「突然だが遊びに来たぞ鉄心」
「本当に突然じゃな。じゃが歓迎するぞぃ」
JGEから三日後のある日、手土産を持参して川神院に訪れた。縁のところでのんびりしていた老人の隣に腰を落とす。
「仕事の方はよいのかの」
「重要な案件はまだないからこうして遊び呆けられるのさ。平和なもんだよ」
「何事も平和が一番じゃよ。お主とこうして将棋をする時間もできるしの」
「さりげなく用意するのは良いが、お前弱いじゃん」
「やかましいわぃ。今度こそ勝ってみせるわ」
呆れつつも将棋に付き合う。盤上の駒を動かして鉄心の駒を取り除くこと数分。
「王手」
「待った!」
「別にいいが駒を巻き戻さない限りもう詰みだからな?」
そんなことを昼間で何度も繰り返したのだから本当に鉄心は弱い。あ、ルー。一緒に昼食? じゃあお願いしようかな。
「ただいまー!」
元気溌剌な女の子の声が聞こえだした。久しぶりに訊く声は相変わらず元気な様子だ。姉の方は帰ってこないようだな。鉄心と食事をする居間へと向かい、他の修行僧達と料理が出来上がるまで待った。
そして料理を配膳する赤よりの茶髪のポニーテールの女の子が鉄心の横に座る俺を見て目を丸くした。
「旅人さん!?」
「久しぶり一子」
「うわー! うわー! 遊びに来てたんだ!?」
「鉄心の顔を見に来たついでに将棋をしてたのさ。勝敗は言うまでもないがな」
「じゃあご飯を食べたら遊ぼうよ! お姉様達も喜ぶわ!」
いいぞ、構わないと頷くと一子は満面の笑みを浮かべた。うーん、純粋無垢な笑みは無条件で可愛いな。
「鉄心の孫娘も一子みたいだったらいいのに」
「まったくじゃわぃ。どこぞの幼女好きの旅人の影響を受けて可愛げない生意気に育ってしまったからの」
「どこかの耄碌したスケベ老人の育て方の影響に違いない」
「「なんだとこの野郎」」
「どうして急に喧嘩腰になるのー!?」
さてどうしてだろうか。俺は素直に褒めただけだったんだが? 鉄心もそれに同意しただけなのにとても不思議だ。続々と運び込まれる料理が全員分も用意されれば、合掌してお辞儀をした後に昼食を済ませ始める。俺の隣にちゃっかり一子が居座り食べている。
30分後―――。
食べ終えれば、俺を急かす一子の手によってあいつらがいる場所へと引っ張られるよう向かう。そこは廃墟のビルで毎週金曜日は何時もここで集会のように集まって過ごしている秘密基地だとか。いいな秘密基地。昔造った段ボール製の秘密基地よりしっかりしてて。
「皆、ただいまー!」
「おーワン子おかえ・・・・・」
「よう、お邪魔するぞ」
「―――た、旅人さんっ!?」
一子だけだと思ったか? 甘い、俺もいるのだよ! 俺の登場で一子以外の二人以外の少女以外の少年少女たちが吃驚した表情を浮かべたまま固まった。
「なんで旅人さんが一子と一緒に!?」
「川神院にいたからな。遊びに誘われるまでは一子と一緒に昼飯を食ってた」
「ワン子、なんて羨ましいっ・・・!」
「はいはい、嫉妬すんな京。ステイ」
「ワンワン!」
誰が犬になれと言った。脚の傍で跪いて胸を擦り付けるな。
「で、これからなにかしようとしてたか?」
「いやまだ何も。いつも通りここでのんびりと寛いでいただけだしな」
「というか、私的には旅人さんの話を聞きたい。蒼天のこととか」
「お、いいな!」
京の提案で蒼天に興味を抱き始めた風間翔一達。
「蒼天のことか・・・別にいいが面白味はないぞ」
「構わないって! 個人的に旅人さんといた美少女達のことが知りたいぜ!」
「あいつ等か。個人情報保護的な意味で教えられないなそれは」
「じゃあじゃあ仕事のこととかは?」
「それは・・・・・(♪~♪~♪~)ちょっと待て」
この着メロは蒼天の方だな。通話状態にして連絡をして来た王の一人と話し合う。
「仕事か? ・・・・・そうか、ああ、わかった」
俺に意見を聞きたい案件が挙がったらしく戻って来いとのことだった。ふと俺に集まる視線の元を見回し思い至った。
「仕事が入った。蒼天に戻らないと行けなくなったから帰るよ」
「王様の仕事って大変そうですね」
「前にも言ったが総理大臣のような仕事をしているからな。何なら来るか?」
「え、どこに?」
決まってるだろ、と付け加えてさらに言う。
「世界各国の総理大臣すら入ることを許されない俺の国『蒼天』にだよ」
さっきより仰天した一同は俺の誘いに耳を疑ったが最終的に同行することに。それじゃ、蒼天に案内してやろう。転移魔法発動!
―――蒼天。
とある海から高く高く、雲の上まで浮かんでいる巨大な岩石の塊。その上に文明が築いており、数千万人規模の人間が暮らしていて空からではないと入ることができない国は別名『空中都市』またの名を『神の島』。その島に住む人間達は世界各国から集められた貧民のみ。新たな新天地で新たな人生を送られる条件に名前も身分も何もかも捨てなければならない。そして犯罪を犯した者は国外追放される。法を犯さない限りは幸福な生活が約束される。
「ようこそ、ここが『蒼天』だ」
間隔等に並ぶ太い石柱と壁面を丸々占領する長方形の硝子。中心部には円卓と五つの席だけがある空間の中に転移した。見知らぬ場所へ不思議な方法で連れられた大和達は、窓際に立って見下ろした。
「た、たけぇええええええええ!?」
眼下を見下ろせば蒼天の全貌が明らかになるだろう。そのぐらい高く俺が創造したんだからな。
「お前ら、しばらく静かにしてくれ。これから会議をするからな」
「会議・・・?」
不思議そうに言い返された直後。扉も階段もないこの空間に四つの魔方陣が円卓の椅子の後ろに展開して、四人の少女と女性が転移した。
「あれ、初めて外国の人を招いたのですか?」
「会議の邪魔にならなければいいわ。邪魔したら責任はあなたに取ってもらうわよ」
「あら華琳。王に厳しいわね。構ってもらえないから焼きもちを焼いてるの?」
「へぅ・・・雪蓮さん、華琳さんをからかっては駄目ですよ」
朗らかに話し合いながら椅子に座る俺達。途端に仕事モードに切り替わり説明口調になった。
「それじゃあ報告だ。まずは華琳」
「また華中国から催促よ。私達の国に国民を観光させたいって」
「変わらず却下だ。一部とはいえマナーの無い観光客が必ずやってくるからな。毎度言っているが許可したら他の国からの観光客も許さないといけなくなる。大体蒼天はまだ狭いんだ。観光させる余裕はない」
「でしょうね。いつも通り断っておくわ。三人もそれでいいわね」
「私は観光させてもいいと思いますけどねぇ」
「そうもいかないでしょう桃香。まだ狭い土地に何万人もの観光客が来て許容オーバーするならやめた方がいいわ」
「はい・・・もともとこの国に住んでいる人達に圧迫、混雑を強いるのは心苦しいです。渋滞の際に怪我人が出たらその対応も遅れますし」
気持ちは分からなくはない、と雪蓮と月も否定的ではないにしろ現実をしっかり見て把握と先を見据えている。俺もそうだ。
「今は無理でも未来だったらきっとできているはずだ。そのために今現在土地を広げて住む家を増やしてたら、大震災の被災者に宛がうことになった。それでギリギリなんだ桃香。だからすまない」
「ううん、謝らなくていいですよ。王様の言う通りになるなら私はもっと頑張りますから」
ほほう、頑張るとな・・・・・?
「やる気になってくれてありがとう。だったら愛紗に頼んで仕事の量を増やしてもらおうか」
「ふえっ? あ、あの王様? 仕事は頑張るけれど増やされるとちょっと大変かな~って?」
「あら桃香。自分が言った言葉には責任を持たないとダメよ」
「ふふふ、桃香。口は禍の元よ」
「雪蓮さん。王様が意味深な笑みを浮かべて見てますよ・・・・・?」
やる気になってくれた桃香に禍とはなんだ禍とは。お前には後で冥琳に仕事を押し付けてもらうよう頼んでおくからな。
「華琳の意見はこれで終わりなら次は月だ。報告はあるか?」
「は、はい。そろそろ貯水槽の水量が半分以下になっており諸々の物資もいつもより早く減り始めております。震災の方々が増えた結果であると詠ちゃんが言ってました」
「わかった。それなら早めに補充しておこうか。雪蓮」
「仕事ね。請け負ったわ。じゃあ華琳も頼むわね」
「わかっているわ」
南区の王である雪蓮が率いる者達は漁業を担っている。輸送船を動かすのだって雪蓮達だ。各国から物資を受け取るのも彼女たちであって交易も強い。北区の王の華琳達と協力すればさらに心強い。
「桃香も報告はあるか?」
「えっと特に問題はありません。生産量も被災地から来た人達の為に今年から増やしたばかりなので。朱里ちゃん雛里ちゃんの予想じゃあ数年の間は物価が低下したり高騰したり、どこかにシワ寄せがして浮き彫りするだろうって」
「そこはどうしようもない。需要が高いものは相応の価値になるし生産の量を増やせばその分の価値が低下してしまう」
「幸福な生活が送られる『神の島』。一体誰がそんなありもしない吹聴をしたのかしらね」
「蒼天も他の国とは変わらないところがあるのにねー?」
「そうですね・・・」
本当だな。かなり特殊な国であって根元的には他の国と変わらない国でもあるのにさー。
内心溜息を吐きつつ会議は小一時間も掛からずに終わった。先に地上へ降り立った四人を見送ると壁際に待たせた彼等彼女等に話しかける。
「もういいぞー」
「会議は終わり?」
「ああ、今日はもうしない」
「なんていうか。会議って思ってたのより緊張感がない穏やかな感じだね旅人さん」
「緊張するのは何時だって現場が定番だ。今回は報告する形の会議だから緊張感はないようなもんだよ」
「そういうもんだっけ?」
うちではそういうもんだよ。さて・・・・・。
「日本に帰るか」
「えっ? 蒼天で観光とかさせてくれるんじゃなかったの!?」
「連れてきただけだぞ。観光させるとは一言も言っていないし」
「ちょっとだけでも駄目?」
「頼む旅人さん!」
「ダーメだ。ここに連れて来るだけでもお前達を特別扱いだぞ? 世界各国の大統領たちですら来た事のない蒼天の、しかも王同士の会議を生で静聴できたのはお前達が初めてなんだ。それだけでもマウントが張れる出来事なんだから我慢しろ」
それでも下に行きたいと駄々をこねる連中に深い溜息を吐いて・・・・・。
「ケツを叩かれたい奴は前に出ろ。出た奴だけ下に連れて行ってやる」
ビクンッ!!
過去に俺に叩かれた奴やその様子を見て恐れた奴らが肩を跳ねあがらせて押し黙った。
「み、皆さんどうしたのですか?」
「尻を叩かれた経験で旅人さんを怖いのか?」
「昔の皆はヤンチャしてたからね。その時の旅人さんのお仕置きは時を超えても忘れられない怖さと痛みなんだよ」
なお、何も知らないでいるまゆっちこと黛由紀江とクリスティアーネ・フリードリヒに説明しながら俺に向かって臀部を突き出しつつ近づいて来る京には。
「ヘイカモン! 旅人さんの愛のお仕置きは私にとってご褒美!」
「ふん!」
スパーンッ!!!(ハリセンで叩く)
「あっは~んっ(⋈◍>◡<◍)。✧♡!!!」
叩かれて赤くなった顔が恍惚の表情を浮かべる京に俺は嘆く以外の感情しか浮かべなかった。
だってそうだろ、何でこんな変態的な少女に成長してしまったんだ・・・・・!!
一体何が原因でこんな・・・こんな・・・っ!!
「って、違う・・・違うよ旅人さん。私のお尻をあなたの手で叩いて!!」
「黙れこの変態!!」
仮にこいつと結婚したら爛れた生活を送りそうだわ。そうなった自分を想像するのが嫌すぎるので京の頭にチョップをかました。
「だから珍しく疲れた顔をしていたんですね」
「世の中にはいろんな人がいるんだね」
「えっと、お疲れ様?」
夕食時に帰った俺を労う三人によって精神的に回復。そのあとNWOにログインした。