れようとした理由が分かったよ。アイツがいてくれれば、機械生命体なんて敵なしだ・・・・・・!!」
ゼロに同行していた部隊のメンバーたちが、迎えに来た仲間達に対して興奮気味に任務のことを話す。任務報告というよりかは、その様はまるで映画を見た後にはしゃぐ子供のようであった。
そんな様子でレジスタンスのメンバーたちが一丸となって集まっている様を、2Bと9Sは呆然と見守っていた。自分たちは協力関係にはあれど、彼らの仲間というわけではないので、その喜びを共有することはできない。
所謂、置いてきぼりを食らった感じである。
「・・・・・・その、済まんな・・・・・・」
そんな彼らの心情を察したのだろう、傍に座っていた武器屋の男が申し訳なさそうに謝罪する。
「あっ」
未だに2Bの方が騒いでいるレジスタンスの集団に気を取られている一方で、9Sはそれを見つめているもう1つの人影があることに気づく。
黒い素体の上に赤いアーマーを纏ったボディ、ヘルメットパーツから零れている黄金の髪――その者は、自分の話題で盛り上がっているレジスタンスの者達を興味なさそうに一瞥した後、その視線を2Bと9Sへ向けた。
どうやらアネモネを通して自分たちのことは彼に知らされていたようで、彼は真っ直ぐに、デバイスの傍で待機していた自分たちの所へやってきた。
「・・・・・・お前達が、アネモネが言っていた調査担当のヨルハ隊員か・・・・・・?」
「は、はい!! そういう貴方は、ゼロさん、ですよね? 僕の名前は9S、親しい人からはナインズって呼ばれてます!! こっちは2B――」
「・・・・・・9S、落ち着いて・・・・・・」
今一番の興味の対象が向こうからやってきたことで若干興奮気味になりながら自己紹介をする9Sであったが、それを2Bが宥める。
感情豊かな9Sと、沈着冷静な2B。
――本当に、“前と”何1つ違わないようだな。
そんな彼らのやりとりを表情1つ変えず見つめながら、ゼロは内心複雑な心境を抱く。
無事な彼らの姿を見ることで罪悪感が緩和されていく反面、本当に“前”の2人と目の前の2人を同一視していいのかという疑問。
間違いなく、“ほぼ”同一人物なのだろう。
だが、前の彼らは間違いなくゼロによって殺され、今の彼らはそのような記憶、いや、記録すら持ってはいない。その点は明らかな差異だ。
“命”とは、そのように、軽く扱っていいものか。ここにいる彼らを真とするのならば、前に殺された2人は一体何だったのか・・・・・・。
――今は、そのようなことは関係ないか。
僅かの間で悩んだゼロだったが、彼は即座に割り切る。今重要なのは、少なくとも前の2人の時のように敵対する必要はもうないということ。予断は許さないが、ヨルハが11Bに対して手出しはしないと表向きは宣言した以上、下手に手を出すことはできない。その方が、今のゼロには重要なのだ。
「・・・・・・名前はアネモネから聞いているから自己紹介は不要だ。お前達も、オレのことはある程度知らされているだろう・・・・・・」
ゼロ自身も、おそらく自分のことについては、彼らが知らされている以上のことは分かっていない。また、ゼロは多少違えど前に2人と一度出会っている。ならば互いの紹介の必要はないと断じた。
「それよりもゼロ、早く『複雑な機械』を彼らに譲ってやってくれよ。デバイスが直らなきゃこっちも商売上がったりだからな」
「・・・・・・分かった」
隣で彼らのやりとりを視ていた武器屋の男の言葉に、ゼロは了承して、懐から取り出した4つの『複雑な機械』を手渡す。
「ありがとうございます!! それと、この後のことなんですが・・・・・・」
「・・・・・・なんだ?」
礼を言った後、言い辛そうに言い淀む9S。現時点の憧れであり、最大の興味の対象でもあるゼロを前にして、どのような対応をすればよいか彼には分からないのだ。その様子は、前の2人が工場廃墟でゼロと初めて出会ったときの様子に似ている。
『質問:現時点で、元ヨルハ機体11Bと接触することは可能か?』
それを見かねたのか、9Sの傍を浮いていたポッド153が彼に変わりゼロに質問を投げかけた。ゼロは彼らが11Bと自分に会いたがっていたことを思い出し、答えることにした。
「・・・・・・11Bについては、アネモネたちが確認を取っている。アイツにその気があれば、すぐにでも会える筈だ」
逆に言えば、彼女がその気にならない限りは、絶対に会わせないというゼロの意思表示でもある。そんな意味も込めて答えた、その時だった。
「ゼロー!」
ゼロにとって聞き覚えのある声が、背後から聞こえてくる。
振り返ってみると、そこにはデボルの押してくる車椅子に座りながら此方にやってくる11Bの姿があった。
戻ってきたゼロの姿を見た11Bは、嬉しそうにゼロに手を振っている。
・・・・・・心なしか、以前の無力感に蝕まれた彼女のぎこちない表情よりも、幾分か晴れやかになっているように、ゼロには見えた。
「・・・・・・戻ったぞ」
「うん。おかえりなさい、ゼロ」
無愛想に応じたゼロだったが、それに対して11Bは臆さず迎えの笑顔を崩さない。
そんな11Bの様子に驚く9Sであったが、内心では2Bの方が驚いていた。
11Bも戦闘型のヨルハアンドロイドにしては比較的穏やかな気質を持っていることは知っていたが、ここまで輝いている彼女の笑顔を、2Bは見たことがなかったのだ。
特に、ここ最近ではどこか無理をしているような、余裕のない様子さえ垣間見えていた。未だ表情に憂いを残してはいるものの、今の11Bからは想像も付かない変化だった。ヨルハから解放され、ゴーグルが外された彼女の綺麗な素顔は、今の2Bからしてみると眩しすぎて――そんな自分が、少しだけ、惨めに思えてきて・・・・・・。
――駄目だ。
即座に、湧き上がってくる感情を、2Bは律する。
彼女は、もう自分とは違う。彼女はもうヨルハではない。感情を持つことを禁止されるヨルハ部隊では、もうないのだ。
「腕の部分は、もう動くようだな」
「そういう事だ。材料も揃ったし、脚の方もすぐに動くようになるさ」
付け加えて説明するデボル。
ここ最近の彼女たちはゼロのデータ復元と11Bの治療という2つの仕事を兼任しているため、いつもよりも忙しかった。だが、その分だけ彼女たちを危険な任務へ追いやろうとする輩からの声かけも少なくなった。
ゼロの戦闘能力がこのレジスタンス中に証明された今、このキャンプ内での彼女たちの需要は急増しつつある。そういう意味では、11Bだけでなく、デボルやポポルにとってもゼロは己に安心をもたらしてくれる人物には違いなかった。
「さてと――」
視線をゼロから外し、2Bと9Sの方に向き合うデボル。
「あたしは暫く離れてるから、好きなだけ話していけばいいさ。なるべく凝りが残らないようにな」
じゃあな、デボルはゼロたちに背を向けて立ち去っていく。彼女は、誰も使っていない、隅っこのキャンプに腰を下ろしたのだった。
――なんか、少し無愛想な人だな。
未だ名も知れぬ赤髪のアンドロイドに9Sはそんな印象を抱く。無愛想――という点ではゼロや2Bもそうなのだろうが、この2人の場合はおそらく素の性格がそうなのだろう。だが、あの11Bを運んできた女性アンドロイドは、なんか違う気がした。
なんというか・・・・・・自分たちヨルハは疎か、仲間のレジスタンスのアンドロイドたちからすらも距離を置いているような気がしたのだ。
かろうじて、11Bとゼロに対してだけ心を許しているような、そんな印象を受けた。
「・・・・・・久しぶりだね、2B。それと、其方の
先に口を開いたのは、11Bの方だった。
それに対して話しかけられた9Sと2Bもまたそれぞれ応じるのだった。
一方、ゼロは水を差すつもりはないのか、いつでも11Bを守れる位置に立ちつつも、黙って彼らの会話を見守っている。
「ええ。本来ならば、貴女とは降下作戦の時に合流する手筈だったんですが・・・・・・」
「まさかこんな形でまた会うとは思わなかった。久しぶりだね、11B。色々言いたいことはあるけど・・・・・・元気そうでよかった」
本来ならば降下作戦で合流して共に戦う筈だった仲間。
生存が判明するも裏切りが判明し、今度は自分たちの手で処分する筈だった仲間。
今度はなぜかその処分命令が撤回され、このレジスタンスに身を置くこととなった元ヨルハ隊員。
二転三転、状況が裏返った末の、やっとこさの接触。9Sにとっては初対面、2Bにとっては知古との再会だった。
「まず、貴方たちに謝らなきゃいけないことがあるの」
先ほどの明るい笑顔とは一転、目線を地面に落し、しおれた表情になる11B。彼女が謝りたい理由を察しつつも、2Bと9Sは口を出さずに彼女の口から出ることを待つことにした。
「降下作戦の時、私は貴方たちと一緒に戦うことをせずに、そのまま逃げた。結果的に、貴方たちだけで超大型兵器と戦せることになってしまって・・・・・・ごめんなさい・・・・・・」
頭を下げ、11Bは2人に謝罪する。
「私が撃墜された順番は2番目だったから・・・・・・あの後も仲間達が撃墜されてたなんて、知らなかった。貴方たちがブラックボックス反応の共振による自爆を敢行したことも、後で知ったの。いざ自分が安全の身になると、いても立っても、いられなかった・・・・・・」
勿論、11Bのここまで辿ってきた道のりも、一度も義体を乗り換えることなく生き延びれたこと自体、奇跡といってもいいと言える程壮絶だったのは違いない。だが、あくまでそれは11B自身が選択した結果に過ぎない。
だが、降下作戦での逃走行為だけは、仲間の運命すら左右してしまった可能性がある。素で撃墜された他のメンバーはともかく、11Bが抜けなければ、それを追って7Eだって抜けなかったかも知れない。
勿論、抜けなかったからといって、運命は変わらなかった可能性だってある。むしろその方が高かったかもしれない。・・・・・・それでも、そう思わざるを得ないのだ。
「・・・・・・今更、過ぎたことを問い詰めるつもりはありません。僕も、降下作戦時の記憶は、2Bと合流する前までしかありませんから」
記憶にないことに関する事柄については、さすがに9Sも怒る気にはなれない。遠回しに、それに関しては気にしなくてもいいと彼は言った。
だが、ヨルハ隊員としてこれだけは言っておかなくてはならない。
「ですが、貴方が裏切ったという前科は、永遠にバンカーに残り続けますよ。貴方が裏切った理由を、僕たちが知ることはできませんが、おそらくバンカーは認知していると、ということでしょうね」
「・・・・・・」
「・・・・・・僕個人としても、その理由は非常に気になりますが、そこまで問い詰める気はありません。ですが、裏切りの前科を持つ貴女が、このキャンプのレジスタンスの皆さんに危害を加えないよう監視するのも、僕と2Bが派遣された理由の1つであることは、忘れないで下さい」
「絶対に、そんなことはしないと誓うわ」
あえてゼロにも言い聞かすように説明する9Sに、11Bもまた真っ直ぐ9Sの目(正確には目を隠しているゴーグル)を見て答える。
「僕から貴女に言いたいことは以上です。2Bからはなにか?」
「・・・・・・」
9Sに話しを振られた2Bは僅かの間沈黙した後、口を開いた。
「くれぐれも、私と9S以外のヨルハとは接触しないよう心がけてほしい」
「・・・・・・え?」
一瞬、2Bの言いたいことが分からず、聞き返してしまう11B。
「貴女は本来、過去に出た脱走者と同様、規定により厳重に処罰されるべき存在。その中で、
「・・・・・・あっ」
2Bの言わんとしていることが理解できたのか、11Bはハッと目を見開いた。
「もし、貴女のような特例が他のヨルハ機体たちに知れ渡れば、色々な意味で混乱を招く。貴女のように逃げ出そうとするヨルハが、以前に増して出ないとも限らない」
考えてもみてほしい。11Bの知古であったヨルハ機体たちが、ある日を境に彼女の姿をバンカーから見掛けなくなったとき、彼女たちは2つの可能性を考える。
もし死亡が確認されているのならば、バンカーのバックアップデータから蘇るなりするだろうが、それでも姿を見掛けないとなると、さすがに疑問に感じる筈だ。そうなると、もう1つは――
考え至る前に、その続きは2Bの口から説明された。
「バンカーは既に、表向きには裏切りが発覚した貴女を処分済みとしている。これならば、貴女の人格データそのものに問題があると見なされて、バックアップデータから貴女を蘇らせない理由にもなる。貴女の知り合いのヨルハ隊員たちが疑問を抱くこともない。・・・・・・けど、万が一貴女の存在が漏れたら・・・・・・」
「脱走しても見逃された事例が、知れ渡ることになる。そしたら、私に続いて、多くの脱走者が続出するかもしれない。・・・・・・そういうこと、だよね?」
「おそらく、司令官はソレを防止する意味も込めて、私達に貴女の監視任務を与えたんだと思う。これから行動を共にする機会が増える以上、私達も気を配るけど・・・・・・何より、貴女自身が一番ソレを心掛けてほしい」
「・・・・・・分かったわ、気をつける」
了承する11Bだが、その表情には暗い影が落とされていた。
それはつまり、二度と自分は16Dと会うことを許されないということだ。
彼女が一番謝りたいと思っていた後輩のヨルハ隊員。
許してくれるとは思っていない。それでも、降下作戦前にきちんと、彼女と向き合って謝罪するべきだった。
降下作戦前が、16Dと向き合うことを許された最後の時間だったというのに、自分はソレを自ら捨ててしまっていたのだ。・・・・・・こうなってしまう可能性を、考えずに。
「それと・・・・・・」
そんな11Bの表情を見て少し気まずくなったのか、2Bは一瞬だけ11Bから視線を外したが、改めて声をかける。
「こんな事を言ってしまったけれど・・・・・・私は、貴女を殺さずに済んでよかったと思っている」
「・・・・・・2B?」
咄嗟に言われた言葉に、11Bは思わず呆然として2Bを見上げる。
「降下作戦の時は無理だったけど・・・・・・今度は、
確かに貴女は、どんな理由があれ私達から逃げたのかもしれない。
けれど、もう逃げる理由がないというのならば、今度は一緒に戦って欲しいかな。
・・・・・・そんな思いを込めて、2Bは11Bに問いかける。その声音は、先ほどの諭すような口調とは打って変わって、どこか、2Bらしい不器用な優しさが込められていた。
「ま、僕たちに少しでも負い目があるのなら、できる範囲でいいからこれから助けて下さい。そういう事ですよね、2B?」
「・・・・・・平たく言えば」
2Bの言いたいことを分かりやすく言い換える9S。心なしか、9Sも先ほどの棘のある雰囲気が消え、いつもの爽やかな少年に早変わりしていた。9S自身は11Bにこれといった恨みはないので、2Bが11Bを許した以上、もう何も言うことはなかった。
・・・・・・頭の片隅に、11Bがヨルハを裏切った理由や、そのヨルハに対する疑念が芽生えたが、それが大きくなるのはもう少し先の話である。
そんな2人の言葉に、11Bは呆然としながら、その目から、涙を一筋流していた。
自分は、2人に恨まれても仕方のないことをした筈なのに、この2人以外にも一部隊まるごと仲間を見捨てている筈なのに、2人は、ソレを許してくれたのだ。
特に2Bの不器用な優しさに、11Bは暖かい気持ちに包まれると同時、チクリと胸の回路が痛んだ。許して欲しいと思いつつも、心のどこかで自分を責めて欲しい、糾弾してほしいと思っていたのかもしれない。
「・・・・・・ごめんなさい、2人とも、ありがとう・・・・・・」
涙を拭い取り、できるだけ笑顔を見せつつ11Bは2人に再度の謝罪と感謝の言葉を伝える。
そんな3人の様子を見守っていたゼロは、目を瞑って肩から力を抜いた。ようやく、11Bと2人の間の凝りが解消されたのだ。お互いに気になる点はまだ残るだろうが、そこは妥協所だろう。
「ところで、疑問に思ったことがあるのですが・・・・・・」
緊張感が抜けたのも束の間、9Sが話題を切り替えた11Bに問いかける。
「撃墜された体を装うまではいいんですが、どうしてよりにもよって敵の本拠地である工場廃墟に逃げ込んだのですか?」
「・・・・・・え?」
突然の9Sの質問に、思わず11Bは呆然と聞き返してしまう。
11Bにとって、非常に答え辛い質問だったからだ。
「・・・・・・確かに、追手を捲くためだったとしても、もう少しやりようはあったと思う・・・・・・」
2Bもソレは疑問に思っていたのか、彼女も話しに参加してきた。
尤も、2Bの意見は11Bに追い打ちをかける結果にしかなっていないが。
「あのレーザー砲に被弾して飛行ユニットが無事でいられる筈がありません。そんな状態であの廃墟に入り込むなんて自殺行為ですよ」
「私達が降下作戦を成功させたかも分からない状態っていうのも、相当な博打だと思う」
「えっと・・・・・・それは、その・・・・・・」
答えられず、しどろもどろになる11B。
7Eからの追跡を捲くため、と11Bなりの理由はあったものの、それ以外はほとんど考えていなかった、というのが本音だった。
比較的穏やかな気質とはいっても、やはり彼女も
ゼロとポッドがいたから結果的によかったものの、彼らがいなければ今頃どうなっていたのやら・・・・・・。
「仮に降下作戦による占拠が成功していた場合でも、それは即ち僕たちヨルハの目が行き届くようになったことを意味するんです。どちらの場合でもハイリスクノーリターン。もっと別の陸に上陸するなりあった筈では?」
「敵の殲滅が目的ならばともかく、生存目的だけならあの工場に逃げるのは、最も非効率」
「・・・・・・う、うぅ、ごめんなさい・・・・・・」
「それとですね――」
9Sから、時々2Bから、自分の逃走経路に関する問題点を山ほど上げられ、萎縮したまま何も言い返せない11B。9Sからは純粋な疑問以外にも、明らかに11Bをからかおうとする意図が透けて見えているが、2Bに至っては大真面目に意見を述べているだけなため、余計に何も言い返せない。
――ゼ、ゼロぉ!! 助けてよぉ!!
涙目の目線で11Bは隣にいるゼロに助けを求めているが、2人と同じ疑問をゼロも抱いていたのか、彼は表情を変えぬまま目線を11Bから外した。
――そ、そんなぁ・・・・・・!!
この時、ゼロから見捨てられるという生涯で一番の絶望を、11Bは味わうのであった。
「・・・・・・なあゼロ、止めなくていいのか?」
「・・・・・・好きにさせておけ」
そんな3人のやりとりを見ていた武器屋のレジスタンスが、小声でゼロに問いかけるが、ゼロは放っておけと答える。
ゼロとて、自分が細かいことを考えるのが苦手なことは自覚しているが、それでも11Bの、計画とは言いがたい『脱走計画』について、少しは反省すべきだと思っていたからである。どうせ、お互いに凝りがなくなるよう、好きなだけ語らうことを許された時間なのだ。
――それに・・・・・・。
ふと、ゼロは2人に萎縮しながらもどこか楽しそうにしている11Bに、少しだけ暖かい目線を送った。工場廃墟での11Bと7Eの剣呑なやりとりを見守り、更に2Bと9Sの2人と一度敵対した身としては、彼らのこの緊張感のない、暖かいやりとりは、どこか――尊い物をゼロは感じていたのだった。
おそらく、自分はあそこに入り込むことはできないだろう。
破壊することしかできない、自分には。
――アイツならば、オレと違い涙を流せるアイツなら、簡単にあの中に・・・・・・。
思い浮かべるは、いつも悩んでいた――否、思い浮かばず、ゼロは先ほどの自身の思考にふとした疑問が生じる。
――・・・・・・・・・・・・・・・“アイツ”とは、誰だ?
一瞬だけ、脳裏をかすめた何者かの影。それを必死に思い起こそうとするも、何も浮かび上がっては来なかった。自身の失った記憶に関係することなのか、それすら分からない。
思考を振り払ったゼロは、未だにあの場で萎縮してしまっている11Bをさすがに助けんと、3人の間に入っていくのだった。
◇
ゼロが止めに入った後、ゼロ自身も二人からの質問に答えた。・・・・・・とはいうものの、知っての通りゼロは自身に関する記憶を全て喪失しており、己自身に関わることはほとんど答えることができなかった。
露骨に残念そうに肩を落していた9Sだったが、それでもゼロの記憶が戻るまで待つことにしたようだ。11Bやゼロに関わる調査任務に関わらず、9S自身がゼロに対して多大な興味を持っていることを知った11Bは、2Bと同様少し複雑な感情を抱いたが。
ゼロが二人のヨルハに答えられた答えは以下の通りだった。
――曰く、自分は旧世界の頃に造られた魔法兵器、らしい。
――曰く、あの工場廃墟に眠っていた所を11Bの手によって目覚めさせられた。
――今は、自身を目覚めさせてくれた11Bと共に、このレジスタンスに身を置いている。
これ以外のことは、ゼロには答えようもなかった。これ以上のことは、自分の記憶が戻るまで待つしか無い。そう答えたら、9Sは渋々と引き下がってくれた。
ゼロとしては、最後の懸念であった11Bとヨルハとの凝りがある程度解消されたので、そういう意味では今回の顔合わせは有意義だったと言えるだろう。
ヨルハの二人はまだまだキャンプ内の情報収集を続けるそうで、武器屋のデバイスをゼロが集めてくれた材料で修理していった後、ゼロたちと暫し別れることとなった。
そして、暫く日を跨ぎ、例の二人がアネモネの頼みで砂漠地帯まで調査に向かってキャンプを出た後のことだった。
ある任務から帰ってきたゼロは、11Bとデボル&ポポルの三人に、キャンプの片隅まで呼び出されていた。
デボルとポポルに関してはいつも通りであったが、11Bに関しては、9Sがデバイスを修理していってからというものの、どこかよそよそしい態度をゼロに見せていたため、今回の件とナニカ関わりがあるのかと訝しみつつも、ゼロは呼び出された場所へ向かった。
「おかえりなさい、ゼロ!」
出迎えたのは、未だに車椅子に座ったままの11B。あれから、治療が一向に進んでいないようだが、他になにかすることがあったのだろうか。膝の上に乗せている“包み”が何か関わっているのだろうか?
その治療に携わっている筈のデボルとポポルも一緒にゼロを待っていた。
「来たのね。こんな場所で、ごめんなさい」
「任務帰りで悪いな。どうしてお前に見せたいものがあるんだ」
上から順に、ポポル、デボルがそう言う。
そして、デボルは懐から、ゼロから預かっていた解析用のZセイバーの柄を右手に取り出し、左手にはチップと思しき物体が握られていた。
「・・・・・・それは、オレが預けていたZセイバーの1本」
「そうだ。お前から預かった2本ある内の1本と、お前がこの間持って帰ってきたお前自身のデータを復元した。これがその成果って奴さ」
左手に持ったチップを掲げ、デボルは心なしか得意そうにゼロに見せつける。
「順から説明するわね。私たちは貴方のデータを解析して、貴方が過去に使用していた武器をなんとか復元できないかと考えたの。けれど、さすがに一から復元するのは現時点では不可能だって分かって、別の発想にシフトすることにしたの」
「このZセイバーを解析するとな、強力な魔素の刃を生み出す以外にも、色々拡張性が大きいことが分かったんだ。さすがにお前の融合炉から魔素が供給される仕組みまでは、解析できなかったんだが・・・・・・」
話しを一端止め、デボルはゼロに歩み寄り、Zセイバーとチップを手渡した。
「モノは試しさ。そのチップ、そのZセイバーの柄に差し込んでみてよ」
セイバーとチップを受け取ったゼロは、デボルに言われた通りに柄の差し込み口にチップを差し込む。
そして、柄に魔素を込めながら、Zセイバーから刃を出すイメージを頭に思い浮かべると
直後、突如としてZセイバーの柄の形状が変化し、ゼロの身の丈ほどもある長柄へと姿を変えた。そしてその柄の先にはZセイバーの刃とは打って変わり、切るよりも、突くことに特化した形状の短い魔素の刃が構成されていた。
「これは・・・・・・!?」
思わず、目を見開いて驚くゼロ。
それもそうだ。自身の愛剣が、突如として見覚えのない槍に姿を変えたのだから。
見たかった反応を見れたデボルとポポルは満足そうに頷きながら、説明した。
「一から作れないのならば、既にあるものを変えちゃえばいい。そういう発想で、何とか武器の再現ができたのよ。今はまだ、その『トリプルロッド』しかないけれど、他の武器も既に制作に取りかかっているわ」
「トリプルロッド・・・・・・」
Zセイバーの変形した新たなる武器の姿を見つめ、その名を呟くゼロ。
「・・・・・・戻すには、どうすればいい?」
「貴方がいつも使っているZセイバーをイメージすれば、そのまま戻る筈よ」
言われた通りにすると、『トリプルロッド』は再び形状を変え、元のZセイバーの柄の形状に戻った。
「チップを入れた時点で、いつでも切り替えが可能だからな。態々武器を持ち変える必要もないってことだ」
「・・・・・・なるほどな」
ゼロはセイバーを見つめたまま、暫く『トリプルロッド』へ変形させたり、戻したりを繰り返す。切り替わる速度もなかなかで、これならば即座に戦況に応じて使い分けることができる。
この武器の大体の用途を掴んだゼロは、渡されたセイバーをホルスターに戻す。
「トリプルロッド・・・・・・扱いやすそうだ。感謝する」
「満足頂いたようで何よりだわ。私達からのプレゼントはおしまいね。――11B、次は貴方よ」
「う、うん・・・・・・」
ポポルに言われ、11Bは膝の上にのせていた包みを解く。
「見せてやれよ、お前の“力作”をさ」
デボルもまたそう促す。
――11Bから、オレに?
まさか、あの日から治療が進んでいなかったのもその包みの中身が原因なのだろうかとゼロは考える。包みの中身に興味を持ったゼロは、暫し11Bが包みを解き終わるのを待った。
そして――包みが完全に解かれると、布の中から、ソレは現れた。
白い銃身。その銃身と半分一体化したような黒い銃床。銃身の後ろにはマガジンの差し込み口と思しき穴が確認できるが、肝心のマガジンはどこにも見当たらない。
取り回しもよさそうで、片手でも十分に扱えそうなくらいのサイズの小銃が、そこにあった。
「お、驚いた、かな?」
見せてきた当の本人は、チラチラと膝元の小銃を見ながらゼロの顔を伺っている。
ゼロはその銃を観察する。
――構成されているパーツといい、どこか既視感があった。
全体のカラーリングは勿論、銃床の部分は特に、何かのアームを継ぎ併せて造られたかのような、その白い銃身も、何かのボディを加工して造られたかのような・・・・・・。
「まさか、オレが持ち帰ったポッド、か?」
「ッ!? うん、そうよ! ポッドは元々射撃支援の随行機だから、内蔵されていたメインの射撃兵装を取り出して、それを元に、残ったボディパーツを加工して組み立てて、作ったの。ゼロに今一番足りないモノは、遠距離攻撃が可能な武器だってこと、知ってたから・・・・・・。だから、
今度こそ、ゼロは開いた目を塞ぐことができなかった。
確かに、11Bに言われたとおり、ゼロはゼロ自身の射撃兵装を持っていない。それでも、レジスタンスで使われている小銃をナックルで強化して使ったこともあったし、何なら敵の機械生命体から奪ったエネルギー銃さえもナックルで奪って使用していた。
しかし、どれでも威力はZセイバーに大きく劣り、結局はセイバーで斬りかかった方が早い場合が多く、力不足感が否めなかった。先ほどデボルとポポルから渡された『トリプルロッド』ですらそれは補えない。
「私、ゼロに今まで何も返せていなかったから。何とか、ゼロにできることをしようって思って・・・・・・ある時、気付いたの。ゼロの魔素とポッドのエネルギーって、性質が非常に似ているんだ。もしかしたら、互換性があるんじゃないかって・・・・・・」
「・・・・・・」
「だから、武器屋さんのデバイスと、この動くようになった手を使って、ゼロに隠れて作ってた。ちょっと、慣れないことをしたせいか、こんな様だけど。アハハ・・・・・・」
包帯に包まれた左手を振りながら、苦笑する11B。
ポッドを改修してきた経験から手先の器用さには自信があった11Bだったが、さすがに全パーツまるごと別の武器に作り替えるのは骨が折れたらしい。
「ここ数日、オレに対してよそよそしかったのはそのせいか」
「うん。隠してて、ごめんなさい。どうしてもゼロを驚かせたくて。それよりも、取ってみてよ」
ゼロに向け、白い小銃を差し出す11B。
ゼロはゆっくりと11Bへと歩み寄り、銃を手に取り、暫し観察する。
見た目通り、取り回しもよさそうだ。ゼロ程の猛者ならば、片手で扱うことも造作もなさそうである。
持ち運ぶに当たって問題はなさそうだが、ゼロには疑問がまだ一つあった。マガジンの有無である。
が、その疑問の答えを、ゼロは体でなんとなく察していた。
「オレの魔素を銃弾として撃ち出せると言ったな・・・・・・」
11Bに確認を取るように呟くと――ゼロは膝のホルスターからセイバーの柄を取り出し、ソレを小銃のマガジン差し込み口へと差し込んだ。
途端、マガジンとして挿入されたセイバーの柄から、エネルギーが供給され始め、銃口の奥が翠色の魔素の色で光り始めた。
――なるほど、だから
と言って、ゼロが手に取った小銃から目を離し、横を向くとそこには、的が大量に設置された射撃場があった。
レジスタンスたちが訓練用にキャンプの端に設置した射撃訓練場である。
ゼロは11Bに目配しをすると、11Bは「いいよ」と言わんばかりにコクリと頷く。
11Bからの了承を得たゼロは――その白い小銃を片手で構え、その
銃身からは、Zセイバーから供給された翠色の魔素で形作られた単発の銃弾が、銃身から次々と連射される。
――連射性能もかなりのモノ、それに加えて威力も悪くない。
撃ち続けた時間はほんの僅か。
にも関わらず――それらの銃弾は、それぞれ全て、的の真ん中に命中していた。
貫かれた的の穴から吹き上がる煙を、ゼロ以外の三人は呆然と見つめながら、ゼロの驚異的な戦闘能力を再確認するが。
ゼロもまた、この銃の使い心地に感心していた。
ゼロは、感じ取っていた。
この銃の作り主の思いを。そして、この銃の元となった作り主の相棒の誇りを。
「コイツの名は?」
気になったゼロは、呆然としたままの11Bに問いかける。
聞かれた11Bはハッとなって正気に戻りつつ、真っ直ぐ、真剣な目でゼロを見て、答えた。
「『バスターショット』。ポッドの射撃兵装は『バスター』だから、バスターショットよ」
バスターショット――その名を、ゼロの胸の奥深くに刻み込む。
「バスターショット、悪くない武器だ」
「そ、そうかな・・・・・・えへへ」
ゼロの言葉に、11Bは照れくさそうに、人差し指で頬をかく。
その笑いの裏に、どれだけ苦労と努力があったのかを、推し量ることはできない。
ゼロはバスターショットを仕舞い、三人に背を向けて去って行く。
そして、去り際に。
「11B」
「・・・・・・え?」
立ち止まり、11Bの方へ振り向いた。
突然、ゼロから名前を呼ばれてビクリとする11B。考えてみれば、ゼロが自分の前で自分の名前を呼ぶのは初めてではないか。
不思議と、ドキリと胸の底が鳴ったような気がした。
「感謝する。それと、これからもよろしく頼む」
「ッ!! うん、これからよろしくね、ゼロ!!」
あの時、工場廃墟で大型兵器を破壊した後に言った言葉と、同じ言葉で、11Bは笑顔でゼロにそう返す。
あの時は、ゼロから曖昧な返事しか帰ってこなかったが、今度はゼロから言われたことに嬉しく感じ、心の底からの笑顔で同じ言葉を返したのだった。
その笑顔を見たゼロは――改めて、このアンドロイドの少女を守る決意を固めるのだった。
◇
YOU GOT TRIPLE ROD
YOU GOT BUSTER SHOT
YOU LEARNED LASER SHOT
やっと手に入れたぜ、トリプルロッドとバスターショット!!
この話しを書くよりも先にメシア登場~例の台詞シーンを書いてしまっていた作者であった。