NieR:ZERO   作:ナスの森

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炸裂スル怨光

 質素な個室で未だに治療を受ける11B。

 ポッドの回収任務に出る前のゼロと話をした直後、彼女はスリープモードでベッドに横になったままポポルによる集中治療を受けていた。

 途中、治療行為を中断していたデボルが部屋から戻ってくる。

 

「11Bの調子はどうだ? ポポル」

「・・・・・・重傷ね。ほとんどの部品が中枢回路までダメージを受けている。あと少しダメージが深ければ、彼女の命はなかったでしょうね」

「・・・・・・となると、ほとんどの部品は換装しないと駄目か。脱走兵でもなければ、バンカーに連絡して向こうで新しい義体を用意してくれるんだろうが・・・・・・」

「それも、ゼロが戻ってくるまでの辛抱よ。そっちはどうかしら?」

「ああ、途中通信が切れちまったが、伝えるべきことは伝えた。データが残っていれば、の話だがな」

「・・・・・・・そうね」

 

 目を伏せ、頷く11Bの治療をしながら頷くポポル。

 11Bのログを覗き見て、ようやく彼女らも11Bが工場廃墟に眠っていたゼロを目覚めさせたことを信じることができたのだが、その際に11Bがハッキングで得たゼロに関するデータがあまりにも不可解なものだったのだ。

 断片的でしかないのもそうなのだろうが、旧世界の代物とあっては、一番の古株である自分たちですら検討の付かないものである可能性すらある。

 要するに、ゼロに使われている技術は、それだけ未知のものであることが断片的なデータのみからでも読み取れたのだ。

 頭を抱える二人。

 

「・・・・・・ねえ、デボル」

 

 暫しの沈黙の後、ポポルが言い辛そうにしつつも、口を開いた。

 

「私、ゼロを見てると・・・・・・とても、胸を締め付けられるような感覚になるの・・・・・・」

「・・・・・・奇遇だな、あたしもだ。この感覚は――」

 

 寂しそうな、神妙な顔になってデボルも俯く。

 ああ、そうだ。この感覚は常々、感じている“モノ”と相違ない。

 だが、その度合いが明らかに異なる。

 

 ――その名は、罪悪感。

 

 彼女達の同型機は、過去に重大な事故を起こしている。

 当時の記憶は残されていないが、他のアンドロイドたちに対する“罪悪感”だけが、彼女たちの中には埋め込まれている。

 その罪悪感が――とりわけ、ゼロに対しては深く抱いてしまうのだ。

 なぜか、人間でもアンドロイドでもないゼロに対して、今までよりもずっと、深く、深く、心の臓が締め付けられてしまう。

 あたかも、最大の“禁忌”を侵してしまったかのような、そんな感覚に蝕まれてしまうのだ。

 

「あたしたちにできるのは、ゼロに使われている技術を少しでも解析して、あいつのメンテナンスができるようにすることだけだ」

「それが――私たちの贖罪」

 

 記憶にない、覚えのない罪――それを償うことを当然のことと考える姉妹に、それをおかしいと指摘する人物は、周りにはいない。

 辛いとは思わない。思う暇なんてない。

 覚えのない罪を生涯かけて償っていく――彼女たちは、それを当然のように受け入れていたのだから。

 

 

     ◇

 

 

 最悪の事態だ、と9Sと2Bは息を飲み込む。

 あたかも9Sと2Bからポッドを守るかのようにゼットセイバーを構えるゼロ。

 指一本触れさせないと、そんな強い意志を宿した目を向けてくるのは、バンカーが識別名として「赤いイレギュラー」と名付けた不明個体。

 意思の疎通が可能なことは確認できたものの、こちらのポッドを無断で回収しようとする行為は、バンカーにとっては絶対的な敵対行為だった。

 故に、9Sと2Bもそれに対して粛正処置を行わねばならない。

 ならないのだが――如何せん、相手は超大型を単身で撃破せしめた実績を持っている。

 たかがヨルハ機体二機では、あまりにも分が悪いのだ。

 

「・・・・・・もう一度言う。怪我したくなければ、そこを退け」

 

 静かに2人にそう言い放つゼロであったが、そんなゼロも2人と同様に若干の焦りがあった。

 それは、ヨルハが既にこの地域に派遣されている、という事態に対してだ。この地域に派遣されたヨルハ部隊がこの2人だけとは限らない――下手すれば、アネモネの言っていた調査担当のヨルハが既にレジスタンスキャンプへ到着しているかもしれないという可能性を、ゼロは考えていた。実際のところ、目の前の2人がそうであるわけだが、それを知らないゼロはとにかくレジスタンスキャンプへ急ぎたかった。

 キャンプにいるアンドロイドたちを貶める意図はないが――彼らの戦闘能力は最新型のヨルハ型アンドロイドには大きく劣る。実際に彼らを助け、かつ7Eとの交戦経験を持つゼロが出した結論はそれだった。

 もしヨルハ部隊が11Bを抹殺しようと、力ずくでレジスタンスキャンプに乗り込んできたら――レジスタンス側に勝ち目などなく、動けない11Bも見つかれば即抹殺されるだろう。

 

 ゼロとしても、11Bを守れず、かつ恩人であるレジスタンスのアンドロイドたちを人類軍の敵に回させる事態だけは何としても避けたい。

 そのために、一刻も早くポッドとここに残っている自分のデータを持ち帰りたかった。

 

「退かないのならば、こちらから行くぞ?」

 

 静かに言うゼロは、一歩前に踏み出す。

 警告のつもりだった。ゼロとて、敵対関係といえどやたらに敵を破壊しようと思う程戦闘狂ではない。必要のない戦闘は避けて然るべき。ここで相手が退くのならばそれでよいのだが・・・・・・。

 無論、簡単にそうなるとは思っていないわけなのだが。

 

「・・・・・・これより、赤いイレギュラーを敵性個体と認定。排除する・・・・・・」

『了解。個体識別信号赤いイレギュラーを敵性個体としてマーク』

 

 2Bが、淡々とそう告げると白の約束を抜いて戦闘態勢に入る。9Sも同様だ。

 もし敵対することがあれば撤退するというのが基本方針であったが、機密が知れ渡る危険性があるとなれば、戦闘もやむなしだ。

 命に代えてでも、この赤いイレギュラーを止める。それが2人の下した結論であった。

 2人の姿勢から答えを受け取ったゼロは、2人の視線から――消えた。

 

「なっ、消え――!!」

「2B、上です!!」

 

 9Sの言葉に、咄嗟に上の方を見上げる2B。

 見えたのは――此方へと向かってくる、翠色の光刃。それが彼の大型兵器を一撃で沈めた剣であることを即座に理解した2Bと9Sはそれぞれ別々の方向へ避ける。

 その途端――2人がいた床に大きな傷跡と、それを中心に凹んだ床が真っ二つに割れて左右に大きく盛り上がる。

 割れた左右のそれぞれの床の先にいたのは、2Bと9Sだった。

 ――分断された!?

 それに気づいた2人は即座に互いに合流せんと動くが――問題は、赤いイレギュラーが先にどちらを叩いてくるか。

 割れた床の亀裂に身を潜めた赤い閃光が狙いを定めたのは――9Sだった。

 

「っ!?」

 

 ――下から!?

 スキャナータイプ故の探索能力により咄嗟にゼロの居場所を突き止めていた9Sは、間一髪で己の脚を切り落とそうとした翠色の刃を避けることができた。

 間一髪の所で攻撃を避けることができた9Sはゼロから距離を取ろうとポッドプログラム「ミサイル」を起動し、赤いエネルギーを纏い高速移動するポッドを掴んでゼロから離れる。

 ――が、ゼロはフットパーツを起動する事すらなく、脚力のみで9Sの行く先を回り込んだ。

 

「な、はや――」

 

 ゼロが先に9Sを襲った理由は、あらかじめ11Bからスキャナータイプについて聞かされていたからだ。彼らはメンテナンス、ハッキングなどを得意とし、主に戦闘支援や単独での捜索任務に回されることが多いという。

 先ほどの自分の奇襲に気づいてみせた9Sの感知力、そしてハッキング能力を警戒したゼロは先に9Sを無力化させることにしたのだ。

 

『警告:旧世界の魔法兵器。魔素を利用した攻撃は、あらゆる防御システムを貫通する恐れあり』

 

 ポッド153の警告のその助言は、警告というよりかは、まるで死刑宣告のようであった。それは要するに、あらゆる防御システムを用いても防ぐことはかなわず、回避に専念するしかないということではないか。

 焦った9S、しかし冷静な判断力を損なうことなく、ポッドの射撃で牽制しながら、自身も迫り来るゼロを迎え撃たんと、“黒の誓約(かたな)”を手に取り、制御システムを用いた遠隔操作によって巧みに操る。

 が、ゼロは事もなげに速度を落とすことなくポッド153のガトリング射撃を掻い潜り、ハッキング操作されている黒の誓約の刀身を左手のゼットナックルでつかみ取った。

 その瞬間、黒の制約の武器制御がゼロの方へ乗っ取られていくことに9Sは気付く。ハッキングに通じている9Sだからこそ、その異常性に気付くことができた。

 ――バカな!? スキャナータイプである僕の演算速度を遙かに上回るスピードで武器制御を乗っ取るだなんて・・・・・・!!

 抵抗を試みる9Sであったが、自身のハッキング能力とゼットナックルの強奪能力の差を即座に思い知った9Sは即座にゼロから距離を取るを優先するが――遅い。

 

 9Sが回避行動に移るよりも早く、ゼロは9Sの懐へと接近し、奪い取った黒の誓約を振い――9Sの義体を切りつけた。

 魔素による強化魔法によりその切れ味を強化した黒の誓約の刀身は、ヨルハ義体の防御システムをいとも容易く通り抜け、内部機構へただならぬ衝撃を与える。

 悲鳴を上げる暇もなく――9Sの義体は一閃のすぐ後に見舞われたゼロの回し蹴りにより吹き飛び、そのまま瓦礫へと衝突して埋まっていった。

 

 ――ブラックボックス信号は健在・・・・・・・生きているな。

 

「まずは、1人」

 

 殺さず、9Sの無力化を確認したゼロは、此方を追いかけてきた2Bの方を睨み付ける。

 ゼロが9Sを殺さなかった理由は、人類軍におけるレジスタンスの立場を悪くしないためだ。今のゼロは、曲がりなりにもレジスタンスの一員として任務に赴いている。

 11Bの助かる方法を提案してくれたアネモネ――ひいては彼女が率いるレジスタンスに迷惑をかけたくなかったゼロは、なるべく彼らを殺さないまま無力化したかった。

 ここでレジスタンスがヨルハから敵視されるような事態となれば、せっかく自分と11Bが得た後ろ盾も無駄になり、彼らの気遣いを無に帰すことになるのだから。

 武器をゼットセイバーから、9Sから奪った黒の誓約に持ち替えたのもそれが理由だ。

 

「9Sっ!!」

『報告:9Sのブラックボックス信号は未だ健在』

 

 9Sを助けんと駆けつけた2Bは既に9Sがやられていることを知り、心配して彼の名を叫ぶ。傍にいたポッド042がそんな2Bを落ち着かせようとしたのか、状況報告を行う。

 ポッドの報告によりひとまず気を落ち着かせた2Bは、歯ぎしりしながらこちらに刃を向けるゼロを睨み付ける。

 現在、彼の手に握られているのが大型兵器を沈めて見せた光剣ではなく、9Sが愛用している小型剣“黒の誓約”であることが、余計に彼女の気を駆り立てる。

 

「そこを、どいて・・・・・・」

「・・・・・・」

 

 道を阻むゼロに対し、2Bは白の約束を握りしめながらそう言うが、ゼロは退かない。

 

『解析:赤いイレギュラーの持つ黒の誓約から、魔素の流れを検知。魔素による何らかの魔法効果が付与されていると予測』

 

 旧世界の魔法兵器とは、これほどまでに理不尽な代物なのかと2Bは内心で毒づく。

 よくよく見ていれば、黒の誓約を取り巻いてる制御プログラムの光が、9Sや他のヨルハが使っている時のような斥力リングではなく、あの赤いイレギュラーの魔素から構成されていると思しき翠色の魔方陣に置き換わっているではないか。

 武器制御が根本から乗っ取られた証だ。

 その事実に、2Bはぞっとする。・・・・・・要するに相手は9Sのハッキング速度すら上回るスピードで武器制御を乗っ取ったのだという結論に、2Bも至ったのだ。

 それでも、2Bの答えは変わらない――ここで9Sを見捨てれば、また今の彼は帰ってこなくなるのだから。

 

「そこを、退けぇっ!!」

 

 ゼロが退いてくれる様子を見せないことに痺れを切らした2Bは、右手に白の約束を、左手に白の約定を携えて躍り出る。

 魔素による強化が加わっているとはいえ、相手があの光剣を使うつもりがないのであれば、まだ此方に勝機はある。

 人類軍の長年の戦いによって蓄積されたアルゴリズムと、2B自身が積み重ねてきた機械生命体たちとの戦闘経験、さらに戦闘型ヨルハアンドロイドとしての性能――それらが合わさり、怒濤の攻撃がゼロに襲いかかるが、ゼロは2Bの二本の太刀によるコンビネーションを黒の誓約一本で捌いていく。

 途中、ポッドの射撃支援が加わり、ゼロは後退しながらも傷一つ負うことなく全ての攻撃を捌いていった。

 ――手強いな。

 途中、ゼロは2Bに対してそんな感想を抱く。

 剣戟と打撃を繰り混ぜ、蝶を思わせるように舞い、それでいて無骨で荒々しい攻撃は、7Eよりも更に激しい。

 もしこれで相手が激情に囚われていなかったら、さすがに自分とて危ないかもしれない。そういった意味でも、先に支援タイプである9Sを無力化したことはゼロの英断といえよう。

 

「ポッド!」

『了解』

 

 2Bが叫ぶと、それだけで相棒の言わんとしたことが伝わったのか、阿吽のタイミングでポッド042は箱体のヘッドを展開させる。

 そこにエネルギーを限界までチャージングさせる。

 あたかも指揮棒のように白の約束を振い、その切っ先をゼロの方へ2Bが向けると、それと同時にチャージングされたエネルギーが白い閃光となって、ゼロの方へと炸裂した。

 ポッドプログラム『レーザー』――降下作戦時に送信されたプログラムで、直線上の敵を強力なレーザー攻撃で一掃する兵装だ。

 

 少しは有効打になったかと、レーザーの射線上を見守る2Bだったが――その直後、目を見張った。咆哮にも等しい白い閃光は、あろうことか、ゼロを貫通するどころか、その前に、2Bに向かって迫り来る「ナニカ」に遮られていた。

 機械生命体の装甲さえ容易に貫く筈の、光線がだ。

 ――あれは、機械生命体の、盾?

 その正体は、ゼロの左手のゼットナックルに握られていた、敵陣である機械生命体たちがよく使っている防御兵装だった。

 そのような代物で、このレーザー攻撃を防げる道理などない筈なのだが、魔素を流され強化された盾は、容易にその偉業を成し遂げていた。

 その盾を前に掲げながら、ゼロはポッドのレーザー攻撃をモノともせずに2Bに向かって走ってきているのだ。

 構わず、ポッド042はレーザー攻撃と同時に通常の射撃攻撃も行うが、掲げられた盾はびくともしない。

 充填されたエネルギー切れ、レーザーが途切れると同時――ゼロは走る足を止めずに盾を2Bに向かって投げつけ、ナックルから手放す。

 2Bの頭上にまで舞い上がった電磁盾は、残留魔素が主の元から離れたことで暴発し――紅蓮の爆炎を発して、爆ぜた。

 

「っ!?」

 

 咄嗟に腕で爆風から身を庇う2B。

 魔素の暴発による爆破は2Bの視界センサーは疎か、義体各所の磁気にすら乱れを許す。

 体内のナノマシンにより磁気の乱れを即座に補正した2Bの目前、視界一杯に映ったのは、黒の誓約を携えて斬りかかる赤い閃光がいた。

 

「くっ!?」

 

 先の爆風でポッドはどこかに吹き飛ばされたのか、今の2Bは正に孤立無援であった。

 絶体絶命の状況だが、弱音を吐くことは2Bには許されない。

 何としても、今は9Sの元へ行かなければならないのだから。

 

 白の約定でゼロの刃を受け止めた2Bは、そのまま宙に浮かんで回転、黒の誓約の刃を受け流し、左手の白の約束を振ってゼロの脳天をかち割ろうとするが、ゼロは頭を横に反らすだけで回避。

 ・・・・・・互いに距離を取り、2Bは白の約定を身を回転させ、遠心力をプラスして、ゼロに向けて投擲する。

 回転する大型の刃――それに対して、ゼロは()B()()()()()()()()()()()黒の誓約を投擲していた。

 回転する大型剣と、小型剣が衝突し、幾数重の火花を散らし、互いに真反対の方向へ弾け飛んだ。

 その光景に、2Bはある違和感を感じる。

 ――こいつ今、私の動きを?

 白の約定を量子化して手元に戻すと、ゼロもまた鏡合わせのように黒の誓約を手元に戻す。・・・・・・まるで、2Bの動作をそのまま真似るかのように。

 妙な気味の悪さを感じる2B。

 その直後、横から白いレーザーが飛来し、ゼロの頭部を弾き飛ばさんと迫るが、ゼロは咄嗟に身を退いて回避した。

 

「ポッド!?」

 

 盾の爆破で吹き飛ばされたポッド042が再び2Bの元へ駆けつけたのだ。爆破の衝撃がボディの所々が黒ずんでいるが、起動状態に支障はなさそうだった。

 

『ポッド042より2Bへ。ポッド153より、9Sからの通信を傍受』

「9Sから!? 彼は無事なの!?」

『肯定:ダメージレベルそのものは低く、命に支障はない模様。これより通信を表示』

 

『2B・・・・・・無事、ですか?』

「9S!」

 

 聞こえてきたのは、9Sの、途切れ途切れの声だった。

 無事と聞いてきた本人が、とても無事には見えなかった。

 

「それよりも、貴方は・・・・・・!?」

『聞いて下さい・・・・・・2B。僕は今・・・・・・赤いイレギュラーの攻撃で、しばらく動けません。駆動部が・・・・・・複数箇所・・・・・・やられてしまいました。今から作戦を2Bにお伝えします、チャンスは一度だけです・・・・・・』

「っ!!」

 

 通信超しの9Sの言葉に、2Bは一秒でも早く彼の元へ駆けつけたいという欲求を抑え、9Sの作戦を聞いた2Bは、僅かの間の時間稼ぎを引き受けることとなった。

 

 

 

 ――各ブロック、アクセス不良、解除。

 自前のハッキング能力でようやく意識を現実へと戻せた9Sは、聴覚センサー超しに2Bと赤いイレギュラーの激戦を感じ取った。

 こんな時に、どうする事もできない自分が歯がゆい。

 だが、まだ自分が2Bのためにしてやれることはある。

 意識を取り戻した9Sは、さっそく己の目覚めを見守っていたポッド153に指示を出し、2Bへと通信を繋げた。

 自身を心配する彼女の様子が愛おしく感じるが、感傷に浸っている暇はない。

 9Sは、途切れ途切れの声で、必死に、彼女に作戦を伝えることにした。

 準備自体は、赤いイレギュラーと戦闘状態に入る前から予め整っていたのだ。

 チャンスは一度しかない。

 

「2B・・・・・・今から、あるタイミングで・・・・・・僕が赤いイレギュラーにハッキングを仕掛けます・・・・・・どこまでやれるか・・・・・・分かりませんが・・・・・・、せめて、一瞬でも奴の動きを止めてみせます・・・・・・2Bは、その隙を、ついて、下さい・・・・・・」

『・・・・・・分かった』

 

 通信を閉じる。

 9Sは、はぁ、と苦しそうに息を吐くとさっそく作戦を実行しようとした。

 

『警告:武器制御を奪われた時の赤いイレギュラーの能力を想定すると、9Sがハッキングを成功させられる確率は低い』

「それでも・・・・・・・やるしか、ないだろう・・・・・・」

 

 今更、ポッドに言われるまでもない。

 だが、スキャナーモデルとして、できることはしなければならない。

 いや、ヨルハとしてではなく、これは意地だ。

 何としてでも、あの赤いイレギュラーに一矢報いなければ9Sの気が済まないのだ。

 

「行くよ、ポッド」

『了解。アクセスマーク固定』

「・・・・・・よし」

 

 ――アクセス、開始。

 

 9Sは自身は、もはや直接ゼロにハッキングを仕掛けられる状態ではない。

 だが、自身が直接ハッキングを仕掛けなくても、方法はあるのだ。

 実は赤いイレギュラーとの戦闘直前、9Sはこの部屋の機械生命体の残骸の中から、修復・および再起動が可能な個体を見つけていた。

 ガラクタであることには変わりないが、一回だけハッキングする分には、十分持つだろう。

 戦闘になる前から既にその機械生命体へのハッキングを完了させていた9Sはいつでもその個体を遠隔操作できる準備がある。

 

 途端、9Sの視界が切り替わった。

 今の自分の義体よりも、大層動かしにくい不便な体。

 ガラクタだったのを、無理矢理ハッキングで修復して動かしている状態だから無理もない。

 9Sはハッキングした機械生命体ごしに、2Bと戦う赤いイレギュラーを睨み付ける。

 ――スキャナータイプを、あまり舐めないことだ!

 意気込んだ9Sはハッキングで無理矢理再起動させた機械生命体を動かし、赤いイレギュラーの電脳空間にハッキングを仕掛けた。

 

「ここが、赤いイレギュラーの電脳・・・・・・ッ!?」

 

 9Sが電脳空間に侵入した途端、9Sを襲ってきたのは、彼をこの電脳から追いださんとする無数の防衛プログラムだった。

 そう簡単にいかせて貰えないことは百も承知だったが、この洗礼にはさしもの9Sも驚嘆するしかない。・・・・・・とはいえ、作戦を提案した手前、今更退くわけにもいかない。ここで退いてしまえば、2Bに顔向けできないのは自分なのだから。

 

 スキャナーモデルである9Sは今までのハッキング経験を生かし、防衛プログラムを掻い潜りつつ、彼の脆弱性へと繋がるプログラムを必死に探し回った。

 

「なんだ・・・・・・これ・・・・・・」

 

 しかし、手に取れるプログラムは、9Sには理解できないシステムで構成されたものばかりであった。

 そして、手に取った瞬間、防衛システムにより9Sの手から消えてしまう。

 

「くそッ・・・・・・」

 

 時間はない。この強固な防衛プログラムの嵐の中で居続けていたら、いくらスキャナーモデルの9Sといえど、オーバーフローによるダメージが本体(義体)にまで及んでしまう。

 中間役であるこの機械生命体の体ももうじき持たなくなるだろう。

 ――その前に、何としても見つけてなければ。

 決心して赤いイレギュラーの脆弱性を探し続ける9S。

 やがて、あるものを9Sは見つけた。

 

「あれは・・・・・・」

 

 いくつもの防壁システムに囲まれた・・・・・・プログラム。

 それがなんであるかは9Sには理解できなかったが、少なくとも赤いイレギュラーにとっての重要なファクターであることは予想ができた。

 時間は残されていない、9Sは迷うことなく、このプログラムを取り囲む防壁システムを破っていく。

 時間が迫り来る中、9Sの中で焦りはうなぎ登りに加速していく。

 

「もう少しだ、もう少し・・・・・・!!」

 

 賭けに等しい行為だった。

 たどり着いた所で、少なくとも、現状では何の意味も成さないプログラムかもしれない。

 それでも、既に選択肢のない9Sにとっては、これが最後に希望。

 

 そして――残る僅かな時間の中で、9Sは全ての防壁システムを打ち破り、そこへ辿りついた。わらにも縋る思いで、9Sはソレを手に取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その、瞬間――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ある、映像が、9Sの脳裏に流れてきた。

 

 辺り一帯が、何もかもが破壊された市街地跡のような光景。

 無数の白い怪物が血まみれとなって倒れ、辺りは“死”で埋もれていた。

 化け物の死体が無数に転がる中――その中心に、ある人影がいた。

 その人影に、9Sは見覚えがあった。

 赤いボディーに、靡く黄金の髪。

 しかし、彼はただ、己の腕に抱かれている、“赤い少女”を、黙って見下ろしていた。

 皮膚が白く変色していく“赤い少女”。

 その少女を、震えながら必死に、抱きかかえる赤いイレギュラー。

 俯く彼の目は、9Sからは見えない。

 しかし、小刻みに震えた彼からは、先の戦闘で感じたような気迫は一切感じられなかった。

 やがて――赤いイレギュラー、慟哭する空を見上げ、叫んだ。

 

『オレは、オレは・・・・・・一体、何のために、■っているんだぁああぁあぁぁあッッッ!!!』

 

 そこで映像は途切れた。

 何が何だか分からなくなった9Sの脳裏に、追い打ちをかけるかのように、あるメッセージが響いてくる。

 ――You unlocked LEARNING SYSTEM.

 そんなメッセージと共に、9Sは防衛システムにより電脳空間から弾き出された。まるで、パンドラの箱を開けてしまったかのような、不吉な予感と共に。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハッ、かッ・・・・・・ぐぅ・・・・・・ッ」

 

 一瞬、2Bは何が起こったのか分からなかった。

 

「動きが、止まった・・・・・・?」

 

 既に駆動部の所々が悲鳴を上げ、劣勢であることは間違いなかったというのに――そんな自分の目の前で、ゼロがいきなり苦しみだしたのだ。

 9Sから奪った黒の誓約を落し、額を抑えて、ゼロは苦しげに悶えていたのだ。

 

「オレは・・・・・・・オレ、ハ、ァ・・・・・・」

 

 要因の分からぬ頭痛と吐き気が、ゼロに襲いかかる。

 ゼロの目には、既に2Bなど映っていなかった。

 暗転した背景――その中心にある――“赤い少女”を抱え泣き叫んでいる己自身――そんな意味不明なビジョンが脳裏に過ぎり、それがゼロを苦しめていたのだ。

 

「ク、ぐぅ・・・・・・ガッ」

 

 唐突に、ゼロは己の背後に視線を持って行く。

 呆然としていた2Bもまた、それに釣られてゼロの背後を覗き込んだ。

 そこには――大破寸前の、否、既に大破済みの機械生命体が、埋もれた瓦礫の中から手を翳し、そこから放たれた光がゼロの方へ繋がっているのが、2Bの目に入った。

 

『2B、今です!!』

 

 その機械生命体から聞こえた、聞き覚えのあるノイズ混じりの声に、2Bはハッとなる。

 あの機械生命体ごしに、9Sがゼロにハッキングを仕掛けているのだと理解した2Bは、即座に白の約定を握って、ゼロの方へと走っていった。

 ――彼が造ってくれたチャンスを無駄にするものか。

 これが最後のチャンス、これを逃せば、自分たちに勝機はない。

 自らにそう言い聞かせて奮い立たせた2Bは、目前という距離まで接近し――その巨大な太刀を振り下ろし――

 

 

 

 

 

「オレに--」

 

 

 

 

 

 その最中、呻るように呟いたゼロの左手の魔方陣――ゼットナックルの翠色の光が、赤い光へと、変わっていくのが2Bの目に入る。

 

「入ッテクルナァ――!!」

 

 

 

 

円劫陣(えんこうじん)

 

 

 

 怒号と共に、ゼロは赤い魔方陣を浮かべたゼットナックルを、地面に思い切り叩きつける。

 その直後、2B、9S両者ともに目を見張った。

 ゼロが叩きつけた地面を中心に――辺り一帯に巨大な赤い魔方陣が広がったのだ。

 その魔方陣に、2Bは見覚えがあった。

 降下作戦時に、9Sの飛行ユニットに搭乗して超大型兵器と戦っている時に、一度だけ見たことがあったのだ。

 

 ――これは、あの超大型兵器の攻撃と同じ・・・・・・!?

 

 即座に身を退こうとするが、とても逃れられる規模の範囲ではない。拳を叩きつけられた地点を中心に広がった赤い魔方陣の光が、奔流となって爆ぜる。

 その光に飲み込まれたヨルハ二人の意識は、そこで断絶した。

 




エンゲルスからEX技をキャプチャーしていた!
「エンコウジン」をゲットした!

・・・・・・なんか、ナックルがどんどんチート武器と化していく・・・・・・。
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