勝手にやられていたことに遺憾だが、こっちはこっちで収穫あった。タコから降りて身体の隙間を掻い潜っては、古代遺跡の門の前に移動すると不意に松明が灯り出し、門を開くための
『この絶望の厄災に太陽の祝福を』
いや短すぎるわ!! 意味が分からないし!!
しかも・・・・・ミルクパズルのような黄色一食のピースをはめて完成しなくちゃいけないギミックらしい。これ、何千個もあるんだ?
太陽・・・炎と熱? ・・・・・さっき俺が放ったスキルはどれも炎が付加されたもんだからダメージが通ったのか?
「だったら・・・・・。ミィ、質問だ」
『どうした』
「炎属性の攻撃でダメージが通ってるか確認できるか?」
『難しいな。四方八方から他のプレイヤー達が攻撃していてダメージを与えているから、どの攻撃が有効的なのか把握できない。それに召喚されたアンデットとも戦って確認どころではない。それがどうかしたのか』
「タコに関するギミックを見つけた。太陽の力で倒すことが出来るらしい」
『太陽・・・炎と熱のことか。ハーデスの疑問も納得だ。先ほどのスキルもお前が放ったものだとすれば、このボスモンスターは炎攻撃が有効ではないかと思っているのだな』
そういうことだ。と肯定しながらパズルのピースを組み立てていく。
『それで、ギミックとはどんな感じなのだ』
「黄色一色のパズルピース。これをはめて完成させなくちゃいけないらしい」
『・・・私では手伝いそうにないな』
「そうだな。ミィは歴史の点数がいつも赤点ギリギリだったしな」
『そ、そんなこと覚えないでくださいよ! あ、いやミザリー何でもないよ・・・っ!?』
あ、演技がバレたっぽいなすまんミィ。
「さてこっちはこっちで難解だな。一時間以内に終わらせないと」
パチパチと形が一致するパズルをはめていくが時間が掛かり過ぎる。記憶力がいいプレイヤーが数人欲しい所だな。
「やぁ、僕も手伝ってあげるよ」
「うん、どちらさんだ?」
癖毛のある赤髪と赤目。中性的な外見をしており、どこか掴みどころのない雰囲気を持つ少年が話しかけて来た。どうやってここに?
「僕はカナデ。【蒼龍の聖剣】のメンバーだよ」
「カナデ・・・・・ああ、名前だけはギルドメンバーのネームにあったな。俺が直接声を掛けたことが無いから、イッチョウか」
「そうだよ。僕はメダル争奪戦のイベントの時にメイプル達と友達になってね。メイプルが誘ってくれたんだよ」
それじゃ俺が顔を知らなくても当然だわな。後でイッチョウから俺の知らない他の誰かを誘ったのか訊きださないと。
「因みに聞くが、どうしてここに来られた?」
「今でも動画の配信をしてるよね。他のプレイヤーの人たちの声が『白銀さんがパズルを遊び始めてるぞ』って聞こえたから、ボクの得意分野なら手助けできるって思って、なんとか来たんだよ」
得意分野と断言するか。
「記憶力に自信は?」
「もちろんあるよ」
「んじゃあ頼む」
「りょーかい」
それから二人でパズルをはめていくようになってから作業のスピードが倍になった。始めに凹凸がないピースからはめて枠を完成させてたから、次のピースを見つけてはめていくだけの作業はカナデと一緒にやるとパズルはどんどんと埋まっていく。カナデが集中疲れで休憩を挟んでいる間にも俺は続けていたので、パズルは30分以内に完成で来た。
「よし、出来た! お疲れカナデ!」
「お疲れ様。凄い集中力だね。疲れない?」
「仕事で鍛えてるからな」
「そうなんだね。あ、門が開きだすよ」
パズルが太陽のように輝きだす現象に呼応したか、古代遺跡自体も閃光を迸り始めた。ただの光じゃない。熱も発していて、巨大な門も重低音を響かせながら開きだした。同時に蛸竜のボスモンスターが。
ギュオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!
咆哮した。攻撃パターンが変わる兆候か。ここからじゃ状況の把握は出来ない。何が起きている?
「イッチョウ、状況報告」
『黒竜がモンスターとプレイヤーの皆を捕食してHPを回復してるっぽい! デカい竜も掃除機のように吸い込んで味方がどんどん減っちゃってるよん!』
「こっちはギミックを解除したばかりなんだが、変化はないのか?」
『なんか黒竜を貫く光の柱で赤い砂嵐を消しただけ!』
カナデと疑問符を浮かべる。開ききった門へ振り返り、中に入ってみると巨大な鏡が鎮座していた。
「鏡・・・・・?」
「これで太陽光を反射して当てろって?」
それも虫眼鏡だ。・・・・・ふざけてるのか運営?
「取り敢えず試さない?」
「黒竜に対する有効打になることを信じるか。乗れカナデ」
巨大な虫眼鏡を手に取り、背中に負ぶさるカナデと一緒に黒竜から離れて空へ飛ぶ。太陽に向かっていい感じの高さまで昇ると空中停止し巨大な黒い塊のボスに向かってカナデに虫眼鏡で太陽光と照準を合わせる。
「もっと右右、あ、ちょっと上かな。うーん、左下。十メートルぐらい一周してくれる?」
ただ、合わせるのが大変だった。でも、ぴったりはまると変化が起きた。光り輝きカナデの手から離れる虫眼鏡が太陽の光・・・紫外線を一点に集束した後、全てを焼き溶かさんと勢いの熱戦が蛸竜に向かって発射され直撃した。
ギュガアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!?
太陽の光に焼かれ八本の竜が焼失した。本体のHPも一気に減って生き残った僅かなプレイヤー達は最後の接戦と攻撃を始め、役目を果たした虫眼鏡は割れて消滅した。
「いやー、手強かったボスだな」
「そうだね。虫眼鏡がなかったら勝てなかったんじゃないかな」
「それでも勝てたかもな。ただし、全滅必須だ」
HPが一割になり、本体だけとなったボスが最後の足掻きだと全身を赤く染め巨大な口から極太のビームを一点に集束したかと思えば、こっちに向かって跳躍してきた。
「って、最後はこっちかよ!?」
「あはは、結構なヘイトを僕達が稼いだっぽいね」
「にゃろう! 下の連中に倒されろよ! 【身捧ぐ慈愛】! 【イージス】!」
放たれるビームに数秒間だけ攻撃を無効化する光のバリアを展開し、ビームの一撃を乗り越えると今度は捕食行動を取った蛸竜に。
「【クイックチェンジ】【血纏い】」
大盾と短刀から『ハーデスの大鎌』に変更してHPを一割だけ残して【STR】に注ぐ。
「もう一度【クイックチェンジ】【反骨精神】」
全ての【VIT】の数値が【STR】に変換された状態で装備を戻した短刀を大剣に。迫る蛸竜から横へ躱し他直後。
「【連結】【エクスプロージョン】―――【溶断】!」
蛸竜の身体に突き刺した途端に爆発が起きて、斬りながら蛸竜の身体を一周すれば連続で起きる大爆発に包まれたボスモンスター自身も・・・大爆発して消滅したのだった。クエスト達成の青いパネルが浮かび上がり報酬も貰えた。
「よっしゃぁー!」
「白銀さんすげー!」
「称号もゲットだぜ!」
「死に戻りした連中も称号を手に入れたらしい!」
「ああ、そいつら無駄死にならずによかったよ」
「ヒャッハー! レベルも上がりまくり―!」
下の連中から聞こえる歓喜の雄叫びは、いい結果で終わったようだな。
「こっちはこっちで蛸竜の素材が多く手に入ったな」
「僕が虫眼鏡でHPをたくさん減らした貢献からなのか、太陽の眼鏡なんてアイテムが手に入ったよ。スキルとMPと【INT】のステータスをあげる効果付きだ」
スチャっと眼鏡を掛けるカナデはとても似合ってた。
「どこぞの子供名探偵っぽいな 」
「ふふふ、何でも問題を解決してあげるよ。フレンド登録してもらってもいいかな?」
「もちろんだとも」
イッチョウもいい人材と関係を結んでくれたな。今夜は好物を作ってやろう。にしてもこのアイテムはなんだろうか。
『月の石』
用途不明だが、石に闇の力が秘められている。
使い道が判らない石か。どんな力が秘められているのやらな。
「・・・作戦失敗の模様ですな」
「クソ! あれほどの戦力と個の強さだとは想定外だ! これでは俺様の野望が・・・何の為に国を滅ぼしたのだ!」
「―――やはり、貴様の仕業だったのか」
「うっ!?」
「確信はなかったが女の勘と言うやつか。お前からは何か怪しいと思えてならなかった」
「な、何故お前がここにいる!? 国にいるのではないのか! しかもたった一人だけとは!」
「お前と同じよ。勇者たちの戦いぶりをこの目で見届けるためだ。お前の兵士がここに向かうところを見掛け、後を追いかけて今に至る。さて・・・自国を滅ぼし私達の国をも滅ぼそうとしたお前は、死刑の極刑以外罰する罪はない。この場で死を以てお前の身勝手さで死を迎えた国民達がいるあの世へ向かえ」
「い、嫌だ! 俺様はまだ死ねない! お前達、俺様を守りあの女を捕まえろ! 相手は一人だ! 黒魔術師殿―――へっ、い、いない?」
「(鮮やかすぎる逃走だな)いや、死ぬしかないぞ。―――死霊術で召喚したお前の国で死んだ国民達の怒りを味わうがいい」
黒竜を討伐に成功した俺達の知らないところで、別の問題が幕を引いたのは知る由もなかった。
黒竜討伐に成功し、イベントに参加した皆は楽しんで称号も得て満足気に砂漠を後にするか何かに期待して留まる皆と離れ、俺は宮殿の玉座の間に招かれていた。
「封印することでしか無力化にできなかった古代の者達より遥かな強さと慧眼な手段を駆使し、よくぞ黒竜を討伐してくれた勇者よ。ルナマリアに住む者として、皆の代表して賞賛の言葉を送る。ありがとう、そなたはルナマリアの英雄だ。砂漠の赤トカゲ団と盗賊団に捕らわれていた無辜の民の救出も誠に見事」
「身に余る勿体なきお言葉です女王陛下」
「お前の戦いぶりは我が娘が見届けた。よもやこの者を信頼に値しない輩ではないことを、この場にいる者達もわかっているだろう」
重鎮たちは女王の言葉に頷く。
「では、この国の英雄である勇者には褒美を授ける。ルナマリアが代々大切に管理されている宝だが、なんの使い道のない私からすればただの石ゆえ、私では価値さえわからぬ。世界を跨いで冒険する勇者ならばいつかきっと見出してくれるだろう」
召使が柔らかく高級な敷物に乗せられた『月の石』と同じ小さな石を運んでくる。俺の前に差し出されるそれを感謝込めて受け取った瞬間、これが何なのか分かった。
『太陽の石』
用途不明だが、石に太陽の力が秘められている。
・・・・・これが報酬って雑ではないですか? いや、文句はありませんよ?
「そして勇者ハーデスはこの宮殿の出入りの自由を許可する。我が家のように空いている部屋を使って寝てもよし、食卓で私達と食事をするのもよし、男子禁制の女用の風呂に入っても構わぬ。断れば死刑だ」
「・・・・・」
『・・・・・(フイ)』
大臣達に「この女王をどうにかして欲しい」という懇願の視線を、顔を逸らされて助けてくれない薄情さに悪い意味で感嘆ものだ。
『プレイヤーが新エリア「ルナマリア」を解放しました』
ああ、このエリアも解放されたか。EXクエスト『黒竜討伐』
「あ、ありがとうございます・・・・・一つ確認を」
「なんだ?」
「宮殿に納屋と畑ってある?」
退屈だからと女王自ら案内してもらった場所は自給自足している宮殿の広い畑だった。外国の様々な植物を育てて、中にはコーヒー農園やサボテンまである。ドラゴンフルーツが食べられるのか。
「おお、こんなに見たことのない植物がある! いいな、欲しいな!」
「こんなモノに興味があるのか今時の勇者は」
「俺も多種多様の植物を育ててるから興味あるんだ」
「ほー? 砂漠にはない食用の植物があるのだな? 見られるなら是非とも見てみたいものだな」
見られると思うぞ。
「ここの畑も俺が使っても?」
「宮殿の畑は駄目だ。国外にある農園場に行くがいい。そこならいくら使っても構わぬ」
という女王様は行く気満々で、シャルジャーザと一緒に案内してもらうことになった。
場所はルナマリアから離れた東にある大きなオアシス。砂がなく広大に土があるここでないと育たない話だ。
「あれ、ここに管理者がいないんだな」
「こんな場所に人員を割ける必要はない。ルナマリアにいる農園主に畑を買えば済む話だ」
「・・・・・俺、畑買ってないんだが」
「案内してくれと言ったのはお前だぞ?」
コミュニケーション不足ぅっ!!
ルナマリアに戻り農園主に会って畑を購入する羽目になり、改めて自分の畑を手に入れた納屋にトランスポーターを設置した。これで砂漠のエリアと日本家屋のマイホームと繋げることが出来た。
「それはなんだ?」
「俺が拠点を構えている場所の家と繋げる道具だ。これで何時でもここの畑に行き来できるんだよ」
「奇怪な道具を持っているのだな。それはお前だけが利用できるのか?」
「試してみるか?」
最初に俺がトランスポーターを利用して日本家屋に戻って待っていると、女王とシャルジャーザ、召使と女兵士数人がやってきた。砂漠の世界と宮殿しか見たことが無い世界と一変して、木造の家と嗅ぎ慣れた空気と匂いではなく大変興味深そうに周囲を見回す。
「ここが、お前の家なのか」
「いらっしゃい。まぁ、見たことのないものばかりだろうから何でも聞いてくれ」
と言った手前。女王や王女達からの猛烈な質問責めは堪えた。初見の物は何でも興味抱き、些細な事でも詳細の質問をしてくる。草を煎じたお茶は好みではなかった。更に他のマイホームを見せたら「ここは摩訶不思議の楽園か!」と驚かれた。そしてこの後、リヴェリアがシャルジャーザと喧嘩するようなことになったがそれは別の話である。
「使い道が判らないままはなんか嫌だし、何となくここに戻ってきたものの・・・・・」
赤い砂嵐が消失し、虫眼鏡があった開きっぱなしの遺跡の扉の前に立っていた。けれども今となってはただの遺跡としか見受けれない。
「・・・・・」
小さい石、ビー玉ほどの大きさの太陽と月の石。手の平に転がるそれを見て俺は・・・・・。
「ははは・・・・・こうなるのか」
あの後、新スキルを二つ取得したことで太陽を彷彿させる後光を背負い砂漠にいくつもの大穴を作ってしまった。これほどの威力とは・・・凄いスキルだな。この【太陽神】。
もう一つは【月下美人】・・・・・夜間限定で女に性転換した状態まま月光を浴び続けることで、力を蓄積した分、魔法攻撃でも物理攻撃でもない無属性の攻撃を全放出。
【太陽神】も【月下美人】と酷似したスキルの内容だ。さらにどちらも二つのスキルが内包されているのだからEXのクエストの報酬としては悪くない。