感想欄での9Sへのコメントの数々で草生えた。
やっぱ話題に事欠かない良キャラやなって。
「・・・・・・ねえ、■■」
暗い、暗い・・・・・・記憶の奥底。
ノイズ塗れの
優しそうな、哀しそうな、そんな笑顔を浮かべて。
「いつか・・・・・・皆戻れる日が来たら、その時は、二人で一緒に――」
そんな夢物語を語り出す少女の笑みは、眩しく、悲しげだった。
夢を語るのは楽しい、結末がどうあれ、そういう時くらいは、救いがあってもいいと思うから。
――冗談はよせ・・・・・・。
口から出てきたのは、そんな答え。
涙を流すことすら忘れた兵器に、そんなことを許される時がくる筈などない。
彼女の笑顔はきっと、涙を流せるような、いつか
それでも・・・・・・少しでも、それもいいと思ってしまったのは、きっと罰当たりだったのだろうか。
――――
「そうよね・・・・・・でも、信じたかった・・・・・・」
違う・・・・・・そんな言葉を、聞きたかったんじゃないんだ。
オレはただ・・・・・・君が笑ってさえいえれば、それで。
なのに、何故、君が先に
“それ見ろ”
誰かが、嘲笑った。
“まさか、己が平和な世界で暮らせるなどと思ってはいまいな?”
目障りな、声が響く。
“貴様にそんな資格があると思っているのか?”
泥の底から、引きずりこもうとするような、声。
“お前のせいだ”
“貴様のせいだ”
糾弾の嵐。
己の腕の中で眠る少女を証拠と言わんばかりに指を差し、彼らは糾弾してくる。
『呪われろ――――”
◇
「・・・・・・ッ」
正気を取り戻したゼロは、叩きつけた拳を床から持ち上げる。
――今の、力は?
未だに赤い魔力の残滓が漏れ出るゼットナックルを見つめ、ゼロは先ほど己が放った技を思い出す。その途端、ゼロの脳裏に直接語りかけるようにメッセージが響いた。
――YOU LEARNED 円劫陣
魔法の詳細は、不自然なくらいにすんなりとゼロの頭の中に浮かび上がってくる。
ゼットナックルにエネルギーを溜め、地面に叩きつけ、魔素による広大な赤雷の魔方陣を展開。展開させた魔方陣の光を爆発させ、陣の内側にいる敵をまとめて破壊しつくす。さらにこの魔方陣――形成される際に地形を貫通するので壁を隔てた位置にいる敵すら巻き込むこともできる。
極めて強力な――
破壊、という言葉に嫌な予感を感じたゼロは、即座に周囲を見渡す。
――先ほどまで戦っていた二人のアンドロイドの姿が、ないのだ。
ゼロに斬りかかろうとしていた2Bも、機械生命体を介してゼロにハッキングを仕掛けた9Sの姿も、何処にもない。
ただ、焦げた床と範囲内にあった瓦礫が先ほどの魔方陣の大きさに沿うように抉れていた。空気は未だ焼けるように熱く、先ほどの魔法の威力を物語っている。
ゼロは端末を取り出し、彼ら二人のブラックボックス信号を探るが――反応は一つも検知できなかった。
全て、吹き飛んでしまった。
彼らの義体ごと――その存在を無に還してしまった。
ゼロ自身は預かり知らぬ所だが、降下作戦にてエンゲルスの殲滅を成功させた二人が、そのエンゲルスの攻撃を元に編み出された技によって消し炭にされたのは、皮肉な結果と言えるだろう。
「・・・・・・」
瞼を閉じるゼロ。
レジスタンスの立場を悪くしないために、彼らをなるべく殺さないよう無力化することを努めていたゼロであったが・・・・・・結果は、この様だ。
7Eをエンゲルスからは助けられず、今回の二人も、己が不注意によって殺してしまった。
いや、それとも――
――オレは、本当に、破壊することしか、できないのか?
脳裏から離れぬ、過ぎったノイズ塗れの映像。
あれは、自分の記憶なのだろうか?
それとも、単に記憶領域にエラーが発生しただけなのか・・・・・・。
「ッ・・・・・・」
立ち上がるゼロだが、ふらり、とした動作で覚束ない。ダメージはこれといって受けてはいないが、先の映像が脳裏から離れないせいなのか、駆動系がうまく作動しない。
立ち上がったゼロが次に視線を向けたのは――自分が眠っていた場所と、その傍で眠っているポッドだった。
二人を殺さぬまま無力化できなかったのは残念だが、己のやるべきことを忘れてセンチメンタルになる程ゼロは感傷的ではない。
ポッドに走り寄ったゼロは急いでナックルを翳して11Bのポッドを回収すると、次に己の眠っていた建造物の中身に目を向け、その中にある端末に手をかけた。
先の事もある――デボルから頼まれた通りに、少しでも自分のデータを持ち帰らなければ・・・・・・当然のことだが、設置された端末はデボルから渡された通信端末よりも更に旧式である。にも関わらず、体が覚えているかのようにゼロの打つ手はスムーズにコンソールの操作を可能としていた。
改めて自分が旧世界とやらの遺物であるのだという実感を抱きつつ、ゼロは目当てのデータを探すのだが・・・・・・ほとんどは老朽化により閲覧が不可能になっていた。
――ERROR――
閲覧コマンドを入力しても、画面中央に出てくるのはただその一言のメッセージのみだった。
目を伏せるゼロの胸に去来するのは、落胆。
・・・・・・いいや、全てのデータがそうでないだけでも、奇跡なのだろう。
――むしろ同じ時を過ごして眠っていたオレが、こうして動いていること自体が、おかしい事なのだろうな。
とりあえず復旧可能なデータがない訳でもなさそうだと考えたゼロは、デボルから渡された端末を接続して、データを端末からできる限り吸い出す。これを二人に届けて、後は彼らに任せるだけだ。
データの吸い出しが終わったゼロは、念のためコンソールを再び操作し、自分に関するデータを全て削除する。自分を眠らせていたプロテクトが11Bによって解かれた今、いつ敵が覗き見てきてもおかしくはない状態にある。ましてやネットワークそのものを武器にしてくる奴らを相手に情報を残すことなど愚の骨頂である。
――Initialization is completed.
データの初期化の完了メッセージが表示される。もうここに用はない。
ゼロはかつての自分の寝床から背を向け、部屋を去って行く。
最後に、出口の前で立ち止まり、もう一度己の眠っていた場所へ振り向いた。
――オレは、一体何者なんだ・・・・・・?
去来する疑問に答えてくれる者はここには存在せず、ただ虚空へ消えていった。
工場の外は、相変わらずの明るい日が昇る空が広がっていた。
おかげで旧世界の計器しか内蔵されていないゼロの体内の表示時間は止まったままで、あれから何時間立ったのか検討も付かない。
こういう時にレジスタンスから渡された通信端末は助かるなと思い、経過時間を確認しようと端末を手に取ると、直後、端末から着信音が鳴った。
『こちらレジスタンスキャンプ。無事だったんだな、ゼロ。降下作戦が成功したとはいえ、工場の地下エリアは未だに通信帯域が狭くてな、うまくモニターできていなかったんだ』
映し出されたホログラム映像から顔を出してきたのは、ゼロの11Bの恩人であるアネモネだった。ヨルハと接触した関係から早くにキャンプに向かいたかったゼロにとっては、向こうに大事がなさそうなのはありがたいことだった。
「こちらゼロ。ポッドのデータの回収に成功した」
『そうか、無事回収できたのか、よかった。それよりゼロ、君たちにとって朗報がある』
「・・・・・・朗報?」
「先ほどバンカーから連絡があってな。調査として派遣する予定だった二人のヨルハ隊員が、地球への降下中に敵に襲われて、到着が遅れるという知らせがあったんだ。これで、バンカーを説得する時間が延びたというわけだ」
なるほど、確かに自分たち二人にとっては朗報かもしれない。だが、いくらゼロでも鵜呑みにしかねる内容でもある。
いくらなんでも、都合が良すぎる。
まさかな、と思い至ったゼロは、アネモネにあることを聞こうとした。
「・・・・・・アネモネ、此方から聞きたいことがある」
「ん、なんだ?」
「・・・・・・調査として派遣される予定のヨルハ隊員の名前は分かるか?」
『ああ、そのことか。一人はヨルハ2号B型、もう一人はスキャナータイプの9号だと聞いているが・・・・・・それがどうかしたのか?』
ゼロの予感は、的中していた。
ゼロは工場の地下で起こった詳細をアネモネに話すことにした。
「・・・・・・オレの眠っていたエリアで、2B、9Sと名乗る二人組のヨルハ隊員と接触した」
『え!? それじゃあ――』
ゼロの言葉に、アネモネは驚いて真剣な表情に変わる。
僅かの間に考えた仕草をした後、アネモネはゼロに問うた。
接触したならばまだいい、問題はその後どうなったかだ。
「ポッドの情報を巡り戦闘になった。そして――オレは2人を破壊した」
『・・・・・・そんな・・・・・・』
「・・・・・・すまない。お前達の立場を悪くしてしまったかもしれん」
瞼を閉じ、ゼロは顔を俯かせてアネモネに謝罪する。
そんなゼロのらしくない態度に少し驚いたのか、アネモネは一瞬だけ口を開けつつも、一息、間を空けて言葉を返した。
『・・・・・・いや、謝るのは此方だ。バンカーがゼロの戦いを目撃しているのならば、真っ先に其方に調査隊を送ることに気づけなかった私のミスだ。それに、そう言ってくれているということは、できる限り私たちの立場に配慮して戦ってくれたのだろう? それで十分だよ』
「・・・・・・感謝する」
『とにかく、キャンプへ戻ってきてくれ。11Bも待っている。ポッドのデータから証拠を整理しようじゃないか』
「了解した。これより帰投する」
通信を切ったゼロは、工場廃墟の入り口から離れ、もう一度遠くから振り返る。
・・・・・・かつては、人類が兵器工場に利用していた施設。今では異星人の駒が同胞を増産する施設に作り替えられ、そこで生み出された機械生命体たちはまた人類軍との戦いに駆り出される。
・・・・・・命がなくなろうと、戦いは終わらない。
ゼロには、彼らが人類の住処を乗っ取ったというよりは、むしろその終わらぬ業を引き継いだだけのようにも見えたのだった。
道中、危険な機械生命体と遭遇することなく、ゼロはレジスタンスキャンプへと帰ってきた。さっそくアネモネがいつも指揮しているキャンプの方へ向かうと、既にアネモネがデボルを連れて待機していた。
「ご苦労だった、ゼロ。さっそくだが、回収したデータを渡してくれないか?」
「・・・・・・ああ」
ゼロは端末をアネモネへと手渡す。
端末を受け取ったアネモネは、デボルと一緒に、端末を開いてデータを閲覧する。
中にあるデータが確かにポッドのデータであることを確認したアネモネは満足そうに頷くと、部下に手渡して解析するように指示する。
「・・・・・・ゼロ、あたしが頼んでおいたやつは」
「これだ」
ゼロはもう一つ記録端末を取り出し、デボルに手渡す。
受け取ったデボルはさっそくデータを閲覧する。
「・・・・・・あぁ、やっぱりほとんど老朽化してるものばかりだな・・・・・・」
やれやれと言わんばかりに頭を抑えるデボルの表情は、幾分か残念そうだった。
「・・・・・・使えそうな物は?」
「これを見る限りじゃなんとも、かな。とりあえず復旧できそうなデータを洗い出して、少しでもお前の技術に繋がる手がかりを探してみるよ」
「分かった、頼む」
自分のことに関する手がかりについてはゼロ自身も気がかりではあるが、後はデボルに任せることにした。頼まれたことはやった、後は彼女たちの仕事だろう。
そう思ったゼロは、再びアネモネに向き合う。
「・・・・・・アネモネ。オレが他に何かできることは?」
「とりあえず、証拠をそろえてバンカーに提出するまでお前にやってもらうことはないな。11Bの傍にでもいてやってくれ。それに、戦い続きでお前も疲れているだろう?」
「? 別に任務遂行に支障は――」
「ダメだダメだ!」
任務遂行に問題はないと言おうとしたゼロの言葉を、そう叫んで遮ったのはデボルだ。
「考えてもみろ。お前、自分が目覚めてから今に至るまでどれだけ戦い続けたと思っている? 目覚めてからすぐに11Bを守りながら大量の機械生命体を相手にして、次にヨルハE型、その次には超大型兵器!」
治療・メンテナンスに特化したモデルである彼女にとってみれば、未だに働こうとするゼロの姿勢は見過ごせないようだった。
「ようやく11Bをここに保護してからも、データ回収のために工場内の機械生命体やヨルハ部隊と戦い続けてたんだぞ? あたしだったら、数十回以上は死んでる」
デボルの言葉に、アネモネも頷きながら同意する。
例え今までの戦闘でダメージがなかったのだとしても、この短期間でのゼロの戦績は他のアンドロイドからしてみれば異常なのだ。
ろくにメンテも受け続けていない、長い眠りから覚めたばかりの状態で戦闘すること自体が本来ならば論外。ヨルハのように義体を乗り換え続ける訳でもなく、単身でその状態で戦い続けてきたゼロは異常と言わざるを得ない。
「ゼロ、今はとにかく休んでくれ。今までは時間がなかったから、君に苦労をかけさせるのもやむなしだったが、少なくともデータを解析できるだけの猶予はできたんだ。後は、我々に任せてくれないか?」
「・・・・・・」
言われて、ゼロはこれまでのことを振り返る。
実際にダメージはないし、疲れも感じてはいない、が。
・・・・・・思い返すのは、9Sからハッキングを受けたときの、フラッシュバックした映像。
アレを見たせいなのか、確かに気分としてよくないのは確かだ。
それでも、戦うのにはまったく支障がないが――。
「・・・・・・分かった」
今は彼らの好意を受け取るとしよう。
そう思ったゼロは、デボルと一緒に11Bが治療を受けている例の部屋へと入っていくのだった。
「やれやれ・・・・・・」
その背中を見届けたアネモネは、はぁ、と一息つく。
――脱走した元ヨルハ隊員。
――目覚めた旧世界の兵器。
――彼らのレジスタンスの仲間入り。
――それによってこれから起こるであろう、ヨルハとの一悶着。
ヨルハの降下作戦から今に至るまで、いろいろありすぎた。ゼロの言うとおり、組織を率いる者としては彼らを見捨てるのが正しかったのだろう。
だが、それではレジスタンスを立ち上げた意味そのものがなくなる。そういった者達の居場所を作りたかったのが、一番の理由なのだから。
それに――
「まったく打算がないわけではない。だから、いいじゃないか」
そのリスクを冒すくらい、ゼロという存在はレジスタンスに引き入れる価値がある。それに加えて最新型アンドロイドであるヨルハも1人加わるのだから、釣りは十分に返ってくるだろう。
それに――世代が近いという名目で、あの双子をゼロ専属のメンテ役に指名すれば――自分の目の届かない所で、あの双子が危険な任務に行かされ続けることもなくなるかもしれない。
――打算的にも十分。ならばやってみる価値はある。
「・・・・・・暫く、忙しくなるな」
この後、レジスタンスの解析班の奮闘により証拠が出そろう。
かくして、アネモネ達は『11Bの安全の保証、及びレジスタンスへの所属』を内容としたバンカーとの交渉を無事成功させるのだった。
旧世界の魔法兵器が、再び人類軍側の英雄として戦場に立つ――人類軍にとっても、これほど喜ばしいことはなかったであろう。
・・・・・・無論、過去の事例から、
◇
――宇宙基地 バンカー
ヨルハ部隊が拠点とする衛生軌道基地にて、ある1人のヨルハ機体が目覚めた。
「・・・・・・ここは、私の部屋?」
目覚めて、彼女は自分の記憶を振り返る。
第215次降下作戦、9Sとのブラックボックス反応の共振による自爆により、作戦を成功。そして、続けて9Sと共に赤いイレギュラーの調査を命じられ、工場廃墟に侵入して――記憶は、そこまでだった。
『おはようございます、2B』
「・・・・・・ポッド?」
横から声がしたので振り向くと、そこには自分の随行支援ユニットであるポッド042が既に待機していた。
『ヨルハ機体2Bは、360秒前に新規義体への自我データのインストールが完了した。尚、自我データのバックアップは9Sのも同時に成されている』
「・・・・・・そうか」
――つまり、私は9Sと一緒に『戻った』ということか。
そのことに、2Bは少し複雑な心境になる。今の状態から前の自分が破壊されるまでどれだけの時間が立っているのかは分からないが、少なくとも今の2Bは己の知っている9Sを失わずに済んだ、ということだ。
喜ぶべきなのか、それとも――否、自分に喜ぶ資格など、あるわけがない。
何はともあれ、おそらく自分の自我データも同時にバックアップしてくれたであろう9Sに礼を言いに行かなければならない。
「ポッド、9Sは?」
『既に自我データのインストールが完了し、起動状態にある。また、司令官より再び9Sとの共同任務が与えられている。推奨:9Sと合流し、司令官からの任務の詳細の確認』
「分かった、行こう」
自分の目覚めまで待機してくれたポッドへの感謝を込めてその箱状のヘッドを少し撫でた後、部屋から廊下へと出る2B。
我々の目からの白黒の写真のように見えるこの場所こそが、2Bたちヨルハが駐屯する基地の内部である。
少し進んだ先に、やはり、彼はいた。
あの時と、同じように。
「9S」
「先ほどぶり、ですね。2B」
強いて、あの時と違う所があるとすれば。それは――
「9S、ありがとう。途中で、私たちのデータを基地にアップロードしてくれて」
恐る恐る、そんなざわついた感情を胸に2Bは、あの時と同じような言葉を並べて9Sに礼を言う。
――ごめんなさい、その記憶を僕は持っていません。
あの時の言葉が、幻聴となって2Bの脳裏に過ぎる。
はにかむ思いを必死に抑え、2Bは9Sの返事を待った。
9Sは、優しく微笑んだ。
あの時の、申し訳なさそうな表情とは、一転して。
「どういたしまして。あの時の2Bの顔は、もう見たくありませんでしたから」
「・・・・・・そう」
あの時と同じような、そっけない返事をしてしまう2Bだが・・・・・・幾分か声は柔らかかった。
「そうだ、司令官からの命令で。また貴方のメンテナンスをするように言われてきました。僕たち、新しい義体に乗り換えたことですし、また2Bのアルゴリズムに馴染むように調整しないと・・・・・・」
「分かった。お願い・・・・・・・」
了承した2Bは、部屋に戻って9Sがメンテナンスを受けることになった。
若干、焼き増しのような感じがしなくもなかったが、無事調整は完了した。
メンテナンスを終え、ベッドから起き上がった2Bは9Sへと向き直る。
「それじゃあ、司令官の所へ行こう。赤いイレギュラーの件で、どうなったのかも気になる」
「・・・・・・そうですね。僕たちの記憶は、工場廃墟の地下エリアで合流する前までしかありませんし、確認のためにも行ってみましょう」
要するに、彼らの記憶は例の赤いイレギュラーの手がかりを掴んだ段階で止まっているということになる。その段階で記憶が止っては、まるで物語の続きが見れないかのような感じにも似たもどかしさがある。特に、9Sは。
急いで司令室へ向かう。
コンソールに向き合いながら仕事を続けているオペレーターモデルたち――その中には当然、2Bや9Sの担当のオペレーターがいる。
2Bのオペレーター――6Oは2Bを見かけると、ニコっと微笑みながらまた仕事に戻る。9Sのオペレーター――21Oはと言うと、9Sを見るや否や「何をボーっとしているんですか。早く司令官の所へ向かいなさい」と言いたげな冷ややかな目線を送る。
少し引きつった笑いを浮かべる9Sは、2Bと共に司令官の前に来た。
「2Bと9Sか。2人とも、新しい義体のメンテナンスは済んだのか?」
ヒール込みで身長が175cmほどの高身長。純白の衣装に身を包み、流れるような長い金髪をポニーテールに纏めた美女。
この女性こそが、ヨルハ部隊の司令官を務めるアンドロイドだ。
「はい」
「同じく。それで、司令官。あれからどうなったのか・・・・・・お聞きしてもよろしいでしょうか?」
上から2B。同じく返事を返した9Sはさっそく気になったことを司令官の女性に問う。おそらく、これから任務を受ける上でも重要な情報だと思ったから。
「・・・・・・」
ところが、9Sの質問に司令官は目を瞑ったまま押し黙ってしまう。・・・・・・何か、よろしくない事態でも起こったのか。
訝しんだ2Bは、9Sに続いて聞いた。
「何か、あったのですか?」
「・・・・・・今から言うことは、他の者には他言無用だ。いいな?」
真剣な表情でそう言う司令官。
ただ事じゃないと予感した2人は、息を呑んで頷き、説明の続きを待った。
「・・・・・・我々バンカーは、赤いイレギュラー、及び彼が護衛する脱走したヨルハ機体への手出しを禁ずることにした。これは、月面の人類会議による決定だ」
いきなり言われた言葉は、2人には理解できなかった。
赤いイレギュラーのことは、まだしも。
――脱走した、ヨルハ機体?
「どういう、事ですか? あの赤いイレギュラーが守っていたヨルハ隊員は、降下作戦中に行方不明になっていただけの人じゃ・・・・・・」
「彼女は、降下作戦中に撃墜された体を装って部隊から脱走を試みていた。本来ならば規定に従い、処分する所なのだが――事情が変わった」
裏切り者が出たという次は、その裏切り者を処分しないまま生かしておくという、信じられない言葉。
開いた口が塞がらない9Sの隣で、黙って聞いていた2Bが聞いた。
「それは、前の私たちが義体を失ったことと、何か関係が?」
「・・・・・・お前達が入った地下区域は、まだ降下作戦による占拠が行き届いていないエリアだった。だから、何が起こったのかは分からない。何かが起こっていた、ということしか分からないのが現状だ」
「そう、ですか・・・・・・」
煮え切らない、といった様子を見せる2B。9Sも同じだ。
「詳細は省くが、彼らは今近くのレジスタンス組織に保護されている。・・・・・・そのレジスタンス組織から、彼らについてある証拠データが提出された」
「・・・・・・証拠データ?」
「その結果、赤いイレギュラーは私たちヨルハ部隊と比べても、圧倒的な戦闘力を誇っている。現状で、その赤いイレギュラーの行動目的は、その部隊を抜け出した脱走者を守るため、という証拠だった。
彼らは、11Bにさえ手を出さなければ、赤いイレギュラーは我々人類軍の味方であるという決定的な証拠を持ってきたんだ。・・・・・・事実、赤いイレギュラーはあの超大型兵器を倒した光の剣以外にも、未知数の力を秘めている可能性が高い。
たかが1人の裏切り者のために、敵に回すのはリスクが高いと、月面の人類会議はそう判断した」
「その証拠は、僕たちにも閲覧は可能ですか」
「すまないが、機密事項に抵触する内容だ」
「・・・・・・そうですか。分かりました」
落胆したような、そんな表情を見せる9S。
赤いイレギュラーへの好意的な関心を抱いたままの状態で記憶が止っている9Sにとってみれば、とても残念な事だっただろう。
「そこで・・・・・・二度目ですまないが、お前達にまた任務を与える。一つ目は、地上にいるレジスタンスと合流し、情報収集をすること。これについての詳細は前に言ったから省く。
二つ目は、彼らが保護している赤いイレギュラーを調査して欲しい。それと、彼が守っている例の脱走者についてもだ」
「監視任務、ということですか?」
「そうだ。いくら赤いイレギュラーの件で手出しができないとはいえ、部隊を裏切ったことに変わりはない。危ないのは、彼女たちの周囲にいるレジスタンスたちだ。彼女が妙な動きをしないように、監視してほしい。
無論、優先すべきは現地調査だということは、忘れないでくれ」
「了解しました」
煮え切らない9Sの隣で、はっきりと返事したのは2Bだった。
いけない、と9Sも思い直して2Bに続いて返事をする。
満足そうに頷いた司令官は、「頼んだぞ」と言って2人を背に自室へと向かっていった。
ハァ、と自室へと戻った途端、ヨルハ司令官、ホワイトは痛む胸を必死に抑えて息を吐いた。
――すまない、2人とも。
口から絞り出されるのは、先ほど任務に送った2人への謝罪。
いや、謝罪すべきあの2人だけではない。
――7E、11B、すまない・・・・・・。
赤いイレギュラーと戦闘した、7Eの最期の慟哭も、彼女のポッドの報告により知っている。
7Eから逃げ、赤いイレギュラーを目覚めさせた11Bが、どんな必死な思いでいたかだって、分からない訳じゃない。
それに、極めつけには・・・・・・。
「・・・・・・まさか、アネモネから一杯食わされるとはな・・・・・・」
アネモネにそのつもりはなかったのだろうが、まさか決定的な証拠と共に、自分たちを裏切った隊員を庇い立てしてくるとは思わなかった。
――いいや、違う。
最初に騙したのは、此方だ。
ヨルハの隊員たちも、地上のレジスタンスたちも、みんな――私が、騙して。
今回の件など、しっぺ返しの内にも入らないだろう。今回のレジスタンス達の行動は、あくまで人類軍を考えてのことだというくらい、分かる。
――この偽りは、いつまで続く?
――私は、いつまで欺し続けなければならない?
ホワイトが見つめる端末の画面には、赤いイレギュラーをハッキングで必死に目覚めさせようとしている11Bの姿がある。
続いて映し出されたのは・・・・・・あの超大型兵器を単身で切り伏せた赤いイレギュラーの姿。ホワイトが11Bの処分命令を停止した理由は、ただ単に上の決定だからというだけではなく――彼女自身が、今の
未知の力を持つ、彼に。
◇
場所は打って変わって、レジスタンスキャンプの中にある、廃墟の一室。
その部屋のベッドの中で、1人のアンドロイドが眠りから覚めた。
スリープモードが解かれ、視覚、聴覚、触覚、ありとあらゆるセンサーが熱を持って起動し、段々と彼女の意識は浮上してきた。
「あら、目が覚めたのね」
声がした方向へ振り向く。
そこには、未だに自分の治療を続けている赤髪のアンドロイドがいた。
「ポポル、さん?」
「ポポルでいいわよ、11B」
優しく11Bの義体を撫でながら治療を続けるポポル。
「お、やっと目が覚めたか。寝坊助さん?」
「・・・・・・もうデボルったら、そんな言い方はないでしょう?」
くすっと笑いつつ、11Bの目覚めに気付いて歩み寄ってきたデボルに、ポポルは宥めるように注意する。
そんな2人の様子に、仲がいいんだな、と11Bは薄く微笑みつつ、目覚めたばかりで把握できていない現状を2人に聞こうとした。
「・・・・・・あの、あれから、どうなったの?」
自分が眠りについてから大分時間が立ったように感じる。
ポッドの回収に赴いたゼロのこと、自分の義体の調子のこと、色々ある。
何より――バンカーと敵対してもおかしくないような行動を取ってまで、自分たちを助けようとしてくれた、彼女たちは大丈夫なのか、とか。
不安に揺れる11Bの瞳を見たポポルは、落ち着かせるように微笑んで答えた。
「朗報よ。・・・・・・・バンカーとの交渉は、成功したわ」
「・・・・・・え?」
「先ほど連絡があってな。バンカーからの目線は少し痛くなるだろうが・・・・・・あいつらは、ゼロがレジスタンスへ所属し続けることを条件に、お前には手出しをしないことを決定したんだよ」
「それ、じゃあ」
呆然としながら呟く11Bに続いて、「えぇ」と言って、事実を口にする。
「貴女とゼロの、レジスタンスへの所属が人類軍から正式に認められた。貴女がバンカーから狙われることはもうないわ」
力が抜ける。
元々力が入るような状態の体ではないが、目に見えて張っていた精神の糸が切れたような音がした。
「あ・・・・・・ぁ・・・・・・」
涙が、流れてくる。
恥ずかしくなったのか、2人に泣き顔を見られたくなかった11Bは顔を2人から背け、布団に埋めた。
「お、おい! どうしたんだ――」
「・・・・・・ありがとう」
「え?」
そんな11Bの様子が心配になって声をかけようとしたデボルであったが、11Bの口から聞こえた言葉に、デボルの動作は止まった。
ポポルも同様だ。
「ありがとう・・・・・・こんな私を、直してくれて、安全まで、確保して、・・・・・・くれ、て・・・・・・・本当に、ありがとう・・・・・・・あぁ、何て、言えばいいのか、その、分からなくて・・・・・・・こんな言葉しか言えないけど・・・・・・・本当に、ありがとう・・・・・・!!」
泣きすすりながら感謝の言葉を繰り返す11Bに2人は、嬉しく思う所か――逆に、困惑していた。
こんな風に、感謝されたことなんてないから。
他のアンドロイドのメンテナンスや治療なんかしてても、罵声や文句しか言われてこなかったから。
こんな、泣きながら感謝を述べられると、どんな反応をしていいのか分からなかったのだ。
「え、ええっと・・・・・・」
「れ、礼なら・・・・・・交渉してくれたアネモネと、ゼロに言ってあげなさい、ほら、あそこで・・・・・・!!」
――感謝される資格なんて、私たちには・・・・・・。
そう言い聞かせたポポルは、慌てて11Bの肩をたたき、向こう側のベッドを指差す。
そこには――11Bが最も会いたかった人物がいた。
「あ・・・・・・・ゼロ?」
向こう側のベッドで眠っている、赤いアーマーを身に纏い、メットの下から黄金の長髪を零しているアンドロイドがいる。
メットの額部分に埋め込まれた下三角形状のクリスタルが特徴的な、そんな彼が向こう側のベッドでぐっすりと眠っているのだった。
「あいつが工場廃墟まで行って、ポッドのデータを回収してくれたんだ。そのおかげで、あたしたちはバンカーに証拠を提示できたってことだ」
「目覚めてからずっと戦い続きだったから、今は少し休んでいるみたい……」
「それと、お前にこれを渡してくれって頼まれたんだ」
そう言い出したデボルは、ラックに置かれていた包みを両手で丁寧に持ち、11Bの目の前まで運んでくる。
丁寧に包まれた包みを解くと、そこにあったのは、11Bが長年大切にしていた相棒だった。
「ポ、ポッドっ!?」
「データだけで十分だったのに、まさか本体まで取ってくるとは思わなかったよ・・・・・・」
大きく目を見開いた11Bは、それと共に今まで抑えていた分の涙が決壊するように出てくる。
――本当に、取ってきて、くれたんだ・・・・・・。
――帰ってきて、くれたんだ!!
今、腕を動かせないことが非常にもどかしい。
いつものように、撫でて、抱きしめて上げたい。例え返事が返ってこないと分かっていても。
「・・・・・・あぁ、あ、ゼロ・・・・・・・」
彼の名を呼び、再び向こう側で寝ているゼロの方へ視線を向ける11B。
――ありがとう、ゼロ。本当にありがとう!!
目覚めてから、ずっと自分を助けてくれた彼。
いくら感謝しても、しきれない。
しかし――
「・・・・・・ゼロ?」
余裕ができたおかげなのか、11Bは眠っているゼロに、ある違和感を感じた。
一見――普通に眠っているように見える。自分が目覚めさせる前と同じように、穏やかに眠っているように見える。
しかし、眠っている彼の姿が、11Bにはどこか悲しげに見えた。
――ゼロ、何かあったの?
今聞いた所で、答えが返ってくる筈もない。
そんなゼロの寝顔を見つめる11Bは考える。・・・・・・今までは、自分が助かることが精一杯でゼロに頼ることしかできなくて、逆に彼のことを考える余裕なんて、なかったかもしれない。
だが、考えてみれば。
彼は、目覚めたばかりで。
11Bとは違い、自身を証明するモノすら、なくて。
ただ1人、何も知らない世界で、目覚めた。
その孤独は――もしかしたら11Bすら、想像を絶するものなのかも知れない。
――私は既に、彼に返しきれない程、たくさん助けられた。
――なのに、私はまだゼロに何一つ返せていない。
――私は、彼に何をしてあげられるのだろう?
そんな葛藤が、11Bの胸に去来した。
Q.円劫陣ってXシリーズに例えるとどんな感じの技?
A.他のギガアタック系と比べて地面に叩きつけてからの攻撃判定の発生が遅い代わりに、範囲が広く、地形を貫通するから壁の向こう側の敵も倒せる。そんな感じ。
使いにくいけど、使いこなせたら便利的な。時間ロスに繋がるからTASさんはあまり使わないかも。
Q.バスターショットはいつ手に入るの?
A.もうすぐ!! 伏線は既にある。