息を大きく吸い、銃床を体に固定させ、狙いを定める。標的は、斧を携えながら此方に向かってくる中型機械生命体。この程度の敵、こんな銃を使うまでもない。接近して手元にある鋼刀や大剣を振い、義体の膂力に任せて叩き斬った方が何倍も早いくらいだ。
だが、少女は敢えて己の得意分野を捨てて、この銃を使った戦闘に臨んでいた。
その瞬間、火を吹き始める銃口。弾丸の嵐。
それに合わせるかのように反動と衝撃が少女の義体を襲いかかる。慣れない感触に少女は思わず照準を敵からズらしてしまう。
その僅かの間に、敵は少女との距離を詰めていく。それを視認した少女は即座に後ろを確認しながら背を向けて逃げるが、そこで彼女は己の失態に気付いてしまう。
いつもならば、敵から背を向けて逃げようが常に己の傍にいた随行支援ユニットが勝手に敵を射撃で牽制してくれていた。今回も、少女は思わずソレを想定した
これからは、引き金を引くのも己自身。背を向けていては照準を敵に合わせられる訳もなかったのだ。
己の失態を反省しつつ、少女は即座に振り返って追ってくる敵に照準を合わせて銃弾をばらまく。
義体が新たにアルゴリズムを学んだのか、今度は銃身が一切ぶれることなく、敵の装甲に弾が命中していく。やがてノックバックを起こした中型機械生命体は暫し動かなくなる。少女はソレに構うことなく銃弾を浴びせ続け、やがて中型の機械生命体は爆音と共に炎と破片をまき散らした。
敵を倒し終え、息を着こうとしたその瞬間――
背後から、少女を踏み潰さんと振われた大型機械生命体の
「しまっ」
慣れない武器の感触に戸惑う。ヨルハの義体を持つ彼女がこの一撃程度で死ぬことはないが、されどコストの高い義体に損傷を負えばそれだけであの双子に迷惑がかかる。
急いで銃から大剣に持ち替えて防ごうとするが、間に合わないだろう。
・・・・・・そのまま、少女を迫り来る鉄槌に押しつぶされる、その直前。
迸る、翠色の閃光。
「・・・・・・え?」
巨人の影に遮られていた筈の少女の視界は、なぜ明るく。目を開けてみるとそこには――胴体に巨大な風穴を開けた大型機械生命体の姿があった。
振われた腕も少女の義体に当たる直前で、停止している。
開けられた風穴を中心にスパークが迸った大型機械生命体の機体は、そのままバラバラの破片になって崩れ落ちていった。
呆気に取られつつ、黒いベルベット柄のドレスを着こなす銀髪の少女――11Bは自分を救ったチャージショットが飛んできた方向へ振り返る。
「最後まで気を抜くな」
「ごめん。助かったわ、ゼロ・・・・・・」
そこにいたのは、魔素の残滓が漏れ出るバスターショットの銃口を向けていたゼロだった。敵の殲滅を確認した彼はバスターショットを背中に増設したホルスターに仕舞う。11Bもそれに合わせて小銃を肩に下げた。
「やっぱり。ポッドがいないとぎこちないな。自分で引き金を引くなんてこと、今までしたことなかったし」
「だが、この短時間で銃身のブレは格段に少なくなっている。ヨルハの戦闘型とやらは、ちゃんと自身でも銃を扱えるように設計されている証拠だろう。・・・・・・これから、徐々に慣らしていけばいい」
かつてヨルハには、近接に特化した
かつて11Bの相棒であったポッドは、今ではゼロの射撃武器であるバスターショットとして彼の手元にある。そのゼロはかつてとは打って変わって手持ち兵装となったポッドをまるで己の一部のように使いこなしていることが、彼女の内心の焦りを助長させていたのだった。
自分が仕上げたバスターショットがちゃんとゼロの力になっていることを嬉しく思う一方で、やはりそれはそれ、これはこれである。一刻も早く、自分もこの射撃兵装を使いこなせるようにならなくては、と11Bは意気込むのだった。
「周囲に敵影なし。任務を再開するぞ」
「といっても、届け物をするだけだけどね。・・・・・・けど、平和主義者の機械生命体が集まる村、か。俄には想像できないな・・・・・・」
目覚めたばかりのゼロとは違い、彼女は人類軍の一員として機械生命体と戦ってきた存在。今まで心すらないと思い込んできたあの機械兵団に、平和を愛する心が芽生えるなど、想像もつかないのだろう。
遠い目をしながら呟く11Bを見ながら、ゼロはこうなった今までの経緯を思い出していた。
「ゼロ、君に少し頼みがある」
「なんだ?」
最初は、アネモネのそんな一言から始まった。
セイバー、ナックルに加え、トリプルロッドとバスターショットと武器を揃え、レジスタンスたちの先陣を切って任務をこなしていたゼロだったが、そんなある日、アネモネからゼロへ声がかかったのだ。
「実はある者達に、この『高粘度オイル』を届けて欲しいんだ」
「ある者達とは?」
「平和主義の機械生命体たちが集まる村がある。そこにいる『パスカル』という機械生命体にこれを届けて欲しいのさ」
一瞬、ゼロはアネモネの言葉を疑った。
パスカルの名前自体は、このキャンプ内で何回か耳にしたことがある。皆、当然のようにその名前を言うものだから、他の地域のレジスタンスにおけるアネモネのような人物か、もしくは名の知れたレジスタンスのメンバーなのではないかとゼロは当たりを付けていたが、よりもよって機械生命体と言われては返す言葉が見つからない。
「お前は・・・・・・いや、このレジスタンスは、機械生命体と接触しているのか?」
「そうだ。あの連中は無害だし、私達にはできないような細かい作業も得意だからな。その代わりとして。私達はオイルや素材なんかを渡して交換している。一種の交易って奴だ」
「敵対する理由がないのは分かった。・・・・・・だが、何故オレに頼む?」
最近では、あのヨルハの二人組が砂漠地帯にて。アンドロイドの質感に似ているという、特殊な機械生命体に遭遇したという情報が出回り、キャンプ内に若干の緊張感が走っていた所だった。
そんなタイミングでの、アネモネからの頼み。
それに関わることかと疑ったが、アネモネがそんなに気を張っていない様子から、そんなに過酷な任務ではないことを想像できた。・・・・・・が、だとすると、態々自分に頼み込んでくる訳が分からないのだ。
「君は以前、私に此方を攻撃してこない機械生命体たちについて聞いてきただろう? その答えの一つを、彼らが持っているということさ。君の疑問に答えるという意味でも、彼らに会ってきて欲しい」
「・・・・・・」
「・・・・・・それに、彼女の“リハビリ”に付き合うのも、君の仕事だろう」
「“彼女”?」
「ゼロー!」
思わず聞き返すゼロであったが、その前に聞き覚えのある声がゼロの耳に入ってくる。
ゼロが振り向くと、そこには車椅子生活だった筈の、11Bが笑みを浮かべながら此方へ歩み寄ってきた。
レジスタンス製のマントで身を包んでいた筈のその義体を、今ではヨルハ製の戦闘服と思われる黒いベルベット柄のドレスで包んだ、銀髪の少女がそこにいた。腰に帯刀するは彼女の愛刀である「ヨルハ製式鋼刀」。背中には7Eの形見である「四〇式斬機刀」を背負い、肩にはレジスタンス式の小銃をぶら下げている。
身長が168cm程の少女が持つにはいささかアンバランスに見える程の重武装だが、彼女はそれをモノともしない様子でゼロに歩み寄ってきたのだ。
「11Bか。もう動けるのか?」
「うん、この通り全快だよ! これでやっと、ゼロやレジスタンスの皆に恩返しができるんだから!!」
ただでさえ解析が難しかったヨルハ製の義体。ましてや彼女が負った傷ならば並大抵の治療・メンテナンスタイプのアンドロイドでは治療することは困難だった。だが、ゼロが時間をかけて集めた素材と、デボルとポポルの丁寧な治療を受け、ついに彼女は完全に修復された義体を持って復活した。
否が応でも「足手まとい」と自覚せざるを得なかった立場から解放された彼女は、今からでもこの修復された義体を試したいと言わんばかりにウズウズしている様子だった。こういう所はB型戦闘モデルの性というべきなのか。
「このキャンプに、あの双子がいてよかったよ。君と同じように、今じゃあ11Bの治療やメンテナンスを請け負えるのもあの二人だけなんだ」
「・・・・・・そうだよね。あの二人には、何て礼を言えばいいのか分からないや」
二人の言う事には、ゼロも同意だった。
ゼロに関しては治療やメンテナンスだけではない。己自身のことすら分からぬゼロにとっては、二人は自身の謎めいたボディについての解析を進めてくれたり、新しい武器を作ってくれたりと感謝が尽きない存在だ。
・・・・・・にも関わらず、彼女たち双子が、なぜかアネモネ以外のレジスタンスのメンバーとは距離を取っているように感じるのは、果たして気のせいだろうか。そのアネモネに関しても、他のレジスタンスのメンバーの前では極力接触しているのを避けているような節さえある。
2人たちから治療を受けた11Bに関しては否が応でも接触する機会が多かったせいか、どうやらあの双子と打ち解けている様子であったが、おそらく彼女も同じ疑問を抱いているだろう。
・・・・・・いや、逆か?
むしろ彼女たちが、ではなくこのキャンプのレジスタンスたちが彼女たちを疎んでいるのだとすれば――
――考えていても仕方ない、か。
彼女たちと出会ってから、まだ日は浅い。いずれ、彼女たちの口から理由を聞けることを待つのがいいだろう。
あの双子についての思考を中断し、ゼロは再び目の前の任務に意識を戻した。
「任務は引き受ける。それで、11Bを連れて行くのはなぜだ?」
「君と同じ理由さ。レジスタンスの一員になった以上、彼女にもパスカルに会ってほしくてね。ヨルハ部隊は新設されたばかりで、私達現地のアンドロイドのように言葉を話す機械生命体や敵対的でない個体に関する情報に乏しいことは分かるからな。むしろ、君よりも11Bの方がパスカルに会ってほしいという気持ちが強い」
なるほど、とゼロはアネモネの説明に納得する。
現在、11Bがこのキャンプのレジスタンスと比べて唯一劣っている点、それは“経験”だ。新設された部隊である分、蓄積および更新され続けたアルゴリズムや戦闘能力、義体に使われている技術に関しては上でも、経験という点では一番不足している。
勿論、それは目覚めてばかりで記憶を失っているゼロ自身にも当てはまることだ。
今回の任務は、経験を積むその一貫。戦闘だけではなく、この地上のレジスタンスとして暮らしていくための、慣れを獲得させるのが目的なのだろう。
「それに、彼女は義体を負傷して暫く戦線から離れていたからな。義体のアルゴリズムも彼女向けに調整済みだが、ブランクがあることに変わりはない。敵と遭遇した時は、彼女に勘を取り戻させる手伝いをしてほしいんだ。
特に、銃の扱いに関しては細かくレクチャーしてあげて欲しい。彼女は遠距離攻撃に関してはポッドに任せきりだったから、自身で銃を扱う経験が不足している。その点、君はバスターショットを手に入れるまでは、Zナックルで我々の銃を強化して使用してきたらしいじゃないか。
君の能力を鑑みても、我々の中で君について行けるのは元ヨルハ部隊である彼女くらいしかいない」
アネモネの言うことを深読みするのであれば、今後も11Bは自分に同行する機会が多くなるだろう。
「11Bには任務の詳細は説明済みだ。そういうわけで頼めるか、2人とも?」
「分かった、引き受けよう」
「了解!」
機械生命体たちの村――一体どのような場所なのか。不安と少しの好奇心を抱きながら、2人はアネモネからの任務を引き受けるのだった。
「・・・・・・ここか」
「マップ情報によると確かにここの筈なんだけど・・・・・・」
廃墟都市全体のマップにおいて、工場廃墟とは正反対の方向に位置する場所にたどり着いた2人。何故か道が空けられていたバリケードを通り過ぎると、2人が行く道路の右手にはいつも通りの廃墟都市の建物が、左手側には巨大な渓谷が、そして道の奥には――この廃墟都市を浸食中の森の入り口があった。
人口都市、自然の森、谷底の奈落――大きく異なる三つの世界への分岐点を錯覚させられるこの場所を見たゼロは、本当にこの近くに機械生命体の村が存在するのかと疑問を抱いた。
「・・・・・・うわっ」
好奇心からか、谷底を覗き込んだ11Bが顔を歪めて後ずさる。ゼロも何事かと思い11Bの隣に行き、片膝をついてしゃがみ込み、谷底を観察して――思わず、目を見開いた。
目を懲らせば――見えるのは機械生命体たちの大量の残骸が、積もった地中に埋もれるかのようにうち捨てられていた。
工場廃墟を機械生命体たちの生産場所とするのならば――あそこはまさしく廃棄所か、もしくは墓場を思わせる。
「ほ、本当に、この周辺に機械生命体たちの村があるっていうの・・・・・・?」
ここに来て11Bもゼロと同じ感想を抱いたようだった。同じ機械生命体だというのならば尚更、こんな縁起の悪い場所よりももっと別の場所を選べば良いのではないか、と。
「進めば分かることだ。先を行くぞ」
「・・・・・・そうだね。確かめに行かなきゃ」
2人は谷底から目を離し、途切れた道路の先にある森の入り口へと入っていく。
先の三界の境界だった場所の雰囲気が嘘であったかのように、周囲の景色は一気に緑が豊かな森一色へと変わっていく。
そんな森の道中で、飛行型の機械生命体と思しき飛行体が、態々2人が行く道の先で滞空していた。
「・・・・・・あれは、機械生命体?」
「此方を攻撃してくる様子はないな」
工場廃墟を出たばかりの時の、廃墟都市で遭遇した一部の機械生命体と同じだ、と思ったゼロ。2人は警戒を解かないままその機械生命体へと近付いていく。
近付くと、飛行型の機械生命体は2人を認識したのか、点滅する目を2人に向ける。そして――ノイズ混じりの音声を発し始めた。
「始メマシテ。レジスタンスノ人達デスネ。私ハアナタタチガ来ルノヲマッテタ、村の者デス」
「うそッ!?」
ノイズ混じりの音声とはいえ、機械生命体がここまで流暢に言葉を話したという事実に、11Bは驚愕の声をつい上げてしまう。無理もない。今までの自分の常識が、ここに来て一気に吹き飛んでしまったのだから。
隣で11Bが驚愕で固まっている一方で、冷静なままのゼロはそのまま目の前の機械生命体に問うた。
「・・・・・・オレ達は、アネモネにこの高粘度オイルを渡すように頼まれてここに来た。お前たちの村にいるパスカルという機械生命体に会うことはできるか?」
「大丈夫。パスカル、アナタ達ノコト、待ッテル。私達ノ村ニ案内スル。着イテ来イ」
ゼロたちにそう言うと、機械生命体は2人に背を向け、森の奥へと進んでいく。その背を追うようにゼロが前を行くと、正気を取り戻した11Bもまた彼らに続いた。
途中、11Bが自分たちの前を先行する機械生命体に疑問を投げかけた。
「ねえ。貴方の村の機械生命体たちって、みんな貴方のように言葉を話せるの?」
「勿論、ミンナ話セル。ケド、パスカルハモット綺麗二話セル。貴女クライニ」
「そうなんだ・・・・・・」
最初こそ機械生命体たちの根城に入り込むことに抵抗感を覚えていた11Bだったが、道案内をしてくれている機械生命体の説明を聞き、彼女もレジスタンスキャンプの間で時々名前が出るパスカルという機械生命体に会ってみたいと思うようになった。
そして、案内の元、2人はようやく目的の村にたどり着いた。
その壮観な光景に、11Bは再度驚愕に回路がショートしかけた。
廃墟都市のような巨大な建物が建ち並んでいるわけでもない。そのような人工物の塊とはほど遠い。
村の中心にある巨木を生かし、それを中心に足場を増設して階層構造を形作り、その上に更に木製の住居を建て、その村の中を、機械生命体たちがあたかも人類と相違ない文化を持って暮らしていたのだ。
「これが、お前達の村か・・・・・・」
「ソウ、ヨウコソ私達ノ村ヘ。パスカルハアノ木ノ二階ニイマス。デハ、私ハコレデ」
村の案内をしてくれた機械生命体はそう言ってゼロたちの元を去って行く。
「おい、行くぞ」
「・・・・・・ハッ! あぁ、あ、ゼ、ロ・・・・・・?」
ゼロに声をかけられ、ようやく意識が現実に戻った11Bだったが、それでもまだ戸惑いを隠せず固まるばかりであった。
そんな11Bの様子にゼロは目を瞑って呆れつつ、先を急ぐよう促す。
「・・・・・・呆けるのは勝手だが、任務中なのを忘れるな」
「ご、ごめんなさい!! そうよね、早くこのオイルをパスカルとやらに届けなきゃ!!」
ゼロに叱咤され、それでも戸惑いを隠せない11Bは自分にそう言い聞かすように言いながら、ゼロと一緒にパスカルのいる二階の層へと向かう。
梯子を駆使して二階へたどり着いた2人は、そこで待っていたこれまでの機械生命体とは異なる形態の機械生命体だった。
「・・・・・・おや、貴方がたは。其方のヒトはアンドロイドのようですが、赤い方の貴方は一体・・・・・・?」
優しい声でそう問いかけてくる機械生命体。
これまで見てきた機械生命体によく見られた縦横軸共に円形だった丸いボディではなく、円柱状のパーツに取って付けるように取り付けられたむき出しのアイパーツが特徴な頭部ユニット、その頭部の位置も他の機械生命体のように胴体に半ば埋まっているような形ではなく、ちゃんとした首の関節ユニットが見えることから、その可動域は他の個体よりも幾分か広そうである。胴体の中心に見える指針式のメーターは、大凡宇宙人が作ったとは思えない程に原始的だ。
何もかもが他の機械生命体と異なる特徴を持つこの機械生命体を見たゼロは、この個体こそがパスカルと呼ばれるこの村の長だろうと直感的に確信した。
「・・・・・・あんたがパスカルであっているか?」
「ハァ・・・・・・確かに私がパスカルですが」
「オレたちはアネモネの頼みであんたにこれを渡しにやってきた。アネモネからオレ達のことを聞いていないのか・・・・・・?」
「ああッ、貴方たちが!! ということは、其方のアンドロイドがヨルハの11Bさんで、赤い貴方がゼロさん!!」
腕を開き、翠色のアイカラーを点滅させて驚きと喜びを表現してくるパスカル。案内役の機械生命体が言っていた通り、彼(彼女?)は仕草は愚か、機械音声らしさこそ残るものの、そこから発せられる言葉すらアンドロイドと遜色なかったのだ。危うく、本日3度目の回路ショートを起こしかける11Bだったが、今回は何とか耐えた。
「いやぁ、アネモネさんから貴方たちのお話は伺っています。是非一度、貴方たちにお会いしたいと思っていました」
「・・・・・・どうして私達に?」
パスカルが自分たちに会いたがる理由が分からなかった11Bは、パスカルに聞き返す。
「11Bさん、貴女はヨルハでの戦いに嫌気が差し、部隊を抜け出したと伺っています。私達も、似たような理由でこの村を建てたんです。この村は、そんな平和主義者たちが建てた場所ですから・・・・・・」
「貴方たち、機械生命体が? 私達アンドロイドを破壊するために作られた貴方たちが、その戦いを嫌うっていうの?」
「・・・・・・はい。確かに、貴方たちにとって私達機械生命体は敵です。ですが、貴女のように戦いから逃げてきた機械生命体たちも確かにいます。私は、私達と貴女は似た者同士だと思い、こうして話がしたかったんです」
「・・・・・・私と、貴方が、似た者同士?」
パスカルの言葉を反復する11B。機械生命体たちと戦うため生まれた身としては、例え部隊を抜け出した現在であっても、そのような言葉は11Bには俄に受け入れ難かった。
11Bの中で、いや、ヨルハの中で、機械生命体にはそもそもそのような心がないというのが常識だったのだ。
それなのに、急にこんな流暢に話す機械生命体が現れて、さらには戦いが嫌いなんて、そんな都合のいいこと、あるわけ・・・・・・。
――それとも、これもまた、私が求めていた“真実”なの?
「・・・・・・申し訳ありません。“似た者同士”は、少し不快でしたでしょうか? ですが、私は貴女のその行動を、祝福したいと思います。全ての機械生命体とアンドロイドたちが争わない、そんな日が来ればいいと」
「・・・・・・なぜ、あんたはそこまでして戦いを嫌う?」
やりきれない表情で黙ってしまった11Bを傍に、今度はゼロがパスカルに質問する。まだ今の世界について詳しくないゼロは、パスカルの話しに11Bほどの衝撃は受けていない。
むしろ、パスカルから感じる雰囲気は、どこか
「・・・・・・私達は何百年も生き続け、何度も何度も、仲間を失いました。けれど、私が一番怖かったのは、仲間を失うことではありません」
ゼロの疑問に答え始めるパスカル。
どこか、どこかの、何者かと重なる気が――
「仲間が死んでしまうことに、慣れてしまうことが怖かったんです」
――――本当に悲しいのは・・・・・・何も感じなくなっていく自分自身なんだ・・・・・・。
「――・・・・・・エッ・・・・・・クス・・・・・・?」
「――ですから、私はもう戦いません――あれ、どうかしましたか?」
ゼロが此方の話しを聞いている様子がないことに気付いたパスカルは、ゼロに声をかけるが、ゼロは反応しない。
時々脳裏をかすめる、何者かの影。霞がかったソレは霞のまま、またゼロの脳裏から消えゆく。必死に思い起こそうとするゼロに、パスカルの言葉は届かなかった。
「・・・・・・ゼロ? ゼロ!!」
「ッ!?」
ゼロの異変に気付いた11Bが耳元へ呼びかけることで、ようやく現に意識が戻るゼロ。
「ゼロ、大丈夫!? 一瞬、なんか上の空だったけれど・・・・・・」
「・・・・・・問題ない」
ゼロの身を案じながら、身を乗り出して顔を覗き込んでくる11Bを優しく退かし、ゼロはパスカルへと向き直った。
「済まない。話を遮った・・・・・・」
「・・・・・・いえ、私達の言葉を簡単に信じられないのは、分かりますから。ですが、貴方たちさえよろしければ、これからもこの村に遊びに来て下さい。ゼロさん、アンドロイドでもなく機械生命体でもない、正真正銘、人類に造られた貴方とも、もっとお話してみたいですから・・・・・・」
「・・・・・・」
「貴方が記憶を喪失していることも存じております。ですから、思い出した時で構いません。貴方の記憶の中にある人間たちのことを、少しでも知りたいのです。・・・・・・駄目でしょうか?」
「・・・・・・別に構わない」
「いいのゼロ? この
「・・・・・・アネモネが信用しているのなら、オレ達がとやかく言うことはないだろう」
いざ此方を攻撃してくるのならば、その時は叩き斬るだけだ。
だが、彼らは攻撃をしてこないし。レジスタンスの長であるアネモネが彼らを信用しているというのならば、自分と11Bがとやかく言うのは筋違いだろう。
「・・・・・・受け取れ。アネモネから頼まれていたものだ」
「おぉ! 高粘度オイルを持ってきてくれたんですね! アネモネさんは優しくて理解のある方で助かります。全てのアンドロイドと機械生命体が、こうやって平和に暮らしていけたらいいんですけれど・・・・・・」
パスカルの言葉に、ゼロと11Bは黙るしかない。
争うことなく平和に暮らしていけるのならば、争いなんてない方がいいのは、事実だからだ。機械生命体にも自分と似たような葛藤を持っていると知った11Bは、さりとて機械生命体であるパスカルの言葉を受け入れることも、否定することもできなかった。
「そうだ。アネモネさんにこれを届けてはくれないでしょうか?」
思い出したように、パスカルは懐からあるモノを取り出し、それをゼロに手渡した。
手渡されたのは、『燃料用濾過フィルター』だ。
「オイルを頂いたお礼です。是非これからもよろしくお願いしますと、アネモネさんに伝えてくれないでしょうか?」
「・・・・・・判った。行くぞ、11B」
「・・・・・・うん」
フィルターを懐にしまったゼロは11Bに声をかけ、この森を出ようとする。
・・・・・・そして、去って行く直前、ゼロはパスカルに背を向けた状態で一時立ち止まった。
「・・・・・・ゼロさん?」
その様子を訝しんだパスカルが首を傾げる。それに対し、ゼロは背を向けたまま語り始めた。
「・・・・・・お前の理想が、いつか叶う時が来るのを待っている」
「ッ、はい!! アンドロイドと機械生命体だけではありません。その時は、ゼロさんも一緒ですよ!!」
「・・・・・・いいや」
ゼロに己の考えを肯定されたことが嬉しかったのか、パスカルは嬉しそうに声を上げながらそう言うが、ゼロはパスカルに聞こえないように返す。
――血塗られた、自分の手。
――その手に抱かれる、息絶えた赤い少女。
――オレは・・・・・・。
――オレは、そこにいなくていい・・・・・・。
心の中で、そう言葉を続けたゼロは、今度こそ11Bと共にこの森から去って行くのだった。
◇
暗闇の中、暗黒に染まった己自身が、嗤いながら、告げてくる。
――なに、いずれ思い出すさ。
――己が“何者”かを。
――例え“偽物”に成り果てようと、貴様の運命は変わらないのだから。
己とは思えない顔で、嗤うその顔を、ゼロは脳裏で握りつぶした。
・Diveでオメガの剣が実装されたと聞き、即座に石を集めて引いて、オメガに持たせてみました。
・・・・・・うん、正直あまり似合わない。
やはりプレイヤーサイズにまで縮んだ第一形態の実装を待つしかないのか・・・・・・。
・パスカルの台詞。
「段々と慣れていく自分が恐ろしかった」という下りの台詞は、この小説を書く切っ掛けとなった内の一つです。ロクゼロプレイヤーであれば絶対エックスを連想した筈・・・・・・。
・その他
リンカネのノエルはオレの嫁!(異論は認める)
内定取れた。やったぜ