IS<インフィニット・ストラトス> 次元超えし女神 作:土鍋ダイコン
新しい学生生活
男子は二人のみ
(配点:辛苦)
序章 場違いの新人達
長き寒さから目覚めたように日に日に暖かさが感じられる四月。それは様々な新しい移り変わりの季節でもある。
学生然り、社会人然り。
高校受験を無事に受かった俺「武藤 智哉」も晴れて高校生となった。
なったのだが――
「副担任の山田真耶です。皆さん、これから一年間宜しくお願いしますねっ」
元気よく生徒に向かって挨拶をしてくれている緑色の髪に眼鏡をかけた、ややゆったりとした服を着ている山田真耶先生。身長は低く、ゆったりとした雰囲気のせいで先生というより生徒といっても納得ができる。
しかし、ある一部分だけがそれを否定するかのように出ているのだ。
まあ、そんなことは今はどうでもいいのだ。
「……」
山田先生の声に反応するものは誰一人としていなかった。教室に広がるのはただただ沈黙のみ。そのあまりにも静かなクラスメイトに、山田先生は次第におろおろと慌てはじめる。
「そ、それじゃっ、自己紹介をしましょう! 出席番号順にっ」
慌てていたせいなのか、多少どもりながらになっていたが、それでも伝えたいことは理解できた。廊下側から一人ずつ、簡単な自己紹介をしていき、真ん中の列までやってくる。
「では織斑くん、お願いします」
と、呼ばれた男子はどこか上の空で、先生の呼び声に全く反応しない。
「織斑くん? 織斑くん!」
「は、はいっ!?」
大声で呼ばれたため驚きながら立ち上がる織斑と呼ばれた少年。山田先生はそんな反応を見てさらにおどおどしながら謝り始める。
「ご、ごめんね? 今出席番号順であ行の人からやってて、織斑くんの『お』の番なの」
この人は本当に先生なのだろうか。ここまで生徒に弱腰じゃなくてもいいのではないか?
そんなことを疑問に思いながらも、織斑に目を向ける。
山田先生の態度にかなり困っているようだが、それもすぐに終わり自己紹介のためにこちらを振り向く。その瞬間、織斑の顔が少し青ざめた気がするが、それは多分気のせいではない。
「えー、初めまして。織斑一夏です」
それだけ言うと、彼は口を閉じてしまう。
いや、ある意味自己紹介なのだが、もう少し何かあるだろう。趣味とか好きなことや食べ物とか。
彼のあまりにも内容のなさすぎる自己紹介に、クラスメイトはもっと何か言うことはないのか? と視線で訴える。
それを感じ取った織斑は、目を閉じて何かを考え、それから導き出した
「以上です!」
もっともシンプルなものだった。
クラスメイトはまるで芸能人の如く机から滑り落ちていき、山田先生はこんな状況になってしまいどう対処すればいいのか分からないのか、もはや涙目になっている。
さて、こんな空気をどうすれば換えられるのだろうか。織斑なんて、どうしてこんな状況になっているのか理解できいなさそうだ。
そんな中、教室の扉が開かれ、入ってきた人が織斑の後ろに立つ。
「貴様は満足に自己紹介もできないのか」
スパアンッ、と織斑の頭からとてもいい音が教室に響き渡る。よくよく見ると、今入ってきた人の手には出席簿が握りしめられており、どうやらそれで叩いたようだ。いや、どうやったら出席簿でそんな音が出るのか分からないが……
「げっ! グレイス・オマリ!」
「誰が海賊女王だ、馬鹿者」
スパアンッ! とまた出席簿が閃き、織斑の頭をはたく。まったくどうしたら目の前の人物をそんな人に勘違いするのだろう。大体、グレイス・オマリは髪の毛の色、緑っぽいだろ?
「あ、織斑先生。会議のほうはもう終わったんですか?」
「ああ。すまないな、山田君。こちらのほうを押し付けてしまって」
いえいえ、と首を振りながら謙遜している山田先生。
すると、この人が―――
「諸君。私がこのクラスの担任の織斑千冬だ。君達新人を一年で使い物にするのが私の仕事だ。別段逆らってもいいが、私の言うことは必ず聞き、そして理解しろ。理解できないのであれば、理解できるまでとことん教えよう」
やっぱり担任だったんだ。というか、言ってることすげぇな、逆らってもいいだなんて。いや、さっきの織斑を見る限り、鉄拳制裁で理解できるまで教えるのだろう。
こんな人が担任で大丈夫なのだろうか。待て、理解できるまでとことん教えるということは、先生としてはとてもいいのでは? そんな思考をしているとき、クラスメイトが歓喜の絶叫を上げる。
『キャアアァァァ!!!』
「織斑様よぉ!」
「私、織斑先生に憧れて、ラステイションから来ました!」
「どうか頭の悪いあたしに愛の鞭をふるって!」
「そして、時には甘く
それはまさしく混沌としたものばかりだ。いや、最後のほうなんて、もしかしたら文字が違うのかもしれない。
「……毎年思うが、私のクラスにはバカしかやってこないのか?」
ご愁傷様です。としか言えない呟きに、同情を禁じ得ない。
あれ? 『織斑』先生ってことは、もしかして――
「ち、千冬姉―――」
「織斑先生だ、馬鹿者」
頭をまたはたかれ、机に沈む織斑。だが、今の会話で分かったことがある。
「えっ? 織斑ってことは」
「千冬様の弟!?」
「だからISを動かせたの?」
織斑先生が織斑一夏の姉だということだ。別段気にすることではないが。
騒然だった教室は織斑先生の一括で一瞬で収まる。そして自己紹介の続きが始まっていき、ついにその時が来た。
「それでは、武藤君。お願いします」
「はい」
山田先生に呼ばれ、俺は立ち上がる。
クラス中の視線が突き刺さるが、それを何とか堪え言葉を紡ぐ。
「武藤 智哉といいます。趣味は空を見上げること。皆さんと違いISについてはほとんど知りませんが、何とかついていけるよう尽力したいと思います」
これから一年間、よろしくお願いします。と最後に締め、席に着く。
なぜか教室が静まり返る。なぜだ? きちんと自己紹介をしたつもりだったのだが、何かおかしなことでも言ってしまったのだろうか。つい数瞬前の記憶を探りながら考えていたが、クラスメイトの反応でそれは露に消えた。
『キャアアァァァ!!』
「二人目の男子よ!」
「織斑くんみたいなイケメンじゃないけど、その長髪から出る雰囲気がいい!」
「私を食べて!」
……本当に、どうしてこんなところに来てしまったのだろう。
俺は、つい数週間前の出来事を思い出しながら、目の前で起きている出来事から逃げ出した。
◆
あれは確か、公立高校の合格通知が来た次の日のことだった。
織斑一夏が世界で初めてISを動かしたとニュースで話題になっていたのは知っていたが、そんなことよりも公立高校に受かったことのほうが嬉しかった俺は、そんなニュースを気にせず学校へと自由登校した。
そこで待ち受けていたのは、全国男性IS適正検査なるものだった。
男性がISを動かせたのなら、他にも動かせる人がいるのではないか? と世界中のお偉い方々は躍起になって探す準備をしていたらしい。俺の地区の検査日がちょうどその日だったらしく、俺もその検査に参加したわけだ。
「じゃあ次の人、さっさと入って」
担当していた女性は、なんとも面倒くさそうにしていた。それもそのはず。そんな検査をしたからって動かせる人が何人も出てくるわけがないと思っているからだ。事実、俺だってその時までそう思っていたのだから、気の毒だなと心の中で呟いたくらいだ。
俺の番になり検査室に入ると、そこには無骨な鉄の塊が鎮座している。
これが世間を騒がしているISなのか。
IS。正式名称『インフィニット・ストラトス』と呼ばれるそれは、篠ノ之博士が開発したパワードスーツの一つで、名前の通り
数年前に起きた『白騎士事件』。
白騎士と呼ばれるIS一機で、全世界の戦闘機や空母などを含めた軍事兵器が何一つ通用しなかったのだ。それに加え、死亡者は誰一人として存在しなかった事実に、世界が戦慄する。
それからはその圧倒的なまでの戦闘力を誇るISを軍事兵器として運用しないためにいろいろと法律を作り、現在はスポーツとして落ち着いている。
そんな名前とは裏腹に戦闘の道具にされているこいつらは、何とも可哀相である。
「ほら、さっさとして。あとがつかえてんのよ」
検査官がイラつきながらこちらを睨みつける。面倒なのはお互い様なのだが、それをに口に出したりはしない。
一歩前に進み、ISの前に立つ。
検査そのものは至って簡単で、ただ
もしあの
あの人達と同じ場所に行けたのだとしたら―――
俺は、あの人達を守れるようになるのかもしれない。
ただ守られるだけの子供じゃなく、せめて肩を並べるくらいの。
「誰かを守れる男に」
そんなことを無意識の内に呟き、ISに触れる。
最初に感じ取ったのは、脳が焼け付くような感覚だった。膨大な情報が頭に中に流れ込み、魂に直接刻まれるように、IS
「そんな、嘘でしょ?」
検査官が信じられないようにこちらを見ている。当たり前だろう。まさかISを起動させるなんて、誰が予想できただろう。
そこからはまさに怒涛の日々だった。
IS委員会に呼ばれたり、国籍を盗られたり、高校合格が取り消され、新しくIS学園の強制合格通知と制服や参考書各種が入学式二日前に届いたりと、無茶苦茶なことばかりだ。
なんで自分がこんな目に会わなければならないのか、世界を恨みそうになる。しかし、これを動かせることで、俺は代え難い力を手に入れたのだ。
それに関しては、感謝の極みである。
少年は可能性を見出だした。
今はまだ何も見つけてはいないけれど。
いずれ、選択することになるだろう。
初めまして、土鍋ダイコンです。
ハーメルンに小説を投稿するのは本作品が初めてです。仕事の関係上あまり執筆する時間がないのですが、なんとか更新できるように尽力いたします。
最後に、感想をくれると作者的にとても嬉しいです。