IS<インフィニット・ストラトス> 次元超えし女神 作:土鍋ダイコン
どんな結末でも
やれることはやった
(配点:休息)
クラス代表決定戦を終えたその日。俺は否応無しにIS学園の一区画にある医療室へと運ばれた。理由はもちろん、先のIS戦における無茶な機動だ。俺自身は全身筋肉痛みたいな激痛だけなので、問題ないと言ったのだが、織斑先生や山田先生はそれでは納得いくはずもなく、渋々従ったわけだ。
検査結果は、急激な動きによる筋肉痛や軽い肉離れ、内臓などに関しては何一つ異常は見られなかった。その結果に二人は驚きを隠せていなかったが、今日一日はゆっくり休めと言われ現在医療室のベッドで横になっている。
保健室や病院みたいに薬臭いかと思ったが、意外なことにそういったことはなかった。まぁ、俺の状態で薬を使うことはないから、薬臭くないだけかもしれない。
とにかく、明日の授業には出たいので眠るとしよう。
そう思うと途端に眠気が襲ってきて、瞼を閉じていき眠っていった。
次に目覚めた時には、すでに6時間目が終わった頃だった。どうやら自分が思っていた以上に身体に負担がかかっていたのだろう。
身体を伸ばし固まった筋肉などをゆっくりと解していると、ドアがノックされた。
どうぞ、と言うと入ってきたのは織斑と篠ノ之だ。
「智哉、体は大丈夫か?」
「ああ、ゆっくり寝たらだいぶ楽になったよ。見舞いに来てくれてサンキュな」
ダチなんだから、来るのは当たり前だろ。と言うあたり、本当にこいつはお人好しというかいい奴と言うか。今時の人にしては義理堅いというか、こいつを育てていた人は本当に良き方なんだな。
彼を育てていた人物を称賛していると、篠ノ之は持っていた籠をベッドの横にある荷物置き場らしき場所に置く。
「ずっと寝たままではアレだと思って、購買で食べ物を買ってきた。よかったら、食べてくれ」
「そんな買ってこなくてもよかったのだが、ありがとう篠ノ之」
本当にすまない気持ちで頭を下げたら、私たちだけじゃなくクラス全員がお金を出し合ってくれたそうだ。その中にはどうやらオルコットも入っていたらしく、俺は驚愕した。
理由はオルコットが直接俺に言いたいらしいので、俺はその時まで待つことにする。とても気になるが、どうやら篠ノ之たちも分からないらしい。
「そういえば、クラス代表はどうなったか教えてもらえないか?」
「まだその話は出てないな」
ん? どういうことだ。
「どうやら後日発表するということで、一夏は専用機所持についての冊子を受け取り、授業に戻ったのだ」
そうなのか。
……待て、専用機についての冊子? 何それ?
「俺は試合が終わってすぐに貰ったから、多分明日とかに貰うんじゃね」
だといいんだが。
その後少しばかり話すと織斑たちは寮へと帰っていった。少しばかり賑やかだった病室は途端に静かになり、何か寂しい気持ちになる。
再び横になり、これからどうしようかと考え始めた時、ドアがノックされた。
「入るぞ、武藤」
「失礼しますね、武藤くん」
織斑たちの次は織斑先生たちだった。見舞い……のようではなさそうだが、何の用なのだろう。
「お前の体調を考え、この時間に来たのだがクラス代表のことについてだ」
ああ、そのことか。
つい先ほどまで織斑たちと話していた話題だったので、どのような結果かすごい気になった。
「オルコットが代表を辞退したため、代表権がお前に移った」
代表を、辞退? あれだけ罵詈雑言を言っていたオルコットが、なぜ辞退したのだろう。実力だって俺たちより上なのに。
「さあな。だが代表権がお前に移ったのは事実だ。武藤、お前はどうする?」
クラス代表になるか?
その問いに、俺はしばし考える。クラス代表になれば色々と面倒事を押し付けられるのは目に見えているし、何より自分には絶対に向かないものだ。やれば確実に問題ごとを起こすのは知れている。
しかし、クラス代表になれば必然的に戦う回数は増えるだろう。それはつまり、自分を強くするという観点だけで言えば正しく持って来いと言わんばかりの場所となる。自身の鍛錬の結果を残すという点においても。
二つの考えが天秤を揺らす。面倒事か、鍛錬か。
しばらく考えた結果、自分の考えを織斑先生に伝えると、そうか。とだけ言う。
「本当に、それでいいんだな?」
再度確認を取る織斑先生。今ならまだ引き返せるぞと眼で訴えてきているが、自分の考えは変わらない。
それが分かったのか、織斑先生はそれ以降何も言うことなく、山田先生に場所を譲った。
「では武藤くん、まずこちらをお返ししますね」
織斑先生との会話が終わると、山田先生が手に持っていた袋から何かを取り出す。
無骨な鉄の剣を模したアクセサリが付いたネックレス。それは試合直前に自分に贈られてきたISの待機状態であり、それを受け取ると首にかける。
「武藤、どこでそのISを受け取った? これから書類作成などで必要になる」
「
IS学園に来る前、IS委員会によって自身のデータ収集専用の機体を作る話が合ったのだが、一体どこの会社や企業などで制作するかで一悶着あった。
そんな中、ある人たちの推薦でここにしろと言われていたので、お願いしてみると難なくそれが通り、無事自分の機体はある企業傘下によって作られた。
本当に、あの人たちには迷惑をかけてしまったと、当時の俺、いや今もだが申し訳ない気持ちでいっぱいであった。
まあ、あの人たちは笑顔でなんでもないと言って、それどころか弟分に頼られて嬉しそうにしていたが。
「ほほう、
「あれは有名ですもんね、当時のISからすれば」
いったい何の話をしているのだろうか、まったくわからない。話についていけない俺をほっといて、二人は納得がいったらすぐに教員の顔(約一名はあれだが)になって話の続きを話す。
「ISのダメージはほぼ修復しましたが、様子見と言うことで明日の使用は控えてください」
たった数時間でダメージ回復とは、ISの自己修復機能と言うのはすごいものだ。
「明後日から時間があればISを起動させ、訓練を行え」
「それと、厳密には違いますが、専用機を所持する規則がありますのでこちらもちゃんと読んでおいでくださいね?」
そういって袋から出てきたのは、貴方の町の電話帳並みに分厚い冊子だった。そういえば織斑がその話をしていた時やけに遠い目をしていたのだが、その理由がこれか。
受け取ってすぐページをパラパラと捲るが、一ページ一ページが薄い上にびっしりと文字が並んでいる。これ全部覚えきるのにどれだけの時間がかかるのだろう。
「……山田先生、補習にコレについても追加してもらっていいですか?」
「あはは、いいですよ」
あまりの量にクラッとしかけたが、心強いお方がいるので多少気持ちが楽になる。多少だが。
「では、今日はこれでおしまいだ。許可は取ってあるから今日はここで十分に休め」
鞄と授業道具と制服は置いておく。と言って山田先生が持ってる袋を置いて退出していく織斑先生と、また明日と言って織斑先生を追いかける山田先生を見送った。
ふぅと一息つけ、横になる。
今日は色々なことがあり過ぎた。IS戦と言い、代表の話と言い、ただの男子高校生には少々非日常的すぎる。
目をつぶり、瞼の裏には今でも鮮明にあの二つの戦いが映る。
そして、ただ思う。
「……悔しいな」
オルコット戦、途中からではあったものの、自分が出せる全力を出し切り、そして敗北した。
後悔はない。あれだけ全力を出して戦ったのだ、後悔なんてする理由がないし。
だが、それで悔しくないのと問われれば、悔しいと答えるだろう。
もしもっと速く動いていれば、勝ててたかもしれない。
もしもっとISに慣れていれば、勝ててたかもしれない。
そんなIFが何個も浮かび上がり、最終的に悔しいと出てくる。
技術が、経験が、何もかもが足りなくて、だからこそオルコットには届かなかったのだ。
「……悔しいな」
負け、と言う事実がゆっくりと自分に刻み込まれる。
手で目を覆い、一人静かな部屋で意識が沈みゆく。
「……悔しいな」
その一言が、何もない病室に静かに響き渡る。
◆
次の日。多少重たい体と思考、それに見慣れない部屋にいたことがありボンヤリとする。
ああ、朝の鍛錬をしなきゃ。と思いジャージを取り出そうとするが、そこで自分が今医療室のベッドで寝ていたことに気付く。
備え付けの時計を見ると朝五時前。一度寮に帰ったとしたら大体六時頃になり、鍛錬をしてシャワーを浴びると少々時間が足りなくなる。
しかたがないので、ベッドの上で柔軟だけでもやっておくか。
朝食の時間までゆっくりと柔軟をこなしていく。前日のダメージのせいで体がやや硬くなっていたので、特に関節部分を重点的に解していく。
柔軟を終え、朝食を食べるために食堂へ足を運んでいる途中、織斑と出会う。
「お、おはよう智哉」
「ああ、おはよう織斑」
復帰した俺を見て嬉しそうに挨拶をしてくる織斑に、まるで自分のように嬉しそうだなと思いながら挨拶を返す。
「もう体は大丈夫なのか?」
「一日ずっと寝ていたようなものだ。嫌でも回復する」
少々鈍りそうだがな。と冗談交じりに言うとあんま無理すんなよ、とこちらを心配してくれる織斑。冗談なのだから、真面目に返さなくてもいいのだが。
食堂につき長い行列に並び、大盛りポークカレーときつねうどんに付け合せの大盛りサラダを頼む。おばちゃんは今日もよく食べるね、と言ってご飯の量を少し増やしてくれた。
「そういえば、クラス代表の話今日でるのか?」
大盛り日替わり定食のアジフライを食べながら織斑が聞いてくる。俺には今日その話が出るかわからないが、
「……悪い」
「えっ、なんだよ急に」
なんでもない。とだけ言って顔を逸らし、食事を再開する。織斑の頭の上に疑問符が浮かんでそうだが、俺は一切気にしない。そう、絶対に気にしてはいけない。
朝食を食べ終わり、織斑と一緒に教室へ入ると一週間前までの敵意に似た視線などで多少気まずい場所だったのだが、現在俺に向けられるものは尊敬や憧れと言った真逆のものだ。
「あ、皆武藤くんが来たわよ!」
その一言とともに、俺の周りに集まってくるクラスメイト。一体全体何があって、こんな変化が訪れたのだろう。
「昨日の決定戦、とってもかっこよかったよ!」
「惜しかったね、武藤くん」
「あの機体、どこで作られたの!」
質問に次ぐ質問の嵐に頭が混乱してしまい、またその迫力に無意識に一歩引いて逃げようとするが、近くにいた少女に気づいてそちらに視線を向ける。
「……これって、いったいどういう事。布仏」
ブカブカの袖の制服の少女、布仏がニコニコ笑いながら現状の説明をしてくれた。
どうやら代表決定戦の戦いで、オルコットに善戦したこと。織斑との戦いで俺のことをよく思っていなかった人たちの考えを改めさせて、あれだけの戦いを初心者がしたということで俺を尊敬のまなざしで見ている。と。
あの時は無我夢中でやって気がするな、後半。と呟くのだが、それでも彼女たちにとっては大差ない物らしい。
そんな、慣れるはずもない女子の囲みは先生たちがやってくるまで、止まることはなかった。ついでに、その時織斑はそそくさと自分の席に座って、我関せずを貫いていた。
織斑先生たちにより解散となった後、SHRの時にその話題が出る。
「それでは一年一組のクラス代表は、織斑一夏君に決まりました。あ、一続きでなんかいいですねぇ」
わぁと騒ぐクラスメイト、ただ一人、唖然とする織斑はすぐに挙手し抗議らしき声を上げる。
「山田先生、俺全部の試合負けたのですがー」
「それは――」
「それはわたくしが辞退したからですわ、
山田先生の言葉を遮り、落ち着いた声で話すオルコット。それは以前までの女尊男卑でこびりついた今時の女性ではなく、気品があるお嬢様と言う感じだ。
「わたくしがお二人に勝つのはそれまでやってきた鍛錬などを考えれば自明の理。ですからそれに関しては仕方のないことですが―――」
席を立ち織斑の所まで歩き、そこでオルコットは頭を下げた。
「以前一夏さんや
あれだけプライドの高そうな彼女が、今俺や織斑果てはクラスメイト全員に向かって頭を下げている。いったいどういう心境の変化があったのだろうか。たった一日で、ここまで対応が変わると何かを企んでいるのではないかと疑いそうになるが。
だが、戦った自分だから少しは分かる。彼女はそういう事をやる人物ではないと。
「俺は一切気にしていないが、その気持ちは確かに受け取った。オルコット」
言葉を発しない周りの人を気にせず、自分の気持ちを伝える。その答えにオルコットは顔を上げありがとうと告げる。それを機に周りのクラスメイトや織斑もそれぞれの答えを伝える。
多少それてしまったが、オルコットの謝罪は皆にきちんと伝わり、和解になったところで先ほどの会話に戻る。
「それで、智哉さんにクラス代表をお譲りし、様々な経験や実践を糧にしてもらいたかったのですが…」
そう、オルコットの話では辞退し俺にクラス代表の任をするという話なのだ。だが実際は俺ではなく織斑がクラス代表となっており、オルコットの話とは矛盾している。
「まあ、俺も辞退した」
早い話がこれだ。
オルコットのようにきちんとした理由はない。ただ、自分に誰かを引っ張ってゆく技量もまとめる力もない。そんなやつがクラス代表なんてやった暁にはクラス崩壊をするのが目に見えている。
だから、君に譲ることにした織斑。
「……本当の理由は?」
んな面倒なの、だれがやるか。
「おし、ちょっとアリーナに来い」
「負け犬が、ほざくな」
グサリ、と何かが突き刺さる音が織斑から聞こえてくるが、俺は一切気にしない。申し訳ない気持ちはあるが、それとこれとは話が別だ。
二勝のオルコット、一勝一敗の俺、二敗の織斑。もとより織斑に選択権などと言うものは存在しないので、俺が辞退すれば必然織斑がクラス代表をせざるを得ない。
「いやー、セシリアも武藤くんも分かってるねー」
何が分かってるのか分からんが、それがロクでもないものであるのは勘で分かるぞクラスメイト達よ。
「そ、それでですね」
コホンと、オルコットが咳払いをし織斑を見る。
「代表候補性として、IS操縦者の先輩としてわたくしが一夏さんの操縦を教えて差し上げたいと思ってますの」
「あいにくだが、一夏の教官は私一人で事足りている」
オルコットの話に食いついてくる篠ノ之。その眼つきは異様に殺気立っておりオルコットを睨みつけるが、それを軽く受け流しながら髪を流す。
「ふふ。わたくしはISランクAを出し、代表候補性。あなたはISランクCで候補生でもない一般生徒。どちらが技術的に上かなんて、分かり切っていますわよ? 篠ノ之さん」
「あ、ISランクは関係ないだろ! 私は、一夏に直接頼まれたのだ!」
ああ、なんか空気がピリピリとしてきた。オルコットは冷静に言っているのだろうが、徐々に額に青筋らしきものが浮かんできている。篠ノ之は言わずもがな、全然冷静じゃない。
互いに火花が散りそうな睨み合いをしているのだが、当人たちは誰がここにいるのか忘れているのだろうか。
「座れ、馬鹿者ども」
その言葉とともに、バシンバシンと二回叩く音ともに出席簿が閃き二人の頭を叩く。全く見えない二閃により強制的に座らせられる二人をしり目に、教壇へと立つ織斑先生。
「お前たちのランクなど、私から見れば皆平等にひよっこみたいなものだ。まだ殻も自力で破けず
たしかに、世界最強のあなたから見れば、ここにいる全員ひよっこであるのは当たり前だな。そんな思考を遮るように、織斑先生はこちらを一瞥してから口を開く。
その顔は、まるでいたずらが成功したような、悪い笑みで。
「だいたい、ランクだけで言うのなら、武藤は最低ランクのDだぞ?」
その一言で。
たったその一言で、教室は沈黙し、そして全員が俺を見てから織斑先生を見る。
ああ、何がしたいのだろうこの人は。
「分かったか? ランクだけが戦闘力に関係するわけではない。無駄なことを言うのは十代の特権だが、今は私の管轄内であることを忘れるな」
いや、俺のことについては一切解決してませんよね、たぶん。
俺の抗議の視線を出席簿をちらつかせることで黙らせる織斑先生。この人もう先生じゃねぇよ、軍人か何かだよ。
そう考えていると、頭に言葉に表せない衝撃が響き渡り、何も考えられなくなる。
痛みに耐え、何とか原因を探そうとする、目の前に織斑先生が立っていた。全く足音も気配も感じさせないその動きに、一種の感動を覚える。使い方に関してはなに無駄な動きしてんだよ。
「もう一度、いっとくか?」
「申し訳ありません」
分かればよろしい、と言わんばかりに出席簿を下す織斑先生。もうヤダこの人。
「では、クラス代表は織斑くんに依存はありませんね?」
いいともー! とクラス全員がハモり、織斑がクラス代表になることが決定した。
もちろん、本人の意思を完全無視したものだったが。
戦いで得るのは、何も結果だけではない
それ以外で得るものは、どれだけの価値があるのか
それは、当人たちが決めること
少年にとって、今回のものが
価値あるものであると、願って
どうも、土鍋ダイコンです。
やっと続きが完成で来ましたぁ。
いやー、なかなか書きたいことが文字に出来ずに悩み、夜中に書いたせいでなんか変な感じになってる気がする(汗)
今回は短いということで二話同時に投稿しました。
これにてセシリア戦は完全終了となります。いやー、短いような長いような、そんな微妙な感覚で、もっと賞を増やしておくべきだったのかなぁ。と悩んでしまう。