バカとMMORPGと召喚獣!   作:ダーク・シリウス

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ゲームの前にリアルで前哨戦!

「お待ちしてました王様。本日私に御声をお掛けして頂き誠に―――――」

 

「堅苦しい話は無しだ。お願いしたのはこっちなんだからな。さて、説明する必要はないが改めて言わせてもらう。これから向かう学園には前々から蒼天が作り出したシステムの審査をすることを伝えている。そこで審査は俺以外にもう一人、お前を指名させてもらった。理由は何だと思う?」

 

「はい、違う視点で審査を経て判断する為ですか?」

 

「残念、理由はまだ複数ある。一つはあの学園の学力と蒼天の学園の水準と比較するためだ。10年前から蒼天のシステムを導入した姉妹校であるからな。もう一つは必要ないと思うが教師の教育指導と人格の調査。これは一応念のためだ。別段重要じゃない」

 

「はぁ、他にありますか?」

 

「ある。あの学園は武家の人間が集まる。そこでお前も切磋琢磨して強さを磨くのが目的の一つだ。いい刺激になると思うぜ」

 

「ははは、私的には蒼天の上空にいる守護者達の存在の方が世界で一番刺激的だと思いますよ」

 

「野に放ったら世界が滅ぶ危険極まりないけどな。―――対戦してみる?」

 

「遠慮します!」

 

「そうか。したくなったら声を掛けてくれていいぞ。そんでこれが最後だが、俺は正体を隠して学園生活を送る。バレるような下手なことはしないつもりだが俺のフォローをしてくれ。多分、俺の旧友と言えるヤンチャ共がいるからな」

 

「噂の子達ですか。王様を見抜く人っていますかね?」

 

「敏い奴だったらあるいは、な。バレたら口封じするしかないが」

 

「了解です。あの、学園にいるときの王様をどうお呼びをすれば?」

 

「―――死神ハーデスと呼んでくれ。できるならば、周りから好んで近づくことがない見た目も名前も不審者な設定で行く」

 

「・・・私、その人の傍に好んでいる変人に認識されません?」

 

「問題ない。同じクラスメートになれば他の連中も同じ狢の穴になる。それと今日から発売するあのゲームも応募したか?」

 

「しましたよ。βテストも参加させてもらいましたし、早くしてみたいです」

 

「本格的な正式サービス開始は土曜日だから俺も楽しみだ」

 

「王様もするんですか?じゃあ、一緒にしませんか?」

 

「いいぞ。ただししばらくはソロで活動したい。ソロだと思わぬ発見が出来そうだからさ」

 

「いいですよー。あ、もうそろそろ行かないと遅れちゃいますよ」

 

「おっと、じゃあ行くとするか」

 

 

 

 

春麗・・・・・。桜が満開に咲く季節が訪れ、在学の生徒たちは進級し、

初めて通う高校に青春を謳歌、または自分の能力をさらなる向上を、

心中緊張の気持ちで抱く大勢の新入生たちが川神文月学園、略して神月学園の門を潜っていく。

 

「おはよー」

 

僕はそんな集団から遠く離れて登校する一つの仲の良い集団に接触する。

 

「おー、明久じゃねぇか」

 

「皆のんびりしているね」

 

「テトリスのピースになっていく姉さんの挑戦者達を見ていたら、既に遅刻確定だ。

 なら、遅刻者は遅刻者らしく威風堂々と歩いて行けばいいってことだ」

 

「ははは・・・・・川神先輩は相変わらず凄いね」

 

脳裏に浮かぶ川神先輩に破れた敗者の末路。きっと骨をあらゆる方向に

曲げられて積み上げられたはずだ。

僕みたいに関節を外されて直ぐに戻せる人じゃないと入院が確定だ。

その時の費用は一体どうなるんだろうか?やはり、自腹だろうか?

 

「すっかり春だなー」

 

「そうね!・・・・・眠くなるわぁ・・・・・」

 

「ワン子、授業中寝たら先生に叱られるぞ」

 

「その時はフォローしないからよろしく」

 

「ええーっ!」

 

ワン子と呼ばれた栗毛のポニーテールの少女。名前は川神一子で、川神百代先輩の義妹だ。

活発で毎日ゲンキハツラツな性格、僕と同じ勉強が苦手だけど努力は絶対に怠らない。

それとワン子と呼ばれている理由は―――。

 

「それワン子。このビーフジャーキーを取って来い!」

 

この中で身長が高く、いつも身体を鍛えてビックガイになろうとしている筋肉隆起の島津岳人が棒状の肉を空高く思いっきり投げた途端。

 

「わおーん!」

 

嬉々と尻尾があったら絶対に激しく振っているであろう犬のようにビーフジャーキーを

追い掛けて行った。

ワン子と呼ばれる所以の一つである。他にも誰にも構わず懐いたり、犬と同等に躾けられ、

毎日元気にいるから何時しかワン子と呼ばれるようになったとか。本人は気にしていないし、

皆はそんな彼女を楽しそうに見守っている。

 

「そう言えば川神先輩は?」

 

「ああ、可愛い後輩と一緒に通学した」

 

「くそぅ・・・・・!俺にも春が欲しいぜ・・・・・!」

 

「ガクトは頑張る方向を間違えていなければモテているって」

 

「それは一体どんな方向だ!?」

 

「学力向上?」

 

「却下だ!」

 

「これからのガクトの未来が心配だぁ・・・・・」

 

遅刻確定だからって焦らずのんびりと行くなんてこの集団だけだね。

だからこそ、こんなメンバーと一緒にいたら心地よくて

僕もついつい彼らと一緒に行動してしまう。

 

「さーて、俺たちの新しい教室はどこかねー?」

 

「まー、結果は分かっているんだケド」

 

「Fだな」

 

「うん、Fだね」

 

「俺たち風間ファミリーが集えるクラスといえばそこだけだもんな!」

 

風間ファミリー。七人の幼馴染の集団。リーダーは赤いバンダナを頭に巻いている

イケメン=死ねの風間翔一だ。学校をサボってバイトだったり、違う地方まで言って

食べ物を買いに行くほどの自由すぎる男子学生だ。クラス振り分けの試験の時だって―――。

 

『せんせー。俺、バイトの時間が迫っているので行ってきます!』

 

って、抜け出す程の自由人だ。まるで風のように一ヵ所には留まらず

常にどこかへと行ってしまう。当然、途中欠席したため翔一はFだ。

 

「そういや明久。聞いたぜ、具合の悪い女の子のために自分も試験を放りだしたんだってな。

お前、男じゃねぇか」

 

「小学校からの知り合いだったし・・・・・助けてあげるのは当然だよ」

 

僕もとある理由で試験を抜け出したからFクラスになっているはずだ。

 

「くっ、俺様もそんな女の子がいたらすぐさま手を差し伸べてやるのに!」

 

「はいはい、ゴリラなガクトが介護したら逆に悲鳴が上がっちゃうかもしれない」

 

「バカに言われたくねぇっ!」

 

「なんだと!?僕だってバカなゴリラに言われたくないよ!」

 

「・・・・・どっちもどっち」

 

呆れ混じりに嘆息するのは、紫の髪に花の髪飾りをつけている女の子の椎名京。

 

「って、そろそろ本格的にヤバいんじゃね?」

 

「ん?そうか?というかワン子の奴はまだ戻ってこねぇー。これで呼ぶか」

 

ピーッ←犬笛の音である。

 

しばらくして、向こうから元気よく駆けてくるポニーテール。

 

「お前、どこまで行っていたんだよ?」

 

「学校の校門前よ!丁度そこに鉄人先生がいたわ!・・・・・私のご飯をキャッチしていたし」

 

『・・・・・・』

 

鉄人・・・・・あ、あの人かぁああああああっ!?

これは本格的に拙いんじゃないかな!?鉄人といえば・・・・・!

 

「―――全力でダッシュだ!」

 

翔一の掛け声と共に、僕達は金メダルを取れるんじゃないかって

思うほど駆け足で学校の校門にむかった。

 

「お前ら、遅いぞ!全校集会には遅れるなと説明されただろう!」

 

玄関の前でドスのきいた声に僕達は足を停めた。

浅黒い肌をした短髪のいかにもスポーツマン然とした男が立っていた。

 

「あ、鉄人。おはようございます」

 

「鉄人、おはよーっす!」

 

「おはようございます、西村先生」

 

「鉄さん、おはようございます!」

 

「えーと、魔人カ○ザー先生おはようございます」

 

「・・・・・おはようございます」

 

軽く頭を下げて挨拶をする。何せ相手は生活指導の鬼、西村教諭だ。

目をつけられるとロクな目に遭わない。

 

「直江と椎名以外、ちゃんと西村先生と呼ばんか!このバカどもが!」

 

うわ、ハッキリ生徒の前で罵倒したよ!ちなみに鉄人と言うのは生徒の間での西村先生の渾名で、

その由来は先生の趣味であるトライアスロンだ。真冬でも半袖いる辺りも理由の一つだけど。

 

「それにしても、普通に『おはようございます』じゃないだろうが」

 

「えーっと、今日もいい筋肉ですね?」

 

「島津・・・・・お前は遅刻の謝罪よりも俺の身体の方が重要なのか?」

 

「男なら鍛え上げた体の筋肉を誇りに持たないでどうするんっすか!

今度また熱いレスリング対決をしましょうぜ!」

 

お、おえ・・・・・っ!ガ、ガクトォ・・・・・お前はなに言いだすんだよ!?

朝から気持ちの悪い発言をしないで!

 

「・・・・・まあ、生徒の中で俺と対等にレスリング対決できるのはお前しかいないだろうな」

 

あれ、鉄人も鉄人でまんざらじゃない!?

 

「ほら、受け取れ」

 

気を取り直した先生が懐から数枚の封筒を取り出し、僕達に差し出してくる。

宛名の欄には『吉井明久』と、大きく僕の名前に名前が書いてあった。

 

「「「「「「「あ、どーもです」」」」」」」

 

皆と揃って一応頭を下げながら受け取る。

 

「にしても、面倒なクラス編成の発表っすね」

 

「そうだな。普通に掲示板で発表したら楽じゃないっすか?」

 

うん、確かにね。こうやっていちいち全員に所属クラスを書いた紙を渡すなんて、

面倒なだけだと思うけど。ご丁寧に一枚一枚封筒に入れてあるし。

 

「普通はそうするんだけどな。まあ、ウチは世界的にも注目されている

最先端システムを導入した試験校だからな。この変わったやり方もその一環ってわけだ」

 

「その最先端システムって、蒼天から持ちかけられてこの実力主義の

学校に導入されたんですよね」

 

「ああ、あの国が開発してこの学校が試験校として選ばれ導入されたそうだな。俺も詳しくは知らん」

 

『蒼天』。とある海に存在する大きな島国だ。しかも世界中の技術よりも技術が

発展していて、他の国じゃあ考えられない開発や、有り得ない生物も生息している

周りから注目を集めている有名な国だ。

特に有名なのは宇宙にまで伸びている巨大な建造物だ。

宇宙開発も手を伸ばしている話もよくテレビで見る。

 

けれど、蒼天はどこの国とも同盟関係を結ばず、独立国家を数十年保っている。

それなのにどうしてだか日本のここ、神奈川県川神市のとある学校、

まあ僕たちが通っている川神文月学園=神月学園にオカルトと科学、

偶然が重なった結果。完成された『試験召喚システム』というものを向こうから

『この学校で試験させてくれないか?』って風に話を持ちかけたらしい。

 

そして、それはもう十年前のことになる。どうしてこの学校なのか、

どうして周りの交流が閉鎖的だったあの国が日本のこの学校を選んだのか、

僕達学生はどんな結論を浮かべても分からないでいる。

気まぐれか、それともここではないといけない理由があるのか・・・・・。

 

「そんじゃ、先生。俺たちは行きますね」

 

「僕達のクラスも分かり切っていることだし」

 

「あー、やっぱりFクラスだわー」

 

僕以外の皆が封筒の中身を取り出して確認を終えていた。僕も封筒から取り出して

どこのクラスに所属されたのか確認―――っと。

 

 

―――吉井明久―――Fクラス―――

 

 

・・・・・だよね。まあ、いいや。僕は風間ファミリーと一緒に学園生活を謳歌

できれば問題ない。僕は風間ファミリーじゃないけど、皆は僕を迎え入れてくれる。

 

「お前達さっさとグラウンドに行け。今グラウンドにいない生徒はお前達だけだ」

 

「はい、すみませんでした。ほーら、明久。私達も行くわよ!」

 

「クラスに行くとき、他のクラスの中の様子を見ようぜ」

 

「でも、静かに行こうね」

 

「ガクトが騒がないように躾ける?」

 

「おい京。俺様をなんだと思っているんだよ」

 

「取り敢えず行こうぜ。西村先生が睨んでくるし」

 

ほら、皆は賑やかに行くんだよね。まったく、傍から見れば皆は今でも騒がしいと思うよ。

 

 

―――学園長室―――

 

 

「まったく、アンタから話を聞かされて何の冗談だと思ったけど本気でここに来るなんてね」

 

「なに、あれから十年・・・・・もうこの学校は周りから注目の的だ。お前をこの学校に配属させたのは俺自身でもあるんだからな。そろそろボロが出てもおかしくない時期だと思って審査をしに来たわけだ」

 

「この学園に任せられてから一度だって不備なことは起こしたことがないさね。」

 

「そのようだな。だが、報告書だけじゃ信用は得られない。直で調べてみてみたくなる時もある。今回だって報告書を読ませてもらったけど、観察処分者が現れたんだって?」

 

「ああ、教師の私物を売った大バカがいてね。そいつに課したのさ」

 

「はは、大バカね。俺は好きだぜ?特に誰かのために必死にバカみたいに一生懸命な奴がさ。それじゃ本題に入ろうか。俺もこの学校の生徒として入学させてもらう。すでに理事長には話がついているから拒否権はない」

 

「蒼天の王の破天荒な行動に誰が止められると思っているんだい。んで、アンタはどの学年のクラスに入るつもりだい」

 

「ん・・・・・やはり、二年の下位クラスに所属しよう。―――思いっきり変装をしてな」

 

「Cクラス以上だったら設備を増やす手間が増えたところだ」

 

「だろうな。それじゃ、全校集会にまた。フォローは頼んだぜ?」

 

「わかったよ」

 

 

―――全校集会。

 

 

―――朝のHRは、臨時で全校集会が開かれた。全校生徒が校庭に集まって教壇に立っている理事長の話に耳を傾ける。

 

「皆も今朝の騒ぎで知っているじゃろう、武士道プラン」

 

全学生達を前に、学長の説明が始まっていた。

 

「この川神学園に転入生が10人入ることになったぞい」

 

理事長が示した人数に皆がざわめく。

今朝ニュースで言っていた人数と違うような・・・・・?

 

「あれ?確か武士道プランの人数は3人じゃなかった?」

 

「まだ他にいる系?・・・・・イケメン系?」

 

「武士道プランについての説明は新聞でも見るんじゃな。

重要なのは学友が増えるということ。仲良くするんじゃ。・・・・・競い相手としても

最高級じゃぞい、何せ英雄」

 

「確かに・・・・・英雄達と競い合いができれば驚くほどのレベルアップに

繋がるはず・・・・・。 先人に学ぶ、の究極系だな。

まあ、あくまで武道をしているやつらだがな」

 

雄二が顎に手をやり納得した様子だけど、そうじゃない僕達は最初から競う相手にもならないだろうね。

 

「武士道プランの申し子達は全部で6人じゃ。残り2人は関係者。

まずは3年生、3−Sに1人はいるぞぃ」

 

「今の時期に三年生が入ることになろうとはの」

 

「・・・・・訳ありの可能性」

 

「でも、凄い学力よね。いきなりSクラスに入っちゃうなんて」

 

一子の感嘆の言葉には僕も同意する。

 

「それでは葉桜清楚、挨拶せい」

 

理事長の声と共に、女の子が一人しゃなりと前に出た。そのまま。

ゆっくりと壇上に上がっていく。

優雅な足の動きで男子達からは、ほーっという溜め息が漏れた。

 

「こんにちは、初めまして。葉桜清楚です。皆さんとお会いするのを、

楽しみにしていました。これから、

よろしくお願いします」

 

壇上に上がった先輩、葉桜清楚のふわりとした挨拶した後、

男子達の歓声が巻き起こった

 

「やべっ、名前からして清楚過ぎるんですけど!?」

 

「なんか文学少女ってイメージだね!良い感じ!」

 

「すっげぇ!宴にグッズ出したら価値は間違いなくSR!」

 

「・・・・・!(パシャパシャパシャッ!)」

 

ムッツリーニが物凄い勢いでカメラのシャッターを押す。ムッツリーニ商会がまた潤うね。

 

「あーあ、皆色めきたっちまって・・・・・ま、無理もねぇか」

 

「ハイハーイ、気持ちは分かるけど静かにネ!」

 

教師達が歓声を上げる生徒達を宥めた時。

 

「が、学長、質問がありまーす!」

 

「全校の前で大胆な奴じゃのう。言うてみぃ」

 

「是非、3サイズと、彼氏の有無を・・・・・!」

 

「全校の前でこの俗物がーっ!」

 

小島先生の鞭が同じクラスの福本育郎君に炸裂した!

 

バッシィィィィィィィィンッ!

 

「あぅぅうんっ!」

 

鞭って痛いはずなのにクラスメートは恍惚とした表情を浮かべる。

 

「アホかい!・・・・・まあ、確かに3サイズは気に成るが」

 

「・・・・・ええっ」

 

葉桜さんは赤面し、恥じらった。

 

「おいジジイ死ね!」

 

どこからかモモ先輩の声が聞こえてきた。葉桜さんは咳を一つ零すと口を開いた。

 

「片想いの人はいます。私のサイズのことは・・・・・皆さんのご想像にお任せします」

 

『ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!』

 

男子生徒達がまたしても歓声を巻き起こす。

うん、あの恥じらい方はこうグッ―――とくるものがあるよっ。

 

「総代、真面目にやってくださイ!」

 

「おお、すまんすまん、ついのう。・・・・・葉桜清楚、

という英雄の名を聞いた事がなかろう、皆」

 

理事長の質問に僕は素直に頷いた。それから、

 

「うん、そんな前の偉い人は聞いた事が無い」

 

「あ、いないのね。知らなくてビクビクだったわ・・・・・」

 

「―――実はいます。ワン子・・・・・、こんな常識知らないのか・・・・・?」

 

「ひいっ!?」

 

「ワン子、大和のサドな冗談だよ」

 

「よ、良かったぁ・・・・・。お仕置きされるかと思ったわ」

 

一子をからかう大和の声が聞こえてくる。

 

「これについては、私から説明します。実は私は、他の三人と違いまして、

誰のクローンだか自分自身ですら教えてもらってないんです。葉桜清楚と言うのは

イメージでつけられた名前なんです」

 

「そうなのか。自分が誰だか分からねえーのか」

 

翔一が不思議そうに言う。

 

「25歳ぐらいに成ったら教えてもらえるそうです。

それまでは、学問に打ち込みなさいと言われています。

私は本を読むのが趣味なので・・・・・。だから、清少納言あたりのクローンだと

いいなと思ってます」

 

「清少納言かぁ、そうなら確かにイメージ通りだよね」

 

「しかし存在感ある人だな。大勢の前で声もよく通る」

 

「正体が謎だからテレビでは放送されなかったのか・・・・・」

 

各々とFクラスの皆がざわめき立つ。

 

「皆、テンションが上がってきたようじゃな、良いぞ良いぞ。そして、二年に入る

6人を紹介じゃ。全員が、2−Sとなる男子一人と女子が五人じゃ」

 

「・・・・・なんとなくそう思ったよ。Sクラスが強くなっちゃたね」

 

「ああ、かなり面倒なことになる。試召戦争の時、どう迎え討てばいいか・・・・・」

 

雄二が悩みだすところで、4人の女性がスタスタと壇上に上がってきた。

 

「こんにちは。一応、弁慶らしいです、よろしく」

 

弁慶と名乗った少女が挨拶をして一拍して遅れた時。

 

「結婚してくれえええええええええええええ!」

 

「死に様を知った時から愛してましたあああああああああああああああ!」

 

ガクトと福本君が大声を張り上げながら興奮し出した。

 

「あんたら、アホの極みだわ・・・・・」

 

「しかし、なんてーの。・・・・・清楚とか見ちまうとアタイら

自信汚く思えてきてさー、今度はあんな色気溢れるの来ちまって死にてぇ系」

 

「ほんとにね・・・・・、なんだか自信なくしちゃうよ」

 

2−Fの女子がそう言っている最中、黒髪のポニーテールの女性が咳をする

 

「義経ちゃん、落ち着いて、・・・・・大丈夫」

 

「ん。義経はやれば出来る」

 

「・・・・・よし!」

 

二人に励まされて気合を付いたようだ。

 

「源義経だ。性別は気にしないでくれ、義経は武士道プランに関わる人間として

恥じない振る舞いをしていこうと思う。よろしく頼む!」

 

源さんの自己紹介が終わった瞬間だった。

 

『うぉおおお!こちらこそよろしくだぜぇ!』

 

『女なのは気にしない!俺たちにとってはご褒美だぜ!』

 

男子学生の怒号が、大地を揺らした。す、凄い・・・・・っ。

 

「挨拶で来たぞ、弁慶!」

 

「義経、まだマイク入っている」

 

「・・・・・失礼」

 

「緊張し過ぎないことだね」

 

「しきりに、反省する」

 

ははは、源さんは少しばかりおっちょこちょいみたいだね。

えと、残りの二人は・・・・・?

 

「私は伊達正宗だ。英雄、正宗のように眼帯を着けていないが

そこは気にしないでくれ」

 

クールビューティーな人だと思った。艶やかな黒髪を腰まで伸びていて、

どこまでも瞳が青かった。でも、片方の目は金色だなぁ・・・・・。

 

「織田信長です。以御お見知りおきを」

 

意外とシンプルな自己紹介だった。

 

「女子諸君。次は武士道プラン、唯一の男子じゃぞ」

 

理事長の言葉に女生徒達が少しだけざわめく

 

「やっとか。正直女ばかりだと味気ないと思っていたぜ」

 

「どんな人なのじゃろうか」

 

「・・・・・興味深い」

 

雄二達が興味深々と教団の方へ視線を向ける。

 

「2−S、那須与一!でませい!」

 

唯一、男子学生の英雄のクローンを呼ぶ理事長。

 

「京。与一といえば・・・・・、恐らく弓使いだぞ」

 

「女の子じゃないなら、弓使いでキャラかぶりもアリ」

 

「どんな男だ。ダルやヒロみたいな奴だったら爆発しろ」

 

皆が固唾を飲んで、登場を持った。

 

「あぁ?なんだ、出てこねーじゃねぇか」

 

・・・・・一向に現れない・・・・・。

 

「照れているのかのう?よーいーち!」

 

「よいちさーん!怖がらなくて大丈夫ですよー!」

 

「おー。いきなりサボりとは、ユニークな奴だな」

 

「サボり?それは感心しないな」

 

皆が現れない那須与一にザワつき始めた。

 

「あわわ・・・・・与一の奴は何をしているんだ・・・・・。皆との和が・・・・・」

 

「後でアルゼンチンバックブリーカーだな・・・・・」

 

 

―――屋上―――

 

 

屋上に1人の少年がゴロリと横になっていた

 

「・・・・・ハッ、くだらねぇの。卒業するまでの付き合い・・・・・慣れ合いに

意味あるのか?人間は死ぬまで1人なんだよ」

 

この少年の名は、那須与一。源義経達と同じ英雄のクローンである。仲良しこよし群れることを拒み全校集会が終わるまでサボタージュを決め込む、そんな少年を見下ろす人影が静かに現れた。

 

「―――まったく、お前はどうしてそんな性格に成ったのか知りたいな」

 

「誰だっ!?」

 

バッ!と身体を起こし辺りを見渡す。

 

「此処だ、与一」

 

声がした方向に顔を向けると給水塔に一人の男がいた。

その男は―――真紅の髪を靡かせ、金色の双眸を那須与一に向けていた。その男を見て

那須与一は愕然とした面持ちで口を開いた。

 

「あ、兄貴・・・・・」

 

「久しぶりだな。十年振りか?」

 

「あ、ああ。そうだな・・・・・」

 

「さて、昔の事だが俺と約束した事をどうやら守っていないらしいな?」

 

「・・・・・っ!」

 

男の言葉を聞いた途端に那須与一が身体を震わせた。

 

「与一、お前に二つの選択を与える。今すぐ義経達の所に行くか

俺の説教を称した体罰を受けるか、どっちか選べ」

 

瞬時で与一の目の前に移動し、那須与一の瞳を覗き込むように口を開く。

男の瞳は金色に瞳孔が垂直のスリットになっていた。

まるで猛獣に狙われているかのような感覚で、緊張感が高まる。

 

「わ・・・・・わかった。義経達の所に行く・・・・・」

 

「ん、賢明な判断だ」

 

満足気に笑みを浮かべる男は人差し指を唇の前で止めながら言った。

 

「ああ、俺も全校集会に顔を出すことになってる。それまで誰にも言うなよ?

言ったら・・・・・様々な格闘技、柔道の技のオンパレードを与えてやるから」

 

「絶対に口を割らないぜ!男と男の約束だ!」

 

 

―――グラウンド―――

 

 

「み、皆聞いてくれ、今、与一はたまたま来ていないが・・・・・その・・・・・

照れ屋で、難しいところもあるけど・・・・・与一は良い奴なんだ。

だから、これで怒らないで・・・・・与一と話してやって欲しい。いない件は、義経が

謝る。本当に、すまなかった」

 

皆の前で、源さんが深々と頭を下げた。

 

「だから皆、与一と仲良くやって欲しい」

 

「・・・・・よろしく頼む」

 

―――っ!?

 

教壇から男の声が聞こえた。目を真っ直ぐ教壇に向けると、

一人の男子生徒が立っていた。

い、何時の間に・・・・・さっきまでいなかったのに・・・・・。

 

「よ、与一。い、何時の間に・・・・・?」

 

「・・・・・言いたくねェ」

 

顔をプイッと源さんから逸らした。

 

「はー、美味しい」

 

「おおい!瓢箪が気になっていたが後ろで弁慶が酒を飲んでるぞー!」

 

「弁慶、我慢できなかったのか?」

 

「申し訳も」

 

「こ、これは・・・・・皆も知っている川神水で、酒ではない」

 

「なんだ、そうなのね・・・・・って、川神水なら飲んでいいわけないじゃない!」

 

一子の言う通りだ。この場に肯定する人は―――。

 

「川神水はノンアルコールの水だが、場で酔える」

 

「流石は小島先生。死活問題だからきっちとしないとネ」

 

いたー!?え、教師公認なの!?いいのそれで!?

 

「皆さん、すいません。私はとある病気でして、こうして時々飲まないと、体が震えるのです」

 

「なんだそうなのか、なら仕方が無いな」

 

「ていうか、それはア・・・・・むぐっ」

 

「空気を読めよ、モロ。いいんだよ、美人なら川神水ぐらい」

 

ガクト。キミの思考はときどき僕も分からなくなる時があるよ・・・・・。

それにしても、特別待遇過ぎる気もするなぁ。Sクラスだからってそこまで自由奔放だっけ?

 

「弁慶は川神水を飲む代わり成績が学年で四位以下なら、即退学で構わんと念書ももらっておるしな。

じゃから、テストで四位とかだったら、サヨナラじゃ」

 

条件付きだったんだ。それなら納得できる。

 

「弁慶、お前は五杯で壊れる。これ以上は・・・・・」

 

「分かってる・・・・・、そもそも今飲んでるのはワザとだし、

全校の前で一度この姿を見せておく・・・・・、

こういう人間だと認識してもらうと何時でも好きな時に飲めるわけで」

 

「無用に敵を作っているようで、義経はハラハラだ・・・・・」

 

「競争意識を刺激しているわけ。良しとして」

 

あはは・・・・・Aクラスとの仲がさらに悪化しそうだ。

 

「なんだか、皆に不快感を与えたかもしれないが・・・・・仲良くやっていきたい。

よろしく頼む」

 

源さんは深々とお辞儀した。葉桜さんもたおやかに頭を下げる。

弁慶さんはしゅた、と手あげる程度だった。

与一君は「ふん」と顔を反らした。織田さんと伊達さんは小さく頷く。

 

「後は武士道プランの関係者じゃな。ともに1年生で2人とも1−Sじゃ!

さぁ、入ってくるがいい」

 

理事長が誰かに高らかに言った。しばらくすると―――。

 

「お?なんか、行儀よさそうな奴がいっぱい出てきたぞ」

 

「あれは、高名なウィー○交響楽団・・・・・。何故こんな所に?」

 

現れた大勢の人達は、いきなり演奏を始めた。

 

「これは、登場用BGMというやつ?」

 

「この雰囲気・・・・・なんだか、嫌な予感しかしないわ」

 

ふと、後ろの方からどよめきが起こった。なんだろうと皆の視線が集中すると、

そこには―――。執事服を着込んだ大勢の男達が2列で川神学園に入ってきた。

そして、お互い手を相手の肩に置いて道を作った。―――そこに道を作った男達の上に

歩いて来た真紅の羽扇を持つ銀の長髪に紫の瞳、額に×印の傷が

ある少女。その少女を見て僕達は唖然とした。

 

「我、顕現である!」

 

誰!?女の子、幼女!?ええええええええ!?

 

「我の名は九鬼紋白。紋様と呼ぶがいい!我は飛び級する事になってな。

武士道プランの受け皿になっている、川神学園を進学先に決めたのだ。

そっちの方が、護衛どもの手が分散せんからな。我は退屈を良しとせぬ。

1度きりの人生、互いに楽しくやろうではないか。フハハハハーッ!」

 

九鬼紋白・・・・・彼女の自己紹介に全校生徒は呆然となった

 

「凄ーく強烈な人が来たね・・・・・」

 

「ああ、九鬼が二人とはカオス過ぎるだろう・・・・・」

 

雄二すら、唖然と見ている。嵐が二つもこの学校にいるんだ。

きっと騒がしい学校生活になるに違いない。

そして、もう一人の転入生とはいうと・・・・・。

 

「新しく1年S組に入る事に成りました。

ヒューム・ヘルシングです。皆さん、よろしく」

 

金髪で鋭い眼光の執事服を身に包む老けた男性だったッ!!!!!

 

「「そんな老けた学生はいない!」」

 

つい、僕と雄二がその人に向かってツッコンでしまったよ!

いくらなんでもこの学校の年齢制度は緩すぎる!

 

「ヒュームは特別枠。紋ちゃんの護衛じゃ」

 

理事長の言葉に疑問が湧きだす。

 

「別にクラスに入らなくても教師でも良いのにねぇ」

 

「そんな年輩の方が来ても話題も合うとは思えんの・・・・・」

 

島田さんと秀吉の呟きを聞きとったのかヒュームさんは口を開く。

 

「お嬢さん。こう見えて私は、ゲームなど好きですよ。スプライト型機体が、私のロボです」

 

『それPC98のゲームじゃねーか!何年前だよ!』

 

2−Fからツッコミが入った。

 

「えーここで僭越ながら、ご挨拶させて頂きます」

 

今度は銀髪に眼鏡を掛けた老執事の人が何時の間にか現れる。

 

「私、九鬼家従者部隊、序列3番。クラウディオ・ネエロと申します。

私達九鬼家の従者は、紋様の護衛と武士道プランの成功のため、

ちょくちょく川神学園に現れますが・・・・・どうか仲良くして頂きたい。

皆様の味方です」

 

「フハハ、因みにクラの好みはふくよかな女性だ。

未婚らしいので惚れた奴が口説いて良いぞ」

 

「ご解説ありがとうございます、紋様」

 

いない!そんな人に口説くこの学校にそんな女子生徒はいない!

 

「うむ。以上がこの8人がこの学校に入る事に成る。皆、仲良くするんじゃぞぃ」

 

理事長の言葉により全校集会は終了した。

 

「うん・・・・・Sクラスに濃い人達が入ったってことは分かった」

 

「だな・・・・・これからこの学校はどうなることやら・・・・・」

 

「・・・・・新作入荷」

 

「英雄のクローンとは言え、本物の英雄ではないのじゃろう。

まあ、あの者達と話す機会はそうそうないじゃろうな」

 

「それはそれでドキドキしちゃうわ。身分の違いで」

 

「はい。私もそう思います」

 

僕も含め雄二達も自分の教室へと戻る雰囲気に包まれた。・・・・・あれ?でも、転入生10人じゃなかったっけ?

 

 

 

「さて、以上を以て全校集会は終了とする。皆、後悔のある学園生活をしてはならんぞぃ」

 

神月学園の理事長の川神鉄心の話が終わり、場は気が緩んだ雰囲気を醸し出し小声であるがクラスメート同士で会話を交わし合い始める。しかし源義経達が壇上から降りた途端に鉄心は今思い出した風に言い始めた。

 

「おっと忘れておったわぃ。この学園にもう二人の転校生とゲストが来るのでの。お前達失礼のないように心がけるのじゃ」

 

転校生とゲスト―――?一体誰なんだ?と終わったはずの終業式の後に今度は何の話をするんだと思っていた生徒一同の目の前で壇上に姿を現す一人の人物と、黒いフード付きの外套で全身を包み隠すだけでなく骸骨の仮面を被った不審極まりない人物に、背中まで伸びた黒髪に黒髪の神月学園の制服に身に包む少女。

 

「おはよう神月学園の生徒諸君!」

 

高らかに自身の声量で挨拶した男。暑い日差しに照らされる真紅の長髪に金色の双眸、長身的な体を身に包む服装は煌びやかな純白に金の刺繍で龍を縫った漢服。

 

「俺は蒼天の―――」

 

『た、旅人さんんんんっ!?』

 

「中央区の王、イッセー・D・スカーレットだ。あー、今の叫び声は気にしないで聞いてくれ」

 

話を遮られ苦笑する蒼天の王を、遮った学生達は最初こそ驚いたものの直ぐに満面の笑みを浮かべて誰よりも一際に騒いだ。

 

「マジかよ旅人さん!?久しぶりだぜ旅人さーん!」

 

「おい旅人こっちを向け!あの時から成長したお前を倒す美少女がここにいるぞ!」

 

「ふはははは!久しぶりであるな旅人!」

 

「旅人のお兄ちゃーん!」

 

「旅人さん結婚して!」

 

蒼天の王に向かって旅人と連呼する生徒達を一瞥し、静かに天に向かって人差し指を突き立てた。

 

「・・・・・少し黙ろうか」

 

一瞬で巨大な火炎球を生み出す、彼が眼光を鋭く睨みつけ凄まじく恐ろしい形相をしたので全員が心から恐怖して口を閉ざした。王者の風格とそれに相応しい力の一端を見せつけた事で格上の差を示したのであった。

 

「よし、静かになったので話をさせてもらう。俺は自分で言うのもなんだが蒼天の王を務める者の一人だ。そんな王がここにいるのは二つ。一つは蒼天が開発したゲームをこの学園の生徒にも楽しんでもらいたく、プレゼントを贈るサプライズをするためこの瞬間に訪れさせてもらった」

 

火炎球を消して、壇上から降り立つ蒼天の王の横から教師達が押し車を運んできた。その中には何かが入っていてその一つを取り出す。

 

「VRMMORPG、NWOを遊ぶための必要な道具だ。これが壊してしまうと遊べなくなるので保管は気配るように。それじゃ、一年一組から順に渡すから前に出て取りに来てくれ」

 

教師の誘導で生徒は緊張しながら蒼天の王から受け取り列に戻る。二年、三年生も同じくスムーズに手渡していく。何か言いたげな生徒には鉄人こと西村宗一郎の睨みでねじ伏せた。

 

「全員行き届いたな?今回俺のサプライズのために付き合ってくれて感謝する。それじゃ、まっすぐ家に持ち帰って正式サービスが開始したらゲームをしてくれ。この話は以上だ。そしてもう一つは、俺の国からこの二人を神月学園に転校をさせてもらった。この死神のような出で立ちをした人物は俺の義理の息子のハーデス。そして可愛らしい女の子は松永燕だ。二人共成績は優秀なんだが、この格好をしなくちゃならない事情があるハーデスの為にFクラスに配属させてもらった。Fクラスの生徒はどうか仲良くしてやってくれ」

 

去ろうとする王を護衛の形で追従する教師達。

 

「さて―――」

 

厳かに声を発する西村が両腕の筋肉を盛り上げる。

 

「蒼天の王に礼節を弁えず失礼極まりない言動をした者は放課後に地獄の補習を決行する!逃げれると思うなよ、お前達の家まで追いかけて補習を受けてもらうからな!」

 

「うげぇっ!?」

 

「そんなぁっ!」

 

吉井明久はこの瞬間思った。みんな頑張れと。

 

 

 

裏から蒼天へ戻ろうと足を運んだ蒼天の王だったが、先回りしていたヒュームとクラウディオに行く先を阻まれた。

 

「九鬼家の従者が何か用か?蒼天の王の前を塞ぐとは大した度胸だ」

 

「少々お時間を頂けるならば長くはお引止めいたしません」

 

「長くも少なくとも、国際問題になりかねないことをしている自覚はあるのか?そして今の俺は蒼天の王としてここにいるんだが・・・・・高が財閥の従者が一国の王に敬意を表す姿勢じゃないな。―――平伏せ」

 

「「っ・・・・・」」

 

二人の身体に凄まじい重力のような圧力がかかり、己の意思に反して姿勢を低くされた。

 

「悪いけどその姿勢で話してくれよ?面倒なことに何時の間にか力を示さなきゃならなくなってしまったんだからな」

 

「この力は・・・・・っ」

 

「発言の許可をもらうまで他の国の大統領や王でも許されない。お前達はそれ以下だ」

 

「貴様・・・・・ぐっ・・・・・!」

 

ヒュームを中心に地面が凹んだ。

 

「プライベートなら気にしないけどさ、俺は今蒼天の王としてここにいるんだよ。世界の王に対して失礼な発言をしてると身を滅ぼすぞヒューム・ヘルシング。で、用件は何だクラウディオ・ネエロ」

 

「はい、九鬼家との取引の商談に興味がありますか?」

 

「ふーん商談ね。蒼天は九鬼家と取引をする時期はまだまだ先なんだが、その話をそっちから持ち掛けてきたということで保留にさせてもらう。いずれは場を設けてもらおう」

 

「畏まりました。良き返事をして頂き誠にありがとうございます。―――揚羽様もお喜びになるでしょう」

 

「まだその話を引きずるつもりか。・・・・・商談をする相手を名指しする必要があるかもな」

 

「ふふ、何の事でしょうか。ところで迎えの車が見えませんがこれからでしょうか?」

 

「蒼天がどこにあるのか知ってるだろ。迎えなら今来た」

 

意味深に言った後で上空から分厚い装甲を纏い空を駆ける女性達と有翼を持つ巨大な金色の生物が現れた。その生物の背中に乗り出すと蒼天の王を迎えに来た一行と共に一気に空の彼方へと飛んでいった。

 

「蒼天を創造した王しか従わぬ蒼天の守護龍・・・・・凄まじいですね」

 

「何時か倒す」

 

「正式な試合でお願いしますよヒューム。では私は報告をしに戻りますのでよろしくお願いします」

 

 

 

 

 

 

「死神死神!お前、旅人さんの義父なんだな!」

 

全校集会が終わって僕達Fクラスは自分のクラスに戻った。戻たというより初めてクラスに入ったのはいいんだけど・・・・・ここどこ?山奥にある廃屋?教室とは思えない環境が悪そうで居続けたら人体に害がありそうだよ。椅子が座布団、机がちゃぶ台で汚れた床は畳、割れた窓。これが最底辺クラスの教室かぁ・・・・・。こんな教室の中でも翔一は興奮気味で一番後ろの窓際の席に陣取って座っている死神ハーデスに問い詰めてる。ここにいない川神先輩を除いて。ハーデスは、黒いマントからスケッチブックを取り出して書き始めて答えた。

 

『・・・・・それがどうかしたか』

 

「何でスケッチブックで書いて答えるんだ?」

 

「ハーデスは喋れないからだよん」

 

ガクトの質問に松永燕さんが応えた。

 

「昔喋れなくなってしまったことがあってね、だから喋るときはこうして書いて意思疎通をしなくちゃいけないの。ごめんね?」

 

「あーすまねぇ」

 

「ううん、わかってくれるならこっちも嬉しいよ。それで王様のことがどうしたの?」

 

「そうそう、ガキの頃の話なんだけどよ。俺達は昔旅人さんと何年も遊んだことがあるんだ!」

 

「でも次の旅に出てそれっきり会えなくてさ。こんな形で再会するとは思えなかったからびっくりしたよ」

 

「まさか、蒼天の王様だなんて驚いたわー」

 

なるほど、仲の良かったお兄さん的な人だったんだ。あんなに嬉しそうだったのも納得できるね。

 

「あー、王様が昔やんちゃで愉快な子供達の話を聞いたことがあるよ。それがキミ達のことかー」

 

「貴女は旅人さんの何なの?」

 

「蒼天の学園の生徒と理事長?」

 

「あの人、王様なのに理事長もしてるの?」

 

「普段は警備の人のように蒼天中を歩き回ってるよ。だから割りと王様なのに接触率が高いわけだから友達的な感覚なんだよね」

 

総理大臣のような人が仕事もせずに歩き回ってる?

 

「・・・・・王と理事長の仕事は?」

 

「そこまでは知らないかな。ね、ハーデス君」

 

話し掛ける松永さんに小さく頷くハーデス。

 

「じゃあじゃあ!旅人さんの連絡先は―――!」

 

『・・・・・国際電話』

 

「普通の携帯や電話じゃ駄目なのねー」

 

「蒼天は外国扱いされてるから仕方がない。それにそうじゃなくても教えてくれるかどうか怪しいところだ」

 

大和がそう言う。旅人さん、王様の話で盛り上がる翔一達と比べてこっちはこっちであの話題の話をする。

 

「楽しみだね。早く土曜日にならないな。なんたって世界で初めて革命的なゲームだから、ゲーム好きな人にとっては水詮ものだよ!」

 

「明久、垂涎だ」

 

「お主等、何の話をしてるのじゃ?」

 

「あ、秀吉。それはゲームの話だよ。ほら蒼天が開発した」

 

「おお、あれじゃの。ワシも楽しみじゃ。現実世界のようにゲームが楽しめれるというのじゃから興味が大いにある」

 

「・・・・・俺も楽しみ」

 

「確かにな。蒼天と日本限定で発売する前に応募できるからと言っても、多くの応募からランダムの抽選で選ばれるわけだからな」

 

「まさか学校で配られるとは思わなかったけど、当たって嬉しい!」

 

あー、早く本当に明日が土曜だったらどれだけ嬉しいことやら!

 

「あ、ハーデスと松永さんはハードを貰えたの?全校集会の時貰ってなかったけど」

 

『・・・・・この前直接貰った』

 

「王様の笑顔つきでね」

 

「「「「なんて羨ましいっ!」」」」

 

『・・・・・そんなお前達にフライングを込めて教える。β版で知ったゲームのキャラクターについて』

 

「おっ、迷わず設定できそうだな教えてくれ」

 

「仏様神様死神ハーデス様教えてください(m(__)m)」

 

「・・・・・お願いします(m(__)m)」

 

「土下座してまで教えて欲しいのかの」

 

スタートダッシュは見逃せないよ秀吉!

 

『・・・・・まず最初にジョブとサブジョブの職業が選べる。サブジョブは後ででも選べて職業は多種多彩にある』

 

「・・・・・ハーデス。忍者はないのか」

 

『・・・・・秘密』

 

楽しみを引き延ばすねハーデス。更に気になってしまって仕方がなくさせてしまうなんてさ。

 

「ワシは侍風になってみたいの。ハーデス、他はあるかの?」

 

『・・・・・教えなくともわかるスキルと魔法が覚えられる。これはレベルで取得するんじゃなく、行動とクエストで入手する』

 

「・・・・・透視の魔法っ」

 

『・・・・・自分で探せ』

 

「よーし、探そうムッツリーニ!」

 

「・・・・・(コクコク)ッ!」

 

「ハーデス、他は?」

 

『・・・・・キャラクターの細かな設定が可能』

 

「どんな風にだ?」

 

『・・・・・男らしい顔つきに』

 

「なんとっ!?」

 

『・・・・・女性のバストが三桁にまで変更ができる具合に』

 

「なんですってぇっー!?」

 

「あ、島田さん」

 

「死神、今の話は本当なわけっ!?どうやってできるか放課後に教えてもらうわよっ!」

 

『・・・・・ゲームの話し合い。現実的は手術しないと』

 

「ゲーム?」

 

「蒼天が開発したゲームの話しだよ」

 

「あ、テレビのニュースで話題になってるゲームよね?その道具をもらったけれど」

 

「そういうことだから、ハーデスから少しゲームの内容を教えてもらっていたんだ」

 

「ウチもテレビで知ってるけど楽しいの?」

 

「ゲームの世界で思いっきり遊べちゃうからね」

 

『・・・・・出会いがあれば恋愛することも可能。蒼天のゲームは未成年者でも結婚ができる。その気があれば同性だって』

 

「「なんだ、とっ・・・・・!」」

 

「二人共、何故こっちを見るのじゃ」

 

『・・・・・同性として見ているから?』

 

「「何を言う。秀吉は男でも女でもない。第三の性別、秀吉だからだ」」

 

『・・・・・そんな性別はゲームに存在しない。そんなこと言うなら、女装したお前らもアリだと思う』

 

「あっ、確かに可愛くなるかも。ねね、女装してみない?蒼天でβテストしたプレイヤーの中に男性なのに女装したプレイヤーもいたんだよね。きっと二人も似合うと思うよ」

 

「「すみませんしたくないです」」

 

『・・・・・以上説明終わり』

 

「おう、色々とありがとうよ。じゃあ、次はキャラクターの名前を考えようか」

 

「えーと、皆さん」

 

不意に背後から覇気のない声が聞こえてきた。そこには寝癖のついた髪に

よれよれのシャツを貧相な体に着た、いかにも冴えない風体のオジサンがいた。いつの間に入ってきたんだろう?

 

「席についてもらえますか?HRを始めますので」

 

学生服も着ていないし、どう見たって十代には見えない。

どうやらこのクラスの担任の先生みたいだ。

僕達はそれぞれ返事をした後にそこらへんの席(?)に着く。

というか、椅子が無いから直で床に腰を下ろす形が席なんだよね・・・・・。

 

「えー、おはようございます。二年F組担当の福原慎です。よろしくお願いします」

 

自分の名前を書こうとしたのだろう。だが、薄汚れた黒板に振り向いた時にやめた。

うわ、チョークすらロクに用意されていないよ。

 

「皆さん全員に卓袱台と座布団は支給されてますか?不備があれば申し出てください」

 

六十人程度の生徒が所狭しと座っている教室には机が無い。あるのは畳と卓袱台と座布団。

なんて斬新な設備だろう。一年生の時から噂には聞いていたけど、

実際に目の当たりしたりすると言葉が出ない。

 

「先生、座布団に綿が殆どないです」

 

と、僕が先生に不備を申し出る。

 

「あー、はい、我慢してください」

 

「先生、僕の卓袱台の足が折れています」

 

「木工ボンドが支給されていますので、あとで自分で直してください」

 

「先生、窓が割れていて隙間風が寒いんですけど」

 

「わかりました。ビニール袋とセロハンテープの支給を申請しておきましょう」

 

セロハンテープすらないのぉっ!?もうAの設備とは雲泥の差以上だよ!

 

「必要な物があれば極力自分で調達するようにしてください」

 

「「マジかよ・・・・・」」

 

唖然と言う大和とガクトだった。流石にこの環境で学校生活は絶対にやだよ!

 

「では、自己紹介でも始めましょうか。そうですね。廊下側の人からお願いします」

 

福原先生の指名を受け、車座を組んでいた廊下側の生徒一人が立ち上がり、名前を告げる。

 

「木下秀吉じゃ。演劇部に所属しておる」

 

「大和、お前の知り合いに畳屋はいるか?いたらなんとか譲ってもらって、

このカビだらけな畳と交換したほうがいいって」

 

「分かった。今確かめる」

 

「お姉様もこの教室で学んだのかしらね・・・・・」

 

「そう言えば去年のこの日ぐらいに物凄く愚痴を言っていたね。

『あんなの教室じゃなくて廃屋!いや、キノコ栽培する場所だ!』って」

 

その気持ち、物凄く同感です。川神先輩。

 

「・・・・・土屋康太」

 

「あ、姉さんからだ。・・・・・お前ら、教室はどうだ?」

 

「最高です!って、返信してやれ」

 

「それと、お姉様の気持ちは物凄く伝わったよってお願い」

 

「島田美波です。海外育ちで、日本語は会話はできるけど読み書きが苦手です」

 

何人か知り合いが自己紹介をしている中でも風間ファミリーは自分の空間を作り、

ほのぼのとしている。ある意味、空気を読まない集団だ。そんな集団にも順番が回ってきた。

 

「俺の名前は風間翔一だ。趣味は冒険と探検!よろしくな!」

 

どっちも一緒のような気がするけど・・・・・。

 

「直江大和だ。これから一年間よろしく」

 

うん、シンプルな自己紹介だ。

 

「アタシは川神一子!好きなことは努力することよ!皆も一緒に努力しましょうね!」

 

『努力最高っー!フォオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!』

 

・・・・・返す言葉が見つからない・・・・・っ!

 

「椎名京。得意なことは弓を射ること。それから好きな人は・・・・・・」

 

『・・・・・』

 

「旅人さんだね」

 

『異端審問会を開こうではないか!』

 

おのれ、幸せ満喫の旅人よ!また僕の前に現れたらミンチにしてくれるわっ!あ、冗談です。

 

「島津岳人だ。自前の体を鍛えることが趣味だな。あと彼女募集中だ!」

 

『俺達も今現在絶賛中彼女募集中だゴラァアアアアアアアアアアアアアアアッ!』

 

何時も聞いているから聞かなくても分かる自己紹介だ。

 

「えーっと、師岡卓也です。機械、主にパソコンのことに関する事を知りたいなら僕に訊いてね」

 

このクラスにその知識を得ようとしている者はいないだろう。っと、今度は僕の番だった。

気さくで明るい好青年ということをアピールしないと。

一瞬考えて、軽いジョークを織り交ぜて自己紹介をする事に決定。軽く息を吸い、立ち上がる。

 

「―――コホン。えーっと、吉井明久です。気軽に『ダーリン』って呼んでくださいね♪」

 

よし、これで僕と言う人間を紹介でき―――。

 

 

『ダァァ――――――リィ――――――ンッッッ!』

 

 

野太い声の大合唱。これは思った以上に不愉快だ!

 

「―――失礼。忘れてください。とにかくよろしくお願いします」

 

作り笑いで誤魔化しながら席に着くものの、

 

「よう、ダーリン。これからよろしくな」

 

「よろしくね、ダーリン♪」

 

「よろしくな、ダーリン!」

 

「よろしく、ダーリン」

 

「ダーリン、よろしくね♪」

 

「墓穴を掘ったな。なあ、どんな感じだ?どんな感じの気分なんだダーリン?」

 

「あふんっ!」

 

予期せぬ場所から再び不愉快な発言がぁっ!もう穴があったら入りたい!

だから、そんな温かい目で僕を見ないで!お願いだからぁ!

そんな僕の気持とは無関係に自己紹介は続く。その後もしばらく名前を告げるだけの

単調な作業が続き、いい加減眠くなった頃に不意にガラリと教室のドアが開き、

息を切らせて胸に手を当てている女子生徒が現れた。

 

「あの、遅れて、すいま、せん・・・・・」

 

彼女の存在に誰からと言うわけでもなく、教室全体から驚いたような声が上がる。何故なら彼女はこのクラスにいるような人じゃないからだ。

 

「では、姫路さん自己紹介をお願いします」

 

「は、はい!あの、姫路瑞希といいます。よろしくお願いします・・・・・」

 

小柄な体をさらに縮めこめるようにして声を上げる姫路さん。肌は新雪のように白く、背中まで届く柔らかそうな髪は、優しげな彼女の性格を露わしているようだ。保護欲を掻きたてるような可憐な容姿は、九割男のFクラスで異彩を放っている。

 

「松永燕です。本当は皆さんより上級生なんだけれど、ハーデス君のフォローをするべく一年生として編入しました」

 

次に今日転入してきた二人が。松永さんの後にハーデスがどこからともなく取り出したスケッチブックを開いた。

何かを書いて・・・・・僕達に見せびらかした。

 

『・・・・・名前は死神・ハーデス。蒼天からやってきた』

 

「皆さん、彼はとある事情で意思疎通が少し困難しております。できる限り優しく接してやってください」

 

いや、先生。口からプシューって煙を出す生徒と仲良くなるなんて・・・・・。

 

『我らの神が降臨成された!我らが神よ!我らが父よ!この魂は貴方に捧げます!』

 

って、何時の間にか黒い覆面にマントを着用し、鎌を持っている

クラスメートたちが喜んでいるぅぅぅぅっ!?仕舞いには拝めているよ!

いきなり初日でクラスの殆どの心をあの姿で掴んだというのか!?

 

「類は友を呼ぶっていうけど・・・・・こんな感じなんだろうな」

 

「ははは・・・・・直ぐにこのクラスに馴染みそうだね」

 

何とも言えない面持ちの大和と苦笑のモロ。あの二人はそれぞれ席に座った。

自己紹介中に入ってきた姫路さんは僕と雄二の間。ううう、妙に心が落ち着かないなー。

 

 

               ―――☆☆☆―――

 

 

あー、初めましてだな。俺は直江大和。今現在、教卓が壊れたことで先生は別の教卓を

持ってこようと教室から出た。教師がいない教室はただの部屋と化と成り、

Fクラスのメンバー達は自習と言うことで各々とのんびりし始めた。

そんな時、咳をする姫島を見た明久の奴は坂本を廊下に引き連れて行った。

何やら企みを考えていそうだな。・・・・・にしても、あのハーデスとか言う奴。

不気味さを抱かせてくれるが・・・・・なんだ、この感覚。懐かしい・・・・・?

 

「よっ、ハーデス。さっき自己紹介してなかったけど俺は風間翔一って言うんだ。よろしくな!」

 

『・・・・・よろしく』

 

バッと挨拶の言葉を書いたハーデス。早いな・・・・・。

キャップもキャップだが、よくあいつとあっさり話しかけられるな。

 

「なあなあ。蒼天と旅人さんの話を聞かせてくれよ」

 

「あっ、アタシも知りたいわ!」

 

ワン子まで好奇心に問いかける。蒼天の事はある程度でしか知られていない。

他の国との交流を拒んでいて、日本も含めて蒼天以外の世界各国は蒼天のことに関してはあまり知らされていない

未開の地に等しい。

 

分かっていることは、大昔に勃発した第一次世界大戦の真っ只中に巨大な怪物を従え信じられないことにたった一日で停戦させた天使のような姿をした男。後に蒼天というどこの国より小さな国を築き建国した最中で再び勃発した第二次世界大戦でも、巨大な怪物で各国の戦力(蒼天VS世界連合軍)をほぼ殲滅させた上にたった一国で、交戦勢力の国を滅ぼしたとか。故に―――。

 

蒼天に戦争を仕掛けるな!蒼天に逆らうな!再び国を世界を滅ぼされる!いやマジで!

本当に本当にやめろよな後世の者達!

 

という世界が蒼天に対して感じた強い警告の言葉を遺すほど恐怖と絶望を植え付けられたようだ。

 

第二次世界大戦の終戦後、もしもどこかの国同士が核兵器の開発及び戦争を、蒼天に攻撃の意を起こすようなら国家連盟もとい連帯責任として世界を滅ぼす、という恐怖と絶望の条約を締結された。軍事力、兵器、兵法が通じない巨大な怪物が存在している限り、どの国も蒼天に力で捻じ伏せられ頭を下げる以外生き残れる方法がない。そんなわけだから第一次世界大戦から信じられないことに生きている蒼天の王がその国に入国すると、過剰なまでの厳戒態勢がされて、大統領や皇帝、国王が座る専用の椅子に座らせることで蒼天に逆らわない意を表している。

 

「質問!蒼天に住んでいる人はどんな人達なの?」

 

ハーデスはすらすらとスケッチブックに文字を書いて俺たち見せてくる。

 

『・・・・・色んな国の人たちがいる』

 

「じゃあ、日本人もいるのかしら?」

 

『・・・・・見掛ける』

 

「んじゃ、あの巨大な建物は?」

 

『・・・・・それは』

 

ハーデスから俺たちが知らないことを淡々と教えてくれる。こいつの話は退屈しのぎで丁度良い。

ワン子たちが質問攻めをしていれば、坂本と明久が教室に戻ってきて、先生も戻ってきた。

それから自己紹介の時間が再び始まる。

 

「坂本君、キミが自己紹介最後の一人ですよ」

 

「了解」

 

先生に呼ばれて坂本が腰を上げて立つ。ゆっくりと教壇に歩み寄る。

何故教壇に?ここに入ってくる時もあそこで立っていたな。

 

「坂本君はFクラス代表でしたよね?」

 

福原先生に問われ、鷹揚に頷く坂本。ああ、あいつが代表か。

別にクラス代表といっても、学年で最低の成績を修めた生徒達が集められるFクラスの話。

何の自慢にもならないどころか恥になりかねない。

それにも問わず、坂本は自信に満ちた表情で教壇に上がり、俺達の方に向き直った。

 

「Fクラス代表の坂本雄二だ。俺のことは代表でも坂本でも、好きなように呼んでくれ」

 

 

「赤ゴリラ」

 

「バカ代表」

 

「赤味噌」

 

「赤ちゃん」

 

「赤っ恥」

 

 

「よし、今言ったやつ前に出てこい。こっから外へ突き落すからな」

 

好きなように呼べっていた本人がこれだ。Fクラスというバカの集まりの中で比較的成績が

良かったというだけの生徒。他から見れば五十歩百歩といった存在。

 

「大和も本気出せばAくらいいけそうなのにねぇー」

 

「そう言う京だってBぐらいは余裕だろ?」

 

「Fはのんびりとできそうだから却下」

 

ま、俺と京はともかく他の皆と一緒にいたいという気持ちもあってか

いつものメンバーと学校生活を送ることができたわけだからよしとしよう。

 

『・・・・・』

 

視線を感じる。眼だけ動かしてみればハーデスがこっちを見ていた。

俺達の話を聞いていたのか?でも、こいつには関係のないことだろう。

 

「さて、皆に一つ訊きたい」

 

坂本が、ゆっくりと、全員の目を見るように告げる。間の取り方が上手いせいか、

全員の視線は直ぐに坂本に向けられるようになった。

皆の様子を確認した後、坂本の視線は教室内の各所に移りだす。

 

 

―――カビ臭い教室。

 

 

―――古く汚れた座布団。

 

 

―――薄汚れた卓袱台。

 

 

つられて俺らも坂本の視線を追い、それらの備品を順番に眺めていった。

 

「Aクラスは冷暖房完備の上、座席はリクライニングシートらしいが―――」

 

一呼吸おいて。静かに告げる。

 

 

 

「―――不満はないか?」

 

『大ありじゃっ!』

 

二年F組生徒の魂の叫びだったとここに追記しておく。

 

 

 

 

「だろう?俺だってこの現状には大いに不満だ。代表として問題意識を抱いている」

 

いや、お前にそんな意識があるとはとても思えないと思ったのは俺だけかもしれないな。

 

『そうだそうだ!』

 

『いくら学費が安いからといって、この設備はあんまりだ!改善を要求する!』

 

『そもそもAクラスだって同じ学費だろ?あまりに差が大き過ぎる!』

 

堰を切ったかのように次々と上がる不満の声。

 

「皆の意見はもっともだ。そこで」

 

思った通りの反応に満足したのか、自身に溢れた顔に不敵な笑みを浮かべて、

 

「これは代表としての提案だが―――」

 

これから戦友となる仲間達に野性味満点の八重歯を見せ、

 

「―――とりあえず、FクラスはAクラスに『試験召喚戦争』を仕掛けようと思う」

 

Fクラス代表、坂本雄二は戦争の引き金を引いた。

 

 

 

「おい、坂本」

 

あれからAクラスと戦える根拠の要素を述べた坂本だった。

宣戦布告をしに使者

死者

として明久を騙して行かせようと魂胆が分かっていたから、

ガクトと一緒にEクラスに向かってもらった。

 

「なんだ?」

 

「確かにC、D、E程度のクラスならAクラス候補だった

姫路を主力にして戦えば勝てると思うが、BクラスとはともかくAは無理があるんじゃないか?」

 

「ああ、集団戦で戦えばまず勝つことは不可能だな。だが、なにも戦い方はそれだけじゃない」

 

「・・・・・なるほど、お前の考えはそう言うことか」

 

「頭の回転が早い奴は嫌いじゃねぇぞ」

 

「だが、それでもキツい。どうするんだ?」

 

「心配すんな。俺がお前らに勝たせてやるよ。最後は俺が勝利の栄光を掴んでな」

 

・・・・・不安だな。こいつの幼少の頃の時は知っているが、それはもう過去の話しだ。

 

「負けたら承知しねぇぞ。やるからには下剋上だ」

 

「当然だ。しっかりお前も働いてもらうぞ、軍師大和」

 

「了解だ。それはそうとお前『とりあえずAクラスに』ってのはどういうことだ?」

 

「なんだ、覚えていたのか?」

 

「お前の発言に気になることがあるんだよ。

まさかとは思うが、Sクラスにまで戦争しようなんて考えちゃいねぇよな?」

 

あそこは身体能力、成績も優秀でまさしく文武両道のクラスと言えよう。

そんなクラスにも俺達の幼馴染がいるわけだが・・・・・。

 

「そうだな。いずれSクラスにも戦争をしようと思っている。

だからこそ取り敢えずだ。今の俺達に足りない者が多すぎる。何だか分かるか?」

 

「点数と戦争の場数・・・・・経験だろう」

 

「点数はしょうがない。が、お前の言う通り戦争をするためにはまず経験が重要だ」

 

これからする事に経験が必要。そして自信を付けさせるためだな。

 

「さてハーデスと松永」

 

坂本がハーデスに声を掛けた。

 

「お前達の学力はどのぐらいだ?」

 

『・・・・・点数が無い。補充しない限り戦えない』

 

「じゃあ、さっさと補充しておけよ。『試験召喚システム』を開発した蒼天の出身者さんよ」

 

『・・・・・了解。それと』

 

「なんだ?」

 

『・・・・・好きにさせてもらう。勝てば何だっていいらしいしな』

 

不敵な物言いを告げるハーデス。

 

 

 

キーンコーンカーンコーン。

 

その直後、鐘が鳴り始め―――試験召喚戦争の始まりの意味でもあった。

 

「開戦だ!総員、戦闘開始ッ!」

 

坂本雄二の指示にFクラスは動きだす。

 

 

燕side 

 

「さてさて、初日で『試験召喚戦争』をするなんて思い切った行動をするねハーデス君?」

 

『そうだな』

 

二階に降りて自習している一年生の教室の前を素通りにして廊下を歩く。

 

「ところでハーデス君。ここから二階あっちの階段に上がってEクラスの背後を襲うの?」

 

『いや、サボタージュをするためだ』

 

「あらま、学校初日でサボっちゃうのですか?じゃなくてしちゃうの?」

 

サクッと倒して終わらすかと思ったのに意外だね。王様だからサボることはしないと思ったのに。

 

『意外か。理由は俺達が参加しなくてもこの勝負は勝つからだ』

 

「私達の出る幕はない、そういうことだね?」

 

『そしてこの渡り廊下からくる可能性もあるからな』

 

正当な理由を建前にしてサボる、なるほどね考えますね王様。

 

「堂々と胸張ってサボれますね。出る幕があるとすれば、Aクラスかな?」

 

『一騎打ちの勝負をするならな』

 

壁に背中を預けてここの廊下で三階の戦いが終わるまで待つ姿勢の王様だったけれど、新校舎側の階段からお客さんがやってきた。

 

「フハハハハッ!九鬼英雄降臨である!」

 

「『・・・・・』」

 

この高らかに笑いながら名乗る人を忘れることが難しい相手が、何人も引き連れて接近してきた。明らかに違う生徒の人達だ、試験召喚戦争で授業が潰れ暇になって教室から出てきたのかな。

 

「蒼天の死神ハーデスと松永燕だな?我が名はSクラス代表の九鬼英雄である」

 

「九鬼君ね。私達が蒼天の人だって言うことは、王様絡みの話かな?」

 

「うむ、我の目的を看破するとは流石であるな」

 

「王様とは仲がいいからね。笑いながら名前を自己主張する子供の財閥で執事をしていた話をきいたよん」

 

「おお、そうか!うむまさしくそれは我のことである」

 

嬉しそうに頷く当たり親しい関係だったんだねぇ。王様は誰とでも仲良くなれちゃう不思議な魅力を持ってるから、わかるけどね。

 

「となると九鬼君の後ろにいる人達も」

 

「その通りである。旅人と縁がある者達ばかりだ。故に全校集会で旅人と再会できたのは驚いたものだ。そして蒼天の王だということもな」

 

「まー何かと有名すぎるからねうちの王様は」

 

そんな王様はここにいるんだけど、誰も気づかないよね?気付いた人はある意味王様より凄いよ。

 

「ねーねー、旅人のお兄ちゃんは蒼天に行けば会えるー?」

 

白髪に赤い瞳の女の子が王様と会いたがって訊いてきた。本当にすぐ目の前にいるよ?王様。

 

「仕事をしていないときは街中で会えるよ」

 

「旅人さんは元気のようですね」

 

「王様が病気なったことは一度もないぐらい元気すぎるよ」

 

「あの人と連絡が取れますか?」

 

「うーんと、今日は仕事だったはずだからできないかな。というか国際電話じゃないとできないよ?」

 

「そのぐらいのものであるなら直ぐに用意できる。休みの日は何時なのだ?」

 

連絡する気だこの人達。王様、どうしよう?教えちゃってもいいの?

 

『・・・・・あの人にも都合がある。簡単には教えられない。教えるなとも言われている』

 

と書いたスケッチブックで伝えると少し残念そうに九鬼君は「そうか」と口から零した。

 

『・・・・・お前達のこと、伝えておく』

 

「うむ、頼むぞ死神ハーデスよ。休日の時には九鬼財閥に顔を出してほしいとそう言ってくれ」

 

九鬼君からの伝言の後、無言でハーデス君が黒マントから何通ものの封筒を取り出して九鬼君達に手渡した。それは王様が彼等宛てに書いた手紙で、それが何なのか分かると感謝の言葉を残して私達から離れた。

 

「・・・・・人気者だねぇ?」

 

『・・・・・そうだな。・・・・・上も終わったようだな』

 

勿論、Fクラスの皆の勝鬨の声でどっちが勝ったのか明白。王様の思惑通り、私達は何もせず勝負に勝った。

ただ、この後王様も予想外なことが起きてしまったのは私も知らなかった。

 

 

 

              ―――☆☆☆―――

 

 

 

「決着はついた?」

 

それはEクラスとの勝負に勝ってしばらくのんびりしていた時だった。僕達の教室に見知った顔の女子が現れた。それは見間違うことなく秀吉だった。

 

「どうしたの秀吉。その女子の制服を着て」

 

不思議に思う僕だが、秀吉がどうして女子制服を着ているのかすぐに理解した。

 

「そうかやっと本当の自分に目覚めたんだね!」

 

「明久よ。ワシはこっちじゃぞ」

 

背後から聞こえる呆れた声。その声は僕が知っている美少女の声だった。

 

「え?え?秀吉が二人?」

 

「それはワシの姉上じゃ」

 

「秀吉はアタシの双子の弟よ」

 

と、目の前の秀吉とそっくりな美少女がまるでゴミを見ているような目で口を開いた。

 

「アタシは二年Aクラスから来た大使、木下優子。我々Aクラスはあなた達Fクラスに宣戦布告をします」

 

 

 

 

その頃ハーデスと燕は校内を歩き回っていた。

放課後というだけあって、生徒の数がまばらである。ハーデスと出くわした生徒は

悲鳴を上げ、恐怖で顔を引き攣らせる。学校中を歩き回ると、

ハーデスの目に『茶道部』と書かれたプレートの一室が留まった。

なにを思ったのか、ハーデスはその扉にノックをした。

 

『はい、開いておりますわ』

 

入室の許可が下りた。ハーデスはゆっくりと扉を開け放った。

 

「・・・・・」

 

茶道部に入ると、中にいた着物を身に包む女性がハーデスの姿を見て固まった。

まさか、死神みたいな恰好をした者が入ってくるとは誰が思うのだろうか?

スケッチブックに文字を書いて見せ付けた。

 

『この恰好で失礼、俺は二年Fクラスの死神・ハーデス』

 

「蒼天から来た転入生でしたね。声が発せられないのですか?」

 

着物を身に包む女性の問いにハーデスは首を横に振った。

辺りを見渡すとハーデスは煙を出す。

 

『いや、この学校に知り合いがいるからな。俺の声を聞いたら直ぐに正体がばれる』

 

「あら、それがあなたの声ですのね?それで、この部屋に何か御用?」

 

『校内を歩き回っていたらここの部屋に目が留まった。興味本位で入っただけだ。

部活中か?』

 

「まだ始まっておりませんわ。始まるまでご一緒にお茶をしませんか?」

 

『ご配慮感謝する』

 

燕が扉を閉め、女性の前に腰を下ろす。徐に仮面に触れて外しフードも取り払う。

女性の視界に飛び込んできた真紅の長髪にスリット状の金色の瞳の男の素顔。

 

「・・・・・蒼天の王様?え・・・っ!?」

 

「やっぱり驚くよねぇ。えーと名前は?」

 

「も、申し遅れました。私、三年Aクラスの小暮葵と申します。以後お見知りおきを」

 

「上級生か、よろしく先輩」

 

握手を求め手を差し伸べるハーデスに葵も手を差し伸べて握手を交わす。

 

「失礼ですが、蒼天の王様なのですか?」

 

「ああ、そうだ。ふふ驚いただろ。変装してこの学園の『試験召喚システム』の調査目的で通うことにしたんだ」

 

「何故変装を・・・・・?」

 

「朝の全校集会、バカ騒ぎした生徒がいただろ。まだ小学生だった頃のあいつらと数年間過ごしたことがあってな。それも含めて色々と公で調査することができないのさ」

 

納得の面持ちで葵は横にいる燕を見て「彼女は?」と問うた。

 

「燕は俺のフォローの為に蒼天から連れてきた優秀な子供だ。年齢的には小暮と同じだぞ」

 

「学年は後輩だけどよろしくね?」

 

葵はハーデスに茶を振る舞い、ハーデスはその茶を作法通りに一口飲む。

 

「ん、美味だ」

 

「蒼天の王様の御口に合ってなによりですわ」

 

「初対面の俺に茶を振る舞ってくれてありがとうな」

 

「ふふっ、死神が来たと驚いてしまいましたわ」

 

「正体を隠すにはもってこいだと思ってな。お礼と言っては何なんだが、これを」

 

マントの中に手を隠したかと思えば、何かが詰まっている袋を葵の前に置いた。

 

「これは・・・・・?」

 

「蒼天が栽培している緑茶だ。口に合うか分からないが美味いぞ」

 

「頂いてよろしいのですか?」

 

「ささやかなお近づきの印だ。たまにここに来させてもらうからな」

 

朗らかに言うハーデスだが、葵は目を丸くする。燕がお茶菓子を全て胃の中に収めると

骸骨の仮面を再び顔に装着し、フードも被れば死神の格好となる。

 

「今度は菓子を持ってくる。ああ、言わずともわかっていると思うが親でも誰にも秘密にしてくれ」

 

マントを靡かせて茶道部からいなくなった。

そんなハーデス達を見送って目の前に置かれた袋を手にして封を開けた。

 

「・・・・・」

 

とても好い香りがする緑茶・・・・・。葵は緑茶の香りを嗅いでると、

 

「先輩、遅れてすいません。・・・・・それ、なんですか?」

 

茶道部の後輩が姿を現した。葵はその問いに小さく笑んだ。

 

「死神からのプレゼントですわ」

 

 

              ―――☆☆☆―――

 

 

「大和、大和。Aクラスに勝てると良いね」

 

「ん・・・・・できればそうだと思いたいな」

 

俺達は昨日、Aクラスに宣戦布告され、早くもAクラスと試召戦争をすることになってしまった。このことを先に帰ってったハーデスと松永も知らせると軽くびっくりしてた。

 

「え?どうして?」

 

「人は小さいミスを必ずする。だから、坂本自身もミスる可能性がある」

 

仮にあいつが敗北した場合、どうしてくれようか・・・・・。

 

「しっかし、なんで俺達に宣戦布告済んだ?」

 

「Aクラスが勝っても何のメリットも無いよね?」

 

ガクトの疑問は明久だけでなく多分Fクラス全体だと思う。こっちが仕掛ける筈が逆に仕掛けられるとは予想外もいいところだ。このクラスにいる俺が言うのもあれだが、最底辺のクラスに戦う意味がAクラスにあるのか?

 

「そうでもないよ」

 

「京?」

 

「戦争で負けたクラスは三ヶ月間、試召戦争を仕掛けるのは禁止される」

 

となると、Aクラスはこれ以上授業を潰されたくないが為に

宣戦布告をしたってことだろうな。京の発言にそう予想していると。

 

「おーい、大和達。Aクラスに行くからお前も来い」

 

教室で作戦会議を開いていた坂本に呼ばれ、俺は腰を上げて坂本達と一緒について行った。

 

             ―――☆☆☆―――

 

「一騎討ち?」

 

「ああ。Fクラスは試召戦争として、Aクラス代表に一騎討ちを申し込む」

 

恒例の宣戦布告。今回は代表である雄二を筆頭に、僕、姫路さん、

秀吉にムッツリーニ、大和、ハーデス、松永さんと首脳陣勢揃いでAクラスに来ていた。

ハーデス、キミはどうして背中に大鎌を背負っているのか聞かないよ。

 

「何が狙いなの?」

 

現在雄二と交渉のテーブルについているのは秀吉―――の双子の姉の木下優子さん。

秀吉を女の子にしたそのままの姿で、とても可愛い。

でも、この子を認めると秀吉にも気があるということに・・・・・!

 

「もちろん俺達Fクラスの勝利が狙いだ」

 

木下さんが訝しむのも無理はない。下位クラスに位置する僕らが、

一騎討ちでAクラス代表の霧島さんに挑むこと自体が不自然なのだから。

当然何か裏があると考えるだろう。

 

「面倒な試召戦争を手軽に終わらせることができるのはありがたいけどね、

だからと言ってわざわざリスク犯す必要もないわね」

 

「賢明だな」

 

予想通りの返事。ここからが交渉の本番だ。

 

カキカキカキカキ・・・・・。

 

交渉のテーブルの椅子、雄二の隣に腰を下ろして座っているハーデスが何かを描いている。

ハーデスの存在を見せびらかし、交渉を有利にさせるためなのだろうか?

 

「・・・・・ところで、あなたの隣にいる死神・・・・・何しているの?」

 

「そうだな・・・・・おい、ハーデス。さっきから何を熱心に書いているんだ?」

 

交渉の話しは一時中断。ハーデスが何を書いているのか

雄二も気になっていたようでハーデスに問うた。

 

『・・・・・』

 

ハーデスは数枚の紙を纏めて雄二に手渡した。その紙を受け取り、雄二は見た途端に噴いた。

 

「お、お前!何書いているんだよ!?」

 

『・・・・・〆切りが迫っているから』

 

「〆切りってお前・・・・・こんなものを書いていたのかよ」

 

・・・・・何か絵本でも書いていたのかな?雄二が持っている紙は木下さんにも渡った。

 

「・・・・・っ!?」

 

すると、木下さんの目が大きく見開き、顔が真っ赤になって身体も震わせた。

ハーデスは木下さんから紙を奪うように取り、再び書き始めた。

何を書いているんだろうか・・・・・。

 

「ハーデス、ここで書いているのが邪魔になっているみたいだから他のテーブルで書いた方が良いよ?」

 

『・・・・・わかった』

 

僕の言葉にコクリと頷いた。ハーデスは立ち上がって紙と鉛筆、

消しゴムを持って別の場所へ―――ってどうして木下さんは僕を睨むの!?

僕、なにも悪いことをしていないよね!?

 

「なんだ、ハーデスに気でもあるのか?」

 

「じょ、冗談じゃないわよ!誰があんな怪しい奴なんかと!」

 

「冗談だ。さて、一騎討ちをYESかNO・・・・・どっちだ?終戦直後で弱った弱小クラスに攻め込む卑怯者のAクラスさんよ」

 

雄二の挑発、尋ねに木下さんは目を細めた。

 

「・・・・・今、ここでやる?」

 

売り言葉買い言葉。木下さんが雄二にそう言ったその時だった。

 

「・・・・・待って」

 

「わっ!」

 

「・・・・・雄二の提案を受けてもいい」

 

突然現れた静かな、でも凛とした声。何時の間にか二人の女子生徒が近くに来ていた。

黒い長髪に黒い瞳、物静かな彼女は霧島翔子さん。Aクラス代表だ。

それとそんな霧島さんの後ろにいる霧島さんと同じ顔の女子生徒。一体誰だろう?

でも、2人共全く気配を感じさせないなんて。まるで武道の達人みたいだ。

 

「あれ?代表。いいの?」

 

「・・・・・その代わり、条件がある」

 

「条件?」

 

頷いて、霧島さんは何故かハーデスを一瞥し、雄二に向けて言い放った。

 

「・・・・・負けた方は何でも一つ言う事を聞く」

 

「うーん、そういうことならこうしましょう。勝負内容は五つの内

三つそっちに決めさせてあげる。二つはうちで決めさせてもらうわ」

 

全ては譲ってくれなかったけど、木下さんの妥協案が得られた。

 

「交渉成立だな」

 

「・・・・・勝負はいつ?」

 

「そうだな。ま、今すぐじゃなくてもいいよな?勝負の日時はFクラスの都合がいい時でも構わないか?優秀なAクラスはそのぐらいの度量があると見込んで提案させてもらう」

 

「・・・・・わかった」

 

独特の雰囲気を持つ人だな。話し方だけならムッツリーニに似ているし。

 

「よし。交渉は成立だ。お前等、教室に戻るぞ」

 

「そうだね、皆にも報告しなくちゃいけないからね」

 

「おい、ハーデス。交渉を終えたから帰るぞー」

 

ハーデスにも声を掛ける。最後まで何か書いていたけど、何だったのかあとで聞こう。

僕らの試召戦争の終結は、すぐそこまで迫っていた。

 

 

              ―――☆☆☆―――

 

 

「んで、どーすんのさ雄二。あんな約束をして」

 

昼休み、僕達は屋上で作戦会議をしながら茶菓子を飲食。

 

「俺達が勝つから関係ない。向こうが言いなりになる特典が付いたまでだ」

 

「しかし良いのか?あの霧島翔子というものは妙な噂があるのじゃが」

 

「妙な噂?」

 

「成績優秀、才色兼備。あれだけの美人なのに周りは男子がおらん話じゃ」

 

秀吉が知っている噂の話を聞いて俺は不思議に心の中で首を傾げた。

 

「へぇ、モテそうなのにね」

 

「何でも男子には興味が無いらしいのじゃ」

 

「まさか、女子に興味があると?」

 

「・・・・・っ!」

 

ムッツリーニがフィルムの交換をし出して、何かの撮影の準備をし出す。

 

「待つんだムッツリーニ。―――僕も手伝うよ」

 

「・・・・・明久ぁ・・・・・」

 

あれ、大和が頭を抱えているのは何故なんだろう?

 

「坂本。教科を三つ、こっちが選択できるわけだが何にするつもりだ?」

 

「まず一つは当然保健体育。これはムッツリーニに選んでもらう予定だ。

ムッツリーニの最強の武器にして唯一無二の強みだからな」

 

「・・・・・任せろ」

 

寡黙なる性識者(ムッツリーニ)の名は伊達ではないのだっ!

 

「それでもう一つは?」

 

「もう一つどころか二つは、蒼天から来たハーデスと松永に選んでもらう。日夜『試験召喚戦争』を繰り広げてるだろう本場からやって来てくれたんだからな」

 

『・・・・・日夜ではないが』

 

「任せてね。ちゃーんと勝ってみせるよ」

 

成績は不明だけど期待値は大きい。『試験召喚システム』を開発して蒼天にある学校でも運用している話だ。単純な操作だったら教師でも負けないかもしれない。

 

「それで、最後は?」

 

「最後は姫路に戦って勝ってもらおうかな」

 

「は、はい。任せてください」

 

握った両拳を胸の前に。気合が入っている証拠だね。

 

「坂本君坂本君」

 

「何だ松永?」

 

にっこりと可愛らしく笑う彼女はハーデスが見せつけるスケッチブックに指した。

 

『・・・・・お前も負けたら許さない。負けたら―――』

 

「負けたら?」

 

ぺらりと一ページ捲った紙の裏で書かれた文字を見た途端。

 

『・・・・・大量のプチプチと大量の腐ったザリガニを代表の家に郵送する』

 

「絶対に勝つから信じろ!だからそれだけは勘弁してくれっ!家庭が崩壊してしまう!」

 

あの雄二が土下座しそうな勢いで必死に叫んだ。君の家庭はどんな問題を抱えているというんだろうか。

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