NieR:ZERO   作:ナスの森

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Diveにメシアが来たので投稿です


主役、邂逅

 入り口から入った工場廃墟の中は、予想した以上に閑散とした雰囲気を漂わせていた。

 赤錆びた鉄に反射する照明の光は薄暗く、敵が溢れかえっていた状況よりも不安を煽り、むしろこの静かな空間は闇を助長さえしているように錯覚させる、

 そんな不気味な雰囲気が漂う工場廃墟の中をゼロは表情一つ変えることなく進む。彼が進んでいるルートは、11Bを連れて逃げた道を逆戻りするルートだった。

 通路を進み、曲がった先にあるエレベーターのスイッチを押す。

 重厚な起動音と共にドアが開き、ゼロはエレベーターの部屋に入ると、そのまま地下の階へと下っていった。

 その途中で、アネモネから渡された通信機から着信音が鳴った。

 即座に通信機のスイッチを入れ、通信映像をホログラムとして目の前に映し出すと、見覚えのある顔が映っていた。

 

『あー、こちらレジスタンスキャンプ。聞こえるか、ゼロ?』

 

 通信を寄越してきたその顔にゼロは見覚えがあった。

 11Bの治療に当たってくれた双子のアンドロイドの内の片割れ。名前は確か――

 

「・・・・・・お前は、デボルといったか」

『あぁ、覚えてくれてたのか。ゼロ、時間が押しているのは分かるが、ポッドの回収の他にやってもらいたいことがあるんだ。返事はしなくていいから、黙って聞いててくれ』

「・・・・・・」

 

 時間が押しているにも関わらず、このようなタイミングで連絡を寄越してくることから、ポッドのデータ回収と同じくらい重要なことなのだと感づいたゼロは、黙ってデボルの話を聞くことにした。

 

『お前はまだ知らないだろうが、あたしとポポルは旧世代に製造されていた型のアンドロイドなんだ。所謂、骨董品ってやつさ。・・・・・・だから、旧世界の頃に造られたお前の治療やメンテナンスも、必然的に、()()()()()()()()が請け負うことになると思う』

 

 つまり、生まれた年代が比較的一番近いから、それでいてかつ治療・メンテナンスに特化したモデルである自分たちがゼロの治療・メンテ役にふさわしいということだ。

 とりあえずそのことに納得したゼロは、デボルの話を聞き続けた。

 

『だが、基本的な技術進歩はあれど、旧世界から失われた技術も多いんだ。特にお前のように魔素をエネルギー源とする魔法兵器に関する代物とかはな。・・・・・・そして、最悪なことにあたしらにはかつての記憶、という物がないんだ』

「・・・・・・記憶がない?」

 

 黙ってデボルの反応を聞き続けていたゼロであったが、気まずそうに俯いて話した言葉が気になり、思わず聞き返す。

 

『そこに関しては追々話すとして、問題はここから先だ。旧世界に造られた魔法兵器であるお前は、いわば失われた(ロスト)技術(テクノロジー)の結晶のようなものだ。最悪、あたし達でも最低限のメンテすらままならないかもしれない』

 

 デボルの言葉を聞き、ゼロはだんだんとデボルの言わんとしていることに気付きつつ、答えを待つ。

 つまりは――。

 

『お前が眠っていた場所――そこにあるポッドのデータと一緒に、残ったお前のデータをできる限り持ち帰って来て欲しいんだ。11Bがハッキングで得たデータと照合して、お前に使われている技術を少しでも解析したい』

 

 残っていればの話だけどな、と皮肉げに肩を竦めつつそう付け加えるデボル。

 確かに、もしゼロが11Bのように自己修復では取り返しのつかない損傷を負った場合、ゼロに使われている技術が何も分からない状態ではメンテや修理もままならない。

 これからゼロがレジスタンスで戦い続ける上では、ポッドのデータと並んで重要だ。

 

『それでも、データの老朽化を考慮すると足りないだろうな。そこで、悪いが帰ったらメンテがてらお前のボディも解析させてもらうよ。ジャッカスの奴にも来てもらうことにするが、構わないよな――って、聞いてるのか?』

 

 話の途中、ゼロの視線が自分の通信映像に向けられていないことに気付いたデボルは中断してゼロに問いかけるが、ゼロは映像の向こうにいるデボルから視線を外し、前方を睨み付けていた。正確には――エレベーターの扉の、向こう側を。

 

「通信閉鎖だ。敵が近い・・・・・・」

『・・・・・・分かった。言いたいことは言ったし、あたしはここで失礼するよ』

 

 通信映像のホログラムが消え、通信機を仕舞うゼロ。

 直後、エレベーターのドアが開いた途端――待っていたのは、敵の一斉射撃による洗礼だった。イクラの粒を思わせるような球状のエネルギー弾の奔流に晒されるゼロであったが、事もなにげにゼットセイバーを抜いて一振り――それだけで、エネルギー弾の奔流は全て消え去った。

 射撃で埋もれていた機械生命体たちの視界が晴れると――そこに敵はもう存在していなかった。

 そして――ゼロが入ってきた扉から見て、一番奥にいた機械生命体の体を、光る掌底が背後から貫く。

 

「・・・・・・ッ!?」

 

 驚きを表すかのように目の赤い点滅を繰り返す小型の機械生命体であったが、コアごと貫かれた彼の命は残り数秒。貫いた手は、そこからZの字の魔方陣が展開されており、機械生命体の前方に装着されていた銃の汎用ジョイントと一体化する。

 ゼットナックルで敵の銃の制御を乗っ取ったゼロは、そのまま貫いた腕を横に払って無理矢理機械生命体のボディを引き裂き、抜いた。

 そのまま敵から奪った機械生命体のエネルギーガンを、背後ががら空きな残りの機械生命体たちに向けて連射した。対応が遅れた機械生命体たちは慌てて振り向くが、遅い。

 ナックルによって強化魔法がかけられたエネルギー弾が次々と機械生命体たちを飲み込んでいく。機械生命体達の殲滅を終えたゼロは、止ることを知らない。

 左腕のナックルに装着した機械生命体の銃を残る1体の小型の方へ放り投げて爆発、止めを刺した頃には、ゼロはもうこの部屋にはいなかった。

 時間は押している。いちいち正規のルートを通ってやる義理はこちらにはないのだ。11Bと共に脱出した時には、自分が眠っていた場所へのルートは覚えている。

 ならばそこに向かって突き進むのみだ。

 円柱状の建造物とそれらを繋ぐ長い鉄の通路で構成された広大な地下区画は――まるで別世界そのものだったが、ゼロは臆することなく壁を蹴り登り、時には飛び移りながら進む。

 歩行型の機械生命体では当然追いつくことなど叶わず、必然的に飛行型の機械生命体たちが彼に追随することになるが、立ちはだかるも束の間、翠色の光刃に切り落とされ、光の掌に奪われた銃で撃ち落とされていく。

 そして、敵の追従も止んで十分が立った頃であろうか、広大な地下区画の比較的上層にある部分――大凡、機械生命体の増設作業が行き届いていない場所へたどり着く。

 踏んだ床の材質が先の鉄のものとは明らかに異なる、劣化したコンクリートを踏み砕くような感触。

 ――もうすぐそこだな。

 目的の場所が近いことを理解したゼロは、そのまま見覚えのある通路を辿っていく。

 11Bを抱えて脱出する際に来る道で切り捨ててきた機械生命体の残骸を辿り――ようやく、たどり着いた。

 

 これまでの工場廃墟の風景とは明らかに異なる、異質な空間。

 機械生命体たちの手が加えられていないためか、老朽化により散乱した瓦礫が周囲に山のように積み重なっている。

 旧世界の遺産がうち捨てられた場所なのか、それとも――そう考えるのも束の間、ゼロはその空間の中心にあった光を目指す。

 自分が封印されていた場所を照らす、淡い照明の光。

 

「・・・・・・ここが、オレの眠っていた場所」

 

 呟き、周囲を見渡すゼロ。11Bに起こされたばかりの時は戦闘続きで周囲を観察する余裕などなかったが、今はよく分かる。

 ――こんな所に、一万年近くもいたのか。

 周囲に積み上がった瓦礫、寒々とした暗色の空間、アンバランスにも緑色の光沢を放つ床――とても寝心地のいい場所とは言えない。

 そして、11Bの言によれば、自分はここで両手を捥がれた状態でこの天井から伸びている無数のコードに繋がれたまま眠っていたという。

 想像しただけで背筋が凍るが、同時にゼロはそのような状態になって尚復活と共に自己回復して動いて見せた己の体を疑った。

 デボルの言っていた、今では失われた技術――この身は魔素を動力源にした魔法兵器そのものだという。

 そんな存在が、何故長い間こんな所で封印されていた?

 しかも、自らの魔素を動力源に封印していた――つまる所、自分は自ら眠りについた可能性が高いという。

 

 ――オレは、目覚めてはいけなかったのか?

 

 ふと、そんな思考が過ぎる。

 かつての自分も、このような結論に至ったからこそ自らを封じたのではないかという疑惑がゼロの頭から離れなかった。

 一度思考の迷路にはまれば抜け出せない――そう危惧したゼロは一度疑問を振り払い、足下を捜索する。

 ――そして、標的のものがそこにあった。

 直方体のヘッドに、大小4本のアームを持つ機械――11Bのポッドがそこにあったのだ。

 

「・・・・・・」

 

 動かなくなったポッドを見下ろすゼロ。

 11Bがゼロを目覚めさせたのも、このポッドの案だったという。

 ――お前は何故、オレを目覚めさせようなんて考えたんだ?

 最早動くことはないであろうポッドに心中で問いかけるゼロであったが、当然のごとく答えは返ってこない。11Bを助けるためとはいえ、このオレが彼女を助ける保証などどこにもなかっただろうに。

 もしこのポッドがまだ動いたのであれば、自分の正体も分かったのではと思うゼロだが、全ては憶測に過ぎない。

 オレは一体、何者なんだ? ・・・・・・そんな疑問がつきない中――

 

 ――アンドロイドだろうと機械生命体だろうと何だろうと・・・・・・ゼロはゼロなんだからぁッ!!

 

 突如、彼女の叫びが、脳裏に過ぎった。

 ――そういえば、11Bも同じだったな。

 己が何者かを見失い、それでも自分を庇って見せた少女を思い出すゼロ。

 己の存在意義を見失った11Bと、己の存在意義を忘却したゼロは、似ていた。

 彼女は、己のより所となる真実が欲しいと言っていたが――それは、自分も同じだ。

 最初は彼女を守るために着いていくと決めていたゼロだが、改めて彼女と一緒に自分とやらを探してみるのも悪くはないかもしれないとゼロは思ったのだった。

 

 ほんの少し、憑き物が落ちたかのように瞼を閉じたゼロは、ポッドの中のデータを抜き出し、ポポルから貰った旧式の記録端末に移し終えると、ナックルでポッドの残骸を量子化して持ち歩こうとした――その時だった。

 

 

「・・・・・・どういう事、9S?」

「この場所、他の場所と比べると材質や経年月が一致していないんです。そして――2B、誰かいます!!」

 

 

 突如、ゼロの他にやってきた二人の男女。

 やってきた2人の男女は、ゼロの姿を見るや否や、即座に腰を低くして臨戦態勢に入る。

 ゼロも、その声の主たちに振り返った。

 1人は――ベルベット製の黒い衣服とスカート、黒い布切れのようなゴーグルで目を隠し、腰には白い柄の日本刀、背中には大型の太刀を浮かせるようにマウントさせている銀髪の少女。身長は11Bと同じくらいか。

 もう1人はベルベット製の黒い上着と半ズボンを履き、少女と同じ型のゴーグルで目を隠す銀髪の少年で、身長は少女より低い。そして背中には少女が帯刀している日本刀と同じ型と思われる黄金色の刀身を持つ刀を浮かせていた。

 

 彼らの兵装の特徴は、ゼロが戦った7Eと共通点が多く、一目で彼らが何者なのかがゼロには分かった。

 

「――ヨルハ部隊、か」

 

 11Bが抜け出したアンドロイド部隊――そのアンドロイドたちが、ここにやってきたのだ。

 

 

     ◇

 

 時は暫く遡り、視点は赤いイレギュラーの調査を命じられた2人のヨルハ隊員に移る。

 

「これが・・・・・・例の赤いイレギュラーが撃破した大型兵器」

 

 飛行ユニットで工場までたどり着いた2Bと9Sは、工場の上から頭部が真っ二つに裂かれたエンゲルスの亡骸を見下ろす。司令官に見せられた例の映像を見た後でさえも、その事実を飲み込むことができていなかったが、こうして超大型兵器の亡骸をこの目で見た事でようやく現実として受け入れる2人。

 特に――記憶を持っている2Bは、あれだけ苦労して撃破した大型兵器がたった1人の手でいとも容易く切り伏せられたことに少し複雑な心境を覚えた。

 

「それにしても、2Bたちはこれほどの大型兵器を相手に戦ったんですね・・・・・・」

 

 エンゲルスの亡骸を見下ろしながら呟く9S。頭部を真っ二つにされた所を見るに、頭脳データはとうに破損し、修理は不可能だろう。そんな状態になってなおも、鎮座したエンゲルスの威圧感は半端な物ではなかった。

 もう動かないと分かっているのに、じっとしていたら此方が飲み込まれてしまいそうな錯覚さえ感じる。

 

「・・・・・・貴方も、戦ったんだよ。9S」

「・・・・・・そういえばそうでしたね。記憶には、ありませんが」

「・・・・・・」

「あ、あの、2B。どうかしましたか?」

「・・・・・・何でも無い」

 

 そっぽを向きながら答える2B。

 ――そんな顔して、“何でも無い”はないでしょう・・・・・・。

 そんな2Bの様子を見た9Sが内心でそう呟きながら苦笑する。

 “今”の自分にとっては、彼女と任務を共にするのは初めてであるが、何となく――前の自分が彼女のデータのバックアップを優先した理由が、少し分かった気がした9Sであった。

 もっと彼女のことを知りたいという好奇心に駆られた9Sであったが、それは追々任務を共にする内に少しずつ知っていけることだろう。

 何より、今の9Sの興味の対象は――。

 

「見て下さい、2B。例の赤いイレギュラーが大型兵器と戦った跡です」

 

 9Sが指差したのは、エンゲルスの亡骸の奥にあった、むき出しになった工場の部屋――の跡だった。

 記憶が残っている2Bからしても、面影がない程に破壊され尽くしていた。

 ただでさえ降下作戦時の戦闘で工場の防衛システム、マルクスによって壁が破壊された状態であったというのに、今度はそこに倒れているエンゲルスのレーザー砲撃によって部屋の大半は消滅し、崩れ落ちた瓦礫によって辛うじて足場ができているだけの状態だった。

 降下作戦時に2Bが戦ったマルクスの残骸である巨大なバケットホイールさえも瓦礫の一部と化してしまっている。

 

 あれほどの惨状を見ても、赤いイレギュラーはエンゲルスを相手に一歩も引かず、むしろ一刀の元に葬り去って見せた。

 しかも、降下作戦時の生き残りと思しき、ヨルハのアンドロイドを守りながら。

 

 平静を取り繕う9Sの胸の内には、その巨大機械生命体を撃破してみせた“赤いイレギュラー”への強い興味が燻っていた。

 まるで――かつて人間が、神話(フィクション)や歴史上に登場する英雄(ヒーロー)に憧れを抱いたように。

 同じ男として、憧れない筈がなかった。

 

 ――その赤いイレギュラーが守っていたヨルハのアンドロイドが、実は降下作戦から抜け出した裏切り者であるという事実を、9Sはまだ知らない。

 

 知るのは、降下作戦前から11Bの始末を請け負っていた7Eのみで、9Sはたまたま墜落から生き残って工場廃墟まで逃げ延びた仲間という認識しかない。

 知れば、きっと好奇心の矛先が変わるであろうから。

 ・・・・・・()()()()()()、察している2Bはともかくとして。

 ならば、今は少なくとも赤いイレギュラー1人に興味が注がれている状態が一番マシだという、司令官の判断だった。

 

「ポッド。この場所に、何か赤いイレギュラーの痕跡のようなものは?」

『解析・・・・・・戦闘による損壊以外には、特に異常な反応は検知できず』

「・・・・・・そっか、破片の一つでもあれば解析のしようもあるんだけど・・・・・・」

 

 共に飛行ユニットに搭乗するポッド153に解析を頼んだ9S。相棒から発せられる女性を模した音声を聞いた9Sは幾分か残念そうに呟く。

 ・・・・・・本人は平静を装っているつもりだろうが、明らかに“赤いイレギュラー”に対する興味が隠し切れていない。

 特に、傍にいる2Bには。

 

「9S。アンドロイドは、感情を持つ事を禁止されている」

「・・・・・・あ、バレてました?」

 

 2Bの指摘に、9Sは気まずそうに頬をヒクつかせながら聞く。

 自身の中の赤いイレギュラーに対する強い興味については自覚していた9Sであったが、まさかそれを2Bから指摘されるとは思わなかったらしい。

 その反応が、今の9Sは本当に自分のことを知らないのだと、2Bは改めて思い知らされる。

 ――もう、慣れている筈なのに。

 ――私に、そんな資格はないのに・・・・・・。

 ――彼が、自分以外の者に強い興味を抱いている姿を見ると、なぜか・・・・・・胸に霞がかかったような気分になる。

 ・・・・・・駄目だ。これ以上は考えないよう(感情を持たぬ)にしなければ。

 

「・・・・・・駄目ですね。少し調べてみましたけど、この大型兵器の中にも赤いイレギュラーとの戦闘に関するログは残っていないみたいです。赤いイレギュラーの攻撃で、記憶データが破損しているようですね。

 ここにいても、手がかりは得られないようです」

 

 海上に鎮座するエンゲルスの裂けた頭部の前まで近づき、ハッキングを試みようとした9Sであったが、目的の情報は得られなかったらしい。

 

「念のため、工場の中も捜索してみましょう。先の降下作戦で、工場内の機械生命体は大分数を減らしている筈です。僕と2Bならば、苦にはならないでしょう」

「・・・・・・分かった。私は先に降りて調査する。9Sは飛行ユニットに乗ったままサポートをお願い」

「了解です。気をつけて下さいね、2B」

「貴方も、9S」

 

 そう言って、2Bは飛行ユニットを着陸させる。

 装甲が展開され、むき出しになったコックピットから降り立ち、共に搭乗していたポッド042が彼女の隣を浮遊随行する。

 バンカーへ帰っていく自分の飛行ユニットと、工場回りへと跳んでいく9Sの飛行ユニットを見送った2Bは、降下作戦時と同じルートで工場の内部へと侵入した。

 ――確かに、目に見えて工場内の敵の数が減っている。

 敵の増産が完全に停止された訳ではないようだが、改めて先の降下作戦を成功させたことに意味があったのだと実感した2B。

 降下作戦時より潜入が楽になったとはいえ、気を抜く2Bではないが、そこは素直に喜ぶべきことか。

 廃墟の探索を始めてから十数分立った頃、9Sからの通信が入った。

 

『2B、今すぐ来て確かめて欲しい物があります。妙なモノを見つけたんです』

「・・・・・・妙なモノ?」

『そちらのポッドに場所のデータと画像を送信します! 指定したポイントで落ち合いましょう』

「分かった。ポッド、9Sから送ってくれたデータを閲覧できる?」

『既に受信。これより画像ログを表示』

 

 ポッド042がそう言うと、直方体のヘッドの上に取り付けられたカメラから、9Sの送った画像ログを表示する。

 ・・・・・・そこに映っていたのは、明らかにこの工場廃墟の中とは思えない材質でできた場所だった。。

 

「9S。この場所は?」

『飛行ユニットで2Bと別のルートを探索している時に見つけた場所です。地下区画の割と浅い区域で見つけたのですが・・・・・・明らかに材質や経年月が他の場所と異なるんです』

「なぜ、そんな物が?」

『分かりません。ここ数千年の間、機械生命体の手が加えられた様子がないことから、旧世界から存在していた場所だと考えられます。そして――なにより注目すべきなのは』

 

 9Sが続けてデータを送信する。ポッド042が即座にそのデータを映し出すと、今度は別の画像が現れた。

 さっき映し出した場所の内部の様子を映し出した画像だ。そこに見えたのは――大量の機械生命体の残骸だった。

 

『この機械生命体たちの残骸――まだ新しいようですね。おそらく、破壊されてから数時間ほどしか立っていません』

「何者かが、この場所で機械生命体と戦闘していた・・・・・・?」

『それだけではありません。ここに来るまで、墜落されたばかりと思しき飛行型の機械生命体の残骸を発見しました』

「私たちより先に、誰かが入り込んでいる・・・・・・」

『その可能性が高いです。2B、これって――』

 

 真剣な面持ちで問う9S。

 9Sと同じ考えに至っていた2Bも、無言で頷いた。

 

「この機械生命体たち、みんな急所を一撃でやられている。これほどの攻撃力と戦闘力を持つのは――」

『赤いイレギュラーをおいて、他にいない』

 

 その結論に至った2人は、暫く神妙な様子で考え込んだ。

 ――赤いイレギュラーが、まだこの工場内部にいる可能性が高い。

 彼の戦闘力から見て、調査を命じられた自分たちが、彼と遭遇できることは、果たして幸か不幸なのか。

 

「分かった。指定した場所で落ち合う」

『了解です。データで送った場所は、通常の足場では行けない所にありますから、僕が飛行ユニットで2Bを運びます』

「了解」

 

 通信を閉じると、2Bはポッド042がマップにマークした指定場所へと向かう。

 地下区画の一角――そこが9Sとの待ち合わせの場所だ。

 ――さすが、9Sだな。

 向かう途中、そんなことを考える2B。飛行ユニットがあるからとはいえ、こんなにも早く赤いイレギュラーに繋がる手がかりを見つけるなんて、さすがは最新のスキャナータイプと言ったところだろう。

 ・・・・・・そんなことを考えていたら、あっという間に指定されたポイントに着いた。

 そこには、飛行ユニットに乗った9Sが既に待機していた。

 

「それにしても、まだこんな場所があったのか・・・・・・」

「ここの工場は、機械生命体たちによって大分改造や増築がなされているそうです。元は人間たちの物だっていうのに、奴らが我が物顔をした結果がこの地下区画なんですよ」

 

 周囲を見渡し、呟く2Bに、9Sが少し機械生命体たちに対する毒を含んで答える。

 

「ですが、そんな奴らでも手が届いていない場所があるんです。それが、あそこです。」

 

 9Sが上を指差し、2Bもそこを見上げる。

 ・・・・・・明らかに工場廃墟とは違う材質でできた、長い通路が、微かに見えていた。

 なるほど、あれではどうあっても自力では行けそうはない。

 

「あれが、例の場所に続いているの?」

「はい。今から僕があそこまで2Bを運びますから。2Bは飛行ユニットに捕まっていて下さいね。あぁ、その前に・・・・・・」

 

 何かを思いだしたのか、9Sは飛行ユニットの背後に隠してあった、ソレを2Bの目の前に出した。9Sの制御下にあるソレが、ゆっくりと2Bの前まで浮遊移動してくる。

 

「これ、落とし物ですよ。2B」

「それは・・・・・・“白の約定”」

 

 大型の太刀――柄の側部に刀身が取り付けられた刀がそこにあった。

 降下作戦時に2Bが使用していた大型の太刀である。

 

「工場の入り口付近に、降下作戦時の2Bの義体を発見しまして。戦いの手数は多い方がいいでしょうから、ついでに回収しておきました。今から武器制御を2Bへお返ししますね」

「・・・・・・そうか。ありがとう、9S」

 

 渡された白の約定の柄を取る2B。ポッドを介して武器制御権を自分のものへ再び戻す。

 久々に握った得物の感触は、やはりしっくりと来るものだった。

 

「それでは、行きましょうか」

 

 飛行ユニットの主腕を操作し、なるべく丁寧に2Bの義体を掴んだ9Sは、エンジンを噴射させて、飛んだ。

 目的の通路の上に足を付けた9Sは飛行ユニットの腕から2Bを解放する。

 床に足を付けた2Bに続き、9Sも飛行ユニットのコックピットから降りた。

 

「・・・・・・長いな、この通路」

 

 呟きつつ、2人は通路を走って進む。

 途中、幾数十体ものの機械生命体の残骸を目にした2Bは、ここが9Sが送ってくれた画像の場所だと確信した。

 

「小型も、中型も、大型も問わず一撃、か。2B、油断しないで下さいね。赤いイレギュラーがどのような目的で動いているか、バンカーはまだ掴めていません。もし、戦闘になるようなことがあれば――」

「分かっている。超大型兵器を単身で撃破した相手に挑むのは、私たちでも無謀だ。もし遭遇したら、なるべく穏便な手段で情報を引き出そう」

 

 それでも話が通じないのなら、退くしかない。

 最も、ソレを許してくれる相手とも限らないのだが。ともあれ、調査を命じられた身としてはこのチャンスを逃す訳にはいかないのも事実。

 

「今回はちゃんと二人分のバックアップをしておきましたから、もうあんな顔はしないで下さいね、2B?」

「・・・・・・言っていることが、よく分からない」

 

 茶化すように言う9Sの言葉を、2Bは少し上ずった声でははぐらかす。

 面白い人だなぁ、と内心で思いつつも、9Sは2Bと共に通路の先を目指した。

 ここから先は、先んじて発見した9Sでさえも足を踏み入れていない、未知の場所。

 まだ見ぬ地への期待と不安を抱きつつの9Sは、いつでも2Bを援護できるように細心の注意を払いながら進んだ。

 

 そして――通路を進んだ先に出たのは、妙な広場だった。

 

 工場区画よりも、更に深い、闇。

 瓦礫の山がいくつも散見され、なぜかアンバランスな緑色の光沢を放つ床。

 まるで、他の工場廃墟の区画とは別の意味での、異界だった。

 

「・・・・・・なに、ここ」

「2B。この瓦礫、全て旧世界の遺産のようです。しかも、この場所自体、長い間機械生命体の手が加えられていない」

「そんな場所で、どうして機械生命体の戦いが起こったの?」

 

 2Bの疑問は尤もなことだ。

 長年、機械生命体の手が加えられていないというのならば、この場所に奴らが今更どのような用事があるのか。

 その疑問に対して推測を述べたのは9Sだ。

 

「考えられるのは、降下作戦中のヨルハのアンドロイドがここに迷い込んで、その追手として差し向けられたとしか――待てよ?」

 

 9Sは立ち止まり、周囲を見渡しながら考える。

 降下作戦中に迷い込んだアンドロイド――前の自分と2Bは真っ直ぐに標的の所にたどり着いたのだから、それはあり得ない。そうなると――該当するのは、赤いイレギュラーが守っていたあのヨルハ隊員。

 だが、一人のヨルハ隊員があれほどの数の機械生命体を相手に戦えるとは思えない。

 全個体が急所を一撃で葬られていたのだ。いくら最新のヨルハ部隊であろうと、そのような芸当は不可能だ。

 つまり、迷い込んだ時点で、赤いイレギュラーはそのヨルハ隊員の傍にいたということになる。

 

「つまり――例の赤いイレギュラーは、ここで目覚めた?」

「・・・・・・9S?」

 

 9Sの突然の一言に、2Bも思わず立ち止まってしまう。

 

「2B、僕の推測が正しければ、赤いイレギュラーはここで起動した可能性が高いです」

 

 再び歩を進める9S。

 その方向は、この瓦礫が積み上がった広場で一番怪しい――中心の淡い照明の光る方へと向けられていた。

 2Bもそれに続いて歩く。

 

「それで、どういう事?」

「この場所、他の場所と比べると材質や経年月が一致していないんです。そして――」

 

 歩きながら聞く2B。

 それに対して、9Sが答えようとしたその時――二人の視界の奥に、それはいた。

 

 この暗闇の中で、二人が目指していた照明の光。

 その照明に照らされるは、側面がえぐれた円柱状の建造物と、そのえぐれた穴から見える、端末らしき機器、天井から伸びた無数のケーブル。

 そのケーブルは元々何かに繋がっていたのか、先から微小なスパークを発しながら床に転がっている。

 

 これだけでも異様な光景なのだが――二人が立ち止まった理由はそこではない。

 その建造物の傍に転がっていた、ポッドの残骸らしきものと・・・・・・それを見下ろす、燃えるような、赤いアーマー。

 

「2B、誰かいます!!」

 

 9Sが叫ぶと同時、2Bも腰を低くして身構える。

 赤いボディの主も、9Sの声に気付いたのか、静かに振り返る。

 静寂が訪れる中、2Bのポッドが二人に報告する。

 

『報告:赤い機体に金の長髪。バンカーから調査命令が出ていた赤いイレギュラーと外見的特徴が一致している』

「赤いイレギュラー・・・・・・」

 

 唖然としたように、9Sが呟く。

 ――ようやく会えた、という気持ち。

 ――出会ってしまった、という気持ち。

 二つの気持ちが胸中を渦巻く中で、9Sは赤いイレギュラーにどう声をかけていいものか困惑する。

 機械生命体でもない、アンドロイドでもない。そんな存在にどう対応すればよいのか――それを推し量るのも今回の任務の内だが、やはり出会ってしまった以上はその対応が分からなければ困るものだ。

 2Bも、9Sと同様のようだった。

 驚異的な戦闘能力くらいしか彼の関する情報を持っていない二人は、とりあえず警戒して構えるくらいしかできることがなかったのだ。

 

 そんな空気の中、先に口を開いたのは、赤いイレギュラーの方だった。

 

「お前達は――ヨルハ部隊、か」

 

 ヨルハ部隊――赤いイレギュラーの口から、自分たちの組織の名前が出たことに驚く二人。だが、同時に9Sはこの赤いイレギュラーが意思疎通が可能な知性を持っていることに安堵し、今度は此方から聞いてみようと声をかけた。

 

「僕たちのことを、知っているんですね?」

「・・・・・・あぁ」

 

 9Sの問いに、赤いイレギュラーは静かに頷く。

 2Bも目の前の赤いイレギュラーが機械生命体のように襲いかかってくるような者ではないと判断したのか、構えを解いた。

 

「初めまして。僕は9S、スキャナータイプのヨルハ型アンドロイドです」

「私は2B。貴方の名前も、教えてほしい」

「・・・・・・ゼロだ」

 

 9Sと2Bが名乗ると、赤いイレギュラー――ゼロもまたそれに応じて名乗り返してきた。どうやら、自分たちアンドロイドのように、人間に近い礼儀も心得ているらしい。

 互いの名を知ることができたのか、9Sはここに来た用事をゼロに説明しようとした。

 

「僕たちは司令官からの命令で、貴方のことを調査するように言われてここにやってきました。確認のために聞きますが、外の超大型の機械生命体を撃破したのは貴方で間違いありませんね?」

「・・・・・・そうだ」

「人類軍に代表し、礼を言います。貴方が大型兵器を倒してくれたことで、我々の脅威はまた一つ取り除かれました。本当に、ありがとうございます」

 

 頭を下げ、人類軍代表として礼を言う9S。

 

「・・・・・・別に、あんた達のためにやったわけじゃない。オレは自分の守りたい物のため戦ったに過ぎん」

 

 ゼロの答えに、9Sは即座に彼が大型兵器から守っていたヨルハ隊員を思い出す。

 もし彼の言う“守りたい物”が彼女なのだとしたら、彼は人類軍に味方しうる存在とバンカーに報告していいかもしれない、と9Sは期待を抱く。

 胸の内から湧き上がる興奮を抑えつつ、9Sは言葉を続けた。

 

「・・・・・・そうですか。貴方が何者なのか、聞きたいことは色々ありますが・・・・・・ところで、そこに転がっているポッドは一体?」

「・・・・・・それを聞いて、あんた達はどうする?」

 

 途端に、ゼロから緊迫した気配が放たれる。

 嫌な汗が、2人のアンドロイドの人口皮膚の上を流れていった。

 

「そのポッドは、僕たちヨルハ機体の随行支援を担当するユニットなんです。ですので・・・・・・申し訳ないのですが、貴方に持って行かれると少し、困るんです」

「その機体には、私たちヨルハの大事な機密情報も詰まっている。見つけた以上、私たちにはソレを回収する義務がある。だから、ソレを渡して欲しい」

 

 一歩踏み出した2Bが、9Sに続いて此方の事情を説明する。

 調査を言い渡された身として、色々聞かなければならないことはある・・・・・・が、それ以上機密を他者に知られる危険性がある場合は、その要因を最優先で取り除かなければならないのだ。

 だから、二人は祈った。

 この赤いイレギュラーが、ポッドを譲ってくれることを。

 

「・・・・・・お前たちにも事情があるのは分かった。だが、それはできないな」

 

 だが、帰ってきた答えは、二人の願いとは真逆の物だった。

 

「どうしてですか!? その機体には、貴方のような人には知られてはいけない情報が沢山あるんです!! それなのに何故・・・・・・!?」

「それを持って行くのなら、私たちは貴方を放っておくわけにはいかなくなる。どうか、それを渡して欲しい。さもなくば、貴方を破壊してでも・・・・・・」

 

 声を荒げて、9Sはゼロに問う。

 2Bも9Sほどではないにせよ、心なしか焦ったような口調に変わっていた。

 想定していた最悪の事態を――こちらから実行しなければならないかもしれないからだ。

 だが、ゼロの答えは変わらない。

 

「お前達に事情があるように。此方にも譲れない事情がある。――分かったのなら、そこを退け」

 

 その答えに、9Sの中の、ゼロに対する憧れが崩れ去っていく音がした。

 興味を抱いていた、期待していた――否、憧れていた。

 人類軍のピンチに、突如として現れた赤い救世主――そんなものはただの幻想に過ぎないのだと。期待する方が間違いだったのだ。

 

「っ、やはり貴方も、あいつらの仲間ということですか・・・・・・!! 僕たちの情報を奴らに売ろうと――」

「そうじゃない」

 

 激高した9Sの言葉を、ゼロが遮る。

 静かな声であるにも関わらず、それは激高した9Sを黙らせる程、力強かった。

 

「こいつの帰るべき場所は、このような場所でも、ましてやお前達の所でもない」

 

 とてつもない殺気が、二人に降りかかった。

 凄まじいゼロの闘気に二人は思わず、身をたじろがせる。

 咄嗟に武器を構え、警戒する姿勢を取る二人にゼロは構わず告げた。

 

「それを邪魔するというのなら、叩き斬る・・・までだ」

 

 抜かれる光剣。

 あの超大型兵器を一撃で沈めて見せた代物が、自分たちに向けらていることに、二人は息を飲み込むのだった。

 

 

 

 

 

 剣を交えぬ以上――彼らは、分かり合えない。

 

 

 

 

 

 

 




Diveのメシア様のチャージセイバーがやべぇ。
落石どころか隕石じゃねえかあのエフェクト。
これはウチでも使わせなければ・・・・・・・
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