ある学生の軌跡 作:ウルサスに救いを
私の方は、PR-B-2の突破が出来ない事もあり、アブサント昇進2から銀灰昇進2へと方針転換を考えておりまする。いやまあ、イースチナの方と迷っているんですけどね!
『名無し_7465』様、評価ありがとうございます!励みとさせていただきます!
深夜のチェルノボーグ。地獄のような喧騒の中で、その一角だけは多くの者が寝静まっていた。
「ただい………まー………」
「お疲れさんです」
「お疲れ~」
返り血らしい返り血すら碌に浴びず戻ったグローザを、学生たちの護衛メンバーが静かに迎える。学生たちの方は、他部隊が適当な空き家等から拝借した布団のお陰で、これまでよりぐっすりと休眠出来ていた………無論、安らかに、とはいかない者も少なく無いが。
「あらら、やっぱ若いわねー」
魘されるソニアとナターリアといった学生たち………そして、レナート。学生という身分で背負うには、あまりに重い数々の事柄に思いを馳せ、グローザはその柔和な顔立ちへと優し気な笑みを浮かべる。しかし、その表情に反し目の色は
「そういうボスは、それくらいの時何してましたっけ?」
「んー、シュヴァちゃんに風穴空けられてたっけ?」
「いや、あの堕天使にぶっ飛ばされてましたね」
「ああ、ティマちゃんか」
けらけら笑い、過去を懐かしむ。
「ホント。不便だよね、マトモなのって」
「姐さん、マトモとは言えませんしね」
「というよりは、マトモでいるのがヤになった、ってトコねー」
感染者となり、そのことが多くの人に知られたあの日。
両親を喪い、弟を殺されかけ。そこに至り、恐怖を憎悪が凌駕した末の、大虐殺。感染者である、というだけのただの少女が背負うには、あまりに重い十字架だ。ましてや、全てを殺し尽くすだけの力があった彼女がもっと早く恐怖を乗り越えられていれば………
「………深くは、聞きませんよ」
「ありがとね」
過去の悔恨が、自身への憎悪が、
「ねえ、さ………」
「ここに居るよ………今は、ね」
弟の寝言にはにかみ、大きく息を吐く。瞬間、一人の姉は、傭兵たちの長へと変貌。柔らかかった声は冷え切り、笑みが消えたことで空気が重くなる。が、機嫌を損ねた時と異なり、圧は大したものではなく、単に空気が引き締まっただけといった方が正しいだろう。
「他の部隊は?」
「重装連隊は既に保護した民間人諸共脱出、他の部隊もボチボチだそうで」
「それじゃ、貴方たちはこの子たちの護衛と脱出ね。出来るなら、帝国の横槍前にロドスに」
「姐さんは?」
言うまでもない、しかしその曖昧な疑問に、グローザは笑う。レナートの知る優しい姉の顔ではなく、冷酷で残忍なグローザの顔で、確かな憤怒と憎悪を込めた低い、低い声で、静かに唸るように
「メフィストを消す」
欠片の躊躇もなく、断じた。
「タルラと殺り合うと?」
「そうなるわね。消せれば僥倖、ダメならダメで良し、ってトコかしら」
獣のように喉を鳴らし、笑う。唯一の肉親である最愛の弟を、あんな地獄に叩き込んだのだ。
生きたまま八つ裂きにしても尚足りない程に、今の彼女は怒り狂っていた。
「それじゃあ、あたしらは弟君たちを無事に送り届けますから」
「わーってると思いますけど、死なないで下さいよ」
「わかってるわよ」
笑い、弟へと視線を向け直す。その笑みは、見慣れた平時の穏やかなものである。
「この子の晴れ姿なり、子供なり見るまで、死ぬ気はないもの」
死病に侵されている筈の女は、堂々と言い切る。
「相変わらずっすねぇ」
「悪い?」
「まさか」
ほんのり拗ねた様子を見せる年下のリーダーに、護衛組は肩を竦め笑う。紛れもなく、彼らの恩人であり、リーダーであるが、慕われている理由はそれだけでは無い。強制収容所入り前のコトは兎に角として、それ以外では隠し事らしい隠し事もせず、こうして素直に振舞うからこそ、だ。
「まあ、そういう訳だから、私は死なない。だから、貴方たちも死ぬんじゃないわよ」
「押忍」
「りょーかい」
「はいな~」
真剣、とは言えない空気ながら、眼光が彼らの確たる意思を物語っていた。
******
朝。決して快晴とは言えないが、皆久し振りにある程度リラックスできたからか、学生らしい活気が多少感じられる。無論、あくまで多少程度であり、中には魘されたらしく元気が無い者も居る。
「さて、早速で悪いけど、今日の行動方針はチェルノボーグからの脱出よ。何か意見はある?」
「………ちょいと寄り道とかって、できるか?」
「寄り道?」
頷いたレナートはゾーヤを見やり、自身と彼女の母が居るだろう住宅街の住所を口にする。その場所が住宅街である事を知る仲間たちから冷ややかな視線が向けられる中、当のグローザは大きく天を仰ぎ、手で顔を覆った。そのリアクションに不穏なものを感じ、二人が表情を強張らせれば、グローザは静かにどす黒い感情を湛えた声を零す。
「あのアマも殺すか」
その冷たさに身震いしたのも束の間、盛大な溜息と共に、彼女は二人に残酷な事実を告げる。
「あの区画の生存者はゼロよ」
「なっ」
「そりゃねえだろ!流石に、誰か」
「
あまりに現実味に欠ける言葉に、冷ややかな目を向けていた者たちまでもが絶句する。復帰が早かったのは、現実離れした暴威を目の当たりにした経験を持つレナートであり、表情険しく姉を見やる。もしかしたら、という可能性だけであろうとも、当然相応の警戒はせざるを得ないのだ。
「ま、タルラの仕業でしょうね。てか、アイツ以外にあの出力は無理」
「ノヴァの嬢ちゃんはまあ、違うしなぁ」
「あの子冷気じゃん。それに穏健派だし、無用な殺しはしねぇだろ」
「………つまり、姉さんたちじゃないと?」
「する理由が無いし、それやらせない為に動いてた訳だし」
額に手を当て、頭痛を堪えるように息を零す。やり場のない感情をレナートが近場の瓦礫に叩きつけ、ゾーヤは声も出ずその場に崩れ落ちる。大抵の者は親の安否を諦めているのだが、レナートは親だから、というよりは恩人だから助けたい、という思いが強かったのだが………
「その、なんだ………ごめんな」
ショックを隠せぬ彼に、流石に同情した者から慰めの言葉が飛ぶ。
「いや、いい………我儘言って、悪かった」
大きく息を吸い、一度少し落ち着いて、仲間たちに謝罪する。力任せに近場の瓦礫を殴れば、破砕こそできたものの、拳も相応に傷つく。その痛みで改めて冷静さを取り戻してから、再度その場に座り込み、頭を抱える………冷静になった事で、却ってショックが大きくなったのだ。彼の養母は、彼にどうしようもない場所で、どうしようもない手段で殺されたのだから、それも当然か。
「………なあ、グローザさんよ」
そんな彼を見ていられなくなったのか、ソニアが彼から顔を背け、問い掛ける。
「そのタルラってのは、どこに居るんだ?」
「復讐?………残念だけど、勝負の土俵にすら立てないわよ」
それだけ静かに口にして、弟へと視線をやる。恩人が殺され、同じ軍警所属であるもう一人の恩人の養父の安否は不明、養母は死亡がほぼ確実。ソニアたちが驚くほどに弱り切り、慟哭を必死に堪える彼を前にして、グローザの………いや、アナスタシアの堪忍袋の緒が切れた。それはつまり、あらゆる躊躇いが消え失せたことを意味していた。
「さっさとこの子たち連れて、退避しなさい」
「………ご武運を。さ、行くぞ!」
リーダーの激情を悟った部下たちは、素早く学生たちを先導、チェルノボーグ脱出へと向けて行動を開始する。天災が迫っている事もあり、早急な脱出を心掛けねばならない都合彼らの足は速く、ついて行けない者は護衛メンバーが背負うなりして速やかな移動を実現している。その中には、感情を堪えてゾーヤを背負い駆けるレナートの姿もあった。
それを見届け、グローザは一人廃都市の一角で立ち尽くす。彼らの姿が見えなくなり次第、すかさずアーツ能力を発動し、彼らがどの程度の位置に居るのかを確認。ある程度以上の距離があることを確認次第、激情を解き放つ。
「ッ、ああああああああああああああああ!!!!!!!!!」
腹の奥底に燃え盛る憤怒のままに、吼え叫ぶ。制御することなく解き放ったアーツ能力が廃墟の残骸を跡形もなく破壊し、天災と大差ない暴威の中央で、青髪のウルサスは激情のままに頭を掻き毟り、喉が裂けんばかりに怒号を上げる。
この元凶となったレユニオンと、その背後にいるだろう何者かへの、あらん限りの憤怒と憎悪を込めて。そして、この事態に介入しておきながら、弟へと大したことをしてやれない、あの時と同じ苦しみを味あわせてしまった、自身の無力を嘆いて。
「………姉さん」
そして、引き起こされる大破壊を遠方から目の当たりにし、我に返ったレナートがぽつりと呟いた。
「ああ、ありゃ納得だわ。確かに小さな町の一つ二つ消し飛ぶわ」
「………お前の姉、ホントに人間か?」
「そうだと思うけど………改めて質問されると、どう答えりゃいいのか」
一周回って呆れ果てている仲間たちに苦笑を向け、レナートは背負ったゾーヤを見やる。大規模破壊の轟音に反応した結果、いい具合に我に返ってこそいるが、やはりまだショックは抜けきっていない様子で、自身の状態すら把握していない。
「ゾーヤ?」
「………私、どうすればいいのかな」
「さあな。俺もよくわかんねえから、ノーコメントでいかせて貰うかな」
事実として、ロドスに保護して貰う方針であるが、その後は全く以て不明。どこか別の場所に移住するなりの選択肢はあるのだろうが、そうするにしても別の手段を取るにしても、今で精一杯である為、何も考えていないのが皆の現状だ。
「何にせよ、今はこの街を出るのが最優先だろ」
「………強いね」
「強かないさ。単に、今は考えないようにしてるだけだ」
そう、考えないようにしているのだ。
これで、親を喪うのは二度目。もし、姉まで死んでしまえば………そんな、最悪の可能性。考えるだけで、恐ろしくて仕方がない。姉が生きている、という事実があるからこそ、余計に恐怖が強く、大きくなってしまっているのだ。考えたくないのも、当然だ。
「………ごめん」
「構わねえさ。俺も、ここに連れて来られるまではそうだった」
そんな会話に、周りの者は割り込めない。未だ直接、肉親の死を知らされていないから。
「それはそうと、そろそろ歩けるか?」
「へ?………!?」
自分の状態に気付き、ゾーヤが慌てて飛び退く。
「へぶっ!?」
「わわっ!?」
結果、レナートは顔から、ゾーヤは後頭部から地面に落ち、揃って悶絶。先程までの空気が一変して、呆れの視線が集まる。ゾーヤが恥ずかしそうに俯く中、レナートは痛み以外大して気にせず立ち上がり、肩を回す。
「やれやれ」
「ま、重苦しくなるよかマシでしょ」
そんな空気に二つの部隊のリーダーが呆れ気味に肩を竦め、軽く笑い合う。暗い空気は綺麗にとまではいかずとも、幾分か薄まっている。気楽に行動していい状態ではないものの、しかしやはり重苦しいばかりでは、気が滅入るのも事実だ。多少和らいだ今くらいが、丁度いいだろう。
「何にせよ、さっさと外周部まで行くぞ。天災の余波を少しでも軽くしたいからな」
「偵察班、無茶しない範囲で周辺索敵宜しく!詳細判り次第」
重砲兵長の女ウルサスが、大型の火器を軽々構える。弾帯で繋がる榴弾が収まるケースを横に備えたソレは、明らかに個人が手に持って運用していい代物ではなく、改めてその実態を目にした学生たちが、驚愕と憧憬―――後者は、主に少数派の男子たちのもの―――を向ける。
それらの視線に気を良くした彼女は、マスクの下でにやりと笑い、自信満々に言い放った。
「コレでふっ飛ばすから」
「なあ、お前弾薬費考えて撃てよ?‥……うん、目ェ逸らさないでさ」
そして、仲間からのツッコミで台無しになった。
・レナート
養母の死を告げられ、精神的ダメージがヤバい主人公。
これで親を喪うのは二度目であり、相当に堪えている。
仮にグローザまで死んでしまえば、それこそ………
・グローザ(アナスタシア)
メフィストを殺すつもりだったが、弟の養母を殺したと判明しターゲット変更。
非常に強力なアーツ能力を持ち、激情のままに最大出力で開放すれば、文字通り天災級。それだけの力がありながら、怯えるあまり両親を見殺しにしてしまったコトがトラウマとなっており、少なからず心理面に悪影響を与えている。
原作メンバーに関しては、後程纏めておこうかと考えております。