ある学生の軌跡   作:ウルサスに救いを

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危機契約、訓練所が可愛いレベルでえっぐいですね………
真銀斬に頼りっぱなしです、殲滅力は正義です。


『インタレスト』様、評価ありがとうございます!


安らげる時間

 フードコート。相当な数の買い物袋を足元に、シュトルムらは昼食休憩を取っていた。

 

「結構、食べるね」

「こういうシンプルで雑な味って、妙に止まらないんだよなぁ」

 

 かれこれ六個目のハンバーガーの包みを丸め、シュトルムが零す。元々食べる方だが、そこに好みのシンプルな味、更には精神的な余裕が生まれたことでそれを感じられたコトが加わり、爆発したのだろう。本人が困惑する程の量が軽々胃袋に収まり、まだ尚体は余裕を訴えている。

 

(流石に、予想外だな………)

 

 呆れ気味に息を吐き、椅子に寄り掛かる。他ならぬ自身の現状に、自分自身が一番驚いているのだから、呆れるしかない。自身のトレーに纏めたゴミを漠然と眺め、何をするでもなく、ただ思考をやめる。

 その様子に首を傾げながらも、アブサントとグムは仲良く食後の休憩を取っていた。

 

「午後はどこ行こっか?」

「んー、そうだね………レナートはどこがいいと思う?」

「………んぁ?ああ、そうだなぁ」

 

 顎に手を当て思考するも、中々いい案が浮かばない。結局、返答は『任せる』というありきたりで、無責任なものに。予想していたとはいえ、二人は苦笑を浮かべ顔を合わせる。

 

「それじゃあ、よさそうなお店、探そっか」

「うん。ここ広いし、きっといいお店あるよ!」

 

 そう笑うグムが走り出し、二人は苦笑と共にその後に続く。

 

 ………買い物袋の数が倍近くまで膨れ上がったのは、完全な余談である。

 

******

 

「お、おかえ………なんだその量」

 

 夕方。通路を進んでいたシュトルムら一行と鉢合ったズィマーが、その袋の量に軽く引く。

 

「ああ、ズィマーか。グムとアブサントに付き合ってたら、予想以上に、な」

 

 それを軽々運ぶ彼は、苦笑気味に頷きつつも、しっかりとした足取りで歩を進める。

 

「大丈夫だったのか?」

「ああ。使ってなかったしな」

 

 幾らかの精神的余裕のお陰で、肩を竦めたシュトルムが自嘲する。その表情に驚きつつも、雰囲気が柔らかくなっている姿に安堵の息を零し、彼がぶら下げた荷物へと手を伸ばす。重量は苦にならずとも、質量は鬱陶しいだろうそれの一部を手に取り、優しくも頼もしく笑う。

 

「ほら、少し持ってやるよ」

「いや、大丈」

「動き難いだろ。てか、それでどうやってドア開けんだ?」

「………悪いな」

「気にすんな」

 

 笑う彼女と共に進み、自身の部屋に踏み入る。改めて、呆れるほかない部屋の殺風景さに苦笑しつつ、その光景に凍り付くズィマーを感じ取り、どう言い訳するかを考える。その傍ら、買い物袋を適当な場所に置き、軽く伸びをしていれば、当然の疑問が言葉となり飛んで来る。

 

「どういうことだ?」

「さて、な」

 

 嘆息と共に肩を竦め、買った物の一つを手に取る。

 

「気付いたらこうなってた。詳しくは俺にもわからん」

 

 他人事のように零し、振り返る。全力で顔を引き攣らせた彼女は嘆息し、部屋を見回す。

 

「で、この部屋がマシになるようなモンは買ってきたのか?」

「いや、家具類は嵩張るから買ってないな。流石に色々買い過ぎた」

 

 包みを破り、本を取り出したシュトルムはそれを口にしてから、本棚が無い事に思い至る。

 

「また、買いに行かなきゃか」

「おいおい、大丈夫か?」

 

 別の意味で呆れるズィマ―に苦笑で応じ、見ているだけで気分が悪くなりそうな量の数式で満たされた表紙の本を置く。本の内容からか、ズィマーの表情が変化すれば、シュトルムは勘違いを解くべく、口を開いた。

 

「ああ、別に勉強がしたい訳じゃねえさ。なんだかんだ、戦場でも役立つからな」

「数学が?」

「ああ。細かいコトはまあ、狙撃オペレーターにでも聞いてくれ」

 

 丸投げである。一応の納得を見せたズィマーは、どこか名残惜しそうに本を見やり、改めて彼へと視線を向け、念の為にと口を開く。

 

「お前って、小説を読むとかはしねぇのか?」

「ああ………活字は嫌いじゃねえが、あんましねぇな」

 

 彼が好むのは、役に立つ立たない問わず知識、情報を得る事であり、物語を読むということはあまりしない。嫌い、という訳ではないのだが、小説等を読むよりは、頭の固い参考書や堅苦しい文献、図鑑等が主となる。本が好き、というよりは、そこに記された情報が好きという方が正しく、ズィマーやイースチナとは、絶妙にズレているのだ。

 

「そう、か」

「ああ、けど推理モノは親父に勧められて読んだりしたな。トリックとか、色々参考になるし」

「いやいや、ソレ系のトリックって参考にしちゃダメな奴だろ!?」

 

 とぼけたように笑うシュトルムに全力で突っ込み、ズィマーが肩を落とす。ヘンな茶目っ気を見せたつもりなのか、それとも素なのか判断しかねているところで、彼は本を部屋の片隅に置く。

 

「悪いが、ちょいと荷物の整理するから」

「ああ、悪かったな」

「いや、助かった。ありがとな」

 

 その言葉にきょとんとしたズィマーだが、直ぐに肩の力を抜き、笑って口を開く。

 

「気にすんな。仲間同士で助け合うのは当然だろ?」

 

 距離を置いてきた彼には、トコトン痛い一言。しかし、責めるつもりなど毛頭なく、どちらかと言えば『気軽に頼れ』といった気遣いの色が強い。シュトルム自身も、彼女の性格上そちらの意味合いだと理解はしているのだが、如何せん深々と突き刺さる為、ダメージも相応。

 とはいえ、自業自得と割り切れている為、それを表に出さずに苦笑するのみ。

 

「耳が痛いな。まあ、出来る限りはそうするさ」

 

 曖昧な答えを返し、帰るズィマーを見送る。ドアを閉め、改めて中を見渡したシュトルムは大きく伸びをして、数秒ほど沈黙。素早く飛び退きドアを見やり、驚き混じりの声を零す。

 

「直すのはええな、おい」

 

 Wにより破壊された筈のドアは、綺麗に直され、元の場所に存在していた。

 ロドスの手の速さに感心しつつ、買った物品の整理に移った。

 

******

 

 朝。殺風景な部屋から散らかった部屋へとランクアップ(?)した中で、シュトルムは目覚める。

 

「あー………クソ、整理終わってねぇ」

 

 寝落ちである。体力がない訳ではないというのに、荷物の山に埋もれての見事な寝落ちである。

 自身に呆れつつも起き上がり、散らかった室内に改めて溜息。日付を確認し、今日も予定が入っていないことを確認次第、再度片付けに移る。服から趣味等の品まで、本当に幅広く買っておきながら、肝心なソレを置くスペースに乏しいこともあり、整頓できているとはお世辞にも言えない。出来て精々、大雑把な区分け程度である。

 

「………家具類は、購買で注文だっけか」

 

 購買………よく焼きたてのハチミツクッキーが置いてあったりする都合、あまり行きたくない場所である。隠し味程度のごく少量どころか、焼き立てのハチミツクッキーの匂いですら泥酔からの昏倒にまでいくせいで、そもそも立ち入る事自体に苦手意識が芽生えつつあった。

 

「………いいか」

 

 現状維持、を選択したシュトルムはそのまま壁に背を預け、座り込む。適当な本を手に取り開いてみれば、一部の者は見るだけで頭痛に襲われるだろう複雑怪奇な文字列と、何が何やらわかるようでわからない図表が視界に飛び込んでくる。どことなく楽しそうにそれを読み解こうとページを前後していると、ドアを叩く音が。

 

 流石に二日連続でドアがおじゃんは勘弁願いたい、と急ぎ駆け寄り、動く気配を察知。

 

「なんだ?」

「ほっ」

 

 安堵した様子を見せるロサに驚いていると、彼女は直ぐに本題を切り出す。

 

「お暇なようでしたら、本部で少々お話でもしませんか?」

「あれ、ロサも休暇か?」

「いえ。ですが、武器が特殊ですので、訓練を増やし過ぎる訳にもいきませんから」

「………成程」

 

 ロサの武器は、それこそ独特が過ぎる。加えて破壊力もあり、気安く訓練を重ねては、それこそ銃以上のコストがかかる。その為、練度如何に関わらず、彼女は訓練を控えるようにしているのだ。

 

「わかった。ちょい待ってくれ」

 

 どうせやる事など、本を読む程度。加えて、アブサントたちの気遣いもあったお陰だろう。本心を押し殺し即答したシュトルムは、一旦部屋に戻る。早急に身嗜みを整え、着替え、部屋を出てロサと共に学生自治団の本部として用いている空間に移動する。

 

 そして、そこで待っていた人物に、明確な動揺を見せた。

 

「なんで?」

「折角ですし、丁度いいかと思いまして」

「邪魔しているぞ」

 

 フロストノヴァ―――元レユニオン幹部で、シュトルムの姉、グローザを姉と慕う人物。

 姉と異なり、結構な重症感染者である為、戦線に出ることは疎か、アーツの使用すら厳禁とされている、現在はロドスの患者として身を置くコータスは、幾つかの菓子箱をテーブルに乗せ、彼らを待っていた。

 

「ああ、ハチミツは無いから安心していい」

「有難い話だ」

 

 本気の安堵を見せた彼に微笑みを向け、フロストノヴァは包装を解いていく。

 

「姉さんから送られてきたんだ。なんでも、シエスタの知り合いから貰ったとか」

「シエスタの………それは、また」

「偶にだけど、あの人がどういう人脈してるのかわからなくなるな」

 

 ペンギン急便の二人には目の色、髪の色でぎょっとされる事をはじめ、本人よりもその外見的特徴で驚かれている事から、姉があちこちでやらかしているのは嫌という程よくわかる。そして、シエスタの知己との関係は、他より幾らもぶっ飛んでいる。

 

「なんでも、昔致命傷を負わされた相手、らしい。何故か、友人として仲良くしているそうだが」

「ち、致命傷!?」

「あの人、ホントなんなんだ?」

 

 ロサどころか、シュトルムの中での認識すら危うくなる。

 

 フロストノヴァという予想外の人物も加わっての休息は、予想外の話題から始まる事となった。

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