NieR:ZERO   作:ナスの森

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お ま た せ


抗ウ者達トノ邂逅

「これが、今の世界・・・・・・なのか?」

「ええ、そうよ」

 

 11Bを抱えながら工場を出たゼロは、表情こそ出さなかったが、その光景に驚いていた。

 現在、二人は工場に通じている、かつてはクルマと呼ばれる乗り物が跋扈していたであろう高速道路跡の瓦礫から、その風景を見下ろしていた。

 途中で途絶えた橋の上から見渡せる風景は、記憶喪失のゼロを以てしても衝撃だと言わざるを得ない。

 かつては人が住み、働いていたであろうビルなど建物は老朽化し、あるものは崩れ落ち、あるものは傾き、その状態で植物の緑に浸食され、やがてそのまま自然に還るであろうことが容易に想像できる。

 これが、人類の文明の名残、その一つである廃墟都市の風景である。

 だが、驚くと共にゼロの中にある疑問が生じた。

 ――記憶はなくしたが、仮にこれが自分が眠りについた一万年前の文明の名残だとするのならば、むしろ()()()()()()()ではないか?

 そんなゼロの疑問を感じ取ったのか、11Bが説明した。

 

「不思議に思うわよね? これは地球を取り戻したときに人類がいつでも旧世界のときの生活が送れるように、私たちアンドロイドが保管しているの。・・・・・・もう、意味がないっていうのにね」

 

 最後に、表情に暗い影を落しながらそう説明を締めくくる。

 「よくやるものだ・・・・・・」と、まだ見ぬアンドロイドたちに感嘆の意を抱きつつ、ゼロは11Bを抱えたまま、道路の橋から飛び降りる。

 途切れた橋の瓦礫の下にあったトレーラーの傍に着地したゼロは、そののコンテナの中に忍び込み、コンテナの壁に寄りかからせる形で11Bの義体(ボディ)を置く。

 

「周囲の安全を確保してくる。少し待っていろ」

「・・・・・・分かったわ。気をつけてね、ゼロ」

 

 「何だか積み荷になった気分」と冗談めかして言う11B。その目には申し訳なさが宿っており、遠回しにゼロの“積み荷”になっている自分を皮肉っているのだろう。

 そんな彼女に背を向け、ゼロは「すぐに戻ってくる」とだけ言い残し、11Bを置いてトラックのコンテナから出る。

 廃コンテナの中から出ていくゼロの背中を見送った11Bは、廃コンテナの中で一人取り残されることとなった。見える光は錆びた金属製の扉――その隙間から差し込む日の光のみ。それ以外は、孤独の闇だった。

 

「・・・・・・ゼロ」

 

 一人、孤独の不安に襲われた11Bは、縋るように弱々しく呟く。

 彼が戻ってくることは分かっていても、11Bはこの孤独が不安で仕方が無かった。

 任務から逃げ出したときは、()()()()()()()()()()()()()()()ポッドが傍にいてくれた。しかし、その相棒はゼロを蘇らせる時間を稼ぐために、その身を挺して11Bを守り続けた。

 16Dもバンカーに置き去りにし、ポッドも失ってしまった今、11Bにはゼロしかいないのだ。

 そのゼロも今、自分の傍にはいない。

 

「早く、戻ってきて・・・・・・・」

 

 震える体を必死に押さえ、11Bは今は傍にいないゼロに懇願する。

 16Dもポッドもいない今は、11Bの心は無意識のうちにゼロに依存し始めている。

 無数の機械生命体に囲まれていた中、相棒を失い、一人動けない体のまま、絶望に瀕していた所を、鬼神のような強さで颯爽と助けてくれた彼に依存し始めていた。

 

 

 

 一方、11Bをトラックの廃コンテナの中に置き、外に出たゼロはまず最初に空を見上げた。ビル群よりもさらに上の、空を。

 荒廃した世界に驚かされた次は、その太陽に違和感を覚えていた。

 ゼロは記憶をなくしているが、それでも1日は24時間だとか、そういった常識までは失っていない。

 ・・・・・・しかし、今はどうだろうか?

 見上げるゼロの目に映る太陽は――ゼロの視界の焦点から一点たりともズレることなくそこに在り続けている。

 つまるところ、()()()()()()()()()()()

 そこから推測するに、今の地球はまったく同じ面を太陽に向けたまま公転しているということになる。

 ――後で、11Bにいろいろ聞いてみる必要がありそうだな。

 世界の常識まで忘れたつもりはないゼロであったが、いよいよその常識すら今の世界には通じそうにないのだ。早めに11Bの元へ戻ろうと決心したゼロは天から視線を外し、再び荒廃した地を見定める。

 今の世界にとって、特にアンドロイドたちにとっては自分のような存在は異物に映ることだろう――ならばこそなるべく身を隠しながら周辺を捜索していきたいのだが、()()()()()()()()()()、必然と身を隠す場所は日陰に限られる。

 やりづらい現状に内心でため息をはきつつ、周辺を捜索する。廃ビルの壁を蹴りながら登り、最上階の床に足を付けて瓦礫から外を見下ろす。

 11Bから聞いているようなアンドロイドと思しき者たちは見かけないが――

 

「・・・・・・なるほどな」

 

 人の影はないかわりに、ゼロの感知器官(センサー)がこれ見よがしに荒廃した大地をうろつく機械生命体たちを識別する。

 異星人(エイリアン)とやらのことはまだ分からないが、奴らの目はこの地上のどこにでも伸びているという訳だ。

 いよいよ地球が人間ではない侵略者に奪われているという事実に信憑性を持ち始めるゼロ。11Bのことを疑っているわけではないが、やはり自分の目で見てみなければ何とやらだ。

 ――とりあえず、安全の確保のために奴らは斬っておくとしよう。

 そう決断するや否や、ゼロは懐からエンゲルスを一撃で仕留めた光剣――Z(ゼット)セイバーを抜き、建物から飛び降りて目にとまらぬ早さで機械生命体の群れまで肉薄した。

 反応すら間に合うことなく、巨大な斧を携えた1体の中型機械生命体の体を真っ二つにする。その爆炎を目くらましにゼロは駆け、彼らの視界に紅い影が捉えることを一切も許さない。

 斬、という光と。

 何一つ聞こえない足音。

 機械生命体の群れは最後まで謎の襲撃者の正体を知ることなく、一瞬で鉄屑(スクラップ)に還っていった。

 ――思ったよりも、複雑な構造をしているな。

 爆発寸前の機械生命体の断面を一瞥し、そう思ったゼロ。いかにも量産性重視の素朴な見た目からしてそんなことはないと思っていたのだが、やはり異星人の作った駒なだけあって相応の技術が使われているらしかった。

 

「・・・・・・?」

 

 機械生命体の飛び散った残骸を観察していたゼロであったが、その中に一つ、異質なモノが目に入った。とても無機物の中から出てきたとは思えない、有機物らしきナニカ。

 薄黄色の光子をばらまきながら輝くその結晶を、ゼロは拾い上げる。

 ――もしや、これが機械生命体(やつら)のコア?

 未知の敵の情報を知れるいい機会だと思ったゼロは暫しそれを見つめるが、だからといってそれで分かるわけでもない。

 ――何か、解析できる装置でもあれば・・・・・・。

 そう思った矢先、不可解な現象が起こった。

 

「!?」

 

 先のゼロの思考に反応するかのように、機械生命体のコアらしきものを持ったゼロの左手の掌から魔方陣が出現したのだ。

 掌の上に浮かび上がった、中心に「Z」の文字が刻まれた魔方陣を中心に、そこからさらにゼロの腕周りを囲むように螺旋状の魔方陣が伸びている。

 そして――手に持っていた機械生命体のコアは、その魔方陣の中に消えていった。

 同時に、ゼロの頭の中に情報が流れ込んでくる。

 

「機械生命体のコアの破片、植物細胞の構造に近似、か・・・・・・」

 

 ――なぜ、オレにそんなことが分かる?

 自分の口から無意識に出てきた情報に、咄嗟に疑問を抱くゼロ。

 結晶を取り込んだ己が手に浮かぶ魔方陣を見つめ、ゼロはこれも自分が忘れていた力なのか、と考える。

 その魔方陣の光は、彼が持つゼットセイバーの刀身の光と似ている気がした。つまり、ゼットセイバーと同じ魔素(エネルギー)を用いた魔法兵器ということになる。

 この武器の名前は――

 

 ――Z(ゼット)ナックル

 

 知らない筈なのに、すぐさま頭に武器の名前が浮かんできたことに、ゼロは地に足の着かない感覚を覚える。きっとこれもZセイバーと同じく、忘れていただけで、自分自身の力なのだろう。だが、知った覚えのない知識がすぐさま頭に浮かんでくる感覚は心地よいものではない。

 とはいえ、自分の力だというのならば、有効活用させてもらおうとゼロは思い直すことにする。どうやらこのゼットナックルの用途は、敵から奪い取った武装を解析(ラーニング)して自分のモノとして使用できるものらしい。今回はその解析能力のみが先ほどの機械生命体のコアに働いただけのようだ。また、それそのものが魔素というエネルギーを帯びた力の塊なので、Zセイバーと同じく近接戦闘における攻撃手段にも転用できそうだ。

 自分の戦力を再確認した後、ゼロはナックルの魔方陣を閉じ、捜索を再開させる。

 

 数十分と歩いた後、ゼロは邪魔な機械生命体を一回も見つからずに倒していき、彼らの目にゼロの姿が映ることはなかった。

 周囲を見渡し、そろそろ11Bを連れてもいいかと思ったその時。

 彼らのものと思しき足音を耳にしたゼロは、再びセイバーを抜いてその方向へ振り向く。

 そこには――何の武器も携えず、ゼロの方へ歩いてくる小型の機械生命体たちがあった。

 

「・・・・・・?」

 

 違和感を感じるゼロ。今までゼロが始末してきた機械生命体たちは、皆武器を携え、ゼロを視界に入れることはなくとも、常に始末すべき標的を探してうろついていた。

 だが、彼らは違う。

 機械的な敵意すらもが感じないのだ。ようやく機械生命体たちの視界に入ることを許してしまったゼロであったが、セイバーを抜いたまま彼らを観察した。

 警戒しているゼロにすら気を留めることなく――彼らはゼロの横を素通りしていった。

 ――どういうことだ?

 セイバーを脚部のホルスターに仕舞い、ゼロは自問する。

 彼らがゼロを攻撃しなかった理由。一瞬、自分がアンドロイドではないからと思い至ったが、その可能性は低いと断ずる。自分が目覚めた工場廃墟で増産されていた機械生命体たちは、自分にも敵意を見せていた。

 その時点では単に標的のアンドロイドを始末する障害となりうるから、という線もなくはないが、もし彼らがネットワークとやらで情報を共有しているのならばゼロは既に機械生命体たちに自分たちの驚異となりうる存在と認知されていてもおかしくはない。

 そう考えると、違和感だらけだ。ましてや、ここは工場地帯からそう離れてはいない。にも関わらず繋がりがないと考えるのは不自然だ。

 ――考えていても仕方が無い、か。

 11Bのことを考えれば彼らも斬る方がいいのかもしれないが、ゼロは彼らのことは何一つ知らない。せいぜい先ほど解析したコアくらいのものだ。手を出さずに様子を見るのも一つのやり方かもしれない。

 襲ってこない個体については、暫く泳がせると判断したゼロは更に廃墟都市の中心にまで足を踏み入れる。

 とりあえずこれまでのルートの安全を確保したゼロは、そろそろ11Bを連れに戻ってもいい頃合いだと判断した――その時だった。

 

 ――あれは?

 

 ゼロが足を踏み入れた廃墟都市の中心エリア。

 遠くから絶え間なく聞こえる銃声、剣戟。

 ――どこかで、戦闘が行われているな。

 例のヨルハ部隊とやらと、機械生命体たちの戦闘だろうかと思ったゼロは、ビルの壁を蹴って移動しながらその方向へ向かう。

 瓦礫に隠れ、そこから音源たる場所をのぞき込む。

 戦っていたのは――ゼロがここまで来るまでに散々見た機械生命体たちと、アンドロイドと思しき部隊なのだが。

 そのアンドロイドたちは、ゼロが今の所知るアンドロイドとは気風が違った。・・・・・・正確には、ヨルハのアンドロイドとは。

 とはいっても、ゼロが会ったことのあるアンドロイドは彼が目覚めて以降は11Bと7Eの2人しかいない。ヨルハは宇宙の基地を持つ最新のアンドロイドという話からして、ヨルハが特別なだけなのかもしれない、とゼロは考えた。

 彼らが身に纏う装備からしてヨルハである可能性は低いが、見つかるわけにはいかない。

 だからといって、このまま傍観するのも――

 ――どうする?

 ゼロは自問する。

 戦況は、明らかにアンドロイド側が不利だった。個々の戦力はともかく、数では圧倒的に彼らが有利だったからだ。それでもなんとか死傷者を出さず、着実に機械生命体を撃破していくのは、彼らがそれなりに修羅場をくぐり抜けた来た証なのか。

 そう思って観察していると、アンドロイドたちは弾切れを起こしたのか、武器を失ったまま機械生命体の包囲の中心で立ち往生することとなった。

 遠くから見える彼らの焦りの表情から、打開の策は持っていないか、それとも使い果たしたかのどちらか。

 ――下手に姿を現すリスクを考え、傍観すべきか。

 ――それとも、情報を聞き出すために助けるか。

 既に、ゼロの中で答えは決まっていた。

 

 

 ――油断していた。

 現在、廃墟都市の中央エリアにて機械生命体の部隊に囲まれていたレジスタンスの小隊――その隊長であった男性型のアンドロイドは心中で己の不甲斐なさを毒づく。

 廃墟都市の中央エリアは未だに敵対的な機械生命体が多いことは知っていた。しかし、ここまでの多くの数の敵がいる、なんてことはここ最近なかったのだ。

 地球を奪われたといえど、未だに月にいる人類のために地球に常駐するアンドロイドの組織は沢山いる。彼らレジスタンス組織もまたその一つだった。

 そんな彼らの奮闘により廃墟都市周辺の危険な機械生命体は少なくなっていた。つい先日では降下してきたヨルハ部隊の活躍により工場地帯の安全が確保され、気が緩んでいた隙に、これだった。

 ――くそ、何てことだ。オレは隊長失格だ・・・・・・!!

 悪態をついている暇はない。既に部下は全員弾切れ。

 自分が今手元に携えている小銃も弾は残り僅か。ジャッカス特性の手榴弾(グレネード)も使い切った。

 追い詰めれていた彼は、ここで万事休すかと考える。

 せめて――自分が囮になって部下の逃げ道だけでも作ることができれば――そう、己の命を捨てる覚悟を決めようとした、その時。

 

 頭上から、紅が舞い降りた。

 

「・・・・・・え?」

 

 ヘルメットから零れた金色に輝く長い髪を靡かせる、紅い影。

 咄嗟のことに、隊長とその部下のレジスタンスアンドロイドたちは呆気に取られるが、それも束の間。

 突如として現れた紅い影は、背後にいた隊長の小銃をこともなく奪い取り、機械生命体の包囲網を睨み付けた。

 その行為を見た隊長は、即座にその正体不明のアンドロイドが敵ではないと判断するが。

 

「お、おい!! そいつの弾はもう残り僅か――」

 

 正気を取り戻した隊長が、焦燥に駆り立てられた表情で紅い影に叫ぶ。

 しかし、紅い影が振り向いた瞬間、隊長は言葉を失った。

 言葉を遮られたわけではない――その紅い戦士が自分たちの方へ振り向いた。ただそれだけだった。

 冷たい刃を思わせる、有無を言わせぬ圧力が、彼らを黙らせた。

 

「伏せろ」

 

 紅い戦士の口から、静かな声が全員の耳に浸透する。

 本能――アンドロイドが言うのも変な話だが――でこの紅いアンドロイドの言葉に従わねばならぬと思った部隊のレジスタンスたちは一斉に地面へ倒れ込む。

 そして――紅い影は、小銃に込められた残り少ない弾を――躊躇なく包囲網を作る機械生命体たちにぶつけた。片手で構えたまま銃口の矛先を変えながら連射し、全方向の機械生命体たちに命中する。

 何と無意味な行為。鉄の装甲を持つ彼らが弾丸数発でどうにかなる相手でもない。

 紅い影――ゼロの行為を見上げていたレジスタンスは誰もがそう思った。

 だが、奇跡は起こった。

 

 弾丸を当てられた一部の銃装備の機械生命体たちが、弾を撃つ直前にノックバックしてしまい、照準をレジスタンスのアンドロイドたちからずらしてしまう。

 ズレた照準の先にいるのは、同じくゼロの放った弾丸により動きを封じられた仲間の機械生命体。小銃の弾丸に加え、仲間の誤射を受けた個体が更に次々とノックバックしていく

 一瞬にして、逃げ道がない筈の包囲網に隙が生じた。

 

「嘘、だろ・・・・・・?」

 

 それを目撃していたレジスタンス部隊の隊長は、ゼロの行った神業を瞬時に理解した。

 残る弾数では、せいぜい小型の機械生命体を蜂の巣にするのが精々だった。にも関わらず、この紅いアンドロイドは・・・・・・。

 ――連射する弾丸全てを、それぞれの機械生命体たちの()()()()()()()()()()()、だって!?

 その思考にたどり着いたときには、全てが終わっていた。

 気がつけば傍から姿を消していた紅いアンドロイド――一瞬だけ見えた、機械生命体の群れの中を駆け抜ける光。

 彼らは見た――翠色の光を振るい、機械生命体たちを切り伏せていく紅い閃光を。

 気がつけば、事は片付いていた。

 残骸の断面から爆発して霧散していく機械生命体たちと、その中心に立つ紅い影。

 

 何が起こったのかは分からない。

 一つ分かるのは――自分たちがこの謎のアンドロイドに助けられたという事実のみだった。

 

「あ、ありがとう! 助かったよ!」

 

 レジスタンスの1人が歓喜の表情で、ゼロの方へ駆け寄る。

 彼らの表情は様々で、今のようにゼロに駆け寄る者もいれば、警戒する者もいる。極めつけに、部隊の中にいた紅一点の女型アンドロイドは心なしか熱の籠もった視線を向けている。

 先にゼロの方へ感謝を述べにいった部下に続き、隊長の男性型アンドロイドもまたゼロへ歩み寄る。

 

「部下が助けられたな。礼を言うよ・・・・・・。ここ最近、平和だと思って気が緩んでいた。隊長失格だな・・・・・・」

 

 正体は掴めねど、助けられたことは事実。隊長は頭を下げてゼロにお礼を告げる。

 何も言わないゼロ。返答代わりのつもりなのか、握っていた小銃を隊長の方へ投げ渡す。

 武器を返された隊長は即座に小銃のマガジンを抜き、その中身をのぞき込む。マガジンの中身は見事に空だった。

 たまたま残弾が足りていただけなのか、それとも、把握した上で計算で撃っていたのか。

 ――もし、後者だとすれば恐ろしいな・・・・・・。

 内心で身震いした隊長は、この目の前の紅い戦士の正体がどうであれ、今ここで敵対するのは得策ではないと判断する。

 

「それにしても、変わったアンドロイドだな。他の地域から来たレジスタンスの者か?」

 

 できるだけ警戒心を隠し、感謝の心を表に出すことを努めて隊長は紅い戦士に問いかける。問いかけれた紅い戦士――ゼロは一瞬、どう答えたらよいものか考えたが、すぐに現時点で11Bから聞いたこの世界に関する情報を整理し、体を装うことにした。

 

「・・・・・・この地域の機械生命体の工場を制圧できたと聞き、調査に来た。・・・・・・連絡を寄越さなかったのは謝る・・・・・・」

「・・・・・・そうか」

 

 いまいち得心の行かない、といったような微妙な表情を一瞬だけ浮かべる隊長。

 ――誤魔化すには無理があったか?

 その表情を見逃さなかったゼロは、いっそのこと新設された最新型のアンドロイドを名乗った方がよかったかもしれない、と思い始める。全て、後の祭りだが。

 

「とにかく、我々の集落に来てくれないか? リーダーのアネモネさんに話を付ければ、調査を許可してくれるだろう。それに、助けられた礼もしたい・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

 隊長と思しき男の誘いに、ゼロは暫し考える。

 ヨルハ部隊とやらと、現地のアンドロイドの間にどれほどの繋がりがあるのかゼロは把握していない。もし深く繋がっていれば、そこへ脱走兵である11Bを連れて行くリスクは高い。だが――自分だけで11Bを動けるようにできる自信は、ゼロにはなかった。ナックルで11Bの構造を解析すれば或いは、と思わなくもないができたとして修復する技術はゼロにはない。

 考えた末、ゼロは――

 

「・・・・・・一つ、頼みたいことがある」

「何だ?」

「・・・・・・仲間のアンドロイドが1人、負傷して動けないでいる。ソイツも一緒に連れて行って欲しい」

 

 これは賭けだ。分の悪い賭け。

 彼ら自身はおそらく信用できる人柄なのだろう。だが、11Bの立場を考えれば分の悪い賭けだ。

 だが、同時に希望もある。それに情報の糸口を欲していたゼロにとっても、一時的にでも向こうから歩み寄ってきてくれたチャンスを逃すわけには行かない。

 ・・・・・・後は、11Bの意思次第といったところか。

 そう思いつつ、ゼロは彼らの返答を待つ。

 

「分かった。さっそく恩を返すチャンスが来たな。ソイツの所まで案内してくれ。アンタがいればよほどの事がない限り、安全だろう」

 

 未だ腹を探る視線は消えないが、ゼロにとってはありがたい了承が返ってくるのだった。

 

 

 

 がちゃり、とさび付いたコンテナの扉が開く音がした。

 差し込んでくる光が強くなったことを感じた11Bが見上げると、そこには――待ち望んでいた彼がいた。

 ゼロが戻ってくれたのだ。

 

「・・・・・・どうした?」

 

 直前までうずくまって何かに怯える様子を見せていた11Bに、ゼロは問う。

 

「いえ、何でも無いわ。お帰りなさい、ゼロ」

「? ・・・・・・ああ」

 

 あからさまにほっとした様子を見せる11Bを訝しみつつも、ゼロは11Bの言葉にぶっきらぼうに返す。コンテナの中に上がり、ゼロが歩み寄ってくる。

 逆光でシルエットしか見えなかった彼の姿が、次第に鮮明になり、11Bは余計に安心感を覚える。

 ――戻ってきくれてありがとう、ゼロ。

 心の内で感謝を述べつつ、11Bは喜びの表情を浮かべてゼロを見上げる。

 

「・・・・・・様子は、どうだったの?」

「この辺りの敵は片付けた。それと・・・・・・」

 

 ゼロは暫く間を置き、気になった11Bは訝しげに顔を傾げるが、それも束の間。

 次のゼロの言葉に、11Bは驚愕に顔を歪めることとなった。

 

「レジスタンスと名乗るアンドロイドの部隊と接触した」

「・・・・・・え?」

 

 呆気に取られる11Bに、ゼロは説明する。

 曰く、情報を聞き出すために、機械生命体たちに囲まれていた所を助けたという。

 彼らはお礼をしたいからレジスタンスの拠点に来て欲しいと頼み込んできた。そこでゼロは11Bの名前を伏せ、負傷した11Bも連れて行って欲しいと頼んだという。

 

「奴らは、コンテナの外で待っている。・・・・・・どうする?」

 

 ゼロの言わんとすることを、11Bは理解した。ゼロ自身は、あえて連れて行かれるのも一つの手だと思ってこの話を出したのだろう。

 当たり前だが、目覚めたばかりのゼロには11Bを直す手立てはない。損傷が軽微ならばナノマシンによる自動回復か、もしくは11B自身の手で修復することも可能だろう。だが、ダメージレベルは既にその可能な域を超えている。

 このままでは、ゼロの足手まといだ。

 

「・・・・・・ゼロは、どうするべきだと思っているの?」

「オレは、今の世界についてよく知らん。・・・・・・お前が決めろ」

「・・・・・・そう、よね・・・・・・」

 

 ゼロの突き放すような言い方に少しショックを受けつつも、11Bはその通りだと考える。ヨルハを抜け出したのも、仲間を犠牲にして生き延びてきたのも、ゼロを目覚めさせたのも――全て、自分の選択だ。

 ここで他者に選択を委ねては、今までの11Bの行動の全てを否定することになる。

 

「オレは、お前がどのような選択をしようと構わん。だが、もし奴らがお前を裏切ることがあれば――そこから先は、オレの仕事だ」

「ゼロ・・・・・・」

 

 ――だから、安心して好きな方を選べ。

 そう言いたげなゼロの言葉に、11Bは少しだけ気が楽になる。

 どのような状況にあろうと、彼が傍にいてくれる。助けてくれる――そう思うだけで、どれだけ救われることか。

 

「彼らに着いていきましょう。いざとなったら、その・・・・・・・お願い、できる?」

「・・・・・・ああ」

「ありがとう、ゼロ」

 

 前向きの表情になった11B。

 11Bの選択を聞いたゼロは、彼女の義体を再び抱き上げ、コンテナの外で待っているレジスタンス部隊の方へ向き合う。

 11Bの姿を見たレジスタンスたちは、動けないアンドロイドの正体がヨルハタイプだったことに大層驚いていた。

 ――果たして、彼らは自分たちを受け入れてくれるのか?

 その思いを胸に、2人はレジスタンスの案内の元、彼らの拠点へと向かった。

 

 

     ◇

 

 

「・・・・・・そうか、そのアンドロイドには感謝をしないとな。しかし、妙だな・・・・・・」

『はい、仲間がヨルハタイプのアンドロイドだったのもそうですが。・・・・・・何より、あれほどの戦闘力を持ったアンドロイドが傍にいて、動けぬ程の損傷を受けていたのも怪しい点です』

「連絡が途絶えた担当のヨルハ部隊員とは別人か?」

『はい。保護したヨルハ隊員は、その者とは別人でした』

「そうか、何か手がかりでも持っているかもしれないから、丁重に保護してくれ。それと、君たちを助けてくれたアンドロイドについてだが・・・・・・」

『正直、ヨルハを知っている我々でも、アレほどの戦闘能力を持った存在が、果たして我々と同じアンドロイドなのか、怪しいところです。風貌も目立ちますし、もしあれほどの存在が他の地域のレジスタンスに所属しているならば、嫌でも噂にならない筈がありません』

「・・・・・・そう思って、近くの別のレジスタンスと連絡を取ってみたが、そのような者はいないと返ってきた。少なくとも、レジスタンスのアンドロイドでないことは間違いないだろう」

『やはり、そうですか・・・・・・』

「パスカルの例もある。君たちを助け、相棒にヨルハタイプがいるのならば、少なくとも機械生命体たちの味方ではないだろう。彼らの事情を知りたい、連れて来てくれないか?」

『分かりました。それと、このことはヨルハ司令官には・・・・・・』

「・・・・・・一応、伏せておいてくれ。彼らの事情を聞くまではな」

『・・・・・・了解です。これより帰還します』

 

 部下からの通信映像が切れたことを確認したレジスタンスの女性型のアンドロイドはハァ、と息を吐いて通信機を電源機器に戻す。

 ここはレジスタンスキャンプ――廃墟都市の一角にテントを張り巡らし機械生命体と戦うための機材や武器を備蓄する拠点である。彼女こそがこのレジスタンスのリーダーを務めるアンドロイドなのだ。

 彼女がため息を吐く理由は、仲間を助けくれた謎の赤いアンドロイド(?)と、そのアンドロイドが連れている、負傷したヨルハ部隊員についてだ。

 まだ会ってみないことには分からないが、なんとくなく――ただ事ではない事情を抱えていることは聞いているだけでも予想できるのだ。

 とにかく、会ってみないことには何も分からない。

 

 そう思って、彼らの帰りを待つこと数十分。

 部隊の帰還の知らせを聞いた彼女は、資料が置かれた木製の机から立ち上がり、彼らを迎え入れた。

 

 そして、報告通りに、その部隊に連れられ、異質な存在が二つあった。

 見慣れない赤いボディと、女型である彼女さえも惚れ惚れしてしまいそうな流れる黄金の髪。歴戦のアンドロイドである彼女から見ても、佇んでいるだけで分かる、“歴戦”の戦士の匂い。

 そして――何より目を引いたのは、彼の腕に抱かれている、負傷したヨルハ隊員。

 

 彼女の目には見覚えがあった――長い戦いの末、自分の存在意義を失った者の顔。より所を失い、迷える子犬のような目。

 

 そんな2人のアンドロイドを一目見て、彼女はもう一度ため息を吐いた。

 ――予想通り、ただ事ではなさそうだな・・・・・・。

 念のため、ヨルハの司令部への連絡を先送りにした自分の判断が、正しかったかもしれないことに、彼女はきな臭い予感を感じつつ、部下に連れられてきた2人を出迎えた。

 

「ようこそ、レジスタンスキャンプへ。私はここら一帯のアンドロイドレジスタンスのリーダーを務めている、“アネモネ”だ」

 

 ――さっそくで申し訳ないが、人目の着かない所で、君たちの事情を説明してくれないか?

 朗らかに2人に挨拶した直後、アネモネは神妙な表情で2人に問いかける。

 

 ここに、彼らレジスタンスと、旧世界の紅き英雄は邂逅するのだった。

 




アネモネさんすこ。

掲載時点から悩んでいたオメガ登場に関する件ですが、活動報告にて報告していますので、よかったらどうぞ。
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