魔法少女あすみ☆マギカ ~Rainy Ambivalence~   作:Κirish

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業苦の物語 -Karma-
第4話「お前は誰だ」


 重体だ。白い肌に刻まれた、ぱっくりと赤く割れた幾重もの切傷。魔法少女でない一般人でならば凡そ即刻病院送りとなると見るが当然の傷。さもなければ感染症か失血死で、文字通り死神の鎌にてじわりじわりと、時間を掛けて傷を刻まれ、苦しめられ、楽しみ尽くされた後にはその首を刈り取られる。

 けれど千歳ゆまは違う。この子は曲がりなりにも魔法少女──それも、杏子に全治三か月の傷を負わせられたとしても即刻立ち直れる魔法──治癒魔術使い──を持つ美樹さやかをも上回る能力の持ち主だ。千歳ゆまが切り傷程度で斃れるなどほぼほぼ有り得はしないと言って良いだろう。

「ゆまっ! オイしっかりしろ! ゆまぁっ!」

 如何なる経緯で杏子がここまで肩入れするのかは、美国織莉子の時空以来未だ分からない。傷だらけの千歳ゆまの肩を持ち、前後前後の揺らし気付かせようとする。けれど凡そ意識と言える意識など無く、虚しく開かれた瞳は虚空を射抜くのみ。未だ魔女化していない事が不思議な程に、また杏子がグリーフシードを必死に押し当てても落ちない程にまで濃く濁り切っている。

「──おかしい」

 千歳ゆまの精神は、歳不相応に強靭なモノと言えた筈。

『いつかは今じゃないよ──』。私達魔法少女はいずれ魔女へと堕ちる。自らの手で狩り尽くさんとしてきた魔女が、全て自らの同族だった。『正義』の為に魔女を狩る事こそが巴マミとしての柱とも言える矜持であり、柱が折れれば後は瓦解する他なく、いつだってその最期は仲間を巻き込み心中を図ろうとする無残なモノだった。だが千歳ゆまは、そんな巴マミをあの言葉で思い留まらせる程にまで精神が強靭だ。そんな千歳ゆまが魔女化寸前にまで追いやられるなどまず考えられはせず、まして単なる魔力消費ごときで追いやられる線もない。ならばひとつ可能性として思い浮かぶ。『誰かに濁らせられた』と言う事。実際あるのかは存じないけれど、一つは自らの穢れを他者に押し付けるなどと言った固有魔法があるとするならば、こうして千歳ゆまを葬らんとする事も不可能ではない。次に一つは敵のみを穢れさせると言う魔法。だがこれはまず考えられない。魔法少女のソウルジェムが穢れる要因としては、魔力消費か若しくは不安や猜疑心、または憂鬱により精神そのものが穢れる事。その様な精神とは無縁の魔法少女を濁らせるなど、穢れを押し付ける等の魔法でなければ無理な話だ。最後の一つは、そもそも敵の精神自体を腐敗させる魔法。これであれば理論上魔女化寸前にまで追い込む事は可能。だがコレこそが一番厄介なパターンだろう。魔法少女の最大の敵──それは絶望。そのココロを腐敗しきらせてしまえば、穢れ切ったソウルジェムはグリーフシードとなり、言わばその存在そのものが魔女へと変貌し、事実上は人として死を迎える。だがそのような魔法を使う者は、これまでの時間軸の中では知らない。恐らくは『ソイツ(アンノウン)』が千歳ゆまをここまで追いやった事だろう。もとい、タネの未だ分からぬマジックを披露されているようだ。タネを暴くまでは迂闊に早計には動けない。さすれば奇術に魅入られ、その身を魔女として食われる他はない。そしてもう一点だけ、幾多もの時を超えた私からすれば不可解な事が。

「あすみちゃん……っ!」

 巴マミに涙ながら抱擁されている小柄な少女──神名あすみ。千歳ゆまと同じく切り傷に塗れ、運動靴と砂埃に汚れた床がザリザリと小うるさく擦れる程にまで、今も躰をガタガタと震わせ怯えている。股辺りには濃く濡れたシミを作り、アンモニア臭がツンと鼻を刺す。

「っく、くろのっ、ま……まほうしょうじょっ、ゎ、わたしたち……襲ってっ……。っ……ぅああ……っ! うわぁあぁあんっ……!」

「っ……! ごめんね……! すぐ来てあげられなくてごめんねっ……!」

 二人して抱き合い、声にあげて嗚咽を漏らす。

 黒の魔法少女?

 彼女は今そう言った?

 思い浮かぶは呉キリカ。魔法少女を散々刈って回った彼女なら、この様な行いに手を染めてもおかしくはなく、実際かつての時間軸では手を染めた。だが先の『気配』は違う。呉キリカのものではない。故に呉キリカの犯行ではなく、たまたま色が同じ『黒』だったのか、それとも──。

「今すぐっ、今すぐ治してあげるからっ……! だからじっとしててっ……!」

「うんっ……。ぐす……っ」

 治癒を掛けられる神名あすみ。指を確認した所『指輪』は見当たらず、『紋章』も見て取れない。と言うのも、おしゃれの一環か──私は長らく入院生活を過ごしていた為に疎い事ではあるが──爪に塗料を塗りつけている。よって今の所、魔法少女か否かは判別不能。それに──。

「──!」

 コンマ何秒レベルの一瞬ではあるものの、神名あすみの視線がこちらに向けられた。単に私を見ただけなのか、私が彼女を『見た』事に気付いての事なのかは、彼女のココロを覗くなどしない限りは分からない事。

「あすみちゃん立てる……?」

「……うんっ。で、でもマミおねえちゃんっ、ごめんなさいっ……! ゎ、わたしがっ、わたしが弱いからっ。弱くて、キュゥべえ見えないからっ……! 契約できないからっ……!」

「ううん! あすみちゃんは悪くないの! 私だってすぐに気付いてあげるべきだった! 怖かったよね……?」

「っ……ぐす、マミおねえちゃん、悪くないもん……!」

 巴マミと思い合い、なおも頬を濡らす神名あすみ。あの獣を視認出来すらしない。つまりは素質が志筑仁美レベルになく、そもそも魔法少女の運命に巻き込まれる心配などとは一切合切と言って良いほど無縁のもの。

 そんな少女を巴マミはまた連れ回しているの?

 まったく懲りない女よ……。

 今周回においても、毎度のごとくまどかと美樹さやかを魔女結界に連れ出すなどと言う大変愚かしい事をやってのけていた。キュゥべえを──その『真の目的』を知らずして妄信しているからか、まさに文字通り契約営業の為にまどかにストーキングしている事を『選ばれた』などと聞こえ良く勘違いしたうえで、都合良き魔法少女の後輩を作らんとしていただけの事。だがどうしてか、今周回ではそんな愚かしい行いも中断された。これでまどか達は魔法少女の世界に深入りする事なく、今まで通りの、詢子さんや知久さん、そしてタっくんに囲まれる温かな『幸せ』とも言える日常を過ごせられる。だがどうだろう。その代わりに魔法少女の世界に踏み入れたのが神名あすみ。まどか以外はどうでも良い私としては、まどかを手放してくれた事が何よりもありがたい事ではあるものの、それにしても素質を持つまどかや美樹さやかを連れ出すよりも余程タチが悪過ぎる。訳が違い過ぎる。神名あすみには素質など無い。いざと言う時に契約──するべきではないものの──して生き延びると言う算段も取れはしない。巴マミはそんな事も考えずして、神名あすみを『この世界』に巻き込んだのだろうか。あまりに愚かだ。愚かし過ぎる。

「巴マミ、あなた──」

「話は後! 今すぐゆまちゃんも運ぶのを手伝って! 私はあすみちゃんを支えるからっ!」

「ぁ、ゎ、わたしっ、ひとりで歩けるよ……?」

「無茶おっしゃいっ! 言ったわよね? あなたを必ず守るって……!」

「っ、ぐすっ、マミおねえちゃん……っ」

 ふざけないで、と今すぐにでも巴マミに平手を打ってやりたかった。『守る』などと、そんな無責任な事を信じさせ、ましてや魔法少女になれなどしない普通の少女をここまで妄信させるなど言語道断。もし巴マミ自身が居なくなってしまえば、あとはどうなるか? かつてどこかの時間軸にてマミを失った事も、まどかが契約に走る要因となった。今度は巴マミを失ったと言う重荷を背負ったまま、神名あすみはこれから生きていく。契約は出来ない以上彼女より幸せである事は間違いないものの、それがどれほどに残酷な仕打ちか巴マミに分かったものか? 大切な人を失い、ずっとずっと心に孔をあけたまま生きる事が、どれほどにまで胸を締め付ける事か。

 この時間軸の巴マミは、きっともう駄目ね。

 脆弱な一般人少女が私たちと同じ世界に踏み込み、あんなにまで傷だらけにされて生きていられる事の方が、星の数ある中から選び抜かれた奇跡も奇跡同然だ。毎日のように魔女──最悪魔法少女に食われ犠牲となる人々の事を考えれば尚の事。人間など星の数ある『犠牲』の前では貧弱過ぎる。神名あすみも近々その『犠牲』に身を堕とすに違いない。すれば巴マミのココロは腐敗しきって、使い魔をリボンで緊縛する魔女へと堕ちる事だろう。さらに悪い事に佐倉杏子でさえ怪しい。千歳ゆまがこのまま魔女化すれば、彼女は『最期の希望』を失う。『希望』と言う名の理性失われし魔法少女は、同じく魔女となる。

 最低な時間軸ねこれは。

 もはや対ワルプルギスの夜の戦力としてはカウント出来ないかもしれない。戦力は私──暁美ほむらただひとりのみ。唯一の救いと言えば、まどかが早急に魔法少女から離れる事が出来た事だろうか。

 

◆◇◆◇◆

 

 ──そして巴マミの自宅の寝室にて。

「クソっ! ジェムの濁りがまだ酷ぇ!」

 今回で何個めか。千歳ゆまの浄化に三個超えたあたりから用いたグリーフシードを数えるのを諦めた。浄化しても浄化してもこびりつくヘドロの様に、その穢れが霧散する事を知らない。

「なぁほむら! ジェムが濁ったらどうなるんだ……!?」

 情報通と見てか、佐倉杏子には似つかわしくなく瞳を若干に潤わせながら私に叫ぶ。巴マミがこの場に居る以上。魔女化の真実は伝えられない。伝えたらこのマンションの一室は即刻魔女の結界へと変貌するからだ。

「おおよそ死ぬと思って間違いはないわ」

「そんなっ──!」

「──クソっ!」

 時間──深夜だと言う事──も考えず、奥歯を噛みしめ八つ当たるよう壁に拳を叩きつける。ソウルジェムが穢れきれば死を迎える。そして魔女化は人としての死も同義。

 まるでキュゥべえね。

 上手く言い訳る私が宛らあのあれほど憎んだ獣と重なり、己を嘲笑いたくもなる。して、聞こえるべき音が聞こえぬ事への違和感が、彼女へと視線を移させる。

「っ……、っ……」

 神名あすみだ。巴マミと佐倉杏子の反応からして、ソウルジェムが限界を迎えれば死を遂げる事などキュゥべえから聞かされもしなかったと見える。にも拘わらずこの子──いや、コイツは声をあげすらしなかった。それに神名あすみは巴マミに依存しきっている筈。そして自己犠牲精神が旺盛で涙もろい。巴マミが遅かれ早かれ死を遂げるかもしれないとなれば、何らか反応を示すのが当然だろう。何せ呉キリカ──なのだろうか──を前に小水をチビらせた程だ。

「──神名あすみ」

「ふぇ……っ?」

「少し私と話をしないかしら」

 目じりに球の涙を蓄え、赤く腫らした目を私に向ける。

「ちょっと暁美さん──!?」

 ほら来た。依存した娘を取られまい。この子に手を出したらただじゃおかないと言わんばかりに、唾が飛ばんが勢いで怒鳴りつけられる。

「事情聴取よ。あなただって知りたいでしょう? 神名あすみと千歳ゆまをひどく傷つけた犯人を」

「だからって……!」

「それに、神名あすみが拒むと言うのなら強制はしないわ。どうかしら、神名あすみ」

 巴マミに判断を委ねる事自体態度から愚問ということ。ならば神名あすみの意思を尊重するしかない。彼女本人が良いと言うのなら、巴マミとしても断りようがない。彼女の意思を踏みにじる事などきっと出来はしない。こいつが『黒』であれば、ここで拒まれてもおかしくはない。──いや、それとも──。

「……いいよ」

 意外だった。てっきり首を横に振られる物かとばかり。だが油断してはならない。これから屋上にて、二人きりになったのを良いことに、その本性を曝け出してくる事も大いに考えられ、ひとまずは第一関門を突破と称せただけの事。

「あすみちゃん──!? でもその人はっ──」

「ううん! わたしのせいでこんななっちゃったの。だから、今度はわたしが頑張る番だから……! だからわたし、ほむらお姉ちゃんの言うこと聞いて、ぜったいぜったい犯人を捜してもらうの!」

「っ……! あすみちゃん……っ!」

 目頭を押さえながら、その小さな躰を抱擁する。悪者なのは『犯人』に違い無いのに、己に責任を感じている巴マミ。加えこんな健気にも健気過ぎる良い子となれば涙を禁じ得なくて当然。これで『黒』ならば、私は心底神名あすみが恐ろしく、そして忌々しく、反吐が出る──。

 

◆◇◆◇◆

 

 白き風音がぴゅうぴゅうと耳を鳴らす、寒空の下──マンション屋上にて事情聴取。その瞳に何を見たのか。何が千歳ゆまを穢れさせたのか、何が神名あすみを傷付けたのか。その全てを彼女から聞く必要がある。そしてその犯人を探し出す為だけではない。神名あすみが『黒』の魔法少女でないかどうかを見定める。

「──神名あすみ」

「ひ……っ! は、はいっ……!」

 唇を噛みしめ涙を蓄え上目を遣いながら、肩を上下に震わせ尚も怯えられる。それでも怯えを堪え込み、気丈に振る舞わんとする。何を聞かれるんだろう。何をされるんだろう。自らが如何に悪者でなかろうとも、こうして詰問されようとなれば緊張は避けられない話だ。

「まず、あなた達を傷付けた魔法少女について教えてくれるかしら」

「えっとっ、く、くろのっ……」

「黒いのはあの時聞いたわ。もっと他に特徴が無かったかしら? 剣を飛ばしてきたりとか、水晶球から光線を浴びせてきたりとか」

 美国織莉子でもなく、ましてや美樹さやかでもない筈。前者はともかくとして、美樹さやかがか弱き少女をめった斬りにするなど、天地がひっくり返ろうとも有り得ない事。いつだってあの子は『正義の味方』としての巴マミを妄信し、いつだって私に罵声を浴びせてきたもの。そんな彼女が獣道に堕ちようなどとは、魔女化する時ぐらいしか有り得ない。──さて、この質問できっと『犯人』の正体か、はたまた神名あすみの『正体』が判り明かされるだろう。して、神名あすみはその小さな小さな、噛みしめた唇を震わせながら、ゆっくりと開いた。

「っす、すごく速くてっ。つ、爪でね……? ぶしゃっ、って、斬ってくるのっ。そ、それでっ、ゆまちゃんも、ゎ、わたしもっ……! っぁあ……あぁああっ……!」

 ──呉キリカだ。

『黒』の魔法少女にして、魔法少女狩り。その能力は速度低下。あたり一帯のあらゆる物体の速さを下げ、自分だけはそのままの速さでいられる。実質上の高速化魔法であり、その鉤爪で敵をズンバラリンに刻んでゆく。

「……そう、災難だったわね」

「っ……うんっ。ぐす……っ!」

 ゴキブリの様に『黒』く速く、また瞬く間に躰を生きたまま切り刻まれる。全身が紅く染め上げられ斃れ、最期はその首を跳ね飛ばされる。ああ、なんて災難。年端もいかない少女が、死を目前とする──そんな目に遭うなんて、どれほど恐ろしかった事だろう。速くては抵抗する隙すら与えられず、抵抗さえも許されない。そんな中で生き延びられた事こそ、まさに奇跡。

「なら、もう一つだけ聞くわね」

「は、はいっ……」

 瑞々しい恐怖を再起させられ、再び泣いてしまって濡れに濡れそぼった瞼を擦りながら頷く神名あすみ。そんな彼女に、私が問うべき事は──。

 

「──お前は誰だ(・・・・・)

 

「……」

「……」

 黒光るハンドガンを突き付け、しばしの静寂。沈黙。

『黒』の魔法少女にして、魔法少女狩り。その能力は速度低下で、武器は鉤爪。確かに、呉キリカそれそのものと断ずる他ない特徴と言える。だが私は──。

「生憎だけれど、魔法少女狩りの『気配』を私は知っている」

 それも忌々しい程にまで。まどかの命を奪った大罪人の手駒の気配を、私が忘れる筈もない。先の気配はそいつらとも違った、未知の気配。つまり導き出されるは、コイツがウソを()いたと言う事。

「もう一度聞くわ。お前は誰だ」

「──」

 黒光りする現代兵器の照準を当てられた少女。涙に濡れた泣き虫な表情はどこへやら。濡れた瞼は乾き切り、震えていた筈の唇は──発する言もなく閉じられる。表情などなく、さながら能面がごとく──。

「──フフ」

 ──なんだ、これは。

 表情が移ろい変貌してく。口角を、そのまま刃で引き裂いたような──。白い歯茎をも露出させ、銀の瞳は引ん剥かれた笑みに、全身の肌に虫が這うかの如き寒気を帯びる。

「──あーあ。迫真の演技のつもりだったのになぁ」

「──ッ!? あなたやっぱり──!?」

「でも、ま。バレちゃったのならソレもやる必要ない、か。うふ……♡」

 ケタケタとゴキブリの羽音の様に、忌々し気な目の前の『人間』を翻弄し、邪気たっぷりに無邪気に嘲笑う神名あすみ。

「あなたなのね。千歳ゆまを魔女化寸前にまで追いやったのは──!」

「あらぁ? その様子じゃやっぱりもう魔女化はご存じなのかしらぁ? やっぱシカメに執着するだけはあるわねぇ……?」

「シカメ──? ……鹿目(かなめ)まどかの事──!?」

「ふぅん……? やっぱりシカメの事スキなのね? わたし知ってるわよぉ? そう言うのってレズビアン、って言うんでしょう? あぁ気持ち悪い……♡」

 コイツまどかの事まで知って──!?

 否、私がまどかを守ってる事まで知られている。誰にも知り得ない筈のその事実を。おそらくはキュゥべえから聞き出したのだろうが、そこを重点に聞き出せ得ぬ程にまで私は、かつてなく酷く心臓が鼓動を打っていた。羽虫の羽音の様におどける神名あすみを前に、脈打つ鼓動に、額に汗がまとわりつく。

「──ふふッ。えぇ、そうよぉ? わたしがあのガキを昏倒させたの」

「くッ──!」

 やはりコイツは『黒』──!

 指を添える引き鉄(トリガー)の、チャキ──と小気味よい金属音と共に照準を合わせる。

「あぁあぁもう。そんな物騒なモノ向けないでよ。みっともない」

「ゴタクは良いわ今すぐ戻しなさい! 千歳ゆまに掛けた妙な魔法を今すぐに解除しなさい!」

「解除しなかったら?」

 当然──。

「お前をココで殺す」

 神名あすみの固有魔法は不明。昏倒させたとある事から、恐らくは精神に利くに類する魔法。長引かせるは悪手も悪手。でなければ私が『喰』われる。要求を拒むなら即刻ここで時を凍らせ叩き潰すしかない。──だが、それにしても唯一のネックがまだ懸念される。コイツはソウルジェムを意図的に隠している。急所を狙って勝ち逃げる事を許されていない。

「殺しちゃうのに治せですって? 殺しちゃったら治せないじゃない? もしかしてお姉ちゃん、アホ?」

「減らず口を叩けるのも今の内よ。あなた程度、即刻今この場で叩き潰せるもの──!」

 ソウルジェムに手を掛け、眩い紫の光を漏れ出させながら魔法少女衣装を身に纏おうとし──。

「あ、待った」

 口角を吊り上げ、およそ微笑みとは程遠い嘲笑を向けられる。

「何?」

「今ココで変身しても良いワケ?」

「何が言いたいの? 命乞いのつもりかしら」

「ううん。どっちかと言えばそれはアナタでしょお?」

「は……?」

「さっきのマミお姉ちゃんの口ぶりからするに、アナタ……些か信用されてない様ね?」

「──だから?」

「これだけ言ってまだ分からないの? キュゥべえがイレギュラーって呼ぶ割にはフシアナ過ぎない? 超ウケるんですけど?」

「ゴタクは良いわ。その下衆い口を今すぐ閉じなさい」

 耳を傾けてやる価値も無かった。

「あら、せっかく警告してあげてるのになぁ……」

 時間稼ぎか、それこそ命乞いによる無駄口でしかない。私は構わず、本紫の宝石に手を掛けて──。

「あぁもうせっかちね! オマエ信用されてないのよ!」

「──!」

「いい? ここでアナタが今変身したところで、絶対わたしに襲い掛かってると思われておかしくは無いわぁ……? マミお姉ちゃんたちに──ね」

「……」

「当然よねぇ? 今の時点ではアナタより、わたしの方が確かな信頼を得てるんだから……! マミお姉ちゃんからありったけの愛情を注いでもらってるんだから……! それでなくても今のオマエ、その鉛弾を今にもブチ込みたいって顔してるもん……! アハハハハハハッ!」

 彼女の言う通り。今周回での私は巴マミの信用を得られていない。そのうえ、恐らく佐倉杏子でさえ私に懐疑的だろう。ここで変身をしてしまえば、間違いなく神名あすみを守らん──と、この屋上に飛び込んでくる。変身した私の『気配』を察知して。けれど──。

「──知れた事よ」

 制服姿にも似た、モノクロの魔法少女服を身に纏い、左腕には機械仕掛けの盾が、ガチガチと歯車が噛み合う音と共に造り上げられる。

「──本気なの?」

「えぇ、生憎『嫌われる事』には慣れてるもの──!」

「へぇ、そぉ……?」

『嫌われる』。それがどうした。

 まどかは運命にさえも嫌われている。嫌われる程度でまどかを守れるのなら、いくらでも嫌われてやる。私はかつてまどかの血でその手を濡らした。例え今更誰かを殺めその手を血に染め上げようとも、あの時の張り裂けそうな『思い』に比べればどうと言う事は無い。今ここで神名あすみの命が絶たれ、巴マミが絶望しようとも知ったことではない。今周回では巡り合わせが悪過ぎた。なら次からは抜かりなく執行すれば良い。この少女の姿をした、銀髪の『悪魔』の討伐を──!

「死になさい、神名あすみ──!」

 瞬間、神名あすみの姿が銀に染まり、割れる鏡が如く撒き散らされる。破片の雨が止んで現されるは、黒と暗き紅、そして灰を基にしたゴシックロリータ調の衣装に身を包んだ少女──神名あすみの、魔法少女としての姿。だがもう遅い。カチリ、と歯車が作動する小気味良い音と共に、世界はモノクロに染め上げられ、そして凍り付く。この世界では何人たりともその体を動かす事を知らない。ただ私一人──そして、私に触れる者を除いて。それからは毎度と変わらない。幾重にも弾丸の幕を張り、魔女の命を刈り取るのみ。そして目の前に居るコイツは人を絶望させる、まさに魔女と変わらぬ悪逆と言えよう。ただやはり変身後でさえソウルジェムを隠している。指輪ですら隠していたコイツが、みすみす急所を晒す筈が無かったという事。ならば威嚇に威嚇を、脅迫に脅迫を重ねて千歳ゆまに掛けられた呪いを解かせたのち、そのカラダを解体する他無い。些か気は進まないが、致し方あるまい。そして時は動き出す。世界がその彩を取り戻す。だが──。

「────!」

 銃弾の雨を浴びせられ、彼女が地に斃れるその瞬間見逃さなかった。私に向けられたその銀の瞳が、ルビーが如く臙脂に染まり輝くその瞬間(トキ)を──。

「っぐ──ぁ──」

 ドシャリと、紅い水溜まりに体を崩す神名あすみ。もはや歴然。他の魔法少女と同様、止められた時空間の前では彼女も無力。圧倒的な武力を手にしている以上、交渉においてはこちらに分があるどころでなく、もはや交渉とは名ばかりか、神名あすみが私の言うことを聞かざるを得ないと言う事。

「もう一度言うわ。千歳ゆまの魔法を解きなさい。さもなくば今度こそお前を殺す」

「……」

 ゆらり──と霊が舞うが様に膝立ち上がる。ドロリ──と水銀にも似た液状の魔力のようなモノが彼女を包み、元の”Love Me”と記されたシャツの、貧相な私服姿へと戻す──変身を解除した。両掌(りょうてのひら)を自らの頭上に上げ、拳銃を突き付けられたアメリカ人がよく見せるような、洋画でよく見かける降参のサイン──ハンズアップを示す。

 呆気なかったわね。

 口を開けば喧々囂々。放たれる音は罵詈雑言なる彼女であらば、もっと足掻くものかと思われた。それも、殺され損ねたゴキブリのように。

「──くヒ──」

 ──否。

 ゴキブリだったならどれほどマシか。ゴキブリはその見た目と生命力のみから忌み嫌われ、不潔で言えばハエやネズミの方が汚らしい。

「ヒヒッ──ヒハ──!」

 羽音はゴキブリ──いやそれよりもっと耳障り。さながら汚らわしさはドブネズミ──いや手を洗えば終いな汚らわしさをも上回る。神名あすみとは──。

「────グギキィィィィィィィィィィィィィィィィィィ────ッ!」

 ──黒板を爪で引き裂かんが如き羽音に、人ひとりの人生を消費する毒を持つ『悪魔』だった。

「何がおかしいの──!? 状況分かってるの──!?」

 銃弾の当たり所が悪く狂った、など結論付けて逃避したいなど愚の骨頂。ありったけの血を抜かれても、脳を磨り潰しさえされても、宝玉(ソウルジェム)さえ無事ならば生きていられるのが化け物(魔法少女)だ。耳を刺す不愉快な引き笑いに、全身の毛穴が開き、風穴と化した毛穴を吹かれ、寒気に侵される中、金属を断ッ斬るが如き高音で罵られる。

「──どれだけ繰り返してるのッ!」

 頭に文字が浮かばない。

 頭に文字が刻まれない。

 頭に言葉が繋がらない。

 私──暁美ほむらは、瞬く間だけその思考を停まらせた。

『繰り返す』? 何を言っているのこの子は?

 呆気にとられ小さな口が開き、愕然とした瞳孔が開ききる私を前に、神名あすみが口を開く。

「ッあぁ~っ……、イィ……っ、とぉっても良いっ……♡」

 フォンデュ(血溜まり)に指を突っ込み、纏わりついたチョコレート(神名あすみの血液)を愛おしく、粘り濃く、恍惚に舐め取り味わい、染まりあがった舌で唇を舐め擦る。

「──『愛』の時間旅行者」

「──ッッ!!」

 そこからはもう堪えられなかった。考えるよりも先に指が動いた。引き鉄(トリガー)を引いた。何度も。何度も何度も何度も──! 小さな躰──否、骨張るケモノじみた悪魔のカラダから、黒い血液が、花弁が如く散り迸る。痛みに堪え、呻きながらもなおも銀の悪魔が囁く。

「──『キュゥべえに騙される前の莫迦なわたしを、助けてくれないかな』」

「お前がそれを言うな──! 言うなぁッ!」

 悪魔の声色で同じ言葉が放たれるなど我慢ならなかった。その言葉こそ、私の『覚悟』の結晶──! あのまどかが初めて、こんな私を頼ってくれた時のあの言葉。あの言葉があるからこそ、今の私がある──! 今も私はまどかを雁字搦めの運命から解放すべく、この鳴り止まぬ心臓の鼓動を打ち続けている。そんなまどかの、まどかの言葉を愚弄するな──!

「っぐ──痛ぁい……っ。そんなんじゃ嫌われちゃうよ? 『ほむらちゃん』?」

「黙れッ!!」

 もはや蜂の巣。唇引き裂いて嘲嗤う悪魔のカラダは穴だらけ。穴なんて無い部位など探す方が難しく、その身を穢れた血に赤黒く染め上げる。

「う──。でもぉ……『愛』なんて言うには綺麗過ぎて、えぇと……あっそうね。お前はヤツの優しさを利用して(使って)いて、依存している。当然よねぇ……? 弱く、気持ち悪い自分に唯一構ってくれたんだもの──! ほんの少しだけの優しさを向けられたぐらいであの子に依存するなんて、まるでストーカー──いや、ストーカーそのものね。気持ち悪い」

 私の指(トリガー)は止まらない。

 胸が熱い──!

 頭の中が熱い──!

 怒りに染まりあがった私の視界は、血が沸騰しているのか淵が紅に染まっている。

「っフフ──! めでたいエゴイストさんですこと。だって『ほむらちゃん』へのお願いって、モロにパシられてるのにねェ……?」

「──!」

 まどかに頼られた私が、パシり──?

 赤く染まりあがった視界が開き、トリガーに掛けられた指が止まる。

「えぇ、そうよ。アナタ、その程度の女だったのよ」

「──その、程度──?」

「そう。己が判断ミスから契約してしまった事の尻拭い。やっぱり魔法少女なんて嫌だった──。大切な人を殺すし、果ては一切の逃げ場がない程にまでその大地を呪いに染め上げる。そんな魔女になんてなりたくない──なりたくないから、『ほむらちゃん』にお尻を拭かせるの。『最高の友達』のほむらちゃんを利用して、ね──」

 ガキリと拳を骨張らせ、ケモノの形をした指で私を指しながら──。

「ふふっ──もうパシり確定ね。それも鹿目まどかの下痢グソがべっとり着いたクソ紙以下よ。下水道ループ、お疲れさまぁ……♡」

 蒼──。

 怒りに沸騰する体とは、その臨界点を超えると却って静まるもの。シン──と冷え切り、不思議と冷静さを取り戻すことが出来る。今の視界は蒼色。たった一発の弾丸が、神名あすみの腹を貫き、血塊を吐かせる。

「ごほ──ッ。……ふふっ。ほむらちゃん、その約束を律義に守ろうとして何度も繰り返してるのよね? それでね? それで聞いちゃうんだけどぉ……。──本当に、あの子を救いたいの?」

「──何」

「──フフッ。知ってる? 人を助ける時の条件。伸ばした手を掴み返してくれること。相手からも助けられちゃったって思われてこそ成り立つモノなの。けどアナタ、そう出来た試しがあるの?」

「……」

「あの子の為なんかじゃない。暁美ほむら──オマエ自身の為だけよ。もうそれって、独り善がりのエゴよね?」

「……」

 確かに、まどかにその手を握り返してくれた試しなどない。いつだって私は独り、まどかを救おうと救おうと、出口のない迷路を彷徨い続けていた。例えその手を払いのけられようとも、いつだって手を伸ばし続けていた。だからこそ──。

「──そう。そんなに死にたいのね」

「ううん。アナタにわたしは殺せない」

 殺す──。

 もはや千歳ゆまなどどうだって構わない。

 巴マミや佐倉杏子もどうなろうが知った事ではない。いずれはコイツの魔の手──文字通り悪魔の手は、きっとまどかにまで及ぶ。人殺しの罪を謂われようとも、いくらでも背負う。今すぐにコイツをここで始末しなければならない。

「今すぐ殺してあげるわ。神名あすみ──!」

 その脳天に照準を合わせる。引き鉄(トリガー)に掛かる指へ力を籠める。その脳を八分九分に分け、意識を奪い、身体の至る所からソウルジェムを探し出して砕いてやる。砕いただけでは飽き足らない。タバコの灯火を躙り消すが如く踏み躙り、その命の宝玉(ソウルジェム)を抜かりなく粉々にしてやる。

 

「っぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっっっっっっっっ────!!」

 

 劈く悲鳴。耳を切り裂く金切り声。痛みに喘ぐ少女の悲鳴にして──眷属を呼び起こす悪魔の雄叫び。たじろいだ瞬間にはもう遅かった。今まさにこの時、引き鉄(トリガー)を引けば良かったのに。

「──何してるの! 暁美さん──!」

「ほむらテメェ──!」

 喉を叫びに枯らしながら、突入する巴マミに佐倉杏子。威嚇の鳴き声は私に向けられ、怒りに強張らせたその表情は外敵に敵意──否、殺意を向ける肉食獣かのよう。

「ッ──!」

 今ここで彼女達もろとも神名あすみを殺せば良かったものを、私はここで失敗したのだ。巴マミと佐倉杏子に、引き鉄(トリガー)を引く気などなれなかった。モノクロに凍った空間の中、惨めにビルとビル間を、闇空の中にて跳躍する私。

「──どうして、どうして──」

 どうして、私はこんなにも愚かなの──。

 巴マミも佐倉杏子も、どうでも良かった筈なのに──。

 

◆◇◆◇◆

 

「痛い痛い痛い痛い痛いイタイイタイイタイイタイイタイっ! 痛いよおおおおおおおおおおおおっっ!!」

「っ……、大丈夫よあすみちゃん! しっかり! 今すぐ治してあげるからね……っ!」

「ぁぁぁああああああっ──!!」

 痛みにのた打ち回り、その度にベッドを血で濡らし叫び喘ぐあすみちゃん。

 痛いよね。怖いよね。

 おおよそ人間の所業だなんて到底思えなかった。魔法少女が、魔法少女でもない女の子に──それも自らより遥か年下の女の子相手に実の銃弾を浴びせるなど、人間の所業とは思い難かった。体は孔だらけで、服は元々がそんな色だったかの様に隈なく赤黒く染め上げられている。人間に対する仕打ちではなく、人間のする仕打ちでない。

 暁美ほむらは『悪魔』よ。この見滝原と言う領土を欲しい儘にせん、と私たち魔法少女の仲間ならば、一般人に対してすら容赦はしない。意思持たぬ魔女をも超えた性質の悪い存在、まさに『悪魔』と称すが相応しい女だった。

「っふぐ……うぅっ……!」

「大丈夫っ……! 私は魔法少女! 信じてっ! これぐらいの怪我なんて、すぐ治せちゃうんだからっ……!」

「ぅ、うんっ……!」

 痛みは未だ取り去れはしないものの、歯を食いしばり痛みに堪え、気丈に振る舞える程には回復出来たあすみちゃん。

『命を繋ぐ魔法』。元はと言えばリボン魔法。主だった用途としては緊縛に留まらず、マスケット銃──構造を勉強した──の錬成にまで及ぶ。また、私の願い──『命を繋ぐ事』──が由来でもあるからか、その傷を癒す効果もある。並の汎用的な治癒魔法よりは、余程効果が見られると自負はしている。

「っぁ、ま、マミおねえちゃ──」

「ま、まだ喋っちゃ──!」

「ほ、ほむら、おねえちゃんと、くろの、おねえちゃんが、ゎ、わたしをっ、いじめてっ……! っひぐ……! うわああああああああん……!」

 黒の魔法少女狩り

 最近何人もの魔法少女が、身体に幾重もの傷を刻みつけられ葬り去られるという。現にあすみちゃんも、ゆまちゃんもその毒牙に掛かったばかり。

「……」

「──佐倉さん……?」

 いつになく神妙な顔をして、あすみちゃんを眺める佐倉さん。何か考え込むように──。

「──いや、何でも無いよ。けどあいつら何考えてやがんだよ──!? あたしら相手ならともかく、コイツ一般人じゃねえかよ!?」

 唾を散らしながら佐倉さんが怒鳴る。寧ろ私達が魔法少女だからこそなのかもしれない。今はキュゥべえの姿が見えないけれど、それも飽く迄も今の時点ではと言う事。将来キュゥべえに選ばれ、契約さえすればこちら側の戦力の向上となる。暁美ほむらと黒の狩人からすれば、それが邪魔で仕方がなく我慢ならないのだろう。鹿目さんの時も同じだった。自分より強い存在はすべてが邪魔者。その邪魔者を消し去った暁にはこの街の全てを食らいつくす。グリーフシードを手にして好き勝手に生きるべく──!

『いじめられっ子の発想』とはまさにこの事よ。

 その為ならばたとえ相手が魔法少女でなくとも、小さい子相手だろうと容赦はせず、いじめられっ子と称す方がまだ生ぬるい。まさに鬼の所業。悪魔の所業。けれど──。

「私達、これがダメになっちゃうと死んじゃうんだ……」

 ソウルジェム。これが穢れ切れば死ぬ──暁美ほむらが言っていた事。彼女の言う事である以上それだけならばにわかに信じ難い事ではあるものの、ゆまちゃんの容態を見る限り強ち嘘ではないのかもしれない。

 だったなら、私達はこれから──ずっと戦わなきゃ──。

「ソレが無きゃアンタは事故でくたばってたんだ」

「え──」

「そしたらあの冬の寒空の下、全部殺したあたしをアンタが見つけなけりゃどうなってたか分かんねえよ」

 ──そうだった。

 あの時契約しなければ、どのみち燃え盛るあの車の中で命を落としていた。それだけじゃない。冷え切った佐倉さんの躰を抱きしめ、家でジンジャーティーをご馳走してあげた。あぁしていなければ、全てを失った佐倉さんは今頃とっくにこの世を去っていたかもしれない。そして変える事の出来た運命はまたその一つだけじゃない。

「っ……、マミおねえちゃんっ……。あの時、わたしを助けてくれたよ……?」

「あすみちゃん──」

 あの時あすみちゃんに会えなければ、あすみちゃんが今こうして生きている事もなかった。このお家で私のケーキを美味しいと言ってくれる事も、お紅茶で温まってくれる事も無かった。

 ──そうよ。生きていて良かったんだ。

 いつまで戦えば良いのかは分からない。けれど、私が生きていられた事で、生き延びる事の出来た子達がいる。救い切れたかどうかはまだ分からないけれど、今この場で一緒に居てくれる子達がいる──!

「──ふふっ。まだまだ弱気になんてなれないわねっ」

「マミおねえちゃん……!」

「もう大丈夫っ。私、あなた達が居る限りいくらでも頑張れる。そんな気がするの」

「っハ! あたし居なくなったらどうすんのさアンタ」

「そんな事させないわ。あなたもずっとずっと生きるの。私達で、ずっと」

「……コレだからうるせー姉貴みたいなヤツはイヤなんだよ」

 言葉とは裏腹に、白い歯を見せて太陽の様に笑みを浮かべる佐倉さん。

 これで、良かったんだ。

 ずっとずっと、魔法少女なんて辛い物だと思ってきた。誰も味方なんて居なかった。でも今は違う──。

「──絶対ゆまちゃん、助けましょうね……!」

「もちろんだ。助けて──あのクソ共を叩き潰す」

「わたしもぐりーふしーど? をゆまちゃんに当てるの手伝うよ……!」

 だって、こうして思い合える人達がいるもの──。

 気張る事なんて、なかったんだ──。

 

◆◇◆◇◆

 

 丑三つ時も過ぎる頃──。

「──あほくさ」

 マミおねえちゃんと狂犬はとうに眠ってしまった。その中をわたしがクソ猫──千歳ゆまにグリーフシードを与え続けてる。

 やり方は知ってるわよ馬鹿じゃないの? ──と言いたい所だけど、ご丁寧に姉御共から聞かされた。

 それに──。

『辛いようなら起こすのよ? あすみちゃんも病み上がりなんだから……!』

『うんっ。でもマミおねえちゃんのお陰で……ほらっ、元気になっちゃった』

『……本当、無理しないでね……?』

 と、あそこまで気に掛ける? 普通……。

 気が抜けたのか、あの後すぐに寝ちゃったよ。

「あ~身に着けてなくて良かった」

 指輪の形にしておいたソウルジェムは、普段は財布の中のお守り袋に忍ばせてある。まさか人のお守りの中を覗き見したり取り出したりする罰当たりな人なんて、少なくとも日本人の中じゃなかなか居ない筈。万が一にも盗られたり紛失しないよう、ウォレットチェーンに繋ぎ留めたうえでポッケへと。そしてそのチェーンも普段はトップスに隠れて目立ちもしない。有事の際にはお守り袋に指で触れさえすれば、あとは粒子化の後に卵型のジェム形態を作るだけ。ここまで工夫してなければ、きっと今頃マミおねえちゃんから治癒を受ける時にでも露呈する所だった。

「──っと、もう真っ黒になっちゃった」

 お姉ちゃんたちからもらったグリーフシードもそろそろ半分尽きようとしていた。どんなに与えても焼け石に水だって事も分からないのか、はたまた分かっていてそれでも足掻くのか。

 どっちにしても滑稽で、お口の端が吊り上がってしまう。

「これはわたしが持っといて──」

 例え使用済みだとしてグリーフシードには使い道があると言うもの。普通は危険物としてキュゥべえに処理させるものの、敢えてどこかにポイ捨てして故意に孵化させて何人か人間を食べさせて肥えさせるなりすれば、また新鮮なグリーフシードとして収穫できる。もしくは魔女のココロを掴む事で、自らの兵力として使い潰すことだって容易い。ただ、今このグリーフシードを市内に設置するのはマズい。設置場所は見滝原でない場所にしておこう。それはさておき──。

「は~いお薬でちゅよ~」

 おどけながら新たなグリーフシードを押し当ててやる。残り半分のグリーフシードが底を尽きたとしても、わたしの貯蔵分を使えば半永久的に生き永らえさせるのも簡単なこと。なにぶんグリーフシードに関しては困る事のないぐらいの量を確保している。それも一個や二個──いいえ、十個ほど捨てても全然困らない程には。短命とも言える魔法少女だけれど、冗談でなくわたしこそが最長寿の魔法少女として、老女となるまで生き永らえる事すら出来るのでは? と思い上がってしまう。それもこのチカラで人間を餌に魔女を養殖出来るからこそのモノ。

「せいぜい苦しみなさい」

 ここでクソ猫に魔女化でもされて、眠ってる間にマミおねえちゃん達が食われでもしたら興醒めも興醒め。魔女堕ちしない程度に浄化してやらなきゃいけない。その間ずっと生死の狭間を彷徨ってると思うと……。

 あぁ、これ達しそうね。

 それにしても──。

「──っフフフフ!」

 ほむらちゃん、思ってたよりも煽り耐性ゼロだったのねぇ……?

 姿と態度通りの鉄の女だったなら、正直わたしの身は危なかった。けれどアイツの人生をスキャンしてみた限りでは、所謂陰キャの女と見て良い。あの子があの時なすべきだった事は、時間を止めてわたしのカラダを隅々までブッチャーばりに解体し尽くし、ソウルジェムを探し出して砕くのみだった。

 まぁ触れられたら時間停止から逃れられるから、その時はしがみ付いて妨害するけどね。

 それに愛しい愛しいまどかとの大切な大切な記憶を突っつかれたらもう赤子同然。怒りに身を捧げて判断能力を棒に振る。そのうえ魔法少女狩りの大罪をも着せてやった。今ではマミおねえちゃんからすれば一般人のわたしを蜂の巣にした正真正銘のガ〇ジ扱い。

「うふふッ。ざまあみろ♡」

 せいぜい潰し合うが良いわ。

 時間旅行者の不幸でこんなにもケーキとお紅茶が美味しい。今この場にケーキなんて無い事は置いといて……。

 今周回でもまどかが死ねばヤツは次の時間軸へと跳躍するに違いなく、だったらもはやチートと言うしかない邪魔者がこのセカイから消え失せるも同然で気が楽。

 けれど、そんな飯が美味しい話だけなんかじゃなくて──。

「──美国織莉子」

 ほむらちゃんのビジョンを介して垣間見た『救世主』。おおよその推論通り、まどかを世界の癌として排除せんとする預言者を気取る冷徹な女。よほど警戒すべきはほむらちゃんなんかよりもこの女。預言者を気取るだけはあり固有魔法は『未来予知』。かつての時間軸では垣間見た破滅のビジョンをもとに救済の魔女の生贄(鹿目まどか)をその手で葬り去ったもの。黒の魔法少女狩りこと呉キリカの速度低下と組み合わせれば、ほむらちゃんの時間停止相手に渡り合えるほど。

 だったら、既にわたしの行いを全てビジョンを通して把握済みですらあるかもしれない。だからほむらちゃんなんかよりも厄介と言える。知らずの内に先回りされている事だってあり得る。でも──。

「汚染しちゃえばこっちのものよね」

 美国織莉子の()るビジョンをわたしの固有魔法で汚染してしまえば良い。綺麗を汚い。汚いを綺麗。未来を見通す瞳を混沌に濁らせさえすれば、未来予知を実質上無効化出来得て──あれっ?

「あ、やっぱ無理だ」

 そもそもわたしに出会ったなら最期──汚染されると言う事を予知し、わたしとの接触を避け、避けて避けて避け続けるが美国織莉子の勝ち。

「うーん、だったらまぁいいや」

 救世主一派。彼女達が現れる事などほむらちゃんの経験上あまり例がない話。言わばイレギュラー因子。奴らが居る時間軸となれば、必ずほむらちゃんは殺し合う。その際にどちらかが斃れてくれるからわたしが手を出す程でもない。下手に触れれば間違いなく狩られる。

 けれど──。

「──わたしもイレギュラー、か」

 神名あすみと言う名の魔法少女──わたし。救世主一派などとは違って、ほむらちゃんの経験上一度も会った事が無かったらしい。

「他の時間でなら、おかあさん生きてるのかな」

 魔法少女でない、もしものあすみ。

 世界に捨て去られはしなかった、もしものあすみ。

 それって、今のわたしよりも『幸せ』なのかな……?

 それとも、ココでのわたしと同じように██な目に遭ってるのかな。

 そして、あすみがこんな自分に成り果てるなんて事には──。

「──わたしの『やる事』は決まってるんだから……」

 いつでも、今まで通り、これからも変わらない。

 知らしめるの。

 世界はこんなにも『不幸』に溢れてるの──って。

 わたしはその為の使者。

 そしていずれは神の名を欲する者。

 全世界の人間を一人残らず『不幸』に染め上げ、このわたしだけが──。

「わたしだけが、『幸せ』になるんだから」

 すべては、おかあさんの言いつけ通りに──。

 

◆◇◆◇◆

 

 あれから数日。

 クソ猫が依然と昏倒したままで、生命維持に要するグリーフシードの殆どが今ではわたし持ち。というのも──。

「私あっちの方角行ってくるわ──!」

「悪ぃあすみ! あたしも──!」

「うんっ、いってらっしゃい!」

 ま、そいつらわたしがばら撒きに撒きまくったモノなんだけどね。

 マミおねえちゃんと狂犬の狩ってくるグリーフシードの殆どが、わたしが使用して設置したもの。もちろん二人ぶんの魔力も確保できるよう、設置量の調整にも抜かりはない。生殺与奪の権はわたしに握られてる。今すぐ殺そうと思えば殺せるし、こうしてのうのうと生き延ばせる事だって。また、わたしが設置してるトコを見られちゃう──なんてクソマヌケなプレーをする訳ない。適当な人間を洗脳して、グリーフシードを持ったラジコンとして操って指定位置にポイ捨てさせてる。もちろん一連の行為の記憶は抹消──と証拠隠滅にも抜かりはない。さらにわたしながら抜かりなさ過ぎて惚れ惚れする所と言えば、わたしが持参した見滝原産でないグリーフシードを設置したが為に、おねえちゃん達にしてみればあたかも見たことのない新種の魔女が出没したとしか思われないところ。おねえちゃんから貰ったブツを設置したなら、如何にも神名あすみは巴マミと佐倉杏子から貰ったグリーフシードを使い回しちゃっております! と自ら高らかに宣言する様で迂闊にも迂闊でマヌケどころじゃない。

 それはそれとして──。

「──あの新種、狩りたいのよねぇ」

 ジメジメとした陰湿な自殺ショーを開くらしいあの魔女。その習性を用い、クズ共が死にゆく様を鑑賞するのも悪くは無い。是非とも娯楽グッズとして、鑑賞目的の芸術品として仕入れておきたい所。

 今この街に蔓延る魔女の大体の位置は、わたしが設置した物も含めて大体把握が完了してる。もっとも、後者以外のもの──新種については性質までは把握していない。あくまで出たらしいと言う事だけ。自ら出歩いて、アタリをつけた魔女を狩る際におねえちゃん達と鉢合わせしないよう設置場所もコントロールしていて、また出来るだけ二人が分散してもらえる様にも調整してある。

「っはぁ。あちこちポキポキ……」

 最近、体動かしてないからかなぁ。

 出歩かない時が多くなってきたからか、全身の至る所から小気味の良い音が立つ程に体がなまっている気がする。

 慣らすにはちょうど良い頃合かもしれないし、今日はわたし自ら魔女狩りへ赴く事にした。

 

◆◇◆◇◆

 

 埃の被ったダンボール箱。手の触れぬまま乱雑に放置された鉄くず廃材。塵が煙く積もる床。薄昏く照らす青白い灯り。

「ああ、そうだ、ダメなんだ。こんな小さな工場ひとつ、満足に切り盛りできなかった」

「親父、一緒に行こう……?」

「えぇ、行きましょう……」

 生気を失った声色の中年男性に女性に、若い男の子。魔女のキスを受け、魅入られ、口付け跡を首筋に刻まれた一家。他にも同様の紋章を刻まれた烏合の衆がちらほらと。けれど──。

「なにをしておりますの? これは神聖な儀式ですのよ?」

「やめてぇっ! それ危ないんだよ!? みんな、みんな死んじゃうんだよ!?」

 エラい時に遭遇したわね。

 魔女主催の突発集団自殺オフ会のメンバー中に桃色の髪の少女──最強の魔法少女候補・まどかの姿もあり、そしてその傍らにはミッキーの親友たるワカメ──志筑仁美の姿も。まどかにだけ『口づけ』が無い事から、多分ワカメの自殺を止めようとしたところを巻き込まれたか何かの筈。わたし個人的には、このまま自殺ショーを目の当たりにして拍手を送ってやりたい気もしたけれど──。

 ああ面倒くさい。こいつらに姿を見られるわね。

 わたしが魔法少女として魔女を狩る光景をまどかに目撃される。そして間違いなくコイツを通してマミおねえちゃんに知れ渡る。

 しょうがない……。ほむらちゃんにボコられない程度にやっちゃいますか。

「はぁい。皆様ご注目ぅ~」

 乾いたハンドクラップと共に両手をこちらへ扇ぎ、一同の視線をこちらへと釘付けにさせる。

「──!? あ、あすみちゃ──!?」

 はい、しめたわね。

 今ここに居る全員の視線は全てわたしを射抜いている。わたしの『瞳』を覗いている。あとはトリガーを引いてしまえばいい。

「──Gvneurldeukn眠れ. Nleöhsc忘却せよ.

 パタリパタリと、ひとりひとりずつ。糸の切れた人形が如く地に伏す自殺志願者たち。

「え、え……っ。あ、あすみちゃん……っ!? な、なにしたの……っ!?」

 せっかくね。ついでにコイツの記憶もモノにしてやるわ。

 如何にしてその慈悲深い人柄を得たのか。如何にしてほむらちゃんが我が身を捧げんまでに虜にするほどの魔性を持つのか。ミッキーと出会うまでに。一体コイツに何があったのか──。

「──Nsecnanスキャニング. Nsecfhal眠れ. Nleöhsc忘却せよ.

 桜色の瞳がわたしと共鳴し、紅に染まり上がる。その記憶の果てに、わたしが見たモノ──まどかの見たものは──。

 

◆◇◆◇◆

 

「──チッ」

 存外、つまらない記憶だった。

 自らだけが生き残り罪悪感を抱いたり、理不尽に虐げられるなどしてトラウマを抱いた訳でもない。

 家庭菜園に興じる父親に、日々一家を支える立派な母親。そして可愛い可愛い弟に囲まれる温かな家庭。

 あまりに普通過ぎる。

 普通過ぎてつまらない。ジャンヌダルクとは違い、特筆して何か悲劇を経た訳でも決してない。強いて言えば母の背中が大きく、さやかは自分と違って元気っ娘で、仁美は才色兼備なお嬢様。そして巴マミはカッコ良くて憧れの魔法少女の先輩。──と、周りに恵まれ過ぎて勝手に劣等感を抱いていると言った点。正直こんなヤツがほむらちゃんの記憶で見たような自己犠牲精神旺盛な魔法少女に何故至れるのかがまるで分からない。いいえ──。

 ──自己の犠牲とすら思わないだけに性質(タチ)が悪い。

 コイツは自らの苦悩や痛みを自覚せず、そして勘定にも入れず、あくまでも他人の苦悩や痛みに寄り添おうとする。例えそれが誰であろうとも──。

 やっぱりまどかにだけは関わりたくない。

 出来るならさっさと今すぐ首を刈っときたいわね。

 恐らくは天然モノと称して良い。何ら外的要因がほぼ無いまま自発的に狂気とも言える慈悲を身に着けた。この精神性では、多分わたしの精神汚染魔法も大して効果が無い事には間違いない。せいぜい契約前に記憶を書き換えて、ほむらちゃんを宿敵と設定したうえで虐殺──も出来るかどうかも怪しい。コイツは宿敵であろうともまず話し合いから入るだろう。どうしてそんなひどい事をするのか。何があなたを突き動かしてるのか──等、全て知ろうとする。否定から入りはせず、目に入るモノ全てがコイツの大切なモノなのだ。すべてを救いたいんだ。『周り全ての幸せ』を想う事こそ、鹿目まどかが鹿目まどかたる所以なのだろう。

 何が皆大切だ。

 考えるだけでも反吐が出る。

 気持ち悪い。

 こんなヤツさっさと死んで欲しい。

 わたしの目の前に二度と出て来るな。

 もう姿形も声色も表情も仕草も見ていて鳥肌が立つ。

 こいつにだけは魔法少女になられてはならない。きっと絶対に勝てない。素質も然る事で──わたしの物量戦法を以てしても恐らく押し切られるうえに、前述の通り精神魔法が恐らく効かない。

「……頼んだわよ、救世主」

 もう美国織莉子辺りに頑張ってもらうしかない。そうじゃなきゃこのセカイも終わり、また契約してしまえばわたしが渡り合える余地も無い。かつてほむらちゃんが経験したように契約前に是非とも美国織莉子にケリをつけて頂きたいもの。

「……気分悪っ。ほむらちゃん来る前にさっさと終わらせよっと」

 ついでにこの場でまどかの首を刈り取りたかったものの、今ここでほむらちゃんに来られたなら、即刻わたしが狩られる。だから本格的にまどかを殺すのはほむらちゃんに死んでもらってからか、もしくは美国織莉子に任せるかだ。

 

◆◇◆◇◆

 

 海底のように蒼く、海底のようにふんわりしていて、海底のように心地良い。ここには誰の言葉も届かない。ぷかりぷかりと静かに浮遊する。──そんな夢見心地を乱す者が二、三人。

"Ukoy ah ihnoont astatmauk en. Amta iiakti en"

"Okdon ah uoobten emtot uiok"

 ケタケタとネズミの鳴き声が如く耳障りで、ピエロのように張り付いた笑みの使い魔。

 ムカつくお顔ね。ニヤニヤしちゃってさ。

 ココロすら持たない使い魔がわたしを嗤うなんて何様なの?

 少しだけ、先ほどのまどかの記憶を覗いたせいもあってか胃のむかつきがこみ上げてくる。

 何そのブラウン管? 型遅れもいいとこよね?

 耳障りな使い魔に反し、ブラウン管テレビの形をした魔女は一切口を開かない。スクリーンドア(網目模様)の際立つCRT特有の光を、七色のカラーバーと共に無機質にぼんやりと放つのみ。

 だが、わたしのやる事はいつもと変わらない。

 どんな魔女、そしてどんな魔法少女が相手だったとしても──。

「──アナタの特性、覗くわね」

 魔女のココロを読み解き、解し、虜にさせ、屠殺し、肉塊に変え、グリーフシードに変えて消費する。

 けれど、この魔女に限ってはやめておくべきだった──。

「──!」

 テストパターンにノイズが走り──否、ノイズ混じりに、霧が徐々に晴れるが如く映し出されてく。色褪せたブラウン管に映し出されるは──。

 

 ──かつてのあすみだった。

 

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