IS<インフィニット・ストラトス> 次元超えし女神   作:土鍋ダイコン

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一先ずゆっくり休んで
飯を食って
それから考えよう
(配点:療養)




最終章 羽休みの雛鳥

 謎のIS襲撃事件から一日がたった。

 

 二機のISによってもたらされた被害はアリーナの破損のみで終わり、その修繕費などは国から支給されることになったため、実質的になんともなかった。

 

 だが、今回の一件でアリーナのプログラムは見直され、同じことが起きないように改善されるようだ。

 

 そんなこんなで事件に深く関わらなかった生徒は、実技を除いて何時も通りの学園生活へと戻っていく。

 

 そう、深く関わらなかった生徒は。

 

 IS学園医療室のベッドの一つ、前回と全く同じ場所で俺は全身至るところに包帯を巻かれ、点滴を受けながら横になってた。

 

 骨折こそしなかったものの、火傷に擦り傷はてはビームによる貫通痕や内臓損傷と、ボロ雑巾が如しボロボロ具合である。医務員にはよくこんな状態で生きているな、と呆れながらに褒められ、傷が治るまで筋トレで我慢しようとしたら数人がかりで押さえ付けられた挙げ句、ベッドに縛り付けられた。

 

「そこのとこ、どう思う?」

 

「妥当な、判断」

 

 ――解せぬ。

 

「はい……、食べる?」

 

「ん」

 

 やや不格好なウサギのりんごを口に運んでもらい、咀嚼する。口の中も少し切れてたため滲みるが、一日ぶりの食い物は美味しく感じるものだ。

 

 飲み込み、また口に運んでもらい、咀嚼。リンゴがなくなるまでこれを繰り返す。

 

「――なんか、雛にエサを与える、親鳥の気分」

 

「あぁ、何となく分かる」

 

 自分で飯を食うことも満足に出来ない俺は、正しく雛と言われても仕方がないだろう。

 

「織斑達はどうなったんだ?」

 

 気分を変えるために別の話題を出す。このままだったらどこかで苦しくなりそうだったから。

 

「えっと、凰さんと二人ががりでやっと。観客席にいた人で、怪我人は出なかったよ」

 

「そっか」

 

 あいつらは倒せたんだ。

 

 二人ががりであったとしても、アレを倒せるかと聞かれれば難しい。それこそ更識先輩や織斑先生、山田先生位の実力がなければ、下手をしたら何も出来ずに死んでいただろう。

 

 そんな相手に織斑は勝ったのだ。

 

「凄いな、あいつ」

 

 自分と同じかそれよりも下手な織斑が、どうして勝てたのだろうか。なぜ自分が負けたのだろうか。

 

 剣の腕が足りないのか、操縦技術が足りないのか、ISを使いこなせていなかったのか。

 

 展開を読みきれないから、短い間した霧霞を使えなかったから、何もしていないとどんどん悪い方に考えてしまう。

 

「……ホントに」

 

 妬ましい。

 

 そして、そんな気持ちを抱いた己に死ぬほど吐き気がする。

 

「智哉」

 

「ふきゅっ」

 

 不意に、頬をつつかれた。

 

 少しの間何をされたか理解できず、簪がやっているのだと認識した上で理解できなかった。

 

「あ、意外と柔らかい」

 

 もっと固いと思った、と呟きながら俺の頬を摘まみ出し、思考が追い付くことなんてできずされるがまま。

 

「表情、怖いよ?」

 

「――」

 

 まだされるがままだったが、その言葉に何とか返そうと口を開き、音が出せずに閉じる。

 

 どれくらいの間だったのだろうか、体感的には十分弱――実際は一、二分ほど――いい加減少し痛くなってきたので止めようと考えたところで簪は手を止めた。

 

「智哉は、凄かったよ」

 

「えっ?」

 

「こんなボロボロになって、ISも大破して、それでも一人で戦って」

 

 手や首などの見える部分の包帯を優しく包み、顔を上げる。

 

 その瞳に、涙を溜めながら。

 

織斑一夏(もう一人なら)なら、絶対死んでた。智哉だからお姉ちゃんが来るまで、耐えられた」

 

 手が微かに震えているのが分かる。

 

「だから、智哉は弱くなんかないよ」

 

 きっとずっと心配してくれたのだろう、目元は今泣いた位じゃならないほど赤くなっている。

 

「それに――」

 

 ――ちゃんと、私達を守ってくれたよ。

 

 その、ちょっとした言葉で、ぐちゃぐちゃに絡まった感情が解れ、ストンと何かが落ちていった。

 

 脱力し、深くベッドに倒れ込む。慌てて簪が近寄るが何でもない、と言って瞼を閉じる。

 

「心配をかけて、すまん」

 

「……本当だよ、馬鹿」

 

 俺は、まだまだ未熟者だ。

 

 けど、少しだけ自分に自信を付けれる、そんな思いを受け取れた気がする。

 

 何時までも居ては消灯時間等に間に合わなくなるため、簪は帰っていきその入れ替わりで織斑先生達が見舞いに来てくれた。

 

「体の具合はどうですか?」

 

「筋トレをしたいです」

 

 何言ってるんですか、重症なんですよ! と山田先生の叫びを流しながら、織斑先生へと視線を向ける。

 

「あのIS、やっぱり無人機でしたか?」

 

「あぁ、一応秘匿事項だから他生徒や外部には洩らすな」

 

 無人機、どの国においてもそれを開発するだけの技術力はないだろう。ならば今回の騒動の黒幕はそれを出来るだけの技術者、もしくはI()S()()()()()()()()()()か。

 

 いや、俺がどう考えたところで何か対策が立てれる訳でも無し、今はその事を頭の隅に置いておこう。

 

「それよりもお前のISについてだ」

 

 俺のIS? どうしたのだろうか。

 

「この前の戦闘でダメージレベルがE、フレームの基礎やシステム面にも大きな損傷が発生したため、アイアンファクトリーが分解検査(オーバーホール)の為に回収しに来ました。後日、本社に出向くようにとの事です」

 

 あれだけの無茶に付き合ってくれたのだ、当然と言えば当然なのだが――

 

「あ、来たときに今回の事でお話があるそうですよ」

 

「聞きたくなかった」

 

 ――出てくるであろう彼女の事に頭を抱えながら、しかし自分がやった行いを考えれば自業自得であり、やはりきちんと今回の事で謝罪は必要だ。

 

 たぶん彼女の事だからもう予定を組んで、その旨の書類を送っているだろう。

 

「とにかく今は身体を治すことに専念しろ。お前はそれだけの事をしたんだ、バチは当たるまい」

 

「あ、授業内容については、私が放課後教えに来ますね」

 

 やはり山田先生は良い教師だな、ドジだけど。

 

 織斑先生達も帰り随分と静かに感じる夜中、窓から射し込む月明かりと闇を見ながら()()()()()()()

 

「で、何時までそこにいるつもりですか、更識先輩」

 

「あら、バレちゃった」

 

 何でもないような感じで更識先輩がいつもの笑顔を浮かべながら、誰もいなかったはずの場所から出てきた。

 

 いったい何時からそこに居たのだろうと思いつつ、織斑先生なら多分気付いていたのだろうなぁ。とあの人の人外ぶりに驚嘆する。

 

 いや、今はそんなことどうでもいいだろう。

 

「体の調子は、その様子からして大丈夫そうね」

 

「まあ、鍛えていますから」

 

 鍛えて云々の問題じゃない気がするのだけど? と言われたが、何度も死ぬ目にあって来れば自然と治癒能力も上がるものだ。

 

「……助けてくれて、ありがとうございます」

 

「お礼を言われるようなことじゃないわ。それどころか、助けに行くのが遅れてごめんなさい」

 

 こちらは助けてもらった身なのだ。だから頭を下げられると正直どうすればいいのか困る上に、話を続けられない。

 

 この傷は決して先輩が遅れたからではない、己の力不足が原因なのだ。誰かどう言おうとそれは覆らない、今回の悔しさを明日の糧とするためにも意味があったのだ。

 

「そう、キミがそう言うのならこれ以上は言わない。じゃあ次の話」

 

 更識先輩はいつもの飄々とした感じを一切出さず、こちらを見つめる。

 

「今回の襲撃で分かったと思うけど、キミたちはいつ、何処で、誰に狙われるか分からない。運よく生き残れはしたけど、次は生き残れるとは限らない」

 

 いえ、決して生き残れない。

 

 分かっていたこととはいえ、こうやって言われるとクるものがある。

 

「ここで諦めて国の管理下に入るか、私たちの保護を受ければ戦わずに済むかもしれない。もちろん、その先がマトモであることは保証できない」

 

 よくて実験動物、悪ければありとあらゆる情報を研究されつくされた上で解剖(バラ)される。更識先輩の所ならまだヒトの扱いをさせて貰えるだろうが、死ぬのが早いか遅いかの違いである。

 

 そんなの、答えは決まり切っている。

 

「諦めない。何があっても俺は刀を握るし、手足が千切れとんでも立ち上がる」

 

「今のキミなら、すぐに死んでしまうでしょうね」

 

「ISの技術も、戦う術も、諦めなければ何処へだって行けます」

 

 ヒトは諦めない生物だ。諦めないからこそ武器を産み出し、戦う技能を編み出し、抗うことで圧倒的強者に勝ってきた。

 

「それに、学園最強の先輩に教えてもらってるんだ。現在(いま)が駄目でも、未来(あす)を変えられる」

 

 何もかも才能がないけれど、諦めなければいつか辿り着ける。死ぬ気で抗えば、小さな塵が積もり積もって山となるように、己の限界など知ったことかというように。

 

「もし先輩が二度と教えてくれなくとも、周りが無駄な努力だと(さげす)んでも、俺は諦めることだけはしない」

 

「……もう。教えないなんて、一言も言ってないじゃない」

 

 表情が砕け何時もの先輩に戻ると、頭を撫で始める。

 

「見捨てないわよ。例え世界を敵に回したとしても、私の全てを賭けて智哉くんを守るわ」

 

 その時の先輩は、何故だが言い様のない不可思議な雰囲気で、触れば砕けてしまいそうなほど儚かった。

 

「……頭撫でんな」

 

 あ、恥ずかしがってる? うるさい。

 

 気付かない振りをして、何時までも頭を撫でるこの先輩も、守れるようになると心に誓った。

 

 ◆◆◆◆

 

 IS学園地下五十メートル、それは最上位(レベル4)権限を持つものしか立ち入ることが許されない、極秘裏に作られた隠された空間。

 

 襲撃され機能停止した二機のISはすぐさまここに運ばれ、解析を行われた。そして数時間が経ち、戦闘映像とベーシック・コアの記録領域から得た戦闘データを見比べつつ繰り返してみる。

 

「…………」

 

 薄暗い室内にディスプレイの光が、織斑千冬の表情の消えた冷たい顔を照らし出す。

 

『織斑先生、いいですか?』

 

 ディスプレイの映像に割り込むように別のウィンドウが開き、ブック型端末を片手に持つ山田真耶が映る。

 

「どうぞ」

 

 許可が下り部屋の扉が開き、普段のおどおどとしたものを感じさせない、きびきびとした動きで入室してくる。

 

「ISの解析結果が出ました」

 

「ああ、どうだった」

 

 端末のデータをディスプレイに次々と映し出していき、必要なデータのみをピックアップし拡大する。

 

「織斑先生の予想通り――無人機でした」

 

 世界各国でISが研究される中、未だに到達していない技術。遠隔操作(リモート・コントロール)独立稼働(スタンド・アローン)。この二つの技術が二機の謎のISに使われている。この事実は、すぐさま学園関係者に箝口令(かんこうれい)が敷かれるほどの事だった。

 

「どのような方法や技術で動いていたかは不明。織斑くんや武藤くんの最後の一撃で、機能中枢が焼き切れていたり爆発により大破していましたので、修復もおそらく無理かと」

 

「コアの方は」

 

「……どちらも未登録でした」

 

 やはりか、と確信めいた発言をする千冬に、真耶は怪訝そうな顔をする。

 

「何か心当たりがあるんですか?」

 

 思い出すのはたった一人の人物であり、今回の騒動を起こせるほどの天災。

 

 彼女の腕ならばこのようなことは軽くやってのけるだろうが、ではどうして二人目の男性操縦者にまで仕向けたのかが理解できない。

 

 ではどのような意図があって仕向けたのか、理由がなければ天災は決して他人にかけらでも関心は向かないだろうと。その理由とは?

 

 様々な思考が千冬の頭の中に駆け巡る。だが、どう考えても辿り着けずに靄の中へと消えてしまう。

 

「いや、()()ない」

 

 そう言ってディスプレイに視線を戻す千冬。その顔は教師としての顔ではなく、世界最強の座に至った伝説の者。その現役時代を思い出させるほどの鋭い瞳は、ただただ映像を映し出す。




 仕事なんてしたくない? では鍋料理でも食べながら英気を養って気持ちを取り戻しましょう。土鍋大根です。
 さて、これにてストックは終わりIも無事終わりを迎えました。これからはⅡ、原作で言うなら第二巻の始まりです。
 そこでも原作とはまた違う展開を考えつつ、敵味方両方の強化を交え、執筆していこうと思います。
 次話の投稿はいつになるか分かりませんが、それでも完結目指して頑張ります。
 では最後に、この小説を読んでくださる読者様に、最大限の感謝を。
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