ある学生の軌跡 作:ウルサスに救いを
いや………うせやろ?え?赤?レッド?ロッソ?傷んでない?うっそぉ………
『白桜太郎』様、『ケチャップの伝道師』様、評価ありがとうございます!
ご評価に応えられるかは不明ですが、出来る限り頑張らせていただきたいと思います!
『天災』―――
そして、その大災害を凌いだ世界的企業―――ロドス・アイランドの私設部隊は現在、窮地に立たされていた。理由は至極単純で、相手の主格が全て織り込み済みで動いていた事に加え、限りなく万全に近い戦力を以てしても、対処不可能な怪物………レユニオンの暴君、タルラが現れたことによる。
「ッ!?」
「げっ」
その極度の緊張を破ったのは、離れた二つの影の動向。
タルラたちの本陣に居た幹部の一人。そして、最高クラスのステルスアーツの使い手、クラウンスレイヤーは即座に踵を返し、脇目も振らず全力で駆けた。それは遠方から窺っていたサルカズの傭兵Wも同様で、何かから逃げるように鬼気迫る表情で疾駆する。
「まさか………ッ!」
遠方のファウストがその意味に気付いた直後、ビルの残骸が宙を舞う。
「なっ!?」
「馬鹿な!?」
それも、半ば以上を残した巨大な残骸が、欠片も形を崩さずに。特大質量のそれはそのまま、有り得ない速度で落下を開始し、タルラたちレユニオンの逃亡を許さぬ角度で迫る。その特大質量故、生半可な攻撃では破壊すら叶わず、かといって下手に破壊すれば、その残骸が散らばり、そのまま超広範囲攻撃となる。タルラは驚愕と焦燥に表情を歪め、あらん限りの力を以て炎熱のアーツを発動。特大質量を、跡形もなく蒸発させる。
「るぐああああああああああああッ!」
「っ、タルラ!」
獣の如き咆哮と、飛来する青。咄嗟にメフィストが多数を操り壁にしたものの、悉くはその役割すら果たせず肉片へと変貌し、壁の役割を果たした重装のレユニオン兵もまた、中身がぐちゃぐちゃになった状態で吹き飛び、タルラに焼き払われる。
「っ!?」
直後、咄嗟にその場を飛び退けば、突風に遅れ、電磁加速を伴い放たれるコンテナの残骸がその場を抉る。攻撃せんと目を向けた先に敵の影は無く、桁外れの炎熱アーツにより、味方諸共周囲を焼き払わんと構え
「っ、あそこだ!」
瓦礫の一角が吹き飛び、そのまま散弾となりタルラたちを強襲。灼熱の防護を暴風が貫き、その孔から強襲する瓦礫を剣で打ち落とす事を強いられる。その間、狙われていなかった者たちがこぞって疾走し、土煙で不明瞭な箇所へと攻撃を開始。そんな中、メフィストだけが違和感に気付き、対応できた。
「後ろだ!」
「くっ!」
迎撃、不可能。即座にその判断を下したタルラが炎の爆発で飛べば、その場所を鋭い貫手が貫き、余波でその先までを吹き飛ばした。反撃の灼熱が大地を蒸発させる中、しかしその貫手の主の周囲を綺麗に避けるように熱が流れ、青髪を持つもう一人の怪物は無傷で終わった。
「貴様か」
「やっほー、クソトカゲ………殺しに来たよ」
微かな違和感を覚えた直後、タルラはその場を全力で離れる。
「へぇ、わかるんだ。ならッ!」
グローザが笑った直後、彼女の周囲に紫電が生じ、解き放たれる。
「チィ―――ッ!」
その接近を妨げたのは、灼熱の爆破。自爆同然の退避であるが、それは青の怪物、グローザに咄嗟の防御を強い、僅かながら停滞を生む。灼炎を純粋な腕力が生む衝撃波で吹き飛ばしたウルサスは、感情の伺えぬ不気味な笑みを浮かべ、龍の女を睥睨。
その姿を前に、元カジミエーシュの騎士、ニアールは目を剥き、エリートオペレーターのAceは焦燥と共に手を広げ、後方へと向き怒鳴るように叫んだ。実力者である彼らの共通点は、その凶悪さをイヤという程よく知っている、という一点に尽きる。
「今のうちに逃げろ!」
「Aceさん?!」
「アーミヤ、従うべきだ。あの女は………グローザは、危険だ」
冷や汗を隠せぬ二人の会話を拾ったのか、今まさに命のやり取りをしている女ウルサスは平然とタルラから視線を外し、ロドスの一行へと振り返った。ある種、狂気的な余裕の持ちようだ。
「流石に無関係な………って、ロドス?貴方たちに用は無いから、さっさと失せなさいな」
しっし、と手を振った直後、灼炎を凝縮した熱戦がその身を飲み込まんと迫る。それに対し、力任せに腕を振り抜き、その衝撃波で灼炎を散しながら防御と攻撃を行うという芸当を見せつけ、その強大さを示した。
「チッ!」
「不意打った、と思ったんでしょうけど、甘いわよ」
腕が紫電を纏い、続けて掌に収束する。
「生憎と、カンが飛び抜けていいもんで、ね」
メフィストへと視線をやり、手当たり次第に雷撃を放つ。雑ながら、手数と弾速による広域への問答無用の攻撃は、タルラとメフィスト以外は対処らしい対処も叶わず、メフィストに至っては手当たり次第操り、盾代わりとしてギリギリ凌いでいる有様。
「そうそう耐えれると思………ッ!」
言い終える前に、雷光が消える。同時に振り抜かれたグローザの腕は、鋼鉄の矢に貫かれた。
「あーあ、油断した………そっか、キミはあの子の味方だもんね」
ふと目を向けた先、すかさずステルスアーツを併用し移動したファウストを目で追い、微笑む。
「くッ!」
相性の悪さを実感したタルラは、その数瞬に撤退を選択。生き残り皆無の中、メフィストも残りを支配下に置き、時間稼ぎの為にとグローザにけしかけ撤退。平然と腕を見下ろしたグローザは嘆息し、迫る傀儡兵へと手を向ける。
「八つ当たりだけど………くたばれ」
直後、傀儡の人数分深紅の花が咲き誇った。
「………あー、コレ絶対怒られるやつだ………ねえ、そっちに医療アーツ使いとか」
振り返った先、既にロドス陣営は撤退を選んだ後であり、人っ子一人いない。
「………帰ろ」
矢を抜けば出血量増加、そのままでは熱が伝いやすい上、痛みで動きが鈍りかねない。
怒り狂っていた弊害により、意識外から受けてしまった一撃を戒めとして、タルラ抹殺を諦める。完全な不意打ちのお陰で優位に事を運べたが、言い換えれば不意打ちで無ければ少々、いや非常に辛い。
というのも、彼女は吹っ飛ぶことは出来ても、飛行は出来ない。よって、足場を丸ごと融かされてしまえば、そこで詰みだからだ。そして、不意打ちによりその手を考慮する暇を与えていなかったが、一度撤退された今、一度冷静になられている可能性が非常に高い。
よって、彼女は追撃を選ばない。選べない。なにせ、部下に約束しているし、これ以上弟に苦しみを背負わせる訳にはいかないから。
腕からの痛みを意に介した様子を見せず、しかし肩を落として、グローザはアーツの応用による広域探査を開始すると共に、少しばかりの休息の為、その場に腰を下ろした。
******
少し遡り、学生たちとその護衛一同。
「クソ、やっぱ肝が冷えるな………無事か?生きてたら手ェ挙げろ!死んでたら返事しろ!」
「いや、死んでちゃ無理だろ」
「だからだよ。手ェ挙げなくても、返事すりゃ生きてるってこった」
ソニアのツッコミを受け流し、ヴェンデッタは仲間の無事を確認。
「余波でこれって、天災ヤベェな………」
「これの次くらいの破壊を起こせる、貴方の姉も大概ですけどね?」
レナートが冷や汗を拭い、ナターリアが呆れ混じりに零し。その傍ら、ラーダが遠方で宙を舞い、猛スピードで地上へ向け落下するビルの残骸を目撃し、思わず目を擦る………が、運がいいのか悪いのか、彼女以外誰も目撃しておらず、ラーダは気のせいとして疑問を飲み込んだ。
ソニアが中心となり学生たちの安否、及び負傷者の確認を開始すれば、ナターリアとアンナが中心となり、傭兵組の無事な者と共に重めの負傷者の治療に当たる。この数日間で、多少なりとも彼らへの信用が芽生えた結果の連携の中、レナートとロザリンが主となり、周辺の警戒に当たる。というのも、傭兵組が積極的に学生を庇いに動いた為、負傷者が多いのだ。
そして、下手な怪我が戦闘に響いては困る事もあり、積極的に治療して貰っているのだ。これは傭兵たちの意志というより、学生たちの意向によるもので、相応の信用が垣間見える。
「大丈夫?」
「さてな。まあ、余波だけでこの状態だし、わざわざ喧嘩売る酔狂は………ッ!?」
ゾーヤに答えている最中、ぞわり、と何か………姉と同じアーツへの、高い素質に由来する探知能力が、けたたましく警鐘を鳴らす。反射的に顔を上げれば、飛来するなにかが視界に映り、そのまま咄嗟に近場の瓦礫を掴み、渾身の力で投げ放っていた。
「おい、どうし」
「伏せろッ!」
ロザリンが何事か飲み込めない中、ヴェンデッタが鋭く叫ぶ。鬼気迫る声に圧され皆が臥せった直後、空を舞う瓦礫が吹き飛び、続けて無数の矢が飛来。少なくない悲鳴が響いた中、攻撃が止んだ数秒の間に傭兵たちが構えれば、その先には見覚えのあるレユニオンの集団と、見覚えの無い物々しい装備の人物。
「何故そいつらを庇う?」
「あ?おい、まさかお前、ア」
「今は、スカルシュレッダーだ」
「………そうかい。お前さんの疑問に答えるなら、仕事だから、かね」
二丁のグレネードランチャーを手にした人物は、得物を握る手を震わせる。
「そいつらを引き渡してくれ。貴方たちと争いたくはない」
「おいおい坊主、大尉殿の方針を忘れたか?」
「知らないな。忌々しいウルサスは一人残らず殺す、それだけだ」
憎悪を隠さぬ少年、スカルシュレッダーの銃が変形し、大鉈となる。
「お前たちは遠距離攻撃に専念しろ」
「気をつけろよ」
「無論だ………!」
スカルシュレッダーが駆ける。狙う先に居るのは、偶然にも最も近かった一団。
「死ね―――ッ!?」
大きく振り上げられた刃が、空中で止まる。
「死ぬかよッ!」
ガスマスクの下の瞳が凝視するのは、恩人と同じ色彩を持つ少年。
「っ、クソッ!」
致命的な隙により、攻撃は叶わず回避を強いられる。彼のよく知る女性同様の剛力を避けることにこそ成功したものの、追撃を恐れて大きく距離を取ってしまう。素早くランチャーに戻し、引き金を引いたスカルシュレッダーが放つ数々の榴弾は、過たずレナートたちへと迫り―――
「伏せて!」
「ッ、ああ!」
咄嗟に瓦礫を持ち上げ即席の壁にすると共に、ゾーヤが父の形見のアーツロッドで攻撃。我武者羅に放たれた攻撃が榴弾の一発を起動させ、連鎖的に爆破を起こす事で直撃を防ぐことに成功。同時に視界も悪化したが、それは相手も同様であり、決して一方的に不利とはならない。
「まさか、お前は………!」
「お察しの通りだ。さっさと道開けろ」
いつの間にか回り込んでいたヴェンデッタが、背後から首筋に刀を当てる………至近距離である上、彼が避ければスカルシュレッダーが撃たれるような、絶妙な位置取り。相手の攻撃を封じると共に、敵方の援護射撃すらも封じる一手により、あっさりと形勢は逆転した。
しかし、彼らにとって、それはどうでもよかった。
「まさか、嘘だろ………」
「なんで、なんであの人の身内が………!」
憤怒が、憎悪が滲む声。それを最も力強く爆発させたのは、スカルシュレッダーだった。
「何故、何故だ!お前も同じだろう!?ウルサス人に家族を殺されて、なのに何故!?」
スカルシュレッダーとレナートは、境遇が少々似ている。感染者が自身か姉か、地獄を味わったか否かなど、細かな違いは多々あれど、置かれた境遇自体は似通っている。それ故に、スカルシュレッダーには、レナートが何故ウルサス人を守ろうとするのかが理解できなかった。
そして、その答えは何処までも残酷で、簡単。彼は強制収容所の地獄の中で憎悪を燃え上がらせたのに対し、レナートは真っ当な環境で、実の子のように育てられた。スカルシュレッダーの両親を殺した者たちは何の報いを受けていないのに対して、レナートの両親を殺した者たちは、他ならぬ彼の姉の手により皆殺しにされた………
何より、スカルシュレッダーたちはレユニオンだ。その所属と併せて、地雷を踏み抜いたのだ。
「………で?」
「なに?」
「確かに、その通りだよ………けどな?お前らは今回、また俺の両親を殺しただろうが」
どす黒い感情が、レナートを満たす。放たれる圧は、彼の姉のそれによく似ていて
スカルシュレッダー配下が気圧される中、ヴェンデッタは大人しく退きつつ釘を刺す。
「………殺すなよ」
彼に姉がいる事は、告げない。しかし言葉短く、復讐の連鎖を生ませない為、それだけ告げる。
「簡単に言うんじゃねえよ」
殺したくて、殺したくて仕方がない。どす黒い感情のままにぶち殺せれば、どれだけ楽か。抑え込むべく深呼吸を繰り返すが、その間にも相手は殺意と共に攻撃へと動き続ける。
「………死んでくれるなよッ!」
その現実を前に、抑制し切れぬ憎悪と共に、青のウルサスは弾丸の如く飛翔した。
・レナート
スカルシュレッダーと境遇とかが微妙に似てる系主人公。
ただし、今回相手方がレユニオンだった&地雷を踏み抜いたことで、プッツン。
姉と同種のアーツに高い適性を有しており、ファウストの気配を感じたのはその為。
・グローザ
好き放題暴れたスーパー姉ちゃん。気に入っているWとクラウンスレイヤーには避難勧告をしていた。
弟を余裕で上回る身体能力を持っており、ビルの残骸をぶん投げたのは素。素なのだが、反面その馬鹿力の制御が非常に苦手で、絆創膏を貼ろうと伸ばすどころか、引き千切るなどザラ。リンゴを握り砕き、包丁の柄は握り潰すなど、ひたすらに不器用。
ビルの残骸を高高度まで押し上げるのにアーツを併用している通り、彼女の得意アーツの正体は『雷』ではなく『風』。ないのだが、風による空気圧縮をはじめとする純粋な応用だけで落雷、放電から電磁加速、挙句今回は使わなかったものの、電磁パルスどころか某植物系怪獣王の如く電磁シールドまで展開可能な怪物。
風使いとしては、無意識レベルでの高い探知能力から風向操作による真空状態の生成、相手の内蔵に過剰量の空気を送り込んでの人体破壊、空気圧縮によるプラズマ発生とその応用までと非常に多彩且つ凶悪な芸当を器用に使いこなす。生身の不器用さに反し、アーツ適正は文字通り怪物級。
タルラとは、桁違いに強力な攻防一体の『風』により優位に立てるが、基本が肉弾戦である都合、周囲を丸ごと融解されれば非常に厳しい。が、それ抜きではタルラの攻撃も防御もぶち抜けてしまう為、タルラが最適解を打てねば基本勝ち確。ファウストが横やりを入れなければ、殺せていた。