IS<インフィニット・ストラトス> 次元超えし女神 作:土鍋ダイコン
無様と失笑されても
この剣は放さない
(配点:決闘)
そして時は流れ、決戦当日。
対戦の順番は俺対オルコット、オルコットと織斑、最後に俺と織斑の順になった。どうやら織斑の方で多少アクシデントがあったために初戦が俺になったようだ。
体をほぐし、適度な緊張を体に染み渡らせる。
一週間でやれることはやった。じいちゃんに教わった対抗策も山田先生のおかげで練習することができた。
結局ISを使った練習は一日もできなかったが、運がなかったと割り切ることにした。
「あ、とーやんいたぁ」
聞き覚えのない言葉を話すやや間延びした声に、後ろを振り返る。そこにいたのは以前食堂で隣にいたブカブカの制服の袖が特徴的だった、確か……。
「布仏、本音だったか?」
「おお、正解だよー、とーやん」
ピョコピョコと髪の毛が跳ねていたような気がしたが、気のせいだろう。
だがなぜ、彼女がここにいるのだろうか。今自分がいるのはピットと呼ばれる所謂待機場所なのだが、確か関係者以外立ち入り禁止ではなかっただろうか。
「ふふふ、そこはほら、応援ということでー」
つまり、無断で入ってきたということだろう。いや、まず聞かなくてはいけないことがあった。
「その、とーやんというのは、俺のことなのか?」
「そうだよー、智哉だからとーやん。へへ、いいでしょ」
何がいいのか分からないが、別段変なあだ名ではないのでいいとしよう。
一度深呼吸をし、決戦場で待っているであろう相対者のことを考える。
「ねぇ、とーやん。大丈夫?」
「さぁ?」
布仏の言葉に即返す。その返事が予想外過ぎたのか、少しぽかんとしている。
「相手は代表候補性。俺はただISが乗れただけの男。ISに載っている時間や鍛錬は圧倒的に相手の方が上だろうし、それに伴う実力だってそうだ」
だけど。
「今日までこっちだって準備はしてきたつもりだ。一方的に負けるなんてことはないだろうけど、結果は分からない」
だから大丈夫かと問われ、それに対する答えは分からないだった。
自分ができるだけの準備はしてきた。それに伴い鍛錬などを別途やってきた。
やれるだけのことはした。
「だから、あとは剣をぶつけるしかないだろ?」
俺にできるのは、それくらいだから。
「……そっか。頑張ってね、とーやん」
布仏の激励を受け止め、俺は制服のポケットからあるものを取り出す。
無骨な鉄の剣のネックレス。
「……来い、ベーシック・コア」
ネックレスは光り、その光は俺を包み込んでいく。
光が収まり、そこにあるのは無骨な鉄の塊。
ウイングスラスターや腰部アーマーは固定ユニットであり、手足の装甲はやや厚みがあるとあるISをもとに作られたデータ収集用IS。
手を握ったり開いたりして、
少しばかり感覚が違うが、許容範囲内として処理。武装のチェックも終わり、飛翔する。
アリーナへと出た俺の目の前にいたのは、蒼だった。
長大なスナイパーライフルに、独特なスラスターが付いたIS『ブルー・ティアーズ』に身を包む、セシリア・オルコットが笑みを浮かべる。
「どうやら尻尾を巻いて逃げなかったようですわね」
「誰がそんな真似をするか」
拡張領域から名前なんて設定されていない刀剣を出し、感触を確かめる。
感覚的には太刀が近いかな、この武器は。
「最後のチャンスを与えますわ」
いまだに銃口を下げたまま、右手で指を差してくる。
「わたくしが圧倒的に勝つのは自明の理。ですので、無様な姿を晒さないためにも今ここで謝るというのなら、許してあげなくもないですわ」
はて、何を言っているのだろうか。何に対して謝れと?
「そういうのは戦いが終わってから言ってくれないか。大体お前が圧倒的に勝つのが当たり前だと、誰が決めた?」
太刀を脇構えで構え、そこで深呼吸。息を吐き、オルコットを射抜くように見る。
「そんな御託はいい。俺はお前と戦いに来たのだ、セシリア・オルコット。なら、やるべきことは一つ」
「そうですか」
ISから警告音が響き渡る。射撃体勢に移行、初段装填確認と。
「ならば、お別れですわ!」
その台詞と共に耳をつんざくような独特の音とともに、何かがこちらを射抜こうとする。
それを横に移動して回避しようとしたが、いきなり動作が不自然に止まって反応が遅れる。
「くっ」
そのせいで体中に変な軋みが生まれ、躱しきれずにオルコットが撃ち出した桜色の光が脇腹を掠めいき、その痛みに耐えるように歯を食いしばる。
―――バリアー貫通。ダメージ25。
躱しきれなかった相手の狙撃のダメージを、ISが伝える。
「さあ、踊りなさい。わたくし、セシリア・オルコットとその愛機、ブルー・ティアーズが奏でる
「すまないが、俺は盆踊りくらいしか踊れないッ!」
慣れない感覚に戸惑いながら、それでもオルコットへと飛翔していき、オルコットのスラスター部分からフィン状の何かが飛翔するのが見えた。
―――第三世代特殊兵装『ブルー・ティアーズ』を確認。自立機動兵装であるため、それぞれのビットが独立に稼働し、射撃してきます。
ISから伝えられる情報を瞬時に頭の中で整理しつつ、自身の周囲に展開しつつあるビットを確認する。
全部で四つ。ISのハイパーセンサーなる高性能センサーにより360°すべてが見えているため、ビットがどこにあるかは振り向かなくても分かる。
(だけど、見えてるからってそれが反応できるかどうかは別問題だなっ)
各ビットが発光しレーザーを発射し、それを躱そうと体を動かすのだが。
「っ!」
また不自然に体がいう事を聞かなくなり、脇腹に直撃する。それに続くように右肩、背中とレーザーが俺を貫いていく。
視界が暗転しかけるが、ISが自動で視界をクリアにしていき何とか四発目だけをギリギリのところで回避した。
何とか近づこうとするが、接近すればオルコットの正確な狙撃で近づくことなんてできない。
「ッラ!」
眼前に迫りくるレーザーを、右切り上げで軌道を逸らす。横を過ぎ去る際に熱で皮膚がチリチリとしたが、そんなことは一切気にしない。
「なっ!? なんて無茶苦茶するのですか!」
突貫してくる俺に急いでビットを周囲に集めようとするが、俺の方がほんの少しばかり速い。例えオルコットが持っているライフルであろうと、一度だけなら弾く自信はある。
俺はそのまま刀剣を右片手で持ち、師匠から教わった技を繰り出そうとし――
「弐の型、瞬――」
今までで一番体の動きが不自然に停止した。
まるで、無理な動きをさせないようにギプスを付けたような、ギチチと音が鳴りそうなほどの拘束力。その大きな隙を、彼女が見逃すはずもなく。
「これで、終わりですわ!」
ライフルとビットによる総攻撃。そのすべてを全身に余すことなく受けた俺は、アリーナの壁まで吹き飛ばされる。
―――シールドバリアー貫通、ダメージ400。残りシールドエネルギー75。実体ダメージ大。
やばい。
体中を撃ち貫かれたこともそうだが、なによりもやばかったことはISがこちらの動きを阻害していることだった。
師匠から学んだ剣術をしようとすると、ISがその動きを止める。どうしてそうなのかはわからなかったが、先ほどの技の停止で理解した。
人の体では起こりえない動きにISが負担をかけないようにと止めたのだ。
ISの機能の中に、操縦者の状態を最善にしようとする機能があると、山田先生は教えてくれた。
師匠から習った剣術は、普通の人の体では出せないものだからと言って、俺の体を無茶苦茶にしてから師事してくれた。だが、その無茶苦茶な動きにISが対応してくれないのだ。
――どうすればいいんだ。
このままでは、オルコットの言っていた通り一方的な敗北に終わってしまうだろう。
――どうすればいいんだ。
激痛に歯を食いしばりながら、思考を高速で巡らせていく。
――ああ、そうか。
口の中にある鉄臭い液体をプッと吐き捨て、意識が失いそうになっても手放さなかった剣を見る。
――こっちの動きを邪魔するってんなら。
あれだけの攻撃を受けてもなお、まるでまだ戦えるかのように閃く名も無き刃。
意識がだいぶ回復し始め、眼前の敵を見る。
全身がボロボロだ/だが動けないわけではない
右手から血が滴り落ちている/だが剣が握れないわけではない
ISの状態がひどい/だが機能が止まっているわけではない
まだ、戦える。
こっちの状態は酷いものだが、気にすることはない。
心は折れていないし、剣も折れてはいない。
「ふぅ……はぁ……」
深呼吸をし、自身に喝を入れる。
――全部、取っ払っちまえばいいんだ。
◇
セシリア・オルコットは落胆していた。
あれだけの啖呵を切っておきながら、実際試合をしてみれば、一方的なものだった。
(やはり、男なんて皆情けない人しかいないのですわ)
もしかしたらと心の奥隅で思っていたかもしれないが、やはりそんなことはなかったと。
アリーナの観客席からは笑い声が聞こえてくる。
―――やっぱり大口叩くだけの馬鹿な奴だ。
―――男なんて、やっぱり女より弱いよねぇ。
だから、壁に激突し、土煙の先で倒れているであろう人物になんて、もはや目もくれなかった。
だが、彼女は一つ勘違いをしていた。
彼女が相対したものは、いったいどういった人物なのかを。
「……悪いな、セシリア・オルコット」
ジャリ、と地面を歩く音が静かなアリーナに響き渡る。
全身ボロボロ、ISの装甲なんてもはや大破もいいところ。武装もかろうじて形を保っているが、あとどれくらい使えるか分からない。
そんな状態で彼はこちらに向かって歩いていく。
その姿を見て、女性陣はさらなる罵詈雑言を叫ぶ。
―――あんなにボロボロで無様じゃね?
―――ああ、恥ずかしくないのかな?
―――さっさと負けちまえよ! 男のくせに時間取らせるんじゃないわよ!
だが、セシリア・オルコットはそんな考えが思い浮かばなかった。いや、思い浮かべることができなくなった。
「別段手を抜いていたわけではない。俺はそんな器用な奴じゃないし、んな無粋な真似なんて女相手でもしねぇ」
体のあちこちから血を流し、ふらふらとしているのに。
その彼の瞳から、その全身から。
「けど、こっからが――」
武器をまた右わきに構え、こちらを見据える姿から。
「――俺が出せる、全力だ」
燃えるような、闘気を肌で感じ取ってしまったから。
◇
体を低くし全力で地面を駆け抜ける。速度はそこまでではないのでオルコットは狙いを定め、撃ち落とそうとする。が、角度を変え
「せいっ!」
切り下げようとし、それをオルコットは避けようとするが、接近戦は苦手なのだろう。動きが先ほどまでとは打って変わってぎこちない。
「きゃあ!」
躱しきれずに斬撃をもろに受けたオルコットは吹き飛ばされるが、空中で体制を整え、すぐにライフルへ連射していく。それを俺は体を半身動かすことで必要最低限で回避し、まるで地を蹴ったようにスラスターを吹かせ加速する。
「舐めないでくださいませ!」
ブルー・ティアーズを彼の移動予測地点に配置し、避けにくいように死角だけでなくありとあらゆる方向から一斉射撃を開始する。さらに隠しておいたミサイル型のブルー・ティアーズも惜しまず発射する。
これで、全てが終わると思った。
しかし、それらの攻撃を、彼は鋭角に、直角に、小刻みに高速で動くことで全てを躱し、躱しきれないものは一刀のもとに切り捨てる。
「あ、あなた、正気ですか!? そんな動きをすれば、体が持ちませんわよ!」
オルコットが何かを呟いているが、彼にはもはや届いていない。
あるのはただ一つ。
今自分が出せる全力を相手にぶつけることのみ。
「うおおぉぉ!」
地を蹴るように再加速し、オルコットに急接近する彼に対応するように一つのビットが彼の死角から正確に放たれる。
先ほどまでの彼なら絶対に当たり、その一撃でエネルギーは底を尽きる。
だが彼は、あろうことかそこに来ることを予測していたかのようにほんの少し軌道を変え、掠りすらしないように動いたのだ。
「そんな!」
そして、ほぼ零距離に近づいた彼が放つは、神速の居合術。その速さは目で認識することができず、気付いた時には複数回斬られる。その名は――
「肆の型《孤月》!」
この決闘では初となるであろう彼の大きな一撃が、オルコットを切り裂いた。
◇
第三アリーナのピットで、織斑千冬と山田真耶は二人の試合を観察していた。
「これは、どういうことだ?」
そんなことを言う千冬は急に動きがよくなった智哉を見て険しい顔をする。隣で見ていた真耶も険しい顔で、それでいて辛そうな顔でモニターを見ている。
「山田先生、確か一週間の間に武藤に何かを頼まれていたようですが、それは一体なんですか?」
鋭く眼光を光らせ状況確認のために真耶に尋ねる。
「はい、その、なんといいますか」
妙に口を濁す真耶にさっさと吐けと眼で合図をし、決意を決めたかのように口を開く。
「射撃機の相手を想定しての回避練習をしたいので、銃で自分を撃ってください。です」
「はい?」
出された回答は、少し斜め上を言っていた。
千冬も内容そのものは理解できる。射撃機を相手にするなら、射撃をしてもらうのが一番手っ取り早い。それに銃の特性などを理解していけば、自ずと回避などといったことも可能となる。
「たしか、ISの貸し出しはまだのはずだったが」
「ええ。ですから彼は、
本人は大丈夫だと言っていましたが、すごく嫌だったです。と眼が少し潤んでいた。
その答えは、確かに予想外だったが、それでも今の現状に説明がつかない。
「では、ISの
「……はい。私が教えている間にはそういった技術は何も教えていませんでした」
その言葉に頭を抱える。
どうやら、これからあいつには説教が必要になるかもしれないな。
そんなことを考えながら、再びモニターに目を向ける。
長き戦いの、終結が近づいてきた。
◇
落ちながら、体勢を立て直すオルコットを見つつ、再び刀剣を構える。
こんなことで終わるとは思わない。何か思いつかないようなことをするはずだ。
俺は気を緩めずオルコットを見続ける。瞬間、ビットが高速で動き、射撃する。
それをオルコットを見ることを一切やめずに、ビットを一度も見ることもなく高速で飛翔しつつ躱していく。
「っ」
体が悲鳴を上げる。脳が熱く加熱されてく。高速で思考を巡らし、高速で動き続ける今の現状は、あまり長くは続かない。
だから、次の一撃で決着をつける。
スラスターを吹かし、近づいてくる。弾幕をすべて躱すのは諦め、掠っていくものはそのままにオルコットへと飛んでいく。
「う、おぉぉ!」
「くっ、インターセプター!」
オルコットの手に短剣らしきものが握られるが、それを速度を維持しつつ中段突きを正確に武器に充て弾く。参の型《穿牙》の技が一つ、閃奪。突きで正確に相手の武装を攻撃し、弾き飛ばす武器奪いの一つ。
キィン、という音とともに短剣が弾き飛ばされ、もはや手を打てなくなったオルコットに、俺は最上段の構えを取る。
「壱の型、蒼――」
「させ、ませんわぁ!」
突如、脇腹に鈍い感触が響き渡る。
視線を動かしてみると、オルコットがライフルの後部で殴りつけていた。ISの機能をフルに使ったのであろう、ビキビキと音とともに俺の体を吹っ飛ばし、間髪入れずに殲滅することを想定した連続速射。当たった先に配置したり、ミサイルを放ってきたりと、容赦がない。
「これで、
これだけの弾幕を躱すのは、今の俺じゃちょっと無理だ。
歯を食いしばり、悔しい思いと共に。
『試合終了―――勝者、セシリア・オルコット』
俺のオルコットの決闘は、幕を閉じた。
名も無き少年の戦いは幕を閉じた
それは、決して格好がいいというものではない
だが、どんな状況でもあきらめないのは
何よりも、誇れるものであり
何よりも、相手に気持ちを伝えられるのではないか
どーもー、日曜日に仕事が入ってしまった土鍋大根でございまする。
頑張って次話が完成いたしました。
今回の話は智哉VSオルコット戦です。いやー、戦いの場面を描くのは難しいですが、やっていて楽しいものです。技名や描写を考えるのは大変ですが…
では、また頑張って次の話を書いていきたいと思いますので、これを読んでおります読者様がもしいたとしたら、気長に待っていただけると光栄です。
それではまた、次のお話で。