IS<インフィニット・ストラトス> 次元超えし女神   作:土鍋ダイコン

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言葉だけじゃ伝わらない
相手に伝えるには
これだけしかない
(配点:刀剣)



八章 剣士たちの伝え方

 セシリアとの和解が済んだ次の日。教室へ入った俺に待っていたのは、なんとも言えない空気と視線の数だった。

 

 その視線をよく観察してみると、昨日剣道部に所属していた生徒や観戦した生徒だった。織斑もこちらを睨みつけるようにしているし、篠ノ之はこちらを見ようともしていない。

 

 できる事なら篠ノ之の件は何とかしたいのだが、どうすればいいのか俺には分からないし、誰かに聞こうと思っても答えてくれそうなやつは一人もいない。結果、この何とも言えない空気のまま今日一日を過ごす羽目となるのだった。

 

「……ただいま」

 

 ずっと考え続け、その結果オーバーヒート気味の頭を押さえつつ寮へと帰り、中でパソコンに向かっている簪に挨拶をした後ベッドに倒れこむ。

 

 どう考えても伝える方法が分からず、何とか模索しようとして余計分からなくなった。

 

「……なに、悩んでるの?」

 

 ふと、簪がこちらの顔を覗き込むように訪ねてくる。どうやら他人から見ても俺が悩んでいるのが丸分かりらしい。

 

 この際、誰でもいいので相談してみようと思い、起き上がり彼女を見る。

 

「実は――」

 

 全てを話し終えた後、簪は少し考えるそぶりを見せたため、息抜きがてら緑茶を入れるために立ち上がり台所へと向かう。二人分を入れ終え彼女に手渡し自分の分をゆっくりと飲み深く息を吐く。

 

「つまり、智哉はどうにかして篠ノ之さんにやったことを謝りたいけど、どうすれば一番わかりやすく伝わるのかが分からない」

 

 そうそう。口下手な俺じゃあどうやったってあの時の二の舞になってしまいそうで。

 

「じゃあ、自分が一番に思いつく方法で伝えてみれば?」

 

「自分が思いつく?」

 

 どういうことだろう。

 

「智哉は、深く考えすぎ。もっとシンプルに、自分がやりたいようにやればいい。そうすれば篠ノ之さんにも伝わると思う」

 

 伝わるって、俺が一番に思いつく方法なんて、それこそシンプルになっちまうぞ。

 

「それでいい。――それで私たちは仲直りできたんだから」

 

 ん、後半は何て言ったのだろうか。小声で呟いたから、よく聞こえなかった。

 

 しかし、自分のこんな相談に真剣に答えてくれた簪のアドバイスなのだ。やらないであーだこーだ言う前に、やってからその後を考えよう。

 

 さて、まずは篠ノ之にどう来てもらうかだ。

 

 次の日。簪に言われた通り、深く考えずに行くことを決めた俺は何の迷いなく篠ノ之に近づいた。

 

「……なんだ」

 

「今日の放課後、道着を着て第四アリーナに来い」

 

 それだけ言って、俺は自分の席に着いた。周りがなんか言っているが気にする必要がない。

 

 なぜなら、俺にこれから必要なことは、覚悟だけなのだから。

 

 放課後、藍染めの馬乗袴に白の半着を着こんだ俺は第四アリーナでただ静かに待ち続けた。

 

「来たか」

 

「……いったい、何の用だ」

 

 声からして不機嫌極まりないが、そんなことは知っちゃこったない。俺は左手に持っていたものを篠ノ之へと放り投げる。

 

 何の変哲もない木刀、しかしそれで思い切り殴れば怪我じゃ済まないだろう。

 

「昨日からどうすれば、お前に一番わかりやすく気持ちを伝えるのか考えた」

 

 右手の木刀の感触を確かめながら、しかし呼吸を変え肉体(からだ)の眠りをゆっくりと溶いていく。

 

「俺は馬鹿で口下手だからさ、言葉で伝えようとしても半分以上伝わん」

 

 心臓から全身へ熱い血潮が流れ、この先へと進むために暴れ出す。

 

「だから、(これ)で語ることにした」

 

 切っ先を下げ右脇で構え、その視線の先は刃を交える篠ノ之()を見据える。

 

 最初は何を言っているのか分かっていなかった篠ノ之だったが、その眼に徐々に猛る焔のごとく戦意が迸っている。

 

「今度は俺の全身全霊、今持てる全力を以てして相対させてもらう」

 

「……いいだろう」

 

 もはや言葉は要らず。

 

 正眼に構える篠ノ之、右脇に構える俺。

 

 ここにいるのは、男と女でもなく、IS学園生徒でもなく、二人の剣士のみ。

 

「改めて名乗ろう。八蒼一刀流初伝――武藤智哉!」

 

「篠ノ之流剣術、篠ノ之道場所属――篠ノ之箒!」

 

「参る!」

 

「推して参る!」

 

 水走で加速しつつ篠ノ之に近づき横薙ぎをするが、それを難なく刀身で受け流しつつ柄でこちらの鳩尾を叩こうとする。

 

 左足で足払いをして躱しつつ体勢を崩し、脇腹に切り上げが当たり吹き飛ぶ篠ノ之を瞬時に追いかける。

 

 徐々に加速して移動する水走ではなく、零から一へ瞬時に加速する八蒼一刀流歩行弐式《先駆》。そこから本来は幾多の敵を斬り抜け続ける一対多を想定した八蒼一刀流弐の型。

 

「瞬連!」

 

「―はあっ!」

 

 普通ならばその速さに目が追いつくはずはないが、篠ノ之は今までの鍛錬で得た経験から予測でこちらの斬撃位置を予測し木刀を当てたのだ。

 

 体勢を立て直した篠ノ之はすぐに攻勢に出る。

 

 流水のごとく流れるように袈裟斬り・左薙・左斬り上げの三度閃く斬撃を繰り出す篠ノ之流攻めの二番。

 

雛罌粟(ひなげし)!」

 

「弧月!」

 

 八蒼一刀流肆の型、流れるように斬るのではなく、ほぼ同時(・・・・)に斬撃を繰り出す高速斬撃によって打ち消し合い、三度目がぶつかった瞬間互いに距離を取りまた走り出す。

 

 カンッと音が鳴り鍔迫り合いが起き、互いに弾き飛ばされるがその一瞬の隙に次の一手を叩きこむ。

 

 衝撃を表面ではなく内面に浸透・与えることで内部から破壊する捌の型《無刀(なしがたな)》が一つ――

 

「崩徹!」

 

「かはっ」

 

 左掌底を腹に叩き込み、内部に衝撃を与え内臓にダメージを食らった篠ノ之は空気を吐き出し、足元がぐらつく。単純なダメージではないため復帰するまでに普通よりも少し長い時間がかかり、仕合においてその短かな時間は命取りだ。

 

 それを理解した篠ノ之は吐きそうな気持ちに喝を入れ、大上段で構える俺に対して身構える。

 

 ただ防御するのではなく、相手の攻撃を封じつつ防御する篠ノ之流剣術守りの一番――

 

「まさか!?」

 

「鈴蘭」

 

 相手の刀を手の甲(・・・)で挟むように白刃取りする防御技。失敗すれば腕の一本や二本を使い物にならなくなるようなものだが、篠ノ之はそれを実行し成功した。

 

 そのまま挟んだまま相手を回し投げる篠ノ之流攻めの四番《孔雀草》で地面に叩き落とし、追撃をしようと振り下ろすが木刀の斬撃予測線に合わせておくように木刀を置いて弾き飛ばす。

 

 八蒼一刀流参の型《穿牙》が一つ、《閃奪》。

 

「――――はっ」

 

 体のばねを利用して後方に宙返りしながら飛びのきつつ空気を吐き出し、息を整える。その間に篠ノ之は木刀を握り直し俺と同様に息を整える。

 

 時間にしてわずか数分間程度だが、その間に行われた内容は数十分以上の体力の消耗であり、互いにそれを理解していたためにここで様子見をしているのだ。

 

 息を整え終えると、またどちらとなく接近し、攻撃を繰り出す。

 

 斬り、避け、薙ぎ、払い、突き、防ぎ、叩き、受け止め、斬撃と体術の応酬を繰り広げ、そこで同じことを考え始める。

 

 ――もっと長く続けていたい

 

 木刀(かたな)を通して少しずつ伝わる思いは、剣士としての望みであり――

 

 ――負けたくない

 

 このたった一回の勝敗を譲れない想いでもあった。

 

 気付けば互いに傷がないところがなく、所々に痣が出来ていた。場所によっては皮膚が裂け血も出ているが、二人が止まることはない。

 

「……篠ノ之」

 

「なんだ?」

 

 もう何合目の斬り合いか。数えるのも億劫になるほどの数になったころだろう、ふと気付いたことを尋ねてみる。

 

「一体、何に迷っているんだ?」

 

 木刀を通じて伝わるのは、どこまでもまっすぐな剣とどこか歪んだような何かの濁流だった。

 

 迷いがあれば、刃は鈍り曇ってゆく。

 

 小さい頃、じいちゃんが俺に八蒼一刀流を教える前に言った言葉。

 

 迷いがあれば斬る瞬間に躊躇いが生まれ、躊躇いがあれば決断が遅れ、決断が遅れればそれは死へと繋がる。

 

「自惚れではないが、迷いを抱えたままで勝てるほど、八蒼一刀流は甘くない」

 

 迷いを捨てれないのは、ある意味では当たり前のことなのだ。だが、今この一時だけに関しては自分の中にある迷いを捨てなければ、篠ノ之に勝てる見込みなどはない。

 

「……」

 

 瞳を閉じ、ゆっくりと呼吸をし徐々に瞳を開ける。そこにいたのはさきほどまでの迷いを抱えた鈍ではなく、俺を斬ることに一切の迷いを捨てた剣士だった。

 

「すまない、武藤。あれだけ本気で戦えと言っていたのに、私が手を抜いていたようだ」

 

 腰を落とし刀を構え、こちらを真っ直ぐ射抜く目には燃え盛る炎のようで揺らぐことのない水面のように静かで。

 

「だからこそ、次の一撃に私の全てを賭けよう」

 

「――応」

 

 持っていた木刀を左腰で構え、次なる一撃に神経全てを注ぐ。

 

 無音が周りを染めていき、互いに踏み出す瞬間を窺う。決して外さないように、確実に終わらせるために全身全霊を込めつつも破裂しないギリギリで押しとどめる。

 

 それが何が合図だったか、目を見開き全力で篠ノ之に駆け出し抜刀する。予測していた篠ノ之は一撃目を弾き飛ばし瞬時に上段に構え振り下ろす。

 

 一振り目に敵の攻撃を一閃し、二振り目に敵を断つ、一閃二断ちの構えから繰り出される篠ノ之流奥義の一《桜花斬月》。

 

(決まった!)

 

 そう確信した篠ノ之は堪えきれず笑みを浮かべるが、それはまだ早かった。

 

 弾かれる瞬間に右腰に構えた左手刀(・・・・・・・・・)を素早く小手へ振り抜き、篠ノ之の一撃を無力化する。八蒼一刀流肆の型が一つ、抜刀術の弱点である抜刀後の隙を無くすために作られた強制複合抜刀術。

 

「――鏡月!」

 

 左手刀によって自分を断たんとした一撃を弾き飛ばし、そのまま半歩前に行き捻りを加えつつ腹に向かって左で崩徹を叩きこみ、今度こそ篠ノ之は立ち上がることができずに倒れこむ。

 

 少し覚束ない足取りで篠ノ之の近くへ行く。割と本気で打ち込んだので苦痛に顔を歪ませているかもと思ったが、どこかすっきりとした表情を浮かべる。

 

「少しは、迷いが晴れたか?」

 

「……どうだろう」

 

 だが最後の一撃、アレは確かに一切の迷いが感じられなかった。正直二撃目を弾けたのは奇跡だったと今でも思っているほどだ。

 

「……私はな、力がある自分が嫌いなんだ」

 

 静かに、篠ノ之が語る。

 

「あまり詳しく話したくないが、いろいろ理由があって心身がとても不安定な時期があって、力に溺れて周りに憂さ晴らしをしていたことがあったんだ」

 

 空を見上げながら、しかしどこか大空ではない遠くの方を眺めながら、独白が続く。

 

「自分が剣道をやっているのは、周りに力を見せびらかすためなのではないかと思ったら、自分に嫌気が差した」

 

 それは、剣道に限らないことなのだろう。力を持ち始めた者が持つ、感覚や感情。

 

「だからこそ、知りたかった。あれだけの剣術を持っていながら、周りに見せびらかすわけでもなく力に溺れているでもなく、使いこなしていたお前に」

 

 それが、刃に迷いが乗っていた理由。

 

 自分が今抱いている感情は、ただの優越感などではないか。

 

 その感情や気持ちが理解できないわけではない。同じ剣士として、その感情などは理解できるし、俺自身そういった感情がないわけじゃないのだから。

 

「俺は、使いこなしていない」

 

「えっ?」

 

「ただ、一つだけこの剣術を師事してくれた師匠から、言われたんだ」

 

 俺だって、未だに力の振り方なんてわからない。もしかしたら俺も表に出ていないだけで、篠ノ之みたいに力を振りかざしたいのかもしれない。

 

 だが、そう見えないのは――

 

「『いつか、この業で大切な人を守れるように、想いと覚悟を持て』と。」

 

 いつか、誰かの為に奮う刃たれ。

 

 自分の為に力を求めるのではなく、他人のために力を求めよ。

 

 空に手を伸ばし、何かを必死で掴もうとする。だが、それは指の隙間から漏れ出てしまい、虚空へと散ってゆくだろう。

 

「まだ俺は誰かを守るだけの覚悟も力もない、誰かを想うなんてそれこそ未知の領域だ」

 

「……」

 

「だから、誰かの為の刃(その時)に恥ずかしくないように、探してんだ。自分が振るう理由を」

 

 じいちゃんが師事している時に口々に言っていた。八蒼一刀流は暴力によって振りかざすのではなく、想いによって斬り祓うのだと。

 

「もし、自分が振るう理由が分からないってんなら」

 

 伸ばした手を篠ノ之に向ける。

 

「俺も一緒に探してやる。同じ未熟者同士、互いに研鑽し合いながらな」

 

 ぽかんとする篠ノ之だったが、フッと笑い手を掴み立ち上がる。

 

「そうだな。力に溺れない理由と想い、探してみるとしよう」

 

 先は長いだろう。何時辿り着くかも分からないし、もしかしたら辿り着くことなんてできないかもしれない。

 

 それでも、諦めない。

 

 時間はたっぷりあるんだ、どれだけ時間がかかろうとも辿り着けるさ。

 

 俺たちが諦めず、歩くほどの速さでも進んでいくのなら。

 

 

 

 

 

 二人の剣士は刀を通して気持ちを伝えあった

 この先は全く見えない暗闇でも

 自らを奮う想いを探しに歩み続ける

 その始まりへと




 どうも、いつもあなたの隣でグツグツ煮えてる土鍋大根です。
 箒との和解という名のぶつかり合い、無事に更新しました。
 なんか書いていてこれ夕日で殴り合ってるんじゃねぇのか? とふと思ってしまった自分がいて、最後なんか主人公口説いてない? とも考えてしまった。
 気のせいですね? 俺の気のせいですよね?
 さて、これにてやっと一巻半分? が終了ですかね。この後はご存知の方はご存じのあの娘との話になりますね。更新速度は相も変わらず不定期すぎますが、それでもこの小説を読んでくれます読者様に感謝を。
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