ある学生の軌跡 作:ウルサスに救いを
育成に注力すべきか、出来るだけ素材を回収しておくべきか………悩みどころ。
『すぷ』様、評価ありがとうございます。
いやぁ、赤評価のままって………正直、ガクブルしております。
―――気付けば、血の海の只中に居た。
「また、か」
これは夢だ。そう自覚していても、どうしようもなく不快で、胸が痛くなる。
「………ホント、うんざりだ」
同じ学校から脱した仲間たち、良き友人だったモノが転がっている。皆傷付き、血に塗れ、虚ろに開かれた瞳は何も映さない。この悪夢に慣れたつもりでも、胸を締め付ける痛みと、込み上げる吐き気からは逃れられない。
この結末が現実に起こるとするならば、間違いなく自分の責任だ。彼女たちに戦う選択を選ばせてしまった、それを選ぶ必要がある場所を頼らざるを得なくした、かつての自身の短慮が最大の原因だ。
「ッ」
ああ、最悪だ。奥歯を噛み締め、他ならぬ自身への憎悪を燃やす。
この悪夢が現実となり得る、そんな可能性が存在しているのが、何よりも許せない。こんな、どうしようもないクズを信じてくれている者たちに応える為にも、力が必要だと、レナートの歪み、固まり切った思考は結論を出す。
「………さっさと、醒めろよな」
彼女たちに地獄を味あわせてしまい、更には命を賭けざるを得ない環境に身を置く、という選択をさせてしまった。彼女たちの決断を侮辱するような悔恨だからこそ、口にすることは出来ない。その悔恨と、彼女たちの決断を無下にする自身への嫌悪とが、じわじわとその心を蝕んでいるのだ。
敵対者を躊躇いなく殺せる精神性の持ち主とはいえ、結局は二十にも満たない学生でしかない。彼女たちに戦場を選ばせた悔恨と、仲間を喪う事への恐怖。そこに、数多くの感染者を救ってきた姉との比較が加われば………
「はぁ」
腰を下ろし、仲間の亡骸の瞼を下ろしていく。嫌にリアルな感触に不快感を隠せず顔を歪めた彼は、慣れ切ってしまった精神的苦痛がじわじわと響く中で、どこか虚ろな視線で淀んだ虚空を見上げる。
幾度となく見た悪夢は、中々醒めてはくれない。
******
刀、剣、棍棒。片手で使え、且つ連射の利く小型のものから、狙撃用の大型クロスボウ、更にはWに貰った、身の丈に迫らんばかりの大型の狙撃銃まで………武器が充実している空間は、しかしそれに反し、生活必需品以外が殆ど存在していない。
そんな殺風景な部屋で目覚めたシュトルムは、身支度を終え次第、集合場所へと駆ける。任務の時と訓練の時が、今となっては最大の癒しであり、数少ない安息の時間だというのだから、本当に笑えない。
「随分とお早い到着だな」
「そちらこそ」
先に来ていたイースチナから離れた壁に背を預け、軽く伸びをする。
「調子はどうですか?」
「悪かない」
曖昧に返すが、睡眠が休息としての意味を失いつつある以上、ベストコンディションには程遠い。それでも、身体能力と反射神経がズバ抜けている為、余程の事が無ければ誤魔化せてしまうのだが。
「そうですか」
シュトルム側から特別接点がある訳でも無ければ、そもそも今の彼に友好を深める気はさらさらなく、イースチナの方も複雑な心境である為、互いに口を開くことはない。持ち込んだ武器の最終確認を始める彼との間に言葉は無く、互いに仲間が来るのを待つのみ。
一時間程で皆が揃い、他との合流の後に移動を開始。龍門郊外での作戦目的は、レユニオン残党の掃討………無論、投降すれば確保で終わるが、そうそう簡単なものでもない。半狂乱の相手の意固地さ、盲目さも、今の彼には有難い事この上ない。
「行くぞ。いつも通り、」
「ああ」
暴風。剣に内蔵されたアーツユニットの、限界ギリギリの出力で解き放たれたソレが大きく吹き荒れ、その流れを鋭敏に感じ取ったシュトルムによって、盤面は凡そ読み解かれる。ひどく雑な威嚇兼牽制を解き放ったシュトルムが淡々と確認した戦力を告げれば、インカムの向こうでドクターが戦略を組み上げる。
シュトルム自身、楽観視の悪癖を除けば戦術立案技能も悪くは無いのだが、自身の悪癖が招いた事態を知るからこそ、
「ク、ソがぁっ!」
最前線に踏み出した彼へと、レユニオン残党が駆け寄る。鉄パイプが、剣、ナイフが襲来するも、純然たる身体能力に物を言わせてレユニオン残党の肉体ごと纏めて破壊し、無力化。当然、目先の敵しか考えていない訳だが、そこに的確な援護射撃を叩き込み、背後や意識外からの攻撃を牽制する人物もいる。
「前に出過ぎ!」
アブサントの叫びに構わず、彼女に背後を任せ突貫。伐採者の巨躯を軽々投げ飛ばし、迫る火炎瓶を、瓶を砕かぬ絶妙な加減で蹴り返し、術師によるアーツ攻撃を躱し、時には敵を盾に防ぎ、欠片の慈悲も無く息の根を止めていく。
憎悪も憤怒も無く、ただ絡み付く不吉な思考を薙ぎ払う為に。
「このガキ………ッ」
「気をつけろ!アイツ、龍門の―――」
不意打ち気味の早撃ちで、情報を一つ出そうとしたレユニオンの喉を撃ち抜く。怯んだ隙に刃を突き立て、暴風のアーツを発動。高速の輸送車両との激突に匹敵する衝撃が正面の人間を即死させ、少し離れていた者も問答無用で吹き飛ばす。シンプルな強さは、そのまま小細工による対処が不可能な圧倒的暴力として、暴力を選んだ者たちを蹂躙する。
徹底的に、仲間たちへと続く道を塞ぐ。援護らしい援護を受けるのも難しい代わり、素通りすることが実質的に不可能と思える程に、静かに冷徹に死をふりまく。どの面から見ても一流には及ばないながら、暴徒による烏合の衆の前では大差ない。
「あーあ、アレはダメかしら?」
「まあ、褒められない状態だよね」
その光景を眺め、Wとクランタの狙撃オペレーター、プラチナが零す。
「あの目、何度か見たわね。自棄を起こして、或いは恐怖で死に向かう、馬鹿の目」
「へぇ、知ってるんだ」
「ああ、今のカジミエーシュで見れることは、まあそうそうないわよね」
くすくす笑い、Wは静かに目を細める。
「あいつもまあ、結構なミスねぇ。ま、見たところ、遅かれ早かれでしょうけど」
シュトルムとは、特別仲がいいわけではない。強いて挙げるなら、
「アフターケアが不可欠だったんでしょうけど、まあケルシーの落ち度かしら?」
「かもね。なまじ優秀で、あの時点では何もわからなかったせいで、余計拗れたのかも」
「見たところ、憎いとかじゃなくて、怖い、って感じな辺り、アイツの弟ね」
笑うが、しかし目は欠片も笑っていない。
「さて、問題よ。あの子が壊れたとして、アイツはどう動くかしら?」
「考えたくない、って言ったら?」
うんざりした様子のプラチナに同意するように、Wも苦い表情で頷く。
「そ。考えたくもない事態になる。となると、否応なしにあの女に手を貸さないとなのよね」
わかりやすい面倒ごとに溜息を吐いたWに同意を示すように、プラチナも頷く。
要人が自ら戦線に立つ、というのはロドスでも起こっている事であるが、それが自殺願望紛いをやらかす例は、流石に無い。おまけに、相手が国家や企業、貴族といった経済的な脅威となり得る存在ではなく、問答無用且つ直接攻撃を行える傭兵である、というのが大問題。タルラに並ぶ怪物が直接殴り込んで来る、となれば、それはもう悪夢だ。
(………荒々しいけど、技量としては姉より上、ってとこかしら?)
そんなことを思案しながらも、Wはしっかりとシュトルムの戦闘を視界に収め、分析。動きの質といい、素質といい姉より格段に上ではあるのだが、あちらは彼以上の運動神経に加え、桁外れと言っても過言ではないレベルに卓越したアーツ制御が加わることで、それこそ純然たる技量による対処が不可能な領域に到達している。
「この調子なら、問題無いでしょうけど………今後はどうかしらね?」
冷たく見つめる先では、丁度シュトルムがブッチャーの大槌を片手で完全に抑え込み、一閃を以て撃破。その亡骸を軽々投げ捨てれば、その先の敵目掛けてロサの攻撃が、イースチナの、アブサントのアーツが飛来し、追撃すら許さない。更に、その攻撃にたたらを踏めば、その瞬間
だが、それではダメなのだ。
シュトルムが求めるのは、全てを解決できるだけの絶対的な力であり、仲間の援護を必要としている時点で、更に上を目指してしまう。学生自治団の仲間たちは、少しでも負担を減らそうと、追い付こうと、更に上を目指してしまう………一見好循環に見えて、それぞれがオーバーワークを生じさせる、特大級の悪循環だ。
更に、ワンパターン化し過ぎた戦況は、些細な想定外で呆気なく覆る。
「ま、あの男がしくじればそれまで、そうでなくても、あの子たちがしくじれば………」
「私たちが動く、でしょ?」
「雇われてるからには、ねぇ」
静かに目を細めるWは、感情らしい感情を一切見せないシュトルムの、視線の先に気付く。
「………暫く、このテの任務から外した方がいいかもしれないわね」
「どういう………って、成程ね」
その視線の先にあるのは、術師の亡骸の体表に析出した源石。彼の強力過ぎるアーツは、それこそユニット側の負荷も考慮して、出力を抑えた上で回数制限まで課されている。ユニット無しでアーツを使える、というのは感染者の特権であるが、それは命を削る諸刃の剣。万一あちらに手を伸ばそうものなら、それこそロドスという企業の指針を思えば本末転倒だ。
「ホント、とびっきりの地雷だね」
「見えてる時点で地雷じゃ無くない?」
揃って溜息を吐き、どうしたものかと撤退する一行を見やった。
「ドクターに特別ボーナスでも要求しようかしら?」
「普通に通ると思うよ、その申請」
・シュトルム
メンタルボロボロ系無自覚爆弾。
コードネームは、悔恨と苦悩からの逃避を示すもの。楽観視の悪癖を自覚しているからこそ、思考する間もなく突撃したい、苦しい思考の全てを投げ捨てて前にだけ突き進みたい、という無意識の願望の現れ。
ズィマーたちへと向ける憐憫の浅ましさを自覚し、嫌悪し、それでも捨てることが出来ない。ならば、それらを考える必要がなくなればいい、という理屈に基づき、訓練といった形でのオーバーワークを継続中。
ロドスを離れる、という選択に対し、自身は救われると理解していても、共にペテルヘイム高校を出た仲間たちの負担を考え、結局は選べない程度にはお人好しで善良。それでいて、二度の親の死がトラウマと化している為、学生自治団の仲間からロドスのオペレーターに対し、表面上有効的には出来ても、接触自体は避ける傾向に。
更には、姉と自身を比較してしまい、尊敬と劣等感を拗らせたことで上記の物と合わさり精神状態が悪化。自分一人で仲間たちを守ろうと、ひたすらに力を求めてしまっている。