NieR:ZERO   作:ナスの森

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機械ノ心

 私達がずっと敵対してきた機械生命体たちにも、心はあった。その事実を私は未だに受け入れられずにいる。私は曲がりなりにもヨルハ部隊という、人類軍の持つ決戦兵器のアンドロイド部隊に所属していた身だ。そんな私が彼らに平和を愛する心が芽生えたという事実を、受け入れられずにいた。

 いや、それとも・・・・・・これもまた、私がヨルハにいた頃では知ることのできなかった、“真実”の、一つなのか?

 

「・・・・・・」

 

 浮かない顔をしながら隣を歩く私に対し、ゼロは何も言うことなく進み続ける。

 ゼロは、あのパスカルという機械生命体を見て、どう思ったのだろう?

 ふとそう疑問に思った私は、ゼロならば何か答えを持っているのではないかという、そんな図々しい期待を込めて聞いてみるのだった。

 

「ねえ、ゼロ。機械生命体には、本当に心があるのかな?」

「・・・・・・」

 

 返事こそはしなかったものの、ゼロは無言で此方に振り向いてくる。此方の話しをちゃんと聞いてくれるようだと捉えた私は、言葉を続けた。

 

「ヨルハ部隊では、機械には心なんてないって・・・・・・ずっと言われ続けてきた。それは、勿論私達ヨルハタイプのアンドロイドへの戒めの意味もあったんだと思うの」

「・・・・・・それで?」

「ふと、思ったんだ。本当に機械に心がないのなら、私にも心はあるのかって・・・・・・。私達は、人間のように小さい細胞から生まれてきた訳じゃない。所詮は造られた存在だというのなら、私のこの心も、積み上げてきた選択も、意思も、全部作り物なんじゃないかって・・・・・・」

 

 彼らに心があった、その事実は受け入れられない。だが・・・・・・もし受け入れられなかったら、私はヨルハを抜け出してから今日これまでの自分すらも、否定しているような気がしてならないのだ。ゼロとの出会い、アネモネとの出会い、双子との出会い・・・・・・それら全てを、否定することは、絶対にしたくないのだ。だが、一方で彼らのことも認められずにいる。

 本当に機械に心がないのなら、今までの私は一体、何なのだろうか?

 

 ふとゼロの方を見やると、彼は表情を変えないまでも、何かを思案するように俯いていた。ゼロなりに私の疑問を真剣に考えていてくれることに嬉しく思いつつも・・・・・・その心すらも、誰かから仕組まれたものなんじゃないかって、そう勘ぐってしまう。

 全ては、彼らのことを受け入れてしまえば済むことなのに、私の心は、未だにヨルハに囚われたままだった。

 

「・・・・・・オレもお前も、あいつらも、所詮は“そうあれ”と造られた存在だ。誰も、その運命から逃れることは難しいだろう」

「・・・・・・ッ」

 

 ゼロの発言に、ビクリと堪えてしまう私。

 思えばそうだ。私達は機械生命体に対抗するために造られた決戦兵器。ゼロも、おそらくは何かに対抗するために造られた魔法兵器の筈なのだ。

 人間は自分を生む親までは選べなかったと聞いているが、私達はそこから先の生き方も誰かに縛られている。なぜなら、“そうあれ”と願われて生まれたから。

 

「だが――例え運命から逃れられなかったとしても、その運命に抗うことはできる筈だ。お前がヨルハを抜け出し、オレを目覚めさせ、九死に一生を得たようにな」

「あっ・・・・・・」

「それができたのは、お前に、“そうあれ”と願われた運命に抗う“心”があったからじゃないのか?」

「・・・・・・」

 

 ゼロの言葉に、言い淀む私。

 

「オレからも、お前に一つ聞きたいことある」

 

 答えを出すことができない私に、今度はゼロからそんな言葉が返ってきた。

 顔を上げ、私はゼロの質問を待つ。

 

「お前は、今の現状に満足しているのか?」

「・・・・・・どういうこと?」

「一見、お前はオレと共にレジスタンスに保護され、ヨルハからの処分を逃れた。安全が保証されたように見えるが・・・・・・依然としてお前の立場は変わっていない」

 

 ――お前が、工場廃墟でオレに説明してくれたお前自身の立場とな。

 そう付け加え、ゼロは私の瞳を真っ直ぐ見据える。

 ようやく、私がゼロが言わんとしていることを理解した。

 

 確かに、ゼロの言う通りだ。

 

 私がヨルハを抜け出した理由は、生きる理由と、それに足る真実が欲しいからだった。その理由は既に得ている私だが、ゼロからすれば私は何も変わっていないように見えるだろう。

 私が生きる理由を求めたのは、既に、「人類は滅びている」という絶望を知って、それを仲間に伝えることもできずに戦い続けることに、意味を感じなくなってしまったからだ。伝えれば仲間達の命が危ないが、それをせずに戦い続けた所で、意味なんてまったく感じられなかった。

 そのジレンマの日々が、私のヨルハアンドロイドとしての精神を蝕んでいった。

 

 ヨルハから逃れた今、そのジレンマから解放されたように一見感じるかもしれないが、それでも、()()()()()()()()()()()()()()()()()、人類が既にいないという真実を知らないのだ。私はまだ、ヨルハにいた時と同様にそのジレンマに悩まされるかもしれない環境にいるのではないかと、ゼロは私を心配してくれたのだ。

 

 ゼロの言わんとしていることを理解し、私は自分で何故と考える。

 ゼロのために生きる・・・・・・それは確かに私が生きると決意した理由だが、それはそれとして環境は以前と変わらないのではないか?

 

「・・・・・・それは、違うよ」

 

 確かに、彼らに真実を隠していることは心苦しい。伝えれば彼らの命が危ないというのもある。

 だが彼らはそれ以上に、ヨルハとは、決定的に違う部分がある。

 ――人類に栄光あれ。

 そう胸に刻み続けながら戦い続けるヨルハとは、違う。

 

「私達を助けてくれたから、だけじゃない。あの人達はちゃんと、人類のためだけじゃなく、ちゃんと自分たちの明日のために、戦っているんだ。そんなあの人達を守るために戦うことには、ちゃんと意味があると思う」

「・・・・・・そうだな」

 

 私の答えに納得してくれたのか、ゼロもまた悟ったように目を閉じて同意してくれた。心なしかホッとしているような様子から、本当に私を心配してくれていたようだ。

 その事に嬉しい、と私は感じた。・・・・・・うん、この心だけは、作り物であってほしくないな。

 真実かどうか、ではない。この心だけは、私が真実にしなければならないのだと強く思う。真実とは見つけるではなく、きっと、これから私達自身で作っていくものでもあるのかもしれない。

 なら、これまでだって、私のこの心はきっと――

 

「なら何が正しいかなんて、きっと誰にも分からない。だから時に、抗い、『悩む』。・・・・・・少なくとも、オレとお前が出会ってきたのは、そういう連中だった筈だ」

「そうだよね。レジスタンスの人達も、あの村のロボットたちも、きっと・・・・・・」

 

 共に、必死に生きてきた双子。仲間を死地に向かせているのではないかと悩む武器屋の男。今も己は己なのかと悩む道具屋の男・・・・・・そんな彼らを統括する、レジスタンスリーダー。そして、今回出会った平和主義者の機械生命体たち。

 運命から外れようと悩み、抗う――それは、ただの機械ではない。それができるのならば、私にも、あの村の機械生命体たちも、心があるという証明に他ならないではないか。

 

 答えが出た瞬間、私の胸に、気まずい、という鼓動が回路を揺らし続ける。

 その理由を、私はとっくに知っている。

 

「・・・・・・パスカルに、謝らなきゃ」

 

 キャンプで渡された端末を取り出し、私はパスカルの周波数を入力し、村に通信を送る。出てきたのは、当然だが円柱状の頭部に取って付けたようなアイパーツが特徴的な機械生命体がホログラム映像に映し出された。

 

『おやおや11Bさん、先ほどぶりですねぇ。何か私にご用でしょうか?』

「パスカル。私、貴方に謝らなきゃいけないことがある。その・・・・・・さっきは、貴方達に心がないような事を言って、ごめん・・・・・・」

『・・・・・・11Bさん?』

「貴方に似た者同士だって言われた時、最初はどうしても受け入れることができなかった。だけど、決められた運命(プログラム)に抗おうとした私達は、きっと似ているんだと思う」

 

 ヨルハでの戦いを嫌い、ヨルハから抜け出した私。

 アンドロイド達との戦いを嫌い、村を作ったパスカル。

 決められたプログラムに反した行動を取っている私達は、非合理的だけど、そこには確かに、そうさせる“心”があったんだ。

 だから、その心の続く限りに・・・・・・。

 

「私達も頑張るから。だからパスカルも、パスカルたちの戦いを続けて欲しい。貴方たちの心が続く限り、抗って欲しい」

 

 既に、私は真実も、生きる理由も得ていた。

 ・・・・・・ただ、その先の答えを得ていないだけなのだ。その答えが分からないからこそ、私達は生きているんだ。

 だから、私はあの村の機械生命体たちにも、生き続けて欲しいと願った。

 

『・・・・・・11Bさん。2人とも、ありがとうございます』

 

 理解者を二人も得ることもできたのか、パスカルは嬉しそうに私とゼロに礼を言う。

 私も自分の思いがパスカルに伝わったことに嬉しく思っていると、今度はパスカルから別の話を切り出してきた。

 

『そういえば、お二方は最近続いているアンドロイドの失踪事件についてはご存じですか?』

 

 一瞬、私は何のことかとゼロと顔を見合わせる。

 そういえば、2Bと9Sが派遣されたのは、元々現地にいた調査担当のヨルハ隊員が行方不明になったのが発端だっけ。

 ゼロも心当たりがあるのか、彼が静かに頷くのを確認した私はパスカルの方へ向き直る。

 

「ええ。レジスタンスキャンプでも同じような話しを聞いたことがあるけれど、それがどうかしたの?」

『・・・・・・実は、私達機械生命体側にも、同様の被害が出ているのです。私達の村にいる子供たちも、何人かが既に・・・・・・』

「何ですって?」

 

 アンドロイドだけではなく、パスカルたちの方にも被害が出ている?

 それってつまり、敵味方関係なく無差別に襲いかかっているってことか。一体どんな理由で?

 

『どうやら、暴走した機械生命体の仕業らしいのですが、私達は既に武器を放棄した身ですので、自分たちから追い払うことはできないのです』

「その機械生命体の破壊を、オレ達にしてほしいと?」

『・・・・・・はい。濾過フィルターを運んでいる途中で申し訳ないとは思っているのですが、先ほどもう一つ情報が入りました。どうも黒い制服を着た二人のアンドロイドが、その暴走した機械生命体のいる場所に向かったとのことです』

「黒い制服ってことはヨルハ・・・・・・2Bと9Sがその機械生命体の所へ向かったってこと!? ・・・・・・ゼロ」

「分かっている」

 

 犯人がどんな機械生命体なのかは分からないけれど。手段はどうあれ、ソイツはきっと何人もののアンドロイドや機械生命体たちを攫っていると言う事になる。そんな奴の所に向かったとなれば、あの二人が危ない!

 

「パスカル! 二人が向かっていった位置の座標は分かる!?」

『今、其方の端末に座標を送信しました。・・・・・・お願いできますでしょうか?』

「必ずやっつけるから、いい返事を待ってて!」

 

 パスカルとの通信を切り、ゼロと一緒に遊園地廃墟の施設を目指す。

 途中、念のためアネモネに一報入れようと思い、端末からアネモネの周波数へ繋げる。彼女のホログラムが映り込むと、私は間髪入れずに状況を報告する。

 

「アネモネ、こちら11B!! パスカルからの情報により例の行方不明事件の犯人と思われる機械生命体の居場所が判明しました。同地点には調査担当の2Bと9Sも向かった模様。二人の救援に向かう許可をお願いします!」

『パスカルと接触したのか。了解だ二人とも。くれぐれもパスカルから貰った濾過フィルターは壊さないでくれよ?』

「了解した。任務を開始する」

 

 そう返したゼロの返事を区切りに、通信を切る。

 一度は、あの二人を見捨てて生き残ってしまった私。けど、一度裏切った私をあの二人は受け入れてくれた。だから、今度こそは助けなくちゃ・・・・・・!!

 

 

     ◇

 

 

 ――悩み、抗う・・・・・・か。

 遊園地廃墟を目指して11Bと並走するゼロは、先の発言を振り返る。

 ゼロは、未だに己のことが分からない。

 己が何者なのか、なぜあの工場廃墟で眠っていたのか、己は何を目指して戦っていたのか。その全てがまるで霞掛かったように思い出せなかった。

 だが・・・・・・時々脳裏をかすめるように、何者かの影が過ぎるのだ。

 

 ――血濡れた己の腕の中で息絶えた、赤い少女。

 ――悩み、迷い、それでも戦い続けた、青い影。

 

 それが誰だったのかは、皆目思い出せない。

 己は、もしかしたらここにいるべきではないのかもしれない。

 それでも、己のやることは変わらない。

 

『人類は、もういないの・・・・・・』

 

 この世界で目覚めてから、さっそく知ってしまった衝撃の真実。

 目覚めたばかりで、言われた時こそ自覚はなかったが――思ったよりも、己はショックを受けていたのだろう。11Bと同じように、戦いに意味を見いだすことすらなかったかもしれない。

 

 それでも、助けを求めた少女の涙を見た、死に際でしか助けを求められず散っていった少女の慟哭を聞いた。そしてこの世界で、切り捨てられ、嘆きながらも必死に生きようとする者達と出会った。

 

 人類は既にいなくなっても、それでも滅んで尚、自分たちに続く者を彼らは既に残しているのだ。こんな世界でも、必死に生きようとする、人類に続く者たちが存在するのだ。

 己の横を走り出す少女もそうだ。

 ヨルハの殻を破り、決心と覚悟を決めてこの地上に生ける一個の生物として降り立った彼女は今、同じように生きようとする者達との出会いを経て、己自身の殻も破ろうとしている。

 

 ――なら、オレは悩まない。

 

 例え、己が何者だったとしても、この少女は必ず守ってみせると、既にゼロは誓っているのだから。

 

 

     ◇

 

 

 崩れ落ちた天井の瓦礫が散乱する、赤一色の劇場。

 その劇場にて二人のアンドロイドと一体の機械生命体による舞踏――もとい、死闘が繰り広げられていた。

 その機械生命体は、ヨルハの記録媒体には一切なかった形状の個体だった。

 人類の記録にある、西洋の騎士を思わせるメットとバイザーで構成された頭部、そのメットの後頭部から広がるように伸びる赤い布旗は人間やアンドロイドの頭髪を思わせ、その巨体に対しては華奢であろう細い四肢、骨格には肩のアーマーや、下半身全体を覆うアーマースカート。頭部の胸元の中心には本体と思しき機械生命体の頭部が埋め込まれている。

 何より異様なのは、その巨体と、アーマースカートや頭部の頭飾りに飾られたアンドロイドたちの死体。

 もう、間違いなかった――この個体こそが、最近頻発していたアンドロイド失踪事件の犯人であると。

 

「Aaaaaaaaaaaa~♪」

 

 そこから発せられる歌声はまさしく美声と言えるだろうが、彼女自身から発せられているであろう機械音声は、まさしく他の機械生命体の同じようにノイズ混じりで、アンバランスだった。

 よく見れば、彼女が身に纏っているであろう装甲パーツの一つ一つ、記録にある機械生命体たちに見受けられるパーツだと気付いた9Sは、一つの可能性に思い至る。

 ――こいつ、まさかアンドロイドだけじゃなく、仲間の機械生命体までも・・・・・・!!

 機械生命体に対して今更と思いつつも、いよいよ道理の通じない相手だと悟った9Sと2Bはすぐにこの機械生命体の破壊にかかるが、アーマースカートの内側に内蔵された様々な武装、ブレードやレーザー砲台、榴弾状のエネルギー弾などを、スカートの回転を利用した広範囲攻撃は、2Bと9Sをおおいに苦しめることとなった。

 形状から戦闘スタイル、何から何まで今までの機械生命体と異なるのだ。

 

 それでも、伊達に二人は人類軍の決戦兵器たるヨルハを名乗るアンドロイドではない。

 

 この異様な機械生命体の広範囲かつトリッキーな攻撃を躱し、ポッドによる射撃や刀による斬撃で確実にダメージを与えていく。

 だが、戦況はまた一転。異様な機械生命体――歌姫は二人にハッキングによる攻撃を仕掛ける。

 

「ぐッ・・・・・・!?」

 

 突然のハッキング攻撃に、機体内にダメージを負って蹬く2B。

直接戦闘向きのモデルである2Bでは対抗する術を持たず、必然と9Sが逆ハッキングで対抗することになるが、その前に。

 

「ハアアアアアァァァッッ!!」

 

 聞き覚えのある叫び声が、天井から木霊する。

 その叫びと共に、劇場部屋の天井穴から降り立った、ヨルハ製らしきアンドロイドが、その手に持った鋼刀を、落下の勢いのまま歌姫の頭部に突き刺した。

 突然のダメージに歌姫のハッキング攻撃に隙が生じ、2Bの痛みは和らぎ、9Sに至ってはその隙を逃さず逆ハッキングで歌姫にダメージを与える。

 

 隙を生じぬ、物理とハッキングにより二段攻撃を受けた歌姫の巨体はさらに蹌踉めくが、そこにさらに――

 

 

 斬空波

 

 

 翠色のビームサーベルにより放たれる、三日月を思わせる形状のソニックブームが、歌姫の腕を肩部アーマーごと切り落とす。

 

 一方、歌姫の頭部に鋼刀を突き刺したヨルハ製アンドロイド――11Bは突き刺した鋼刀を引き抜いて歌姫の巨体から飛び降り、2Bたちに背を向けながら目前で着地する。

 そして、先ほどソニックブームを放った赤い戦士も同じタイミングで彼女の隣に着地した。

 見覚えのある、銀髪と金髪の後ろ姿に2Bと9Sは思わず驚く。

 

「11B!?」

「ゼロさん!?」

 

 片や、一度は二人を見捨てた者。片や、一度は二人を破壊した者。

 それが今度は、心強い味方として2Bと9Sの前に現れたのだった。

 

「二人とも、大丈夫!?」

 

 二人の方へ振り向きながら、安否を確認する11B。

 二人の目に映る11Bの姿に、ついこの間まで義体を損傷し動けずにいた弱々しい少女の面影はない。今の彼女からは、B型ヨルハタイプにふさわしい勇ましさが感じられた。

 そして――ゼロについては言わずもがな、超大型兵器を単身で撃破した彼が来てくれれば、もう負ける気はしなかった。

 

「・・・・・・大丈夫。貴女と9Sのおかげで、痛みは和らいだ」

「二人とも有り難うございます!! ところで、何故お2人がここに・・・・・・?」

「話しは後だ。・・・・・・奴が、例の失踪事件の犯人か?」

 

 ダメージで姿勢を崩した歌姫を見据えながら、ゼロが2人に問う。

 

「はい。奴の趣味の悪い飾りに・・・・・・それに地下からもレジスタンスの反応が多数見受けられます。間違いなく、犯人はアイツです」

「・・・・・・そうか」

 

 ――ならば、今のうちに止めを刺す。

 そう言って、ゼロがZセイバーを抜いて再び前に踏み出した、その瞬間だった。姿勢を崩していた歌姫が、不規則な駆動音を上げながら、再び体勢を整え始め。

 

 

「私ハ、私ハ・・・・・・美シクナルンダアアアアアアアアAァaaaaァaaaaaaaaッッ!!!」

 

 

 機械音声と透き通るような歌声が混じった歪な音と圧に、ヨルハのアンドロイド3名は思わず耳を塞ぎ込む。

 ゼロも表情こそ変えないものの、不快げに眉を顰めたその時だった。

 

 9Sのセンサーが、地下にあった大量のレジスタンスの反応が此方へ昇ってくるのを捉える。

 

 そして――床から、アンドロイドの死体が括り付けられた鉄骨が、剣山のように次々と床から突き出てくるのが4人の目に入る。

 ゼロたちがいる、この部屋の下層の床だけではない。この部屋を囲む、上階に至るまで続く観客席までも、埋め尽くすように死体が括り付けられた鉄骨が突き出ていた。

 ・・・・・・まるで、劇場の観客に無理矢理招待されてきたかのように。

 

「これは、アンドロイドの死体を再利用してきてる!?」

「いや、司令部から聞いたブラックボックス信号も確認されています!! 生きたまま、兵器に改造されてるんです!!」

「なんて悪趣味なのッ」

 

 9Sの説明を聞いた11Bが吐き気を催すような表情で吐き捨てる。しかも、こんな悪趣味なことをしでかした元凶は、赤い幕で閉じられたステージの上に引きこもっていると来た。既にヨルハのしがらみから解放された11Bは、己の回路の内から沸々と怒りが湧き上がってくるのを感じる。2Bと9Sも生けるままの屍を解放してやらんと、攻撃を放ってくるアンドロイドたちの屍を鉄骨ごと破壊してゆく。

 ゼロもまたセイバーで鉄骨に括り付けられたアンドロイドたちを解放しつつ、観客席から突き出たアンドロイドたちをバスターショットで次々と撃ち抜いていく。

 

 そんな4人の奮闘があってか、瞬く間に捕らえられていたアンドロイドたちは生き地獄から解放されていく。

 それに業を煮やしたのか赤い幕が再び開き、ステージに引きこもっていた歌姫が再び姿を現す。

 

 ――だが、既にその時点で勝敗は決していた。

 

「ゼロさん!! 敵のハッキングパターンの解析が進みました。僕が逆ハッキングを仕掛けますので、ゼロさんはその隙に止めを刺して下さい!! 2Bと11Bは援護をお願いします!!」

「・・・・・・分かった」

「「了解!!」」

 

 歌姫の敗因は、彼に、9Sに時間を与えすぎたことだろう。

 9Sと2Bの2人を葬るだけならば、兵器に作り替えたアンドロイドたちと一緒に、自らもステージから降りて叩き潰せばいいだけの話。

 

 尤も、それはもしもの話し。今はこの2人に加え、決戦兵器たるヨルハがもう1人と、超大型兵器ですら歯が立たない兵器がいるのだから。

 どうなろうと、彼女の運命は変わらない。

 

 ――自分のしてきたことは、必ず自分に返ってくるのだから。

 

 11Bと2Bが攻撃を捌き、9Sが逆ハッキングで歌姫を弱らせていく。

 繰り返す内部爆発。

 

「アァッ、痛い、いたい、イタいッ!!」

 

 機械音声で悲鳴を繰り返す歌姫。

 否――最早歌う暇すら与えられない彼女は、既に歌姫ですらなかった。

 

「タスケテ、イタい、助けて!!」

 

 このままじゃいけないと思ったのか、ついに彼女は、歌姫としての、最低限の美すらも失った。スカートの内側から醜い巨足を4本を出現させ、さらにスカートの下から捕食するために取り付けたと思しき、もう一つの頭部が出現し、腹を空かせているかのような駆動音を鳴らし、口を開ける。

 

「ダレか、タスケテ・・・・・・!! 私ハ、モット、美シク、ナラナキャ・・・・・・」

 

 行動と明らかに一致しない命乞いの台詞を吐きながら、その巨足と捕食形態の頭部を持って2Bたちに飛びかかろうとする歌姫だったが――それも束の間、スカートの下から首を伸ばした捕食形態の頭部に、上から降ってきた翠刃の槍が突き刺さってきた。

 

「雑魚の癖に命乞いの台詞は一人前だな」

 

 捕食形態の頭部を突き刺した槍――トリプルロッドをホッピングさせ、再び跳び上がったゼロが、その穂先を再び目下の歌姫に向ける。

 長柄の先から発生する翠刃の向く先は――その首元に埋まっている、歌姫本体の頭部。

 

「――耳障りだ」

 

 そして、金の髪を靡かせる赤い戦士は容赦なく、トリプルロッドの柄を伸ばし、その勢いのまま、歌姫の体を本体の頭部ごと貫く。

 

 ――彼女の歌は、そこで途切れた。

 

 

     ◇

 

 

 爆散し、粉々の残骸となって散っていく異形の機械生命体。

 敵の破壊を確認した4人は各々武器をしまい込んだ。

 

「そうだ、アンドロイドたちを助けないと・・・・・・!!」

 

 そう言った2Bが括り付けられているアンドロイドの1人に歩み寄るが、既に息はなかった。

 

「・・・・・・駄目です。回路が全て焼き切れています。敵のシステムによって、かろうじて生き延びていただけみたいですね・・・・・・」

「・・・・・・そう」

 

 解析した9Sの説明を聞き、悲しそうにそう返す2B。

 彼らがもう助からないことを悟った2人は、今度は助けに来てくれた自分たちの恩人の方へ向き直る。

 

「ありがとう、11B、ゼロ。貴方達が来てくれたおかげで、助かった・・・・・・」

「どういたしまして。・・・・・・この人達のことは、残念だけどね」

 

 2Bに礼を言われた11Bは照れくさそうに笑いつつ、悲しそうに目を細める。

 

「私の方こそ、約束を破ってごめん。途中で貴方達以外のブラックボックス反応があったから・・・・・・本当は行くべきじゃないのは、分かってたんだけど」

「それでも、僕たちのために来てくれたのは嬉しかったですよ」

 

 11Bの謝罪の理由を悟った9Sは、少し複雑な表情をしつつ彼女を擁護する。

 皮肉なことに、自分たち二人以外のヨルハと接触するなという約束は、一緒に誘拐されていたヨルハ隊員が死んでいたことにより守られたのだ。

 例えそうでなかったとしても、助けられた以上2Bと9Sが11Bに感謝こそすれ、責める理由はないのだが。2Bにとってはそんな約束よりも彼女が自分たちのためにかけつけてくれたことの方が、嬉しいようだった。

 

 そんな三人を尻目に、ゼロは歌姫が爆散した跡に歩み寄る。

 そこにあったのは――歌姫のコアの破片らしき結晶。ゼロはその結晶をZナックルでつかみ取り、解析する。あの歌姫自体にさらさら興味はないが、少しでも情報をレジスタンスに持ち帰れば、何かの役に立つだろうと思ってのことだった。

 

 ――そして、頭の中に流れてくる、記憶の断片。

 

 ただ一人の、片思いを寄せる男のためだけに、その男に見て貰いたいがために、自分勝手に、アンドロイドや仲間の機械生命体すらも喰い、着飾り、独りよがりな「己の美」を追求し続けた愚か者。

 

 ――くだらない。

 

 心の中でそう吐き捨てたゼロは三人の元へ戻るのだった。

 

 

     ◇

 

 

 誘拐されたアンドロイドたちの弔いを終えた四人は、劇場部屋から出る。屋外へと続くエントランスの階段を降り始めた段階で、9Sが2Bに己の疑問を口にし始めた。

 

「・・・・・・ねえ、2B」

「なに?」

「あの機械生命体、なんだか不思議なことを言っていました。まるで、感情が――」

「機械生命体に意識なんてない。そう言ったのは貴方よ、9S」

 

 9Sの台詞に遮るようにそう言い切る2B。

 パスカルたちのことを知っている11Bはその発言に異を唱えそうになったが、直前で押し留まった。

 ――まだ、この二人にはパスカルたちは刺激が強すぎる。

 自分は傍にゼロがいたから早めに納得を得たものの、二人は現時点でもヨルハに所属するアンドロイドなのだ。

 そう己に言い聞かせた11B。その一方で、9Sはまだ己の中の凝りが解消しないのか、今度は質問の矛先をゼロへと変える。

 

「その・・・・・・ゼロさんはどう思いましたか? あの機械生命体、まるで感情があるかのような言動でした。美しくなりたいとか、そんな言葉を言って――」

 

 煮え切らない様子の9Sを見たゼロは、そういえばこの少年は解析に長けたモデルであったことを思い出す。

 ――という事は、オレと同じように見たのか?

 9Sの抱く疑問に理解を示しつつも、ゼロはあえて突き放すように答えた。

 

「・・・・・・それを知った所で、お前はどうする?」

「・・・・・・え? どうするって・・・・・・」

「どんな理由があれ、奴はアンドロイドは疎か、仲間の機械生命体たちすら食い物にしていたんだぞ。そんな奴の感情を、お前は理解したいとでも言うのか?」

 

 聞き返すゼロ。

 

「ッ!?」

「ゼロさん、まさかっ!?」

 

 自分がハッキングを通してあの機械生命体の記憶の一部を見たように、ゼロもまた同じようなものを見たのだと理解した9Sは驚いて立ち止まる。2Bもゼロが機械生命体に感情があること自体は否定しないことに驚いたのか、同様に立ち止まり、ゼロの方を見る。

 

「・・・・・・ゼロ?」

 

 11Bもまた、ゼロがいつもと違う様子なのを感じたのか、ゼロの方へ振り返った。

 

「1人よがりの理由で他者を巻き込み、食い物にする。そんな奴に“心”などない。そうなればソイツは――ただの“イレギュラー”だ」

 

 そう言って、ゼロは3人から背を向けてエントランス階段を降りてゆく。

 そんなゼロの背中を見て――3人の黒いアンドロイドはようやく悟るのだった。

 あの機械生命体に対する怒りは、勿論ある。同じ機械生命体すらも食い物にしていたことに関しては言うまでも無く度しがたい。

 そして、多くの同胞が散ってしまったという悲しみも、3人は同様に抱いている。

 

 だが、彼の言っていた“イレギュラー”という言葉――その言葉にどれだけの怒りが込められていたのか、推し量ることはできない。

 

 あの研ぎ澄ました表情の中に、どれだけの怒りが渦巻いているのか。3人はその恐怖を感じ、回路の震えが暫く止らなかった。

 

 自分たちの中で、あの機械生命体に対して誰よりも怒りを抱いていたのは、他ならぬゼロであることを3人は悟るのだった。

 

 

     ◇

 

 

YOU LEARNED SONG DESTRUCTION

 




ノエルたんの真暗コス解放を目指して周回する日々・・・・・・いつになったら、ゴールできるの?
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