NieR:ZERO   作:ナスの森

15 / 15
どうやら鯖墜ちしていたようで。
本当は昨日の夜投稿する予定でしたが、時間をずらしました。


転換点

 ――様子がおかしい。

 そう思い始めたのは、キャンプの入り口代わりの廃ビルを通り抜ける直前のことだった。パスカルへオイルを届け、さらに例の失踪事件の犯人を討伐する任務を終え、キャンプまで戻ってきたゼロと11Bだったが、何やら不穏な空気を2人は感じ取った。

 急いで廃ビルを通り抜けると、そこにあったのは――

 

『つべこべ言ってんじゃねぇ!! とっととやれって言ってるんだよっ!!』

 

 そんな大声を上げて、デボルを庇ったポポルの腕を切りつけているレジスタンスの男の姿があった。悲鳴を上げたデボルが倒れたポポルに駆け寄っていく。

 その様子を、切りつけた張本人は――楽しそうに、愉しそうに、嗜虐的な笑みを浮かべていた。

 

「――ッ」

 

 その光景に、咄嗟に目を見開いた11Bは、怒りの形相で腰の鋼刀に手をかけようとするが――それをゼロが手で制する。

 

「ゼ、ゼロ!! どうして・・・・・・ッ!?」

「・・・・・・」

 

 止めてきたゼロに噛みつこうとした11Bであったが、咄嗟に驚いて押し黙ってしまう。

 同じ目を、していた。

 あの時、ポーヴォワールと呼ばれていた機械生命体に対して見せたものと、同じ目をゼロはしていたのだ。一見、普段と何も変わらなさそうな表情の下から感じ取れる、全てを凍てつかせるような怒りを、ゼロは再び放っていたのだ。

 制する手を下ろしたゼロが目を向けたのは、近くにいたレジスタンスの女性だった。

 

「――おい」

「はい? え――ゼロさん!? 戻ってきたんですか!?」

「オレの事はいい。あれはどういう状況だ?」

 

 その女性に歩み寄り、声をかけるゼロ。声をかけられた女性はゼロに対して赤面しつつも、困ったような表情で目線をあっちこっちへ移動させる。

 やがて、しどろもどろになりがらも話し始めた。

 

「えっと・・・・・・その、あの2人にはちょっと事情がありまして・・・・・・それでちょっと、一からは説明し辛いというか・・・・・・」

 

 どうやら複雑な事情がある様子だった。

 その様子を見た、ゼロは呆れたように瞳を閉じる。

 

「・・・・・・分かった。聞き方を変える」

 

 再び瞳を開けたゼロは、再度、女性に問うた。

 

 

「――――なぜ、誰もあの2人を助けようとしない?」

 

 

「ッ!?」

 

 その質問をされた瞬間。

 俯かせていた赤面を、女性は驚いた表情でバっと上げる。

 ゼロに話しかけられた羞恥と嬉しさ混ざりだった赤面は、ガタガタを僅かな駆動を慣らす蒼白の表情へと変わっていた。

 ここまできて、話しかけられた女性のレジスタンスはようやく悟ったのだった。

 

 ゼロが疑問を抱いているのは、あの2人が虐げられている状況に対してではなく。

 ――それを助けようともしない、自分たちに対してであるのだと。

 

 そのゼロの質問を隣で聞いていた11Bもハッと気付いたように周囲を見渡す。

 こんな騒ぎだ。本来ならば自分たちでなくても誰かが止めに入っていなければおかしいなのに。

 

 ――誰も、この状況を疑問に思わず、さも当然かのように静観していたのだ。

 

 向こうの状況は静まり返るばかりか、むしろヒートアップして酷くなっているというのに。

 

 ――誰も、止めようともしていなかったのだ。

 

 おかしい、これはおかしすぎる。と11Bは思う。

 だって、こんな状況だというのに、誰も騒然としていない。

 助けたいと思っても勇気を出せず、騒然としてしまうのならばまだ分かる。

 だが、この光景は異常だ。

 

 ――なぜなら、誰もが冷静になっていながら、止めようとしていないのだから。

 

「・・・・・・なに・・・・・・これ・・・・・・?」

 

 喉を震わせて、ただただ、やっと出た一言を絞り出す。

 ヨルハにいた頃ですら――こんな吐き気のする光景は見たことなかった。

 

 ――そういえば・・・・・・。

 

 ふと、11Bはまだ2人から治療を受けていた頃、片割れのデボルから言われた言葉を思い出す。

 

“あたしとポポルはこれまで仲間である筈のアンドロイドたちから迫害されていた”

 

“原因は、過去にあたし達の同型で暴走して事故を起こした事だ。それ以来、あたしとポポルは同胞のアンドロイドたちから逃げ続ける生活を送っていた”

 

“辛かったけど、それでも、あたしにはポポルがいた。ポポルはあたしの代わりにいつも怒ってくれた。いつもあたしの傍にいてくれた。

 どんな目に遭おうと、あたしには、ポポルがいてくれるだけでよかったんだ”

 

 あの時、自分を励ますために言ってくれた言葉を思い出す。

 その時のデボルは、辛く、途方もなく悲しそうな表情はしていたものの、どこか懐かしそうにも語っていた。

 だから、もうそんなことはされていないのだと、そう思っていた。

 だが、今にして思い返してみれば。

 

 ――私は、あの2人が、アネモネさん以外のアンドロイドと一緒にいる所を、見たことがない。

 ――ということはもしかして、今も続いている?

 

 己の回路にマグマが流れ出すように熱を帯びていく感覚を11Bは感じる。その煮えたぎるような感覚を、11Bは知っている。

 ――これは“怒り”だ。

 どうしようもない怒り。己はとてつもない過ちを犯していたんじゃないかという、己自身に対する怒り。

 だが、この感情にばかり囚われて駄目だ。この感情に振り舞わされて暴走すれば、ゼロの言うイレギュラーと何ら変わりはない。

 感情は炎のように、しかし心は氷のように冷静に。

 心で荒ぶる感情を整えた11Bは、努めて冷静に、ゼロに続いて女性に話しかける。

 

「・・・・・・話して」

「・・・・・・えっ? 11Bさ――」

「全部、話して」

 

 真剣な表情の11Bにそう迫られた女性は、うっ、と呻りながらたじろぐ。

 女性は完全に、11Bの迫力に押されていた。

 

「・・・・・・アレは止めるのは、新参者の私達ではなく、ずっと一緒にいた貴方達であるべき筈でしょう? それしないのは、何で?」

「・・・・・・そ、それは・・・・・・」

「お願い、教えて」

 

 口調を少し優しくして、11Bはもう一度女性に聞く。

 貴女個人を責める意図はない。だから、どうか教えて欲しいという思いを込めて。

 ゼロもまた黙って女性を見つめる。彼もまた11Bと同じ思いだった。

 

「・・・・・・実は・・・・・・」

 

 細々と、女性は11Bとゼロに話し始める。

 

 デボル&ポポル型。今こそ生き残りはあの2人しかいないものの、かつては各地域に必ず一組は配置されていた双子型のアンドロイドだという話だ。

 その内の一組である彼女たちの同型が、暴走しつある事故を起こした。

 事故の詳細な記録は既に残ってはいないものの、その事故さえ起こっていなければ今の現状にはなっていなかったという話だった。

 地球から人類がいなくなり、ロボット達の跋扈する星にはならなかったというのだ。

 創造主たる人間が存在しない地上に残されたアンドロイドたちは、人類を恋しく思う余りその原因である双子型の生き残りであるあの2人にその怒りをぶつけ続けたのだという。

 いつしかそれは――彼女たち自身が犯した罪でもないのに、彼女たち自身の罪として捉えられ始めた。

 彼女たちもまた、それが自分たちの贖罪だと捉え始めていた。

 

 悪い意味で、虐げる側と虐げられる側の認知が一致してしまい、それを止めるものはおらず現在も尚続いている。

 

 そして自分も、またその周囲も、それを当たり前としていたことも。

 

 簡潔に説明された2人は、ようやくあの2人がああなっている実態を理解する。

 そして、ようやく理解したその時――

 

 向こうの状況が、一変した。

 

『・・・・・・今、なんて言った?』

 

 義体をワナワナと震わせながら、絞り出すように言ったのは、先ほどポポルの腕を切りつけたレジスタンスの男だった。

 そして――

 

『今、なんて言いやがったっ!?』

『ガっ!?」

「ポポルっ!?」

 

 怒り狂った男は、ポポルの胸ぐらを掴み、そのまま地面に叩きつける。

 デボルはポポルに掛け寄り、彼女の体を抱き起こして状態を確認する。

 ――ケホッ、ケホッ。

 突然地面に叩きつけられたポポルは苦しそうに咳き込み、動けそうになかった。

 

『誰がぁ!! 誰と“同罪”だって!? ええええぇッ!?』

 

 憤怒の形相で、レジスタンスの男はあたしたち2人に剣を振り下ろそうとする。

 その間、とっさにデボルが、自身の背中で剣から庇うようにポポルを抱きしめていた。

 強く、抱きしめて、せめてポポルだけは守れるように。

 

 それでも、彼女たちは誰にも助けを求めていなかった。

 

 互いをかばい合うことはあっても、その理不尽な贖罪を拒絶することは、決してしていなかった。

 だから――彼がそこに割り込むのは、当然のことだったかもしれない。

 

 目覚めた時は、必死に助けを求めてきた少女がいた。

 最期に、助けを求めながら慟哭する少女がいた。

 そしてあそこには、助けすら求めず、ただ苦しみに堪えている少女たちがいる。

 

 誰も助けようとはせず、また彼女たち自身も助けを求めない。

 

 助けを求めた少女では間に合わない。

 だから、もう彼が止めるしか、なかった。

 

「あ・・・・・・ガ、ァ・・・・・・ッ・・・・・・!?」

 

 本来仲間である筈の彼らすら当てにならないのならば、もう彼が割り入るしかなかった。フットパーツの魔素を解放し、一瞬で距離を縮めて男と2人の間に割り入ったその赤い影は、その勢いを殺さぬまま、斬りかかる男の首を片手で掴み、そのまま天へ掲げるように、持ち上げた。

 

 

「ゼ、ゼロ・・・・・・?」

 

 

 いつまでも自分に凶刃の痛みが襲いかからないことに違和感を感じ、恐る恐る目を開けたデボルが、彼の名前を呟く。

 

「ガ・・・・・・ア・・・・・・ゼロ、一体・・・・・・・何、を・・・・・・・!?」

 

 カラン、と剣を地面に落し、男は信じられないといった表情で、締め付けられる喉から精一杯の疑問を絞り出す。

 ――本当に、何故こうされているのか、分かっていなさそうな、そんな表情だった。

 

「ゼロさん!? 何をしているのですか!?」

「や、やめろゼロ!」

 

 男の首を絞める力が、弱まることはない。

 ゼロのとっさの乱入に呆然としていた傍観者達も我に返ったのか、慌ててゼロの方へ歩み寄ってやめるように呼びかける。

 

「グ・・・・・・ぇ・・・・・・・ア・・・ァ・・・・・・ェ・・・・・・」

 

 首を絞められ、持ち上げられた、もがき苦しむ男の口から・・・・・・液体のようなものが、その粘り気を示しながら垂れていく。

 その量に比例して、その苦しむ声すらもが段々と弱く、掠れた物になっていく。

 

「オ、オイルが漏れてるぞ!?」

「おい、誰か・・・・・・!!」

「誰か止めろっ!!」

 

 今まで冷静に事を傍観していた筈の他のレジスタンスメンバーたちも、慌ててゼロに近付いて騒ぎ始める。

 そのことにゼロは――僅かな希望を見いだしつつも、大半が虚無の感情に見舞われる。

 

「・・・・・・」

 

 この双子が危機に合っている時は、何もせず傍観していただけなのに。

 この男が危なくなった途端、彼らは態度をひっくり返して全力で止めに来たのだから。

 ――怒ることすら空しくなったゼロは、呆れるように目を瞑りながら、パっと男の首を手放した。

 

 ガシャン、と義体と地面が衝突する音が響く。

 

「ゲホッ!ゲホッ・・・ガホッ!ゲホッ・・・・・・!!」

 

 ようやくゼロの手から解放された男は、漏れ出たオイルを口から垂らし、その場にうずくまって激しく咳き込む。

 しばらく、彼がまともに動けることはないだろう。

 

 うずくまり、未だに咳き込んでいる目の前の男から視線を外し、ゼロはゆっくりと後ろにいるデボルとポポルの方へ振り返る。

 

「ゼ、ゼロ、どうして・・・・・・」

 

 呆然としたデボルが、倒れたポポルを抱きしめたままゼロに聞く。

 ポポルも意識を取り戻したのか、まだ息は安定しないものの、どうしてもという表情でゼロを見ていた。

 

「・・・・・・お前達のことは、さっき聞いた」

「!? ・・・・・・そう、か・・・・・・」

 

 驚いたように目を見開いた後、デボルは悲しそうに俯く。

 11Bには少し漏らしてしまったことがあるからいいとしても――ゼロにだけは、知られたくはなかった。

 自分たちの罪を、ゼロにだけは知って欲しくなかった。また、拒絶されるのが怖かったから。

 

「2人とも、大丈夫!?」

 

 そんな2人に、声をかけながら駆け寄るもう1つの影があった。

 鋭利な刃物を思わせる銀髪に、黒いベルベット製のドレスを身に纏う少女、11Bがゼロの後ろにいる2人にかけよってきたのだ。

 ――ああ、11Bも知ってしまったのか。

 彼女には、少しだけ自分たちの過去を漏らしてしまったことがある。勿論、それは彼女に発破をかけるために言った言葉で、決して同情してほしい訳ではなかった。

 

 ああでも、これで彼女もあたしたちの罪の重さを知ってしまったわけだ。

 

 どうしよう。他の奴らならともかく、この2人にだけはあたしたちのことを知って欲しくなかった。何も知らないまま、いつものように接してほしかった。

 けれど、もうそれも叶わなくなってしまった。

 

「・・・・・・あたしは大丈夫だよ。でも、ポポルが怪我を・・・・・・」

「・・・・・・ハァ、ハァ・・・・・・2人とも、私は、大丈夫よ・・・・・・」

「ポポル!? ああ、よかった・・・・・・!!」

 

 息を取り戻したポポルに対し、デボルが嬉しそうに涙を流す。

 そんなデボルを落ち着かせるように、ポポルは優しくデボルの頬を撫でる。

 かけよった11Bも2人が無事であることにホッとしたような笑みで、ゼロの方を見て頷く。

 

「・・・・・・」

 

 その様子を見届けたゼロは、再び顔を前の方へ戻す。

 双子を虐げた男と、その取り巻き二人。そして何もせず傍観していたレジスタンスの方に向けて。

 

 蹲って咳き込んでいる男を除き、全員が、ゼロに目を向けられたことにたじろいだ。

 

『・・・・・・』

 

 しばらく間を置き、沈黙を破ったのはゼロだった。

 

「・・・・・・お前達には――」

 

 そう言ってから、目を閉じ、ゼロは自分の言いたいことを整理する。

 そして、再び目を開いてソレを口にした。

 

「お前達には、今ある現実から目を逸らさず、向き合っていく強さがあると・・・・・・そう思っていたんだがな・・・・・・」

 

『――え?』

 

 そんなゼロの声に、戸惑いの声を出したのは誰だったか。

 中には、いつもと変わらない冷静な表情で、冷徹な声の筈なのに、なぜだかいつもよりも冷たく聞こえたことに対して。

 中には、それと裏腹に、今まで己を語ってこなかった筈のゼロの口から発せられた、自分たちへの意外な本音に。

 誰もがそのどちらかに対して、戸惑いを示した。

 

「こいつらの事は全て聞いた。お前達地上のアンドロイドが、この二人に何をしてきたのかも・・・・・・」

 

「・・・・・・そ“れが、どうし”たって言うんだよ・・・・・・」

 

 淡々とそう言い放つゼロに対して、今まで咳き込んでいた男が、蹲ったまま、しかし強気な目でゼロを見上げ、睨み付ける。

 

「同じ、旧世界の骨董品同士で、共感でも・・・・・・したのかよ・・・・・・!! いいか・・・・・・!! こいつらはな・・・・・・昔、事故を起こした。・・・・・・オレらが・・・・・・今、地上に残されて、人類に会えないのも・・・・・・こいつらのせいだ・・・・・・!! 残りの人類は全員月にいて・・・・・・俺らは顔どころか声すら聞けないんだ・・・・・・!! そんな事故を、こいつらは過去に二度も起こしてるんだぞ・・・・・・!! こいつらのせいで、オレらは地上でこんな生活を続けてなくちゃいけない!!」

 

 男の、今までたまり続けていた鬱憤が爆発する。一度爆発した感情は止らない。心による制御は追いつかず、自分勝手で、一方的な鬱憤がその口から発せられる。

 その在り方は、ゼロの忌み嫌うイレギュラーそのものだったが・・・・・・ゼロは黙って男の言葉を聞き続ける。

 

「・・・・・・そうだ」

「・・・・・・私達は人類を思うからこそ・・・・・・」

「・・・・・・人類に会いたいからこそ・・・・・・」

「・・・・・・こうして戦っているいるのに、この二人の同型が起こした事件のせいで・・・・・・」

 

 男の言葉に賛同するように、後ろにいた各々もまたそんな言葉を漏らし始める。

 

「・・・・・・それは・・・・・・」

 

 ゼロの後ろで、ポポルを抱き起こしながらそれを聞いていた11Bは少し、辛そうに俯く。

 彼らのしたことを許したわけじゃない。

 それでも、11Bは彼らのことが好きなのだ。自分とゼロを受け入れ、ヨルハから守ってくれた彼らの力になりたいと思っているのだ。

 なのに、ちゃんと己自身の明日のために戦っていると信じていた筈の彼らから、そんな本音を聞いてしまうと、やはりいたたまれなくなってしまう。

 なぜなら、自分もそうだったから。

 ――そして、人類がもう何処にもいないという真実を知って、それでも尚戦い続けることに、気が狂いそうになってしまっていたから。

 だから、彼らの気持ちも痛いほど分かってしまうのだ

 ヨルハだけではなかったのだ。人類という柵に捕らわれているのは、この地上のレジスタンスも同じだった。

 ――なのに、ここでもまた、彼らのために、人類がいないという事実を口にすることはできない。

 このジレンマは、ヨルハにいたときと同じだ。何も変わらない。

 今この瞬間において、11Bにとってレジスタンスキャンプという場所はヨルハと同じに見えていた。

 

「何が“地球を取り戻す”だ!! くそったれ!! オレ達がここに取り残されるきっかけとなった降下作戦の前――オレ達の中の地球は、こんな薄汚れた大地じゃなかったッ!! 月の連中に見放され、そして殺して殺してもうじゃうじゃ沸いてくる、そんな機械共の巣窟じゃなかった!! なのに、現実はこのくそったれだ!! その原因であるそいつらに何をしようたって、罰なんか当たりやしねえだろうが・・・・・・!!」

 

「・・・・・・だから、何も関係ないこいつらに当たるというのか?」

 

「無関係なんかじゃねえよ。同じ姿形をして、それがオレ達の前に現れる。それを前にして、この激情を抑えられるかよ・・・・・・!! こいつらを見るだけで、どうしても許せない・・・・・・いくら償わせても足りない・・・・・・それくらいの罪を、こいつらは持ってるんだよ・・・・・・!! お前だって、昔お前を造ってくれた人類がこいつらのせいで会えないと分かれば、こいつらが憎くなるに決まっている!!」

 

 男の言葉に、双子の体がビクリ、と震える。

 そうなるのが怖かったから、二人はゼロに自分たちのことを知って欲しくなかった。だからゼロや11Bの前では、なるべくそういう態度は出さずにいた。

 

「・・・・・・だとしても、この二人はお前達のために多くの危険を冒してきたんだぞ? なら、もう十分すぎるくらい罪は償われている筈だ」

 

 癇癪を侵し続ける男の言い分に対して、ゼロはなるべく冷静に、なるべく否定せず、そう返した。

 そんなゼロの言葉を聞いて、デボルとポポルの両名は「え?」と声を上げ、呆然と自分たちを庇うゼロの背中を見上げる。

 自分たちの罪はもう償われている、という言葉を聞かされたのは、初めてだったからだ。

 

「・・・・・・それに、例え本人に罪があったとしても、詳しい罪状を知らないオレ達が二人を責める権利などない筈だ。それでも、こいつらを責め立てるのか?」

 

「・・・・・・ああ、それがどうした!! こいつらをまた野放しにしたら、また同じような事故が起こるかもしれないだろ!!」

 

 ここまで来ると、最早言いがかりだ。

 それでも、彼らは怖いのだ。過去に二度も事故を起こした事例のあるデボル&ポポル型。その生き残りである一組が、また暴れ出して事故を起こすのではないかという、恐怖が。

 だがその恐怖は逆に先見を麻痺させ、また第三の事故を起こしかねないほどの要因を作ってしまうということに、彼らは気付かないだろうか。

 

 だからもう、少なくとも今この場でどうにかなる問題ではないと悟ったゼロは。

 最後に、言いたいことだけを言って、終わらそうとした。

 

「・・・・・・あるかも分からない罪を押しつけて虐げ、それを助けようともせず平気な顔をしているのなら――」

 

 最後に、彼らの心に最も突き刺さる言葉を、言い放つ。

 

 

「――お前達を見捨てた月の連中とやらと、何も変わりはないと思うがな・・・・・・」

 

 

『―――――ッ!!?』

 

 

 冷たい刃物となって、彼らの回路の中枢まで、その言葉は突き刺さる。

 言葉という、抵抗の武器すら砕かれて、ズブリと、回路に浸透していった。

 

「な、なんだと!?」

 

 しかし、その状況の中で。

 後ろの取り巻きすら、その言葉に唖然としてしまう中で、今回の事の元凶である彼だけは、まだ懲りずにゼロに噛みついてきた。

 しかし、ゼロにそれに表情1つ変えることなく、逆に聞き返す。

 

 

「・・・・・・なら、お前達は何のために徒党を組んでまでして、このキャンプを作ったんだ? 本当に人類のため()()なのか?」

 

 

 11Bに配慮し、人類は既にいないという事実を隠しながらも、遠回しにそれは重要なことじゃないと言い放つゼロ。

 本当に人類のためだけだというのならば、この姉妹に当たるというのも、仮に百歩譲って理解できなくはないとしても、それだけではないはずなのだ。

 

「何よりも、お前達自身の明日のためではなかったのか? それとも、こんなつまらん事を続けるためか?」

 

「そ、それは・・・・・・」

 

 最後まで言葉の抵抗を続けていた男も、突きつけられる正論に言い淀んでしまった。

 ゼロの言葉は、激しく糾弾する類いの物ではない。

 なのに、彼の言葉にはそれすら生温いほど、容赦の欠片がなかった。

 自分たちの醜い所を合理的にとことん突きつけられるのは、どんな言葉よりも、深く、深淵に刺さり込む。合理的なアンドロイドならば、尚更。

 

 もう、ゼロに言い返せる者はいなかった。

 誰もが、ただ俯く。頭から切り離そうとしても切り離せない、ゼロの言葉を頭の中で反復しながら。

 男も周囲を見渡し、感じ取ったのだろう。

 自分も、誰も、ゼロに反論できないことを。

 

「――ッ、く、そぉッ」

 

 男は悔しそうに崩れ込み、地面を力なく叩いた。

 

「・・・・・・」

 

 ――一先ず、これで終わりだろう。

 今この場において、誰もゼロに物申す者もいなければ、後ろの姉妹を害そうとする者もいない。とりあえずは、これでいい。

 故に、次の話し合いに移らなければいけない。

 少なくとも、今この場で解決しなければならないことが1つあるのだから。

 

「――おい」

「あ・・・・・・は、はい・・・・・・!?」

 

 ゼロは力なく俯いた男の後ろにいた取り巻きのアンドロイドに声をかける。

 声をかけられたアンドロイドは、驚いて背筋をピンと伸ばしながら答える。ゼロは、アネモネのようにレジスタンスをとりまとめる立場にはいないというのに、彼は先のやりとりの影響が抜けきらず、畏まる態度を取ってしまう。

 

「・・・・・・足りない資材のリストはあるか?」

「はい・・・・・・え?」

「2人がオレの治療役に割り当てられて暫くだ。工場廃墟だけではないのだろう? 早く見せろ」

「は、はい!!」

 

 慌てた男は、取り乱しつつも、懐から取り出した端末にチップをセットし、データを閲覧状態にしてそれをゼロに手渡す。

 

「・・・・・・」

 

 暫しゼロは、無言でそのデータリストを閲覧する。

 冷めた表情の裏側で、彼の心中は驚愕と呆れに満ちていた。

 ――これだけの資材と量を、今まであの2人にやらせていたのか?

 しかも、どれも危険地帯でしか取れないものばかり。

 前に、ゼロはアネモネから姉妹について教えられたことがある。彼女たちは治療・メンテナンス特化モデルとして作られてはいるものの、実際はどんな事も優秀にこなしてみせるのだと。その任務達成率は、旧世界から作られたことによる、彼女たちの長年の経験や知識に裏付けられるものなのだと。

 たった2人のアンドロイドの身で、この姉妹はこれらのことが出来てしまうのだ。

 ただ罪が云々の話じゃない。単純に、彼女たちは優秀なのだ。

 優秀だが、情をかける必要のない存在。ああ、正にこき使う駒としては優秀なのだろう。

 

 ――だが、そんなことはもうさせない。

 

「・・・・・・分かった。後で全部、オレが引き受ける」

『ッ!?』

 

 その一言で、とてつもない緊張感で支配されていた空気が霧散し、全員が再び騒然とし始める。特に、後ろにいたデボル、ポポル、11Bの3人が一番、驚愕に顔が歪んでいた。

 

「む、無茶よゼロ!! いくら貴方が強いからと言って、それら全部引き受けるなんてっ!!」

「11Bの言う通りだゼロ!! あたしたちの代わりなんてしなくていい。これはあたし達の贖罪だから、仕方の無いことなんだ!!」

「・・・・・・そ、そうよ。何も貴方が私達のために・・・・・・・」

 

 まずはその3人が声を上げて、ゼロに訴える。

 いくら強くても、大切な人を、片や何の偏見もなく自分たちに接してくれる存在を、これ以上危険な場所へ送り出すなど、3人が容認できる筈がなかった。

 そしてこの場に限っては、姉妹に対する虐待を静観していた者たちも、それに賛同するかのように声を上げる。

 

「そうですよ、これらは全部危険地帯ですよ!? 何もゼロさん1人で全部やることなんて・・・・・・!!」

「だが、誰かがやらなければならない」

「だからって・・・・・・!!」

「・・・・・・なら、またこいつらに押しつけるのか?」

 

 後ろの双子を目線で差し、ゼロは止めてくるレジスタンスの1人にそう問いかける。

 

「そ、それは・・・・・・」

 

 そんなこと、出来るはずがない。ゼロにあんなことを言われて、突きつけられた直後となっては尚更。

 彼らは既に、どうしようもないくらいに醜かった自分たちを自覚させられてしまったのだから。

 

「オレのメンテナンスを担当しているのはこの2人だ。その2人がお前達の手を離れたせいでこうなったのならば、オレにも責任の一端はある」

 

 再び押し黙るしかない一同。

 全員、ゼロが何を思って戦っているのか理解している訳ではなかったが、これだけは理解していた。

 誰か論破できる者が現れない限り、ここまでやると言い出したゼロを止められる者は誰1人としていないのだと。

 

「オレならば何の問題もない。それに、オレが行けば、オレの治療を担当するこの2人もその役に立ったことになる筈だ」

 

『・・・・・・・・・・・・』

 

 誰も反論はしない。この場においてゼロの実力を疑う者は最早誰1人として存在しないのだ。一度でもゼロに同行していれば、彼の底知れない強さの一端を垣間見ている筈だから。

 この場において、ゼロ以上の適任はいないのだ。

 

 唯一、後ろで納得していなさそうな3人を除いて。

 

 だが、少なくとも自分の前にいる者達は説得することができたと認識したゼロは、黙って彼らに背を向ける。

 そして――

 

「え――きゃあッ!?」

 

 3人に歩み寄り、怪我をしているポポルを両手で抱きかかえた。

 ――所謂、お嬢様抱っこである。

 

「は、はえ?」

「え・・・・・・えぇ?」

 

 白目のまま口を開け呆けるのは、11Bとデボルだった。

 まだ自分たちは納得していないとゼロに言いたかった所なのに、彼女たちの頭の中はそれどころではなくなってしまう。

 ――あ、え・・・・・・ゼロが、ポポルを、抱っこ、して、えぇ・・・・・・!?

 妹が男の人に抱き抱えられている光景に、11Bはその光景を見て自分もまた抱きかかえられていた(しかもほぼ全裸)時のことを思い出し、それぞれ赤面してしまう。

 

 だが、この場で誰よりも心中落ち着かないのは、抱きかかえられている本人だろう。

 

「ちょちょ・・・・・・ゼロ、こ、こんな事しなくて、い、いいから・・・・・・!!」

「・・・・・・負傷した体を引きずられるよりも此方の方が早い」

「しょ、しょういう問題じゃなくてぇっ!?」

 

 淡々と答えるゼロに対し、羞恥を抑えきれず、真っ赤になった顔を片手で覆い隠すポポル。・・・・・・もう片方の腕は先ほど負傷した故、こんな時に使い物にならないのが少し恨めしかった。

 一方、ゼロとしては単に彼女を治療できる場所へ運ぶのを大分後回しにしてしまったため、せめてなるべく早く彼女をそこへ送ってあげたいというだけの意図なのだが、この場にいる第三者たちがソレを察せられることはない。

 

 誰もが唖然とする中、ゼロはその中を通り過ぎ、ある人物のところへと向かう。

 ポポルを抱きかかえながら、その人物の前と立つゼロ。

 

「え、あの・・・・・・」

「簡易休憩所のベッドを1つ借りたい。・・・・・・空いているか?」

「あ・・・・・・は、はい! すぐに!」

 

 周囲と同じく唖然としてた燈色の髪をした女性アンドロイド――メンテナンス屋の女性がゼロの声でハっと我に返った後、慌てて2人を簡易休憩所のベッドへ案内する。

 彼女の案内の元、簡易休憩所へ向かう、その際に。

 ゼロはまた、一度だけ彼らに振り向く。

 

『―――ッ!?』

 

 身構えてしまうレジスタンスの面々。

 また何か言われてしまうのではないか。

 失望の言葉が返ってくるのではないかと、様々な不安が彼らの胸中を駆け巡っていく。

 

 そんな中、ゼロはそれに構う事無く、淡々とただそれを口にした。

 

「オレは、これからもお前達の元で戦う。何か用があれば呼べ・・・・・・」

 

 遠回しに、まだお前達のことを信じている、とそう言い残して、ゼロは今度こそポポルを抱き抱えながら簡易休憩所へと向かっていった。

 そんなゼロの真意を察することができたレジスタンスは、一体何人いただろうか。

 それは最早、我々が知れることではなないだろう。

 

 そして、暫しの沈黙の後、ようやく正気を取り戻した11Bとデボルも、慌てて簡易休憩所へと向かっていくのだった。

 

『・・・・・・・』

 

 残されたのは、未だにゼロの言葉が脳裏から離れず、立ち尽くすレジスタンスの面々だけだった。

 




Q.このゼロってワイリー製なの?
A.このゼロは元がロボットではないので、原作の彼の制作者の設定まで共存させられるかは微妙なライン。言っちゃえば、原作のゼロとは姿形が同じなだけの別人。正直ワイリー云々の設定はあってもなくても物語にはさして影響しないので、皆様のご想像にお任せします。

Q.なんか、ゼロ新参者の筈なのに場を全部仕切ってね? アネモネさんの立場大丈夫?
A.ほ、ほら・・・・・・原作でも元々一部隊の隊長でおしたし・・・・・・(先ほど原作とは別人と言っておいて何言ってんだというツッコミはなしで)

Q。今回、執筆するに当たって参考にしたシーンは何?
勿論、エリアゼロステージでネージュがクラフトに攫われた直後の、ゼロがキャラバンの人間たちを諭すシーン。
特に「○○と何も変わりはないと思うがな・・・・・・」という台詞は、一番レジスタンスたちに言わせたかった台詞です。
私が読んできたオートマタ二次小説の中で、デボポポ救済はいくつか見たことありますが、あくまで匿ったりとか、庇ったりする形のものであって、レジスタンス側の意識そのものを変えさせるような形での救済は見たことがないんですよね・・・・・・。なら思い切って私が書いちゃえと。

以上。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。