俺が転生特典で望んだものはカレイドステッキ 作:白黒パーカー
10話:宣戦布告『Iの登場/ターゲットは箱守?』
魔法少女になりたい。
燃えるような執念を胸に今日まで魔法少女を目指してきた。
そして、2度目の世界で魔法少女になったのだ。
——諦めてはいけない、手を伸ばせ。
なのに、なんで俺の心は焦っているのだろうか。
妄想と想像の狭間。ゴールはすでに越えたはずなのにスタート地点にすら立てていない気がする。
——理想は見えているのだから、目を逸らすな。
だから、俺は夢の中で
ほら、今も夢を見ている。
数多の星が彩られた黒い空。その下で舞い散る羽たちがやさしく桃色に光って、大地を照らしている。
その下の小高い丘。そこに背を向ける
——俺は魔法少女になれますか?
彼女みたいな魔法少女になれるのだろうか。届かないとわかっているのに問い続ける。彼女の名を呼び続ける。
いつか俺という存在に気づいて、振り返ってくれると信じて。
でも——、
たとえ振り返ることがあっても、彼女は俺のことを認めてくれるのだろうか?
『男なのに魔法少女』
もし、理想から拒絶されてしまったなら。
自身の心が夢に耐えきれなくなってしまったのなら。
その時、俺はどうなってしまうのだろうか?
★
『無事に退院できてよかったですね。ソースケさん』
「だからって、相澤先生の前であのテンションはやめろよな」
検査入院を経て、次の日のお昼休み。
俺はルビーと先程までのことを愚痴りながら雄英高校の廊下を歩いていた。
『別にはしゃいでただけじゃないですか』
「それがヤバいって言ってんだろ、このおバカステッキ。相澤先生のあの顔見ただろ」
『ミイラ男でしたね』
「ルビーのせいですげぇー怖かったんだよ!」
鳥肌のたつ腕をさする。
検査入院の結果を報告するため、学校にはお昼休みから来たけど。いや、ほんとに怖かった。職員室に行ったら出会い頭に相澤先生から睨まれるわ、USJでの出来事を合理性と正論のダブルパンチで怒られるわ。それなのにルビーは油に火を注ぐように先生と俺をおちょくろうとするし、散々だった。
ミッドナイト先生が途中で止めてくれなかったら胃がもたなかったよ。
『まぁ、相澤先生も悪気はないというか、優しさゆえのお説教でしたよね〜。生徒思いのいい先生じゃないですか』
「……まぁな」
生徒の身を預かる教師からすれば、今回のことは褒めるに褒められないことだったと思う。実際問題、自分でヴィランに突っ込んでおいて、瀕死状態になるとかヒーロー以前にひとりの人間として心配されるよな。
一応、除籍処分されてないから、今回の件は相澤先生の基準を下回ったわけじゃないだろうし。なにより原作を知ってるからこそ、相澤先生の言葉に優しさが込められていることにもすぐ気づけた。
「でも、俺の行動にも意味はあったんだよな」
『相澤先生の目ですか?』
「あぁ」
事件が終わり、原作の知識が戻ってきたからわかる。
相澤先生の傷が原作よりも少しだけ軽傷なのだ。もちろん軽いと言ってもほんの少しだけ。相変わらずミイラだけど、話を聞いている限りだと、個性の使用時間はインターバル含めケガをする前とあまり変わらないみたいだ。
「俺、魔法少女としてやれてるんだよな?」
立ち止まって手を握りしめる。確かに未来を変えた。自分を犠牲にしたとはいえ救えた命もある。
なのに俺の心はどこか不安でいっぱいだ。どうしたんだろ、俺。
そんな俺の様子にルビーが鼻(ないけど)で笑ってきた。
『はっ、なに言ってるんですか? ソースケさんは出会った最初からかわいらしい魔法少女ですよ! なんなら、今から変身しちゃいますか? 公開処刑ですよ〜』
「……や、やだよ。というか、意味もなく廊下で個性を使おうとするな」
『いいじゃないですか〜。魔法少女になったソースケさんは十分需要がありますから、意味ならバッチリありますよ!』
「意味わかんないこと言うなよっ ⁉︎」
ルビーがじりじりとにじり寄ってくる。
危機感を覚えた俺は後ろにあとずさる。数秒の沈黙。どちらもうごかない。
瞬間、ルビーが弾けるように俺目掛けて飛んできた!
『隙ありです!』
「見切った!」
わかっていたわ!
俺はしゃがむことで回避に成功。勝利を確信してしまった。ははは。ルビーにやられたこれまでの日々は無駄じゃなかったのだ。
「あいたっ⁉︎」
そして、後ろから聞こえる女の子の悲鳴。
は? あいた?
バッと後ろを振り向くとそこには、ルビーとぶつかったであろうオレンジ髪の女子生徒が頭を抱えていた。
やべ。冷や汗がダラダラと背中を流れる。
「大丈夫⁉︎ ケガしてない! というか、うちのルビーがぶつかってすいませんでしたー!」
『ルビーちゃんは悪くないと思うんですけど〜』
「こら、ルビー!」
「……あーうん。ちょっとだけ痛かったけど大丈夫だから。そんなに気にしなくていいよ」
全力で謝罪をすると、その女の子は片手をあげて大丈夫アピールをしてきた。そのまま俺に顔を向けると、目を開けて驚いたようにぽかんと口を開けた。
たぶん、俺も口をぽかんと開けている。
「あ、魔法少女くんだ」
「は?」
魔法少女くん?
唐突な呼び方に思わず、変な声が出てしまう。
「え、なんで俺のこと知ってるの?」
「それは、私も君と同じヒーロー科——」
「俺のファン?」
「いや、違うから」
真顔で否定された。違ったらしい。
まぁ、わかってたけどさ。なんなら、彼女が誰かも知っているまである。
「私はB組の
「ごめんなさい、俺サインとかまだ書けないんで……握手で我慢してください」
「だから、君のファンじゃないからね!?」
とはいえ、こうサクッと否定されるとちょっぴり俺の心が傷ついたので嫌がらせしておく。
あと彼女との出会いにテンパってしまって、ついやってしまった。彼女との会話はもっと後だと思っていたから。ごまかすためにベーっとベロを出しておく。
「はぁ……。君、もっとなよなよしてると思ったら意外としたたかだね」
『ルビーちゃんに似たんですね!』
「否定できないけどすごいヤダ」
呆れたような顔をする女子生徒。嬉しそうにステッキの柄をくねくねと揺らすルビー。浮かれていた。
「改めて、うちのルビーがぶつかってごめんね。A組の
「さっきの聞こえてたんじゃん。ていうか違うし。……ヒーロー科B組の
こんな雑な扱いをされても流してくれる。さすがB組の姉御肌、拳藤一佳。
「それで?なんで俺のこと知ってんだよ」
さっきから気になっていたことだ。原作知識があるから一方的に知っていても、拳藤が俺のことを知っているのはおかしい。
「だって私、箱守と同じ試験会場にいたからさ」
「あー、なるほど」
あの時に葉隠以外にも原作キャラがいたわけね。
魔法少女の転身で裸をさらけ出した羞恥心でいっぱいいっぱいだったから、気づけなかったのか。
『ということはソースケさんがスッポンポンになったところもバッチリ見られてますね』
「ルビー、余計なこと言うな。……あうっ。思い出すと恥ずかしい」
「やっぱり、なよなよしてる」
俺の反応にまた呆れたような顔をする拳藤。
仕方ないだろ。人前で裸になっても笑ってられる葉隠メンタルは、持ってないんだから。
「なるほどね。魔法少女の個性みたいだし
「あの子?」
拳藤がひとりで頷いている。
それは誰のことだろうか。んー、B組に魔法少女と相性の良い子とかいたっけ?
ファンシー路線で言うなら『キノコ』の個性を持っている
「それにしてもA組がヴィランに襲われたって聞いてたけど、大丈夫だったのか?」
「あー、まぁ、うん」
拳藤の言葉で意識が浮上する。ちょっとだけ返事がテキトーになってしまったけど気にした様子はなさそうだ。
『ソースケさん大活躍してましたよ!』
「へぇ、すごいじゃん」
すると、ルビーが俺たちの会話に乱入してきた。感心したようにあいづちをする拳藤。
『ドレスを着たり、水着になったりと大変でしたけどね〜』
「は?……ドレス、水着?」
首を傾げる拳藤。おっと、これは雲行きが怪しくなってきたぞ。
でも、ルビーは一言も嘘をついていない。
『浮き輪でヴィランの動きを止めてましたし、特に最後の姉ビームなんかは特に気合いも入ってましたよ!』
「……ほんとにヴィランに襲われてたんだよな?」
ルビーの言っていることはすべて本当のことなんです。
だから、拳藤さん。俺のことをそんな変人を見るような目で見ないで。
思わず、ため息をついてしまった。
雑談しながら歩いていたらA組の教室にたどり着いた。
「それじゃ、私はこっちだから」
「おう、じゃあね」
手を振ってB組の教室に入る拳藤と別れ、俺はA組のドアを開ける。
まだお昼だから全員はいないみたいだ。残っていた組の何人かが俺に気づいた。
「おぉ! 箱守じゃねぇか!」
最初に声をかけてくれたのは切島だった。それに続くように他のみんなも近づいてきた。
「箱守くん、体の方は大丈夫なの?」
「入院してたみたいだったけど、元気そうで良かった〜」
「あん時は助かったぜー!」
「あ、えっと……」
前世も今世も、大勢の人から声をかけられたことがないからなんて言えばいいかわからない。くそ、最近になって1体1のコミュニケーションになれたばっかりなのに。
ちょっとルビー。そこでクスクス笑ってないで助けろよ!
「箱守〜!」
「ケロ、心配してたわ」
心のエマージェンシーコールをルビーに送っていると、今度は峰田と梅雨ちゃんがそろって前に出てきた。
「箱守! あの時、オイラたちを助けてくれてありがとな!」
「ケロケロ」
峰田の熱いお礼。梅雨ちゃんも峰田の言葉に頷いている。
こう直接お礼を言われると、なんだか恥ずかしいな。お礼を言われるのはあんまり慣れてないや。
「別にお礼を言われるほどじゃないよ。それに、自分から突っ込んどいてやられちゃったし」
「何言ってんだよ! 箱守が来なかったらオイラたち死んでたかもしれないんだぞ⁉︎」
「そうよ。それに箱守ちゃんのおかげで相澤先生はもっとケガをしなくて済んだの」
『ソースケさん。お礼は素直に受けておくものですよ〜。タダよりありがたいものなんですから』
ルビーめ。助け船どころか泥舟を差し出してきやがって。
とはいえ、このままお礼を受け取らないのも失礼か。
熱くなる頬を無視して、2人の顔をじっと見る。2人も俺の目をじっと見つめ返してきた。
…………うっ。
「……そっか。それならどういたしまして、だね」
なんとか言えた。最後、顔を逸らしちゃったけど。
「わー、ソウスケくん照れてる〜」
「照れてないし」
「箱守って素直じゃないところ、女の子みたいでかわいいね!」
いつの間にか横にいた葉隠がそんなことを言いながら、頬をつついてくる。やめぃ。恥ずかしいから。
あと
周りの視線が急激に温かくなって、居心地が悪くなってきた。俺は自分の席に逃げるように座り込んだ。
そういうのは免疫がないから無理だよぉ
「ねぇ」
熱くなった顔を冷ましていると、ツンツンと背中をつつかれた。後ろを振り向くと耳郎がこちらを見ていた。
「……なに耳郎?」
「退院、おめでと」
尋ねるとぶっきらぼうにそう言ってきた。顔は逸らしてるけど、目はこちらを見ている。
なにそれ、耳郎ちゃんかわいすぎる。俺と同じで素直じゃないな〜。
「ありがとう」
「なに? なんでニヤついてるの」
「なんでもない」
同類を見つけたことにホッとしながら、なんでもないと答える。
ムッと睨まれた。
「ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
すると今度は耳郎が手招きをしてきた。
まだ何か言いたいことがあるのだろうか。
「なに?」
「……恥ずかしいから、ちょっと耳近づけて」
頬を染める耳郎。
なんだろう人に聞かれると恥ずかしいことって。俺の好きな筋肉の部位かな?
周りが不思議そうに俺たちのやり取りを見ている中、耳郎に近づき耳を傾けると、耳元に彼女の息がかかる。
「——さっきまで一緒にいた女って誰なの?」
耳郎の低い声。目線だけ耳郎に向けると、どことなく耳郎の瞳からハイライトが落ちてる気がした。
★
「うーん」
『ソースケさん、ひとりで唸ってどうしたんですか?』
ルビーが不思議そうに尋ねてきた。
今日はお昼から参戦だから授業もすぐ終わり、放課後になったわけだけど。
俺は腕を組んであることで悩んでいた。
「いや、ルビー。実はB組の21人目が気になってさ」
『あー、なるほど。A組もですけど今年度からヒーロー科の合格者が2人追加されましたもんね』
まだ教室にいるからルビーも言葉を濁してくれたが、俺が悩んでいる理由はそれだ。
本来、雄英高校のヒーロー科はA組B組2つ合わせて40人しかいない。けれど、俺が今いるヒーロー科は42人。ひとクラスに21人いるわけだ。
「明らかに俺が原因だよな?」
『そうでしょうねぇ。こんな中途半端な人数だと相澤先生が合理的じゃないって愚痴ってそうですし』
「だよなー」
おそらく、転生させたアイツが俺をこの学校に入れても原作キャラがあぶれないように人数調整したのだろう。どうやってやったのかは知らんけど。
「まぁ、となると問題は……」
『B組の21人目が誰なのか、ですね〜』
その生徒が俺と同じ転生者なのか、本来受からないはずのキャラクターなのか。後半はともかく前半は怖いなぁ。変な転生者じゃないといいけど。
「ななな、何ごとだぁ!?」
「出れねぇじゃん! 何しに来たんだよ!」
ドア付近で麗日と峰田がオーバーリアクション気味に叫んでいた。そこには他のクラスだろう見知らぬ生徒たちがたくさんいる。
「そういえばこんなイベントもあったっけ」
『体育祭編でしたっけ。楽しみですよね〜』
雄英高校体育祭。
オリンピックに代わるこの世界でのビッグイベントがもうすぐ始まるのだ。USJでの事件もあったからA組は大人気だ。
「なんだろー、あれ?」
「ヴィランに襲われたウチたちが気になるんじゃない?」
葉隠と耳郎も廊下の様子が気になっているみたいだ。
このやり取りを見ていると耳郎がマトモに見えてくる。
「なに?」
「別に」
俺の視線に気づいた耳郎がそう聞いてくる。変なこと言うとイヤホンコードで刺されるから首を横に振っておいた。
そんなやり取りをしている間に爆豪が他のクラスの生徒をモブ扱いしてA組へのヘイトを溜めていた。当然、そんなこと言われたら反論する生徒もいるわけで、個性がヴィラン向きで忌避されている
さらにB組の
うわ、マジでアレに関わりたくないよ。
というかやめてよな、爆豪。一応、体育祭の代表挨拶するの俺なんだからな?
絶対俺にもヘイト集まっちゃうじゃんか。
「ルビー、今日は大人しく帰ろうか」
「——うるさいわよ、
今日は大人しく家に帰ろうかな、なんてそそくさと鞄を片付けているとき。その声が聞こえた。それはどうしようもないほどに
「わりぃ。ついカッとなっちまってよ」
「まぁ、いいわ。それよりもそこをどいてちょうだい。あなたの体が大きくて私、通れないじゃない」
「お、おう。すまん」
鉄哲が申し訳なさそうに道を開けた。その少女の鋭利な冷たさは他の生徒も黙らせている。俺も動けない。
「わぁ、お人形さんみたいでかわいい!」
「箱守、あんた大丈夫?」
2人の声が聞こえてくるがなにを言っているのかわからない。
心臓の鼓動がうるさくて頭がガンガンと痛む。
生徒たちの合間を悠々と歩くあの少女から目が離せない。
「初めましてA組のみなさん。私の名前は
それは憧れの人と同じ名前。
いや、声も見た目もあのイリヤだ。なんで?
ここはヒロアカの世界で。もしかして転生者?
あれ、息が苦しい? 思考がまとまらない。
「A組の魔法少女は誰かしら?」
イリヤ(?)が教室を見渡すように質問した。相変わらずその声は冷たかった。
「魔法少女つーなら……」
「箱守だよな」
すると上鳴と佐藤の声が聞こえたような気がする。
それに反応するように彼女のその赤い目を俺に向けた。それだけの単純な行為なのに心臓が鷲掴みされたような感覚に襲われてしまう。
「へぇ……」
「ッ……!?」
目前までイリヤ(?)が近づいてくる。
「あなたが魔法少女。一佳の言ってた通り本当に男の子なのね」
くすくすと、幼い少女の容姿で笑っているはずなのにどこか妖艶で、赤い目が俺を捉えて続けている。
身長差もあり上目遣いに見ているはずなのに俺が見下ろされている気分だ。
そして、イリヤ(?)が微笑むのをやめた。
「あなたに言っておくわ。——私はあなたを自分と同じ魔法少女だなんて
それは拒絶とも言える宣戦布告だった。