IS<インフィニット・ストラトス> 次元超えし女神 作:土鍋ダイコン
諦めることはできない
ならば、この手に劔を
(配点:襲撃)
中央に鎮座するは異様に腕が長く頭と肩が一緒になった鈍色のIS。アリーナに連れ込まれてから一切身動きを取らないが、俺から視線は一向に離れない。
すでにベーシック・コアは展開済み、心身ともに臨戦態勢で何時でも踏み出せる。思考はまだ現状に追いついていないが、それでも徐々にクリアにしていき最善手を導き出そうとする。
「――――」
だが、導く前に謎のISが動き出した。
左腕を伸ばし、そこから迸る閃光。本能に従い横へスライドステップし、背後で爆音が響き渡り爆風が襲い掛かる。
見ると地面が高温で焼かれたように溶かされ、アリーナのバリアーがボロボロに罅割れていた。アリーナのバリアーはISのシールドバリアーと同じ技術が使われており、その強度は並大抵の攻撃では突破することはできない。
つまり、相手の左腕から出る閃光――恐らくセシリアのようなレーザーやビームの類――はISのシールドバリアーを貫き、最悪絶対防御も破って操縦者に攻撃できるほどの火力だということだ。
――一撃も受けてはならないとは。
「考えても埒が明かねぇ!」
距離を離しては砲撃ばかりされ手詰まり、それなら危険でも近づいて斬るしかない。
翔け始めると同時に砲撃を繰り出されるが、真っ直ぐ飛ぶだけなら少し機動を変えるだけで避けるのはたやすい。スラスターを横に吹かし回転しつつ対処、二射を撃たれる前に出せる限界速度で距離を詰め、袈裟斬り。だがそれは右腕の装甲で防がれる。
ギャリンと金属同士が擦れ合う音と火花が散り、行動を移し切る前に眼前に広がる鋼鉄の掌。チャージせずに速射でビームを放ち、大きく吹き飛ばされる。
「がっ」
速射であったために威力はそれほどでもないのに、端まで吹き飛ばされた上にシールドエネルギーを結構削られた。だが織斑の零落白夜と比べば消費量はそんなに大したことはないが、衝撃だけを考えるなら馬鹿にできない。
砲撃がまた発射されるがバレルロールしつつ接近し、同じように斬って防がれ、弾かれる前に接地面を支点にブーストしながら倒立の要領で頭上を跳び、背面に向け蹴り穿つ。
普通の人なら対応しにくい、ましてやISの加速がついた蹴りは当たる筈。と願いを込め、謎のISは振り向くことも一切せずに腕を高速で動かして防いだ。
驚きはしつつ、撃たれる前に蹴った勢いで宙へと飛び態勢を整え、今度は身体が耐え切れる程度で小刻みに飛翔。
砲撃では狙えないと判断し両腕で弾幕を張るが、極太のビーム砲ではなく連射性重視の小さなエネルギー弾のため空間に幾つかの空きが存在し、そこを縫うように駆け抜ける。
「うおおぉぉ!」
多少の被弾はもろともせず、弾幕の隙間とルートを瞬時に解析し近づく。今度は複数の斬撃を流れるようにほぼ同時にする《弧月》で臨戦、謎のISは弾幕を中断させ左右を高速で振り全てを捌き切る。
距離を離そうとしたが今度はガッチリと掴まれ地面に擦りながら飛び、何度もエネルギー弾を食らう。スラスターの強度限界やシールドバリアーの減少に、大量の警告音と共に視界内に情報が流れる。
俺は無意識のうちに無名の柄元に取りつけられたトリガーに指をかけ、引く。
炸裂音と共に刀身が加速し、謎のISの側面を思いきり叩き引きはがす。
軋む体に鞭を打って起き上がり、口の中に広がる血を吐き捨て、無名を見る。
試作型炸薬加速機構式大太刀、開発名こそあったものの刀剣としての名は一切持たないが故の《無名》。その特徴は内蔵された炸薬を爆発させそれによって起きた爆風によって刀身を加速させるというものだった。その機構を知ったのは代表決定戦を終えてからの機体詳細レポートを読んでいる時で、試作型であるこれは柄尻から専用の弾丸型カートリッジを三発装填するらしい。
今まで使う機会なんてなかったが、これはいざという時の切り返しとしてはいいかもしれない。
謎のISを見る。
動きは一切取らずに不動を保つ姿は、余裕を見せるためなのか。と思ったが、ふと気づいた。
どうして今攻撃してこないのか。
今もし攻撃されれば俺はなす術もなく、また被弾覚悟で接近しなければいけない。
だがこちらが動かなければ相手も動かない。まるでこちらのことを観察するように、ただ見るだけ。
そうだ、不自然なことはあったのだ。
弧月を防いだ時や、背面の蹴りを防いだ時だって人間の反応速度を超えたような動きで、その対処も機械的だった。
(もし、俺の予想が正しいとするなら)
――勝機は、少なくてもある。
だがそのためには、まだ相手の動きが観察したりない。
予想を確実なものへとするために、再び近づいていく。
砲撃を躱し、弾幕の雨を潜り抜け、近接攻撃を受け流し、相手の動きを見る、観る、視る。
微細な鋼鉄の腕の動きを、身体の流れを、射砲撃をする際の角度を。
ありとあらゆるものを、脳と身体に刻み込ませるように見続ける。
その果てに、勝機はあるのだから。
◆◆◆◆
管制室。
今回の非常事態の収束へ向け、動き続ける二人。
山田真耶と織斑千冬は二つのアリーナで起きていることを把握、対処のための手段を講じようとしていた。
「駄目です、やはりシステムにアクセスできません。外にいる三年も同様にクラックを実行してますが」
大量のシステムウィンドウを展開・処理しながらシステムクラックとアクセスをしようとする真耶と、織斑と凰が映る第二アリーナとノイズが酷い第三アリーナの映像を見る千冬。
冷静を装っているが、腕を組んでいるその手は強く握りしめられ、爪が食い込んでいるのに全く気付いていない。
このままではいけない。
織斑と凰は何とかするだろう、何せ代表候補生とまだまだ原石ではあるものの土壇場で強さを発揮する最強の弟。
問題はもう一人。
織斑と比べれば戦闘能力は高いものの、機体そのもののポテンシャルはこの学園ではまず間違いなく最下位である武藤。
操縦技術も学園最強に教えを乞うても所詮数週間程度、劇的に上がるわけでもなく精々きちんと飛ぶことができる程度。
「……聞こえているか、更識」
『もちろんです、織斑先生』
通信機越しに聞こえる、悪戯好きの声。ただし今は真剣な芯の通った声に現状の確認を取る。
「解除は後でいい、お前には武藤のとこへ向かってもらう」
『私は構いませんが、障壁などは?』
「非常事態だ、お前ならどうにかできるだろ」
いや、できないわけではないですが。というが非常事態は非常事態。背に腹は代えられないし、何より教師は生徒を守らなければいけない。
そのためには障壁の一枚二枚、高々紙数枚で済むなら安いものだ。
「それに、駆けつけたいんじゃないのか?」
『……』
頼むぞ、と一言伝え通信を切る。
◆◆◆◆
「はぁ、はぁ、……はぁ」
刀剣を杖に体を支え、息を整える。
あれからどれほどの時間がたったのだろう、装甲はほとんどに亀裂が走りエネルギーも残り僅か。シールドバリアーが抜かれ体中血だらけ、スラスターなんて片翼が壊されてる。
こんなにボロボロだが、謎のISはほとんど無傷。
まったく、笑えてくる。
だが、それに見合うだけ観察した。
この先は根性勝負、エネルギーが切れるのが先か俺の身体が耐え切れなくなるのが先か、謎のISを倒すのが先か。
さあ、ここからが。
「反撃開始だ、鉄屑」
機体が安定しないまま加速、砲撃は腕の角度から左へ三歩ほどの移動で躱し、弾幕の嵐は弾道予測から最良の道を飛翔。
そして斬り裂く。謎のISは機械的にその攻撃に対して腕を動かして防御しようとし、刀身が腕をすり抜けていき、この戦いで初となるダメージを与えた。
「――――」
突如起きたことに理解できずにいた。刀身がすり抜けるなど物理的に考えて不可能だ、そう処理しようにも現実目の前に起きた現象に処理が追いつかない。
その隙を、逃すはずがない。
一合、二合と。
防ごうとして、すり抜け。躱そうとして当たる。
今まで防がれ続けた攻撃は、今を持って中るものへと変わった。
それは特殊な能力などではなく、一種の技術。
相手の微細な動きや癖、防御や回避などのパターンを見切り、それらの隙をついて攻撃することで相手には攻撃がすり抜けるように錯覚させる八蒼一刀流伍の型《蜃気楼》が一つ。
「《霧霞》」
相手にはこちらが霞んで見えるように、決して掴ませることない霧の如く。防御手段を許さない、戦えば戦うほど相手の癖を見つけ崩していく。
胴体が僅かに駆動する音が聞こえたので装甲の隙間に刃を捩じり込み阻害させ、俺に向けるように腕が動き始めるので手を添えることで軌道を変えさせる。
ビームが横を通り過ぎ、アリーナのバリアーを歪ませる。その隙に捻じ込んだ場所を鞘として《孤月》を振りぬき、複数の斬撃が両腕をすり抜け関節や駆動部分に当たり耐え切れなくなった右腕が切り落とされる。
勝てる。
装甲が強固でも、関節や駆動部分はそれほど頑丈でもない。一度だけなら小さすぎても、何十と切り結べば断ち斬れると今証明できた。
しかし、不意に襲われた視界のブレに感覚が狂い始める。
不味いと思い蹴りを繰り出し、その反動で距離を一度取り深呼吸。
まるで長い時間息を吸えなかったような苦しさに、頭から熱された鋼鉄を貫かれているように痛みを通り過ぎて熱い。全身から嫌な汗がどっと流れていき、吐き気すらしてきた。
(やばい、
伍の型全てに共通しているのだが、そもそもこれは一種の見切りの延長線もしくは観察眼による技術。相手の動きを幾つものパターンに分析・体に覚えさせることで防御を抜いたり防ぐのだが、それゆえに相手の動きを見切るために何倍もの集中力が必要になる。
師匠やある程度の八蒼一刀流剣士ならこんな短い間に集中が切れたり乱れたりはしないだろう。しかし自分は所詮初伝止まりの未熟者、普通できることができはしないし何千倍も鍛錬をしてやっと半人前。
呼吸を変えなければ、もう一度集中しなければ、勝ち目がなくなってしまう。
「――――」
バチバチと至る所から火花を散らし、それでも最後の足掻きとばかりに全身の砲門から光が集まり向けてくる。
今の状態で受ければ確実にエネルギーが切れ半分以上は生身に当たってしまうだろう。そうなれば自分がどうなるかなど分かり切っている。
だが、思うように体が動かない。
思考が、脳に血が巡らない。
視界が徐々に暗くなっていく。
『――――!!』
もう、諦めなければいけないのか。
『前を向きなさい、武藤智哉!』
……。
体が動かない? 否、そんなこと気合があればどうにかなる。
思考ができない? 否、もう考える必要もない。
前が見えない? 否、もう多くを見る必要はない。
敵以外のすべての景色が視界から消え失せる、呼吸音すら聞こえなくなってきた。
自分が浮いてるのか立っているのかさえ分からなくなっていき、最後には無間が広がっている。
システムウィンドウに何かが書かれるが、それを理解することはできない。
バチリと、ISが悲鳴を上げるのを合図に限界まで出力を上げ駆け抜ける。
「――――」
両肩二門から放たれるビーム、蒼い光纏う無名を右に薙ぎトリガーを引き刃を返し、同時に放たれたビームを斬り裂く。
左腕から放たれる死の閃光、最後の力だとばかりに輝く無名を全力でぶつけ合う。刀身が罅割れ、熱量で全身が焼けていき、それでもなお体は前へと進んでいく。
刀身が折れるのと同時に最後のビームを逸らし、飛び込む。
胸部装甲が開き、正真正銘最後の砲門が向けられる。ゆっくりと動いていくそれらを見ながら、今出せる全速力で刃を砲門へと突き刺し、最後のトリガーを引く。
「終わりだ」
折れた刀身内部と砲門に集束したエネルギーによって盛大な誘爆を起こし、その衝撃によって地面を何度も転がりながら吹き飛ばされる。
ISが限界を超えたために勝手に解除され、もう指先一つも動かせない。
「勝った…のか」
絞り出すように出た声はとても小さく、か細く。
ギギッ、という機械音に消されてしまった。
頭が吹き飛び、胸部なんて誘爆によって穴が開いていて、全身至る所から黒い液体を流し火花を散らし、それでもなお最後の足掻きとばかりに左腕を動かす。
「くっ」
音に反応して体を動かそうとするが、やはり指先一本も動かない。
動け/それ以上はいけない
動け/これ以上は往ってはいけない
動け!/止まって!
「動けえぇ!!」
獣のような咆哮を上げ、動かせない体に鞭をいれ壊れるつもりで力を込める。
「いいえ、よく頑張ったわ」
頭上を過ぎ去る空色が敵を吹き飛ばし、目の前に着地する。
ISとしては装甲が少なく、それを補うように水のヴェールが体や周りを覆ている。
「先、輩…」
「ええ、後は私に任せなさい」
その言葉を最後に、俺は意識を失った。
劔が折れて、地に倒れ墜ち
それでもなおもがき続けた末に
掴んだモノは勝利といえるのか
どうも皆さん、年末と言えば必要となってくる土鍋大根でございまする。
最後の投稿からはや一年、もはや忘れられているであろうこの小説。
それでも書いて投稿してしまいました、ごめんなさい。
これからも不定期ですが、もし読んでくださる読者様がおられるのでしたが、最大限の感謝を。