ある学生の軌跡 作:ウルサスに救いを
つい先日、漸く4-10到達したかと思えば、おもっくそ蹂躙されましたよ、ええ!
『ティル』様、『提騎』様、評価ありがとうございます!
励みとして、可能な限り頑張りたい所存………まあ、次回が一応の最終回な訳ですが。
ズガンッ、と咄嗟に変形したブレードが吹き飛ぶ。
「なっ、クソ!」
その変形具合を見るに、どうあっても使い物にはならない。そちらに意識を割いた瞬間、何かが砕ける感触と共に胸を強烈な衝撃と痛みが襲い、その体がボールの如く軽々と吹き飛ぶ。
「がはっ、ごはっ!?」
「さっきの弾の借りは返したぞ、糞野郎」
どす黒い炎が燃える、血色の瞳が細まる。地面をバウンドして転がるスカルシュレッダーからガスマスクが外れ、その顔が露わになれば、同じような炎を燃やすウルサスの少年が、険しい表情で彼らを睨んでいた。
「貴様………!」
「あ?文句あんのか?」
丈夫な銃火器を拳で破壊した為、レナートの右手は相応のダメージを受けている。しかし、蹴り一発でスカルシュレッダーは胸骨を砕かれ、肋骨も罅どころではない状態になっているだろうことは明らか。更に、武器も一つ潰れたとなれば、徒手空拳で戦っているレナートとどちらが不利かは、言うまでもない。
「何故、何故そいつらの肩を持つ!?そいつらは、ウルサス人は!」
「知るか。俺の生みの親を殺した連中は軒並みくたばった、育ての親はテメェらが殺した」
命を狙い放たれた矢を、全て左手で掴み取る。無論、無傷でとはいかず、何発かは掌を貫いているし、皮膚が裂け血が滴っている。しかし、銃弾が食い込んだままの状態で動ける人間が、その程度意に介する筈も無く、矢を捨て去りレユニオンを睨みつける。
「テメェらが殺った、殺ってないはどうだっていいんだよ。要は、八つ当たりだ」
「ふざ」
「ふざけてるよな?………テメェらと同じだよ」
吐き捨て、落ちていたブレードを力任せに踏み砕く。あっさりと粉々になったそれを乱雑に蹴飛ばし、レナートは憎悪を燃やす感染者を睨みつける。彼らにとって、ウルサス帝国とその国民そのものが憎悪の対象となり果てたように、今のレナートにしてみれば、目の前のレユニオンの感染者たちも、大して差は無い。
「殺してぇなら来いよ。一人残らず、ブチ殺してやる」
殺すな、と言われた。その意図が復讐の連鎖を生まない為か、姉の気に入っている人間だからかは知らない。知ったこっちゃない。殺しに来るならば、どろどろとした黒い激情のままに殺すのみ。大人しく殺されてやる義理などありやしないのだから。
迸るどす黒い、粘つくような殺意に危機感を抱き、スカルシュレッダーの部下たちが動く。
「殺す、殺す!あの餓鬼、ぶち殺してやる!」
「落ち着け!そんなことしたら、グローザが」
「知るか!グローザ、グローザと、時代錯誤のクソガキを恐れる理由が何処にある!」
レユニオンもまた、一枚岩ではないように。スカルシュレッダーの部下たちにも、グローザに救われた者から、彼女を知らない者まで様々だ。そして、レユニオンに手を貸さぬ感染者を見下す者たちにしてみれば、レユニオンとは別に行動する傭兵など、信用できるものではない。
スカルシュレッダーがあからさまに機嫌を損ねるも、それに気付かず、殺気立ったレユニオン兵がレナートへと殺到。剣が、短剣が、鉄パイプが迫る中、その一角へと飛び込む人影があった。
「させっかよ!」
ロザリンの飛び蹴りが、激情に駆られていた者たちを意識外から強襲。動きを掻き乱し、同時に注目を自身に集めることで、更なる増援から意識を逸らす事に成功。続けて、ソニアが意識をロザリンへと向けた一団に背後から躍りかかり、戦列を掻き乱した。
「なにして」
「アタシはテメェのボスだ、違うか?」
ソニアを睨めば、逆に睨み返される。しかし引き下がりはせず、深呼吸の後、口を開く。
「俺の八つ当たりに付き合う必要はねぇっつってんだよ」
「はぁ?誰が八つ当たりなんかに付き合うかよ」
呆れる彼女が口にしたのは、もっとありきたりな理由。
「お前はアタシの部下だ。リーダーが部下を守るのに、何ら不自然なことはねえだろ」
血の付着した斧を振り、気丈にレユニオンを睨みつける。その隣にロザリンが立てば、相手は憤怒と憎悪を燃え滾らせ、震える怒号が響き渡る。レナートが身構える中、相手は燃え盛る激情のままに武器を構え、力強く叫び駆ける。
「殺せッ!一人として生かして返すな!」
「よくも、よくもやりやがったな!」
「楽に死ねると思うなよ!」
そこから先は、血で血を洗う惨劇が始まる―――かに、思われた。
「姉さんに近い殺気を感じて来てみれば」
激情が一瞬で消え果てる程、冷たい声。臨戦態勢に入っていたソニアたちでさえ竦み上がる程の圧を秘めた声に振り返れば、雪の如く白い装束に身を包む、女コータスの姿。黒い氷を従えた異様な姿を前にして、誰もがその場から一歩退く。灰色の瞳が鋭く戦場を一瞥し、続けて蒼装束の部隊―――最もよく知る者たちへと向き、冷徹な声を響かせる。
「どういうことだ?」
「復讐の連鎖、ってトコかね?」
「………成程。ただの暴徒同然の行動を鑑みれば、当然の帰結か」
「つか、嬢ちゃんはなんでここに?」
「姉さんが、パトリオットの手伝いで加わると聞いてな。急いでやることを終わらせて来た」
「さいですか」
微妙な空気を纏うグローザの部下たちに構わず、ぎろりとスカルシュレッダーたちを睨む。
「民間人に危害を加えたものは処刑する………それが、二人の部隊の決定だったな」
「ひっ!?」
「み、味方を殺すのか!?」
スノーデビル―――フロストノヴァ率いる部隊に気圧され、スカルシュレッダーの部下たちが叫ぶ。ゾッとする程の冷気と重圧の中、彼女は鋭い眼光を絶やすことなく思案し、その末に漆黒の氷を解き放つ。その先は、退いたレユニオンたちの周辺の地面。瞬く間に広がるアーツの氷に引き攣った悲鳴が響いたかと思えば、冷たく言い放つ。
「次は無い」
「………撤退するぞ。スカルシュレッダー、いいな?」
「ああ………ッ」
憎悪を込めてフロストノヴァを、レナートたちを睨む。そんな銀髪のウルサスを冷ややかに睨み返し、フロストノヴァは灰色の瞳を細める。背後に控える精鋭たちが静かに威圧する中、彼女は冷ややかな声で言葉を紡ぐ。
「その憎悪は理解するが、感情のまま暴走しては、お前たちが憎む者と何ら変わらない。姉さんのようになれ、とは言わないが、もう理性的な行動を心掛ける事だ。感染者でない、というだけで虐殺を行うなど、ただの下衆と何ら変わりはないぞ」
中には逆上する者も居たが、胸骨粉砕骨折のスカルシュレッダーが手で制すれば、彼の身を案じて引き下がり、部隊内で医療アーツ使いを呼ぶなどしながら撤退。それを精鋭たちが静かに見届ける中、左手からだらだらと血を流すレナートのもとへとフロストノヴァが接近。
警戒する二人を余所に彼と対峙した彼女は、数秒の沈黙の後、トンデモ内一言を放った。
「お姉ちゃん、と呼んでみてくれないか?」
空気が、凍る。警戒していた二人の目が、敵を見る目から不審者を見る目に変わり、レナートは静かに顔を引き攣らせ、スノーデビルの面々は揃って頭を抱える。学生たちがぽかんとする中、フロストノヴァの背後へと立った重砲兵長は
「ちゃんと段階踏みなさい!」
『いやそうじゃねえ!?』
ズレにズレたツッコミを入れ、揃ってずっこける羽目に。
「みーつーけー………って、なにこの空気?」
そして、純然たる身体能力だけで駆け付けたグローザもまた、盛大に困惑す羽目になった。
******
「えーっと、つまりフロストノヴァ………さんと姉さんは同じ収容所で、ってコトか」
「そゆことだね~」
「姉さんのお陰で今の私がある、と言っても過言ではありませんね」
「いや、過言じゃね?」
天災の余波で荒れ果てたチェルノボーグを、二つの部隊に護られた学生たちが進む。
最後尾で過去のアレコレを聞かされるレナートは、姉に締め上げられ、引き摺られていた。自己紹介すらしていないのに姉扱いを求めた不審コータスこと、フロストノヴァがグローザを姉呼びする理由に納得しつつも、そうなった原因がそれだけではないだろう、と密かに溜息。
「ん~?今失礼なコト考えたでしょ?」
「ででででで!?考えてない、考えてないからあああああああ!?!?!」
一般人なら即死の怪力を受けながら、しかし痛いと絶叫するのみで済むレナート。その空気が本当の肉親というものなのか、とフロストノヴァが寂し気に笑う中、グローザは溜息と共に弟の左手を見やり、明確な苛立ちを見せる。
「にしても、あの子がねー………次会ったら肩外すか」
「姉さんがやったら引き千切れるんじゃね?」
「同感です」
「ノーちゃーん?グリグリして欲しいの~?」
「ボス、やめとけ。死ぬぞ、嬢ちゃんが」
「ああ、死ぬな。間違いなく」
ヴェンデッタ、フロストノヴァの二人に即座にそう答えられ、肩を落とし落ち込む。力加減一つで簡単に死体が出来上がるだけの馬鹿力の持ち主である彼女は現在、気軽なスキンシップができるのは弟くらいしかいないのだ。弟に対してだって、久し振りのスキンシップの直後は内心ガクガクだったのだ。
幸いなことに、彼女の弟も、彼女に劣らぬ頑丈さを持ち合わせていたお陰で無事だったが。
「うぅ~………レナート、慰めて」
「料理でもして加減身に着けたら?」
「辛辣!?」
「なんというか………愉快な人、だね」
ゾーヤがレナートの傍で零し、驚き混じりにグローザを見やる。ペテルヘイム高校の地獄を経ていない、ある種部外者である為、幼馴染であり友人でもある彼の近くが一番落ち着くのだろう。そんな彼女の評価を聞き、グローザは楽しそうに笑う。
「そりゃ、感染者だから―、って何時までも辛気臭い顔してたら、長生きできないし?昔、長生きの秘訣は笑顔だ、だの、若さの秘訣は笑顔だ、って言ってたしね。あと、父さんに教わった極東の諺に『病は気から』ってのがあるし、長生きしたいからには、ね?」
「それは嫌味ですか?」
「ああ、確かに嬢ちゃんとボスとじゃ、ボスのが若」
フロストノヴァ渾身の蹴りがヴェンデッタの脛を襲い、その場に崩れ落ち悶絶。絶対零度と困惑の二種の視線を受ける彼に構わず、グローザはフロストノヴァの頬を軽く指先で押し、笑みを形作らせる。そこには、年上としての配慮も見え隠れしている。
「ほらほら、笑う笑う。リーダーがいっつも辛気臭い顔じゃ、空気悪くなるよ~?」
「い、いや、いつもこんな顔をしている訳じゃ………!」
「………お姉さん、いい人だね」
「たりめぇだ。あの姉さんじゃなきゃ、今頃俺は生きちゃいないからな」
ようやく解放され、首を回しながら、レナートが笑う。どこか自慢げなそれに、ゾーヤは頬を緩める。そうして少し視線を動かしてみれば、あからさまに警戒する―――恐らく、というより確実に、出合頭の発言が原因だろう―――ソニアの体の影から、ラーダが心配そうにレナートを見つめる姿が目に入る。恐らく、矢が掌を貫通するところを見ていたからだろう。
「心配されてるね」
「別に、そこまで心配する事じゃないと思うけどなぁ」
「いや、掌風穴って普通に重傷だからね?」
「姉さん、腕に風穴も重傷ですよ」
どちらも、防御ミスでの負傷である。変なトコロで似た姉弟に呆れつつ、ゾーヤはふと浮かんだ疑問を口にする。
「その怪我、どうしたんですか?」
「ああ、これ?ちょっと油断してね~。お陰でタルラもメフィストも逃して、散々よ」
笑い、溜息を零す。
「そういう訳だから、これが終わり次第、また別々ね」
「………そう、ですか。いえ、今のレユニオンでは、姉さんとは相容れませんからね」
フロストノヴァの耳が垂れ下がり、表情と併せ全身で無念を示す。
「昔はこうでは無かったのですが」
「んー、となるとやっぱキナ臭いのは………っと」
何かに気付き、グローザが跳ぶ。純粋な脚力だけで一団の先頭へと躍り出た彼女が小走りで駆ければ、その意図を感じ取った者たちが、学生を先導してその背に続く。何事か、と訝しむ学生たちがその先導に続いた先には、見知らぬ服装で統一された集団が、街中を散策する姿が。
「ロドス!」
「ッ、誰………レユニオン!?」
警戒による緊張が奔る中、グローザとその部下たちは、一切構わず道をあける。その先の学生たちを目にしたロドス・アイランドのオペレーターたちの目の色が変わる中、リーダーのグローザは静かに彼らを見据え、口を開く。
「この子たちの保護、頼んでいいわね?」
「………信じていいんだな?」
「
「おば!?恐れ知らずだな、おい」
意味深な言葉と共に視線を巡らせたグローザは、素早く背後へと振り返り、静かに告げる。
「そういう訳だから、私たちとはここでお別れよ」
喜ぶ者は、不思議と居なかった。
「アンタらはどうすんだ?」
ソニアの問いへの反応は、綺麗にわかれた。
「私たちは傭兵よ。要は、その時々によってね」
「………我々は、レユニオンの一員として、出来る限りのことをするまでだ」
片や気楽に、片や厳かに、それぞれ別れて去っていく。
最後尾に居た弟の傍で立ち止まった姉は、微かな笑みを浮かべ、頭を撫でる。
「またね」
「………また、な」
いつかの再会を信じ、姉は軽い調子で、弟は感情を堪えて、軽いハイタッチを交わす。
その日、ウルサスの子供たちは地獄を脱した。
・レナート
スカルシュレッダーとキレ散らかし合い、ガチ殺し合い寸前まで行った子。
尚、蹴りは一応加減していた。でなければ余裕で胸ブチ抜いてるし………
そして、いつの間にか姉が増えていた()
・グローザ
実は妹(?)が増えていたガチ強お姉ちゃん。
・フロストノヴァ
グローザを姉と慕う、妹属性追加系レユニオン幹部。
初対面の彼女の弟相手に、うっかり自己紹介より先に姉扱いを求めたドジっ娘。お陰で学生たちからの認識が酷いことになり、部下たちは揃って頭を抱えた。グローザ相手には敬語で振舞うように、単純な信頼以上の感情を抱いている。