ハスキーにソリを引っ張ってもらってから十数分も経った頃。目的の雪山に辿り着いたようでハスキー達が止まった。
「ここがいつも来る雪山?」
「ワンッ!」
「そっか、ありがとうねー。もう帰っていいよ。あのおじさんによろしくね」
ハスキー達が来た道へ戻りながら雪の草原を駆け走る。その姿を見送った俺達は雪山を登る。うん、個々は確かに来たことがあるな。フェルを呼ぶ笛を鳴らしてフェルを召喚。
「フェル、これからキツネと九尾の狐に会う。一緒に行こ」
「グルッ」
『フェンリルがキター!』
『いいなーフェンリル。俺も幻獣欲しいけどフェンリルが欲しいんだよなー』
『綺麗な毛並みー。触ってみたーい』
しばらく雪道を登ったり下ったり、途中でNPCの動物を発見、スクショしながら歩いてしばらく、久方ぶりに来た村の集落に着いた。
「着いたー!」
「着きましたー!」
雪国ならではの農村の景色と光景が目の前に飛び込んできた。さっそく村に入ると沢山の狐が伸び伸びと過ごしていて、ここまで来なかった俺が気付くことも知るはずもなかった。
「雪国でたくさんおキツネ・・・・・あの歌を思い浮かべるのは自分だけ? 歌った人、ルーって言って?」
『ルールルー!』
『ルルールー』
『ルール―♪』
『ルンルンルー!』
「意外と沢山いた!」
「ハーデスさん?」
「ああ、イカルに教えていなかった。いま配信中で他のプレイヤーが俺達のやり取りを見ていて、一緒に楽しんでいるところなんだ」
「ふえっ!?」
『いま、俺達の文字は配信者以外見えない状態だから、イカルちゃんが気付かないのも当然だわ』
『白銀さん。このまま続行で村長のところに行って―』
「村長? 場所は?」
『案内するよー。会ったらすぐに泊めて欲しいとお願いするんだ』
『後で発覚した時間の短縮方法だな』
『さすがの白銀さんもこれは知る由もない』
「自慢かな? 別にいいけど案内よろしくねー、お兄ちゃんとお姉ちゃん達」
『よろこんで! 何ならイカルちゃん共々僕のお家にも案内してあげちゃうよ!』
『おまわりさんこの人です』
『アメリカの犯罪者がここにいます』
『ロリコンは死んでちょうだい。お姉ちゃんの私が私だけのロリを守るわ』
『邪魔だどけ! 俺はお兄ちゃんだぞ!』
『いま追放申請したった』
うーん、話が進まないな。楽しんでいるのはわかるが。取り敢えず適当に歩くと村長までの方角を教えてくれるプレイヤーの中に、おふざけで糞尿を溜める肥溜めの場所に案内された時は。ちょっとこれはないと怒りが湧いた。
「・・・・・全員のプレイヤーの名前を教えて。見守り隊や従魔ファンの皆に捕まえてくれたら、この肥溜めにぶち込むから」
『凄くごめんなさい!?』
『よ、幼女とは思ない人をゴミのように見る据わった目を・・・!?』
『フェンリルの方も主の感情の察知しているのか、静かに牙を剥いているしー!!』
『無駄な時間を使わせて申し訳ありませんでしたー!!!』
『イカルちゃんも無表情になってるー!!!』
『お、俺はちゃんと村長までのルートを教えているから怒らないで!?』
「じゃあ、ちゃんと村長までのルートを教えたって言ったプレイヤー以外、村長の家に着くまで今から黙ってて。おふざけも無し、厳守で」
『わ、わかった・・・・・』
『おい、今から黙ってろって言われただろ』
『そう言うお前もだよ!』
「謹聴」
『・・・・・』
『・・・・・』
『・・・・・』
『・・・・・』
『・・・・・ぃぇーぃ』
『・・・・・ぅぇ~ぃ』
「・・・・・(# ゚Д゚)」
配信動画をブッチ切った。しょうがない。自力で探すとしようか。幸い、出歩いているNPCがいるし聞き込みすればすぐにわかるだろう。
「イカル、あの人から村長の家を尋ねに行こうか」
「はい、ハーデスさん。すみませーん!」
最初の一人目に訪ねたら直ぐに場所を教えてくれて、俺達をふざけて違う場所へ案内したプレイヤー共よりもこうすればよかったと心から思った。
「すみませーん」
辿り着いた村長の家の前でコンコンと木製の扉を叩くと老人が出てきて視線を俺達に落とす。
「・・・・・ようこそ、旅の方かな」
「泊めてほしいです」
「うむ泊まっていきなさい」
これでいいのか? 一応教えられたとおりにやってみたが。すんなりと中に入れてくれて、寛いでいるキツネがいて俺達は目を輝かせた。
「あの、触っても?」
「いいとも」
「やった!」
さっそくイカルが触る。その間に俺は村長から九尾の狐の話を聞きだすとクエストが発生した。パーティに組んだイカルの方も発生したようでYESを押すとストーリーが。内容は以下の通り。
村にも作物を盗みつまみ食いするモンスターが現れた。それが九尾のキツネ。手下のキツネ達と人目を盗んで作物を食べる食いしん坊達をこらしめてほしい―――。
5分後・・・・・。
「よし、キツネ探しの開始だ」
「はーい!」
「フェル、キツネを探せるか? たくさんいるキツネをだ」
「・・・・・」
「フェル?」
訊ねたフェルが村の方へ視線を送った。釣られて俺も村を見るが、変わった様子はない農村に分らないでいるとフェルが案内する風に歩き出した。イカルと一緒について行く。
「食いしん坊なキツネだって。どう思うイカル」
「キツネさん達、お腹が空いているのかな?」
素朴的な疑問を口にするイカル。俺はその発想をすぐに浮かべなかったからイカルに感心した。
「雪山だからな。食べる物が極端に少ないんだと思うよ。あるとすれば人間が育てているたくさんの作物ぐらいしかないから、九尾のキツネ達も生きるために盗むしかないと思う」
「じゃあ、町で貰ったおもちとあんことおしるこ、あげちゃいます!」
おー、いい考えだなイカル。もしかするとそれがキーなのかもしれない。
「そうだな。俺達だけじゃ食べきれないし、誰かにあげる方がいいか。でも・・・・・」
「でも?」
「キツネっておもちとおしるこ、どうやって食べるんだ?」
「はっ、そうでした!?」
あんこもち・・・・・はいけそうか? と食べさせ方を考えているとフェルが足を止めて動かなくなった。俺達も止まり、フェルが見る先の方へ視線を送ると雪で積もった草木や地面の山奥から一匹のキツネが現れた。額に菱形の黒い模様があるくりっとしたつぶらな瞳をこっちに向けて来る。
「キツネさんだ!」
「おー前回見つけれなかったから初めて見るなー。でもイカル、近づいてはダメなんだよ」
「え、どうしてですか?」
「キツネは警戒心が強いんだ。こっちから近づくとすぐに逃げちゃう」
一歩前に足を踏むと、軽やかな動きで後方に跳躍して離れるキツネ。
「ね?」
「じゃあ、雪山のキツネさんはあんことおもちをあげても触れないんですか?」
「俺達が安全なのかまだ知らないからな。だからこういう時は・・・・・」
座って待つ。自分から近づいて身体を触れさせてくれるのを。イカルにそう説明した。
「でも、座ってばかりだと退屈だし、いい感じに満腹度も減っちゃってるから先に食べちゃおうか」
「食べます!」
「フェルもあんこもちって食べられるかなー」
【神匠の衣】を装備して朱雀の一撃の炎を耐えきってみせた古匠の工房兼ホームを出し、中で温め直す。
「わぁ・・・・・」
おしるこの甘~い匂いが瞬く間に充満して開けっ放しの扉の外へまで出て行く最中、イカルの目が甘い物好きな女の子の目となって一緒に台にしている椅子に立って隣から見ている。よしよし、程よく煮だってきたな。さーてお次は、七輪を出しておもちを~と?
「イカル、後ろ」
「はい?」
出入り口の方へ見ると数多のキツネ達が中に入ってこない代わりに、入り口の外側の方からこっちをジーと窺っていた。最初は目を丸くしていたイカルは次第に喜色に顔を輝かせる。
「キツネさんが、いっぱい!」
「甘い匂いに興味深々みたいだね。・・・お前達も食べたい?」
何て何となく聞いてみたら、ケンッ! コンッ! などの声がたくさん鳴いて聞こえてきた。聞いた話通り、食いしん坊なキツネ達のようだな。
「じゃあ、おもちをたくさん焼くから待っててー?」
そう言うと、キツネ達は一斉に頷いた。中には舌なめずりしてるし、辛抱が堪らなさそうだ。
「・・・なんだろう、今なら触れられそうなチョロいキツネ達だ」
「チョロい?」
「簡単って意味だよ」
「チョロい、わかりました!」
新たな知識を得たイカルとおもちを全部焼く。イカルには焼けたおもちは温まった寸胴鍋の中に入れてかき混ぜもらい、俺はあんこ持ちにしていく。海苔もあるからそれも巻いて醤油を付けてっと。
「おもち、美味しそう」
身近にも食いしん坊がいた。さーて、そろそろ許してやろうか。
「観覧を許可するよ。みんな集まれー」
『待った甲斐があった!?』
『先ほどおふざけをして申し訳ありませんでしたー!』
『お許しを幼女神様ぁー!』
「次、誰がしても否応なく死神の宴は二度としないからそのつもりで」
『以後気を付けます!!』
『肝に銘じておきます!!』
『ところで時間的に見つけたと思うけれどまだ村長の家に居るの?』
「もうキツネと会っているよ。いま餌付けの準備中。ほら」
『あんこもちにおしるこに磯辺焼き・・・お、美味しそうっ!』
『今作れているのこれだけ?』
『ううう、ダイエット中なのにここで飯テロされるなんて!』
「もち米が手に入ったらそれから幅広く作るつもりだけど、最初からおもちだからこれぐらいが限界。そんなわけでこれから食いしん坊なキツネ達に餌付けをしていきまーす」
『本当に餌付けをするんかい!』
『前、料理でフェンリルをテイムした料理人プレイヤーがいるって噂、本当だったりする?』
「それ、私が付き添ったから本当よ」
『ですよねー!!』
『ちょっと待って、本当に白銀さんのフェンリル以外まだいるの?』
『それが事実なら場所を教えてほしいんですが』
「まだいるよ。しかも群れな。でも場所は教えれないよ。ネコバスに送ってもらって行けるフェンリルの群れがいる場所は、私もよくわからん場所だし」
『そうなんだ。でも、どこかのエリアにいるってことなら絶対に探せない場所ではないかな?』
『というか、そのネコバスに乗せて連れて行ってくれない?』
『個人的にただ乗ってみたい!』
「それを身内以外したら後が絶たなくなるだろうが。しかもフェンリルからの好感度が下がりそうで教えたくない。空から東方面に行けば何時か会えるんじゃないのか?」
『徒歩では行けない場所ってあるの?』
『NWOのエリアとかフィールドは本当に広過ぎるから誰も端まで行っていないと思う。だからそう言う場所があるのかも不明だぞ』
『だったら北方面の港から沿って探索してみようかな』
『取り敢えず東方面だな。探してみよう』
頑張れー。さてさて、喋りながら準備をしたからこれで終わりだ。寸胴鍋を【飛翔】で宙に浮いたまま持って外へ出ると。
「えええ・・・・・?」
『えええ・・・・・?』
『えっと・・・・・』
『ナニ、コノジョウキョウ』
『すっかり囲まれていますねぇー』
右を見てもキツネ、左を見てもキツネ、前方を見てもキツネの群れがたくさんおります。何なら工房の屋根の上にまで陣取っているキツネもいる。しかもお椀を銜えていたり、足元に置いているじゃん。
「えーと、数に限りがあるから、食べたい物は一個だけだよ。いい?」
頷くキツネ達に最初は磯辺焼きを配る。それが終わると次におしるこ。最後にあんこもちを配って行く。
「これで全員か? それじゃ、皆食べていいよー」
「いただきまーす!!」
集まったキツネ達が一斉に食べ始める。おしるこの方は熱くないのかね? 猫舌・・・キツネに猫舌なんてなるのか分からんが、まぁー美味しそうに食べちゃって。
『律儀に待つキツネ達の光景を見ることになるなんて』
『もうこの際だから言っちゃわない?』
『そうだな』
『じゃあネタバラシ解禁! 白銀さん、一応そのキツネ達はモンスターだけど誰もテイムできた試しはなかったよ』
「理由は?」
『警戒心強すぎて九尾のキツネ以外近づけれなかった。そして絶対に回避されてしまうからだよ。状態異常も通用しないんだ』
『だったら九尾のキツネならテイムできるんじゃないかって挑戦したプレイヤーが後を絶たず、お供のキツネ達に翻弄されて死に戻りするのが当たり前なんだ』
『ちな九尾のキツネは雪山の頂上にいるけど、白銀さん達がいるところはまだ序盤でしかない。そこにいるキツネ達とは戦うことはできるけど、基本的に頂上まで攻撃せずスルーするのが正解なんだ。絶対に避けるキツネをどう倒せと?』
『頂上行けば九尾のキツネ+数十匹のキツネと同時に戦わなければいけない鬼畜なクエストだったんだ』
「これが・・・・・鬼畜?」
「わぁっ! わぁー!!」
俺とイカルはおもちを食べ終えたキツネ達に群がられ、白い毛皮の塊と化した。全身という全身がキツネ達に包まれて凄く温かいのですが。
『こ、これは伝説のキツネフェスティバル!?』
『う、羨ましィー!!』
『やっぱり白銀さんは俺達の想像を超えることをしてくれたぁー!!』
『俺もそのフェスに交ざりたーい!!』
『今やっと現地に到着! あるはずのない小屋の影から見てるけど、二つの白いモフモフの塊が蠢いているぞ。大丈夫なのか?』
『下手に手を出さない方がいい。というか、現地のプレイヤーは何もしてはダメだ。最後まで見守っていろ。今度は恐ろしい魔王として白銀さんがまたブッチするぞ』
『りょ、了解・・・・・あっ』
『あっ』
『あっ』
あっ? 視聴者の皆が何かに気付いた様子。それが何なのか判らない間にずしん、と地面がわずかに揺れた。その揺れは、少しずつ近くなってる。これは、やっぱり・・・・・。キツネ達も何かを見て怯えて止まっている。
ぬっと、奥の方から出てきたのは、大きなキツネだった。九本の尾を持つ巨大キツネ。間違い無く、九尾のキツネだ。森の奥から現れてなんか怖い顔をしていらっしゃる―――。
『キツネの親分! コンちゃーす!』
『九尾さんコンにちは。結婚しよう』
『九尾の尻尾の付け根に住みたい』
『キツネ好き湧き湧き』
胸毛が桃色のハートマークのフェル並みの大きさの真っ白い九尾のキツネ。他のキツネ達が一斉に逃げ出してしまい、俺とイカルだけ残された。だけど肝心の俺達は?
「「おー・・・・・」」
モデルはおそらくホッキョクギツネだろう。だけどキュートなハートマークの胸毛と穢れを知らない真っ白な白毛。鋭い眼光を放つ目の色は澄んだ青色。身体に桃色の羽衣を纏って・・・・・おや、九本の尾先に青白い炎が。
「イカル、無抵抗で受け止めるぞ。スキルも無しだ」
「はいっ」
『え、本気で言ってる?』
『あの炎、狐火って食らうと燃焼ダメージを食らうんだけども?』
『まぁ、どうなるか見守ってみよう』
『ていうか、何で頂上から降りてんの!? 頂上で待ってるボスモンスターでしょうがっ!』
『そりゃ、甘い匂いに誘われて?』
『白銀さんやイカルちゃんがいるとイレギュラーが起きますなぁ!』
おう、見守ってろ。そして九尾のキツネは九つの炎を俺達に向かって放って来た。抵抗せず受け止める姿勢の俺達だったけど、後ろから同じ数の炎が飛んできて青白い狐火とぶつかって相殺された。
『えっ!? 誰だ、プレイヤーか!?』
『いや、俺じゃないぞ! い、今起きた事を説明する! 親分の攻撃を受けようとした二人を逃げ出したキツネ達が戻って守ったんだ!』
『何その展開!? 一食の恩返しなのか!』
うーん、こんなことになるとは想像しなかった。本当に受け止めて自分達は戦いに来たんじゃないと説得するつもりだったんだがこうなるとは・・・・・。目の前で怯えながらも九尾のキツネに威嚇するたくさんのキツネ達を他人事のように見る俺とびっくりするイカル。そして仲間の裏切りに動揺を隠せないでいる九尾のキツネ。
「今ならいけそうか?」
残っているあんこもちの一つを持って九尾のキツネの前に寄る。遅れてイカルとフェルもついてくる。
「九尾、話をしに来たんだよ。戦いに来たわけじゃないよ」
「・・・・・」
「町の人達から食料を盗んでつまみ食いしていたり、村の人達が頑張って育てている畑の作物もつまみ食いしちゃダメ。言っとくけどこの場にいるお前達もだよ」
コヤッ!? と自分達も注意されてしょんぼりするキツネ達。なんか可愛い。
「だけど、お腹空いているからつまみ食いするしかないんだよね。雪山だから食べ物も少ないから」
うんうんと頷くキツネ達。やっぱりそうだったのか。なら・・・・・。
「だったらはい。九尾の分のあんこもち、食べていいよ」
「・・・・・」
『見て判るほど困惑していらっしゃる』
『言葉だけでモンスターを説得できるの?』
『見てれば判る』
『絶対にサスシロ案件でしょー!』
「・・・・・コン」
「グル」
九尾のキツネとフェルが短く会話を交わした後、俺の手からあんこもちを銜えて食べてくれた。味の感想は聞くまでもなく、恍惚の表情を浮かべ舌なめずりした。
「まだ食べる? まだ余っているよ?」
「!」
何度も首を縦に振る九尾のキツネ。俺とイカルとフェルの分を残して全部食べさせると満足してくれたのか頭を俺に寄せて擦って来る。そしてメッセージのパネルが目の前に表示された。
「あ」
『あ?』
『あのー、まさか? まさかなのか?』
『報告はよ、はよ!』
『結果は何となく察するけど直接聞きたい』
「うんと、テイムできた。しかもこの南極のクエストが解放された。というか発生した」
『クエスト!?』
『ちょっと待って、九尾のキツネをテイムすることがトリガーだったのか!』
『新大陸の南極の新しいクエスト! 内容は!?』
その内容がさぁ・・・・・。
「週末で南極に来たプレイヤーなら、一度は見たことあるあのドラム缶のような、山にすむ氷の魔女の侵攻。その対象となる国の防衛だって」