「・・・・・酷い」
「だから先に謝ったじゃない。でも、途中であなたも乗り気になったじゃないの」
「やられたまま、されるがままなのは嫌なだけ」
ベッドのシーツの中でお互い全裸のまま包まって抱き合っていた。未だ俺は女堕天使のままでいさせられベアトリーチェはご満悦に俺の胸に顔を寄せてご満悦だ。
「あなたとのキス・・・・・とても素敵だったわ」
「人を襲っておいてよく言うわ」
「ふふふ、こうして裸のまま身体を合わせながらのキスって好きよ私」
「誰も聞いていないんですけどー」
そしてこっちの話を聞かないベアトリーチェは、人の足の間に足を割り入れてまた唇を重ねて舌を入れて来るのだが。こんな怠惰な時間は長く続くはずがないわけで。
「失礼します。魔王様・・・ね、姉様ぁー!? ななな、なに魔王様を襲っているんですかー!!!」
「奇麗な女性になった魔王に我慢できなくなっちゃって、つい」
「ついじゃありません!! ああもう、さっさと離れてください! どれだけ溜まっているんですか姉様は!!」
べりッとぐらい勢いでヴェアトリクスが自分の姉を俺から遠ざけてくれた。あっちは全裸でベッドから降ろされ、俺は堕天使化を解きシーツで裸体を隠して男の性別に戻し鎧を装備した。
「すまんヴェアトリクス、抵抗できなかった。攻撃するわけにもいかないからなー」
「こちらこそ姉が申し訳ありません・・・その、最後までされたのですか?」
「・・・・・俺がされたことをお前も経験してみる?」
「あら、今度は三人一緒に? 私は構わないわよ」
「っ!? け、結構です!!」
―――まぁ、色々と身体を触られたり吸われたり舐めたり絡めた程度でそれ以上のことはしなかったがな。
「それで、ここに来たってことは話をしに来たんだろ?」
「あ、そ、そうです・・・。魔王様へのお礼の献上の準備ができました。こちらです」
高級そうな箱を運んできた台車から持ち上げ俺に突き付けた。蓋を開けると中身は―――スキルスクロール×2だった。
「これは?」
「一つは【霧化】。自身を霧にしてどんな場所でも侵入出来たり、敵の攻撃を無効化にする事が可能です。ただし無効化できるのは夜間のみで自身を霧になるのも含めて10回が限度です」
制限はあるが回避特化のスキルであるのは変わりないな。もう一つの方を訊くと。
「そちらは【夜天の祝福】です。消耗は激しいのですが世界を夜にしてしまいます」
「夜に?」
「はい。夜間は闇の住人が最も力を発揮することができます。また悪の力を三倍ほど高める効果があり、あなた様にその類の力があれば魔王様の力となるでしょう」
確かに【霧化】がそうであるように【悪食】や【暴虐】といった系統:悪のスキルの威力が高まるなら大いに役立つ。
「これ以上のない品物だ。ありがとう」
「お褒めの言葉、恐悦至極です」
因みに何の消耗が激しいのかと言うとMPで1000もすることだ。
「ヴェアトリクス。あなたの用事は他にもうないわね」
「何言ってるのですか。仕事場に姉様を連れていく用事があります。魔王様はいかがいたしますか?」
「俺は約束の日まで一定の場所にずっといられないけど、この国を見て回ってから帰るよ」
「そう、それは残念ね。でもその約束の日が過ぎたらまた密事をしましょう? 今度は私の中に種を注いでもらいたいし」
「・・・・・そういうのは結婚した相手とじゃないとしないって決めてるからしないぞ」
窓を開けて外へ飛び出す。背後で「結婚・・・・・」と不穏なことを言っていようがいまいが無視して吸血鬼の国の上空を飛んだ。
「カモン、インテリジェンスサイナ」
地面に着地と同時にサイナを久し振りに召喚。一緒に散策を始めるが案の定、俺から逃げてしまう悲しい繰り返しが起きる。
「吸血鬼ならあるいは、と思ったのに・・・・・」
「マスターは魔王でありますので当然の結果です」
そんな俺でも怖がらずに接してくれるのはクエストに関するNPCだけだ! どこだ、どこにいるー! とサイナと国中を歩き探し回ったことである程度わかってきた。吸血鬼の国はピラミッドの様に高い位置に建物がある。それもそれぞれの段が分離して浮いているし、たった五つしかない魔方陣式エレベーターで向かうのが移動手段とは。
頂点に立つように始祖の吸血鬼が暮らす城、その下から五段まで貴族が住まう階層。その五段に上級、中級、下級の貴族のランクがある。どうやってランクが定まるのかはまだ未明なので語れないが、近いうちに知れるかもしれない。さらに下級貴族の吸血鬼の下は貴族の縁の下の力持ち、土台として支える一般平民の段。そして一番下なのが国の外から連れ去られた家畜として生かされている人間達。主に農産物や家畜の動物を量産、生産が仕事で一般吸血鬼にも血の提供をされている。
「教えてくれてありがとうなー」
「当然のことをしたまでだ。始祖の血の秘宝を持ち始祖の祝福を刻まれている者に無礼な真似はできん」
上級貴族の吸血鬼しか許されない城下町にいる美丈夫な吸血鬼と接触して、最初はプライドの高い人間の言動と態度をされたが、顔半分に付けられた紋様と血色の宝石を見て俺がベアトリーチェに祝福を受けた者であると知った途端に親切に教えてくれるようになった。
「ふーん、そうなんだ。じゃあお礼にこれを」
「・・・? なんだこれは」
「虹のゼリーだ。噛むほど数多の果実を食べているかのような味が・・・どう?」
「・・・・・マーベラス、とても衝撃的な甘みの品だ。このゼリーはまだあるか? あるならば分けて貰いたい。無論タダとは言わん」
「数によるけど、いいぞー」
吸血鬼が住まう大きくて高級な館にお邪魔させてもらい、たくさんのゼリーと交換する品として用意された吸血鬼のコレクションの中から数品くれることになった。
「うん? この絵画は・・・・・」
「ほう、慧眼だな。その絵画はその昔、魔法と錬金術を極めた人間が描いたとされている世界で数枚しかない大変貴重な物だ」
この・・・子供の落書きが、あの同棲している元魔王様が描いた絵なのか。
「作者の名前は?」
「ラプラスと言う」
「・・・・・その人、始まりの町で構えている俺の家に同居していると言ったら信じる?」
「俄かに信じられないな。かれこれ500年以上も前の話だ。普通の人間であればこの世にいない」
確かにこの世の者ではないな。賢者の石を宿した骨だから。
「じゃあ、これを一つくれるか。本人に見せてからうから」
「本人に見せる? 本気で言っているのか?」
「うん。あとは・・・・・」
交換に貰える品は絵画と何かの地図を手に入れた。
「この地図って何?」
「幻の都があるとされる地図だ。偶然手に入れた」
「幻の都? 行ったことは?」
「ない。途中まで行ってみたもの、上級貴族である私でも相性が悪すぎた厄介なモンスターが住まう『深淵の森』を通らなければいけない」
吸血鬼と相性が悪いモンスターか。どんなモンスターなのだろうか?
「どんなモンスター?」
「『霧の龍』だ。後は直接自分の目で見て来るといい。だが、戦う真似だけはするな」
美丈夫な吸血鬼と別れ、中級貴族が住まう下段へ向かおうとした時。エレベーターがある城の次に高い石造りの要塞に訪れ、中に続く門の前に立っている吸血鬼達に利用させて欲しいと話しかけたら。
「え、降りれない?」
「規則ですので。下の階に降りるにはこの国の吸血鬼か貴族の吸血鬼たる証明できるものがなければ利用できません」
「貴族に招かれた吸血鬼じゃない者が降りるには?」
「招いた貴族と同伴しなければなりません」
うおーい!! ベアトリーチェ、こういう仕様があるなら言って欲しかったかなー! 来るとき何も説明言ってないじゃんか、どうしようか・・・・・。
「よ、よかった・・・まだいました」
悩む俺の後ろからヴェアトリクスの声。安堵の表情を浮かべながら近寄ってきた。
「どうかしたか?」
「教え忘れていた帰り道の事で困っていると思いまして。どうやらその様子だと当たっているみたいですね」
魔方陣式エレベーターの前で俺と吸血鬼が話し合っている様子を見て把握した模様のベアトリクスが俺の横に並ぶ。
「彼の身元は私が保証します。よろしいですね」
「は、はっ! お通りなさられて問題ありません!」
敬礼する吸血鬼の横を通り、ヴェアトリクスと中段の階層へ降りた。
「すんなり通してくれた。やっぱ吸血鬼の同伴がないとダメか~」
「敵の侵入を阻む意味もありますので。魔方陣がなければ城まで来れることはほぼ不可能ですから」
「飛行能力がある相手には?」
「内側ならともかく、外側から飛行しての侵入はできません。姉様がいる限りは絶対に」
あー、里すら結界で隠していたらしいからこの国を見つけることも難しいのかな。
「ベアトリーチェがいなかった間はどうしてたんだ?」
「吸血鬼の霧で覆い隠しておりました。近くまで来た者には捕食の森で消えてもらいましたが」
長らくそうし続けたからぜってーそんな名前で定着しただろ。あんなにゴースト系のモンスターもいるのもそれと関わりあるんじゃないのか? と勘繰って中級貴族が住まう階層の町中を歩き下層へ目指す。
「ヴェアトリク。また会いに来るときはどうすればいい? 吸血鬼の同伴がなきゃエレベーター利用できないわけだし」
「問題ありません。姉様からにも言われ、魔王ハーデス様のみ城まで行き来できるよう手配をします」
「おお、そいつはありがたい。ありがとうヴェアトリク!」
「い、いえ、これくらいは当然ですので」
顔を赤らめて照れるヴェアトリクス。対照的に俺と彼女を見て頭を下げてまるで嵐が過ぎ去るのを待つようなNPC吸血鬼達。下層への魔方陣がある場所へ着くとさらにその下、吸血鬼の里へ下りることができた。
「あ、そういえば」
「はい?」
そして今思い出したことをヴェアトリクスに告げた。
「今この里を目指して向かっている大勢の冒険者が現れるんだが、そいつらが国に入国するのってどうするつもりだ?」
「ああ・・・姉様の突拍子的な件ですね。それについては下層まで入国を許可するつもりです。ただし、最初は里内で高い評価と多くの貢献をした者のみ厳選させていただきますが」
「中級・上級貴族が住まう階層へは?」
「彼等の目が留まる働きをし、使者を通して招待される他ありません」
なるほどなー。すっかり忘れていた事だったから少し気になっていたが問題なさそうだ。
「でも、働きって里で何かできるのか?」
「そうですね・・・交流すれば自ずと手助けしてほしい事を頼まれるかもしれません。里は高い城壁で囲い里を守っていますが決して安全ではありません。定期的にゴーストやリッチ、獣のモンスターが里内の人間を襲いに来ます」
ゴーストやリッチはともかく、あの高い城壁を飛び越えて来る獣のモンスターって・・・狼男でもいるのかな?
「では魔王ハーデス様。私はここで失礼させていただきます。また国にお越し今度は妹にも会って下さい」
「ああ、会えなかったな。だったら始まりの町で構えている俺の家にも遊びに来てくれ。人に訊けばすぐにわかると思う大きな木造の家だから」
「木造の、家? 城ではないのですか?」
「冥界に住んでいないぞ。俺は人間界の魔王になった人間だからな」
意外だったようでヴェアトリクスは目を大きく見張った。
「あの、では冥界には魔王が不在なのですか?」
「普通に存在しているぞ? 冥界と人間界、それぞれ魔王がいるって状況だ。ま、人間界の魔王様は敵対しなければ人間界を支配する気も、人類に危害を加えない優しさを持ち合わせている」
その言葉を言い残してヴェアトリクスを置いて門の方へ足を運ぶ。ホームに戻ってルルカに地図の場所を特定してもらったら直ぐに行こうかな。