GTA5の世界観を借りて作ったミステリー物です。GTA5を知らないと分からないので、知らない方は読まない方が良いかもしれません。
なお、本作品は近いうちに映像化します。

※相棒パロディというか、主人公二人のキャラは思いっきり相棒に影響受けてます。
相棒ファンの皆様に置かれましては、くれぐれも作者を包丁で刺さないようお願い致しますm(__)m

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grand theft auto

1

ロスサントスは、眠らない町である。昼夜問わずビル群には明かりが灯り、車はハイウェイを走り抜ける。

だが眠らないとは言うものの、夜になれば交通量は減る。

ましてや海上であれば日中でもボートや船が頻繁に行き交う事はないので、太陽が姿を隠せば、よりいっそう穏やかな表情を見せる。

そんな穏やかな海上を、一隻の大型クルーザーが滑るように進む。

クルーザーはパーマー・デイラー発電所の沖合で碇を降ろし、武装した二人組が荷物を背負い小型ボートに乗り込むべく、船内を移動する。

片割れが声を掛けた。

 

 

「抜かるなよ、何があるか分からんぞ」

「心配すーな、おららは場数を踏んじょーんだ」

 

 

1人がボートに乗り、もう一人に見守られながら発電所へ向かう。

 

武装した人物の眼前に立つ発電所は、郊外に建てられただけあって充分な広さを有している。

敷地内中央には、幾重にも張り巡らされたパイプ管。そこを伝う通路も、迷路のように入り組んでいる。

従業員用の駐車スペースも広く、およそ30台弱は止められるだろう。

パイプ管の張り巡らされた建物と通路を挟んだ外周には、小型の発電機や建物が建っている。

武装した人物は発電所の敷地内、発電機が並ぶ一角でギャングと会う。

 

 

「例のブツは何処だ」

「そげ焦ぇなよ、ちゃんと持ってきたじぇ」

 

 

急かすギャングを宥め、武装した人物は上空を見やる。通りかかった航空機から物資が投下され、二人の近くに着地した。

二人で物資の確認をしていたが、その光景を盗み見ていた若い警官が音を出してしまう。

 

 

「誰だっ!?」

「っ!」

 

 

音に気付いた二人はガトリングを取り出し、すぐさま迎撃態勢に入った。警官もハンドガンで応戦するが、銃弾の雨に撃たれ手も足も出ない。

催涙弾を投げ視界を遮った隙に建物の陰へ移動し、策を練ろうとする。

あの二人は何としても自分を抹殺しようとするだろうが、自分だって何としてもこのことを本部へ伝えなければならない。

陰から陰へ移動していたが、銃撃を聞きつけたギャングが二人の加勢に入ってしまう。

 

 

「ッ!」

 

 

挟み撃ちにされ、それでも反撃を辞めない警官。だが、彼が隠れた柱には爆弾が設置されていた。

そのことに気が付き逃げようとするも、今度は警官目掛けてロケットランチャーの砲弾が迫る。

 

 

(しまっ・・・!)

 

 

空気を切り裂く爆発音が、辺りに響いた。

 

2

 

前日まで降っていた雨も上がり、太陽が顔を覗かせる。東の空から差し込む日差しは窓から入り、室内を明るくした。

窓の外にはテラスとロスサントスの街並みが広がっており、白を基調にした室内が引き立つ。

広い部屋にはベッドとクローゼット、壁際に小型ラジオの置かれた棚というシンプルな作り。だがドアは二つあり、クローゼットの右側にあるドアの向こうはバスルームだ。

ベッドに寝ていた男は起き上がり、身なりを整え職場へと自家用車で向かう。

 

 

(確か、今日から配属先変わるんだったよな……)

 

 

私服で自宅を出た男は、職場である施設へと車を走らせる。通勤の際は服装の自由が認められているので、どんな格好でも良いのだ。

職場近くの駐車場に車を止め、歩いて施設の入り口へと向かう。

物々しい音と共に、地面と同化していた扉が上空へ跳ね上がる。操作パネルをタッチして扉を閉め、男は地下へと潜っていった。

 

 

(いつ見てもスゲー景色だな、ここは)

 

 

自嘲気味に笑い、周囲を見渡す。トラック競技場を思わせる作りの場所には、大型の戦闘車両がずらりと並ぶ。

スロープや階段で二階部分に上がることも出来、二階には車両が。一回には戦闘用の航空機が鎮座している。

ロッカーに私物を預け、職場での服装に着替え上司の元へ向かう。

スタイル部屋。デザイン部屋。ラウンジ。警備室。寝室スペース。

巨大スクリーンのある計画ルーム。サテライトキャノンという、衛星から爆撃する円形のモニターがある部屋。

他にも受付フロアやサーバールーム、オフィスからなり、主に上司が居るのはラウンジだ。

受付フロアを通り、全面ガラス貼りのラウンジに着く。テレビを見ていた上司は画面を消し、こちらを見た。入って来いという合図だ。

 

 

「失礼します」

「うむ、まぁ来たまえ」

「はい」

 

 

ソファーの傍に立ち、上司は消したテレビを見ながら言った。

 

 

「トータス。君が警察からこの特殊部隊”AJPS”に入隊して半年が建つ」

「はい、おかげさまで」

「そこでだ。研修の意味もかねて君を、特殊任務任命担当捜査係、通称”特命係”に配属する事になった」

「特命係……ですか?」

「あぁ、何事も経験だ。向こうにシダーという男が居る。彼には話をつけてあるから、今日からそこで勤務してくれ。

場所は君のスマホに送る。いいね?」

「はい、分かりました。失礼します」

 

 

敬礼をし、トータスはラウンジを後にした。

 

 

 

 

(えーと、ピルボックスヒルは……お、ここだ)

 

 

ロスサントス郡の中心部、ピルボックスヒルという場所に、メイズバンクタワーは存在する。

ビルの周囲には高速道路が走っており、コの字に囲まれたような形だ。

目を見張るほどの高いビル群に感心し、ビルに入る。エレベーターで目的の階に到着すると、すりガラスの両開きドアの向こうに受付デスクが見えた。

受付係らしき人物も見え、背後の壁には”特命係”と銘打った看板が掲げられている。

 

 

「……何だここは」

 

 

あまりの立派さに気後れし、ドアの中へ入るのを躊躇ってしまう。どうしたのもかと思っていると、一人の男がエレベーターから現れた。

男は、明らかに動揺しているトータスに声を掛ける。

 

 

「おや、この部屋に何かご用でしょうか?」

 

 

トータスは動揺したまま振り向き、声の主と対面する。

声の主は黒のスーツに身を包み、茶色の伊達メガネを着用。髪の毛は黒で、七三分けを崩したような髪型だ。

手元は見られたくないのか、指先まで覆う手袋をはめている。

トータスは部屋の住人だと思い、気を取り直して挨拶した。

 

 

「初めまして。今日から特命係の配属になったトータスと言います。よろしくお願いします!」

「そうでしたか、君が……話は聞いていますよ。特命係のシダーです。よろしく。

まぁ、立ち話も何ですから中へ入ってください」

「はい」

 

 

トータスが入り口で感じ取ったソレは間違いではなく、室内の設備も充実していた。

三台並んで置かれたノートパソコンと座席。ロスサントス全体を長方形にまとめたミニチュア模型は長テーブルに置かれており、テーブルを囲むように椅子もずらりと設置されている。

ベッドルームにはクローゼットもあり、シャワールームまであった。

大型テレビが置かれ、ソファーもある。その場所の隣にはデスクがあり、デスクトップパソコンがある。

デスクに着いたシダーに、トータスが訊ねる。

 

 

「シダーさん、ここって何する部署なんですか?特命係っていうくらいだし、秘密警察みたいなもんなんですかね。

あ、公には出来ない特別な任務を受けて動くとか?」

 

 

ウキウキしながら聞いたが、返ってきた答えは非情だった。

 

 

「そうでした、その説明がまだでしたねえ。

ここは特殊部隊でありながら、ロスサントス市警が扱えない事件を、独自に調査する権限を持つ部署です。最も、部隊として出動する機会は少ないのですが」

「……つまり窓際ってことですか?」

「まぁ、平たく言えばそういうことです」

「まじかよ……俺今朝AJPSからここに行くよう言われたんですよ?

左遷じゃねーかよー」

 

 

力なくテスクの向かいにある椅子に座るトータスを、シダーは立ち上がりながら励ました。

 

 

「そう落ち込むことはありませんよ。確かに窓際ではありますが、事件に大きいも小さいもありません」

「そりゃそうですけど……」

「トータス君、ロスサントスがどういう島か知ってますか?」

「え? そりゃあ勿論。

治安が悪いから市警は常に駆り出されて人手がいくらあっても足りない状況だし、戦車や武装ヘリが出動するのも日常茶飯事ですよ。

だから俺も警察から勝手に推薦されて、AJPSに所属してる訳ですし」

「えぇ、その通りです。だからこそ、ここは市警や軍隊には出来ない事が出来ます」

「例えばどんなのですか?」

「巡回です。行きましょう」

「完全に駐在所じゃないっすか……」

 

 

歩き去ったシダーを、駆け足で追いかけ部屋を出た。

 

3

 

バインウッド・ヒルズには、急傾斜を利用して建てられた住宅街がある。敷地はさほど広くないが、テラスからロスサントスの街並みが見渡せるため、入居待ちが後を絶たない状況だ。

その一角には簡素だが公園もあり、健康のためか運動している人も見受けられる。

特命係は住宅街を車で巡回していたが、公園の入り口に立っていた女性はこちらを見ると指をさした。

車を止めながら、トータスが呟く。

 

 

「お、どうしたんですかね」

「行ってみましょうか」

 

 

路肩に乗り上げて停車し、車から降りトータスが声をかける。

 

 

「どうかしましたか?」

「あ、すみません。コンタクト落としちゃって……良かったら探してもらえないかなって」

「……」

 

 

お巡りさんに格下げされた事を実感し、内心で落ち込むトータスは返答につまる。変わって、後ろからシダーが返事をした。

 

 

「ええ、我々で良ければ協力させて頂きます」

「ホントですか? ありがとうございますー!」

 

 

俺なんか悪いことしたかなぁ。

コンタクト探しをする二人という微笑ましい光景を前に、トータスの胸中は荒んでいた。

 

15分ほど探してようやく見つけたが、女性は何かを思い出し、シダーに軽く笑いながら言った。

 

 

「あっ」

「どうかされましたか?」

「いや、よく考えたら家すぐそこだし予備あったの忘れてました」

「おや、そうでしたか」

「いやホントごめんなさい。あ、じゃあこれもう必要ないですね。ありがとうございましたー」

 

 

悪いと思っているのか、女性は小走りで去っていく。姿が見えなくなるまで見届け、シダーは車に戻った。

 

 

「さぁ、巡回を続けますよ」

「何だよ、こちとら一生懸命探したってのに……」

「まぁまぁ、市民の安全を守るのが我々の仕事ですから」

 

 

 

 

報告も兼ねて、特命係は一度本部へ向かう。所用を済ませ駐在所へ戻ろうとしたのだが、警備室に複数人の”AJPS”が集まっていた。

 

 

「シダーさん、アレ……」

「気になりますねえ、ちょっと行ってみましょうか」

 

 

警備室に入ると、トータスを見つけたオースティンが皮肉を込めて声をかけた。

 

 

「これはこれは、特命係のトータスじゃないか。何の用だ?」

「おや、知り合いですか?」

「ええ、同期なんです」

 

 

シダーの問いに答え、オースティンに悪態をつく。

 

 

「うるせえ、廊下までテメーの喧しい声が漏れてたから注意しにきただけだ。何をそんなに騒いでやがる」

「何だとコラ」

「喧しいかどうかはさておき、警備室にAJPSの皆さんが集まっているのは私も気になります。

お聞かせ願えませんかねえ」

「特命係には関係ないことだ」

「そうでしたか。その割には皆さん、困ってらっしゃるように見えるのですが」

「……ちっ」

 

 

オースティンが目で合図を送り、他の面々が一歩下がる。すると、部隊に囲まれていたのは一人の民間人だった。

オースティンは中央のテーブルから離れ、窓際のデスクトップパソコンが置かれたテーブルに向かう。

パソコンを操作しながら説明した。

 

 

「昨日の深夜、ロスサントス市警に通報が入った。パーマー・デイラー発電所で大規模な銃撃戦があったらしい。

殺されたのはそこを仕切るギャングの一味数名と、若い警官が一名。

深夜だったのと幹線道路から離れていた事もあり、通報と警察の到着が遅れてしまった。現場に残ってたのは死体と血痕、それと爆発に使用された物の破片くらいだ」

「誰も居なかったのですか?」

「犯人らしき人物は居なかったが、爆発音がした後、現場から去る一台の車を見たという目撃情報は入った。

鑑識に調べさせ、現場で使用された銃火器はガトリング銃とロケットランチャー、それとハンドガンだと判明してる。

現場のタイヤ痕を調べると証言と一致してな、指紋も確認できた。

 

車の持ち主は、ロスサントス郡に住むアーサック・グランド。車の荷台からはガトリング銃とロケットランチャーが発見され、現場に残っていた指紋と一致した。

車のGPSも辿ってみたが、銃撃戦があった時刻には現場に居た」

「一件落着……ではないのですね?」

「あぁ。それについては本人から聞いてくれ」

 

 

部隊の面々に囲まれたアーサックは、シダーを見て懇願するように証言した。

 

 

「リサと一緒にベッドで寝てた筈なのに、気が付いたら車内に居たんだ。服装も変わってた」

「それが、第三者によるものだと。そう仰りたいのですね?」

「その通りだ。頼む、信じてくれ。誰かに連れ去られてあそこに行ったんだ。俺の意思じゃない」

「そうですか。オースティンさん」

 

 

パソコンに向かうオースティンに視線を送る。だが、オースティンは振り向くことなく答えた。

 

 

「ソイツの証言も一緒だ。夫と一緒にベッドへ入ったのに、朝起きたら車に居たと言ってる。

車の指紋も調べたが、夫妻以外のは検出されなかった。

爆発に使用された粘着爆弾の破片に指紋は無い。頼りになるのは現場の監視カメラだが、ハッキングされたのか動いていなかった」

「それで何故、皆さん頭を抱えるほど困っていたのですか?」

「お前だって分かってるだろ? 条件が揃い過ぎてる。

そもそも若い警官とアーサックに関係性はなく、グランド夫妻の交友関係にも、ギャングと繋がっていそうな人物は居なかったんだ」

「つまり、誰かがアーサックさんを犯人に仕立て上げようとしている」

 

 

オースティンがパソコンから離れ、シダーの方へ向き直って言う。

 

 

「そういうことだ。だからロスサントス市警が捜査に乗り出そうとしたんだが、知っての通り被害が大きい。

捜査をしようにも手が回らないってことでコッチに回されたんだが、我々も暇じゃないんでな。

というわけで、この事件を捜査できるほど暇なお前らに任せる事になった」

「おや、捜査権を与えて頂けるのですか?」

「今回は特例だ、何せ上からのお達しだからな。

”今回の事件は明らかに犯人からの宣戦布告だ。捕まえれるものなら捕まえてみろ、そう言っているも同然。

必ず犯人を捕らえ、警察組織の恐ろしさを思い知らせてやれ”

だそうだ。せいぜい頑張れよ。特命係」

「分かりました。トータス君、行きましょう」

「はい!」

 

4

 

車を走らせ、特命係はロスサントス郡にあるグランド夫妻の家を訊ねる。

リサは高級マンションの一室に住んでおり、車から降りたトータスはマンションを見上げながら率直な感想を述べた。

 

 

「へー、こんなトコ住んでんのか。あの夫婦金持ちなんですね」

「そうですねえ、ロスサントスでも一二を争う高級マンションですから」

 

 

正面玄関に設置されたインターホンを押し、応答を待つ。画面越しに警察だと分かったのか、リサは何も言わずに所属と名前を名乗った二人を家に招き入れた。

部屋に入り、出迎えたリサが言う。

 

 

「警察の方が何の用ですか? というか、夫はどうなったの?」

 

 

嫌がっていることを全面に押し出した声で聞くが、シダーは冷静に答えた。

 

 

「身柄を確保した状況ではありますが、どうも我々にはアーサックさんがやったと思えないのです」

「じゃあなに、無罪ってこと?」

「それを証明する為に伺った次第です。良ければアーサックさんの事をお聞かせ願えないでしょうか」

「……分かった、話すから着いてきて」

 

 

大型テレビのある部屋に通され、三人はL字型のソファーに腰かける。リサは机を見つめながら、淡々と語りだした。

 

 

「私達、ブレイン郡生まれなの。

物心ついた時には二人とも両親が居なくてね、親戚に預けられて育ったの。

戦争で死んだって聞かされたからそういうものだと思ったし、顔も名前も知らないから寂しさとかは無かったわ。

二人とも家が近かったし境遇が同じだったのもあって、ほぼ毎日一緒に遊んでたかな」

「学校は行かなかったんですか?」

 

 

口をついて出たトータスの問いに、リサは小馬鹿にしつつ答えた。

 

 

「あなた、ロスサントスに来て日が浅いの?

ここで学校と呼べる建物はLS大学くらいよ。小学校から大学まで一貫してるんだけど、ブレイン郡からだと通えないのよ。

学費は公立だから無料だしスクールバスもお金は要らないけど、バスの移動範囲はロスサントス郡だけ。ブレイン郡までは来ないの。

だから通信教育って形で通ったのよ。家で授業受けるから通学時間が無いし、暇な時はずっと一緒だったから」

 

 

そこまで語ると、リサは話すのを止めた。座る体勢を変え、再び口を開く。

話しにくい事なのか、テレビをつけた上でだ。

 

 

「お互い高校に上がってからかな。家を出てロスサントス郡で暮らし始めた頃にね、ネットで調べものしてたら記事が見つかったの。

夫のお爺ちゃんが元は軍人だったって、戦歴みたいなのと一緒に書いてあったわ。

一週間後にはサイトが消えてたから、誰が書いたのかは分かんない。でもホントに詳しく書いてあって、その中に……その……」

 

 

明らかに言葉につまるリサを見て、シダーが言う。

 

 

「喋りにくいことでしたら、無理なさらなくても構いませんよ」

「……私達の両親が、お爺ちゃんに殺された事件があったの。

調べて初めて分かったんだけど、私達の親はロスサントスに来る前から仲が良かったみたい。

お互いの両親が観光でロスサントスに来て、私達はベビーシッターに預けてたんだって」

 

 

初めての土地だからと四人で路面電車に乗り景色を楽しんでいると、駅から乗り込んだ数名がテロリストだったという。

ロスサントスを周回するコースなので逃げられないよう各地に部隊を配備させるのは容易だったが、人質が乗っているので射殺が難しい。

当然ながら反撃される為、事件の解決は長引くと思われた。

そこで駅が見下ろせる建物の屋上に、当時ロスサントスの死神と称された傭兵、アーサックの祖父であるアーサー・グランドが配備された。

電車から迎撃していた数名の射殺を試みたが、車内に仕掛けられた爆弾に当たり人質もろとも死なせてしまったのだ。

 

 

「読んだ時は腸が煮えくり返ったし、許せないって思いが確かにあった。だから夫にも話して、二人で問い詰めに行ったの」

 

 

ブレイン郡に住む祖父の家に行き、アーサックは祖父を壁際まで追い詰める。

 

 

「おい、この記事どういうことだよ! アンタが殺ったのか!?」

「……」

「沈黙は肯定と受け取るぞ」

 

 

それでも尚、アーサーは言葉を発しない。

本当に目の前の人物が自身の両親を殺したのだと実感し、アーサックは目を合わせようとしない祖父に言い放った。

 

 

「今まで俺を育てたのも、罪滅ぼしだったのか」

「……すまん」

「ッ、いいか? 二度と俺達の前にそのツラ見せんなよ。人殺しはここで埃被って死んどけ」

 

 

背を向けて立ち去るアーサックを見て、リサも冷たく言い放ち後を追った。

 

 

「さようなら、殺人犯のアーサー・グランドさん」

 

 

二人が去った薄暗い部屋には、重く冷たい空気が漂った。

 

その後アーサックは祖父の経歴を調べ、彼が軍を辞めた後、ロスサントスに移住し島の発展に力を注いでいた事が分かった。

ロスサントスの各地で見られる建設中の建物も、彼が携わった事業の一部だという。

だが、調べていくうちに何度か不祥事を起こした事も判明した。交通事故から始まり、突然の発砲。更には企業のデータを盗み売却しており、当時を知る人物のインタビュー記事にも

 

「まるで人が変わったようだった」

 

と、複数人の記事で同じ事が書かれていた。

別な記事ではアーサーがギャングに武器の輸入ルートを横流ししたとあり、アーサックは祖父が代表を務めるパーマー・デイラー発電所を初めとした企業などを訴えた。

自宅へ来た警察に連行される祖父を見届けながら、アーサックは呟く。

 

 

「あんな人殺しに、社会的地位なんか与えるもんか。根こそぎ奪ってやる」

 

 

当時を振り返り、リサはテレビを見ながら言う。

 

 

「そうやって刑務所に送られたお爺ちゃんは、展開してた新事業とかも含めて全部失ったって訳。

だから私達は気が済んだんだけど、残した爪痕が大きくてね。

アイツのせいでこの島には武装したギャングがはびこってるんだし、アイツは議会に居た時に、リバティーシティからの移民を受け入れようと提案した。

そんなだから、私達みたいな善良な一般市民は夜も眠れない日があるのよ」

 

 

一度に喋ったからか、リサは立ち上がりキッチンへ飲み物を飲みに行く。トータスは沈黙していたが、シダーは立ち上がりテレビの横に設置されたスピーカーを眺めに近寄った。

 

 

「……?」

 

 

不思議に思っていると、ネットラジオと繋がっているのか曲が流れてきた。

それを聞きながら裏面の配線などをチェックしていた所へリサが戻ってきたので、注意してきた本人に尋ねる。

 

 

「ちょっと、勝手に触らないでよ」

「申し訳ございません。しかし、随分と高級なスピーカーですねえ。リサさんの物ですか?」

「私じゃないわ、どうせ夫の趣味でしょ。あの人変な物に熱中するから」

「そうでしたか。オーディオ好きなもので、つい眺めてしまいました」

「もういいでしょ、話せること話したから帰ってよ。今から出かけなくちゃいけないんだし」

「これは失礼。お時間を割いて頂いて、どうもありがとうございました」

 

5

 

 

薄暗い部屋で、アーサーは目の前の老人に話しかける。

 

 

「今まで、本当にすまんかった」

「ごっと終わったら、二人で光を見に行けぇ」

「あぁ、勿論じゃ。約束は果たすぞ」

 

6

 

リサの家を後にした特命係は、その足で本部へと向かう。

警備室のパソコンを使い、アーサー・グランドの資料をスマホへ転送しつつ頭に入れる。

 

アーサー・グランド。1941年、12月1日生まれ。

軍の入隊試験で満点を取り、2年6か月に渡る訓練では最後まで表情を崩さず合格した。

彼の両親が第二次世界大戦を生き延びた兵士だったからか、銃火器などの扱いに長けており、頭も切れる人物だった。

1962年の初代が行った任務から参加。敵軍に包囲され始まった24時間に及ぶ攻防では、総督並びにその家族、自身の部隊も含め全員で生還。

単独で反政府武装勢力兵を壊滅状態に追い込み、救出作戦でも活躍した。

数々の前線で活躍したにも関わらず、一切の負傷を負わずに退役。

 

シダーが読み上げたアーサーの経歴を聞き、トータスが訊ねる。

 

 

「そんだけ活躍した人なら、何でメディアの露出が無いんですか?」

「当人が断ったそうです。自身が従事した任務や作戦の一切を公表しないと。だから彼がどのような事をしたのかは、ここにしか残っていないのでしょう」

「じゃあ昔のアーサーさんを知ってる人は無しか……」

 

 

落ち込むトータスへ向き直り、シダーが言う。

 

 

「トータス君、大事な事を忘れていませんか?」

「え?」

「軍人だったアーサーさんを知る人は居ませんが、その後の彼を知ってる人が居るじゃないですか」

「……あ、発電所の従業員か」

「ええ、行きましょう」

 

 

 

 

爆弾まで使用されたにも関わらず、現場には一切の痕跡が残っていなかった。従業員も普通に働いており、この島で銃撃戦は日常茶飯事だと改めて実感する。

正面の入り口には警備員も居たが、雇われたばかりで内情は知らないという。

敷地内を歩いていた作業員に話を聞くと、彼は事情を知っていた。歩きながら話す。

 

 

「刑事さん達の言う通りさ。

普段は温厚というか優しいというか、ミスをしても怒らないで改善点を指摘する人だったんだよ。

底抜けに明るいって訳じゃないんだけど、人並みに笑うし冗談も言うんだ。だから現場でも頼りになる人だった。

でも一方で、公金横領だったり武器の輸入ルートをギャングに横流ししたのも事実だ。

見た目はアーサーなんだけどさ、人が変わったというか……別人にさえ見えたんだよ。

酷く冷酷でね、虫を殺す感覚で人を殺しそうな雰囲気があった」

「当時、彼が何をしていたのか、ご存じないでしょうか?」

「噂じゃ会社の金を横領してヤバイ物に手を出してたらしいよ。でも事実は上層部がもみ消しちゃったから、知ってるのは社長かアーサーくらいさ」

「そうでしたか、どうもありがとうございました」

 

 

シダーは作業員に礼を言い、踵を返し車へと戻る。トータスも、後に続きながら言った。

 

 

「何か変わった人だったんすね、アーサーって人」

「……」

「シダーさん? どうかしたんですか?」

「もしかしたら我々は、大事な事を見落としてるのかも知れません」

「大事なこと?」

「トータス君。本部へ行って、アーサーさんが利用した病院がないか調べて下さい。生まれた病院でも構いません」

「シダーさんは?」

「僕も少し、駐在所で調べたい事があります」

 

7

 

トータスが本部へ行き調べものをしていると、作戦指令室へ集合するAJPSの面々が見えた。

出撃要請が出たのだろうが、移動となった自分には関係のないことだ。

そう片付け本部を去ろうとしたが、作戦指令室から出て来たオースティンに呼び止められた。

 

 

「トータス! お前も来い!」

「はぁ?」

「リサが何者かに攫われた!」

「ッ!?」

 

 

駆け足で指令室へ向かいながら、駐在所へ戻っていたシダーに連絡する。

 

 

「はい、シダーです」

「シダーさん、マズいです。リサさんが攫われました。家から出たところで車に乗せられたそうです」

「どこへ向かったか分かりますか?」

「目撃者の話では、バインウッド・ヒルズを北上していったそうです。ブレイン郡の何処かなのは間違いないかと。

オースティン曰くリサさんを乗せた車のナンバーも調べましたが、盗難車でした。

行き先は不明ですが、玄関の傍にメモが残されてたそうです。今そっちに送ります」

 

 

トータスからメモの写真が届き、読み上げる。

 

 

「熱と化学物質を使って作る髪のウェーブが、四輪で走る販売業者の心をエレクトロに変える。水蒸気が氷の結晶となる時、奪われた全てを取り返すだろう……なるほど」

「えっ、もう分かったんですか?」

「熱と化学物質を使って作る髪のウェーブ、これはパーマを意味します。四輪で走る販売業者はカーディーラーを示す言葉。

エレクトロに変えるのは発電所のことでしょう」

「じゃあパーマー・デイラー発電所に居るんですね?」

「ええ……ですが、最後の一文が気になります。僕は後から追いかけます。トータス君は、AJPSと共に発電所へ向かってください」

「分かりました!」

 

 

通話を切り、トータスはAJPSの面々と共に装甲車へ乗り現地へ向かう。スナイパーのオースティンはヘリだ。

発電所に到着した部隊がギャングを殲滅しにかかる最中、シダーも遅れて車を走らせていた。

ハイウェイを飛ばして向かい、頭の中で情報を整理する。

 

 

「……ッ、僕としたことが」

 

 

ギャングと交戦になっているトータスに、シダーから電話が掛かる。物陰に隠れ、銃撃音にかき消されない声で出た。

 

 

「はい、トータスです」

{トータス君、そこにリサさんは居ません}

「居ない!? どういうことですか?」

{アーサーさんが逮捕された日、彼はサンディ海岸での建設計画に着手していました。

そこでアーサックさんから通報を受けた警察が到着し、逮捕されています}

「でも、メモには発電所って書いてたじゃないすか」

{重要なのは次の文章です。メモに書かれた水蒸気が氷の結晶となる時、これは雪が降る時期を指します。

アーサーさんが孫の目の前で逮捕されたのは、12月1日。場所はサンディ海岸のマリーナ・ドライブ付近です}

「じゃあそこに居るんですね?」

{その可能性が高いでしょう。急いで下さい}

「はい!」

 

 

通話を切り、ギャングを殲滅した後にサンディ海岸へと向かう。一足早く現場に到着したシダーはリサの乗せられた車を見つけるも、相手が警察に気付き立ち去ってしまった。

後を追おうとするが、ギャングに阻まれ追跡が出来ない。

物陰に隠れている所へオースティン達が合流し、発砲許可のあるAJPSが抵抗するギャングを射殺していく。

 

リサが乗せられている車を追い、その場に居るギャングと応戦し、再び車を追いかける。この一連を二回ほど繰り返し、ようやく車を確保した。

火薬の臭いが立ち込める中を走り、いくらか弾丸を浴びた車へ近寄る。

銃撃が止んだと分かったのか、後部座席に居たリサは車を降りこちらに走ってきた。リサの無事を確認すると同時に、オースティンが運転席のドアを開け銃を突きつける。

 

 

「動くな。誘拐および銃規制強化条令違反で逮捕する」

「……」

「抵抗するなら公務執行妨害も付けるぞ」

 

 

オースティンに言われ、運転していた男は黙ったまま降りる。AJPSの面々は冷静に男を包囲していたが、トータスは男を見て声を上げた。

 

 

「シダーさん! こいつアーサーじゃありません!」

「やはり陽動でしたか」

 

 

それを聞き、オースティンが男に銃を突きつけたまま訊ねた。

 

 

「おい、どういうことだ」

「非通知の電話で頼まれたんです。口座に金を振り込むから、リサって人を誘拐してここまで連れてこいって。

方言が入ってて聞き取りにくかったけど、確認したらホントに金入ってたから」

「方言……」

 

 

シダーは確かめるように呟き、自身のスマホに着信が入った。

 

 

「はい、シダーです」

{シダーさん、頼まれていた物のデータが出ました。そちらに送信します}

「そうでしたか、どうもありがとう」

 

 

データを確認し、携帯を収め歩き出す。

 

 

「オースティンさん、そちらはお任せしても良いでしょうか」

「何処へ行くんだ」

「この事件を引き起こした、張本人の元です。トータス君、行きましょう」

「分かりました」

 

8

 

太陽が西の空へ沈んでいき、夜が少しずつ現れる時刻。特命係は、アラモ海を見渡せる展望台に来ていた。

先客は特命係の存在に気が付いたが、振り返らず景色を眺めている。

車から降りて歩み寄り、シダーが声を掛けた。

 

 

「やはり、ここに居ましたか」

「……」

「少し、お時間いただいてもよろしいでしょうか。アーサー・グランドさん」

「……何の用じゃね」

「最初にパーマー・デイラー発電所で事件が起こってから、我々は疑問を抱いていました。アーサックさんが逮捕されるには、あまりにも証拠が揃っている。

まるで誰かが、彼を逮捕させたがっているようだと。

リサさんにお話を伺ったところ、アーサーさんはお孫さんのご両親が巻き込まれたテロ事件でミスを犯し、テロリストもろとも人質を死なせてしまったと仰いました。

それは当時の新聞にも載っています。確かに貴方は、人質を全員助ける事は出来ませんでした。

 

軍を退いた後、あなたはこのロスサントスに移り、島の発展に力を注ぎました。

軍の筆記試験を満点で合格するほど、軍人にするには惜しいくらい頭の良かった貴方です。開発計画も順調に進み、周囲から慕われる存在になっていたことでしょう。

ところが、あなたはまたしてもミスを犯してしまいます。

ギャングへの銃火器輸入ルートを作り上げ、麻薬などのドラッグが庶民でも手に入りやすいよう裏で指示。

2013年には移民の受け入れを許可したことで、治安の悪さに拍車をかけ、州警察の被害も大きくなっていきました。

まるで別人のようだったと、誰もが口を揃えて証言しています。

ですが、これらは本当にアーサーさんがやった事なのでしょうか?」

「……」

「アメリカ合衆国の出生届を調べたところ、アーサーさんが生まれた年には、あなたの他に別な方が登録されていました。

その方はアーサーさんとそっくりで、声も似ていたそうです」

「何が言いたいんじゃ?」

「アーサックさんは自宅を購入される際、祖父である貴方の申し出を断り、リサさんと二人で購入しました。

そのため、家にある調度品は全てリサさんかアーサックさんの物。テレビの傍に配置されていたスピーカーも、夫の趣味だと仰ってました。

一度この目で拝見しましたが、実に良い物ですねえ。

 

設置されたスピーカーは、97年にウエイブコアから発売されたペーパーグラスファイバー製ユニットの試作品でした。エンクロージャーも化学合成の接着剤が8%、天然乾燥のフィンランドバーチが62%使用された積層合板が使われている事から、かなり性能の良い物であることが分かります。

ですが、どうしても気になる点がありました。

サランネットもなく、スピーカーユニットに埃がたまっていたのです」

「え、それ問題ですか?」

「ええ。そればかりか、中音域に妙なピークがありました。

あのスピーカーは、本当にオーディオが好きなアーサックさんが購入したのでしょうか?」

「……」

 

 

押し黙るアーサーを見て、更に続ける。

 

 

「ご存じの通り。音は、空気が振動することで伝わります。

その音を発するスピーカーは、空気を振動させるためにスピーカーユニットを動かします。

つまりユニットが動くと、空気と同時にスピーカーの筐体も振動します。

彼が本当にオーディオ好きで、スピーカーの性能を高めたいと思っているのなら。

設置面のフローリングに振動を伝えないよう、インシュレーターは必要です。

ですが、彼はそれをしていなかった。そればかりか配線を間違え、位相が起こっていました。

 

彼の家を訪問した際、偶然にもネットラジオで、サバイバーの"バーニング・ハート"が流れました。

ところが懐かしさで耳を傾けようとしても、音像定位が狂うのです。

リサさんに訊ねたところ、彼女は"朝起きたらあった"という言葉を使いました。

すなわち、スピーカーを手に入れた経緯は知らないということです。

あんな大きなスピーカーが、家に運ばれる光景を、彼女は見ていなかった」

 

 

シダーから視線を向けられ、トータスが言う。

 

 

「鑑識に調べさせたが、スピーカーから検出された指紋はアンタのと一致しました。

販売元も、アーサー・グランドに売ったと言ってます。

そして配線を間違え、ネットワークが外されたスピーカー内部から封筒が出てきました。

送り主はアーク・グランド。アンタの弟からです。

1965年、ドミニカ共和国の内戦で戦死した」

 

 

その言葉を聞き、アーサーは初めて声を荒げた。

 

 

「死んだ!? 嘘じゃ! 現に弟は、今もワシの隣におるじゃろうが!」

「……俺には見えません。シダーさんは?」

「残念ながら。私の目の前に居るのは、アーサーさんだけです」

「弟は死んでなどおらん! 奴はあの日、無事にアメリカまで帰ってきた!」

 

 

弟の生存を必死に主張するアーサーに対し、シダーはスマホを取り出し、アーサックの残した遺書を読む。

 

 

「兄貴へ。

言わなくても分かってるだろうけど、俺達は明日、ドミニカ共和国の内戦に参加しに行く。

銃弾、怒号、悲鳴が飛び交い、火薬と腐乱臭の蔓延する場所へ、向かうことになる。

もう何度も言ってることだが、改めて言わせてくれ。俺は兄貴と違う。

頭の悪い体力バカ、それが俺だ。アンタも知ってる通り、気の弱い天文オタクなんてのは学校じゃイジメの対象だ。両親は人種差別で命を落とし、残された俺達は白人の元へ預けられた。

世の中の全てが敵だったあの状況で、夜を彩る星と兄貴だけが、何よりの救いだった。

だが兄貴と違い個性も自信も無い俺に、アンタの言う幸せになれる未来なんか見えなかった。

誰にも迷惑掛けることなく死ねる環境を探していた時、兄貴に励まされ憧れたのもあって、軍に入隊しようと思ったんだ。

 

お互い二十歳で片田舎の警察官になった時。

警察学校の偉い人から指名されてさ、長い入隊試験受けたよな。

兄貴は楽に突破してたけど、俺は必死こいて合格した。全ては合法的に死ぬためだ。

ここまで随分と苦労させられた。何度も死のうと思った。その度に兄貴に励まされ助けられ、スゲー嬉しかったよ。

愛情に飢え、絞り出すように泣き叫んだ心を、アンタだけが包み込んでくれた。

でも、苦痛はずっと消えなかった。だから明日、人生を終わらせに行く。

 

兄貴。後世に遺伝子を残すべきなのは、俺みたいな屑じゃない。アンタのような優れた人間こそ、命を繋ぎ、未来を生きるべきなんだ。

この作戦が終わったら、彼女にプロポーズするんだろ? だったら、必ず生き延びなきゃ駄目だ。

今の俺があるのは、アンタのおかげだ。色々とありがとな。

 

アンタの弟、アーク・グランドより」

「止めろ……止めてくれ……」

 

 

アーサーの発した言葉は、夜の闇に消えていく。

彼の記憶に住んでいたアークが、抜け落ちていくのを理解したのだ。全ては、壊れた心が産み出した幻影だったと。

重たい静寂のなか、シダーが呟いた。

 

 

「封筒から検出された指紋は、アーサーさんと一致しています。

遺書と一緒に入っていた鍵も貴方の物だと判明したので、勝手に調べさせて頂きました。

アーサックさんの移送に使用された手袋。

発電所で使用した、ガトリング銃とロケットランチャー。

あなたが犯人だと裏付ける証拠品が、綺麗に整頓された状態で発見されました。

見つけてくれと言わんばかりに」

 

 

身体のふらつくアーサーに、トータスが言う。

 

 

「本当は、気づいて欲しかったんじゃないですか? 

アンタは二重人格なんかじゃない。弟の死を受け入れられないから、無理して彼を演じただけだ。

まだ生きてるんだって、自分に言い聞かせるために。

でもアンタが演じたのは、冷酷で非道な、アークさんとは程遠い人間。全てを壊そうとする、ただのテロリスト。

どうして、残された物も手放そうとした」

「……ワシは、人殺しじゃ。復讐に、アーサックを利用した。

何を言われても、仕方がないのじゃ」

「だったら何で…!」

「この国に、恨みがある!」

 

 

ふらつきの収まったアーサーが催涙弾を投げ、二人は後退してしまう。

そのまま傍に止めている翼の生えたバイクで走り出し、展望台の下を走る貨物列車に飛び乗った。

二人は車に乗り込み後を追おうとするも、銃弾が迫ってくるため容易に近づけない。

トータスが無線を取る。

 

 

「オースティン!」

{あぁ、話は聞かせてもらった。我々は奴の無力化を最優先で動く。お前らは奴を見張っておいてくれ}

「了解、頼むぞ!」

 

 

貨物列車から銃撃する者が居ると通報が入り、LSPDがアーサーを追う。だが、ありとあらゆる武器で反撃され、警察官の死体が増えていく。

アーサーの上空を飛ぶ警察ヘリが墜落させられるので、オースティンも狙撃体勢に入れないのだ。

貨物列車の背後で車を運転する特命係に、オースティンから無線が入る。

 

 

{トータス。市街地に入るまでに奴を止めろ}

「何かあんのか?」

{このロスサントスには特殊な法律がある。移民の受け入れに伴う治安の悪化により、確実に市民の安全を確保する必要がある。

だから例え緊急事態だろうと、電車や列車の通る地下道には車の侵入が許されていないんだ}

「おいおい、そんなのありかよ」

 

 

そこへ、ハンドルを握っているシダーが口を挟む。

 

 

「正式名称は鉄道営業法と言い、施行されたのは2013年。提案者は、ロスサントスの市民全員です」

「くそっ・・・!」

{このままじゃ埒が明かない、地下へ逃げられたら終わりだ。二人とも手伝え}

 

 

用意された二台分のバイクに乗り込み、線路の上を走る。

 

 

{いいか、持って数分だ。俺達がヘリで正面に回って奴の気を引く。その間に横からでも後ろからでも良い、列車に飛び乗って制圧しろ}

「死ぬなよ」

{それはお前ら次第だ}

 

 

左右や後方から、ロスサントス市警が協力する形で列車への攻撃を開始する。

列車の正面に回り込んだヘリが銃撃し、流れ弾や警察車両を避けながら列車へ近寄っていく。

 

 

(今だッ!)

 

 

路面の凹凸を利用し、飛び上がってバイクごと列車に飛び乗る。操縦者を失ったバイクは地面に叩きつけられ、貨物列車は警察車両の入れないトンネルへと入っていった。

貨物の上を移動し、アーサーに銃を突きつけトータスが制止させる。

 

 

「爺さん、鬼ごっこは終わりだ。観念しな」

「……やはり、この程度では動揺せんか」

 

 

銃を突きつけた二人が見たのは、数えられない程の粘着爆弾。連結された一両を埋め尽くすように設置され、その全てが赤く点滅している。

特命係に銃を突きつけたまま、アーサーが呟くように言う。

 

 

「あの時、上官と仲間は、ワシを責めなかった。ワシの行動に、非は無かったと。

……それが、どれだけ苦しかったか」

 

 

ゆっくりと、二人に向けた銃を降ろす。アーサーが目線を下げたと確認し、二人は傍へ近寄った。

 

 

「いっそ責められたなら、どれだけ良かったか。

最後までワシを信じていた、あの目を、黒く濁らせてしまった。

……もう誰も、殺したくない。

だからロスサントスを、どの国にも属さぬ領土……無主地に変える。

ワシの手で、ゼロに戻す」

「そうなれば、あっという間に国家間で領有権の主張が起こって、下手すりゃ領土紛争が始まるぞ。

そんなこと、させると思うか?」

「”させると思うか?” ワシは映画に出てくる悪役ではない。

妨害される恐れのある計画を、わざわざ話すと思うか?」

「……まさか!」

「あぁ、30分前に完了した。これで、この島はアメリカ領では無い。

一歩でも動いてみろ。お主らもろとも、この爆弾が吹き飛ばすぞ」

「くっ・・・!」

 

 

アーサーに対し、拳銃を突きつけるトータス。勝ち誇った笑みを浮かべるが、シダーは至って冷静だった。

 

 

「それが、あなたの出した結論ですか」

「……ワシから、未来を奪ったこの国に、生きる価値はない!」

「いい加減にしなさい!!」

「ッ!」

「貴方が憎むアメリカで、貴方が失った家族は生まれ育ったのですよ。

大戦を生き延びた先祖が居たから貴方が生まれ、その貴方が部隊での紛争を生き延びたから、アーサックさんが生まれたのです。

そしてそれは、貴方に救われたアークさんも同じです」

「……」

「国を愛せとも、家族を大切にしろとも言いません。他ならぬ、あなたには。

だからこそお聞かせ願いたい。国を恨み復讐することを、アークさんは望んでいたんですか!?」

「っ!」

 

 

会話が途切れ、リズミカルに鳴る列車の走行音が耳につく。

二人を少し離れて見ていたトータスが、足元に視線を移し叫んだ。

 

 

「シダーさん、これただの爆弾じゃありません! 時限爆弾です!」

「!?」

 

 

列車から飛び降り、反対方向へ走り出す。背後でタイマーの切れた爆弾は同時に爆発を引き起こしたが、三人とも無事だった。

アーサーへ向き直り、シダーが言う。

 

 

「アーサーさん。我々は価値観を押し付ける真似も、自身の思う正義を振りかざす行為もしません。

行政活動(Administration)に基づいて犯罪の予防に努め。

司法活動(Judiciary)に基づいて、既に起こった犯罪の捜査や犯人逮捕へ動き。

時には公安活動(Public security)に基づき、暴動や反政府活動の鎮圧をします。

 

Administration  Judiciary  Public Security。

 

それが、ロスサントスにのみ存在する特殊部隊。AJPSです」

 

 

時刻を読み上げ、トータスが無線で伝える。

 

 

「アーサー・グランド、確保しました」

 

9

 

その後まもなく知らせを受け、到着した警察車両にアーサーが乗る間際。彼は背中ごしに言った。

 

 

「刑事さん。ワシの戦争は、あの日で止まっておる。

続く筈の轍が、銃弾1つで全て消えた」

「……」

 

 

傍に立つ警官が持つ、銃器を一瞥する。

 

 

「これは、命を奪う道具じゃ。思い知ったからこそ、あぁするしかなかった」

「貴方の想いは、よく分かります。ですが、やり方が間違っていた」

 

 

振り返ったアーサーの中で、何かが切れた。

 

 

「ならワシは、どうすれば良かったんじゃ。

何をしたら、アイツらは・・・! ワシは! 生きていた!?」

「あなたは頼るべきでした。独りで抱え込まず、心を許した友を。

今回も同じことです。実行する前に、打ち明ければ良かったのです」

「……」

 

 

目線を下げたアーサーに、優しく問いかける。

 

 

「一つだけ、分からないことがあります。何故あの時、死を選ばなかったのですか?」

「何のことじゃ」

「列車から飛び降りる際、我々は貴方を連れる余裕はありませんでした。

でも貴方は、トータス君の声を聞き、自らの意思で飛び降りた。

あの場で、終わらせることも出来た筈です。

何故、そうはしなかったのですか?」

「……!」

 

 

脳裏に甦る、アークの幻影。死を決意し、銃も希望も捨てた兄を、弟は突き飛ばした。

間違いない。あの笑顔は、本物のアークだ。

 

 

「そうか。今度はヤツに、背中を押されたんじゃな」

 

 

警察車両に乗り、ドアを閉める瞬間。軍服のアークが、特命係に礼をした。

 

 

───ありがとう

 

 

ドアが閉まると同時にアークが消え、彼を乗せた車は走り去っていく。

それを見届けたのち、二人は歩き出した。横を歩くトータスが訊ねる。

 

 

「アーサーさん、どうなりますかね」

「我々に出来るのは、犯罪を犯した人物を法廷へ連れていくことです。彼の心には立ち入れません。

ですが、前を向く意思がある以上、時間が解決するでしょう。

誰も、彼の胸中を責める事は出来ません」

「……そっすね。

"生きてるだけで偉大なことだから、自分たちの分まで幸せになって欲しい。

だから孫には、アーサックの名を付けた"

って、日記に書いてましたもんね」

「トータス君。2013年に施行された、もう1つの法律を知ってますか?」

「もう1つ?」

 

 

立ち止まって聞き返すと、シダーは遠くを見つめながら静かに語った。

 

 

「第一項には、こう書いてあります。

 

全て児童は、児童の権利に関する条約の精神にのっとり、適切に養育されること。

その生活を保障されること。愛され、保護されること。その心身の健やかな成長、及び発達並びに、その自立が図られること。

その他の福祉を、等しく保障される権利を有する。

 

全て国民は、児童が良好な環境において生まれ、かつ、社会のあらゆる分野において、児童の年齢及び発達の程度に応じて、その意見が尊重され、その最善の利益が優先して考慮され、心身ともに健やかに育成されるよう、努めなければならない」

「児童福祉法、ですね」

「ええ……あの人が最後に残した、命を守る法律です」

 

 

 

空には、青空が広がっていた。


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