NieR:ZERO   作:ナスの森

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幕開ケ

 その巨人こそ、11Bたちが倒すべきだった目標の超大型兵器。7Eによれば、2Bたちによって全滅させた筈だが、まだ未確認の個体が生き残っていたらしい。作戦途中で抜け出した11Bは、この大型兵器を目にするのは初めてになる。故に、口を開けたまま、その巨体さに圧倒されるばかりだ。

 水没した地帯の水底から立っているにもかかわらず、その全長は周りの工場の施設と比べても大差ないではないか。

 2Bたちは、こんなのを相手にしていたというのか?

 しかも7Eの口ぶりからして、複数体はいたと思われる。こんな巨体の敵複数を全滅させるなんて――よほどの無茶をしなければ・・・・・・・と、そこまで考えて、11Bにある事が過ぎった。

 これほど巨大な大型兵器を複数全滅させられるような手段――それはもう“アレ”しか――!!

 

「逃げて、お願い!」

 

 再度、11Bは紅い戦士の背中に向けて叫ぶ。

 おそらく、2Bたちはブラックボックス反応による自爆を行ったのだろう。確かにあれならば、この大型兵器の群れであろうと一カ所に集めさえすれば一網打尽にすることは可能だろう。ヨルハ部隊は最新式のアンドロイド部隊だ。彼らの記憶データは本拠地であるバンカーに保管されており、万が一死亡してもバンカーにバックアップされていたデータさえあれば、“ほぼ”同一の個体として蘇ることはできる。

 おそらく、バンカーにも11Bのバックアップデータはあることだろう。だが、十中八九、それで蘇った“自分”は、今の自分とは異なるであろうことは11Bには容易に予測できた。上層部が7Eを11Bと同じ部隊に配属させた意味が今でも分からないほど、11Bは愚かではない。真実を知る11B(いまのじぶん)は都合が悪い存在で、人類の為に戦う11B(いぜんの自分)こそが、バンカーが望む11Bに他ならない。今の自分を失う事は、11Bにとっては紛れもない“死”だ。

 ・・・・・・それでも、蘇れるのならばまだ御の字なのだろう。

 だが、彼は違う。

 再起動したばかりで、それも幾数千年前の機械兵器の記憶データのバックアップなどある筈もない。

 

 ―――なのに、なぜ・・・・・・。

 

『コロス・・・・・・・コロス・・・・・・』

「・・・・・・」

 

 ――なぜ、聞いてくれないの?

 

 紅い戦士は、11Bの懇願に聞く耳を持ってはいなかった。

 鋼刀を構えたまま、片言で殺意を伝える巨人――エンゲルスを見上げている。誰が見ても絶望的な状況の中で、紅い戦士は巨腕を振りかぶるエンゲルスをただ、真っ直ぐ見据えた。

 車輪のごとく回転する巨大な凶器が、紅い戦士に振り下ろされる。

 それを真っ向から受けて立つ気は紅い戦士にはない。地面を蹴り、横に移動して凶器を紙一重で躱した。無論、エンゲルスもこれで終わらせるつもりはない、腕先の凶器のみならず、手首にも回転機構を備えたソレは、手首ごと車輪の凶器を横向けに倒し、そのまま横に避けた紅い戦士をなぎ払わんとした。

 紅い戦士は体をしゃがみ込ませて地面と凶器の間に潜り込み、床を蹴ってそこから逃れる。

 あの巨体をどう退けるかを思考する紅い戦士であったが、まずはあの目障りな(かいな)をなんとかするのが先決と判断し、振り向き際に巨人の車輪機構の――外部パーツの隙間に鋼刀を差し込んだ。

 

 回転する巨大な刃と鋼の刃がぶつかり、爆発の規模がある程の火花が飛び散る。その火花を、紅い戦士は物ともしなかった。

 しかし――紅い戦士は、押され始めた。

 

「ッ・・・・・・」

 

 初めて、紅い戦士に苦悶の表情が表れた。

 踏ん張ろうとするが、紅い戦士の体は足と地面の間に摩擦による火花を立てながら後退していく。刃の回転は紅い戦士の鋼刀に止められているが、それはそれとして押されてしまうのだ。

 このままでは側面の壁と巨人の腕先の凶器の間に押しつぶされると判断した紅い戦士は、鋼刀でその凶器を受け止めながら、体を下に捻り込ませる。

 凶器の下に潜り込んだ紅い戦士は、受け止める鋼刀を力一杯、凶器に押し込んだ。

 アンドロイドと同じサイズしかないにも関わらず、紅い戦士はその膂力を持って、その回転する刃の一部を断ち切り、車輪機構そのものに切れ込みを入れる。

 

 火花の乱舞が絶えず散り続ける。

 このままではじり貧だと、エンゲルスは判断したのか、彼はその腕を一端退けた。

 巨人の腕が遠ざかることを確認した紅い戦士は、僅かにできた時間で己のコンディションを省みた。

 ボディにダメージはない――だが、この刀のリーチではあの凶器の奥深くまでにダメージを届かせることはできない。

 どうするべきか――と、思考する紅い戦士であったが、巨人はその時間など与えなかった。

 巨人が次に狙いを定めたのは、紅い戦士の背後で戦いを見守っていた――11Bだった。

 

「ッ!!」

 

 その狙いに気がつくも刹那、気がつけば巨人の腕は再び振り下ろされ、腕先の車輪の凶器が紅い戦士のボディを通り過ぎ、11Bの元へ突き出されようとしていた。

 奥の壁の影にいた11Bはそのままその凶器に押しつぶされようとして――そこで、巨人の腕は止った。

 

「あ、え・・・・・・?」

 

 次々と移り変わる状況に11Bは最早理解が追いついていなかった。

 11Bの目前まで迫っていた巨人の腕先の凶器――それは、その下に潜り込んでいた紅い戦士の突き出した刃によって、停止したのだ。

 突き刺された箇所からはスパークが発生しており、先ほど紅い戦士に切れ込みを入れられた時よりも深く刃が食い込んでいることは確かだった。

 

 それもその筈、紅い戦士のその手に握られているのは、11Bから受け継いだ鋼刀ではなく――7Eの形見である、大型剣だった。

 腕の動きが止まったその隙を、紅い戦士は見逃さない。

 突き刺した大型剣を引き抜き、さらにもう片方の手に先ほどまで握っていた11Bの鋼刀を再び握り、続けざまに巨人の凶器を切りつけていく。

 その一閃ひとつで、一体何体ものの機械生命体を葬れることだろうか――その連撃を紅い戦士は容赦なく巨人の腕先の凶器に浴びせていく。

 所々からスパークを起こす巨人の腕先の凶器は、再び紅い戦士と11Bの前から退かれていった。

 

「うそ・・・・・・」

 

 紅い戦士の背中を見つめ、思わず11Bは口からそんな一言を零した。

 その目に映る光景一つ一つが信じられなかったのだ。

 ――動けない自分を守りながら、あの化け物の腕を退けた?

 そのようなこと、あり得るはずがない。

 けど、これなら、もしかしたら――彼は、あの巨人を本当に倒してみせるかも知れない。

 そんな淡い期待を抱いた11Bであったが――その直後のエンゲルスの行動によって、それは瞬く間に打ち砕かれた。

 

 体を固定させるようにしゃがみ込んだエンゲルスは、その巨体と相してアンバランスな程に小さい頭部パーツを展開させると――そこから、無数のエネルギー弾による弾幕が二人に向けて発射された。

 

「そ、そんな・・・・・・!?」

 

 さすが11Bを置いて単身で戦える状況ではない。動けない11Bの義体を抱え、紅い戦士は鋼刀で迫り来る球状のエネルギー弾を捌きつつ、11Bを守り通さんとする。

 その弾幕が終ぞ11Bを抱える紅い戦士を捉えることはなかったが、このままでは紅い戦士も攻勢に出ることはできない。

 いや――そもそもとして、ポッドを失い自身も動けない11Bはもちろんの事、目覚めたばかりの紅い戦士も何一つとして、遠距離の敵を攻撃する手段を持っていないのだ。

 巨人が二人に攻撃を仕掛けることができるのはその巨体故。それと比べて蟻にも等しい大きさしかない紅い戦士にできるのは、精々その攻撃を迎え撃つことくらいで、エンゲルスへの有効な攻撃手段は何一つとして持っていなかったのだ。

 

 ふと、弾を回避する紅い戦士の腕に抱えられていた11Bの目に、さらに絶望的な光景が目に入った。

 巨人が、展開させた頭部パーツから放つ弾幕とは別に、その中心――人間でいう所の口の部分に、膨大なエネルギーを充填させているのが目に入った。

 圧縮されていくその紅いエネルギーに、11Bは見覚えがあった。

 

 あの光は――12Hと、そして自分の飛行ユニットを撃墜せしめた、レーザー砲と同じ物ではないか、と。

 

「ダメ・・・・・・」

 

 今度こそ、駄目だと11Bは思った。

 もうここまでだ、彼では、あの巨人には勝てない。

 なんとしても、自分を置いて行かせてでも、彼だけは死なせてはならない!

 どうせ、自分はまた蘇る。それはきっと、今の自分じゃないだろうけれど、それでも何も知らぬ真っ白な状態でやり直すことができる。

 だが、彼は違うのだ。

 

0()()、もうダメ!! 早くしないと――」

 

 紅い戦士を何と呼んでいいのか分からなかった11Bは、とりあえず彼の型番であろう呼び名を使い、自身を置いて逃げるように叫ぼうとするが、遅い。

 11Bがそれを言い終わるよりも早く、その閃光は――二人の元へ、炸裂する。

 弾幕のせいで、その奥から迫り来る光の咆哮に反応が遅れる紅い戦士。いや、そもそもまともに反応ができるような速度ですらない。

 

「逃げ――」

 

 かろうじて直撃は避けたもの、その閃光は二人の足下の床に着弾。

 炸裂する紅い閃光、工場全体を揺らす程の振動と、轟音を立てて、辺りを紅蓮が包み込んだ。

 

「う――」

 

 衝撃のあまり、暫し断絶(シャットアウト)していた11Bの意識は再び覚醒する。

 無機質な部品でできあがった人間モドキの義体(ボディ)は、それが信じられない程に暑く、そして言いようのない焦燥を煽った。

 

「あ・・・・・・わた、し・・・・・・何で、生きて・・・・・・」

 

 同時に、先ほどの光景を思い出した彼女は、即座に疑問を抱いて辺りを見回した。

 ――いつの間にか、自分の体はこの広場の隅っこにまで放り出されていた。

 そして、その肝心の広場の中心はというと――天井までもが崩れ落ち、そこから落ちてきたであろう無数の瓦礫が、床全体を押しつぶしていた。

 

「あ、あぁ・・・・・・ゼ、ゼロ、号・・・・・・?」

 

 信じたくは、なかった。

 けれど、アンドロイドである11Bは、嫌でもそれを理解した。

 あんな凄まじい攻撃を受けて、生きていられる筈などない。それなのに――自分がこの広場の隅に投げ出され、瓦礫に埋もれることなく生きている意味。

 それが分からない程、11Bは愚かではなかった。

 

「い、いや・・・・・・ゼロ、ご・・・・・・!!」

 

 ――お願い、返事をして。

 呟き、11Bはかろうじて動く片手だけで床を這いずり、瓦礫の前まで移動しようとする。

 きっと、彼はあの瓦礫の中に埋まってしまったのだ。

 その気になれば我が身だけでも逃げることができたであろうに――彼は、11Bを助けるために、自身の生命を放棄して11Bだけを爆発範囲から無理矢理避難させたのだ。

 我が身を、犠牲にして。

 

『コロス・・・・・・コロス・・・・・・』

 

 エンゲルスの、籠もるように響く機械音声が、11Bの耳に浸透する。

 巨人はまだ、標的の破壊をやめようとしてはいない。

 紅い戦士を始末した次は――いよいよ本命である11Bだ。

 

「・・・・・・フフ、あはは・・・・・・」

 

 11Bは、絶望に項垂れた。

 ――ああ、もう、終わりだ。

 こんなものが、自分の最期なのか。

 もう、笑うしかない。任務を放棄し、仲間(12H)を見捨て、7Eまでも巻き込み、そして最後に――何の関係もない彼までもを犠牲にしてしまった。

 周囲に迷惑をかけるだけかけて、最後には一人何もできずに終わる。そんなモノが、自分の最期なのだ。

 惨めすぎて、笑うしかないだろう。

 

 ――ああ、けれど・・・・・・。

 

 再び、巨人の展開された頭部に、赤いエネルギーが充填していく。

 

 ――これでまた、何も知らなかった自分に戻れるかな?

 

 迫り来る赤い光を前に、11Bはそんなことを考える。

 

 そして――赤い光が一人の哀れなアンドロイドを飲み込む直前、その光は()()()()が遮った。

 

「・・・・・・え?」

 

 床を反射して目に入った別の色の光りに、11Bは思わず見上げる。

 まず目に入ったのは――凄まじい爆破と共に、()()()()()()()()。そして、目の前にあった――もう、死んだと思っていた筈の者の背中。

 靡く金髪相まって、まるで燃えているかのような錯覚を起こさせる赤いボディと。

 ――そして、その手に握られていた、()()()()()()だった。

 

 

     ◇

 

 

 暗い、昏い、瓦礫の底。

 そこに、赤い戦士のボディーは埋もれていた、巨人の放ったレーザー攻撃が足下に着弾し、間一髪11Bを安全地帯に放り投げて、彼女の命を救った彼であったが、そんな彼自身はあまりにも凄まじい攻撃に晒されて意識を失い、そのボディーは落下してきた瓦礫に埋もれてしまった。

 そんな彼の意識は今、闇の底にあった。

 目覚めてすぐに、自分を目覚めさせたであろう少女を守るために、彼は考える猶予もなく武器を手に取って戦った。

 それでも、目覚めたばかりの彼でも、戦うのにはっきりとした理由はあった。

 ――まず、助けを求める少女の涙を見た。

 ――その次に、助けられなかった少女の慟哭を聞いた。

 ――だから、助けた少女を同じ目に遭わせんと、戦ったのだ。

 

 それなのに――()()、自分は守れないのか?

 

 あの時と同じように・・・・・・・いや、()()()とは、何だ?

 そもそも自分は一体何者なのだ。

 一回だけ、自分を目覚めさせた彼女は、自分のことを「ゼロゴウ」と呼んでいた。

 ――ゼロゴウ・・・・・・0号、か。

 つまる所、自分は何者かに造られた兵器、ということになるのだろう。

 

 そうだ、自分はきっと、戦うために生まれた兵器なのだ。

 なのに・・・・・・何故、助けを求める少女一人さえ救うことができない?

 

 何故、自分にはあの巨人を打ち倒す力がないのだ?

 しっかりしろ0号、お前には本当にアレを退ける力がないとでもいうのか!?

 結局オレは、何もなせぬままこの暗闇の底で朽ちていくのか!?

 

 

 

 

“・・・・・・・・・・あるよ”

 

 

 

 

 ・・・・・・なに?

 

 

 

 

“・・・・・・力なら、ある”

 

 

 

 

 誰だ?

 力があるとは一体?

 

 

 

 

“君はいつもその力を、君自身の意思で使ってきたじゃないか”

 

 

 

 

 何を言って――!?

 

 

 

 

“その力は、今も君の中にある”

 

 

 

 

 オレの、中に?

 

 

 

 

“ああ、思い出すんだ。君は既に、その力を手にしている”

 

 

 

 

 待て、お前は一体?

 

 

 

 

“彼女を、助けたいんだろう? なら、早く・・・・・・”

 

 

 

 

 ・・・・・・

 

 

 

 

“そうだ。落ち着いて、探してみるんだ。君の力は決して君を裏切ったりなんてしない。たとえ忘れようと、その体は覚えているはずだよ”

 

 

 

 

 これ、は――嗚呼。

 

 

 

 

 覚えている。

 知らないはずなのに、確かに自分はこの力を使い、長い時間戦ってきたような気がする。

 初めて手にした筈なのに、手元の光はまるで待っていたと言わんばかりに、自分の手中で輝いていた。

 

 そうだ、これならば――!!

 

 

 

 取り出したのは、白い筒状のナニカ。

 一件、何の変哲も無い筒に見えるソレだが、紅い戦士は迷いなくその筒にエネルギーを込めた。

 ありったけの魔素が送り込まれたソレは、筒の穴から翠色の光を放つ。

 

 

 そして、その光と共に瓦礫を吹き飛ばした。

 

 

     ◇

 

 

 もう駄目かと思っていた。

 自分の起こした行動全てが無駄になるばかりか、かつての仲間たちまで死に追いやってしまい、ここで朽ち果てるのが定めなのだと思っていた。

 だが、自分を断罪すると思っていた赤い閃光は、突如表れた翠色の閃光に遮られた。

 11Bを巨人の放つ赤いレーザーから守ったのは、瓦礫を吹き飛ばして11Bの元まで駆けつけた紅い戦士だった。

 翠色の光りを放つビームで構成された刀身を持つ、一振りの剣。

 その剣はエンゲルスのレーザーを弾くだけでは飽き足らず、エンゲルスの方へ跳ね返し、その巨大な腕を一本まるごと海に沈めてみせた。

 

「―――――ッ」

 

 その背中を見た11Bは、思わず息を呑む。

 その光る刀身の正体は、見るだけでも膨大なエネルギーが凝縮した姿であることが分かる。エンゲルスの光の咆哮を跳ね返したことからもその強大さが窺えた。

 

 その力を直に受けた巨人もまた、このままではまずいと思ったのか、先ほどよりも濃密な弾幕を浴びせんと、その展開した頭部パーツから銃口を向けるが――紅い戦士は、それよりも早く動いていた。

 新たに手にした武器だけではない。魔素の扱いを思い出した紅い戦士の体は、先ほどまでの苦戦が嘘であるかのようにその動きが違う。

 工場の中から飛び出し、外の錆びた鉄の壁を一瞬のうちに何度も蹴りながら登り、ついには巨人の頭の上くらいまでの高さに登ると――そのまま壁を足場に跳躍。

 狙うは――巨人の脳天。

 光の咆哮をはじき返し、その腕を逆に奪って見せた光の剣を携え、頭上から肉薄する。

 

 巨人――エンゲルスはさせるかと言わんばかりに、肩からミサイルを発射して迎え撃つが、紅い戦士を空中で身を翻すと。

 ソレを足場にさらに加速させた。

 迫り来るミサイルを足場に加速を繰り返し、ついに紅い戦士は巨人の頭上にまで迫る。

 最早、ミサイルでは間に合わないと判断した巨人は、再び光りの咆哮を放たんとその口の銃口にエネルギーを溜めるが、遅い。

 翠色の刀身がそれよりも早く――

 

 エンゲルスの頭部をその銃口ごと真っ二つに切り裂いた。

 

 

 二つに割るには明らかに刀身が足りないであろうにも関わらず、その一閃は巨人の頭部を両断せしめた。

 その直後、充填されていたエネルギーが捌け口を失った事で暴発し、その衝撃は巨大の全身に行き渡り、各所で爆発を起こす。

 

 崩れ落ちる巨体は、複雑に組み合った部品同士の摩擦で悲鳴のような駆動音を軋めかせ、そのまま海上に没した。

 

 

 海上に没しゆくエンゲルスを背景に、その図体から飛び降りて11Bの元へ着地する紅い戦士。

 11Bはただひたすら、口を開け、呆然とその光景を見ることしかできなかった。

 

「た、倒したの? あの、化け物を・・・・・・?」

「・・・・・・ああ」

 

 震える喉を必死に動かす11Bに対し、紅い戦士は平然と答える。

 今まで見たことが、まるで明晰夢のように信じられなかった。

 この目でしかと見て、記憶領域に刻み込んだ今でさえ、信じることができなかった。

 

「本当に、本当に、倒したの?」

 

 再度問う11B。紅い戦士もまた再度コクリと頷く。

 

「頭上からセイバーで叩き斬った。もう、動くことはないだろう」

 

 11Bを安心させようとしているのか、紅い戦士の声は幾分か柔らかいものとなっていた。

 その暖かい声で、ようやく自分が助かったのだという事実を11Bはすとんと胸中に受け入れる。

 途端に、視界がノイズに塗れてきた。

 否、ノイズではない。自分の目から出てくるナニカに、視界が遮られているのだ。

 

「うぅ、ああぁ・・・・・・!」

 

 その涙には、様々な複雑な感情が入り交じっていた。

 ――助かった、という安堵。

 ――助かってしまった、という罪悪感。

 脳裏にヨルハの仲間たち、自分のせいで死んでしまったポッドや7E。

 そして、そんな自分を助けてくれた、夢のような英雄(ヒーロー)

 

 どんな思いを抱けばいいのかすら、11Bは分からなかった。

 

 突然泣き出した11Bが心配になった紅い戦士は、ゆっくりと11Bの元へ歩み寄り、しゃがみ込んだ。

 

「どこか調子でも――っ」

 

 心配して言いかけたその時、11Bは片手を伸ばし、紅い戦士の体にソレを回す。

 そしてそのまま、紅い戦士の胸に顔を埋めた。

 抱きついた片手で起こした上体を支えるのは困難であろう。にも関わらず、11Bは紅い戦士の体を離さなかった。

 

「ごめんなさい・・・・・・ありがとう、ありがとう・・・・・・ごめんなさい・・・・・・・もう少し、こうさせて・・・・・・」

 

 謝罪と感謝の言葉を繰り返しながら片手で抱きついてくる11Bの体を、紅い戦士もまた自身の腕を11Bの体に回して支える。

 絶えず、「ありがとう」と「ごめんなさい」を繰り返す11Bの心情は、紅い戦士には計り知れない。

 ひどい目に遭わせてしまった後輩、死なせてしまった相棒と仲間、そんなどうしようもない自分を助けてくれた目の前の彼。

 最早後戻りの効かない身となった彼女は、いろいろ絡み合った感情を紅い戦士に吐き出すより他なかったのだ。そんな彼女に何も言わず、紅い戦士は彼女が泣き止むまでその体を支え続けた。

 

 暫くして、泣き止んだ彼女を壁に寄り掛からせる紅い戦士。

 気が済むまで泣いた11Bは、ようやく再度紅い戦士に向き合った。

 

 

 

「みっともない所を見せてごめんなさい。それと、助けてくれてありがとう・・・・・・」

 

 今にも消えそうな儚い笑みで、11Bは感謝を告げる。涙を流した後となっても、彼女の複雑な心持ちが晴れることはない。

 

「もう知っているでしょうけれど、私の名前は11B。正式な名称は『ヨルハB型11号』っていうの」

「ヨルハ・・・・・・聞き覚えがないな」

「・・・・・・知らないのも無理はないわ。おそらく、今は貴方が造られた時代から1万年近くも時間が立ってる」

「1万年・・・・・・」

 

 そんな長い時の間を、自分は眠っていたのだという事実を知った彼の心境は如何なる物か、11Bには推し量れない。

 少なくとも、彼にとって今の世界とはまったくの未知に等しい筈だ。

 

「西暦5012年の話よ。宇宙外から侵略者がやってきたの。彼らはエイリアンと呼ばれ、さらに侵略の手段として、さっき貴方が倒してきたような機械生命体を繰り出したの」

「・・・・・・」

「結果、人類は月に逃げ延び、彼らエイリアンや機械生命体たちから地球を取り戻すために、私たちヨルハ部隊が創設された。ヨルハ部隊とは、最新モデルのアンドロイドからなる部隊のことで、私はそこに所属していたアンドロイドの一人なの。けれど・・・・・・部隊の機密を知ってしまった私は、耐えきれず、逃げ出してしまった」

「それが、仲間に追われていた理由か」

 

 コクリ、と11Bは頷く。

 彼女が逃げ出す要因に至った、その機密情報とやらが気になった紅い戦士であったが、11Bは言いづらそうな様子だった。

 だが、言わなければならないと思ったのか、11Bは深刻な表情で口を開いた。

 

「・・・・・・人類は、もう、いないの」

「何だと・・・・・・?」

 

 僅かに、目を見開く紅い戦士。

 無理もない。彼だっておそらく人間に造られた存在の筈だから。

 自分の創造主たる存在が既に滅んでいると知れば、驚くのは当然だと11Bは思った。

 

「私たちヨルハ部隊には、月面人類会議と呼ばれる組織から指令を受けるのだけれど・・・・・・それも偽りに塗れた嘘だった。私たちは、とうの昔に存在意義を失っていて、それでもまだ戦いを強いられている」

「・・・・・・」

「真実を知った私は、それでも最初は平静を装っていた。でも、やがて馬鹿馬鹿しいって思いが強くなって・・・・・・今まで大好きだった隊の皆が必死に人類のために戦っている中で・・・・・・私だけが、知っているのが辛かった」

 

 周囲と自分の意識の差。

 最初は仲間のために、知ってしまった真実を決して公言しまいと努めてきたが、限界が訪れた。知らないうちに、しかし着実にそのストレスを溜めていた11Bは、ついにあろうことかソレを大切な後輩にぶつけてしまった。

 訓練と称して、痛めつける日々が続いてしまった。

 やがて、辛い訓練の果てに倒れてしまった後輩を見て、11Bはようやく我に返った。

 そこからだ。

 仲間を痛めつける自分自身にすら恐怖を抱いたのは。

 人類が既に滅んでいたという事実は悲しかった。けれど、それ以上に、それで変貌していってしまう自分が怖かった。

 いつか、奮闘するヨルハの仲間達の姿すら嘲笑うようになり、ただ鬱憤をぶつけるだけの獣に成り果てるのではないかと。

 だから、自分が自分であれる、そんな存在意義が欲しかった。

 

「上層部も、そんな私の危険性に気付いたんだと思う。だから、今回の任務に7Eを同行させていた。私が裏切った時にいつでも処分できるように」

「・・・・・・」

「貴方を目覚めさせたのは。ピンチになって逃げ込んだ先が、偶然貴方が眠っていた場所だったから。・・・・・・ごめんなさい。自分勝手な理由で、突然起こしてしまって。貴方の力が、必要だったの・・・・・・」

 

 頭を下げ、11Bは紅い戦士に謝罪する。

 その場で助かりたいがために、無責任な理由で起こしてしまったのが実態だった。

 ポッドの助言に従ってのものだったとはいえ、自分の都合で起こしてしまったのも同然なのだ。

 

「・・・・・・もういい」

 

 紅い戦士は、悟ったように瞼を閉じる。

 この11Bというアンドロイドの少女のことはまだよく知らないが、彼女が相当に自分を責めてしまうような性格であることは理解できた。

 なまじ仲間に漏らしたらその仲間すら機密を知った疑いで処分される危険性があったのだから、公言できる筈もない。一人で抱え込むことしかできなかった筈だ。

 彼女は、そんな仲間達との意識の差にジレンマを抱えながらも、長い間それに耐え続けたのだろう。そんな彼女を自分勝手と笑うことは、彼にはできなかった。

 

「・・・・・・お前は必死に耐えて、戦い続けた。現状を変えようと行動するには勇気がいる。誰もお前のことを笑いはしない」

 

 だから、彼女がこれ以上自分を責めるのは間違いだと思った紅い戦士は、彼なりの言葉をかけてやることにした。

 

「・・・・・・ありがとう、えっと、貴方のことは、何て呼べないいのかしら?」

「オレは・・・・・・」

 

 聞かれて、紅い戦士は記憶の奥を探る。

 目覚めてから今に至るまで戦いばかりだったので、自分のことを思い返す暇などなかった。

 しかし、何も浮かんでくるものはなかった。

 何故自分があのような場所で眠っていたのかすら、分からない。

 

「駄目だ、思い出せん・・・・・・」

 

 額を抱え、苦し紛れに呟く。

 経過しすぎた時間。何も思い出せない過去。まったく未知の世界。

 長い眠りの末に記憶を忘却し、その存在意義を彼は見失っていた。

 そう言う意味では彼も11Bと同じなのかもしれない。

 

「そう・・・・・・無理もないわね」

 

 幾分か残念そうに呟く11B。

 何せ1万年以上も眠っていたのだ。

 本当の人間たちに造られたであろう彼のことを、11Bはもっと知りたかった。

 あの目標の大型兵器すら単身で切り伏せてみせた力を見た後となっては、殊更に。だが、覚えていない以上は仕方の無いことだろう。

 

「貴方の眠っていた場所に、こんな名前が彫られていたの。『実験兵器0号』って・・・・・・」

 

 思い出して、11Bはそれを紅い戦士に伝える。

 先ほど、咄嗟に紅い戦士のことを呼んだときも、この呼び名を使ったのだ。

 だが、今にしてみれば味気ない名前だと11Bは思う。

 

「実験兵器0号・・・・・・・ゼロ号・・・・・・“ゼロ”」

「・・・・・・なに?」

「その・・・“ゼロ”でどうかしら?」

 

「・・・・・・」

 

 暫し、それを聞いた紅い戦士は無言で考え込む。

 それを不満と受け取った11Bが慌てて訂正しようとした。

 

「ご、ごめんなさい。少し安直過ぎたわ。もう少しマシな――」

「いや、それでいい」

 

 11Bとしては、0号という型番から取っただけの安直な呼び名だったのだろう。

 紅い戦士としてはどのような呼び名でも構わなかった。これ以上呼び名で悩むくらいならば、彼女が一番呼びやすい名前でいいだろう。

 

「本当に、いいの?」

「かまわない」

 

 紅い戦士――ゼロは即答する。

 

「オレは、ゼロだ」

「・・・・・・分かったわ」

 

 本当に良かったのかと悩みつつも、本人が良いと言っているので問題ないかと11Bは割り切る。

 さて、ここからが本題だ。

 偶然とはいえ、11Bはゼロを目覚めさせた。しかも相棒の犠牲を払い、果てには7Eさえも間接的に殺してしまった。

 ここまで来た以上、11Bにはもう止まることは許されないのだ。

 今でも、こんな自分がのうのうと生きていていいのかという疑問はある。

 

 それでも――醜いと自覚しながらも、11Bは生きたいと思ってしまった。

 彼を、ゼロのことをもっと知りたいと。

 

 ――やっと、見つけたんだ。

 

 例え本人が記憶をなくそうとも、その存在そのものが、真実を物語っている。

 ならば、今はその欲求を糧に生きてみようと11Bは思うのだ。

 

「その、ゼロ・・・・・・・」

「・・・・・・何だ?」

「お願いがあるの・・・・・・私に、着いてきて欲しい・・・・・・」

 

 再び、11Bはゼロに懇願する。

 11Bは何としても生きなければならない。今更、バンカーに戻ることは許されないだろう。だが、だからといって今の自分の体で何ができるというのか。

 せめて、自分の義体の修復を終えるまでは、どうしてもゼロに傍にいて欲しかった。

 

「これから先、どこに行けばいいかなんて分からない。もしかしたら、何の意味もないのかもしれない・・・・・・だけど今は、()()()()()()生きていたい!」

 

 ヨルハが自分の裏切りに気付いた以上、おそらく追手も差し向けられることだろう。

 11Bは戦闘タイプといえど、所詮は数あるヨルハ機体の内の一体でしかないのだ。

 そんなちっぽけな存在でも、この目に焼き付けた悲劇を、この出会いを、なかったことにしたくないのだ。

 

 落ち着かない胸中を必死に隠しながら、11Bは真っ直ぐゼロを見上げる。

 どれだけ思いを伝えた所で、結局の所決めるのは彼自身だ。ここでゼロが断れば、11Bは今度こそこの動けぬ義体のまま朽ち果てることとなる。

 意を決した11Bの懇願に対し――ゼロは時間をかけることもなく、無言で頷いた。

 あっさりと了解の意が帰ってきた11Bは唖然と目を見開く。

 

「本当に、着いてきてくれるの?」

 

 再度問う11Bに、ゼロもまた再度頷く。

 11Bから頼むまでもなく、元からその腹づもりだったのだろうか。

 今のゼロの目は、目覚めたばかりの虚ろではない。迷いのない意思をもって、11Bに着いていくと言っているのだ。

 

「ありがとう!! これからよろしくね、ゼロ」

「・・・・・・ああ」

 

 満面の笑顔で伸ばしてきた11Bの片手を、ゼロは優しく取る。

 手を取り合った彼らは、とりあえず11Bの損傷した義体を何とかしようと模索し始めることにした。

 これより、自らの存在意義を求めるアンドロイドの少女と、古の時代より目覚めし兵器の物語が幕を開けた。

 




ロクゼロでのゼロのコピーボディって、実際の所どこまでオリジナルボディの性能が反映されてるんでしょうか?
敵のEx技使える所から見るにラーニングシステムは残ってるっぽいですけど、ギガアタック系の技とかは使えなくなってるっぽい・・・・・・?
というかゼロナックルのEx技とかでギガアタック系の技使わせて欲しかったよインティクリエイツさん・・・・・・。

あ、ちなみにこっちのゼロは普通にギガアタック系の技使います。
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