ヤーナム産ロクデナシ共、日本へ渡る 作:そら豆
「私はやったんだああああああああ!!!!ヒャハハハハハハァーッ」
「何度目の夜でも、アルフレート君は元気で安心するよ。ね、アンナリーゼ様」
やはりある程度の物理防御は必要だ。
言ってる事はさっぱり分からないが、こう……何故か絶対に相容れないと確信できるチビと白熱した『議論』または怒鳴りあいをしていた所、少し静かにしてください。という一言と共に猶予無しにツレに顔面を叩かれた。
正確にはただ口を塞ごうとしただけなのかもしれないが、勢いが良すぎて口の中を噛んだ。ツレの筋力がおかしい。痛みに思わず口元を手で覆う。チビには鼻で笑われた。
「……まず、申し訳ありませんが血をお譲りする事はできません」
残念な生き物を見る様な目を向けつつも、女医は自分には何も言わずに断りを入れる。怪我や病でもなく、本当に必要とする訳では無い、と判じられたのだろう。そう言った事に使う余裕はないそうだ。
本当にそう言って居るかは分からないが。
話す言葉とほぼ同時に、ツレが母国語に訳した物を綴っていく。そこに偽りがあっても、自分が気づく事は難しいだろう。
というか、こいつの頭はどうなって居るんだ。流石に気持ちが悪い。よく異国の言葉で会話をしながら、訳文を書ける……。
「人間の使用する言語なんですから、少し勉強すれば理解できますよ」
むしろなぜ教えているのに殆ど喋られないのか? とでも言いたげだ。
「そうですか……。残念ですが、私の血だけで頑張ってみます」
この国の言葉で喋った自身の言葉も同じように綴る。
「いや、待て。お前一人で輸血液の代わりに成る訳ないだろ馬鹿か」
「君が上手く立ち回ればいけますよ。馬鹿みたいに前に出なければ」
馬鹿、と言う言葉が気に食わなかったのかカウンターよろしく『馬鹿』と言われる。
この同行者の血はどこか甘く、癖になる。くれると言うのなら、いくらでも欲しいと言うのが本音だ。だがお前の様なクソのせいで罪悪感を抱くのも癪なので、取り敢えずこの目前の二人分の血液で足しにして貰いたい。
「お話を聞きたいので、少し待ってください」
いくら金を掴ませての占領だとは言え、流石に血をぶちまけるのには気が引ける。そっと服の下のスローイングナイフへ、手を伸ばそうとした所でツレがこちらを見向きもせずに言う。……頭の後ろに目玉でも付いているのか。
こちらの会話は女医への訳文にはしていない様で、不思議そうにツレへ視線を向ける。言葉に籠められた小さな棘に気づいたのだろう。
「そちらの方は何と?」
「私が血を抜くのが嫌なんだそうです。この人は私がとてもかわいいんです」
「は、はあ……」
女医は思い切り当惑した表情になる。この国の人間はやたら謙遜する、とはツレの言葉だ。自身の事をこうも開けっぴろげに『可愛い』と評する奴は随分変な奴に見えるのだろう。すっかり大人しくなり、女医の方ばかり見詰めていたチビが完全に見下した目をしている。
「趣味と頭が悪い子なので、反対するんです」
手を伸ばしたスローイングナイフの的は変更だ。
「それでも、気になるので、この人のことは一生懸命に黙らせます……それで、もし、何らかの派閥闘争で研究成果の守秘義務とかが無ければ、鬼について教えて頂けませんか?」
自分に対しての遠慮は微塵もない癖に、ここに来て妙に相手の様子を伺う。こいつ自身、その辺りをやらかして、痛い目を見ている訳だから少しは学習したのだろうか。……するのか? 学習して、他人に配慮するのか? このクソが? するわけ無いだろう。人でなしだぞ? 演技なんて器用な事は出来ないだろうが、思考回路がおかしい奴だ。相対した者が勝手に気遣われてると誤認でもすればいい。
額へ手をやり、年長者の顔で女医は考え込む。医療者の癖に実に人間味のある苦悩の顔だ。市街に居た女医も、裏手に死骸の山を築きながらそんな顔をしていた。話した事は無いので、何を思案して居たかは知らないし、興味もないが。
「良く、聞いて下さい」
しばし沈黙した後に、何か覚悟を決めた様に息を吐きそう告げる。聞き分けの悪いクソガキに言い聞かせる様な声音だ。ツレがぼそりと、これ、怒られる時の前置きでよく聞いたやつです、と呟く。
だがツレの経験則は裏切られ、女医が話始めたのは『鬼』とはどういう物か、という話。
どんなに恐ろしく、悍ましく、憐れな存在であるか。
……少なくともこの女医の語り口調には憐憫に近い物が混じる。獣を人だと判断して、狩る事が出来なくなる奴も居る。鬼も元は人だと言うのなら、その類の話だろうか。
自分としては、元は何だったかなど知った事ではない。
至極真剣な顔で、女医は懇々と鬼に関わるべきではないと説く。幾ら自分達が、故郷で似たような存在に触れて居ようが、危険な事はすべきではない、と。
どうやらこの国の獣たる鬼は、神秘の様な『血鬼術』を使う種類も居るのだそうだ。何とも面倒くさい。
そして全ての鬼の根源である鬼舞辻無惨だとか言う、最も恐ろしい鬼。不死の存在。
女医が切実にそれを語り、危険性を訴え一切から手を引けと言う。残念ながら、その説明はあまり腑に落ちない。脳に染みて来ない。実感が沸かない。
万一自分達……というよりもツレの持つ異国の医療技術が伝わったらどうなるか……という事らしい。実際の所、このロクデナシが医療と呼ぶものを知ったら彼女の考えも変わるかも知れない。
殴って血が出るなら殺せる、というのは夢を見る狩人共の不文律では有るが、本当に『殺す事のできない』存在も居る。
自分達が『鬼』を知らない様に、彼女達も『獣』を知らない。
「殺せないのなら、地下遺跡や廃城にでも押し込んで置けばいいのでは? 誰にも何にも触れなければ、それは居ないのと同じでしょう? うっかりお馬鹿さんが道を開いてしまう事故とか、そうそう起きませんよ」
どうやら、ツレも同じ思いの様でけらけらと笑う。その発言にも女医もチビも硬い表情を崩さない。
どうにも自分達の思考に同意できないらしい。捕まえて拘束出来る位ならば、苦労しないとでも言いたげだ。
「ですがええ、はい。分かりました。貴女方がそこまで言うのなら、偶然出会わない限りは接しない様にします」
一頻り笑った後に、急に真顔で聞き分けのいい事を言う。
……本当だろうな?
「お忙しい中お時間を割いて頂きありがとうございました」
ぺこりと頭を下げ、顔を上げたままに首を傾げる。
殆どが自分達の行いを止める為だろうが、有益な情報は得られた。もう女医たちに向かう興味が尽きかけているのかもしれない。
「私達は本業ではありませんが、獣狩りや血の扱いは慣れて居ます。お手伝いできる事はありますか?」
随分と殊勝な態度で、稀にやって居たお利口さんでお上品ぶった顔をする。実に胡散臭い。自分だったら早急に距離を取る。
そのロクでも無さが、女医に伝わったのかは不明だが再び思い悩む様にしてから、何かを口にしかけゆるりと首を振り、否定する。
「いえ、大丈夫です。ただ、私の話した事を忘れないでください。これ以上、鬼にも鬼舞辻に近づかないように」
「はい。心得ました。ええ、ええ。大丈夫。私、言うなと言われた事はちゃんと口を噤み続けますよ。目を抉られようが、腸を剥がされようが、黙っていますよ。ねえ?」
要は人でも鬼でもツレの呼ぶところ異星の使者ですらない、残骸とはいえ日光を克服させるような手立てが伝わって欲しくないのだろう。
ただ正常な判断が出来る相手なら、絶対に受けたいとは思えない手法でもって行われている代物なのだが……。
こちらへの同意を求める視線は無視しておく。
「もう暗いですし、明日の朝に成ってから出られては?」
というツレの言葉に女医は固辞し、お礼と言ってはあれですが、と獣除けの香を渡そうとしたが、それも断わり焦る様に夜闇へ歩んでいった。
「とても、詰らない生物ですね。精々が人の中での上位者、いえ、人間臭すぎる獣……でしょうか? 思考の次元が低いままに甘んじて先を目指さない何て、可哀想な生き物」
二人きりに戻った一室でツレが心底詰らなそうに、受け取り拒否された獣除けの香を香炉へ入れながら言う。
部屋に満ちていた甘い血の香りが霧消して、馴染んだ匂いが漂い始めた。
自分的には、お前らとどっこいのクソじゃないのか? という印象だ。傲慢で傲岸で人でなし。きっと存在しない方が静かに暮らす凡庸で善良な人間にはありがたい。
もちろん『クソ』の内訳には自分も含まれるが。楽だからと思想も何も理解せずに儀式の為に人を攫ってくる狩人崩れも、いい迷惑だろう。
要するに自覚の無い糞野郎が害獣を勝手に憐れんでいる。とても滑稽な様子。
ただ自分は、やはりその思考など理解も同調もせずに、顔が好きだからと糞野郎の肩を持つ。
「まだ捕まえる気か? あれだけ言われたのに」
ヤーナムの獣の如く周知の存在で市民全てが警戒する訳では無く、公にされた『狩人』も居ない。そんな話を聞けば、実はそれ程困っては居ないのでは? と思ってしまう。
なんせ今日も、街は下品な人工の灯りで華やかだ。この国の殆どの住民今日も平穏に存在している。
本当の窮地に立ったなら、街ごとだろうが辺り一帯焼き尽くせばいいのだから。
「そうですねー、鬼という存在は面白いですけど、まだ使える目処は立っていませんし……鬼舞辻さん個人には大した興味もありません。上位者……血族とも違うようですし」
一通り眺め直した紙片を束ねながら、心底から興味無さそうに言う。
「ああでも、鬼という生物の根源そのものだと言うのなら、験体としては理想的ですね?」
納得したように一つ頷き、腹立たしいほどに綺麗な顔を向ける。
「お会いする機会が有ったら、捕まえるという程度でいいです。折角ですので、人である事を治療してあげましょう」
正直ロクデナシが何を言ってるのかさっぱり分からないが、前のめりに獣に突っ込んで行く様な事には成らなそうで安心する。自分から向かって行く訳でもないのだから、女医の忠告を無視する訳でもない。ヤーナムの探究者に良心で訴えかける事程無駄な事はないだろう。
それにしても、何という言いようだ。
少なくとも、鬼を認識している者達にとっては間違いなく怨敵だろうし、その根源への呪詛などどれだけの物か。それをこのロクデナシは『会う機会があれば材料に』程度の認識しか抱いてない。獣風情の行いには何の関心も無いらしい。
他者への共感力が著しく欠如しいている。
「この国での確りした指針が決まるまでは、使えれば儲けもの位で、行く先に鬼が居たらいろいろ試してみましょう」
そうやって、鬼でもナニでも無い妙な物体を増やして野放しにでもしていくのだろうか。まさか『オモチチャン』よろしく、全て連れ歩く訳にはいくまい。
それでもまあ、積極的に狩れ、という事で無いのなら輸血液も切迫する事は先送りになっただろう。沈静剤に関しては、今の所神秘が見当たらないらしいから、そこまで急を要する事も無い。
「それは良いがここにはいつまで居るんだ? 次の宛はあるのか?」
「次ですね! 前提として知っておきたい事はいっぱいあるんです!」
問いにはわくわくとした表情で距離を詰めて来る。
「この国の宗教観とか、とても気に成ります。ひょっとしたら、上位者を神と崇めて居た結果かもしれませんから、いろいろ見て回りたいです。日本は『神』が沢山居るらしいので、どれかは本物かもしれませんよ」
「……ああ、そう……。分かったから、あまり寄るな」
ぐいぐいと寄って来る、くらりと酔いそうな甘い血の匂いがする同行者を押し返す。
お前も含め、聖職者などロクでもない奴しか居ないだろうが……このツレが望むなら付き合ってやる他ない。
「行き先と経路は任せる」
「はい。楽しみにしていてください」
……どう考えても、楽しい観光では無さそうなのだが……。
今日の捏造
ヨセフカの診療所の裏?井戸の中?の大量の人骨生産者はヨセフカ先生。
ヨセフカの輸血液、ってヨセフカ先生の血って事ではなくてヨセフカ先生謹製輸血液って事ですよね?自制って、作り方を独自に考案しました~という…。
それの作成過程でも人をガンガン消費してたのかなぁ…先生。と勝手に思ってます。
もっと言うと、聖歌隊からメンシス学派に来た人だと思ってます。偽フカさんが診療所で成り代わるあの獣狩りの夜以前も、普通にやばそうな場所だったのでは?と。
話始めたら、妄想が暴走するのでほどほどに…ただこの次元ではヨセフカ先生も白ではなく、ヤハグルの人攫いさんが『女医』に対して抱く印象を左右する存在になっていますというだけです。
くそくそにどうでもいい趣味趣向の話だと偽フカ×ヨセフカの百合が見たいです。
ツン8割デレ2割の偽フカと自分は嫌われてると思ってるヨセフカ先生が見たい。