IS<インフィニット・ストラトス> 次元超えし女神 作:土鍋ダイコン
言葉では伝わらないことがある
自分も、相手にも言えること
(配点:話し合い)
織斑のクラス代表が決まった翌日。
一日鍛錬を休んだ分を取り返すためにいつもよりも一時間も早く起き、基礎鍛錬を早々に終わらせ型の練習を始める。
壱の型から漆の型までの剣術、その後に残った捌の型も含め一通り繰り出す。型が乱れていないか、身体がきちんと覚えているか。一つ一つ確認し、それが終わればイメージトレーニングによる形稽古を始める。
「―――はぁ」
大量の汗が流れるのも気にならないほど、長い時間かけて形稽古をやり、気付けば二時間以上もやっていた。
クールダウンも込めて寮まで軽く走り、汗を流すためにシャワーを浴び、腰ほどの長さの着物袖の丹前に馬乗袴に似た改造制服に着替え食堂へ向かう。
いつも通りの見渡す限りの女子の大群を気にせずに列に並び、大盛り豚生姜焼き定食を頼む。
「ああ、いつもよく食べるあんちゃんじゃないか」
食券を受け取ったのは、俺が初めてここを利用したときに食券を渡したおばちゃんであった。軽く挨拶をするとおばちゃんは笑いながら奥へと行き、何かを伝えに行く。
料理が来るのを待っていると、おばちゃんがニコニコしながら持ってきてくれたのだが、そこにあったのはいつもの大盛りからさらに量が多くなっている定食だった。
「あんだけおいしそうに食べてくれるんだ。ちょっとしたサービスだよ」
このくらい、食べれるだろ? とゆうに三人前はありそうな定食を俺に渡し、次の生徒の対応をするおばちゃんに、感謝を述べてから席を探しに行く。
どこを見ても女子が座っており、一人で座れそうなところはどこも空いていない。見知らぬ生徒となら相席もできそうだが、その見知らぬ生徒のほとんどが誰かと話しており、一人でいそうなところを探すのは大変だ。
「あ~、とーやんだ~」
ゆっくりとした独特の喋り声が聞こえたが、人ごみのせいでどこにいるのか分からない。
「……後ろ」
先ほどとは別の、やや冷たい印象を感じられる声。
「簪、おはよう」
後ろを振り返るとかき揚げうどんを持っている更識が立っていた。彼女はこっち、と一言だけ言って歩いていくので、その後をついていくと、布仏が席を取って待っているのが見える。
構わないのか? と目で訴えると、別にかまわないといった風にさっさと席に座る。
そんな二人に感謝しながら、俺も更識の隣に座る。
朝食を食べ終わると、途中まで一緒に歩いてそれぞれの教室へと向かう。布仏は食べるのが遅かったために置いていこうとしたのだが、ギリギリで食べ終わったのでおいていくことはしなかった。
「おはよ、智哉!」
「おはよう、織斑」
今朝も相変わらず元気な奴だな、織斑は。
その後ろにはポニーテールが特徴的な篠ノ之がおり、彼女にも挨拶を交わすとおはようと返される。
「おはようございます、智哉さん」
自分の席に座ったところで、先日までかなり嫌悪に近い感情を向けられていた少女、オルコットが挨拶をする。その言葉には一切刺々しいものがなく、優しい雰囲気を醸し出すお嬢様と言ったところだ。
「ああ、おはようオルコット」
「セシリア、で構いませんわ」
本当にあの頃のオルコットと比べ、天と地ほどの差があるな。
「そうですわ、夜少しお時間よろしいです?」
もしかして、織斑たちに聞いた俺に言いたいことがあるという、その話か?
「ええ、構いませんか?」
「分かった」
オルコットと約束をしたところで時間的に座らないと凶器の出席簿が飛んできそうなため、オルコットは自分の席に戻っていった。俺は一時限目の教材を取り出す。
また、参考書片手に山田先生の授業を受ける。いまだにわからないことが多すぎるのだから、仕方がない。
昼休み、織斑たちと飯を食っている時にその話題が出た。
「俺と勝負したい?」
滅多に話しかけてこない篠ノ之が話し出したのは、俺と剣道で勝負したいということだった。
「ああ、代表決定戦で見せた動き。ISで慣れないとはいえ、アレは剣の道を進んだことのある動きだ」
確かにあの時の動きは多少なりとも教えられた剣術を使ったが、見ただけでそれが分かるとは思わなかった。
「私と一応一夏もだが、剣を嗜んでいる」
「箒は全国大会を優勝するくらいの腕前だぜ」
それはすごい。だが、どうして俺に勝負を挑むことになるんだ?
「どうしても確かめたいことがあってな」
篠ノ之がどういった理由で、何を確かめたいのかは分からない。だが、その眼にはほんの少し迷いが見られ、しかし力強さも感じた。
「……分かった、俺なんかでよければ」
助かる。と一言お礼を言って篠ノ之はクラスへと帰っていった。さて、今日は随分と忙しそうになりそうだ。
放課後、HRが終わってすぐに軽く準備運動を終えてから剣道場へと向かおうと思ったが、今現在俺はよく分からないところにいた。つまるところ、迷子。
「この学園、無駄に広すぎだろ」
はぁと溜息を吐きながらとりあえず校舎に向かって歩けばどうにかなるだろうと考え、ランニングを兼ねて向かおうとした所書類と睨めっこしている女子生徒、胸元のリボンを見る限り先輩のようだが。
このまま適当に歩くよりも聞いた方が早いと判断し、声をかけようと近づくと、女子生徒は顔を上げ此方を見る。
外側にはねた空色の髪、
「どうしたの?」
「いや、剣道場に行くにはどこへ歩けばいいのかと」
それなら、と言って先輩は道を丁寧に教えてくれ、分からなくなったようにと地図まで書いて渡してくれた。頭を下げて感謝し、剣道場へと向かう。
「じゃあ、頑張ってね。武藤 智也くん」
囁くように、彼女は俺の名前を言ってどこかへと歩いていく。だが、俺はその時考えていたことは別のことであった。
――どうして、自分の名前を知っていたのだろうか、一度も自己紹介はしていないのに。
そんな疑問を抱きつつも、先輩に教えてもらった道へと足を向かわせた。
あれからそう立たないうちに剣道場へと月中に入ると、すでに始めていたのであろう篠ノ之と織斑が防具を身に着け鍛錬をしている。
「ずいぶんと遅かったな」
「すまない、途中道に迷っていた」
正直に話すと篠ノ之はIS学園は広いからな、と納得し汗をぬぐう。その間織斑は床で大の字で息を切らしながら倒れこみ、何とか俺に話しかけようとしてるが呼吸が間に合ってない。
織斑は一度放っておくとして、竹刀を借りて軽く振るって気持ちを切り替えていく。着くまで考えていた先輩の事を頭の隅に追いやり、思考を戦うために
身体にある程度の緊張が張っていき、ギアがゆっくりと動き始めていく。
一度瞼を閉じ深呼吸をし、完全に戦うために切り替えた俺は、近くに来ていた女子から防具を借りて身に付ける。対面にいた篠ノ之もこちらの準備が終わったのを確認してから、正眼に竹刀を構える。俺も正眼に構え位置に着く。
「すまないが、きちんとした剣道はしたことがなくてな、礼節に欠ける事を許してほしい」
「構わない」
静まり返った剣道場に、審判が腕をあげる。
「では、尋常に―――」
張り詰めた空気の中、今かと動きそうになる体を制する篠ノ之と、冷静に一つ一つを観察する俺。
対極の状態で、しかし互いに同じものを待ち。
「―――始めっ」
「はあ!」
その合図と共に駆け出したのは、篠ノ之だった。
大きく踏み込むのと同時に鋭い突きをするが、刃先を当て僅かに逸らすことで回避し下がって距離を取る。それを追撃するように薙ぎ、突き、切り払う。だがその全てを逸らし、躱し、捌いていく。
そんな攻防を一体どのくらいしていたのだろうか。ずっと防御に徹する俺に苛立ちを覚えてきたのか、少しずつだが動きが雑になっていき、ついに大きく踏み込み上段からの振り下ろしをするが、それを待っていた。
振り下ろされる一撃を半身移動することで避け、踏込と同時に突きを叩きこむ。
「――――はぁ!」
しかし全国大会優勝は伊達ではなかったらしく、当たる直前自身の竹刀の柄頭で弾き飛ばしそのまま左胴に一閃する。
一本! と審判の声と共に試合は篠ノ之の勝利で終わった。
面を外し新鮮な空気を吸い込み、体に溜まった熱気とともに空気を吐き出す。中々に難しいものだなと、慣れない防具と竹刀の感覚に少なからず疲労を訴える体を落ち着かせようと、軽くストレッチをしていると篠ノ之がこちらにやってきた。
「何故だ?」
明らかに怒気を隠さない篠ノ之に、周りの生徒は戸惑いを隠せないでいる。かく言う俺もなぜ篠ノ之がここまで怒っているのかが分かっていないため、どうすればいいのか戸惑っている。
「何故、本気を出さない?」
「何を言ってんだ。俺は本気でお前と試合ったぞ」
ああ、少しこれでは違うか。と篠ノ之は瞼を閉じ言葉を探し、おもむろに言葉を伝える。
「何故、代表決定戦のような動きや技などを使わず、全力で来なかったのだ?」
それを聞き、やっと篠ノ之が言いたいことが分かった。
なぜ自分が持てる全てを出さなかったのだと。なぜ手を抜いたのかと。つまりそういう事なのだろう。篠ノ之が怒っていた理由は手加減されたうえでの勝利だったから納得がいかず、やった本人はケロッとしているからなおさら苛立ったのだ。
「そりゃ、これは
剣道と剣術。
練習試合と模擬戦。
似た言葉であるが、決定的に違う言葉。
全力を出さないのは殺し合うための業を磨く鍛錬ではなく、互いに剣の道を研鑽し合う鍛錬だから。
その言葉には、どれだけの思いがあったのだろうか。どれだけの考えがあったのだろうか。それを知るには周りの生徒たちは知らなさすぎ、また篠ノ之たちも例外ではない。
「ふざけるな! 手を抜いていたことには変わりないだろ!」
頭では理解できていたのかもしれない、しかしそれで納得がいくかどうかはまた別のことである。
口を開こうとする俺だが、うまい言葉が見つかるはずもなく、仕方がなく防具を外したまま竹刀をもう一度構える。
左足を前に出し、脇構えをとる。
「だったらもう一度来い」
防具なんかなくても、お前は勝てない。
そう捉えた篠ノ之は歯が軋むほど噛みしめ、先ほどとは比べ物にならないほどの動きで接近し、薙ぎ払う。
頭に血が上っている彼女には相手が防具をつけていないことなど理解しておらず、そのままの勢いで当たれば竹刀とはいえ大怪我は免れないだろう。
一夏を始めとした剣道部の面々は急いで止めようとするが、すでに振りかぶった後のため駆けつけようとしても届かない。
危ない、と誰かが叫ぶ前に、すでに体は動いていた。
足の力を抜き、瞬時に込めることで加速し、それを連続で行うことで高速移動する基本歩行術《水走》を駆使し、篠ノ之の背後に移動し竹刀を首に沿える。
周りは皆驚愕していた。なぜなら目が追いつかない人にとっては、さながら瞬間移動しているように見えただろう。
「……これでいいか?」
返事は帰ってこない。それでもいいかと思い、荷物を引っつかんで無言で剣道場を後にした。まるで逃げるように。
剣道場を後にした俺はどこかへ向かう訳でもなく、ただひたすら歩き続け、気がつけば学園の敷地内にある森林へときていた。
「……はぁ」
木を背にして座り込み、頭を抱える。理由は先の練習試合、感情に任せ剣術を使い練習試合を無茶苦茶にしてしまった。
いくらなんでも大人げないな、と自身の我慢弱さと精神の鍛練不足に苦笑してしまう。
自分の行いを反省と頭を冷やす意味も込め、黙とうによる精神統一を行う。荒波を立ててた感情がゆっくりと引いていき、また暴れ出さない内に鞘へと収刀して気持ちを制御する。
時間にしてわずか数分間、だが体感では数時間はやった気分で、体がぐったりと重かった。
「……帰るか」
誰に言うわけでもなく、ポツリと呟き寮へと帰る。ああ、そういえばオルコットとの約束があったな。
夜、オルコットの話を聞くために部屋へと向かい、ドアをノック。どうぞお入りください、と言われ部屋にお邪魔する。
そこに広がるのは、お嬢様がすむような豪勢な部屋だった。
キングサイズはあるのではないかと言うほどの大きな天幕があるベッドが部屋の半分以上を占めており、オルコットが生粋のお嬢様だということを再認識させるには十分すぎるほどだ。
「そこでお待ちください、今お茶を用意しますから」
「いや、そこまで気を遣わなくていい」
そんなことより、呼んだ理由を話してくれ。
少しの沈黙の後、オルコットは俺の前まで来て深く頭を下げた。
「数々の暴言、横暴な態度などを含め、本当に申し訳ありません」
「……前も言ったが、そのことについては別段俺は気にしていないと」
「それではわたくしの気持ちが納得できないのです」
どうやら彼女は思いのほか頑固者らしい。
さて、どうしたものか。
別段過ぎたことをとやかくいうつもりはないし、何かをしてやろうとなんて考えすらない。だが彼女はどうしても何かしらの形で謝罪の意を伝えたいのだろう。
そこでふと、思いついた。
「なら、銃器に対する特訓をしてくれないか?」
「と、特訓ですの?」
「俺は今まで剣術しかしてこなくてな、対人近接戦闘ならともかく拳銃や狙撃銃と言った中距離以上の戦闘は素人同然なんだ」
だから、教えてくれないか?
少しぽかんとした顔をした後、くすりと笑い分かりましたわ。と言って――
「でしたら、わたくしに
クロスレンジ? ああ、近距離戦のことか。別段構わないが、俺は人に何かを教えるのは不得意なのだが。
まあ、なんとかするか。
「委細承知だ」
こうして、俺とオルコットとの話し合いは無事に終わり、仲直りしたのであった。
「そういえば、なぜ急に名前を言うようなったんだ?」
「それは、仲良くなるためにはまず名前を呼ぶことだと教えてもらったからですわ」
なるほど。なら俺も名前で呼んだ方がよさそうだな。
少年は伝えようとした
しかし、それが紅き少女に伝わることはなかった
少年は伝えた
蒼き少女と研鑽するために
少年はこれから悩むであろう
伝えきれない想いを胸に
どうも、お久しぶりです。土鍋大根でございまする。
前回の投稿から約五か月ぶりとなるのですが、あまりの遅さに自分が嫌になります。
その間に設定などを作っていたのですが、言い訳になりますね。
さて、こんな小説を読んでくれる人がいるかは定かではありませんが、もしこれを読んでくださる読者様がいたとすれば
このような小説を読んでくれて、本当にありがとうございます。
できれば、どんな辛口や訂正などでもいいので、感想をくださいますと嬉しいです