ヤーナム産ロクデナシ共、日本へ渡る   作:そら豆

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あっさり人物紹介

ツレ/同行者/顔だけしか取り柄のないロクデナシ
医療教会の指導階級に居た、自称非力な学者。色素の薄い虹彩と金髪。自覚がないタイプのロクデナシ。
知らないことを全部知りたいから、叡智ほしい。組織的なしがらみが無ければ方法は何でもいい。何でもいいけど探求への基礎の構築は上層孤児院で築かれたものなので、若干そっち寄り。

捕まったモブな鬼
良く分からないけど、自分が食い物にする側だとばかりに潜んでた人攫いに途轍もなく腹が立って絡んだら捕まった。ようこそ実験棟。
あまり強くない。ヤーナム市街でレンガ持って一人佇むデブ位。つまり後ろからぶっ叩くか銃パリィで殺せるが、慣れないと普通にこっちが殺される。


日本の鬼

 ごつ、となかなかいい衝撃が伝わる。そして普通に拳が痛い。指が砕けたかもしれない。やはり獣を素手で殴り殺すとか、狂人の所業だ。そういう奴は気がふれているのだろう。

 咄嗟の腹立ち紛れに殴りつけた結果、獣はガクリと仰け反る。が、崩れ落ちる掴み掛かったままの腕を無理やり引き摺り起こす。

 

 顔面がほぼ半壊した為何とも言えないが、やはり獣らしくはない。

 

「……!」

 

 得体の知れないモノの処遇に悩み、一先ず逃がさない事にのみ意識を向けて居た目前に、獣の顎が迫……ろうとした所を大きな質量が横から叩きつけられ当の獣がぐしゃりと地面へ叩きつけられる。人の手で殴る、や、仕込み杖で薙ぎ払う処でなく全身が拉げた様に落ちている。

 馬鹿みたいな勢いで叩きつけられた物を避ける為に、獣を離し背後へ転がった自分を、一人残った筈のツレが不思議そうに見下ろしている。

 

「大丈夫ですか?」

 

 危機感のない声で尋ねながら、殴り飛ばした獣の顎を黒いブーツで踏みつけゴキリと捩じる。ぱきっ乾いた骨が爆ぜる音がして言葉に成らない潰れた悲鳴がする。

 

「戻りが遅いので様子を見に来たのですが、これは獣ですか?」

 

「……あ、ああ」

 

 獣の病など悪夢に飲まれかけた古都を後にしてから触れてこなかったから、本当にあの街だけの風土病……というか『血』の弊害だと思って居た。こんな遠い国で『獣』に遭うなどと思っても居なかった。そのことに驚き無様を晒した事に羞恥心が湧く。

 

「……それ何処から持ってきた」

 

 ただそれよりも『私は非力な学者ですし』と言って一人残ったそいつが抱えた物が問題だ。

 

「お家の横に有った水車です。いけるかと思ったんですが、やはり武器として作られて居ないので駄目ですね」

 

 確かにそういった、殴り殺して磨り潰す様な仕掛け武器もある。そして形も似てはいる。いるのだが……。いや、非力?

 

「お前、いいのか? その……それで」

 

 はっきりとした言葉に出来ず、濁す。人の心を理解しないヒトデナシの癖に空気は読めるらしい。

 

「肉親を惨殺した物と同じ武器で、私が見知らぬ獣を挽肉にする事になにか因果関係があるんですか?」

 

 空気は読めるが情緒はないらしい。心底不思議そうにしながら、頸椎およぴ顔面の骨が砕けたにも関わらず人語で罵声を発し、抵抗をする獣の眼窩に角度をつけてメスを突っ込み掻き混ぜる。びくりと獣の四肢が捩れたように跳ねた。

 

 流石のクソっぷりに、何とも言えない自分の表情に何を思ったのか拗ねた様な表情を作り言い訳を添える。

 

「だって、君が私の仕込み杖持って行ってしまったんじゃないですか」

 

 むくれて見せながらも、無事に獣の眼窩から目玉と僅かな脳味噌を切り出している。

 

 獣ならば多少乱雑に脳を掻きまわしたって死にはしない。それどころか直接腕を突っ込んで中身を引き摺り出そうが、僅かな時間怯む程度で直ぐに向かってくる。死ぬまで殺し続ける位の気概が無いと、獣は殺せない。

 何時までも無様を晒しては居られないと立ち上がり、獣へ止めを刺す事にする。

 

「だめです、だめです! 殺さないでください! せっかく異国の獣を見つけたんですから、いろいろ観察してからにしましょうよ」

 

 今度はしっかりと仕掛け武器を構えるも、赤黒く汚れた水車を投げ捨てたツレに飛びつく様にして妨害される。

 

「人語を喋っても獣だぞ? 死骸で我慢しろ」

 

 鎮静剤も輸血液も限りが有るのに、獣性が高まった市民よろしくほぼ人の形をして居ながら、はっきりとした思考と意思で襲い掛かってくる様なモノを生かしておくのは不用心に感じる。

 そもそもコレがヤーナムの様に、人の内に有る獣性が何らかの原因で発現した結果なのか、もともとこういう生き物か、またはもっと別の要因なのか分からない。

 

 そういう、『わからない』が全て気に成るのだろうが、ほどほどにして貰いたい。

 

「……絶対だめですか? 私かわいいのに?」

 

 縋りつくようにして行動を阻害してくるツレが、真顔で馬鹿みたいな事を言う。

 

 くそ。

 最近自分がこいつの顔に弱い事を学習して、希望を押し通す時に文法関係なく、『私可愛いのに』を使う様に成ってしまった。

 

「四肢を焼くか切り落とすかしろ。砕けた骨が繋がり始めてる」

 

 そしてまたこいつの学習を強固にしてしまった……。

 『獣じゃないモノ』も幾らか見た事有るが、コレは確かに赤い血を流す、正体の分からない物だ。それなのに、可愛い顔に絆され、その顔は可愛いクソが素早く四肢を落とし陸に打ち上げられた魚の様にのた打ち回る獣の頭髪を掴んで引き摺って歩き出す。

 

「おいッ! お前ら今に見っ……!?」

 

 骨が砕け切断されて尚、それぞれに蠢き爪を立てる四肢を花束の様に、後生大事に抱きかかえて居たツレが、その一本を喚く獣の口に押し込んでいる。

 獣は自身の血肉の味をどう判断するのだろうか。

 

「まだ人が通る可能性も有りますから、静かに行きましょうね」

 

 己の首を裂こうと藻掻く腕を片手で押止ながら、しーと空いた片手で人差し指を立てる。……非力? こいつ、普通にその辺の狩人より筋力あるんじゃないか?

 

 この国の階級制などさっぱり分からないが、最近はどこぞの金持ちなのか、貴族だかが病弱な妾に与えた山中の家を拝借している。もちろん、借りたのは勿論外面のいい同行者だ。当の妾は子供を産んで死んだらしいが。別段人死にの有った家など気にしない。ツレが床下から人骨を見つけ出してきても気にしない。むしろ妾に与えた家をこいつに紹介したのはどういう心算だと首を絞めて沈めたい気分を味わっただ。顔だけはどうしようもなく好きなのだ。

 

 そんな、拝借中の小ぎれいに纏まった家屋に辿り着く。幸い、他の人間に出会う事は無かった。趣……というのか、あまりにもヤーナムと建築様式が違う為に判断に困るが何やら奇怪に配された庭の木や岩の中、一際目を引いた水を受けてくるくる回り続けて居た水車がもぎ取られ、高所から落ちる水が砂利を叩きそれなりに騒々しい。

 あれなら多少泣き叫ばれても平気だろう。上層で何をして居たかは知らないが、自分が居た所ではだいたいそんな騒音に塗れていた。

 

 最初の、それこそ医療教立ち上げた人間は、本当に心底からヤーナムの人々を病から救おうとの考えたかも知れない。

 嘗ての教会の英雄には、確かに誇りがあったのかも知れない。

 ほんのつい最近までだって、末端の何も知らない狩人達には使命感や大義を抱いていたのかも知れない。

 始まりがどうだって、医療教会の今はこんなものだ。医療なんぞ、ただの手段でしかなかった。

 抑え込めなくなった獣の病は、街ごと、人ごと焼いてしまった。己の求めるモノの為、個人を顧みる事なく当然とばかりに消耗していく。

 その中でも、お綺麗に外面繕って、人を人とも思わない癖にそれを外道だとも認識しない。自尊心の強い傲慢な集団。叡智を求める崇高な目的の為には仕方ないでしょう? 尊いことでしょう? とばかりに。

 と言うのがこのツレ含む教会上層の、更に特殊な連中に抱いて居た印象だ。

 

 そしてその印象も間違いはないだろう。

 引きずり持ち帰った獣を嬉々として……いや、本当に不明を明かす為だけに切り刻み、その内を漁る様子を見ていて確信する。

 人を襲う獣でも、確固たる個を有して明確に思考をしている者に害意を抱かずに中身を弄りまわしている。

 害する意識が無い。つまり、相手を対等な生き物とも思っていない。ただの考え喋るそう言う生ものとしか認識していない。

 

「何故首と胴や四肢を分けても動くんですか? あなたの脳は飾りでどこか別の所に『あなた』が居て動かしているのですか? どこから自身を自認しているんですか? それとも構成物ひとつひとつにあなたが宿って居るんですか? もともとこういう生き物なんですか? 血統ですか? あなたの一族の血ですか? あなたの他に同じ様な特性の生き物は居るんですか? 消化器系は一通り開けてみましたが、これ使ってます? 必要なのは肉ですか? 血ですか?」 

 

 獣も最初は自国語の罵詈雑言に、別たれた身体で暴れ回って居たのに、顔色一つ変えずに医者の問診の様に淡々と問いを口にしながら躊躇い無く切り刻んでくる人間の気味悪さに閉口した様だ。

 おそらくは。

 日本の言葉で喋って居るせいでツレが何を言ってるのかは分からないが、手を動かし続けながら獣へ話しかけ続けている。

 

 最初はやれ拘束手伝え、明りを寄越せ、切開部を押さえろ、記録を手伝えと注文の多かったツレも気概を削がれたのか、気色悪い医療者もどきに正気を削がれたのか獣が沈黙してからは一人で黙々と作業を進めていた。

 やはり終始、何か話していたが。どうせロクでも無い事だ。

 

 結局明け方近くまで何事かを蠢く肉片へ語り続けながら、検体採集を続けて居た。

 

「これはこれで、とても興味深いものですよ! 使えるかはいろいろ確認が必要ですが、一匹飼えれば輸血液にもこまらなく成り探究の幅も……わぁあああーっ!?」

 

 清々しい朝日が屋内へ差し込む、随分と子供染みてきらきらとした笑顔を浮かべるクソ医療者は、次の瞬間陽に解ける様に消えて失せる検体に、悲鳴を上げた。

 

 眼球片方無くした時以上の落ち込みぶりに、思わずまた生け捕りにしてやるから……と言ってしまった。

 

 獣の生け捕り何て、絶対に楽ではない。それこそ、血が足りなくなりそうだ。

 血を少々強引に『施してもらう』には人の多い所が良いだろう。自分達の様な異邦人が目立たず、人が多少消えようが関心を向けられない種類の人間が居る場所。

 人が多ければ、獣も居るかもしれない。獣は人の内に潜むのだ。……この国の獣は良く分からないが。

 

「ああ、この国の獣は『鬼』と言う名称らしいですよ。何だか可愛いらしい語感ですね」

 

 何とか陽光から死守し、厚い布に包んだ検体である頭部の半欠けに蒼白い軟体生物を乗せて遊ばせている、すっかり機嫌が向上したツレが言う。

 

 なる程。獣ではなく鬼か。

 




そのころ月の香りがする狩人様は素手で獣を殴り殺し始めてた。

次は鬼滅側視点。
害悪が這い寄って来る。
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