ある学生の軌跡 作:ウルサスに救いを
リソースが、育成リソースが足りない………!(無課金並感)
「―――ちに、―――スは私の」
(ん?あれ………?)
朦朧とする意識の中、ゾーヤは何かに揺られている事に気付く。
「あれ?けど、それやったのは国じゃないっけ?」
「どっちでも同じよ。それに、今の台詞をスカルシュレッダーの前で言える?」
「ま、無理ね。私も、少し違ってたらああなってたでしょうし」
「………笑えない冗談はやめて」
青髪の女性に背負われた彼女は、見ず知らずの人物の存在に気付く。起きている事がバレないよう息を潜めていると、彼女を背負う女性は特に変わった様子もなく話を続ける。
「けど、私はこの街で、あの子を受け入れてくれるヒトに会えた。それだけでも十分だったの」
「貴女の親を殺した連中と同族なのに?」
「そっちは一人残らず殺してるし、問題無いわよ。済んだことは気にしない主義なの、私」
さらりと言い放つ女性は、明らかな不満を隠せぬ人物へと笑いかける。
「リュミちゃんだって、本命は帝国の上でしょ?」
「その呼び方はやめて。というか、誰に」
「貴女の復讐相手、って言ったら?ま、オバさん曰く『私は運がよかっただけ』らしいけど」
「その話、聞かなかった事にしておくわ」
「残念」
笑いながら進む青髪のウルサスだが、大きな通りに出たところで同行者に手を引かれる。
「ペテルヘイム高校はこっち」
「あら、失礼失礼」
「………よく傭兵なんてやって来れたわね」
「みんな優秀な人だったからねー」
明るい笑い声に拍子抜けしていると、そのまま二人は会話を再開する。
「で、どこまで知っている?」
「さあ?私も、深くは話してないしね」
「………ロドスは、どう思ってるの?」
「傭兵として言えば、好きにどうぞって感じね」
「偽善者、とは思わないんだ」
「何とかしようとしてるんだし、偽善も何も無いでしょ?」
会話の温度差から、二人の認識の差異が見て取れる。
「お前とは、相容れないな」
「今更でしょ。そもそも、今回だってパトさんに頼まれなきゃスルーしてたんだし」
「そっ、か」
話が途切れ、足音だけが響く………とは、いかない。
「軍か」
「かな?感じからして、結構な得物持ってそうだけど………悲鳴はなんだろね」
直後、爆発にも似た暴風と共に、女が宙を舞った。
「っ!?っ!?」
「あはは、やっぱ起きてた!」
楽しそうに笑ったかと思えば、またも爆発。豪快に降り立った先では、蒼の集団と軍が衝突している真っ最中。何事か、と目を剥くゾーヤに構わず、青髪のウルサスは蒼の一団へと振り返り、手短に確認。
「で?」
「民間人保護、護送中に襲撃。聞く耳持たず、諸共」
その言葉を掻き消すように、爆音が響く。
「クソッ、連中マジお構いなしですぜ!折角暴徒の仲間入り前に保護したのに、これじゃあ!」
「感染者のクズどもを逃がすな!民間人も、感染の疑いがある者は徹底的に殺せ!」
(なんで!?鉱石病は、感染者の死体か源石との接触が無ければ大丈夫なんじゃないの!?)
またも爆発が響いたことで、ゾーヤの中の認識が徐々に崩れていく。
「それじゃあ、重装連隊は民間人優先。術戦連隊はこの子連れてペテルヘイム高校に」
「ボスは?」
動揺する彼女を重装連隊の奥の集団に預け、稲光を放つウルサスは振り返る。
「狩る」
揺れる少女の瞳に映るその後ろ姿は、彼女の記憶にある友人と、妙に重なって見えた。
******
夜、ペテルヘイム高校の廊下。灯り一つないそこで、押し殺した足音が響いている。
「………っ」
ごくり、と生唾を飲む音を響かせ、小さな影が更なる一歩を踏み出す。
「ガキは寝る時間だぞ。チビのままでいてぇのか?」
「きゃっ!?」
がらり、と無遠慮にドアが開き、闇の中荒っぽい低音の声が響く。
「ご、ごめんなさい………」
「やっぱラーダか」
溜息を零し、襟首を掴み教室に引き込む。
「うぅ………」
怒られる、と俯くラーダだが、かけられた言葉は窘めるものだった。
「腹減ってるのはわかるが、やっちまうと他に迷惑かかっちまうからな。我慢してくれ」
柔らかく微笑み、適当な椅子に腰かける。
「包囲網が緩けりゃ、もうちょい色々出来たんだが………あ?」
「どうしたの?」
窓の奥を見やるレナートが、椅子を倒す勢いで立ち上がる。その様子に首を傾げたラーダもまた、窓の奥を見やるも、灯りが殆ど無い為あまりよくは見えない。しかし、ラーダですら違和感を覚えるくらいには、何かが違った。
「なんだ、この………」
「なにか変………ソニアお姉ちゃんにつた」
瞬間、遠方で強烈な光が巻き起こる。
「きゃっ!?」
突然のことに驚き飛び退いたラーダを受け止め、落ち着けるべく優しく声をかける。
「大丈夫、ただの光………ッ!」
数秒して、空気を裂く轟音が響き渡る。状況が状況であるせいか、余計に怖がるラーダが窓から遠ざかる中、レナートは表情険しく窓の奥を見やり、先程の違和感の正体を掴むことに成功していた。警戒と希望を胸に抱きながら、怯えるラーダへと、数瞬躊躇いながらも手を伸ばし、宥めるように優しく撫でる。
「大丈夫だ。結構遠くのみたいだから、そこまで気にしないで大丈夫さ」
「ほ、ほんとう………?」
他の部屋が幾らか慌ただしい音がし始める中、それに混じり駆け足気味の足音が迫り
「レナート!」
先の雷鳴を聞いたのか、慌てた様子のナターリアが全力でドアを跳ね開け破壊。原形を留めぬほどに歪んだそれを、『やっちゃった』と口元を抑え見つめるナターリアを、ラーダと共にジト目で睨む。当然、今の轟音で他の部屋から一層慌ただしい音が響き、更なる来客が。
「無事か!?………って、ナターリアか。脅かすんじゃねえよ」
「ご、ごめんなさい。あの雷鳴の規模と突発さからみて、強力な術師がいると思うと」
「ああ、アーツだよな、やっぱ。ただ、音のタイミング的に相当距離はありそうだが」
窓の外を見やり、慌てた様子が伝わる影から、新たな確信を得て口を開く。
「今なら突破できるか?」
「おいおい、無茶言ってんじゃ………あ?おい、まさか」
窓を覗いたソニアも気付いたらしく、思案する様子を見せる。
「ああ、数が減ってる。その上慌ててるみたいだし、上手くやれば、或いは」
「さっきので殆ど叩き起こされてっからな。アタシとお前で突っ切るぞ」
「いや、俺が先に行く。ソニアは他の連中を頼む」
自身の体力状況を把握しての言葉に、ソニアは舌打ちを零す。目を伏せ少しして、力強い視線でレナートを見下ろした彼女の言葉は、苦々しさと苛立ちを隠さないながらも、確かな信頼が込められたもの。
「死ぬんじゃねえぞ」
「わーってんよ。そら、急いだ急いだ」
ソニアが教室を飛び出してから、レナートは近場の机、椅子を力任せに解体し、金属部分を強引に折る、曲げる等して加工していく。まさかの行動に二人が呆気に取られる中で、着実にそこそこの重量があろう凶器が形作られていき、同時に慌ただしい足音が外から聞こえてくる。
「二人も準備しとけ。俺もこれ終わり次第、色々やっから」
二人がそれぞれ外に出る為の準備に移ったのを確認次第、レナートは血塗れの軍服片手に部屋を飛び出す。外部からの視線を遮っているテリトリー外から校舎外へと出て向かう先は、高校の敷地の傍らに作った、簡素極まる墓。目的は当然、遺品の返却だ。
「これ、返しておくよ。このまま持ってくのは悪いからな」
広げたソレを被せるようにかけ、黙祷を捧げる。五秒にも満たないながら、しかし時間との戦いである今、あまり時間をかける訳にもいかず、そのまま校内へ駆け戻る。幸いと言うべきか、やはり急なことで皆準備が終わっておらず、慌ただしく護身用の武器などを探している。
ソニアのお陰で争いは起きていないものの、このままでは埒が明かないと判断し、レナートは教室にある机や椅子を片っ端から解体していく。
「は、え?」
「いやいや、なんでンなコトできんのさ!?」
「ペテルヘイム生こっわ………」
「あ?」
「ソニア、そういうとこだぜ?」
周囲が引く中、出来上がった金属塊を簡単な武器らしい形へと変えていき、不足分を補う。当然、素手でやっている為皮膚が裂けるなどただでは済んでいないが、レナートは襤褸布を包帯代わりに使うのみであり、特に気にした様子を見せない。いや、そもそも気に出来る余裕が無いのだ。
「っし、これでいいか?」
「ああ。それじゃあ、悪いが先陣は任せんぞ」
「ちょいと待ってろ」
自作の、簡単な鈍器を片手に戻り次第、集団で移動する。当然、先の雷鳴とは逆方向に、だ。
「俺が全力でぶち抜くから、一気に駆け抜けろ」
「っつー訳だ。ロザリンとアタシ、あと腕に自信があるので、追手は何とかすんぞ」
「あいよ!」
「この地獄から出れるんだ、なんだってやってやるさ!」
「ああ!いい加減学校も見飽きたってんだ!」
盛り上がる彼らから視線を外し、ソニアとアイコンタクト。頷き合い次第、暗闇を血色の残光が駆け抜ける。走力自体は学内で飛び抜けて、という程では無いが、その速度にウルサス内でも桁外れの腕力、そしてそれで振り抜かれる重量を乗せれば、その威力は相当なものだ。
「ッ、下がれ!受けたら死ぬぞ!」
タワーシールド二枚装備の重装兵たちが片方を捨て、一枚を全力で一斉に構える。
「ぶっ、飛べやァッ!」
間違いなく強度があるソレを大きくひしゃげさせ、即席武器が壊れる。だが、残された柄にあたる金属塊もまた、充分立派な凶器となり得る代物であり、相手は即座にそれを察知。一斉に退いていく。
「………いくぞッ!」
『オオオオオオオオオッ!!!』
「撤退!防御第一で撤退だ!」
一斉に駆け出すウルサスたちを止めることを諦め、重装連隊が引いていく。
(なんだ?こいつら、なんで止めようとしない?)
「ボサッとしてんな!置いてくぞ!」
「………わりぃ!」
鉄パイプよりマシ程度の代物となった即席武器片手に、レナートは殿を務め駆ける。
その先に広がる地獄がどのようなものかも、想像しないまま。
「………あーあ、行っちまった」
「お叱りコースですね、こりゃ」
「いや?姐さんの舞い上がりっぷり見るに、全力でしょげ返るに一票だな」
そんな彼らを見届けた蒼の一団は、悲壮な空気の欠片もなく言葉を交わしていた。
そして、彼らのボスがどんな反応をするかで盛り上がっている始末である。
「んじゃ、俺は姐さんの飲み水でも賭けるかな」
「火ぃ付く水なぞあってたまっか」
「なら、ハチミ」
「姐さん、匂いだけで酔っ払うからマジでやめとけ」
「ホント、酒にゃあ滅法強いのになぁ」
楽しそうに笑い、しかし直ぐ学校へと目を向け直す。
「念の為だ、生存者の捜索に行くぞ。それと」
「ああ。事と場合によっちゃ、姐さん共々レユニオンとはオサラバだな」
神妙な空気を纏い、重装連隊と軽装部隊が合同で学内へと向け歩を進める。
その一方、逆サイド。学生逃走の報告を受け、次に向け動く中で、新たな一団が合流した。
「はいはい、ただいま~………って、あらら?」
「よ、遅かったな。青髪の坊主なら、とっくに逃げ出したぜ?」
「っ、レナートが!?」
「うおっ!?」
がばり、と術師たちの合間を縫い現れた少女に驚きながら、総隊長の蒼ヴェンデッタはリーベリの術師隊長へと顔を向け、無言で問い詰める。肩を竦めた相手は、焦燥と戸惑いを隠さぬ少女を顎でしゃくり、軽い様子で疑問へと答える。
「ボスが拉致った子で、弟さんの知り合いだとか」
「そりゃ、二つの意味で災難な」
その言葉は、ゾーヤに届かない。
「………で、ボスから連絡は?」
「さあ?『ちょっと連中潰してくる☆』って走ってったし」
「マジかよ………ぜってー迷う奴じゃん、それ」
崩れ落ちた彼女にかける言葉が見つからず、二人はやむなく現実逃避気味に雑談へと興じた。
・????
感染者のウルサスにして、レナートをチェルノボーグに残した彼の姉。
弟と同様青髪に血色の瞳を持ち、現在は傭兵としてある人物に協力。
弟と異なり、口調は穏やかだが………?
・レユニオン(????配下、蒼部隊)
感染者であり、感染の有無が二の次である傭兵として活動する者たち。
????をボス、或いは姐さんと呼び慕っており、非感染者への敵対意識も薄い。
戦場経験に由来する確かな実力を持ち、ボスのイメージカラーとして青で装束を統一している。