NieR:ZERO   作:ナスの森

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脱出

 11Bの懇願が通じたのか、彼女の鋼刀を引き継いだ紅は動き出した。

 警報のような音を鳴らし、目を赤く点滅させながら11Bに迫る機械生命体に、一閃――コアごと胴体を真っ二つにされた中型の機械生命体は小規模な爆発を起こして息絶えた。

 仲間を破壊し、その爆破の光を背景に佇む紅い戦士を、機械生命体たちはようやく敵と判断する。

 ――自分たちの目的の障害となる存在だ、と。

 標的を11Bから紅い戦士へと切り替えた機械生命体たちは胴体に取り付けられた銃から球状のエネルギー弾を一斉掃射するが、紅い戦士はそれよりも早く動いた。

 迫り来るエネルギー弾を紙一重で掻い潜り、隊の前方にいた機械生命体の頭部に突き刺し、引き抜き際に横から奇襲をかけようとしていた中型機械生命体を切り裂く。

 その爆破を目くらましに、紅い戦士は更に突き進む。隊の奥へ、奥へと。

 その時だった――紅い戦士とその周囲を覆う巨大な影が出現した。

 その巨大な影の正体は、小型や中型よりも一層巨体の機体を持つ大型機械生命体だった。胴体ごと一回転させるほどの振りかぶりから、無慈悲に、紅い戦士めがけてその巨大な拳を振り下ろす。

 手応えにも似たナニカを感じた大型機械生命体は床に奥深くめり込んだその拳を引き抜くと――そこにあったのは、先ほどまで狙っていた紅い敵ではなく、彼の周囲にいた味方の機械生命体の残骸だった。

 ――ドコダ!?

 大型機械生命体がそう思考した瞬間――タン、と微かな足音が壁から聞こえると同時――加速する凶器(鋼刀)が雷撃のごとく、落ちた。

 大型が拳を振り下ろす直前、周囲の機械生命体を身代わりにした紅い戦士は、咄嗟に大型の背後にあった壁に飛び移り、ソレを蹴って背後から大型の胴体を急襲したのだ。

 壁を蹴った加速と落下による重力が加わり、その一閃を受けた大型は、その思考を最後に動作を停止し、二つに分かれた胴体が地面へ倒れ込む。

 同時に、小型や中型が倒れた時とは比較にならない程の、爆破を起こした。

 広がる焦熱、飛び散る破片。

 それにより、機械生命体たちの視界が一瞬だけ爆風と煙に覆われる。

 

 その隙に、紅い戦士は駆け出した。

 

「じっとしていろ」

「えっ、うわッ!?」

 

 爆風よりも早く、自分が目覚めた場所の傍で戦いを見守っていた11Bの傍へ駆け寄り、11Bの義体を鋼刀を握っていない方の腕で抱きかかえた。紅い戦士の口から発せられた精悍な声に一瞬呆然とした11Bであったが、抱き抱えられた途端に襲う風圧に思わず悲鳴を上げてしまった。

 11Bの義体を抱えながら、紅い戦士は往く道に邪魔な機械生命体のみを一刀していき、そのまま機械の群れの包囲網を抜け出す。

 11Bが元来た道を戻ると、11Bの視界にはいつもの工場廃墟地下の光景が映っていた。

 助かったことに安堵する猶予もなく、紅い戦士は11Bを抱えたままさらに工場廃墟の地下を駆ける。

 紅い戦士の動きは、バトルタイプのアンドロイドである11Bからみても凄まじいものだった。往く道に邪魔な機械生命体を一撃のもとに急所をなぎ払って停止させ、飛行ユニットがなければ上れぬ道があれば、壁を交互に蹴りながら意にも介さず上っていく。上っていく最中にも邪魔してくる飛行型の機械生命体が出現すると、それを足場にさらに加速させて上っていくのだ。

 片腕に11Bを抱えているにも関わらず、如何なる障害が立ち塞がろうと、紅い戦士の進撃を緩めることはできなかった。

 

「す、すごい・・・・・・」

 

 紅い戦士に抱えられたまま、思わず11Bは口から漏らす。

 ――まるで、風に乗っているかのよう。

 飛行ユニットに乗っている時の風とはまた違う。いうなれば、めまぐるしく方向を変える反射風。

 これが“実験”兵器? しかも旧世界の? ナニカの冗談かと疑いたくなる。

 何故、これほどの兵器が機械生命体の蔓延る工場廃墟地下に、長い間眠っていたのだろう。

 彼を作った“人間たち”は、一体何者だったのだろう。

 ――全部終わったら、聞いてみてもいいかな?

 まだ驚異は去っていない状況の中での自分の楽観的な思考につい自嘲してしまった11Bであったが、そう考えられるくらいには精神的な余裕を取り戻していた。

 

 あれから、どれくらい時間が立っただろうか。

 道を阻む機械生命体たちを退け、この広場に着いた11Bと紅い戦士。彼女の任務同行者であった2Bが9Sと“初めて”会った場所でもあり、そして本来彼女(11B)が息絶えていた場所でもあるのだが、それを二人が知るよしもなかった。

 その広場には激しい戦闘の痕跡があり、数十体もの機械生命体の残骸が転がっていた。

 更に注目すべきは、もとは日を遮っていたであろう壁に、ナニカに抉られた跡のような巨大な穴が開いていた。穴――というよりかは、大きすぎて屋内ではなく屋外と言えるような状態になってしまっている。

 

(・・・・・・多分、目標の超大型兵器との戦闘跡)

 

 ――部隊の皆は、ちゃんと生き残れたのだろうか?

 抉られた壁の跡から差し込む日差しを見ながら、11Bは自分が抜け出した部隊のメンバーの面々を憂う。

 抜け出した分際で虫のいい思考であることは百も承知だった。だが、11Bがバンカーを抜け出したいと思った理由は、ヨルハのみんなを嫌いになったからではない。バンカーを嫌いになりそうな自分に耐えられなかった・・・・・・故に安心できる場所が欲しかった。ただそれだけだったのだから。

 ・・・・・・そんなことを考えていたら、冷たい、ひんやりとした感触を11Bは背中に感じた。

 紅い戦士が、自分の義体を床に下ろしたのだ。

 

「ここなら、奴らも追ってこないだろう」

「あ、ありがとう……」

 

 周囲を見渡して警戒しながら言う紅い戦士に、11Bは礼を言う。

 彼の声を聞くのは、これで二度目だった。中性的な見た目に反して、彼の声は冷たい刃物のように研ぎ澄まされつつも、男らしい武骨さを秘めた声だった。落ち着いた所で改めてその声に聞き惚れてしまいそうになる11B。

 どうやらこの紅い戦士には、かつていた人間や、自分たちアンドロイドのような知性を備えているらしい・・・・・・でなければ、自分の助けにも応じなかっただろう。

 意思の疎通が可能であることに安堵しつつ、11Bは更にこの紅い戦士に話しかけようとした。

 

「ねえ、貴方は一体・・・・・・ッ!?」

 

 いつまでも地面に寝転がったまま話すのも失礼だと思い、動く方の片腕を使って立ち上がろうとして――突如、視界がぐらつき、力が抜けた11Bの体はまた床に崩れ落ちようとした。

 崩れ落ちる直前、紅い戦士が11Bの体を支えた。

 

「立てるか?」

「・・・・・・ハァッ、ごめん、むり、みたい・・・・・・」

 

 息も絶え絶えの声で11Bは答える。

 しかし、その体を支えてくれる紅い戦士の腕が、少し温かく、僅かばかりの安心を覚えた。

 鬼神のような戦いぶりを見せてくれた紅い戦士だが、本当は優しい兵器(ひと)なのかもしれない――と、11Bは柄にもなく考えた。

 ふと、11Bは自分の体を見やる。

 

「――あっ」

 

 この紅い戦士を目覚めさせた騒動で気付かなかったが、自分の義体の損傷はハッキングを行う前よりも更にひどくなっていた。

 ヨルハ制の黒い外套はとうに機械生命体の攻撃によって破壊され、一部の残った下着すらもが人工皮膚と共に黒く焼け焦げて一体化している、という有様だ。

 つまり、今の11Bは損傷した皮膚を晒した状態の、ほとんど全裸なのだ。

 ――こんな姿で、自分はこの紅い戦士に今まで抱えられていたのだ。

 ・・・・・・少し、恥ずかしくなってきた。

 

「うぅ~・・・・・・」

 

 悶える11Bであったが、その意味が分からない紅い戦士は訝し気に眉を顰めるだけだった。その視線が更に恥ずかしくなる11B。

 なまじ体を動かせないだけに、恥ずかしい部位を隠すこともできない。いっそのこと殺して欲しかった。

 ――ああ、これじゃ話が進まないじゃない。

 とはいえ、ずっとこの調子でいるわけにもいかなかった11Bは、羞恥心を無理矢理押さえつけて、紅い戦士に自己紹介もかねて今後の話をしようとした、が――。

 

 紅い戦士が、11Bの鋼刀を握り、11Bの視線の背後を睨み付けているのが目に入った。

 何事かと思い、11Bもまたそちらへ振り向く。

 そこにいたのは――11Bにとって見覚えのある顔だった。

 

「見つけたよ、11B」

 

 11Bの白銀と、対をなすような赤髪。ヨルハ制式の黒い外套に、背中に11Bのものと同じ鋼刀と大型の剣を携え、両目を隠す黒いゴーグルを身に付けた少女が、そこにいた。身長は11Bと同じ程度で、傍には彼女の随行支援ユニットと思しきポッドが浮遊している。

 

「セ、7E・・・・・・!!」

 

 撃墜されて再起動したばかりの11Bと交戦し、彼女の片腕を奪ったアンドロイド。11Bの裏切りに気付いた7Eが、一度は逃がした彼女を追ってここまでやってきたのだ。

 11Bを運んでいた紅い戦士の移動速度を考えると、二人が来た道をそのまま辿って追ってきたとは考え辛い。・・・・・・ということは・・・・・・。

 

「先回り、されてた?」

「9Sのマップ情報のおかげでね」

 

 7Eの口調は、元とはいえ、仲間に対するものとは思えぬほどに、冷静で、冷淡なものだった。

 9S――7Eの口から出てきた名前から、11Bは即座に今までの状況を推理する。9Sとは、今回の出撃時に、現地にて合流予定だったスキャナータイプのアンドロイドだ。正式名称「ヨルハ型9号S型」。その9Sがマップの解析に成功し、更に任務に同行していた筈の7Eがここに立っている。

 ・・・・・・そして、この広場の荒れ具合、来る道までに見た戦闘跡からして――。

 

「2Bたちは、任務を無事遂行したのね?」

「それを話す義理はない。裏切り者の、貴女には――」

 

 もう話すことはない、と言わんばかりに鋼刀を抜いた7Eは、一直線に11Bへ走り寄る。

 ポッドの射撃支援に頼らず、自らの手で葬ろうとする姿勢は、彼女なりの慈悲なのか。

 かつての仲間が刃を向けて迫ってくるという事態に、11Bは思わず顔をそらして目を瞑ってしまうが、そんな彼女の耳に入ったのは、自らの義体を切り裂かれる音ではなく、鋼同士が衝突する音だった。

 目を開けると、そこには7Eの鋼刀を同じ鋼刀で受け止める紅い戦士の姿があった。

 

「っ!?」

 

 一瞬、驚いたように口を歪める7E。

 邪魔されること自体には驚かないが、B(バトル)(タイプ)の戦闘能力を遙かに上回るE(処刑執行人)(タイプ)のアンドロイドである自分の膂力に拮抗してくる程の相手だとは思わなかったのだ。

 いや、拮抗している所か、これはむしろ――

 

「押される・・・・・・?」

『報告:アンドロイドとも、機械生命体とも異なる、正体不明の敵性反応。作戦推奨の障害となると予測。推奨:目標の前に、この正体不明の敵性反応の排除』

「了解・・・・・・!!」

 

 幸いにも、11Bは今自力では動けない程の損傷を義体に負っている。ならばとて、大人しく彼女に手を出すことを、目の前の正体不明の敵が許してくれるとは思えない。

 ・・・・・・アンドロイドでも、機械生命体でもないのに自分と渡り合ってみせるこの人型の兵器に興味がわかないわけでもなかったが、今は破壊が最優先だった。

 先に動いたのは紅い戦士の方だった。

 膂力で勝る紅い戦士は、7Eの義体ごと彼女の鋼刀を弾き飛ばし、さらに追撃する。7Eを撃破するよりも、11Bから距離を離すことを優先した結果の行動だった。そんな紅い戦士の行動を見た7Eは、この紅い戦士が11Bを守るため稼働しているということに、確信をより持った。

 

「くっ・・・・・・!?」

 

 響く剣戟。

 ポッドの射撃支援があるにも関わらず、7Eは押され始める。

 ポッドの絶え間ない射撃を鋼刀で捌き、掻い潜りながら、紅い戦士は7Eに接近し、容赦のなくその鋼刀を7Eへ振るい続けた。

 7Eも負けず反撃に出るが、受け流され、彼女の人口皮膚に切り傷が入る。

 

「ポッドっ!」

『了解』

 

 叫ぶ7E。それだけ支援対象の言いたいことが伝わったのか、紅い戦士めがけて再度射撃支援を行う。しかし、紅い戦士は意に介する様子もなく、絶え間ない射撃を掻い潜り、再度7Eに接近した。

 7Eは紅い戦士の鋼刀を片手の鋼刀で受け止める。膂力で負けている上、片手で受け止めたとあっては、このまま押されて切られてしまうくらいの勢いであったが――7Eは、その勢いを利用した。

 ポッドの射撃を捌くことに意識を割き、僅かにでも鈍った紅い戦士の斬撃を、7Eは己の義体ごと捻って受け流し――さらにもう片方の手で背中の大型剣を取る。受け流された紅い戦士の(ボディ)めがけて、捻った勢いを保ったまま、その大型剣を叩きつけた。

 

「――ッ!」

 

 戦いを見守っていた11Bの拳に力が入る。

 どうか、無事でいてくれと祈った。

 

 しかし、紅い戦士は更にその上を行っていた。

 舞い上がった粉塵が晴れた先には、地面に叩きつけられた大型剣の刀身の上に足を付けて立っている紅い戦士の姿があった。そして、大振りの攻撃の直後で隙のできた7Eの右腕を、容赦なく切りつけた。

 

「っ!?」

 

 義体の右腕に深く切り込まれる鋼刀の刀身。それにより大型剣を手放してしまった7Eに、紅い戦士の回し蹴りによる追撃が炸裂した。

 

「ガッ!?」

 

 義体中を駆け巡る衝撃。剣戟が自分(E型)を上回るならば、そこから繰り出される蹴りの威力は如何なるものか、想像は容易い。衝撃を受けた7Eの義体は吹き飛び、そのまま壁へと激突して、崩れ落ちる。

 

「くッ、うぅ・・・・・・!!」

『警告:敵機体の想定以上の戦闘能力。推奨:正面からの戦闘は避け、搦め手による攻略』

 

 言われなくても分かってる、と7Eは心中で悪態をつく。

 一方、7Eは蹴り飛ばした紅い戦士も己のボディについた、大型剣の僅かな掠り跡を一瞥し、7Eへの評価を改めた。

 ――どうやら、今までの奴らとは違うようだな。

 自分が守ろうとしている動けぬ少女(11B)は、彼女を7Eと呼んでいた。この7Eという名前が何かの型式番号なのだとしたら、彼女のような強さも持つ個体が複数いるということになる。

 ふと、彼女が落した大型剣が光の粒子へと変化し、彼女の背中に戻っていく現象が、紅い戦士の目に入った。どういう原理かは分からないが、武器の奪取による無力化は通じない相手のようだ。

 

『報告:右腕部の損傷が重大。武装の扱いは困難』

「・・・・・・ッ!!」

 

 ポッドの報告を受け、右腕に深く刻まれた切り傷を押さえる7E。皮肉にも、7Eが受けた右腕の切り傷は、彼女が11Bの右腕に付けた箇所とまったく同じだったのだ。

 それが、今までの己の所業の罪科のように感じた7Eは――こんな感情はいけないと(かぶり)を横に振り、立ち上がろうとした。

 

「ひとつ、聞きたい事がある」

 

 そんな矢先、近付いてきた紅い戦士が7Eを見下ろしながら、口を開いた。

 今まで会話がなかった相手から、それも敵から突然話しかけられ、7Eは思わず紅い戦士を見上げる。

 その行動を回答の意思ありと受け取った紅い戦士は、構わず質問した。

 

「なぜ、お前は彼女を狙う?」

 

 ――お前たちは仲間なのだろう?

 紅い戦士の言葉は、まるで言霊のように7Eに浸透した。

 紅い戦士とて、この二人の関係性を理解しているわけじゃない。ただ、今までの状況と、戦闘が始まる前の11Bと7Eの僅かな会話から、彼なりに彼女たちの関係を推測していた。

 

「・・・・・・話を聞いてなかったの? 彼女は部隊を抜け出した裏切り者。情報漏洩を防ぐためにも、処分するのは当然」

 

 興ざめな質問だと言わんばかりに、7Eは吐き捨てた。

 ・・・・・・まるで、自分に言い聞かせるように。

 しかし、紅い戦士はさらに踏み込む。

 

「・・・・・・確かに、他の仲間を思えばそれが最善なのかもしれない。だが――オレには、お前がそのような事をして平気でいられるような奴には…見えん」

 

 紅い戦士とて、確信を持って言っているわけではない。

 ただ、何となくそう感じたのだ。

 彼女と剣を交わし――そして、剣を介した動きから、どことなく迷いがあるように感じられたのだ。

 紅い戦士にとっては、ほんの素朴な疑問だったのだろう。

 

 しかし、その言葉は真っ直ぐ刃物となって、彼女の胸中を貫いた。

 

 ――私が、平気で仲間を殺すような奴には見えない?

 ――そんなわけ・・・・・・そんなはず・・・・・・?

 紅い戦士の些細な疑問が、7Eの胸中をかき回す。

 彼女はE型のアンドロイド。脱走や裏切り、組織の機密事項を知った疑いのあるヨルハ機体(仲間)を処刑するために用意された暗殺部隊の一員。

 そのために造られた、そのために存在しえた。

 そんな自分が今更、仲間を殺すことにためらいなどある筈もなく――

 

 ――本当に、そうか?

 

 再度、紅い戦士から聞かれた疑問が頭を過ぎり、内心で自問する7E。

 仲間の赤い血で汚れた刀を握る自分の手は――いつも、()()()()()・・・・・・。

 

「貴方に・・・・・・」

 

 拳を握る7E。

 そこから先は、もう考えたくなかった。

 

「貴方に、何が分かるっていうのっ・・・・・・!」

 

 飛び起きた7Eは、感情のままに片手に鋼刀を握って紅い戦士に斬りかかった。

 同じく鋼刀で受け止める紅い戦士。

 片手しか使えない彼女の膂力は先ほどと打って変わって大きく落ちている。しかし、今の彼女からはソレ以上の気迫を、紅い戦士は感じ取っていた。

 

「そうよ、仲間よ」

 

 今まで、何度も、何回も、何体も殺してきた。それが、バンカーの、他の仲間のためだったから。

 今回だって、そうだった。11Bには、かねてからヨルハの機密情報に触れた疑いがあった。だから、今回の出撃で敵の攻撃による撃墜と見せかけて処分する予定だった。

 だが、あまりにも早い11Bの撃墜に疑問を持った7Eもまた、彼女と同じように撃墜された体を装って11Bを追った。案の定、11Bは生きており、ようやく彼女の脱走計画を知った7Eはとうとう彼女の処分に踏み切ったのだ。

 彼女の片腕に重傷を負わせ、あと一歩の所まで追い詰めたものの、機械生命体たちの乱入により逃してしまい、ここまで追ってきたのだ。

 ここまで来て、逃すわけにはいかないのだ。

 

「仲間だからこそ、()()()()()()()()()()()・・・・・・」

 

 7Eの視線が、紅い戦士から外れる。

 それを機敏に感じ取った紅い戦士もまた、その視線の先を追うと、そこには彼女の随行支援を担当するポッドがあった。

 そのポッドの銃口の先は紅い戦士の背後――つまり、倒れて動けない11Bの方へ向けられていた。

 

「!!」

 

 紅蓮の火を吹くポッドの銃口から、弾幕が発射される。

 目を見開いた紅い戦士は即座に7Eの鋼刀を払い飛ばし、弾より速く、11Bの元へ駆け寄ると、彼女を守るようにしゃがみ込み、両腕を広げてその背中に弾を受けた。

 

「ッ!?」

 

 口元を押さえ、言葉を失う11B。

 紅い戦士の背中、腕、ヘルメット後頭部に受けたいくつもの被弾箇所から、ジュ~、と音を立てて細い煙が舞い上がる。

 

「怪我はないな?」

 

 にも関わらず、彼は表情ひとつ変えず、自身を省みることなく此方の安否を気遣ってきた。

 実際に装甲にダメージを受けたわけではないのだろうが、その姿に頼もしさと、痛々しさを11Bは感じてしまった。

 頷こうとした11Bであったが――直後、大型剣を構えて背後から高速で迫り来る影が目に入った。

 

「あ、危ないッ!」

 

 背後から紅い戦士に斬りかかるのは、片手に大型剣を携えた7Eだった。

 この機を待っていたのだろう。戦闘で叶わないのならば、無理矢理隙を作り出して、標的ごと処分すればいい、という結論に7Eは行き着いたのだ。

 なりふり構わぬ、といった気迫を発しながら、7Eは紅い戦士を11Bごと両断せんと、その大型剣を振るい。

 

「なッ――」

 

 その刃は、紅い戦士の片手によって容易に受け止められた。

 右腕で11Bを守るように抱え、もう一方の腕で7Eの大型剣を受け止めた紅い戦士は、逆にその刀身を掴み、7Eごと、空中へ放り投げた。

 宙へ上げたことで7Eの一時的な無力化を確認した紅い戦士は11Bの義体を再び床に置き――鋼刀の柄を握って、7Eを追うように高く、跳び上がった。

 7Eの身の安全を最優先すべきと判断した彼女の随行支援ユニット「ポッド」が、宙にいる7Eへ迫る紅い戦士の前へ塞がるが、紅い戦士は逆にその箱体を掴み、それを軸にボディを前方へ一回転、その箱体を足場に着地し、もうひとっ跳び。

 宙にいる7Eの上まで跳び上がった紅い戦士は、落下しゆく7Eへ、その鋼刀を振り下ろし――

 

 一閃。

 

「ガ、アァッ!?」

 

 深く刻み込まれた義体の傷からスパークを起こしながら、7Eは悲鳴を上げて床に追突する。

 勝負ありだ。11Bから見ても、7Eは最早まともに動ける状態ではない。何せ大型の機械生命体でさえ両断せしめた一撃だ。E型といえど無事で済む筈がない。

 

『警告:義体に致命的な破損。推奨:直ちに撤退し、修復、体勢を立て直す』

「ハァッ、ハァ・・・・・・どう、して・・・・・・」

 

 警告を鳴らすポッドの音声を尻目に、7Eは傷を押さえながら義体をなんとか起こして、紅い戦士を睨み付ける。

 

「どう、して・・・・・・殺さない!?」

 

 先の一撃を、その動きを、7Eは見逃していなかった。

 その気になれば、自分のブラックボックスごと切り裂くことだってできたであろうに――あろうことか、紅い戦士は意図的にソレを外していたのだ。

 いっそのこと一思いにやってくれれば、()()()()()()()

 

 7Eと同じくまともに動けない体である11Bは、そんな7Eを見て、ようやく理解した。

 ――彼女も、同じなんだ。

 自分と同じように、己のあり方に苦しんで――いや、もしかしたら自分と比べるなどおこがましいくらいに、長い間、苦しんできたのかもしれない。

 

「7E、もう・・・・・・やめよう・・・・・・?」

 

 気がつけば、そんな言葉が出てきた。

 

「11B・・・・・・?」

 

 どんな言葉をかければいいのか分からない。

 ただ、お互い動けない程の損傷を負って、同じ地平線に立って、ようやく理解したのだ。だから、11Bはただ自分の想いを言葉にした。

 

「ヨルハは、間違ってる」

「ッ!」

 

 びくりと、7Eの義体が震える。

 彼女だって、本心ではそう思っている筈だ。彼女が知ってしまった側である自分を処分する立場であるということは・・・・・・逆に言えば、知ってしまっている立場でもあるということ。

 

「私たちは、自分の在り方は自分で決められないかもしれない。けど、それが偽りだと分かってそう在れる程、人形でもない。そう、でしょう?」

「・・・・・・るさい」

「一緒に、逃げよう。こんなの、()()()()()、絶対間違って――」

「うるさいっ!」

 

 説得を試みる11Bであったが、7Eの叫びが遮る。

 叫んだ7Eは、義体に残る力全てを振り絞り、鋼刀を杖代わりにして立ち上がる。

 息も絶え絶えながら、その目には気迫じみた脅迫観念のようなものが宿っていた。

 

「私は、間違ってなんて、ない・・・・・・もし、間違ってたら・・・・・・私は今まで、何のためにっ!!!」

 

 何のために、多くの仲間を殺してきたんだ!

 そうだ、自分は間違ってなどいない。間違っていたなんて、()()()()()()()

 

『警告:これ以上の戦闘行為の続行は、7Eの生命に関与する。推奨:撤退』

「ポッドは黙ってて! 私は、私はぁっ!」

 

 最早ポッドの忠言にも耳を貸さず、7Eは辿々しい動きで紅い戦士に走り寄る。

 決して生かしてはおけない――己の行為を間違いだと断言した仲間(11B)も、そのきっかけを作った紅いイレギュラーも――彼らを葬り、自分は間違っていないのだと証明するのだ。

 機械生命体の敵性反応を連想させるゴーグルの下から()()()()()をぎらつかせる7E。

 二人のやりとりを見守っていた紅い戦士であったが、11Bの説得が失敗に終わったとみるや、先ほどの下手は打つまいといつでも11Bを守れる位置に立ちつつ、7Eを迎え打とうとした、その時。

 

 壁の穴から見える景色に、巨大な水しぶきが舞い上がるのが、一同の目に入った。

 轟音とともに大きく揺れる建物――その水しぶきとともに、それは、現れた。

 

 海の中から現れたのは、巨人だった。

 

 いや、もとは工場の施設の一部である建物だったのか、まるで建物そのものが変形したかのような形状を持つ巨人。

 海の向こうから現れたソレは、鍔迫り合う7Eと紅い戦士めがけて――先端にバケットホイールが取り付けた、その巨大な(かいな)を振り下ろした。

 目を見開く3人。特に2Bたちの作戦成功を明確に知らされていた7Eは目に見えてその動揺を隠さない。

 

「バカなっ!? 目標の大型たちは2Bたちがすべて――」

「下がれ!」

 

 後ろで見守る11Bのみならず、動揺する7Eにも呼びかける紅い戦士であったが、巨人の腕はその巨体に似合わぬ早さ――いや、巨体だからこそというべき早さで、この広場の壁に開けられた穴を更に上書きせんといわんばかりに、振り下ろされる。

 いとも容易く抉り取られていく鉄の壁と床。咄嗟に背後の11Bを抱えてその腕から逃れた紅い戦士であったが――

 

 一人、そこから逃れられなかった者がいた。

 

「ア、ア“ぁぁア”ぁア“ア”ぁア“ぁぁア”あア“ぁア”ッ!!!」

 

 その義体を、回転する巨大な車輪に押しつぶされながら、悲鳴を上げるのは――

 

「7Eぃ!!!」

 

 紅い戦士に抱えられながら、11Bが叫ぶ。

 さすがはB型のスペックを上回るE型の装甲と称えるべきか。紅い戦士との戦闘で致命的な損傷を負った状態で、巨人の腕に押しつぶされようとしている状態でも尚、彼女は即死せずにいた。いや、()()()()()()()

 義体が押しつぶされるごとに、あらゆる機能が破壊されていき、7Eの視界センサーはノイズと機体ダメージの警告メッセージで埋め尽くされる。

 そんな苦痛地獄の中で、彼女は動く方の片手を、伸ばした。

 同じく、片手を伸ばす11Bの方へ。

 

「タズけ、て・・・・・・お願い!助けてッ!・・・・・・ワタしダって・・・・・・ホン、トウ、ハ――」

 

 最後に、機械生命体のような機械音声の片言だけ残して――7Eの義体は完全に押しつぶされた。

 あっけなく、B型を上回るE型のアンドロイドは、巨人の手に容赦なく断罪された。

 ブラックボックス信号は完全に途絶え、人格データごと粉々にすり潰され、彼女は息絶えた。バラバラになったパーツは車輪の回転に巻き込まれ、更に塵となって霧散していく。

 

「あ・・・・・・ぁぁ、セ、セヴン、イー・・・・・・」

 

 痙攣まじりの音声を発する11B。

 ――私の、せいだ。

 私が真実を知ったから。私が脱走なんて企てたから。7Eは、私を始末するためにこんな所に来なければならなくなった。

 私さえ、いなければ。7Eは、こんな所に来ずに済んだのに。

 

「ッ、うぅッ・・・・・・」

 

 ポッドも、7Eも、自分のせいで、死んだ。

 どうして、こうなる?

 自分は、生きたかっただけなのに。・・・・・・偽りから逃げることの何が悪い? ・・・・・・真実を求めることの何が悪い? ・・・・・・これが、その行動の代償だとでもいうのか。

 

 ――もう、何もかもがどうでもいい。

 

 そう思った矢先、11Bは、再び風を感じた。

 直後、また冷たい床の感触に晒された。

 唖然となった11Bは見上げる。自身を守るように立つ、黄金の長髪を靡かせる紅い戦士の背中を。

 

「駄目・・・・・・」

 

 咄嗟に手を伸ばし、叫ぶ。

 

「お願い、私を置いて逃げてッ!!」

 

 必死の懇願だった。

 なんて自分勝手な女なんだろうと思う。助けを懇願しておきながら、今度は逆に見捨てろと言っているのだ。

 けど――もう、ごめんだった。

 自分のせいで、誰かが死ぬのはもう耐えられなかった。

 

 だが、紅い戦士に11Bのその懇願を聞き入れる意思はなかった。

 深く考えたわけじゃない――ただ、11Bと同じく、紅い戦士の目にも7Eの最期の光景が焼き付いていた。

 己の感情を押し殺しながら任務を遂行し続け、最期には必死に助けを求めながら死んでいった、少女の慟哭が頭から離れなかった。

 

 後ろの11Bと呼ばれる少女にも、同じ目に遭わせるわけにはいかない――それは、紅い戦士が、目覚めてから初めて見せた確固たる意思だった。

 

「――来い」

 

 静かに、力強く宣言する鋼刀を握る紅い戦士に対し。

 海上から巨体を晒し出し、工場の外から彼らを見下ろす超大型機械生命体――エンゲルスもまた、次の標的を紅い戦士に定め、再びその腕を振り下ろした。

 




あ・・・ありのまま今起こったことを話すぜ?
「オレはゼロを活躍させたいのと、11Bがあまりにも可哀想だったからこの小説を書き始めたんだ。そしたらいつのまにか11Bの代わりに7Eがめっちゃ可哀想な死に方をしていた」
な・・・・・・何を言っているのか分からねーと思うが、オレも何故こうなったのか分からなかった。
頭の中でキャラが勝手に動いていて、どうにかなりそうだった。
・・・・・・7Eも救済したくなる衝動で駆られそうになっちまいそうになった・・・・・・。

次回、ようやくZセイバーを抜きます
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