水の流れる音を聞きながら、二人は神殿内部を進んでいく。戦闘は俺がルフレ諸共守りを固め、イッチョウとペルカが接近戦を行う布陣だ。ユニークシリーズによってステータスは上昇しているものの、手に入れたスキルの都合上、モンスター相手となると与えるダメージに大きな変化はない。
「すごいな、本当にいろんな武器を上手く使えるし」
「こればっかりは積み重ねかな……でも戦い方は人それぞれだと思うよ。得意なやり方があればそれでいいんじゃない?」
イッチョウは自分の得意分野が何か理解していることもあり、今のような戦闘スタイルになっただろうが、俺もそうであるとは言えないのだ。
幸いにもこのゲームはプレイヤーの技量でも、スキルの強さでも戦うことができる。それなら皆はそれぞれで戦うだけだ。
「ハーデス君は私より強力なスキルがあるし、一対多も得意だしね。持ち味を生かすってこと」
「それもそうだな」
「ハーデス君にしかできないことは多いよ。分かってると思うけど」
「ふふふ、自慢の防御力だからな!」
「うん。これからも磨いていってね」
俺の戦闘を支えているのはどこまでいっても防御力なのだ。攻防どちらも、たまにする爆破の反動を利用する都合上移動でさえその影響を受ける。普通のステータスを持つ者では真似できない戦闘スタイルであるのは間違いない。
「もしかしてだけど、他にも新しいスキルがあったり?」
「配信動画で見せたもの以外なら、あるかもな」
話しながら、ダンジョンを進んでいく。イッチョウが俺の隣にいれば突然の死は避けられるためダンジョン内でも気を張らなくていい。
そうして二人が現れるゴーレムを斬り捨てて進むうち、太い水流が横切って邪魔をして通路が塞がれている場所へとやってくる。水流にはかなりの厚みがあり、足を踏み入れて流されてしまうとはるか下まで真っ逆さまである。
「落ちてみない?」
「いきなりそんな発想を提案されるとは思わなかったよ。取り敢えずそれは無しで。向こうに通路の続きが見えるし、こういう時は不思議と怪しいギミックがあるかもしれないから探そうよ」
近くに何かないものかと見渡す俺は、壁に三つの出っ張りがあることに気が付いて、それに軽く触れてみる。
「押せそうだぞ」
「おー、言ってみるものだね。で・・・・・どれにする?」
どの突起も触れると押し込める感覚が伝わってくる。とはいえ、これ全てを押せばいいかと言われればそれはまた違ってくるだろう。
「どこかにヒントとかあったっけ? モンスターしかなかったぞ」
「今の所それらしいのはないかな・・・・・? これだけ広いし、通路のうちの一つを選んで歩いてきてるから、探したら別の通路の先にあるかもしれないね」
「確かにありそう」
「見に行ってみる?」
「そうしよう」
「おっけー、じゃあちょっと引き返そうか」
「端まで見て回ったら宝箱とかあるかも」
「そうだね。私もそれは調べてないし・・・・・あったら嬉しいね」
地道な探索も時には必要なことだと、俺達は来た道を引き返す。
先にあるのがアイテムなら進行の都合上は行かなくてもいいのだが、探索漏れがあるというのは気になるものだ。
「思えばハーデス君って屋内でするゲームとかしたことあったっけ?」
「実を言うと、何度かゲーム大会に参加して優勝したことがございます」
「いつの間に!?」
「住んでる国が国だから色んな実績が得る必要があるからな。因みにイッチョウが一緒にいた白いリボンで髪を結んだ少女とは顔見知りでもある」
何時かこのゲームでも会えそうな? そんな予感はしてたから本当に出会えたときは懐かしさが覚えたぜ。
「驚きの真実! でも、あの子はハーデス君に対して反応が薄かったのは?」
「顔隠し、ノーフェイスって名前で参加して変装もしてたから気付くはずもない。なお、変装時は死神ハーデスの格好です」
「ああ・・・・・気付かないねそれじゃ」
適当に話しながらルフレとペルカにも、探してもらいつつ歩いていると俺とイッチョウの前に壁画らしきものが見えてくる。それに近づいていくと、先ほどの水流と思われる絵と道中に見たゴーレム達が描かれていることが分かる。
「これかな?」
「多分。ほら、ボタンっぽいところが赤色で強調されてる」
壁画は描かれている場面が分けられており、適切な順番で突起を押した後に水が止まっている場面で締めくくられている。
「じゃあこの順番で押せばいいのかな?」
「恐らく。それでいってみよう。ただ、押した突起がもとに戻らないことを祈っとけ」
「その心は」
「押し続けないと水流が止まらない可能性があるからだ」
「・・・・・一時的なものだったら、すぐに戻らないと行けないね」
新たな情報を手に入れた二人はもう一度元の場所まで戻ってくると、見た通りに突起を押し込んでいく。すると、大きな音がして目の前を流れる水が止まり、奥へと進めるようになる。あるのは今まで水が噴き出していた大きな壁の穴だけである。
「おおーちゃんと止まったか」
「うん、当たりだったみたいだね」
「この穴の向こうも何かあるのなら気になる」
「うーん・・・・・入れる?」
イッチョウが尋ねると、俺は穴の方に足を踏み入れる。
「入れそうだ」
「なるほど? じゃあ、行ってみるのもありだね」
「そうだが、まずは様子見しないか?」
確かに、とイッチョウは俺の提案に乗って穴の中に入らず、座って待った。そうしてしばらく経ったところで、地響きのような音が聞こえてくる。
そしてその直後、凄まじい勢いの水が全てを吹き飛ばさんと穴から飛び出して水路はもとに戻った。
「・・・・・あの穴の中で鉄砲水に巻き込まれた想像しちゃたったよん」
「やっぱり落ちないか? 滝壺があるなら他の場所に行けるだろ」
「今の見て落ちてみたいハーデス君の精神がわからないよ! って、ひゃっ!?」
装備をインベントリに仕舞ってから、イッチョウをお姫様抱っこして水流に近づく。
「ルフレ、ペルカ。飛び込むぞ。いいな?」
「ペペン!」
「フム!」
ビシッと敬礼する一人と一匹に信じられないと反応をするイッチョウが一人。
「ちょっ! 何でこの子達も落ちる気まんまんなのかな! ハーデス君に似ちゃってるの!?」
「お前、それ言ったら産まれた俺の子供も俺に似るってことだぞ」
目を見開かせて俺を見上げるイッチョウと一緒に水流に落ちては、流れに逆らわず皆で滝壺へと流され落ちていくのだった。
激しい音を立てる滝壺の中で俺達は揃って無事だった。
「はっはー! いやー、リアルじゃ簡単にできないことができるゲームはやっぱり楽しいな!」
「死ねなくても絶対にしたくないよ! ハーデス君と冒険したら命がいくつあっても足りないって今悟った!」
「こうして無事だからいいじゃんか。できないことをして楽しむのが人生さ」
元に戻るのも今回はショートカットしてしまってもいいだろう。一度順当にそこまで攻略しているのだから、この先の楽しみを失うことではない。
さて再出発だとしたところで、ルフレが俺に触れながら水底へ指を差した。何か見つけたのだろうか、と視線を変えて見下ろすと何かが光っている。イッチョウにも教え俺達は更に下へ潜水するのだった。
滝壺は縦に深くなっており、水面から見ていた時には気づけないものの、水の中へ潜ってみると確かに何かが光っていることが分かる。
「まっすぐ沈むぞ」
「うん」
俺が変わらず【身捧ぐ慈愛】を発動させており、安全確保は問題ない。滝壺の底へと泳いでいく。特にモンスターがいるでもなく、無事に深くまで潜った二人が見つけたのは四方向に続く巨大な穴と、二人の身長と同じくらいのサイズの淡く光る真珠色の大きな鱗だった。
「光ってたのこれか?」
「位置的に多分そう。それっぽいことはきいてないし、ここはまだ見つかってなかったかも」
「ふふん。やっぱり落ちて正解だったな」
水中神殿の中盤の滝の底。穴の中に入って鉄砲水に跳ね飛ばされてなお生きているというのは基本ないパターンじゃないだろうか。安全にここに辿り着くにはギミックを解除して目の前に通路が開けたタイミングでわざわざ滝壺に飛び込むことだったのかも。ここに来ることができているプレイヤーが多いわけでもないため、まだ見つかっていない場所がある可能性は否定できない。
「こっちは普通のルートじゃないんだな?」
「そのはず。水中神殿だけどダンジョンなのはもう間違いないしね」
「奥見にいこう」
「うん、この先どうなってるか分からないし」
周りを取り囲む大きな穴にこれといって違いはないため、とりあえず一つを選んで先へ進んでいく。
「さっきの鱗大きかったね」
「この先に相当大きい何かがいるかもな。裏ボスか・・・・・うろついててもおかしくない」
入り口に鱗が落ちていたのだから、巨大魚のようなモンスターがいても不思議ではない。
「ペルカ、先行して警戒してくれ。ルフレは後方で頼む」
「私も慎重に、周りは警戒しておくから」
イッチョウが僅かに先行して何かが泳いでいたりしないかを確認し、俺は【身捧ぐ慈愛】だけ展開して、自分にできる限りの警戒をする。そうしてしばらく進んでいくとまさに水中神殿といったようなものがあったのか、既に砕かれて瓦礫となってしまった建物の残骸が転がっているのが目に入る。
「こっちが本当の水中神殿なのかも」
「ちゃんと水の中だもんね」
「って言っても壊された後みたいだけど」
建物は水の浸食などにより自然に風化し壊れていったというよりは、大きな何かが無理矢理通路を通ったことで抉るように破壊されたという方が正しい壊れ方をしていた。
「周りの壁も硬そうだし、すごい力なのかな?」
「明らかに人力ではないことは明らかだ」
未だ姿が見えない何者かは、入り組んだ水中神殿の中をめちゃくちゃに泳ぎ回っていたようで、残骸が転がる見た目の変わらない通路が右へ左へひたすら続いている。
「ふむ、どっちに行くのが正解なんだろう」
「かなり広いし目印になるものがあると思うんだけど・・・・・予想通り!」
少し先行していた俺は泳ぐのを止めてイッチョウを呼ぶ。そうして指差した先には入り口にあったものと同じ淡く光る白い鱗があった。
「おおーじゃあ合ってそうだね」
「ここは通ってるってことだ。どんどん探そう」
「うん。モンスターも出てこないみたいだし」
イッチョウの言うように、先程までのようなゴーレムはもちろんのこと、魚系のモンスターも全く見かけない。光る鱗が分かりやすいようにか、薄暗くなった水中に瓦礫だけが転がっており、動くものが何もいない様は少し不気味ですらある。
「探索に集中できるならそれに越したことはないけど・・・・・特にこれといって何もないからなあ」
特殊なものは鱗だけである。それも二人の背丈ほどあってこの薄暗い中光っているとなれば見逃すはずもない。
「イッチョウ底の方に何かあった?」
「全然ないよ。素通りしていい感じだね」
「とりあえず進むしかないか・・・・・何かあったら分かりやすく通路の雰囲気とか変わるだろうし。【海王】のスキルがなかったら酸素を気にしなくちゃならない広さだしさ」
「だね」
この後に水上に出られる場所が用意されているかは分からない。そして、道中に妨害要素がないのであれば、最奥に待ち受けるものがその分強力になっていても不思議ではない。
「細かいところは私がチェックするよ。結構進んだし違和感とか気づけると思う」
「任せた」
ここへ入ってきた時のように思わぬ場所に隠し入り口があるかもしれない。
俺達はそういったものに注意しながら、最奥にいるだろう何かの元へ向かっていく。