「お、やっぱり。もういるんだ」
「ユキー」
ホームへと戻ってきた俺は、早速ホームへと出現した雪ん子に出迎えられていた。あの時はあまり見ることなくいなくなってしまったが、譲った衣服を身に包んでいる雪ん子は季節外れな帽子を外せば可愛らしい幼女となる。スキルは・・・・・マモリと同じお手伝いがあるな。他は雪ん子らしく氷を生成・・・・・氷を作れる!?
でも、氷が必要とする料理って限られるんだよな・・・・・。デザートなら冷やす過程で使うけど・・・・・・。
「ユキ!」
「ん? ああ、名前がないんだったな・・・・・ハクレン、お前はハクレンだ」
「ユキー!」
白くて可憐な、って安直な名前だが喜んでくれてる。
「ハクレン、早速だけど氷を作ってくれるか? どれぐらい作れる?」
試して欲しい、とお願いしたら外へ飛び出し大型水路に向かっていった。何するんだ? 俺の疑問など気付かないハクレンは、水路の水に向かって冷気を放った。流れてる大量の水が凍りついて行くが10メートルほどで止まった。
「ユキィ・・・・・」
やりきった・・・・・。掻いてない額の汗を拭う仕草するハクレンに素直な気持ちで拍手を送った俺の足元を横切る影。
「ペンペンペーン!!!」
氷の上を凄い勢いで滑り出すペルカのテンションが、海で泳ぐ時と同じぐらいハイテンションになっていた。ああ、お前が反応しない方がおかしいわ。でも、途中で氷ってない水へ落ちてしまったから物足りないだろうな。
「ペーン♪」
また氷の上に飛び乗って、クルクルとバレリーナのように回って舞うペルカ。トリプルアクセル、だと。お前、そんな才能があったとはっ!
「ハクレン。水を用意すれば凍らせてくれるか?」
「ユキ」
首肯するハクレンの頭を撫でる。これから必要な時は頼らせて貰うぞ。
「料理系のプレイヤー・・・・・ふーかか」
フレンドリストから探し、特定のプレイヤーにコールしたら直ぐに応じてくれた。
『白銀さん? 私に連絡してくれるなんて始めてですね。どうしました?』
「ちょっと質問なんだが、氷を使う料理とかデザートを作れたりするか?」
『氷、ですか? デザートならパティシエの領分ですけど、まだどの料理人のプレイヤーは氷を手にいれて・・・・・もしかして、白銀さんは持ってるんですか?』
「持ってると言うより、水を凍らせることが出来る妖怪がいる。俺よりも進んでる料理人の知り合いと言えば、ふーかしかいないから気になってな」
『そうなんですかぁ。ご期待に添えず申し訳ないですけど、今のところ氷を確保できたプレイヤーもいないのでそれは凄いですよっ』
これから増えるだろうけど、今は俺だけなのか。先んじて開発してみるか?
『ところで白銀さん。こちら質問ありますけど。料理に関する食材はありますかね?』
「俺の店舗兼ホームのところに来れば売ってるぞ」
『あいや、他にも何か見つけてないかと思いまして』
そっちか。うーん、あえて売らなかった物ならいくつか・・・・・。
「宝石の肉という、宝石のごとく輝く肉なら」
『何ですかそれ? とても気になりますので今からそちらに向かいますね!』
一方的に連絡を閉ざされ、本当にくるのかと呆然とした。来るなら来るで作って貰おうかと待つこと数分後。
「来ました!」
「本当に来たな」
いらっしゃい、と声をかける。日本家屋の玄関前に顔を見せるふーかとは、最初のイベント以来に見てないなそういえば。そんな感想を抱きつつ彼女を中へ招きいれて実物を見せる。
「おおお~!? お、大きい肉の塊! 凄く綺麗!」
「フェンリルの大好物でもあるからな」
「これ、肉料理に使わせてもらっていいですか!? レア度の高い肉料理を作るクエストをしていたところなんです!」
許可する。お手並み拝見とさせてもらうか。キッチンへ案内して完成するまで待つと、フェルが現れる。肉を焼く匂いに誘われてきたな? 一緒に座って待つ俺達のところにふーかが皿を持ってやってきては、目の前に肉料理を置いた。
「どうぞお客様! お召し上がりくださいませ!」
レア度10 品質★10
『香草とガーリックの宝石ステーキ』
効果:一時間の間、満腹度が100%持続する。 三十分の間【HP+100】【STR+35】【AGI+50】上昇。一定時間スキル【HP回復速度強化】付与。
「おお、いい匂い。凄いバフ効果、それにスキル付きだと? これ量産できればかなり儲けられるんじゃないか?」
「私も自信作です! 難関だったレア度10の肉料理が作れて助かりましたよ。モンスター相手だと手に入りませんし、どこで手に入るのかタラリアでも扱ってないアイテムなものでして」
メダルでの交換だから、普通に手に入らないのは当然だ。味の方は・・・・・おおぅ、店に出してもいい美味しさだわ。高級料理として人気がでるだろう。
「美味い。フェルも食ってみるか?」
「グルルッ」
ガブリ、と残りの肉を咥えて咀嚼するフェル。次の瞬間には目を大きく見開かせ遠吠えするフェルの身体が輝き、口に従魔の心・フェルを咥えていた。
「おっ? 幻獣からも貰えるのか。やっぱり調理した方が好感度が上がるか」
「す、凄いッ。白銀さん、私、称号を貰っちゃいましたよ! 『幻獣に認められし料理人』です!」
突然のカミングアウト。料理人として認めたんかお前! あ、俺以外誰にも側に立たせなかったフェルがふーかに身体を擦り寄せて・・・・・っ(血涙)! なんか悔しいっ、俺も料理頑張るっ!
「ふーか、今のお前なら他のフェンリルを手懐けることができそうだな」
「え、白銀さんじゃないのに料理人でしかない私が幻獣を?」
「うちのフェルの反応を見りゃ一目瞭然だ。フェンリルが暮らしてる場所に連れていくことが出来るから挑戦してみたらどうだ? 小さいフェンリルもいるぞ」
「小さいのもいるんですか? じゃあ・・・してみます」
ということで、もう一度ふーかが肉料理を作ってからネコバスで案内してやった。大きい方は撒き餌として宝石肉を食べさせている間、子供のフェンリルに作った料理を食べさせるふーかを協力した結果。
「わっ! ほ、本当にテイムできちゃいました!? か、可愛いっ!」
テイマーでもサモナーでもない料理人ふーかが、幻獣を手懐けた事実はこのあと案の定話題になった。
「白銀さん、ずうずうしいのは承知ですけど、宝石の肉を譲ってくれませんか? 高値で買い取りますよ」
「欲しいなら譲るよ。ただし、定期的に肉料理を作ってもらえるか? 俺達用の同じアイテムの肉を渡すから」
「分かりました。最高の肉料理を振るいます!」
交渉成立! 固い握手を交わした後の俺達は始まりの町に戻って解散。
「そういやぁ・・・獣魔ギルド通ってなかったな」
幻獣・魔獣、神獣を連れてどんな反応するか見て来るか。ちょっとした悪戯心でフェルとフレイヤ、鳳凰を引き連れて久しぶりに獣魔ギルドに顔を出した。
「バーバラさん、おひさ―――」
「ようこそお越しいただきました神獣使い様」
気軽に入った俺に恭しく騎士の礼儀作法と似た姿勢でNPCが出迎えてくれた。
「・・・・・なに、その姿勢と言葉遣い」
「神なるモンスターを従えし偉大なる方に敬意を払うのが当然なのです」
あのモンスター大好きっ子な振る舞いはどこへいった!? 調子が狂うぞ!!
「クエストを受けに来たんだが」
「既に神獣を従えし御方の相応なクエストはございません。全てのテイマー、サモナーの神の頂に立つに至ったあなたにとってもはや児戯に等しいクエストですので」
まさかの門前払い? かと思いきやバーバラが服の内に隠し持っていた封筒を取り出して差し出して来た。俺に受け取らせようとするこれは何か、バーバラは言う。
「この大陸には様々な国が存在しております。軍事国家の帝国、打倒魔王の御旗を掲げる神聖国、亜人を排他するヒューマン至上主義の貴族国家、亜人と獣人族の国などが。その中で唯一、モンスターと共存共栄をしている国がございます。お受け取りした手紙の差出人はその国の王からです」
封を開けて中身を読む・・・・・(確認中)。要略すれば自国に神獣使いの俺を招待したい、以上。ふぅん、他のテイマーやサモナー、モンスターをテイムしたプレイヤーも連れてきていいのか。期日は書かれてないから無制限か。
「その国の場所は?」
「同封されている手紙の裏に魔方陣がございます。それを介して行き来することが出来ます」
これはもしかしてクエストに繋がるキーワードか? 今度は国の規模だとすれば・・・・・。
「バーバラ、ここに来ても利用はできないか?」
「クエストを受ける事はできませんが、設備をご利用されることは可能です」
「わかった。それじゃまた直ぐにく―――」
「お待ちを」
話を折るバーバラ。まだ何か説明する事でもあるのかと思いきや。だらしない顔で手を伸ばしてくる。久しぶりに見た、欲望に忠実な瞬間のこいつを。
「神獣使い様のモンスを触らしてくださーい!」
「貫け!」
獣魔ギルドを後にしホームへと戻る。フェルの背中に騎乗して
風のごとく玄関の前に着いた途端にフェルが「ウウウッ・・・!」と唸り声を上げた。
「どうした?」
『資格ある者よ。用心するといい。強大な魔の力が感じる』
鳳凰までそう言い出す強大な魔?
『とても落ち着く力を感じるにゃ!』
フレイヤは鳳凰と真逆な発言をする。もしや、魔王ちゃんがお忍びで来てるのか?
「ただいまー」
「告。お帰りなさいませマスター。お客様が訪問されました」
「鳳凰達が感づいた。魔王ちゃんだろ?」
「付け加える詳細が一つ」
玄関で出迎えてくれたサイナに居間へ導かれて進み、引き合わせようとする人物が―――。
「コラ、ゼロ。主人を立てようとする精神はないのかね! さっきからキミばかり勝っているではないか!」
「マスターが雑魚弱なだけでは」
「魔王たる僕が負け続けるなどあってはならない。負けた分の数以上に勝てねば気分がすぐれぬ!」
「お父様、頑張って!」
何だか楽しくテーブルを挟んでラプラス達と麻雀していた。リヴェリアは・・・? あ、茶葉を受け取りに故郷に帰った?
「ゼロが勝ってるのか」
「彼女は二番目、です」
「お前もやっていたんかい」
大方こいつが一番勝っているんだろう。透視の能力でチートしてないよな?
「楽しそうだな」
「おお、帰ったかハーデス。お前に客が来ているぞ」
「うん、別の意味で負けている客だな。初めまして死神ハーデスだ」
「来たか」
男は身体の向きと視線をこっちに変える。見た目は人間のNPC。黒髪に血のように危険な色の赤眼でゴスロリの服―――。
「・・・・・なんでその服」
「・・・・・気にするな」
訊いたら殺すぞ、という眼力で睨まれても怖くないので・・・・・ラプラスが面白半分に語る言葉に耳を傾ける。
「そいつは奥方の趣味を押しつけられてる現在の魔w王wだ。奥方に尻を引かれてる面白い魔王で、愛妻家で有名なんだよ。頭にリボンを付けさせられないでいるのは、もはや魔王としての貫禄がない威厳を少しでも損なわせぬようだろう。ぷくく、ゴスロリを着てる時点で恐怖を覚えるよりもおかしな変人に認識してしまうわw」
「黙れ!」
中性的な顔立ちの男だからゴスロリは・・・・・。
「魔王・・・・・魔王か・・・・・見えないな」
「ぐぅっ・・・僕だって、こんな服を着たくないんだ。でも、長らく勇者から受けた傷で寝込んでいたあまりに、妻の溜まりに溜まった欲求が、僕の完全復活と同時に爆発して・・・・・!」
愛妻家なら碌な反抗もままならいか。他人事のように聞こえないから同情してしまう。
「それで、そんな恰好をしてまでここに来たのは? 俺に会いに来たらしいけど」
「ああ、その通りだ。茶菓子を用意して待っていると愛娘から一言聞かされたので、賞賛と提案をしに来た」
提案? 魔王から何言われるかわからないぞ。
「まずは称賛だ。勇者に礼をする日が来るなんて想像もしなかったから、何がいいが側近と決め合ったこれを送ろう」
『宇宙の星の欠片』 スキル【反転再誕】 『血液捕食者の指輪』
最初のはわかる。俺も二つ持ってるから。二つ目のスキルはなんだろ。三つ目も気になる。
【反転再誕】
消費HP500 次に使う特定のスキル一つを指定された異なるスキルに変更する。効果時間五分。
へぇ! これは面白いかも。『血液捕食者の指輪』は? 吸血鬼を連想させるアイテムだな。
『血液捕食者の指輪』
効果:直径10メートル以内のプレイヤー、モンスターからHPドレインで奪い対象のHPを最大まで回復する。
・・・・・ヤバすぎじゃありません? 魔王が所持するもんだろこれ。・・・いや待てだとしたら何で俺に? 魔王の顔を見ると、中性的な顔立ちが悪戯っ子の笑みを浮かべだした。嫌な予感がする・・・。
「血塗れた残虐の勇者にはピッタリな装備の名前と効果だろう?」
「やっぱりそれが狙いかよこんチクショウが!」
ふざけんな! って言って指輪を叩きつけたい衝動に駆られただろうが!
「賞賛は終わったな。次に提案だ」
今度はなんだ・・・訝しい気持ちを表情に出しても魔王は気にせずに提案を口にした。魔王ならば一度は言う王道のあの言葉を!
「勇者よ、魔王軍に入るつもりはないか? 征服した暁に世界の半分をくれてやろう!」
「統治がめんどくさいからいらないです」
「そこは『断る! お前の思いどおりにはなるか!』って断るところだよ! 他の勇者達はそう断っていたのに!」
知るか。それこそお前の思いどおりにはなるか! だよ。
「王道を俺に求めるなら、俺も期待通りの言葉を貰おうか」
「魔王の僕に勇者の思いどおりになると? 笑わせてくれる」
姿勢を正しく魔王に向かって床に頭をつけるぐらいの土下座をする。
「―――娘さんを俺にくださいお義父さん!」
「誰がお義父さんだ! 可愛い娘を嫁にくれてやるなんて百年早いわー!」
怒りのちゃぶ台返しまでしてくれるとはノリがいい魔王さんだ! ラプラスが静かに言う。
「ハーデスの思いどおりになったから、ハーデスの勝ちだな」
「よしっ」
「ぐっ、条件反射で思わず・・・・・!」
悔しがる魔王。次に投げ飛ばした机をもとに戻し、散らばした玩具(麻雀)を片付けてもらった。
「で、本当の提案とやらはなんだ」
「魔王軍に加わる誘いは本気なんだが。まぁ、断られる前提で尋ねただけだからね」
「その話をノッた勇者なんているのかよ」
「いるぞ。そして軍に入ったら入ったで冥界の環境に堪えきれず死ぬか、降った振りをしてはた迷惑なことに罪のない者達を虐殺して僕達に殺されたか、軍の者達に暗殺されたとかで死ぬがな」
ブラック会社・・・・・いや、魔王軍だから黒も白も関係ないか。
「だが、例外が一つ。勇者であるにも関わらず、どんな理由であれ守る側の人間を大量に殺した勇者もいる。その者は恐怖の大王として冥界に逃亡せざるを得なく、他の悪魔族達から歓迎された後に幹部と結ばれ、紆余曲折を経てあり得ないことに魔王となった者がな」
・・・・・なるほど。つまり・・・・・?
「お前がその例外ってことか。先輩?」
「聡い勇者は嫌いじゃないよ。その鎧を身に付けてる意味も含めてこう言わせてもらおう。初めまして僕の後輩」
大盾使いの勇者、そしてこの鎧の元所有者がいまでは魔王だったとは・・・な。
「・・・・・待てよ? もしかして他の歴代の魔王も、なのか?」
「ふふ、そこも気付くなんて流石だね。だけど、僕も驚かされてる側でもあるんだよ」
そう言ってラプラスの方へ見る魔王だが・・・・・。
「彼女も魔王なんだよ。僕にお前が魔王になれって言っては、魔王の座から降りて忽然と姿を眩ました、魔神の領域に至った歴代最強の元魔王」
衝撃的な事実を明かされ、少なからず空いた空白の時間の後・・・・・。ラプラスの腕や足にプロレス技でキメに掛かった。
「おいこら、骨。どういうことか説明しろや」
「ま、待つんだキミ! 追求しながら技をかけるんじゃない! 骨から発してはならないミシミシと聞こえる、聞こえてるから!」
凄く大事な秘密を隠していた居候をシメ上げることから事情聴取をすることになった。
「お前が元魔王? 嘘だろ!」
「いや、事実だよ。そして私自身も元勇者だった。先代の魔王もやはり勇者であって、人間を大勢殺してしまった故に魔王となったそうだ」
・・・・・色々と気になることが増えてきたぞ?
「どの時代の勇者は必ず魔王になるのか?」
「そうらしい。歴代の魔王は全員が人間であり元勇者だ。この事実は必然的に何者かに仕組まれた運命としか思えない」
「仕組まれた?」
「ああ、おそらく神々だろう。でなければ勇者から魔王が輩出されるはずがない。魔王は恐怖と絶望の象徴。勇者は希望と勇気の象徴。それが絶対だ」
ラプラスは己の考えを口にする。勇者が人間を殺してしまう原因は・・・・・。
「魔王軍が人間を操って勇者と戦わせるから魔王になってしまうんじゃ?」
「それもあるね。でも、僕の場合は妻とお互い一目惚れしてしまって、勇者として許されないと教会から異端扱い、味方だった仲間や他の人達、世界が敵に回った。そんな僕を冥界へ妻が連れて助けてくれた」
・・・・・趣味がアレだけどな。微妙な気持ちの俺の心を読んだのか、魔王も神妙な面持ちで言った。
「・・・・・彼女は、初めて出会った時から可愛いものに目がなかったんだ」
「時間とは恐ろしいものだな。今ではすっかり抵抗せずに受け入れてしまった女装趣味になった元勇者が、魔王として再会した私の身になってもらいたいものだ。―――爆笑しすぎて死ぬかったというのに」
「うるさい! そう言うお前だって貧相だった身体が骨になって、ますます貧相さが拍車に掛かったじゃないか! 本当の意味ですっかり無乳になった気分はどうだ! 婚期も逃した色気ゼロ魔神め!」
次の瞬間。本能に従う俺は魔王ちゃんを抱えて、サイナとゼロと緊急離脱した次の瞬間。一部の部屋から爆炎と爆音が轟いた。
「あんなお父様、初めてみた・・・・・」
「歴代の魔王って愉快な連中ばかりなのか? というか魔王ちゃんよ。冥界にいる時のあの魔王は何時もあんな格好?」
「・・・・・周りが受け入れてしまうほどには」
その言葉で十分伝わりました。そしてあの二人、後でシバく。
「それと勇者よ。もう私は魔王ではない。これからは・・・・アカーシャと呼ぶがいい」
「それがお前の名前か。なら、俺のことも親しみを込めてハーデスと呼べよな」
「て、敵対している者と親しみを込めて呼べるか!」
だって、歴代の勇者と魔王を鑑みて俺とお前とも結ばれる可能性があるんだぞ。
運営side
「とうとう真のラスボスと出くわしたな」
「世界の真実の片鱗も知ったプレイヤーも彼だけですね。主任、もし死神ハーデスが冥界入りしたら今後のNWOはどう運営する予定ですか? 一人のプレイヤーがロストしただけの状況ではありませんよ。全プレイヤーVS魔王プレイヤーです」
「それはない。NPCを1000人も死亡させたらそうなるという告知をしただけだから、今後のイベントでNPCと戦うようなことは一切しない。・・・・・多分」
「不安なこと言わないでくださいよ! 万が一そうなったらNWOがどうなってしまうのか俺達ですらわからんですよ!? 死神ハーデスのマスクデータじゃ魔王と接触しただけで、いま神聖教和国が疑心暗鬼を目を向けてて、今後も魔王と交流したら待ったなしで指名手配、最悪全プレイヤーから討伐対象されかねないですよ!」
「死神ハーデス=白銀さんのファンは少なくともいますし彼の従魔はその何十倍います。魔王になったらステータスと装備以外すべて放棄しなくてはならないので、従魔達との絆も破棄になるようなことがあれば・・・・・」
「・・・・・か、考えたくないっ。連日連夜、白銀さんに関するクレームのメールが何万通も殺到する未来なんて想像したくもないっ。その対処するばかりじゃ運営どころじゃなくなるっ」
「主任、絶対にそんなことにならないようにしましょうよ!」
「今のところ死神ハーデスは第3エリアから先に進んでいないので、色々な問題なく・・・いや、進んでいなさすぎる。そろそろ先に進んでほしい」
「それなのに獣魔国からの招待状を受け取ってるんだよな。第10エリアの隠し国家のな」
「モンスターをテイムすらしてないプレイヤーは絶対に入れない国だ。あの国を解放するためには大勢のテイマーと人間至上主義の貴族国家と帝国から・・・・・―――ぁ」
「・・・・・主任、その『あ』って顔はなんですか? まさか、まさかですよね?」
「嘘だと言ってくれ頼む!」
「・・・・・どうしよう、戦争に勝つためにNPCを大量に倒さないといけないんだった。勇者/神獣使いのプレイヤーがいる想定なんてしてなかったから・・・・・」
「「「「「うわぁああああああああああああああああっ!!?」」」」」
「た、大変だ! 死神ハーデスが獣魔国に移動してしまうぞ!?」
「すまない。ホームをボロボロにしてしまった。これは僕からの詫びの印として譲るよ」
「おい待てやコラ。詫びるつもりはないだろ。なんだこの血の色のマントと禍々しい巨大な大鎌は。他者に恐怖の50%の効果が付いているじゃないか! 俺に恐怖の大魔王に成れってか!?」
「それは装備の効果だ。君自身がそうなるにはまた君自身の手で残虐的に人間を倒さないと駄目だから安心してくれ」
安心できるかぁー!
「私はこれで赦してくれるか?」
「薬・・・?」
「最高傑作の一つだ。大量に提供してくれたオリハルコンを素材にした新アイテム―――装備を素材として融合することができるアイテムだ。ユニークの装備でも融合できて、新しい姿とスキルが得られるだろう」
「ほうほう・・・・・? 元の素材となる装備のスキルは消えるのか?」
「いや消えない筈だ。ステータスはランダムで変化するかもしれない。試しに何かの装備と融合させてみるかね? まだ大量に生産したから数はあるぞ」
そう言われては試さずにはいられないものだ。『天地開闢・人災』と『黒薔薇ノ鎧』の鎧の二つをインベントリから出し、融合素材の秘薬を掛けた時だった。二つの鎧がそれぞれ光り輝きだし、引き寄せられ一つになった。
『黒陽ノ鎧Ⅹ:覇獣:滲み出る混沌』
【紫外線】
【踏ん張り】
【破壊成長】
【VIT+100】
鎧が黒一色ではなく赫灼なマグマの色となり、鎧の中心に咲いてた薔薇のレリーフも黒い太陽に変わってた。余りのスキルスロットの空欄も変化なしだ。【踏ん張り】というスキルと【VIT】が増加したぞやった!
「おおっ、格好いいな!」
「勇者時代に使っていた鎧が、新たな姿に変わったか・・・・・」
「時代の変化と同じ、物も変化していくものだ」
意味深な事を言う魔王たちの言葉を聞き流し、どんどん装備を融合していった。『闇夜ノ写』と『アグニ=ラーヴァテイン』の場合は。
『暁の境界Ⅹ』
【マグマオーシャン】【溶結】【溶熱】【ブラックホール】
【破壊成長】
【HP+200】
【VIT+60】
黒を基調として所々に鮮やかな赤の装飾が施された大盾が、複数枚の刃を備わっていた盾斧のアグニ=ラーヴァテインの姿に変化して盾の中心に燃え盛る炎を閉じ込めた結晶が飾られている。【ブラックホール】なんてえげつない名前のスキルがあるが、効果は如何ほどだ?
『日食Ⅹ:毒竜』
【溶断】【溶結】【トリアイナ】【灼熱地獄の誘い】
【破壊成長】
【HP+200】
【MP+200】
【VIT+45】
マグマを切り取ったような大剣のアルゴ・ウェスタと原初の赫灼の姿はどこへいったのか。美しく赤々と輝くマグマを閉じ込めたガーネットが埋められた、落ち着きのある漆黒の短刀、素材に使った『新月』の姿になり変わり、抜けば刀身がマグマの刃を隠していたのだった。しかも新スキルは大剣や刀、槍に変化するモノだ。相手の意表をつくことが出来るじゃないか? なるほどこの武器のデザインとスキル・・・日食とは、体で名を表しているとは面白い。
『天地開闢・地災』と『天地開闢・天災』は融合しようと思った。が、『黒陽ノ鎧』で足まで鎧になってるから足の装備になってしまうと装備出来ないなので―――その二つと闇霊の街で買った骸骨の仮面と融合を試みた。
『天外突破』
【融解】【終焉】【暗視】【妖眼】
【破壊不可】
【VIT+70】
赤熱した長い髪と二本の角が生えたフルフェイスの装備。三対六の横に並んだ眼窩の奥から妖しい光が孕んでいる。いいね、カッコイイじゃん。さて続いて―――【生命の指輪・Ⅷ】と【三天破】の指輪の番だが。
「あれ、『三天破』と融合が出来ない?」
「ユニーク以上のランクが高いのか? そんな物は見聞したことが無い」
「レジェンダリーの指輪だからか?」
「伝説級か! それならオリハルコンの素材で作った秘薬では融合など敵うはずもないか」
「等級の問題だね。オリハルコンは等級で言うとユニークだ。伝説的に話が語り継がれてるが実はそうでもないんだよ。古代ではオリハルコンなんてその辺に転がっている石ころのように世界中に存在していたけれど、オリハルコンや他の鉱石を食らうモンスターの餌として減少してしまったんだ」
オリハルコンが石ころのようにあった・・・・・? ユーミル達がこれ知ったら信じてくれなさそうだな。
「じゃあ、そのオリハルコンを食ったモンスターって討伐されたのか?」
「いや、生きている。キミ達で言う第10エリアのどこかにね。アレをどうにかできるのは同じオリハルコンで作った装備しかない。しかしいくらオリハルコンの装備でも切れ味が下がるから長期戦は避けておくがいい」
開いた空間から潜ってきたハーヴァが迎えに来たので帰ることになった。アカーシャも冥界へ戻りに魔王の傍へ。
「ちょっとの間だけど、僕の後輩と先代の魔王と話せて楽しかった。また遊びにくるよ」
「今度は嫁さんを連れてこいよ」
「その時はキミにピッタリな服を見繕ってもらうから覚悟するんだね。血濡れた残虐の勇者」
「うるさい、この女装趣味の女顔魔王。絶対顔で求婚されたことがあるだろ」
「100人は下らなかったな。笑えるぞ、9割が男からだぞ? こいつが男だと知った上で求婚してくるんだ」
「そこの骨魔神は誰にも振り向いてすらもらえなかったよ。―――アカーシャ」
魔王ちゃんもといアカーシャに話しかける魔王は次にこう言った。
「しばらく人間界で彼と暮らすんだ。次期魔王になるかもしれない男と寄り添って幸せに生きろ」
「お父様!? 何故そんなこと言うのですか! 相手は勇者で私達の敵ですよ!」
「元を例えれば僕も元勇者で冥界からすれば敵も当然の人間だったよ。ハーヴァとも何度も死闘を繰り広げたかつての敵だった。僕が魔族に転生したことで妻との間に産まれたキミも幸であって欲しい僕の親心だ」
それに、と―――とんでもない提案を娘に言う魔王は俺を見つめて来る。
「僕の後輩はきっと僕と同じ道を辿ると思えないからね。人間と悪魔族の共存の懸け橋となってくれるなら、僕的には愉快で楽しそうだから応援するよ。ただし、同じ世界を生きる者同士、悪魔族だからと一方的に迫害をする人間は容赦しないからね」
「襲ってこない限りは何もする気ないぞ。どこで暗躍しようと俺がいるところじゃなければなおさらだ」
魔王は不意に意味深な笑みを浮かべだした。
「なら、そんなキミに情報を一つ。獣魔国は知っているかな? そこは帝国と貴族国家に挟まれた国でね。僕の部下が帝国に潜り込んで水面下で長く暗躍した結果、王の直属の側近にまで上り詰めてね。色んな情報が得られるんだ。それが例え、貴族国家が傍らにモンスターや唯一悪魔族と共存できている国の存在を滅亡させようとしていることさえもね」
「そこで帝国の名前があるのは?」
「領土の奪い合いになり兼ねないからだよ。獣魔国は絶対の中立の姿勢を保っていた国なのに、もしも貴族国家の領土としてなってしまえば、帝国の喉笛に剣が突き刺さらん勢いに領土と戦力差が広がってしまう。帝国側はそれを良しとせず、逆に獣魔国を手中に収めるため巻き込んで貴族国家に牽制する目的で動く腹だ」
もしかして手紙を寄こしたのってそういうクエストを受けさせるつもりだったのか? 獣魔国の王とやらは。
「血塗れた残虐の勇者の名が更に高まる戦場となるだろう。獣魔国を助けたいなら、二国を相手にしなくちゃならないけれど、キミなら余裕だろうね。応援しているよ僕の後輩―――」