ヤーナム産ロクデナシ共、日本へ渡る   作:そら豆

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前回から一月も経ってしまいました。仕事したくない!!!!
また閑話の様なものになっております。
ちょっと誤字脱字のチェックが甘いので、数日中にチェックついでに一部内容が変わるかもしれません。


るえ越は音◇

 おどろおどろしい、荒縄と襤褸の外套で飾り立てられた人物から妙に華やいで弾んだ声がするのは違和感が酷い。鉄で出来た防具を僅かに鳴らしながら、瀕死と言える状態の少年にはお構い無しに肩を掴み揺する。

 善逸も決して小さな子供という訳では無いが、如何せん黒づくめの人物が大き過ぎる上に、些かの興奮状態だ。押し留める事など出来ずに、がくがくと揺すぶられてしまう。

 

「素晴らしいですね! 君は、とても素晴らしい! 君には星の声が、見えましたか?」

 

 何か脳が震える様なモノを聞いた気がしたが、何かを見た覚えはない。朦朧とする中で、この怪しさの塊は何者なのだろうかという思考もぼやける。

 だからゆるゆると首を振る事しか出来ない。

 

「そうですか……君、体重は分かりますか?」

 

「わかんない……」

 

 突然そんな事を聞かれるも正確な数字など把握していない。ぼんやりと歪む夜空に視界が固定させたままに、妙に歪んで正体の掴めなくなる声に耳を傾けるしかない。

 

「では、気休めにしか成りませんが、何もしないよりはましでしょう。外ではすっかり廃れてしまった様ですが、流行っていたんです。いい香りでしょう? 伝えられる効能は流石に大げさですが、これは私達が教会で作ったので、それなりに効きますよ。ローズマリー、『海の霧』だなんて、素敵でしょう?」

 

 すっと爽やかに通る香りには確かに安らぎがある。……気がした。

 一体何の効能が有るのか分からないが、ひやりとした感覚で傷や汚れを拭っていく。

 

「この国の人は皆小柄なので、気軽に、痛み止めが使えないんです。君の脳が麻痺してしまうのは、とても惜しい。本当に。君はとても貴重な人間です。価値がある」

 

 走馬灯染みた追憶と、安らぎをもたらす香りに誘われる様にして、心底からの称える言葉が遠のいていく。ただ全肯定されているのだけは理解した。

 一体この怪しげな者は本当に、ナニなのだろうかと言う思考さえ掠れてしまう。

 鋸刃の並んだ、物々しい鞭を振るい、躊躇も何もなく血を撒き散らすのに、そのえげつない傷をつける動きが妙に上品。寄って来る者を打ち払うだけで、決して鬼を狩りたい訳でもない。

 ぼんやりする意識の中で、その異様な存在を想起して絞り出す様に尋ねる。

 

「ねぇ、あんたはナニ……?」

 

 だが問いかけにナニカは答えない。

 月の逆光の中、聞いた事も無い獣の咆哮に、はっとした様に長身の人物が顔を上げ慌てた様に離れて行く。少しだけ名残惜し気に、頬を撫でていった。

 

 

━━━

 

 掌に転がる折れた注射針を見詰め、胡蝶しのぶは山中で見つけた異物に関して思考する。

 最初に見つけた異常なものは、明らかに『解剖』された複数の骸。

 元は人間だとは言え、その異形の見た目と鬼に操られ襲い掛かられれば、打ち払いはするだろう。実際、鋸刃に切り裂かれた傷を持つ死体はそれなりあった。

 だがそれとは別に、すっぱりと内部を傷つけない様に切り開かれた、傷と呼ぶには余りも『綺麗』な切開部を持つものがそれなりに有った。

 

 丁寧に切開され、内容物を懇切丁寧に並べられていた。

 これをあの場で行った人間は気でも狂って居るのではないかと疑う程の『丁寧な』仕事ぶりだった。

 鬼と隊士が戦闘を行っている横、木々の間に座り込み、夜陰の中淡々と生物を切り開き、観察して居たのであろう誰か。

 恐らく生きたままに頭蓋骨をこじ開け、その内部を観察していた何者か。

 あまり見慣れない外科的な手技を扱う医療者……と言うには余りに人心の欠けた、探究者。そんな印象を持った。

 

 残っていたのはその『残骸』と、鬼を討った隊士に残されていた気休め程度の手当のあとと、彼が唯一記憶して居た『海の霧』という言葉。

 それと酷い臭気と戦闘の場に相応しくない、迷迭油に似た澄んだ香り。

 

 折れた注射針を拾えたのは偶然で、水柱と『ちょっとした』諍いを起した場できらりと月光を返すそれを拾い上げた。

 彼女の持ち込んだものでは無い。

 肝心の内容物は、完膚なきまでに砕けた容器だけで何も分からない。幽かに鉄錆び色に黒く乾いた血が付着して居たが、あの場では大いに傷を負った竈門兄妹の(一昼夜過ぎたのだから、兄の炭治郎のみの)物かもしれない。

 

 何も分からず、不可解な物証しかないがこれら(解剖した痕跡も、針も、血も)の持ち主は今自分達が知りうる以上のナニカを持っているような気がして成らなかった。

 

 

━━━

 

 からーん、ころーんと、琵琶の音に共鳴する様に鐘の音が響く。

 

「呼んだか」

 

 夥しい血肉の上にじわりと空間が融けだす様にして、頭の先方つま先まで真っ黒な装いの男が現れた。その男の手に下げられた、小さな鐘が振るでもなくひとりでにころぉん、からぁんと鳴っている。

 

 空間を操る音を響かさせた、当の鳴女も狼狽えている。彼女にも何が起きたのか分からない。

 

 血肉で装いを拵えたのかと疑う程に、酷い臭気を纏ったヒトガタ。決して人間である筈も無く、当然鬼でもない異物。

 不躾な視線をぐるりと巡らせ、自身の足元も見る。

 つい今しがた処分したばかりの下弦の残渣が転がるばかり。人を取り繕った物体は何の感慨も無く、どんな意味でか肩を竦めた。

 

 誰何はしなかった。その無礼な異物についての思考もしなかった。

 目にしただけでも不愉快な物に対して、自分が思考してやらねばならない。鬼舞辻無惨にとって、自分以外の全ては取るに足らない下らないモノでしかない。いくら不可思議な出現をした異物だろうが、彼で無い以上は詰らない何かだ。それなら早々に打ち払えばいい。どんな存在だったとしても、彼に勝る事はないのだから、全ては些事に過ぎない。

 着物の裾が落ちないように、品よく服に着いた埃を払う様に手を上げる。

 

 腕の一振るいで目前の男の体は半壊する。豪雨に似た血肉の散る音を立て半身が抉り取れる。

 それなのに、黒い侵入者は僅かによろめくだけで顔色も、表情も変わりはしない。『生き物』として異常なナニカ。

 

「う~ん……24点! モツ抜きにエロさがない。もっとマリア様みたいにえっちな感じで内臓握りつぶして欲しい。抱きしめるみたいに腕を添えつつ、優しく囁きながらだとGOOD。ただアンタ声が可愛いくないからなぁ~、胸が控え目なのはいいとおもうヨ。俺そこは好き。あと単純に顔が好みじゃない。やっぱ繧ォ繧、繝ウ繝上?繧ケ繝の女性って美人だよねぇ~……うわ、僕今繧ェ繝峨Φみたいな事言った? 自分が気持ち悪くて落ち込む」

 

 胴の殆どを失い、異様に多い血をまき散らしながらも、黒い洋装の男は呑気に意味の分からない事を述べる。しかも、理解しがたい発言だが明確に侮辱されているのは伝わる。

 

「そう言う事で、自分の夢に帰るわ。じゃあな未だ襍、蟄にさえ螻翫°縺ェ縺?ココ髢

 

 消化器官及び循環器、呼吸器の殆どを損壊させ、最早それが喀血か吐血か判然としない物を吐き捨てながら幻の様な男は霧消した。

 

 

 

 

 

「ただいま人形ちゃーん。くそ狩の主(ホスト)に当ったちゃったよー。ああ、だが興味深い『夢』だった。また見に行きたいものだ」

 

 

 

 

━━━

 

「何を書いて居るんだ?」

 

 馬の揺れは平気だ。狭いコミュニティーに居て、それほどの移動が必要になった事はないが、確かに馬の背は平気だった筈だ。馬車に成ると少し怪しい。

 汽車の振動はぎりぎり耐えられるが、決して気分の良い物ではない。

 船は論外。二度と乗らない。

 

 兎も角、人工物の移動手段が煩わしく感じる自分にとって、これからそれなりの距離を汽車に揺られなければならないという事実に既に胃がむかむかとしてきている。

 しかも夜間。必死に窓の外の遠くへ焦点をずらし、耐えるという方法が使えない。

 そんな時に、ツレが小さな紙片に何かをこの国の言葉で書き綴っている。

 

「君の為のものですよ。どうぞ」

 

 渡されてもさっぱり何が書かれているのか理解できない。文字は書けなくとも、会話は出来れば問題ないとそちらには一切触れて居ない。

 

「……読めない」

 

「『私は日本の言葉が分りません。何か有りましたら同行者に声をかけてください』と書いておきました。移動中少し寝ます。そして声を掛けられても起きる気はありませんので、君もそれを見せて終わりにすればいいですよ」

 

 は? という声が漏れた。

 

「具合でも悪いのか」

 

 それなりの間行動を共にして居るが、このロクデナシが積極的に休んでいる所はさっぱり見ない。てっきり上層のクソ共に『睡眠』など不要なのかとさえ考え始めていた。それがわざわざそんなメモまで作って休むと言えば、些か、本当に、ほんの少しだけ心配にもなる。何せ見た目だけは大変好みなのだから。

 

「いえ? ただの寝不足です」

 

「一応人間だったんだな」

 

 学派の先生方は既に大方が、夢を引き寄せ現の肉体は捨てた。毛色は違うが、同じようなこいつらがちゃんと人間なのは少し意外だ。

 いや、明確に人間と断言して良いのかは分からない。狩人共だって、ヤーナムの外で人間だと胸を張れるのか怪しい。

 

「私は別に、先輩方の目もないので、利便性が勝れば人の形でなくても構いませんよ。ただ、独力で夢を器にしたり、上位者と繋がる様な事は出来ないので」

 

 想定外の残念そうな言葉のあと、じっとこちらを見て来る。何が面白のかふ、と笑い少しだけ腰を折って顔を寄せる。顔が良い。苛立たしい。

 

「でも君が私の顔なんかをかわいいと言う変わり者なので、しばらくこのままで居てあげますよ」

 

 何かいい方法が見つかるまでは、と随分可愛らしく囁く。

 ああ、そりゃあ、どうも。と寄って来たクソを引き剥がす。発車時間までまだ猶予があり、人もまだ疎らだが皆無ではないのだ。

 

 視線を集める事はしないでほしい。




今日の捏造とかいろいろ

ロクデナシが使ってた気休め

ハンガリー水
ローズマリーをアルコールで蒸留した薬酒。アルコールベースの香水の大元。ヴィクトリア朝までは香水として使われて居た。
ヤーナム排他的な田舎街だし、現役でも良いかなって思った。しかしこれ、滅茶苦茶高い。ちゃんと蒸留して作るの、めちゃめちゃ高い。あと、言われてる効能がこれでもかと盛り込まれている。多分、普通にハーブとしての効能しかないんじゃないかと思うけど、ロクデナシのは医療教会で作って来てるのでそれなりに効果がありそう(SAN値を代償に)。

ローズマリーは魔除けの花。
ラテン語でロスマリヌス。海のしずく。

アルコールに漬けて抽出する方法で作ってみたけど、ローズマリーの匂いの主張が凄い。分量のせいかもしれませんが。

あとローズマリーは花粉症を和らげるらしいですよ。春花粉に毎年中指立てている方、如何でしょうか。



今日の狩人様ガチャ

R 悪夢を巡り続ける狩人様

上位者的で相対する者の脳を爆ぜさせたり、地底人的にトチ狂ってる訳ではない。ただ狩に酔っているだけ。狩りその物が目的で、夜明けなんて忘れ去って介錯されては処置台の上で目覚めて狩を続けている。
呼ばれれば積極的にやって来るし、積極的に他人の夢にも侵入する。
周回のし過ぎでぐちゃぐちゃしている中身の中では比較的害のない(無害とは言っていない)分類の狩人様。
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