魔法少女あすみ☆マギカ ~Rainy Ambivalence~ 作:Κirish
プロローグ「神名あすみちゃん、って言うのね?」
"Ikmuarya on omja. Osno ussetiish ah umoosu."
背を向けて、人の声ともつかぬ鳴き声をあげ、ジャングルジムに逃げ惑う魔女。傷だらけで、体力も尽き、体の至る所から赤黒い液が滴っている。往生際の悪い魔女とは対照に、私──巴マミは華麗に輪舞を躍る。
"Iyma ag ahbuekraek acrhaik ow umsa."
こんな夜に誰もいない。
こんな夜遅くとも明けぬ夜はない。
こんな夜の世界でも確かに助けてくれる人が居る。
あなたにも、分かって欲しかった事なの。
"Iyma !!"
チェックメイトよ、魔女さん。
行き止まる魔女。打ち止まる
「……っ……うぅ……っ……、っひ……ぅ……!」
こんな小さい子までをも襲うなんて。
何のために、こんな子まで喰い散らかすの?
成すがままに命を脅かすなんて、私許せないんだから。
「ふふっ。終わりよ」
誰かを救う度、少しずつ自分のココロも救われる。
私のしている事は、きっと正しい事なんだ。
他の魔法少女の流儀なんて、私は気にならない。
私は──今この子を救いたいんだ。
砲口を突き付け──ちょっと表情も決めちゃいながら微笑む私は、きっと正義のヒロイン。
「──ティロ・フィナーレ!」
──爆破灯りが、まるで夜明けのように
"Omtot iyma ag ahbuekraek ... !!"
コロン──と、
現実世界へと────人気のない夜の公園へと塗り
「ふぅ──」
視界の端に映るもの。チラリ──と視線を移せば──。
「……っ」
震える膝を抱えながら、声を漏らしつつ泣きじゃくる銀髪の──絹のように温かで柔らかなボブカットの少女。魔女結界に巻き込まれ、あわや使い魔に食べられちゃいそうで、けれど運良く助ける事が出来た女の子。
「さっ、立てる……?」
「う、うん……っ」
小さな小さな手と繋ぎ、その手を引っ張って起こしてあげる。瞳は泪に潤い、下唇を噛み締めて我慢するその子は、今もひどく怯えてるよう。
「怖かったよね……。けどもう大丈夫っ。大丈夫だから……」
しょうがないわよね。魔女に襲われたんですもの……。
こんな小さな女の子が、夜に一人で魔女に襲われる。──けれど、この子のご両親は──?
「……ねぇ、お嬢ちゃん?」
「……?」
「その……、お父さんとお母さんは……?」
「……」
こんな夜遅くに、小さな女の子がひとりで歩き回ってる筈がなかった。もしかすればこの子の両親は、先ほどの魔女の犠牲になってしまったのか──。
──だとしたら、私はまた──。
「──ずっと前に、おかあさん死んじゃった……」
「……!」
魔女に食べられた訳ではなかった。けれど、だとしたらこの子はずっと──。
「……早く帰らなきゃ、新しいお父さんに怒られるっ……」
「えっ……」
「新しいお父さんにっ……、頭叩かれちゃうの……っ」
「そんなっ……!」
「でも、助けてくれてありがとう……」
不意に私へ背を向ける女の子。まさか──こんな夜遅くに一人で帰ると言うの? ──いいえ。帰る場所なんて、あるかも怪しい。だって、今この子は言ったの。新しいお父さんに暴力を振るわれるって。それにそろそろ寒くなる季節なのに、薄着のままの女の子。そんな辛い事、あって良い筈ないんだから……!
──でもどうしよう。このままじゃこの子きっと、ずっとひとりぼっちかもしれない。
なんとかしてあげなくては。そう思った時には──。
「──待って!」
「……?」
体が勝手に乗り出てしまった。そして、そう思った気持ちが声として飛び出た。
──よかった。止まってくれた。
「あなた、お名前は──?」
こちらへと振り向いてくれる、濡れたままの瞳の女の子。小さなお口がゆっくり、静かに開かれて──。
「──み──」
「うん──?」
か細い、か弱い、若干舌足らずな甘やかな声色。
「──あすみ。神名あすみ」
お耳を蕩けさせるようなその声で、この子の名前が告げられた──。
──また
確かに私は今日、この子の命
私の始まりは『見捨てる事』に依った。助けを乞い、惨めに生き残り、そして尚も『見捨てる事』によりまた始まった。自責の念に蝕まれる私は今度こそ「もう誰一人見捨てない」と駆り立てられた。そして今も駆り立てられ続けている。
──なのに、また
これからこの子と手をつないでくれる人なんて、きっともう誰も居なかった。だからこのとき掴んだ。
──あすみちゃんに出逢えて、良かったのかな……。
私と出会った事で、この子の行く末が定められてしまったのではないか。どうして、この子を救えたのだろうか? どうして──。
「神名あすみちゃん、って言うのね?」
「……うんっ……」
この日を以って、きっと私の行く末も決まったのだろう──。
夜の大空に光を灯す満月に、私とあすみちゃんが照らされていた──。