三十分ほど待つと俺に強請ったプレイヤーが全員集合した。フレンド登録もしてホームに招き、虹色の実の実物を見せれば感嘆の息を漏らし、賞賛の言葉を貰った。
「凄い、これが古代の果実ですか!」
「ヤシの実みたいな果実だ。それに他の畑で育っているアイテムも凄く充実している」
「レア度と品質がどれもこれも高そう・・・・・私達ファーマーの聖地に居るんですね」
「白銀さんの従魔もたくさんいるー! 可愛いー! ノームとサラマンダー、ウンディーネにシルフがたくさんいる・・・アレ全部ユニーク?」
すんごい目を輝かせているプレイヤー達を他所に実った虹色の実を採取してウサミというパティシエのプレイヤーに譲渡する。
「それじゃあゼリーを200人分頼めるか? 前払いとして5000万Gも渡す。時間が掛かっていいから出来上がったら連絡を寄こしてくれ」
「頑張ります! 最高で白銀さんの期待以上のゼリーを作りますよ!」
「期待してる」
ポンポンと彼女の頭を撫ででやった後、アスカに宝石の肉を30個も渡してオカーンは畑からいくつか欲しいものを選んでもらった。
「エネルジーは、何か欲しいモノとかあるか? 畑から選んでいいぞ」
「えっと・・・じゃあ、質問いいですか?」
「うん? うん、いいぞ」
「白銀さんのギルドって、まだメンバー募集中だったりします?」
欲しい物ではなくギルドの話を聞かされるとは思いもしなかったな。彼女の問いに首肯する。
「ああ、まだ一応な。生産系プレイヤーを中心に誘ってみているから入りたいプレイヤーがいるなら加入させるつもりだ。生産と戦闘の両方をプレイするプレイヤーでもな」
「あの、じゃあ、私も白銀さんのギルドに入らせいただいてもいいですか?」
お、自ら売り込んできた! 勿論大歓迎だ!
「いいぞ、よろしくエネルジー!」
「は、はいっ。よろしくお願いします!」
【蒼龍の聖剣】に新しいメンバーが加わった!
「「「・・・・・」」」
そして俺達の様子を沈黙して見ていたプレイヤーにも誘ってみると、三人も追加した。更にその後、自分だけハブられていたことを知り嘆いていた石田もお情けの感じで加わった。そしてウサミのゼリー完成を一週間も待った。
「お待たせしましたー!! 虹色の実ゼリーの完成でーす!! 料理系スキルの熟練度が凄く上がったー!!」
天空の城のホームにて、青空の下で実食しようとする【蒼龍の聖剣】のメンバー。今現在ログインしているメンバーだけ味わう。ログアウトしているメンバーは随時ゼリーを渡す決まりで先に俺達がいただくことに。
「それじゃあ、全員に行き渡ったな? では、食べていいぞー!」
おおー!
スプーンを掲げ、俺の促しの言葉に応じる面々は小さな虹色が掛かった七色に輝くゼリーを食べ始めた。
幻の果実、従魔の進化を促す果実のゼリーは・・・・・口に含んだ瞬間。
「はっ、凄いなこれ・・・・・全ステータスに永久的+10も増えるのか」
「それだけじゃないよハーデス君。一時的に【幸運】が付与して今なら成功率が100%だって!」
「ああ、そうだな。虹色の実が絶滅した理由が何となくわかった気がするよ」
古代の人間がこぞってゼリーにして食べ尽くしたからだろうな絶対。この効果を知った多くの生産職のプレイヤーが、いきなり立ち上がってホームから出ようと走り出す。成功率100%の時間を無駄にしたくないんだろうな。
「これ、数百万の価値があるんじゃないかな」
「あると思う。次のオークションにでも出品してみるわ」
「またNPCの貴族に掻っ攫われてしまうかも?」
あー・・・あり得るな。さて、俺はオルト達のところに行こうかな。その前に―――。
「ウサミ、期待以上の味だ。残りの報酬だ」
「ありがとございます! また欲しかったら作りますね!」
「おう、近い内にまたな」
報酬をウサミに渡してから日本家屋へ足を運び、自由気ままに過ごしているオルト達を畑に移ってもらいゼリーを配って食べさせた途端。
「うわ、ちょ、本当にレベル関係なしに進化か!」
三回目の進化を果たす従魔も含めて、どれにしようか選んで悩んで選択すること数十分。進化先を決め終えた。光合成で食事いらずな樹精達は食べてもらえなかったのが残念だ。オレアもそうだ。
「オレアの進化ってなんだ? 肥料か何かか?」
だとしても普通の肥料ではないと思う。うーん、タラリアに行ってみるか。
「特別な肥料? うーん、その情報はないわね。どの町も第10エリアの都市も高級肥料以上の特別な肥料は無いわ」
「うーん、そうか。じゃあ存在しないかな」
「そうとも限らないわ。単純な調合で多目的肥料の作製が出来るし、畑関連ならこれも単純な錬金で多目的栄養剤なんて物も作れるわよ」
お? どっちも使えるな。今の今まで高級肥料ばかり買って使っていたからその存在はすっかり忘れていた。それに調合と錬金・・・身近に相談できるNPCがいるじゃないか。
「もしかして、何か閃いた?」
「それに近いかな。相談できる相手の心当たりがある」
「じゃあ、全部終わったら情報をよろしくね!」
約束だと言い残してホームに戻り、真っ直ぐラプラスの許へ足を運んだ。
「ラプラス、相談がある」
「む? なんだ?」
彼女の自室・・・今となっては実験と研究室と化した大部屋に入って、ゼロと何か製作をしているその背中に質問を飛ばした。
「錬金と調合で特別な肥料と栄養剤を作れたりするか?」
「それぐらいは造作もない。魔化肥料と魔化栄養剤でいいなら、その素材はお前の畑に揃っているしな。冥界に行けばそれらも販売している」
え、そうなのか? 初めて知った。まぁ、未だ冥界に行っていないから当然だけど。
「自作をするつもりならレシピを書いてやるがどうする?」
「何時でもいいから頼む。まずは自分で作ってみたい」
「わかった。ゼロ、大魔王にレシピを渡してやれ」
ひ、否定したいけどできない歯痒さが堪えがたい・・・・・っ!! ゼロから受け取った二つのレシピ。
「久し振りの死神の宴だー! みんな、見てるー?」
『本当に久し振りだな! 魔王になっても変化はないのか?』
『おひさー! 今日はどんなことをするんでー?』
『何をしても爆弾情報だから、驚かないように見守るよ』
「魔王になったらかなり不便! NPCの好感度が-100に下がって話どころじゃなくなるし!」
『どんまい!』
『やっぱり魔王は魔王か』
『魔王になるといいことない?』
「1割だけある。まぁ今はそんなことよりも、畑に使用する肥料と栄養剤を作るところを見ててくれ。もう既知のアイテムを作ると思うが」
『どんなアイテムを作るんですか~?』
「魔化肥料と魔化栄養剤ってやつ」
『あー、知り合いの錬金術師がなんかボヤいてた。使い道がよくわからないって』
『そうなのか?』
『消費する素材の数も多いから微妙にコストが高いらしい。あまり使い勝手がいいとは言えない』
マモリの撮影もしてもらいながら動画配信をする。
「とりあえず、たまに映る俺の従魔を楽しんで見ていてくれ。主にうちのオルト君だがな」
『ノームよりもウッドちゃんを映してくれ!』
『クリスちゃんの尊顔を是非とも!』
『ゆぐゆぐちゃーん!』
『ルフレちゃんとアイネちゃんもよろしく!』
(無視)材料は、土と木材と水。あとは昆虫系素材に魚系素材だ。これらは簡単に揃うだろう。途中、調合レベル40で覚える濃縮スキルが必要なようだが、それも持っている。
さらに、作製するには育樹スキルか水耕スキルが必要とも書かれていた。特定のスキルを所持していないと、作製できないアイテムもあるんだな。
栄養剤のレシピの方は。これも、錬金レベル40で覚える液化のアーツが必要だった。
ホームの生産施設はみんなが使ってるだろうし、普通に生産セットを使って行えばいいだろう。
特別肥料の材料は土と木材と水。足りない昆虫系素材に魚系素材だ。
特別栄養剤の素材は、水と回復系素材に毒系素材、植物系素材、動物系素材である。
「まずは肥料から作ろう。土は・・・腐葉土が使えるか」
高品質の腐葉土に、神聖樹の枝。水も一番いいやつを使おう。虫系、魚系素材は、無いから集めに行かないと。それも初めての試みだから低品質素材で様子見だ。
―――数分後。
不足していた素材を集め終え改めて土と水を混ぜた物に、始まりの町周辺で手に入る素材を砕いてさらに攪拌する。で、普段ならここで調合を行うのだが、今回は調合の濃縮だ。
普通に調合した場合よりもできあがる数が減ってしまう代わりに、品質が上昇する。また、特定のアイテムの場合、違う物に変化することもある。
そして、今回の特別肥料の場合、アイテム名そのものが変化するタイプだった。
何度も実験をしてみたのだが、普通に調合した場合は多目的肥料。そして、濃縮した場合は魔化肥料というアイテムに変化した。
名称:魔化肥料
レア度:5 品質:★2
効果:畑に撒くと、栽培効果を増加させる。効果は5日間続く。魔化栄養剤と合わせることで、一部の作物に特殊な進化を促す。
気になる文面が書かれているな。一部の作物に特殊な進化? どれのことだろうか?
オルトに聞けばわかるかな?魔化肥料の効果は気になったが、特別栄養剤も作らなきゃいけないから後でだ。
こっちも、色々と実験してみたが、基本は肥料と同じだった。
単純に錬金するだけだと本当に多目的栄養剤だが、錬金の液化を使うと魔化栄養剤に変化するのだ。
名称:魔化栄養剤
レア度:5 品質:★2
効果:畑に撒くと、栽培効果を増加させる。効果は5日間続く。魔化肥料と合わせることで、一部の作物に特殊な進化を促す。
魔化肥料とほぼ同じだ。両者を併せることで、特殊な効果が発生するらしい。
しかも、凄いことを発見してしまった。
名称:水化栄養剤
レア度:6 品質:★1
効果:畑に撒くと、栽培効果を増加させる。効果は5日間続く。水化肥料と合わせることで、一部の作物に特殊な進化を促す。
作成時、素材を全て水属性で固めてみたら、こんなものができ上ってしまったのだ。水は元々水属性だし、他の素材も水属性の魔獣から得た物ばかりを使った結果だった。まあ、本当に偶然なんだけどね。
何故か水化栄養剤ができてしまい、原因を調べたのである。
他の物でも色々と試してみると、土水火風はすべて作れてしまった。
5つの素材中、4つがその属性であれば作成可能であるらしい。5つ全てを属性素材で作った時に比べ、明らかに品質が下がるがな。
他に、聖化栄養剤というものも作れたのだが、聖化肥料が作成不可能だった。聖属性の素材が不足していたのだ。
聖化栄養剤の素材は、聖水に神聖樹の葉、神聖樹の枝、イベントの時の守護獣のインゴットの4種だ。
実は、イベント村で依頼をこなすと普通に守護獣のインゴットが手に入るようになるらしく、市場にそれなりの数が出回っていた。
それを知らずに、以前に露店で発見した時に貴重な品だと思って購入してしまったのである。まあ、思わず買ったけど、うちでは使い道がなくてずっと死蔵していたアイテムだった。
第二陣の中には、守護獣シリーズの愛用者も結構いるそうだ。序盤でも簡単に手に入るので、鋼鉄製装備に乗り換えるまでの繋ぎで使っている人が多いらしい。
聖属性の作物なんてメチャクチャ気になるし、肥料作成用の素材をぜひ入手したいところだ。プレイヤーズショップを覗くか、オークションで狙ってみるのもいいかもしれないな。
『普通に見たことのないアイテムだ。畑に使う専用のアイテムだとしても、これはこれで新情報だ』
『いやー作った奴もいるだろ。ただ、情報を公開せず秘匿していたと思うぞ』
『白銀さんみたくオープンじゃないし、自分で発見したモノは公開する義務なんてないしな』
『それでも自分本意で聞き出そうとするプレイヤーもいるんだよな』
視聴者のコメントを見ながら肥料と栄養剤を作りまくっていると、いつの間にかオルトがそばに近寄ってきていた。
「ム?」
「お、ちょうどいいところに。今作り終わったとこなんだよ。それ、魔化肥料ってやつなんだが、使い道分かるか?」
「ムー!」
「おー! さすがオルト! 畑の申し子! 頼りになるー!」
「ムム!」
オルトが胸を反らして分かりやすく調子に乗る。
「それで、どこで使える?」
「ムムー」
「そっちだと、薬草畑か」
「ム!」
オルトが小走りで向かった先は、やはり薬草を植えた畑だった。未だに薬草を大量生産して、日々ポーションを作ってはギルドで売っているから。
大金が手に入るわけじゃないけど、今までの経験からしてきっと無駄ではないと思うからだ。
「薬草が、何か他の物に変化するってことか?」
「ム」
「オルトが言うなら間違いないだろうし、ここの一角で試してみるか」
「ムー!」
オルトに魔化肥料と魔化栄養剤を渡すと、早速撒き始めた。オルトが両者を畑に使用し終えた直後、その一角が一瞬だけ青白く光る。
魔化セット1つでは、畑1面分にも足りていないらしい。光ったのは4分の1くらいだった。
「あと4セットあるんだがどこに使う? ああ、四属性のも揃ってるけど」
「ム!」
四属性の肥料と栄養剤は、低品質の物を合成して品質を上昇させたりしていたら、結局★4のものが3セットでき上がっていた。
「ここは微炎草が植わってるけど・・・・・?」
「ムー」
「火化肥料と栄養剤か。もしかして、属性が増すってことか?」
「ムー!」
その後、オルトは風耕畑に風化肥料と栄養剤を、水草の植わっている水耕畑に水化肥料と栄養剤を撒いていた。やはり、属性を強化してくれるようだ。
最後、土属性セットは赤テング茸の原木にぶっかけていたので驚いたが、これで問題ないようだ。
その後にオルトが向かったのは果樹園である。
「果樹の場合は1本に1セットか」
「ム!」
「緑桃だけでいいのか?」
「ム」
いいらしい。結局、魔化1セットと、属性4つを緑桃に使用していた。変化するのを楽しみにしておこう。
「ムーム!」
「お? どうした?」
肥料と栄養剤を果樹に撒き終えると、オルトが俺の手を引っ張り始めた。どこかに連れていきたいらしい。
そのままオルトと一緒に畑を歩いていくと、果樹園の中を通り抜け、すぐに足を止める。そこには、桜の木の傍で寝ているリックがいた。
「ムー」
「キュ・・・・・?」
オルトが、昼寝をしていたリックを揺すって起こす。ヘソ天で寝る姿は、野生の欠片もない動物はゲームでも同じか。
『野生はどこへいったw』
『あれ、姿がちょっと変わってない?』
『進化した?』
『可愛い寝姿をありがとう』
起こしたリックをオルトは自分の頭に乗せて、またどこかに移動する。今度はある小さい樹木の前であった。
「トリ?」
オレアの本体である、オリーブトレントだ。何をするつもりだ? 丁度オレアもいるし。
そして、オルトがリックとオレアに話しかけ二人が判ったと頷くと俺の前にやってくると、再び何かを訴え始めた。リックが両手を前に突き出し、尻尾がピーンと伸びている。
この姿、全然見覚えがないんだが。
「何がしたいんだ?」
「キュー!」
「リックしかできないこと?」
「キュ!」
となるとスキルか? えーとリックのスキル・・・・・。スキルが面白いから樹霊リスに選択したんだった。
樹霊リスは精神魔術と樹呪術が新しく覚える。
精神魔術の主な術は3種類あり、1つが敵を恐怖や怯懦状態にする精神異常系の術。相手のヘイトをあえて高めたりする術もあるそうだ。
そして、それらとは真逆の、仲間を精神異常状態から守るための術。仲間の精神耐性を上昇させたり、精神異常を回復させることが可能であるらしい。
最後に、言葉が通じない相手とのコミュニケーション用の術。念話や読心系の術が存在しているっぽかった。まあ、これは特定のNPC相手にしか使えないそうだが。
もう1つの樹呪術。これは、掲示板にも全く情報がないスキルだ。
ウィンドウで樹呪術を確認してみるも、詳しい情報は分からない。
樹呪術:樹木に関することに特化した呪術。
一応、呪術というものはある。長ったらしい儀式などを行い、普通の魔術よりも威力の高い術や、長期継続効果のある術を使うためのスキルだ。
フィールドというよりは、ホームや畑で使用し、効果を高めることなどができるという。
・・・・・もしかしてこれのことか?
「もしかして、樹呪術の儀式を行いたいのか?」
「キキュ!」
どうやら樹呪術のおねだりであった。
「樹呪術をオレアに使うのか?」
「ム」
「魔化肥料と魔化栄養剤は?」
「ムム!」
樹呪術と一緒に、魔化栄養剤も使うようだ。何が起きるのだろうか?
「オルトたちがやりたいならいいんだが・・・・・。対象はこのオリーブトレントなのか? オレアに問題はないのか?」
「トリ!」
「うーむ、オレア自身がいいなら、構わんか」
「ムムー!」
「トリー!」
ということで、ヘルメスを召喚。凄いものが見られるぞ、とメールを送ったら息を切らすほど5分以内に来てくれた。
「配信見てたけど、何をするつもりなの?」
「俺も知りたいところ。オルトに導かれてる形でいるから」
『タラリアの副マスだ』
『情報はもう筒抜けだから売れないなwww』
『情報を扱う側が扱えなくなる気持ちってどんな気持ちー?』
「うるさいっ!」
からかわれてるヘルメスを気にせず、樹呪術を早速使ってみることにした。
「どの呪術だ? この快癒の呪か?」
「ムム」
「違う? じゃあ、生育の呪?」
「ム!」
生育の呪か。まあ、生育って成長の意味だし成長させると考えるなら、妥当か。
「じゃあ、行くぞ。リック、樹呪術だ!」
「キュー!」
リックが尻尾を立てて、両前足を突き出す。すると、二重の五芒星がオリーブトレントを中心に浮かび上がった。
「で、捧げるアイテムの選択か。魔化肥料と魔化栄養剤を選べばいいのか?」
「ム!」
魔化肥料と魔化栄養剤。あとは四属性の肥料と栄養剤で、ちょうど10個である。
「おお、呪術が変化したぞ」
生育の呪がこれなら快癒の呪も何かしらの樹木に使えるかもしれないな。後で検証してみよう。リックが発動した生育の呪が『進化の呪』となっている。
戦闘でのレベルアップではなく、呪術による特殊な進化を行うってことなのか? こんな方法もあったんだな。知らなかった。
「オレア、いいんだな?」
「トリ!」
オレアが両手を上げた状態でピョンピョンと飛び跳ねて、喜びを表現している。むしろ、早く早くって感じだ。
「よし、肥料と栄養剤を捧げるぞ! 進化の呪、発動だ!」
「トリー!」
「キキュ!」
「ムッムー!」
Yesをポチッと押すと、魔法陣が輝いた。
オレアの本体であるオリーブトレントが、強い光に包まれる。目を瞑って発光が収まるのを待っていると、サワサワとこずえが揺れる音が聞こえた。
そして、アナウンスが聞こえてくる。
ピッポーン!
『オリーブトレントが、特殊進化可能状態となりました。進化を行いますか?』
アナウンスと共に光が収まり、俺の目の前にはウィンドウが表示されていた。進化を選ばずに、そのままでもいけるのか。
「じゃあ、進化させちゃっていいんだな?」
「ム」
「よし、それじゃあ進化を――って、すっげー量の選択肢が……」
「うわ、本当ね。ちょっと全部の詳細を見させて?」
自動ではなく、俺が選択できるらしい。ただ、その数が凄まじく多かった。
ハイ・トレント、ハイ・オリーブトレント、ファイア・トレント、アース・トレント、アクア・トレント、ウィンド・トレント、ファイア・オリーブトレント、アース――。
「トレント系がズラーッと並んでるな」
「これは新発見よ! オリーブトレントを進化させたプレイヤーはまだ誰もいなかったもの!」
トレント系は、現在のオリーブトレントからの正統進化だろう。能力が上昇し、スキルもほぼ変わらない。素材生産で入手できるものが少し増え、管理している農地の属性などを強化する力を得るようだ。
「エレメンタル・トレントっていうのが凄いな」
どうやら四属性全部を併せ持っているらしい。多分、属性特化型のトレントには及ばないだろうが、うちの様に色々な属性の作物を育てているなら有りだろう。
「まあ、畑を管理する力が上昇するならそれでもいいんだが……。多分、この呪術の本命はこっちだろうな」
トレントの後に、樹精が表示されていたのだ。ゆぐゆぐの様に、独立して動くことが可能になるらしい。
進化ルートの関係か、農地管理などもそのまま引き継いでくれるようだ。オリーブの樹精って形になるんだろう。これは、いいんじゃないか?
名前:オレア 種族:樹精 レベル18
契約者:死神・ハーデス
HP:52 MP82
【STR 15】
【VIT 12】
【AGI 9】
【DEX 14】
【INT 15】
スキル【株分】【光合成】【素材生産(オリーブトレントの実×3)】【精霊の枝(精霊の実)】【農地管理】【鎌術】【再生】【樹魔術】【忍耐」
装備:樹精の鎌、樹精の衣
分身や戦闘不可スキルが消える代わりに、鎌術、再生、樹魔術、忍耐などがゲットできる。これ、武器は鎌に固定みたいなんだが、なんでだろう? ランダムなのか?
ただ、レベルのわりにステータスも高いし、今まで通り畑を任せることもできる。完全に上位互換というか、デメリットはほぼないだろう。素材生産の内容も少し変化するが、上位の物に変わるなら構わないしな。
エレメンタル・トレントなら、今まで以上の畑管理能力。樹精なら戦闘力。どちらにせよ、悪くない。
「うーん。どっちがいいかな」
「トリ?」
「……オレアはどっちがいい?」
「トリー」
俺としては、本当にどちらでもいい。後はオレアの気持ちだろう。俺がしゃがんでウィンドウを見せると、オレアが腕を組んで唸り出す。だが、少しすると片方をビシッと指さすのであった。
「やっぱ樹精か」
「トリ!」
「よしよし、今度からはお前も一緒に冒険に行こうな」
「トリー!」
『え、いまなんて・・・・・?』
『樹精? いま樹精とおっしゃいましたか?』
『まさか、まさかの・・・・・?』
俺が樹精を選択すると、楽し気にジャンプするオレアの体が光に包まれる。さーどんな風に進化するのか、楽しみだ。
オレアの本体が光を放ってから、数秒後。
「トリ?」
「おー、こんな感じになったのか!」
「トリー!」
「可愛いじゃない!」
そこにいた子供は、今までのオレアとは全く違う姿をしていた。
身長は、オルトと同じか、少し小さいくらいである。
髪の毛はショートボブだ。基本は黄色が強めの黄緑で、前髪に一房だけ赤紫が混じっている。
以前はピ〇キオっぽい鼻をしていたんだが、今はちょっと高いくらいかな?服装は、ポンチョ風の外套と、その下にブカブカのシャツとハーフパンツという出で立ちだ。ポンチョは基本は白と緑で、背中には赤紫とこげ茶、深緑で、図案化されたオリーブの木が描かれていた。
足元はゆぐゆぐと同じサンダルだ。
「鎌はどこだ?」
「トリー!」
「おお、なるほど」
ゆぐゆぐと同じで、樹魔術で作り出すらしい。オレアが腕を一振りすると、瞬時に巨大な鎌が出現した。
「超デカ!」
「トリ!」
チャームの持っていた枝打ち鎌よりもさらに巨大だ。完全にデスサイズと呼べる大きさだろう。小柄なオレアがこの鎌を使い熟せるのか? そう思ったら、ブンブン振り回して、全く問題なさそうだった。
「はー、お前すごく変わったな」
「トリ!」
声はほぼ同じかな?ただ、問題が一つ。オレアって、女の子? 男の子?
体型は非常にスレンダーというか、幼児体型でそこから判断するのは難しい。非常にボーイッシュな美少女にも見えるが、美少女に見紛うほど可愛い男の子にも見えるのだ。
服装も、男女どちらでも許されそうな格好をしている。
今までは男の子だと思っていたけど、実は女の子だったパターンもあり得そうだ。
「うーん・・・?」
「トリ!」
「うん? なんだこれ?」
性別が分からず悩んでいたら、オレアが何かをさし出してきた。何かの果実っぽい。
名称:精霊の実
レア度:6 品質:★5
効果:使用者の空腹を10%回復させる。使用者の魔法耐性を1時間上昇させる。クーリングタイム5分。
メッチャ強いけど魔法耐性を上昇? レア度も高いし。
「キキュー!」
オレアが進化したことによって、素材生産で手に入るようになったアイテムだ。精霊の枝、オリーブトレントの実もインベントリに入っていた。進化時、全部を入手できたらしい。前もそうだったっけ? ともかく、これは有難い。
素材生産で手に入るアイテムはランダムだが、時折でもこれが入手できるのはかなり有用だろう。
リックがフンスフンスと凄い勢いで匂いを嗅いでいる。目、逝っちゃってない? どうやら好物であるらしい。
でも、ダメだぞ。これ一個しかないんだから! 数が揃ってきたら、食べさせてやるから!
『うっそだろ!? あのオリーブトレントがあんな可愛い姿になんのかよ!』
『また白銀さんがやらかしたぞー! ものども、であえであえー!』
『知り合いの錬金術師にお願いしてくるー!』
『よっしゃー!! 念願の樹精ちゃんを手に入れられるぞー!』
『白銀さん、錬金術師の新しい風を吹かせてくれてありがとう。儲けてやるぜヤッハー!!』
『樹精ちゃんファンが歓喜の阿鼻叫喚がしてそうだぜ』
『急いでオリーブトレントをゲットしなくちゃ!』
『待っててオリーブちゃん!』
マモリと一緒に動画配信を止めた。オレアと精霊の実、枝の情報はヘルメスに伝える。
「これしか情報を扱えないけれど、いいものを見させてくれてありがとうね。新しい肥料と栄養剤の発見も大きいわ」
「そいつはよかった」
「ものはついでにだけれど、オルト君達のことも教えてくれる? 進化したみたいよね?」
「獣魔国の報酬で進化を促す実の種を手に入ったんだ。それで一斉に進化した」
「その実物、見せてくれない? 紹介料も払うわ」
まだ何か情報を抱えてるのね、そうなのよね。情報を吐きなさい全部今すぐ! そんな鬼気迫る圧を感じヘルメスをホームの畑に招いて虹色の果実を見せたのだった。