ある学生の軌跡 作:ウルサスに救いを
ウルサスイベ、メンタルにダイレクトにキますよね………
出来れば皆救われて欲しいのですが、そんな都合の良い神様を作れる筈も無く………
ある一日の学生自治団
記憶にあるのは、血濡れた大地だった。
血に濡れ、肉と骨の残骸が絡まった手を振り払い、青髪のヒトは手を差し伸べて―――
「………おぇ」
鼻腔を突く腐臭が、乱暴に意識を叩き起こす。体を起こせば鈍い痛みが駆け抜け、漏れそうになる呻きを歯を食い縛り耐える。幸いにも目立つ場所に傷は無く、出血も既に止まっている。血の匂いが懸念材料ではあるが‥……
「っと………あ、あれ?」
上着を求め手を伸ばすも、あるべき場所に無い。困惑と共に周囲を軽く見回すも、あるのは折り重なった死体と、彼が仕留めた敵の衣類を奪い作った、衛生面度外視の即席包帯。それと、毒味用に無作為に選び、平らげた食糧くらいだ。
「………バレてんなぁ、確実に………」
言い訳しようがないコトに頭を痛めながら、青髪赤眼のウルサス、レナートは重い腰を上げる。鍛えられ、引き締まった体のあちこちには血が滲んだ布が雑に巻かれており、決してとまではいかずとも、あまり積極的に見せたいものではない。
どうしたものか、と思案し、部屋の片隅に畳んである血塗れの警官服へと手を伸ばしかける。しかし、恩人の遺品を纏う気にはなれず、寧ろ強烈な自己嫌悪に頭を抱える羽目に。重い腰を上げた彼は、そのまま無警戒に戸を開け、不衛生極まる寝床を出た。
「迂闊だったか」
「そう思うのでしたら、少しくらい自愛してくれないかしら?」
死体置き場を出れば、早々に小言を貰う。予想外の人物からの言葉を、レナートは一笑。
「はは、そりゃ無理だ。俺に出来るのは、これくらいしかねぇんだからな」
振り返れば、豊かな白髪を持つウルサスの少女の姿。顔を歪めたナターリアは微かに俯き、固く閉ざしていた目を開ける。そこに宿る意志の強さから、次の言葉は容易に予想できた。それでも、彼女の意志を通してやることは、到底できない。
「なら、私も」
「出来るのか?躊躇いなく首を折って、頭を砕いて、なんて」
「………ッ」
「それに、ナターリアだって医薬品不足はわかってんだろ?」
レナート最大の懸念は、そこだ。学校設備の多くは、長い監禁生活の中で起きた学生間の抗争の末、機能を停止している。更には、医薬品のような貴重品は、それを巡る争いの中で失われている物も少なくなく、食料品の次に足りていない。
怪我人に対し満足な治療が出来ず、更には食料も不足している。病人が出ることは避けるべきであるし、それが難しいなら最低限にするべきなのだ。一人倒れて、そこから芋蔓式に病人が増える、なんて事態になれば、待つのは全滅だ。
「でも、このままでは」
「死ぬ、か?………それなら、それでもいいさ。結局、この事態の原因は俺にもあるからな」
「ッ、違います!」
ナターリアの否定を更に否定し、自嘲気味に口を開く。
「違くないさ。結局、あの時もそうだったし、今回もそうだ………状況を楽観視して、本当に取り返しがつかなくなってから、初めて気付いてさ。そのツケがこれだってなら、命の一つや二つ安いもんさ。ま、安いからってタダでくれてやるつもりなんざ、欠片もありゃしねぇけどな」
ニヒルに笑い、肩を竦める。辛そうに顔を歪めるナターリアに背を向けて、傷だらけのウルサスは大きく伸びをして肩を、首を鳴らしながら歩を進めていく。その背中をただただ見つめるしか出来ない貴族少女は、せめてとある事を伝える。
「貴方の制服なら、ソニアが持ってるわ」
「サンキュー。お陰で説教から逃げられそうだ」
制服回収を早々に諦め、レナートは手を振り廊下を進んでいく。
しかし、説教回避を目論んだ彼にに安息は無かった。
「あ、お兄ちゃんみっけ!ソニアが探してたよ!」
「………ラーダ、そのお兄ちゃん呼びはやめてくれ。あと、ソニアには黙っ」
背を向け言い終える前に、回り込まれ腹を叩かれる。当然、連日傷付いている体で完治しているモノなど殆どありはせず、ウルサスのパワーで叩かれた衝撃が全身に響き、悲痛な叫びと共に倒れ伏す。その場で悶絶する彼の足を掴むと、幼い雰囲気を残したウルサスの少女は、無情にもその体を引き摺っていく。過激な行動であるが、単純な身体能力では当然男であるレナートが上である為、こうした不意打ち気味の攻撃で無力化しなければ連行できないのだ。
ぴくぴくと震える青年を引き摺ったラーダが向かうのは、彼女たち『ウルサス学生自治団』のリーダーが待つ部屋。抵抗らしい抵抗も叶わず連行されたレナートは、観念したように顔を上げ………無言で目を閉じ、両手を挙げて無抵抗を示した。
「へえ、潔いじゃねえか」
「ああ、うん………そっちもだけど、その………見えた」
「は?………ッ!?」
その言葉に首を傾げたリーダー、ソニアは首を傾げ………理解した瞬間、顔を真赤にして机を飛び降りた。その後、教室のドアが真っ二つとなり吹き飛び、一人が宙を舞ったと言えば、何があったかは容易に想像できるだろう。女子であろうと、ウルサスのパワーは凄まじいということだ。
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「―――で、言い訳は?」
「どっちに対し………冗談だ、冗談だから無言で蹴りの姿勢に入るな」
痛む腹をさする手を止め、本気で足を引いたソニアを制止。微かに赤みの強い表情で咳払いしてから、彼の同級生にして彼ら一行のリーダーは表情を改め、対面の椅子に腰かけるレナートを見下ろす。その険しい表情から、お叱りが来ることは確定である。
「なに無茶してんだ、テメェは」
「ボスたち程じゃねえよ」
「………アタシなんざ、大したことねえよ。それよりテメェだ」
指さすのは、血の滲んだ粗雑な包帯もどき。その下に傷があるのは、明白だ。
「いきなり寝床変えて、バレねえと思ったのか?死体の臭いで誤魔化せるとでも思ったか?」
「考えが甘いのは認めっけど、やめはしねえぞ」
「やめねえなら」
「お前を加えろ、ってのはナシだ」
「テメェ………ッ!」
襟首を掴み、持ち上げら睨みつけられる。少女といえどウルサスに変わりはなく、その腕力も凄まじい。だからといって、レナートは物怖じせず、真っ向からその瞳を睨み返す。彼女に譲れないものがある様に、彼にもまた譲れないものはある。そして、お互いそれを表に出さぬ建前もまた、用意しているのだ。
「………アタシはリーダーで、テメェは下っ端だ。だから!」
「そういう問題じゃねえ。怪我人が増えたら、余計に厳しくなるだろうが」
「っ、足手纏いだって言いてえのか!?」
歯を食い縛り、こみ上げる物を抑え込む。それでも、声に滲む悲痛な色までは消せない。
彼女にとって、最も受け入れ難い言葉であり、聞きたくなかった言葉だった。レナートの配慮も、大きな失態を犯したという………この惨状を作り出してしまった、という苦悩と悔恨を抱える彼女にとって、一番聞きたくなかった、言われたくなかった言葉だった。
「そうじゃねえ」
「なら………ッ!」
「俺一人の方が都合がいいんだよ。殺すのも簡単で、数も少なくて済む」
そう嘯くが、結局は仲間に傷付いて欲しくないという青さと、自身の楽観視が招いた事態であるという罪悪感、責任感からの行動だ。それに、そうでもしなければ、食糧らしい食料が底を尽いた今、最悪は………
「どのみち、アタシら以外は殆どくたばってんだ。殺すのが多くなろうが少なかろうが、今更」
「ま、そう思うのが自然だわな。一応、あちこち板打ち付けたりはしてっけど………」
ここペテルヘイム高校の内、彼らの行動圏内の廊下は可能な限り板を打ち付け、外からの視線を遮ってある。無論、精神衛生上宜しくは無いし、生存者の存在を暗示しているようなものであるが………少なくとも、個人を狙った狙撃は難しくなる。アーツによる攻撃で一気に破壊するにしても、接近が必要となるお陰で避難も不可能では無い。
しかし、それだけだ。狙撃のリスクは減ったが、存在を示している事に違いは無いのだから。
「で、いつまで綱渡りを続けるつもりなんだ?」
「そこ言われると痛いな………けど、打開策もありゃしねえだろ」
リスクは承知の上であるが、しくじれば皆の命に係わる。しかし、打開策も無いのだ。
「………レナート」
「なんだよ、いきなり」
「一緒に死んでやる、つったらどうする?」
言葉の意味を理解するのに、数十秒要した。
「心中、なんてガラじゃねえよな………まさか、殺る気か?」
「アタシとお前が命かけりゃ、アンナたちが逃げる隙くらいは作れる筈だ」
「それに異存はねぇが………お前までやる必要は」
「いいんだよ………アタシみたいなのが居ない方が、きっと上手くいく」
覇気の乏しい声が耳に届く。その理由に心当たりしかない彼は、そっと首を振る。
「言いたい事は山ほどあるけどな」
「あ?んだよ、いきなり」
「あんま、一人で背負い込まないでくれよ。惨めになっちまうから、さ」
目を丸くしたリーダーに対し、盛大な溜息を零す。
「まさか、お前一人のせいだ、なんて考えてるとでも思ったか?」
「………知った風な口利くんじゃねえよ」
「そりゃ、お互い腹割って話してねえからな。知ったも糞もねえよ」
盛大に肩を竦め、血色の瞳でソニアを見据える。
「………ホント、普段の問題児っぷりと違って根はクソ真面目だな、お前」
「なんだ?喧嘩売ってんのか?」
「笑えねえ冗談はよせよ。状況わかってんなら、んなことしてる場合じゃないだろ」
思った以上に思い詰めていたリーダーに頭を抱え、またも溜息。ソニアがあからさまに苛立ちを隠さなくなり、レナートも自己への嫌悪感と後悔とがどんどん膨れ上がっていく。かといって、それを彼女にぶつける訳にもいかず、深呼吸をしてから立ち上がり、改めて向かい合う。
「最初に言っておくが、俺はお前を責めちゃいねえぞ」
「………んだよ、いきなり」
面食らうリーダーに対し、矢継ぎ早に自分の意志を示す。
逆効果になる可能性があっても、しっかりと自分のスタンスを明確化させるのだ。
「裏切り者の件も、食糧庫の件も。お前のせいだ、なんて思っちゃいないってこった」
「な、なんだよ、いきなり」
「そのまんまの意味だよ。要は、信用も信頼もしてっから、自棄起こすなっつってんだ」
先程の発言に対し、ちゃんと釘を刺す。
「ナターリアもロザリンも、連中を引っ張るにゃ色々足りねえからな。お前しかいねえんだ」
「………マジで言ってんのか?」
「マジだよ。楽観視野郎の俺にゃ、到底無理だしな」
自嘲し、軽く肩を小突く。
「出来る限りは手ェ貸してやるからさ、死ぬのは最後に取っといてくれや」
「………お前は、どうすんだよ」
「とりあえずは、現状維持だ。死ぬ気は毛頭ないから、そこだけは安心しろよ」
溜息と共に乱雑に髪を掻き乱し、ソニアは目前の自称下っ端を睨みつける。
「………言ったからには、生きて帰ってこいよ」
「おいおい、命令されちゃ余計トチれねぇじゃねえか」
笑いながら、教室の端に放置されていた制服を回収。袖を通し、軽く伸びをする。
「んじゃま、悪いが休み貰うぞ」
「ああ。さっきは、その、悪かったな」
「ああ、安心しろ。アレは完全に事故だったし、俺も忘れ」
「そっ、ちじゃねえ!!!」
その日、ドアが消えた教室の壁に大穴が開いた。
続くかは、未定………続いたら連載表示に切り替えると思います。