魔法少女あすみ☆マギカ ~Rainy Ambivalence~   作:Κirish

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憎悪の物語 -Abhorrence-
プロローグ「神名あすみちゃん、って言うのね?」


"Ikmuarya on omja. Osno ussetiish ah umoosu."

 背を向けて、人の声ともつかぬ鳴き声をあげ、ジャングルジムに逃げ惑う魔女。傷だらけで、体力も尽き、体の至る所から赤黒い液が滴っている。往生際の悪い魔女とは対照に、私──巴マミは華麗に輪舞を躍る。

"Iyma ag ahbuekraek acrhaik ow umsa."

 こんな夜に誰もいない。

 こんな夜遅くとも明けぬ夜はない。

 こんな夜の世界でも確かに助けてくれる人が居る。

 あなたにも、分かって欲しかった事なの。

"Iyma !!"

 チェックメイトよ、魔女さん。

 行き止まる魔女。打ち止まる結界(迷宮)。もはや逃げ場なんてなく、私と向き合う他なんてない。

「……っ……うぅ……っ……、っひ……ぅ……!」

 こんな小さい子までをも襲うなんて。

 何のために、こんな子まで喰い散らかすの?

 成すがままに命を脅かすなんて、私許せないんだから。

「ふふっ。終わりよ」

 誰かを救う度、少しずつ自分のココロも救われる。

 私のしている事は、きっと正しい事なんだ。

 他の魔法少女の流儀なんて、私は気にならない。

 私は──今この子を救いたいんだ。

 砲口を突き付け──ちょっと表情も決めちゃいながら微笑む私は、きっと正義のヒロイン。

「──ティロ・フィナーレ!」

 ──爆破灯りが、まるで夜明けのように闇夜(結界)を照らす──。

"Omtot iyma ag ahbuekraek ... !!"

 (意義)を失くした亡霊は、天に召されるが如く霧散する。

 コロン──と、黒い宝玉(グリーフシード)へと魔女が還り、その狼藉にピリオドが打たれた。

 

◆◇◆◇◆

 

 現実世界へと────人気のない夜の公園へと塗り()えられる。

「ふぅ──」

 視界の端に映るもの。チラリ──と視線を移せば──。

「……っ」

 震える膝を抱えながら、声を漏らしつつ泣きじゃくる銀髪の──絹のように温かで柔らかなボブカットの少女。魔女結界に巻き込まれ、あわや使い魔に食べられちゃいそうで、けれど運良く助ける事が出来た女の子。

「さっ、立てる……?」

「う、うん……っ」

 小さな小さな手と繋ぎ、その手を引っ張って起こしてあげる。瞳は泪に潤い、下唇を噛み締めて我慢するその子は、今もひどく怯えてるよう。

「怖かったよね……。けどもう大丈夫っ。大丈夫だから……」

 しょうがないわよね。魔女に襲われたんですもの……。

 こんな小さな女の子が、夜に一人で魔女に襲われる。──けれど、この子のご両親は──?

「……ねぇ、お嬢ちゃん?」

「……?」

「その……、お父さんとお母さんは……?」

「……」

 こんな夜遅くに、小さな女の子がひとりで歩き回ってる筈がなかった。もしかすればこの子の両親は、先ほどの魔女の犠牲になってしまったのか──。

 ──だとしたら、私はまた──。

「──ずっと前に、おかあさん死んじゃった……」

「……!」

 魔女に食べられた訳ではなかった。けれど、だとしたらこの子はずっと──。

「……早く帰らなきゃ、新しいお父さんに怒られるっ……」

「えっ……」

「新しいお父さんにっ……、頭叩かれちゃうの……っ」

「そんなっ……!」

「でも、助けてくれてありがとう……」

 不意に私へ背を向ける女の子。まさか──こんな夜遅くに一人で帰ると言うの? ──いいえ。帰る場所なんて、あるかも怪しい。だって、今この子は言ったの。新しいお父さんに暴力を振るわれるって。それにそろそろ寒くなる季節なのに、薄着のままの女の子。そんな辛い事、あって良い筈ないんだから……!

 ──でもどうしよう。このままじゃこの子きっと、ずっとひとりぼっちかもしれない。

 なんとかしてあげなくては。そう思った時には──。

「──待って!」

「……?」

 体が勝手に乗り出てしまった。そして、そう思った気持ちが声として飛び出た。

 ──よかった。止まってくれた。

「あなた、お名前は──?」

 こちらへと振り向いてくれる、濡れたままの瞳の女の子。小さなお口がゆっくり、静かに開かれて──。

「──み──」

「うん──?」

 か細い、か弱い、若干舌足らずな甘やかな声色。

「──あすみ。神名あすみ」

 お耳を蕩けさせるようなその声で、この子の名前が告げられた──。

 ──また見捨てる(・・・・)の?

 確かに私は今日、この子の命()救った。でも──だからと言って、これからを見捨てて良いのか。居場所がないって分かってるのに、みすみすこの子を地獄へと返して良いものか。

 私の始まりは『見捨てる事』に依った。助けを乞い、惨めに生き残り、そして尚も『見捨てる事』によりまた始まった。自責の念に蝕まれる私は今度こそ「もう誰一人見捨てない」と駆り立てられた。そして今も駆り立てられ続けている。

 ──なのに、また見捨てる(・・・・)の?

 これからこの子と手をつないでくれる人なんて、きっともう誰も居なかった。だからこのとき掴んだ。

 ──あすみちゃんに出逢えて、良かったのかな……。

 私と出会った事で、この子の行く末が定められてしまったのではないか。どうして、この子を救えたのだろうか? どうして──。

 

「神名あすみちゃん、って言うのね?」

「……うんっ……」

 この日を以って、きっと私の行く末も決まったのだろう──。

 夜の大空に光を灯す満月に、私とあすみちゃんが照らされていた──。

 

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