現在敵のレベルは30を越えて34。ここまで上り詰めたプレイヤーは俺達以外おらず未知数のモンスターと戦いに強いられていた。先に南極のモンスターを見て回った俺ですら、確認していないモンスターに苦戦を強いられていた。その理由は全部が鳥モンスターで―――。
「ハーデス、私達を無視するどころか壁や門に張り付いて攻撃してるわ!?」
「あ、あっ、れ、連続で突っついてる!」
「わ、わぁー!?」
キツツキとハチドリを合体させたような数十の鳥モンスターが、イズの言う通り俺達を無視しては嘴で何度も穴を穿つ勢いで突くので、耐久値が鹿よりもかなり減らされていく。
「【相乗効果】【悪食】【大嵐】【渦流】!」
同時に高い危険度のモンスター故に一撃で葬らないといけない。初めて使う【渦流】で壁や門から鳥モンスターを引き剥がして必死の【大嵐】に引き寄せて倒していく。スキルの組み合わせ技は楽しいな。この機にもっと開拓してみよう。次はいよいよ35レベルのモンスターが出てくるが、相手は中ボスだ。どんなボスが出てくることやら・・・・・。奥の森林から巨大な影が跳んで俺達の前に現れた。軽く地面を揺らして着地と同時に巻き上がる大量の雪煙で姿は隠れるが、モンスターの咆哮でそれが吹っ飛んだ。
「ウッホーッホッホッホー♡」
鳴き声からしてゴリラなのだが、筋骨隆々な四肢と胴体はパワーファイターであることを窺わせるのは問題ない。問題は外見だ。桃色な体毛に包まれている首から下は許容範囲としてまだ許される。色違いのユニークと、認識できるから。問題は頭部の方は金髪のツイン縦ロールに赤いリボンを付けていて、俺を見てハートマークが浮かんでいる乙女の瞳にぷっくりとしたたらこ唇。筋肉を鍛え上げた結果盛り上がった大胸筋を包むピンクのワンピースを着ているのが問題だった。
「ウッホー、イイオス!」
「え、今喋―――ちょぉおおー!?」
「オスオスオスオスオスゥッー!!」
たらこ唇をゴムのように伸ばし突き出してくるメスゴリラの不意打ちを交わした矢先に、一瞬で懐に飛び込んできて剛腕の両手で捕まえようとして来るモンスターから躱す、避ける、逸れる。すると尻尾がない筈なのに股下から第三の手を生やして俺の不意を突いて足を掴まれた! ―――ヤバいッ!?
「【海竜人】!」
すぐさま性転換して女になった瞬間。メスゴリラはピタリと停止した後、足を掴んだ手を放して「チッ何よ、オスじゃなかったのかよシラけたわ」的な不満気な顔で、俺を見ながら地面に唾を吐くと森林の方へ踵返して歩き出し、またこっちを見て舌打ちと唾を吐いて今度こそ俺達の目の前から去っていった。
「あのモンスター、一体何だったの?」
「男、オスのプレイヤーが好きなモンスターであるのは間違いない」
「えっと、変わったモンスター、だね?」
「・・・・・」
「待って? つまり男しかいないパーティーはどうなっちゃうのドラくもーん」
「そうだねー。ボク達は襲われるかもしれないよタビノ君」
「はっ!? だ、誰かこの中に幼女になれるプレイヤーはいますかー!? あのゴリラ対策に幼女だけのパーティーを募集するぜー!!」
「ここにいるぞー!」
「うわぁあああー!? 持ってねーよー!」
「いや待て! ゲージの方は50%越えている! 誰かが後5回ぐらい11ウェーブを乗り越えてチャレンジを中断してくれたら扉が解放されるぞ!」
「しょっぱなから、それからも5回連続も鹿が出るのにー?」
「ていうか、そう言うならお前も行けよ! 一回も戦っていないだろう!」
「戦ったわっ! めげずにあのトラウマを乗り越えようと頑張って負けた俺に文句あっか(涙)!?」
「いや、泣くなよ。涙ふけって・・・・・」
「・・・・・なんか、ごめん」
貞操の危機が去ってから30分後―――。レベルは50代にまで達することができたところで異変が起きた。まだ戦っている最中なのに目の前にいた氷の魔法を使う女型のモンスター達が突然消え、拠点に戻されたのだ。ポカンとその場で立ち尽くす俺達に周囲のプレイヤーが労いを掛けてきた。なので理由を訊いた。
「どういうこと?」
「白銀さん達が拠点の防衛のゲージを100%まで増やしたんだ。ありがとうなー」
「ああ、あの時点でそこまでね」
理由が分かった時、閉ざされていた正面の門が開きだして次の拠点とその間の雪原の光景が解放された。休む間もなく俺達は二つ目の拠点へと足を運んだ。
「今時間は?」
「まだお昼にもなってないわ」
「防衛戦にもまだ挑戦できるよ」
「私もまだ疲れていませんから、もう一度戦えますっ」
と、言うことは他の皆も今頃は二つ目の拠点の防衛戦を挑んでいるだろうな。
否―――。
「ちょっと三人共! しっかりしてよー!?」
「そんなこと言ったって・・・よっ!」
「何で何度も俺達ばかり狙うんだこのゴリラは!?」
「俺達のスキルや武器の攻撃が通じないモンスター。かなり厄介だな」
ペイン達は30レベル台のウェーブを迎えた途端、出現した目にハートマークを浮かべた三体のメスゴリラにペイン、ドラグ、ドレッドは執拗に襲われフレデリカは完全に無視されていた。ならばと魔法を放つもダメージの効き目はあまりなかった。
「うー、私達よりレベルは低い筈なのにどうして倒せないのかなー!?」
「・・・レベルが低くて防御力が高い。こういう手合いの相手って、なーんか妙に覚えがあるんだがな」
「奇遇だな。俺もある奴が浮かび上がった」
「ハーデスと戦っている気分だね。ということはレベルに反してステータスが俺達と同様に高いモンスターに運営は設定したのかもしれないな。こういうモンスターは新大陸にもいると想定した方が無難かもしれないよ皆」
ペインの言う通り。運営は旧大陸ではさくさくレベルを上げてステータスを向上させる易しい難易度にしていたが、新大陸は全くの逆。ステータスだけがプレイヤーの平均の数値より10倍も20倍も設定してレベルは低くしてある。そしてAIにも強化した。戦いならがダメージを食らう前提のモンスターではなくなり、危険を察知したり回避行動を取るように設定を施したのである。
「って、話している場合じゃない! もう次のウェーブが、モンスターが来てるよ!」
「くそったれっ! 俺達が手も足も出せねぇモンスターがここに来て現れるなんて!」
「だが、俺達の戦いは無駄ではないさ。あと2、3回で次の拠点に移動できる」
「撤退するぞ。仕切り直しだ」
第1サーバーに転移されたペイン達プレイヤーは30手前でメスゴリラによって足止めを食らいながらも防衛ゲージを増やし続けて行った。
「うりゃー!」
第9サーバーにて、炎の巨人が雪原に転がり壁や門に迫るモンスターを巻き込んで轢いていた。おまけに雪原の雪も溶かしてるので足の不自由さも解消されている故に、イッチョウとサリーの【AGI】が活かされていた。ウェーブ49回目で出現したホワイトタイガーの群れと交戦中。
「今頃ハーデス君とイカルちゃん達は今ごろ次の拠点に行っているかもねー」
「パーティーの編成的には防御力が一点突破しているでしょ。逆に私達は攻撃力と防御力に敏捷がちょっと高い程度だけどバランスがいいパーティーだけどね」
16の破壊と死を齎す大鎚を振りまくユイとマイの前でモンスターが面白いぐらい吹っ飛んでポリゴンと化していった。メイプルも負けないぐらい炎の巨人の姿でモンスターを踏み潰していく。
「よし、これで終わり!」
イッチョウのダガーが最後に飛び掛かって来たホワイトタイガーの懐に潜り喉を突き刺した。
「次はいよいよレベル50台か・・・・・第二陣の皆がレベルを下げらずにいたのが幸いだったよ」
「そう言う割にはイッチョウのレベルはあっさり私達より高くなっているけど?」
「あははー。ハーデス君のおかげかな? 勇者の称号以外にもハーデス君が頑張ってくれるだけで何もせず私に2倍の経験値が手に入るからさ」
「何その裏技めいたの」
「裏技ではないよ? ある種の特権だよ。サリーもお願いしたらハーデス君から2倍の経験値が貰えるようになれるよ」
どんなお願いなのか気にならないのは嘘である。試しに訊いたら、耳元で囁かれた答えがサリーの顔を紅潮させた。
「な、それっ!?」
「ゲーマーのサリーならもう知っているはずでしょ?」
「そりゃあ、調べたから知っているけど・・・二人はゲーム内で・・・・・」
「うん、結婚しているよ。そのおかげでさくさくとレベルが上がって強くなれるんだよ。まぁーハーデス君には敵わないけどねー」
「ゲーム内で、結婚してリアルではなんか影響とかでないの?」
「割り切っているからお互い変化は無いよ。結婚したからって夫婦らしくしなくちゃいけないわけじゃないし、リアルでも変わらない関係を継続している方だよ」
あっけらかんに述べるイッチョウにサリーは複雑な気持ちになる。結婚できるゲームはたくさんある。だがそれはプレイヤーがコントローラで操作して、軽い気持ちで結婚を促しているだけに過ぎない。しかしこのNWOはリアルに基づいたVRMMOAPGだ。コントローラではなく第二の世界、ゲームの世界で己自身が相手と結婚する意思を持ってしなくてはならない。イッチョウはその意思や覚悟を軽い気持ちでハーデスと結婚したことにゲーマーとしてサリーは微妙な気持ちを抱いてしまった。
「―――でもねサリー」
「え?」
「好きでもないプレイヤー、ましてや男の人と軽い気持ちと覚悟で結婚なんてハナから私はする気はないよん。心と身体だって大好きな人にしか許さないしね」
イッチョウの目がマジであった。
「サリーがハーデス君と結婚しようと私は全然オールオーケー、構わないよ。だってゲームの中での話で現実世界の話じゃないもん。でも、仮に現実世界でもそう願うならその瞬間はライバルだよサリー」
「―――――」
あの人は、絶対に誰にも渡さない。例え蒼天の四人の王だってもだ。その言葉だけは内心で呟き呆けるサリーの横で次のウェーブに備えるイッチョウ。遅れてサリーも思考を切り替えて目の前の戦闘に集中する。