ヤーナム産ロクデナシ共、日本へ渡る 作:そら豆
本当は昨年中にこの部分を書きたかったのですが、師走はやはり忙しいですね。年が新しくなってしまいました…。
そして今回、本当は鬼滅世界側からの視点が有ったのですがあまりにも長く成ってしまうので切り取ってしまいました。まるまる次回です。
前書きを書いている今は、調子に乗って日本酒を冷やでがばがばいってました。大分酔ってます。
基本的にヤーナムのロクデナシ視点は、人攫いさんの一人称なので基準が大分ヤーナム野郎です。
いい加減にしろ。
まさにその一言に尽きる。
自身の声帯から絞り出す音でさえ、時空を歪めるらしく大方のモノを退けさせる咆哮発する。銃弾や神秘の軌道まで逸れるのだから、実に気持ちが悪い。
ちいさい獣面は吹き飛ばされたままに、盛大に背を打ち付け沈黙した。かなり不穏な音がしていたが、生きては居るんじゃないか? 獣の咆哮そのものに殺傷能力はない。つまり自分に過失は何もない。
問題は年齢不詳の男だ。人間のサイズなのだから、当然の様に吹き飛ぶも、すぐさま態勢を立て直し肉薄される。ただ転ばせ、その隙に離脱してやろうという気遣いは無駄にされた。何て空気の読めない男だ。あのロクデナシが余計な事をする前にとっ捕まえなければいけないのに。
決して人を襲ってはいない。血に酔った訳でも無く、敵対も邪魔もして居ないと言うのに。なぜ自分へ敵意を向けるのだ。
「
貴様らに配慮し、あの我の強いロクデナシも夜闇に収めてやっていたと言うのにこの仕打ちである。自分達の存在が世間的によろしくないのを理解する、真っ当なロクデナシとして、気を使って居たのに……皮肉を口にしてしまう位許されるだろう。どうせ通じない。
相手が若干顔を歪めるのは、皮肉を解したからではなく叫び出した咆哮の影響で若干ひび割れた異国語のせいだろう。
高位のトンチキ聖職者と違い、陰鬱で仄暗い故郷でだって大っぴらに行動出来なかったもので、完全部外者なこの地では尚更目立つことはしたくない。鬼殺隊とか言う、鬼の狩人共がどの程度密な組織を築いて居るのか定かではない。例えば、この男一人を殺すなりした場合自分はどの程度認識されるのだろうか。狩人狩りの様なのに目を付けられるのは面倒くさい。
何とかまけないか、山中を疾走しつつ時たま接近し迫る片刃を躱しながら思考する。
……こういった組織間の確執や、思考を伴う狩りや殺しが億劫で人攫いなんぞしていた人間に何て面倒な事を考えさせる。もういい。殺そう。狩人相手なら攫うより、ただ殺す方が楽だ。
問題は、自分がそこまで強くない事だが……。単純な作りの武器の軌道は慣れない上に、動きが『お上品』に型作られている。やりにく。
接近し、切り裂き血を浴び、腸を抉り取り獣性を高めて武器を振るい続ける自分としては、本当にやりにくことこの上ない。
結果だけ言ってしまえば、ロクデナシのおかげで面倒くさい戦闘は回避された……のだろうか。何とか穏便に済ませようとする此方の意図を汲めない、人間関係壊滅して居そうな男を排除すべく身構えた際にそれに気づいた。
あいつの甘い血の香りだ。
ごくごく僅かだが、人血ともまた違う臭気が混じりながらもあちこち死臭淀む山中でじわりと熱の滲む匂いがする。
何故?
気味の悪い左手武器の歌声は聞こえたのだから、何か仕出かしているのは知って居たが……血を流す様な事態に? 自分の知覚外で?
ふざけるな。あれの命の利権は自分の物だ。
いつまでも鬱陶しい男へ、頭部を捻じ切る心算で飛び掛かる。が、すれ違い前へ倒れ込む様に転がり回避される。それならそれでいい。邪魔をするな。重要なのはあいつだけだ。その他の生死など、面倒があるかどうかでしかない。
香るままに出所目掛けて進む。少々のスペースが開けた場に、流血と戦闘の臭いがある。何とも奇怪な事に、自分の頭部を抱えて動く子供がいる。日本ではそういった獣もポピュラーなのだろうか。気持ち悪いにも程がある。蛇に寄生でもされたか。
中々な傷を負った子供も転がっては居るが、そんなものは自分に何の関係もない。勝手に殺し合いでも何でもしていろ。
問題は諍いを起こしていたらしきチビ共の奥。秘薬でも使い、潜んで居たのか急にふっと気配を生み出し、立ち上がりかけた姿勢で固まる諸悪の根源。
「……あ」
鉄兜の向こう側、殆ど表情の伺えない装備の中でも確実に目が合ったと思った瞬間、明らかに気まずそうに言葉を漏らしやがった。
自分に対して悪さをしている自覚は持っていた様だ。なにが『あ』だ。引っ叩くぞ。
それを実行すべく、怒りに似た感情のままに飛び出す。ちんちくりんの白い人型を、獣化のままの脚力で蹴り飛ばし茂みから立ち上がりかけていた元凶を地面に押し倒す。
がっ、と鉄を含んだ装備が固い音を立て地面に打ち付けられる。抗議の言葉が上がる前に、便利な縄を掴んでそのまま引きずる。
「あっあっ! 待ってください! ちょっと……! せっかくイイモノを見つけたんですよ! 離してください」
べしべしと腕を叩き文句を垂れるが、そんな物聞いてやる謂れはない。理由は知らないが、幸いあの対人に問題を抱えて居そうな男は追って来ない。
ある程度距離が出来たのを確信してから、土の上を引き摺りまわしていたツレを担ぎ上げ人の気配から逃れていく。
「ひょっとして、怒っているんですか? 君、その頭の悪い、啓蒙低そうな恰好は止めた方がいいですよ。それより聞いて下さい! さっき星の声を聞いた子が居たんです! 残念ながら、毛色の違う医療者の薬臭さがしましたし、君の騒々しい鳴き声も届いたので、あまりお話出来なかったんです」
山中を雑に担がれながら進んでも、『面白い』物を見つけた学者サマは非常に饒舌だ。これは研究者共共通の特性なのだろうか。
あまりにも呑気な様と、物理的に自分の手の中に所有物が戻ったせいか、先ほどまでの焦燥に近い苛立ちは鳴りを潜めた。
「怪我は? 血の匂いがする」
決してこんなクズの身を案じる心算は無いが、自分のあずかり知らぬ所で損なわれて居ては面白くない。
「怪我ですが? 君が抉った右目位しか今は残っていませんよ。血は……脳と分かたれても動く面白いモノが有ったので、輸血の代わりに私の血を入れてみようかと。一応ヤーナムの血も入って居ますし、君が輸血液を使うのに消費しては勿体ないですからね」
「……殴ってもいいか?」
「出来れば、叩かないで欲しいですけど……何故、今さら殴る程度の事で君は私の意見を聞くんですか?」
煩わしい鬼狩り共の気配を避け、身を隠しながら移動を続ける自分の上でトンチキな発言をするツレに頭痛を覚える。自分は怒っているのだという表現を、真に受けこちらの心情はさっぱり伝わらない。
「この国の獣……鬼にお前の血をくれてやったのか?」
担いだ体勢の都合上、表情は見えないが何やら考え込んだ気配がする。
「入れ損ないました。あの場で採取し、注射筒に入れて居たのですが、君に転ばされて落としてしまいました。持ち込んだ物には、限りが有るのに。備品は大切に使わなければいけませんよ?」
ツラを見なくても、『全く、しょうがない』という様な表情をしているのが察せられ、収まった苛立ちが再び沸き上がる。誰のせいだと思ってるんだ、誰の。
「先程から、何をそんなに怒って居るんですか? 私がかわいいのに、何故怒る必要があるんですか?」
このまま投げ飛ばしてやりたく成ったが……結局手を離せなかった。
慣れない環境の山に、狩人と『獣』の区別もつかない鬼狩りに、傲慢の権化なツレにと一晩中振り回され、流石に少し疲れていた。主に気疲れだ。
教会の狩人だった頃だって、こんな気苦労はしなかった。若干空の開けた場所に座り込み、鬼狩り共の撤収を待っちながら、重たい気分のままに明るみ始めた空を見上げる。
既に契約のカレルを脳裏から剥ぎ落して居るので、人らしく頸椎が伸びる。
全く。散々な夜だ。糞ロクデナシの顔に絆されたせいだ。その件のクソは肩が凝って嫌だと宣い、鉄兜を外しお綺麗なツラを晒して涼しい顔だ。
ツレのせいで、自分の被った心労を思い返し鳩尾の辺りがぐちぐちと捻じれる気分がする。
こちらの疲労など他所に、色々拾い集めごそごそと何事かに勤しんで居たツレが顔を上げ、抱えた何かに話しかける。
「いいこいいこ」
どうにも似合わない黒衣の腕の中に抱いた、一羽の鴉の嘴を撫でる。その可愛がる手つきに甘え嘴を鳴らす黒い鳥は異形だ。
ヤーナムにごろごろ居た、屍肉を貪り肥え太り殆ど空を飛ばなくなった巨大な鴉と違い、抱え込めるような可愛らしい生き物だったのに。
今では頭部に多量の目玉が蜘蛛の糸で縫い付けられている。実によく見た光景だが、こいつはそれでいいのだろうか? あの気位の高い連中が、異端と後ろ指をさした奴らの真似事をするのに抵抗はないのか?
「私自身は何とも思いません。ここでは誰も注意しないでしょう? 使えるなら何でも手を出しますよ。むしろ君がもっと深い事を知って居れば沢山お話出来て楽しかったのに、残念です」
あまり残念そうではない顔で此方を振り仰ぐ。
「無学で悪かったな」
普通に生きるだけの思考でさえ面倒くさいのに、人の理の外まで意識を向け追い求めるなど、正に狂気の沙汰だ。
「でも、自分で試行錯誤するのも好きです。君も私の手伝いを良くしてくれるので、好きですよ。今回はちゃんとできましたし、ねえ?」
抱き抱えた多量の目玉から脳液と色の無い血を流す鴉へ視線を戻し微笑みかける。そしてそのまま奇怪な鳥を空へ放った。
「私の代わりに、沢山『見て』回るんですよ」
生き物を空へ『逃がす』姿は、行動だけならば放生に成るのだろうが、功徳の溜まりそうな要素は何処にも無い。ただただツレの顔が良いだけで神聖な光景に見えているだけだ。自分でも流石に己の頭が心配になってくる。
「では、戻りましょうか」
小さな点に成るまで、黒い鳥を見送った後にツレはくるりと振り返る。笑うな惚れる。
「それはありがたい限りだ。で? 残りはどうする」
呼吸を忘れそうな程美しいツレの足元には、空へ放った鳥を作るのに使った余りが転がって居る。何処の国でも居る所には居るらしい、目玉を採取された人頭の蜘蛛の残骸。道中見つけわざわざ引き摺って来た鬼の『死骸』。そんな物がごろごろと周囲に転がって居る。
「え? どう? もう検体も取ったので要らないんですけど……え? どうしましょう?」
本気で不思議そうに首を傾げる。まさかこいつ、自分がしたい事をした『後』を何も考えて居なかったのか? 片付けは全て人任せ?
確かに学者サマ方が増やした死体の処理もして居たが、さも『そんな雑事、私がする事じゃないでしょう』と言う態度に面くらう。
「……これだから全く……燃やすぞ。油寄越せ」
最早何を言うのも面倒くさい。今日は疲れた。骨まで焼き尽くせばいい。
どうしようかと、珍しくおろおろと情けない犬の様になるツレを横目で眺めながら、一塊に積み上げた残骸に、妙に香る油をぶちまけ火を放つ。
朝日の中に故郷の夜に似た臭気が立ち上っていく。
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異国の古都に満ちる臭気は霧消し、誰も気づくことは無かった。
しかし確かに残された痕跡も有った。
癸の隊士は記憶していた。星への懇願を撒き散らす黒い人影の、弾んだ声に、訳も分からず送られる賛辞と、『海の霧』という単語を。
蟲柱は見つけ出した。異なる、おそらく医療技術の痕跡と、異国の薬酒の残り香を。酷く場違いな、迷迭油に似た香りを。
水柱は想起する。人でも、鬼でもない歪な存在を。『獣』と称するのが相応しいであろう、異様なヒトガタを。
そして何処か、空間を歪める琵琶の音に次元を跨ぐ鐘の音が呼応した。
何か、いろいろ捏造とかネタとかあとがきしようと思ってたことが有った筈ですが、だめです…大分酒がまわってます。刺身と日本酒とカキフライ最高でした。
何だっけ…出てこない。
ロクデナシが放ったからすちゃんのイラストを、頑張って描いてみました。動物は結構描く人なのですが、鳥類はあまりなので結構雑です。
あとヤーナムを駆け回った狩人様方なら、全然平気な類だと思いますが、一応グロになるかと思います。
おめめがいっぱいのからすちゃんです。画力低いので、心配しなくても大丈夫だとは思いますが…ご注意を。
だいたいこんな感じのが、その辺飛んでます。なんかふと視線を向けたら、鎹鴉に混じってコレが居る。SAN値チェックです。
でもこの子も元鎹鴉。目玉が脳を圧迫していてもうお喋りできないけれど。
【挿絵表示】