IS<インフィニット・ストラトス> 次元超えし女神   作:土鍋ダイコン

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自分達が望まなくとも
そんなのお構いなしに
周りは楽しみ喜ぶだろう
(配点:パーティー)


十章 食堂の騒ぎ者

「ふぅ、やっと着いたわ」

 

 日が沈み夜の帳が落ちた頃、IS学園の正面ゲート前に大きなボストンバックを持った一人の少女が佇んでいる。

 

 小柄な体、四月の夜風になびく黒曜石(オブシディア)のような髪を金色の留め金で肩にかかるかかからないかというところで結び、いわゆるツインテールにしている。

 

「受付って、どこだったかしら?」

 

 着ていた上着のポケットからややくしゃっとした紙を取り出す。それにはかなり大雑把に線を描かれた地図のようなもので、IS学園正面ゲートと目的地が書かれていた。が、あまりにも大雑把に描かれているせいで、現在位置からどうやって行けばいいのかさっぱりわからない。

 

「よくこんな地図渡したもんだわ。これじゃ結局自分の足で探さなきゃいけないじゃない」

 

 くしゃっとポケットにしまい込み、面倒くさそうに溜息を吐きながら歩き始める。地図を睨みながら場所がどこか考えるよりも、とにかく体を動かしたほうが見つかるだろうと。

 

 考えるよりも体が先に動く、思考よりも行動。それは「実践主義」「行動力がある」というが、悪く言えば「よく考えない」である。

 

(それにしても、誰かに会わないかな? 案内できそうな奴)

 

 しかし時刻は午後八時過ぎ。生徒はもちろんのことだが教職員も殆どが寮や家へと帰っていたために建物の電機は消えており、先ほどから歩いていても人っ子一人として通りかかっていない。

 

(……いっそのこと、空から探し出そうかな)

 

 そう考えた矢先、それを否定した。それをすれば確かに目的地をすぐに見つけられるだろうが、その後に待っているであろう反省文や説教のことを考えるとそちらのほうがずっと面倒だと。

 

 結局少女は諦めて、歩き続ける。

 

 何度目になるか分からない溜息を吐きだした時、目の先にある曲がり角から話し声が聞こえる。

 

 少女の目に僅かながらの希望の光が灯る。もしこの先の人たちを見逃せば、いつ人が通るか分からない。なにより相当なことがない限り道を尋ねられて答えない人はいないだろう、と安直に考える。

 

「だから……でだ」

 

 声の出所はIS訓練所からであり、少女はすぐにアリーナゲートへと走り出す。

 

「さっきの場合はシュッとしてドガンでだな」

 

「いや、だから分からないって」

 

 だが、少女は足を止めてしまう。その会話を、より正確に言うのであるのならその内の一人である青年の声を聞いたから。

 

 アリーナゲートから歩き始める少女と青年。どうやら二人は遅くまでアリーナで訓練をしていたのであろう、会話内容もその時の動きや動かし方――やや抽象的なものが混じっているが――のことばかりだ。

 

 少女からは少し離れていたため二人は全く気付く様子がなく、こちらに見向きもしないでどこかへ歩いて行ってしまう。

 

 ――あの女は誰なのだろう、ずいぶんと仲が良く見えたが。

 

 青年を目で追いかけながら隣を歩いていた少女を睨みつけるように見据える。もしかしたら彼の大切な、それこそ女の子なら誰もが夢見るものなのではないかと。

 

「……気分悪い」

 

 折角人にあえて場所を聞けるかもしれないと思っていた矢先、少女にとって大切な、それでいて見たくないものを見てしまったために、場所を聞くタイミングが失う。また歩けばどうにかなるだろうが、少女の内心はそれを阻めてしまう。

 

 だからだろう。心が乱れていたために、それに気づくのが遅れてしまう。

 

「そんなところに立って、何やってる?」

 

 突然後ろから声をかけられ、少女は反射的に身体を動かす。

 

 左肘を下から突き上げるように立て、左足を後ろへ踏み込みながら動き、背後にいた誰かに当たるであろうタイミングでさらに強く踏み込むことで、反動を肘へと伝える。

 

 かなり変則的に出した技であったが、少女はうまく行った自信があった。しかし、当たるその瞬間のインパクトが感じられない。

 

 少女はそこで後ろにいた誰かを見た。

 

 小柄な少女から見ても大柄な青年、無造作に伸ばされていたであろう黒髪を首あたりで結んでいる。服装は白い丹前に馬乗り袴、おおよそ制服には見えなかったがよくよく見るとところどころ赤い線があり、IS学園制服に似せているデザインだった。

 

「……確かに後ろから声をかけたのは驚かせたかもしれないが、いきなりこれはどうかと思う」

 

「あ、その、すいません」

 

 すぐに少女は後ろを振り返り、頭を下げる。防御した手を振って痛みをごまかそうとしているが、その表情は特に何かあるわけでもなく無表情だった。

 

 今まであった男たちとは違った、過去に少女を助けてくれた少年とも違うどこか空虚さを感じてしまう青年に少女はどうすればいいかと悩み、青年はずっと無表情に立ち続け何かを待っているように、少女を見つめる。

 

 それから時間にしては数分ほど、しかし二人にとっては数時間かと思われる体感時間を感じていたが、先に口火を切ったのは少女のほうだった。

 

「あの、本校舎一階総合事務受付の場所、分かりますか?」

 

 そこまで言って、少女は後悔した。先ほどあんなことをした直後だというのに、何食わぬ顔で尋ねる人がいるかと。

 

 だが、青年は瞳を閉じ、むっと言うと。

 

「それならこの建物の裏にある。どうせ寮へ帰るところだ、案内するぞ」

 

「えっ、いいの?」

 

 こっちだ、と相変わらず無表情だったが、案内して貰えるのなら構わないかと少女は考えることを放棄し、少年の後を追いかける。

 

 それからすぐに目的地へと着きお礼を言おうとした少女だったが、気づけば青年はどこかへと消えていた。同じ学園にいるのなら、いつか会えるだろう。

 

 そう結論付け、出てきた女性に自分のことを話すために前を向く。

 

「ちょっといい?」

 

           ◆

 

 

「クラス代表、おめでとう織斑君!」

 

「おっめでとー!」

 

 ぱんぱかぱーん、とクラッカーが鳴りテープが空を舞い散り、呆然と立ち尽くしている織斑の頭の上に落ちていく。

 

 次の日、放課後の鍛錬を終えた後に学食へ来てくれとクラスメイトに言われていたために、シャワーを浴びた後に織斑と共に向かい扉をくぐった瞬間にこれであった。

 

 彼女たちは単純にめでたいことだから祝っているのだろう。しかし当の本人は全然めでたさそうではないし、嬉しそうでもない。

 

 ふと壁に目を向けると『織斑一夏クラス代表就任パーティー』と書かれた紙が掲げられており、どうやらこれが自前に準備されていたことがよくわかる。よくよく見れば一組以外の顔ぶれもあり、その人数は合わせて三十人は超えているだろう。

 

 やばい、なんかこの空気は耐えられない。

 

 一歩後ずさった所肩を思いきり掴まれ、顔を向けると織斑が必至な表情で押さえつけていた。頼むからこんな場所で俺を一人にしないでくれ、と口パクで伝えてくる。

 

 確かにこんな場所に置いてかれたら心が押し潰されてしまうのも頷ける。

 

「これでクラス対抗戦も盛り上がるもんだよ」

 

「ぐふふ、今年のトトカルチョは波乱万丈ねぇ」

 

 盛り上がっているのはあくまでも周りであって、あいつは何一つ盛り上がっていないぞ。というか、二人目はいったい何を言っているんだ?

 

「はいはーい、ここからは新聞部による期待の新入生織斑一夏君の特別インタビューをやりたいと思いまーす!」

 

 人を掻き分け出てきた女子生徒がボイスレコーダー片手に瞳を爛々と輝かせる。胸元のリボンを見る限り二年だというのがわかる。

 

「あ、私は二年の黛薫子。IS学園情報通信新聞部副部長やってます! あ、これ名刺」

 

 なんかえらく長いことを言って、結局何を言っているのか分からなくなってしまった。それにしても漢字の画数がやばい、書くとしたら嫌になるだろうな。

 

「ではではまず、クラス代表になった感想をどうぞ!」

 

「……えーと、その、頑張ります」

 

 まあ、自分で望んでなったわけじゃないから、感想らしき感想はないよな。あるとしたら、無理矢理やらされました、とかか? あ、この羊羹美味い。

 

 我関せずと学食に並べられている羊羹や餡蜜を食べていくと、肩を叩かれ後ろを振り向くと黛先輩がこちらにボイスレコーダーを向けニコニコ笑っている。

 

「……なにこれ」

 

「なにって、代表候補生でもあるセシリアちゃんに怒涛の追い上げをした、世界に二人しかいない男性操縦者の一人である武藤智哉君にもインタビューするから!」

 

 はぁ、そうですか。

 

 まさか自分に来るとは思わなかったが、質問に答えればいいだけだし、何とかなるか?

 

「じゃあまず、軽く自己紹介をお願いしてもいい? 意外と知りたい人が多いのよ」

 

 いや、自分の自己紹介知りたい人って誰だよ。そんなどうでもいいような事、今更話すのか。

 

「武藤智哉。趣味は空を見ることで、日課は鍛錬」

 

「では次! 何かスポーツをやってましたか」

 

「実家が古流剣術をやってましたので、祖父から師事してました」

 

 そんな感じでいくつかの質問に答え、だいぶ満足したのかホクホク顔の黛先輩はメモ帳にものすごい勢いで書き綴っていく。

 

「じゃあ最後に、一言お願いしますよ」

 

 といきなり言われても、どういったことを言えばいいのかさっぱりわからん。何か参考になるような例はないだろうか。

 

「そうね、『俺に触ると火傷するぜ』とか?」

 

 分からん。篠ノ之の説明並みに分からないぞ。とりあえず適当に言って、改ざんでもしてもらおう。

 

「いつか、自分にとって大切な人を守れるよう、日々精進していきます」

 

 嘘偽りなく、しかし適当に変えられてもいいように一言言ったのだが、なぜか周りが静かになる。

 

 はて、変なことを言ったつもりはないのだが。

 

「よっし、最高の一言もらいました!」

 

 それを皮切りにざわざわと騒ぎ始める。私もあんなこと言われてみたい、胸がきゅんとしちゃった、などなど、訳の分からないことばかりだ。

 

 残像を残すが如くメモ帳に書き綴っていた黛先輩だったが、ある程度まとめあげたのだろう。メモ帳をしまいカメラを取り出しレンズをいじる。

 

「じゃあ最後に三人並んで写真撮るよー、35×51÷24は?」

 いや、いきなりそんな数式言われても、答えられないから。

 

「えっと、2?」

 

「残念、74,375でした!」

 

 わかるか!

 

 パシャッとシャッターが切られるが、そのたった一瞬の間に周りにいたクラスメイト全員がいつの間にか俺たちの周りに集まり、気づけば写真に写りこんでいた。

 

 それからばか騒ぎは何やかんやで午後十時近くまで続き、織斑先生が止めに入りパーティーは閉幕となった。




 どうも、この時期必要となってくる土鍋大根です。
 やっと話が書けましたが、なんか物足りなさを感じてしまう文字数。
 できればもう少しかければよかったと思いますが、キリがいいので一旦ここまで。
 ……こう、熱く盛り上がるような話が書きたいです、切実に。
 さて、自分のことはさておき、ゆっくりですがまた更新できるように頑張りたいと思いますので、読者の皆様は温かい気持ちで待っていてほしいです。
 最後に、この小説を読んでくださった読者様に、感謝の極みを。
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