NieR:ZERO   作:ナスの森

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お久しぶりー。
期間ギリギリでママコイン交換して入手した10連チケットに最後の希望をかけたら、なんとか2Pが来てくれたので投稿するゾ。

今回はポーヴォワールのこと割とひどく叩いているので、彼女のファンがいたら申し訳ない・・・・・・。けどゼロ的には彼女は弁解の余地なしのイレギュラーだと思うの・・・・・・


疑念、信頼、ソシテ罪

 9Sの疑問から始まり、ゼロの振りまく静かな怒気によって気まずくなった一同。かまわずエントランス階段を下っていくゼロの背中を見る3人。

 

「じゃ、じゃあ・・・・・・私達はキャンプに帰るね。あまりヨルハと接触するのは拙いし」

「・・・・・・分かった。助けてくれてありがとう、11B」

「ありがとう、ございます・・・・・・」

 

 後ろに手を組みながらクルっと2人に振り返り、気まずそうに笑いながらもそう言った11Bもまた駆け足でゼロの後を付いていくように下りていく。

 屋外の花火の音が絶え間なく聞こえる中、静寂なエントランス広間に残されたのは、2Bと9Sのいつものコンビだった。

 その静寂な空間の中で、両名とも互いに対して話題を切り出せないでいた。未だに、ゼロのあの凍てつくような怒気が頭から離れず、2人の回路もまた恐怖で凍り付いたままだったのだから。

 ・・・・・・例えその怒りが、彼の正義感から来るものだと分かっていても。

 なんとか先に切り出したのは、2Bの方だった。

 

「・・・・・・例え、機械生命体に感情があったとしても、仲間も手にかけるような外道に情けをかける必要はない。ゼロはそう言いたかったんだと思う」

「・・・・・・そう、ですよね。敵であることに、変わりは無い」

 

 けれど、もし、他の機械生命体にもそのような感情があったとして、もしその機械生命体がゼロや2Bが言うような外道(イレギュラー)でなかったとしたら。

 例えば、今この遊園地で2Bと9Sに敵意を見せず、祭りを開いている機械生命体たちはどうなる?

 もしいつか人類とアンドロイドがこの地球を取り戻したとき、彼らも同じように処分しなければならないのか?

 

「・・・・・・私達も行こう、9S」

 

 思考の沼に嵌まる9Sの意識。葛藤と、それの根源たるS型ならではの強い好奇心が形成する沼――その沼から9Sを引き上げたのは、そんな2Bの声だった。

 だが、むべなるかな。

 そんな2Bの努力も空しく、この施設を出た先に待つパスカル村の機械生命体によって、彼の好奇心は更に加速してしまうのだった。

 

 

 

 忙しない心持ちとはこの事か、と11Bは痛感する。せっかく彼らに降下作戦の時の借りを返せたというのに、穏やかな心境は抱けなかった。

 怒り、という感情を抱いた経験は、確かに11Bにはある。だが、それは人類への賞なき愛から来る怒りと、仲間を殺された怒りの2パターンしかない。前者はあやふやというか抽象的で、普段からあって当たり前な類いの怒りで、後者にしても死んだ仲間は新しい義体で帰ってくることが多かったから、自身の中で煮えたぎる程激しいものではない。

 故に――本当の“怒り”というものを、11Bは体験するのは今回が初めてだった。

 怒りを露わにしたわけではない。表情は至っていつもの彼そのものなのだが、それでも、確かに自分を含めた3人はゼロの中の“ナニカ”を感じ取り、あらゆる回路が凍り付くように、凝り固まった。

 

『そうなればそいつは、ただの“イレギュラー”だ』

 

 イレギュラー――異分子を意味する言葉だが、ゼロは一体どういう意味でアレをそう呼んだのだろうか。異分子――通常の秩序から外れた存在を意味するのであれば、ヨルハから脱走して生きながらえた自分や、感情を得た機械生命体たち、旧世界の出身であるゼロすらその定義に当てはまる。

 そうなると、ゼロの用いた「イレギュラー」という言葉は、やはり別の意味だと捉えるのが自然だろう。

 

「ゼ、ゼロ」

「・・・・・・なんだ?」

 

 此方の声に反応し振り向くゼロ。

 振り返ったゼロの眼には、既に此方の回路を凍てつかされるような憤怒は消え去っていた。彼なりに既にあの機械生命体に対して、早めに踏ん切りを付けたとでもいうのだろうか。

 どのような声をかけたらいいのか分からず、言葉に窮した末、11Bがかけた言葉はシンプルかつ曖昧なものだった。

 

「・・・・・・その、大丈夫なの?」

「? 損傷は特にしていない。爆風で埃を被ったくらいだ」

 

 11Bの質問を、自身の身体的なコンディションに関する心配だと捉えたゼロは、簡素にそう返す。だが、11Bが聞いているのは、あくまで彼の精神的なコンディションについてなのだ。

 

「そうじゃなくて、ゼロ、あの機械生命体に対して凄く怒っているように見えたから・・・・・・」

 

 勿論、ゼロがあの機械生命体に対して怒る理由は11Bだって理解している。

 何せ自分やあの2人も少なからず同じ感情を抱いているだろうから。だが、それ以上に自分やあの2人は怒りよりもあの機械生命体の行いの不可解さに対する疑問という側面の方が強い。

 その中で、そういった疑問よりも、まず怒りを抱いたのがゼロだったのだ。

 

「・・・・・・オレがあの機械生命体に対して怒りを抱いていると。お前にはそう見えたのか?」

 

 深刻な表情のまま、こくり、と11Bはゼロの問いに対して頷く。

 

 言われて、ゼロはようやく11Bの質問の意図を察する。

 彼女が心配したのは、損傷的な意味合いでのコンディションではなく、自分の精神面での話だったのだ。

 ――怒っている、か・・・・・・。

 実はゼロ自身、11Bにそう言われるまで自覚はしておらず、改めてあの機械生命体のことについて振り返ってみる。

 ポーヴォワール――それがあの巨大な機械生命体の固体名であり、元はそこいらに跋扈している小型機体生命体と差して変わらない見た目をしていた彼女。

 彼女の詳細を知ったのは、倒した彼女の残骸から回収したコアをナックルで解析してからだったが、生きていた彼女と相対した時点からある種の不快感は感じていた。

 

 まずは、その機械生命体の所業に対して腹を立て、次に不可解さを感じた。

 それが、11Bが指摘する、明確な怒りに変わっていったのはおそらく――あのコアを解析して、彼女もパスカル村の機械生命体たちと同じように感情を会得していたと確信してから。

 ならば、自身が怒りを抱く原因はおそらく彼女自身の“心”に対して――

 

 自分の中で答えを見いだしたゼロは、ゆっくり歩きながら口を開く。

 

「・・・・・・奴に、“感情”があったからだろうな」

「え?」

 

 キョトン、と目を丸くする11B。

 それはまるで、先ほどの9Sの質問に対する答えのようではないか。

 “感情があったところでどうする”、と先ほど9Sに返したゼロだったが、やはりゼロは彼女に“感情”があると確信していたのだ。

 その答えを、今明確に11Bの前で口にしたのだ。

 

 だが、その答えはパスカル達のことを否定しているようなものではないか、と11Bの表情は僅かに曇る。無論、そんな意図はないゼロは構わずその理由を説明し始める。

 

「11B。お前の仲間の1人が機械生命体に殺された時、お前はその機械生命体を憎んだことはあるか?」

「・・・・・・それは、勿論あるけれど・・・・・・」

「だが、それならお前が憎むべき本当の相手は、その命令を下した異星人たちだ。感情を獲得する以前の機械生命体は、奴らの指令に従って動いているに過ぎない筈だからな」

 

 それはそうだ、と11Bは思う。

 奉仕すべき人類はおらず、一向に数が減らない機械生命体との戦いに対して、憎しみよりもむしろ空しさを覚えていた11Bは、さっさと彼らの親玉を叩ける機会が来ないものかと幾度と思ったものだ。特に、ヨルハにいた頃は。

 意思や感情を持たぬ異星人の駒を相手を憎んだって、どうにもならないことは身に染みている。

 

 ――――“感情”を、持たない?

 

 ゼロは先ほど、あの機械生命体に対して“感情”があると答えていた。

 それはつまり――

 

「あの機械生命体は、自分の感情で、あの所業を繰り返していた・・・・・・」

「そうだ。それで異星人からの命令などという言い訳など通ずるものか」

 

 異星人からの命令などされていない。というより、普通に考えても、敵のアンドロイドはともかく味方の機械生命体すらも食らえ、などという指令など出す筈もない。

 その行為をすると決めたのも、それを実行に移したのも、あの機械生命体自身なのだ。そんな指令など下した覚えもないであろうエイリアンに怒りを抱きようもない。

 怒りを向けられるべきなのも、その報いを受けるべきなのも、全てあの機械生命体自身だ。

 

 ようやく、ゼロが怒る理由に合点がいく11B。

 

 あの所業は、間違いなくあの機械生命体自身の“罪”なのだ。罰せられてしかるべき罪である。

 

「にも関わらず、いざ自分が追い詰められれば、今まで喰ってきた奴らを顧みることなく命乞いだ」

 

 とある人物を振り向かせたい、という綺麗な理由を飾っているだけで、徹頭徹尾、自分のことしかあの機械生命体は考えていなかった。今まで自分の生命が脅かされたわけでもないのに、一方的に周りの者達を食い物にしていった。

 誰から言われた訳でもなく、自分の意思で道を踏み外す選択を取った輩を、”道を踏み外した者(イレギュラー)“と呼ばずして何と呼ぶというのだ。

 

「同じ感情を持つ機械生命体でも、互いに助け合って生きているパスカル達とは違う。だから、アイツに“感情”はあっても、“心”などない」

 

 機械生命体という種としての観点で見れば、進化故の多様性と言ってしまえばそれまでなのだろう。だが、少なくともゼロにとっては絶対に許せないことだったのだ。勿論、もし彼女がパスカルのような仲間に恵まれ、他者を思いやる“心”を学べる機会に恵まれていたならばと、思わなくはないが、決して同情はしない。

 彼女のソレは思いやりなどではない。相手のことを考えず、自らの価値観を押しつけるだけのもの。そして、それを受け入れられなければ他者を喰って着飾り、押しつけて、拒絶されて、また食らい、以後はその繰り返し。

 歯止めも段々と効かなくなり、救いようもない。

 

 ふと、ゼロは彼女の本体にトリプルロッドの刃を突き刺した時の感触を思い出す。

 ・・・・・・感慨は、とくに湧かなかった。ただ冷たく、躊躇もなく、無慈悲に貫いた。それだけだ。

 

「感情はあっても、心はない・・・・・・」

 

 ゼロの言葉を反復し、11Bはあることを思い出す。

 先の9Sの質問に対し、ゼロは機械生命体に感情があることは否定せず、あえて心がないと言い放っていた。

 命令というコードがなくても、その身を突き動かす感情が存在していた。

 それでも、他者を思いやる心があの機械生命体には欠けていた。

 今回の惨劇の要因は、ただそこに行き着く。

 

 多くの犠牲者を生み出した今回の惨劇、その要因は行きすぎた感情と、足りなかった心だということ。ロボットが起こした惨劇の理由としては、あまりにもかけ離れすぎている。

 単なる機械的な暴走ではない。感情を得てしまったがために起こってしまったのが今回の惨劇だった。

 

「ヨルハ部隊は感情を持ってはいけないって・・・・・・そう言われ続けてきたけど、ああいった事を防ぐためなのかな?」

「・・・・・・さあな」

 

 こういった『内面』についての話題に関しては、11Bの頭の中では既にアンドロイドと機械生命体の括りが取り外されているのか、すぐに今回の事例と自分の元いた場所の規則と結びつけてみせた。機械生命体を徹底的に憎み、機械生命体に対する決戦兵器として開発されたアンドロイドとしては到底考えられない変化だ。それがいいのか悪いのかはゼロには分からなかったが、彼女の価値観を変えるというアネモネの目論見はうまくいったと言えるだろう。アクシデント込みだというのは少々気にかかるが、結果はオーライだ。

 

「だが、人類軍の上層部とやらは、お前達がそうなることを危惧していた可能性はある」

「・・・・・・そっか。なら下手したら私も、真相を知ったままヨルハにいたら気が狂ってああなっていたかもしれないね」

 

 冗談気味に言う11Bだったが、やはり十中八九そうなっていただろうという確信が彼女にはあった。・・・・・・さすがにあそこ(ポーヴォワール)までのレベルになるとは思わないが。

 降下作戦の時に自分を暗殺するために7Eを部隊に配属させた司令官の判断は正しかったわけだ、と11Bは自嘲するように笑う。そうとも知らず脱走計画の実行を決意していた自分は、相当に“悪運”が強いらしい。

 そして、その悪運はゼロとの出会いを引き寄せた。

 ・・・・・・その点だけは、司令官に感謝してもいいかもしれない。

 

 過ぎた感情を身を滅ぼす。己だけではなく、周りさえも。会得したばかりならば尚更。

 何はともあれ、自分はそこまで墜ちる前に、ヨルハを抜け出すことができたわけだ。

 

 

 

 そこまで考えたところで、ふと、こんな考えが過ぎった。

 

 

 

 じゃあもし、私がそうなったら、ゼロはどうするんだろう?

 もし私が、感情を暴走させて、それを心では抑えきれなくなって――道を踏み外したイレギュラーになったとき、ゼロは私を斬るのだろうか?

 ・・・・・・それをゼロに聞く勇気は、私にはなかった。

 

 

 

 それでも、もしそうなってしまうのであれば。

 もし私がイレギュラーになってしまうのであれば――せめて私の命を預けたゼロに、斬ってほしいと思うのも、行きすぎた感情なのだろうか?

 それを己に問う勇気も、私にはなかった。

 

 遊園地廃墟の空に絶え間なく上がり続ける花火は、そんな私を嘲笑っているような気がした。

 

 

     ◇

 

 

 レジスタンスのキャンプの一角にある廃墟ビル――その一角に設けられた専用のメンテ室にてデボルとポポルはゼロのボディや武器データの解析に勤しんでいた。旧世界から生き続けてきた経験と性能を以てしてでも、彼の全てを解析するのは困難を極める。

 それでも、少しずつ、少しずつだが前進してはいた。

 例えば、彼のラーニングシステムについて。

 

「ポポル、これを見てくれ」

 

 端末を片手にZセイバーのデータの解析を進めるポポルだったが、デボルの声によりその手が止まる。

 手を止め、振り返ったポポルに歩み寄ったデボルは、データチップをポポルの端末に差し込み、ポポルにそのデータを閲覧させる。

 

「これは・・・・・・」

「ゼロのラーニングシステムについてまとめたデータだ。彼が今会得している魔法は、この3つだ」

 

 端末の画面に映し出されている、3つの単語をデボルが指さす。

 『円劫陣』、『斬空波』、『レーザーショット』。

 これらの魔法は全て、ゼロと対峙した敵が使っていた武装や攻撃プログラムを彼が魔法としてラーニングした技だ。

 円劫陣――彼が超大型機械生命体を斃した時に得たギガアタック魔法。

 斬空波――多脚型機械生命体のコアをナックルで解析したことで得た、光の斬撃を衝撃波として放つ魔法。

 レーザーショット――2Bに随行していた支援ユニット・ポッド042のポッドプログラム『レーザー』を見たことにより得た射撃魔法。

 

 技名だけでなく、その詳細を記されたデータを目にしたポポルは、あることに気付いた。

 

「ねえ、これって・・・・・・」

「ああ。扱う武器が皆違うのもそうなんだが、この3つ――技をラーニングするまでに経たプロセスが皆違うんだ。技をラーニングした時のそれぞれのタイミングがそれを物語っている」

 

 共通として、ラーニング技の元となっている敵は全てゼロの手によって倒されている。

 だが、その技をラーニングするタイミングはそれぞれがバラバラな物だった。

 斬空波は敵が放った技を見てラーニングするのではなく、敵のコアを解析することで得ている。一方、レーザーショットは敵が放った技そのものを見てラーニングしているのだ。

 この2つの事例だけでも相当な違いがあるのに、更に食わせ物なのが、この円劫陣。

 技を見るでもなく、コアを解析するでもなく、ただ敵を倒しただけでそこから技を奪い取ってみせているのだ。

 

「3つの技の中で、ラーニングのタイミングがどれも一致していない・・・・・・?」

「そうなんだ。斬空波に関しては、一度敵の技を見ている筈なのに、そのタイミングではラーニングできていない・・・・・・なのに他2つは見ただけで、もしくは見るまでもなくラーニングしている。違う事例が偶然、3つ連続で引き当ててしまったってことになる」

「もう少しデータがそろえれば、ラーニングのタイミングや、その傾向が絞れるのだろうけれど・・・・・・現段階ではなんとも言えないわね」

 

 深刻な表情をしてポポルが率直な感想を口にする。ゼロの武器の解析や作成を請け負うことになったポポルからしてみても、ことラーニングシステムに関しては直結する議題だ。ZナックルやZセイバーのように元から所有していた武器ならばともかく、後付けで装備した筈のバスターショットにも、ソレを使用するラーニング技が出てきたのだ。

 おそらくはZセイバーをカートリッジにしたことによって、魔素の供給源であろうゼロのボディと直結したことで、バスターショットもまたラーニングシステムの一部として取り込まれることとなったのだ。

 最新式のヨルハの武装である筈のポッドのシステムまでも、己がプログラムの一部として取り込む――改めて2人はゼロのボディに秘められた恐ろしさを痛感することになるのだった。

 

「それとな――後1つ、奇妙なことがあるんだ。これは、まだ報告書やデータベースには書き込んでいないことなんだが・・・・・・」

「どうかしたの?」

 

 何か言い辛そうな表情でそう言い始めるデボルに対し、怪訝な面持ちでポポルは聞く。

 しばらく言い淀んだデボルであったが、やがて意を決したのか、深刻な面持ちで話し始めた。

 

「今から言う事は、他言無用にした方がいいかもしれない。伝えるとしても、アネモネだけだ。少なくとも時期を見るまではレジスタンスの奴らに話しては駄目だと思う」

「・・・・・・それほどの事なの?」

 

 聞き返すポポルに、デボルはさらに深刻げに頷く。

 それほどのレベルの話しなのだ、とポポルは気を引き締め。デボルの口から説明されるのを待った。

 

「まだ憶測の域を出ていない段階だから、皆には伏せておく。

 何が奇妙かと言うと、ゼロがそもそも機械生命体の武装や、ポッドプログラムを()()()()()ラーニングできている事自体がなんだ」

「それは・・・・・・」

 

 今に始まったことではないでしょう、とポポルは返す。

 ゼロのボディは現在、構造や回路などを含めて殆どがブラックボックス状態なのだ。今更そのようなことを言及しても、どうこうなる話しとはとても思えない。

 そんなポポルの回答は既に予測していたのか、構わずデボルは続けた。

 

「いや、おかしい。まだ事例は3つ程度しかないが、ラーニングの対象となる相手が、機械生命体やポッドだけだってことだよ。既にこれだけのラーニングのプロセスパターンがあるにも関わらず、今までそれが3つしかなくて、しかも相手がこの2つだけなんだ。まずこれが1つ。

 二つ目はそれに加え、先も言ったように本来魔法ではない筈の代物を、()()()()()ラーニングできているということ。

 そして三つ目は、一つ目の時でも言った、ラーニングのプロセスパターンの不安定さ。

 私が言いたい奇妙な点は、この3つだ」

「っ!?」

 

 ここまで説明されて、ポポルもまたハっとなって目を見開いた。その直後、訝しげな表情は段々と、デボルと同じように深刻なものへと変わっていく。

 ポポルもまた、デボルの言わんとしていることに気付いたのだ。

 そして、できればソレを聞きたくないという欲求にも捕らわれる。

 だが、デボルは構わず説明を続けた。

 

「まずは一つ目と二つ目を総括して考える。これはつまり――ヨルハ部隊と機械生命体には、共通の技術が使われているかもしれないってことだ・・・・・・・」

 

 それも一部分だけというレベルではなく、もっと根幹を成す、重要な部分でな――そうデボルは付け加える。

 

「そして何故魔法ではない筈のものを魔法として取り込めるのかについてだが、これは魔素の性質について考えてみれば説明がつく。

 現状、私達が魔法かそうでないかを判別付ける方法は、魔素の反応の有無しかない。

 そして、魔素は只単にエネルギーそのものってわけじゃない。それそのものが、()()()()()()()()()にもなり得るんだ」

「魔素を直接エネルギーとして引っ張っているのではなくて、あくまで遠くからエネルギー源として供給しているから、現場では魔素の反応がないということ? けれど、遠くにある魔素からエネルギーを供給してこれる方法なんて・・・・・・いえ、あるわね」

 

 ネットワーク――デボルとポポルの両名から、同時にその単語が囁かれる。

 ともすれば、ヨルハにも同様のネットワーク技術があるということになる。

 

「そして、これに三つ目を加えて総括すると、この矛盾も説明できる。要するに魔素を転用していても、あくまで間接的に使った技術でしかないから、ラーニングシステムによる学習プロセスが安定しない。おそらく、ソレが魔法かそうでないかの判断基準が曖昧になってしまうんだ。魔法と判断できるタイミングもあれば、そうでないタイミングが繰り混ざっている。本来ならば見ずとも敵を倒すだけでラーニングできてしまう時もあれば、見なければ、もしくは態々コアを解析しなければ、できない時だってある。

 これなら、学習プロセスが安定しない理由にも説明が付く・・・・・・」

「・・・・・・そんな・・・・・・そんな事って・・・・・・」

 

 喉を震わせながら、俯くポポル。

 予測は付いていても、改めてデボルの口から直接聞かされた推察に、ショックを受けるしかない。

 

「ゼロが使っているZセイバーの刀身なんかは、最早転用なんてレベルじゃない。本来強力なエネルギー源となる筈の魔素を、直接エネルギー体として凝縮した塊そのものだ。だから、容易に魔素の反応を検知できるし、私達も一目で魔法だと判別できる」

「・・・・・・当然そのエネルギー密度は、ヨルハや機械生命体なんかの比じゃない。道理で通常ではありえない出力を得ているわけね」

 

 ようやく、デボルの説明に納得のいったポポルは顔を片手で覆って、ハァ、と俯きながらため息をはく。

 もしこれが事実だとすれば、非常に頭が痛くなる事態だ。しかもデボルの説明にこれといった矛盾は見つけられない。一応筋は通る物であるのが余計に質が悪い。

 まさかゼロのラーニングシステムから、こんな可能性が露呈するとは夢にも思わなかった。自分たちの失われた記憶を探るために引き受けた仕事である筈なのに、知りたくないことばかりが頭に入ってくる。

 

「・・・・・・ブラックボックス」

 

 口を手で押さえながら、それでも抑えきれんと言わんばかりにポポルの口から呟かれる。

 無論、それを指す意味はゼロの解析できない部位のことではない。

 今は彼と一緒に、任務を遂行しているであろう、1人の少女。および彼女の同型であるヨルハ型アンドロイドたちの、そのコア。

 疑いたくはない。それでも――

 

「確か、彼女がヨルハを脱走した理由は、ある機密を知ったから、だったわよね・・・・・・。それも、ヨルハの司令官が彼女を消しにかかるレベルの・・・・・・。もしかして・・・・・・」

 

 実際の所、まったく別の重要な機密であるわけなのだが、それを2人が知る由もない。

 

「今ある現状で、このことを追求するならば、もう彼女のブラックボックスを解析するしか――」

 

「駄目よ!! そんなことっ!!」

 

 デボルの口から出る呟きを、声を荒げて遮るポポル。

 

「ポ、ポポル?」

 

 びっくりしたデボルが、体をビクつかせながらポポルを見る。

 ハァ、ハァ・・・・・・と息を荒げながら俯くポポルの表情は見えない。その直後、顔を上げたポポルの泣きそうな表情を見て、デボルも我に返った。

 そして、先ほどの自分の発言を恥じた。

 脳裏に浮かぶは、自分たちに何の偏見も持たず接してくれた、銀髪の少女。

 最新型の義体故、当然の通常のメンテナンスタイプに治療できる筈もなく、彼女の治療を担当してからは、自然と2人は彼女との接点が増えた。

 邪険にしないで接してくれた、こんな自分たちに、嬉しそうに泣きながら、心からの感謝を告げてくれた。そんな彼女の存在が、2人にとってどれだけ救いになったことか。

 

「・・・・・・ごめんよポポル。あたし、どうかしてた・・・・・・」

「・・・・・・いいえ、私も大声を出してごめんなさい・・・・・・」

 

 同時に俯く2人。

 気が滅入っていた。

 この仕事自体は、別に嫌いじゃない。

 自分たちがゼロを解析することで記憶の手がかりを探すように、ゼロもまた自分自身のことを知るために自分たちのことを必要としてくれる。

 罪悪感もあるのかもしれないが、本当の意味で自分たちの力を必要としてくれることを実感できるのが、嬉しくないわけがない。

 

 今回は、その過程で、少し知りたくなかったことを知ってしまっただけのこと。ただそれだけのことなのだから。

 

「・・・・・・ごめん、こんな話、ポポルにしかできなかったから。ちょっと疑心暗鬼になってたみたいだ。少し、外の空気を吸ってくるよ」

「分かったわ。話してくれてありがとう。それと、今は無理でも、いずれ時期を見て話した方がいいと思うわ」

「・・・・・・そうだね」

 

 そう言って、デボルは端末を置き、廃ビルの階段を下りていった。

 その背中を見届けたポポルもどっと、椅子にへたり込んで天井を見上げる。

 

「例の“アレ”も完成したことだし、私も少し休もうかしら・・・・・・」

 

 そう言って、作業台から立ちあがろうとしたとき、ふとポポルは自分の言葉を振り返ってそう自嘲する。今まで贖罪のためにあらゆる仕打ちを受け入れてきた自分の口から、まさか休むなんて言葉が出ようとは。

 ・・・・・・あの2人が来てくれてから、自分も結構変わったものだと思うのだった。

 

 

 

 あぁ、けれど。

 

 

 

 それすら許されないのか。

 

 

 

 罪を犯した分際で、そう思った罰が当たったのか。

 

 

 

「つべこべ言ってんじゃねぇ!! とっととやれって言ってるんだよっ!!」

 

 

 

 外から、そんなレジスタンスメンバーの大声が聞こえた。

 

 

 

 ――外には、デボルがいる。

 その声を聞いた途端、ポポルはいてもたってもいられぬ形相で、デボルの後を追うように自らも急いで階段を下りていった。

 

 

     ◇

 

 

 ――油断していた。

 息抜きがてら、外の空気を吸おうとして屋外キャンプに降りたら、運悪くレジスタンスの仲間の1人と遭遇してしまった。

 普段からキャンプ内での私達姉妹の扱いは非常に粗雑で、危険な雑用などを容赦なく押しつけてくる。それで怪我をしたり死にかけた回数は計り知れず、その度にあたしは妹のポポルと一緒に何とか乗り越えてきた。

 あたし達2人は、それを当然のように受け入れていた。

 全ては、過去に犯した罪の贖罪だ。

 1度目の事故、2度目の厄災。

 どちらもあたし達ではない同型が起こしたこととはいえ、糾弾されるべき本人達が既に処分されてしまっている以上、同型の最後の生き残りであるあたし達にその怒りが向くのは当然のことだった。

 

 けれども、最近になって状況が少し一変したのだ。

 ゼロと11Bがレジスタンスのメンバーとして加入して、その2人の治療やメンテナンスはあたし達デボル&ポポル型にしかできないのだと知れ渡って、あたし達のキャンプ内での需要は上がったのだ。

 忙しさの度合いでは以前と差して変わらない、いやむしろ増したかもしれないが、割に合わない雑用を押しつけられることは少なくなった。実害もなく、あたし達は以前よりかはこのキャンプでの暮らしが楽になっていた。

 

 だから、油断していた。

 

 いや、もしかしたら、“罪”があたし達を見逃さなかったのかもしれない。

 少しでも、もう“贖罪”はしなくていいんじゃないかという、そんな甘い考えを、あたし達デボル&ポポル型に科せられた罪は見逃さなかったのだ。

 

「悪いんだが、他を当たってくれないか? あたし達はゼロのことで忙しいんだ」

「知るかよそんな事。ほら、工場廃墟にあるこの素材とってこいよ。これも贖罪だ。さあとっとと行った行った」

「アネモネから聞いているだろう? ゼロと11Bの治療があたし達しかできない関係上、おいそれと危険な所には行けないんだ。分かってくれ」

「じゃあなんだ? オレ達への贖罪は放っておいて、あの得体の知れないヨルハと赤い野郎の肩を持つってのか、信じられないね、そんなこと」

 

 とはいえ、今はその“贖罪”をする気分にはなれない。

 向こうは3人がかりとはいえ、彼らもレジスタンスの一員。アネモネの名前を出せば渋々と退いてくれるだろうと期待をしていたが、そんなあたしの想定は甘かった。

 

「あの2人のことを悪く言うのはやめてくれ。とにかく、今は忙しいから無理だ。他の奴に頼んでくれよ」

「生憎、どこかの誰かが信用できない人類軍の脱走兵とやらの治療役を受けたおかげで人手が足りないんだ。今までの不足分はきっちり働いて貰う」

「別にあたしじゃなくても適任がいるだろう? どうしてもっていうなら時間ができた時にもでもやるから、今は――」

 

「つべこべ言ってんじゃねぇ!! とっととやれって言ってるんだよっ!!」

 

「っ!?」

 

 とうとう堪忍袋の緒が切れたのか、レジスタンスの男は腰の剣を抜き、大声を上げてあたしを脅してきた。

 ・・・・・・拙い。彼がこうなれば、あたし達はもう逃げることはできない。

 即答しないあたしに更に苛ついたのか、3人の内のリーダー格、大声を上げた男のレジスタンスが剣を私に振ってきた。

 ・・・・・・それを、避ける権利はあたしにはない。

 当然の如く、その刃を受け入れようとして。

 

 

 私ではない、誰かの血が飛び散った。

 

 

 突如、男と私の間に割り込んできたその人物の名を、大声で叫ぶ。

 

「ポポルっ!?」

 

 腕から血を流したポポルが、出血箇所を抑えながら仰向けに倒れ込んでいた。

 一瞬、思考回路が真っ白になる。目の前の状況に理解が追いつかず、間を置いてようやく理解が追いついた私は、急いでポポルの方にかがみ込む。

 

「ポポルッ!ポポルッ!大丈夫ッ!?」

「ッ、・・・・・・えぇ」

 

 腕を切られただけで済んだのか、痛みを堪えながらも、ポポルは返事をしてくれた。

 

 ・・・・・・ああ、あたしのせいだ。

 あたしが、目の前に迫ってきた刃を当然のことと受け入れたばかりに、あたしの代わりに、ポポルが怪我をしてしまった。

 

「ケッ、ようやく片割れのご登場かよ。おい妹の方。腕の痛みかみしめながらソイツに言ってやれ、贖罪だけが私達の唯一許された生き方ですってな」

「・・・・・・ッ!!」

 

 癪に障る男の言い方。

 その直後、剣を振り上げた男がウッ、と呻って少し後ろに下がった。

 何が起こったのかよく分からなかったあたしだが、すぐに理解する。

 

 その怒気を、あたしは知っている。

 普段、ガサツで強気なのがあたしデボルで、その一方おとなしめの印象があるのが妹のポポルだが。

 ・・・・・・ひとたび感情の枷が外れたポポルの怒気は、あたしなんかよりずっと凄まじい。

 

 痛む腕の傷を手で押さえながらゆっくりと立ち上がったポポルは、その怒気を放ったまま剣を抜いた男を睨み付ける。

 

「・・・・・・どういう、つもり?」

「お、おい。そんなに怒るなよ。ただちょっとお前ら姉妹の在り方を教え込んでやっただけじゃねえか・・・・・・」

「・・・・・・それが、人の姉に切りつけることと、どう関係することなんだよ?」

 

 私と同じ、ガサツで粗暴な口調に変わるポポル。

 その変化に男は更に動揺したのか、もう一歩、剣を握りつつもあたし達から退いていく。

 

「だ、だってよ・・・・・・ただでさえ信用できないお前らが、オレらを見捨てた人類軍の脱走兵の治療にかまけて、こちとら人手が足りなくなっちまったんだ。仕方ないだろう?」

「・・・・・・それだけ、私達がお前達のために働いていたってことでしょう? 人手が足りなくなった罪は償うわ。けれどね、今じゃなくてもいいでしょう?」

「い、今じゃなきゃ駄目なんだよ。それにお前ら最近調子に乗りすぎてるぞ。信用できない人類軍の脱走兵に、得体の知れない骨董品の治療がお前達にしかできないからって・・・・・・それでお前らの罪が消えたわけじゃねえんだぞ?」

「ッ!」

 

 びくりと、その言葉にポポルの体が震える。

 それは図星を突かれたが故なのか、それとも、唯一あたし達に優しくしてくれた娘を侮辱されたことへの怒りか。

 

「・・・・・・本っ当、11Bとは大違いね」

「・・・・・・あぁ?」

「私達の同型が事故を起こしたからといって、それを関係ない私達のせいにして・・・・・・いい子ぶるのも大概にしたらどう?」 

 

 俯くポポルの表情は見えない。

 だが――その声は、冷え切るように、嘲笑っていた。

 

 

「所詮――お前たちも“同罪”よ」

 

 

 冷たい、一陣の風が通り過ぎる。

 

 

「・・・・・・今、なんて言った?」

 

 暫く間を置いた後、義体をワナワナと震わせながら、絞り出すように言ったのは、レジスタンスの男だった。

 そして――

 

「今、なんて言いやがったっ!?」

「ガっ!?」

「ポポルっ!?」

 

 怒り狂った男は、ポポルの胸ぐらを掴み、そのまま地面に叩きつける。

 あたしはポポルに掛け寄り、彼女の体を抱き起こして状態を確認する。

 ――ケホッ、ケホッ。

 突然地面に叩きつけられたポポルは苦しそうに咳き込み、動けそうになかった。

 拙い、早くここから逃げないと・・・・・・!!

 

 

「誰がぁ!! 誰と“同罪”だって!? ええええぇッ!?」

 

 

 憤怒の形相で、レジスタンスの男はあたしたち2人に剣を振り落としてくる。

 とっさにあたしは、自身の背中で剣から庇うようにポポルを抱きしめる。

 強く、抱きしめて、せめてポポルだけは守れるように。

 

 抱きしめている間、あたしの体は震え、目からは涙が出ていた。

 

 この現状、この騒ぎ。

 誰も気付いていない筈がないというのに、誰もあたしたちを助けてくれない。

 

 ようやく、あたしは悟った。

 ああ、あの2人がここにいる間だけが、特別だったんだ。

 

 忘れていた。

 

 誰も手を差し伸べてくれない。誰もあたし達のことを助けてくれない。

 それは当然のことだ。あたしたちは罪を犯したのだ。

 

 それから目を背けて、あの2人にばかり目を向けていた、その罰が今当たったのだ。

 

 だから、これは当然のことで――けど、ポポルだけは、ポポルだけは・・・・・・!!

 

 

 

 

 

「あ・・・・・・ガ、ァ・・・・・・ッ・・・・・・!?」

 

 

 

 

 背中を切られる痛みを覚悟したその時、聞こえたのは、自身の悲鳴ではなく、あたしたちに剣を振り下ろそうとしていた筈の男の、途切れ途切れな苦しい声だった。

 

 ――え?

 

 咄嗟にあたしは、顔を上げて男の方を見ようとすると、そこには――

 

 

 首元を締め上げられながら、持ち上げられ、もがき苦しむ男。

 カラン、と男の手に握られていた剣が地面に落ちる。

 

 

 太陽の光を、遺漏なく反射する黄金の長髪。

 それと相まって燃えているのではないかと錯覚する、赤い背中が。

 

 男の首を掴んだまま、持ち上げていた。

 

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