第二の拠点はNPC達が不在の無人の町だった。プレイヤー達は我先と誰もいない家で一息をつきたい思いで不法侵入&一時の拠点にしていく最中。何となく迷路のような裏路地を通り歩を止めないで行くと、俺達の目の前にポツンと構えている石造りで頑丈そうな家を発見した。ノックをしてしばらく待っても、誰も出て来ず施錠もされていないのでお邪魔させてもらうと・・・・・。
「あ、鍛冶師の家だ」
「本当ね」
「南極大陸に住む鍛冶師の工房・・・・・」
金床、炉、鎚、鞴、鍛冶の仕事に欠かせない道具が他にも勢揃いだ。だが、少々埃っぽい。魔女の軍勢が迫っているから安全な場所に避難してから、一度も帰って来られていないようだ。
「この家を借りる? ハーデス」
イズがそう聞いてくる。俺達以外のプレイヤーも一時的な拠点のための家探しをしている。俺達もそうするべきなのかもしれないが・・・・
「いや、止めておこう。これまで俺達が交流した鍛冶師のことを考えるとな」
「そうだね・・・・・無断で他の人の家で寝泊まりするのは申し訳ないし」
「私もそう思います。勝手に人の家に入るのはダメです」
「イカルもこう言うわけだしな。でも、出る前に少しは触らしてもらおうか」
「ハーデス?」
どこにあるかなー・・・・・お、あったあった。
「皆には悪いが、ちょっとだけ手伝ってくれ。清掃をしたいんだ」
工房にあったバケツと汚れた雑巾は、使えないのでインベントリから出した布を水に濡らす。それで工房のところだけを掃除する俺をイズ達も手伝ってくれたおかげで、時間を掛けながらも薄汚れていた工房は綺麗になった。
「ふー、綺麗になったわね」
「うん。同じ鍛冶師としてやっぱり綺麗な状態で使いたいから、念入りに掃除しちゃった」
「イカルもありがとう」
「はい、お姉ちゃん!」
手や顔は汚れや煤まみれだが、気持ちは達成感で満足してたから気にしなかった。さて、改めて外に出よう―――。
ガチャ。
扉が開く音。他のプレイヤーもここに来たのかと振り向いた俺達の視界にはNPCのアイコンを浮かばせる筋骨隆々の精悍な顔の中年男性が立っていた。
「誰だ。勝手に俺の家に入りやがって」
「あ、この家の鍛冶師の人か? ごめんなさい、工房を掃除していただけなので直ぐに出ます」
「掃除だと? 俺の仕事場を勝手に触れたってのか!!」
「それについても申し訳ない。なんせ工房が埃まみれで、綺麗にしたい気持ちが強くなった。知り合いの鍛冶師と交流している身としては見て見ぬ振りができなかったんだ」
深々と頭を下げる俺に釣られてイズ達もペコリと頭を下げた。NPCは俺達からピカピカな工房を厳しい目つきで見て、鼻で笑った。
「人の道具を触る割には丁寧に磨いてくれたようだな。鍛冶師じゃなきゃ扱いも分からん物も、手慣れていなきゃここまで綺麗にはならない。そこの女二人は鍛冶師だな」
「え、ええまだ匠の鍛冶師だけれど」
「ほう匠か。俺は名匠のヴェルンドだ」
名匠ヴェルンド・・・・・。
「お前らはこの国の人間ではないな。大方、魔女の軍勢を阻止しようと駆け付けた異邦の人間だろう」
「その通りだ。次はここの拠点を守りに来た」
「はっ、守りに来た割にはお前ら以外の人間は好き勝手に不法行為しているな。あれか、この国を守ってやる代わりに傍若無人な振る舞いを許されると思っているのか?」
「それについては何も言えない。寒い南極の外気で我慢強く野宿できる精神の持ち主じゃないからな。私達が何を言っても無意味だろうし説得力もないだろうが、それでもここの拠点の防衛が成功したらすぐにでも全員ここから離れる。それまでどうか借りさせてもらう他ないんだ」
ヴェルンドと睨み合う風に視線を合わせ対峙する。
「ここから離れてもまた次の国の町で同じことを繰り返すようなら、飢えた獣と同様だぜ」
「次の国の町にも無人じゃなければそうはならない。だけどそれを知る術は私達にはない」
「ああ、確かにそうだろうな。なんせここから次の国までは一日も掛かる。他の国がどうなってんのか俺を含め安全圏に避難している他の連中も知る由もない」
「え、一日も?」
イズが目を丸くする。俺もそこまで時間が掛かる場所が次の拠点とは思いもしなかった。これ、もしかしたらただの防衛戦ではないな? 防衛する拠点の数は分からないが、悠長にしていられないかもしれないぞこれは。
「お姉ちゃん。一日も掛かるなら防衛戦した方がいいじゃないですか?」
「そうねイカル。そう言うわけだから名匠ヴェルンド、私達はもう行くわ。勝手に家に入って勝手に掃除しちゃってごめんなさい」
「「失礼します」」
ヴェルンドの横を通り外へ出ようとする俺達を、あろうことかヴェルンドが阻んできた。
「待て、まだ話は終わっちゃいねぇ」
「まだ何か?」
「人の家と工房に入ったことに関しては遺憾だが善意で工房を綺麗にしたことで水に流すが、次の国まで一日も掛かるがたった一時間で行ける方法を教えてやらんでもない。教えてほしいなら条件がある」
たった一時間で? イズ達に目を配り、話だけなら聞いてもいいと頷くのでヴェルンドから課す条件を訊いた。
「条件って?」
「異邦の地から来たお前達は知らないだろうが、この大陸にはある鉱石が眠っていると言い伝えられている。俺みたいな鍛冶師の間ではそれを聞いても見たことも触ったこともない鉱石だ」
「うん」
「俺はその鉱石をどうしても欲しい。だからお前達で手に入れてほしい。そしたら俺のところに持ってきて渡してくれるなら秘密の方法を教えてやる」
どんな鉱石なのか俺達は分からないが、イズとセレーネが顔を輝かして大変興味深々。
「その鉱石の名前って?」
「―――アポイタカラだ」
「それか。持っているよ。はい、これでいい?」
無造作にインベントリから出したアポイタカラ鉱石。反射的に俺が放り投げたそれをヴェルンドは両手で受け取り、目がアポイタカラに釘付けだ。
「こ、これがアポイタカラだって・・・・・?」
「深海の断崖絶壁にあった」
「あの極寒の海の深海まで潜ったのか!? 俺が聞いていたのはこの大陸の主の巣の奥にあるって話だったのに!」
大陸の主とな・・・・・?
「もしかして、空飛ぶ白いクジラのこと?」
「なんだ、もう見たことがあるのかお前達。ああそうだ、あのクジラはこの地を守る守護神のような存在だったんだが今じゃ魔女の手下になっちまっていやがるんだ。一度見つかれば喰われるまで追い続けてくる化け物だよ」
・・・・・ほう? あのクジラの巣か。興味あるぞすーんごくな。
「一応聞くけど、守護神だったクジラを倒すと困ることってあるか?」
「そりゃあ、この地の人間なら誰しも昔は崇拝と信仰をしていた守り神みたいなもんだ。殺されると悲しむやつもいるが、犠牲になった奴も少なくはない」
とても複雑な気持ちを抱えているようで顔にも出すヴェルンド。
「魔女の手下になっているってんなら、その魔女を倒せば何とかなると思う?」
「わからねぇ・・・だが正直に言えばまた守り神に戻って欲しい気持ちはある。お前達ならできるか?」
「期待させる言葉は持ち合わせてないよ。だけど、魔女だけは絶対に何が何でも倒すつもりだ」
「・・・・・魔女をか。そう言ったやつは今まで誰一人いなかった。誰もがそんなこと口にしても魔女の前では無意味だと悟っているからだ」
昔はいたんだろうが、全員魔女の手によって葬られたかもしれないよな。デュラハンのようにモンスターに変えられた騎士もいるかもしれない。
「だが、俺の前で啖呵を切ったお前やお前の仲間ならもしかするとって変な気持ちが湧いてきた」
ヴェルンドは家の奥へと姿を消して、直ぐに羊皮紙を持って戻って来た。
「アポイタカラと交換だ」
「・・・・・地図か」
羊皮紙を広げると今いる国と他の国が記されていて、そこまで行く最短のルートも描かれている。ヴェルンドは地図に指でさす。
「この辺りに洞穴がある。中は凍った道があってな、その氷の道をソリで滑って行けば一時間で次の国を全貌できる山の中腹に出られる」
「その途中でクジラと出くわす可能性は?」
「安心しろ。まったくない。人一人分が通れる程度の大きさしかない洞穴で一本道だ」
「あの、ソリ無しで滑って行ったらどうなるの?」
「背中やケツが凍ってもいいなら滑られるぞ」
耐性が必要なんですねそうなんですね。
「因みにクジラの巣は?」
「すまん。それだけはわからない。又聞きをした程度だから居場所は知らないんだ。が、王族なら知っていると思うぞ」
「王族って魔女のこと?」
「あれは違う。確かにでっかい山の上にある城に住んではいるが、この大陸を統治しているのは二つの国だ」
あれ、スケールが大きくなってはいないか?
「片方はここ、スノウリー王国。もう片方はアイムソウリー王国だ。が、国同士で大陸の覇権を掛けた戦争をしているから、厄介な政治戦争に首を突っ込まないようにな」
「え、こんな状況なのに?」
「こんな状況でもだ。だから王国から兵が派遣されず魔女の軍勢に俺達は脅かされているんだ。まったくいい迷惑だぜ」
これはクエストの予感がするが、発生はしない。まだその時ではないからだろう。
「・・・俺から話せるのはこれぐらいだ。さっさとモンスター共を倒してこの国を守ったら次の国へ行ってこい。不法侵入している奴等が居座っている家の住人もさぞかし迷惑だろうからな」
「あ、はい。それについては肝に銘じます。それじゃあ行ってくる」
今度こそヴェルンドの家から出て路地裏を歩きだす。
「どうする? 他のプレイヤーの皆にも教えた方がいいんじゃない?」
「でも、そうしたら不満を持っちゃうと思うよ」
「セレーネの言う通りね。せっかく落ち着く場所から今すぐ出ろって言われても直ぐに動くプレイヤーは全員が全員じゃない。だったらそうせざるを得ない状況にするしかないわ」
「どうするんですかお姉ちゃん?」
それは至極単純な事だよイカル。
「ここの拠点のゲージを今日中に100%まで増やす。そうしたら防衛成功としてNPC達が帰って来て、居座っているプレイヤーを追い出し、追い出されたプレイヤーは次の拠点に移動するしかない」
「それしかないわね。だけどそんな行き急いで、急かされたプレイヤーにいい感情を抱いてもらえないと思うわよハーデス」
「イズ。このイベントのルールに則ってプレイをしているだけよ。他のプレイヤーを強制的に戦わせている要素はどこにある?」
「・・・・・ない、ね。他の人にも影響が出るイベントでも強制的に戦わせるイベントじゃないから」
そういうことだ。ここも防衛成功したとしても直ぐに移動しなくてはいけないわけではないはずだ。
「そう言うわけで、私達はさっさと防衛戦に参加する必要はあるけれど、一先ず休息を入れなくちゃね。スタミナの方もいい感じに減ってるし」
「とは言っても、不法侵入したらその家の持ち主のNPC達から好感度が下がりそうね。ユーミルさんの家を召喚して休まないの?」
「その場所を探したいの。もしくは酒場、飲食店」
「酒場? あ、お店だから?」
正解だ。唯一、建物に入ってもよさそうな公共施設を探し、町中で会うプレイヤーから聞き込みをして、東方面に酒の看板があったと話を聞くまで10分以上かかった。
「あ、あったあった。ここね」
「中からも声が聞こえてくる。先にプレイヤーが入っているみたいだね」
「席が空いていなくても床に座れればいいわ」
「疲れました・・・・・」
扉を開けると案の定プレイヤーがたくさん集まっていて席に座っていた。ただ、ここの酒場は宿屋も兼ねているようで二階に上がる階段があった。とは言っても一階に座れる席は殆どなく、二階の部屋に向かって奇跡的に無人だった寝室を確保できた。
「結局私達も不法侵入するしかなかったわね」
「あとで料金を払いましょう。せめての謝意と誠意をしなくちゃ」
「そうだね。今だけは休まないといけないから」
「はい、お手紙も書きましょう」
それも大切だな。ダブルベッドの片方に俺が座ると当然のようにイカルが横に座って来て、イズとセレーネが片方のベッドに座って腰を落ち着かせた。
「お姉ちゃん、休んだら戦いに行くんですか?」
「いや、ここで一度睡眠を取ろう。イカルは第二のプレイヤーだから知らないことだけど私達は最初の村のイベントで一日一回6時間は眠らないといけなかったからね」
「確かに、するなら今かもね。でもこの部屋って大丈夫かしら」
何が? とイズ以外の俺達はイズに目を向けると立ち上がる彼女は扉に近づいて開けた。
「NPCがいないから宿としての機能が働いていないと思うわ。だから私達が眠っている間に誰かが勝手に入って来られる可能性もあるってことよ」
「そういうことね。それなら一旦パーティーを解除しましょう」
「え、何で?」
「理由はすぐにわかるわ」
とあるプレイヤー達
「おい本当に行くのかよ。止めておこうぜ」
「そうだぞ。なにより白銀さん達が起きているかもしれないだろ」
「起きていようが眠っていようがちょっと話をしに来たって言えば問題ないって」
「そうそう。仮に眠っていたら眠っている白銀さんのご尊顔を1枚だけ撮りたいしな。もうこんなチャンスは滅多にないぞ?」
「・・・嫌な予感がするから俺は行かねぇぞ」
「あ、おい」
「まったく、あいつビビりだな」
「相手が白銀さんだったら誰でもそうなるわ。俺だってお前らが下手な事をしないよう見張らなくちゃいけないんだから」
「そうだぞ」
「「と言いつつ美女と美少女のいる空間に入りたがっているだろお前ら」」
「「・・・・・」」
「ならば行くぞ同志よ。この扉の先にあの百合の花園の住人がいるんだ」
「ダブルベッドがある部屋で二人が一つのベッドを使って添い寝しているならチャンス到来だ同志よ」
「・・・・・これから死ぬなら俺は地獄行だろうな」
「お前だけ行かせやしないぞ友よ」
「腹を括ったな。行くぞ(ガチャ 扉を開ける音)」
「・・・・・おおっ、ね、眠っている。しかも添い寝だぁ・・・・・!」
「くっ、申し訳ないのに抱きしめ合って眠っている百合がいると感動の方が高まるっ」
「ごめんなさい、でもありがとう」
「早くスクショを撮って―――あっ」
「どうし―――あっ」
「よっしゃ、スクショゲット―――あっ」
「こっちの方もスクショを撮ったぞ。お前ら、どうし―――あっ」
グルルルルル・・・・・ッ
にゃ~ん・・・・・
「フェ、フェンリルと魔獣の猫ちゃんんんん!!?」
「あ~・・・うん。さすがに警戒しているよな。俺達みたいなやつがいないとは限らないし」
「だから、だから言ったじゃないか。止めておけって!」
「ここまで来たからには俺達も同じ穴の狢だ友よ」
その後、4人のプレイヤーは収穫は得たもの。オオカミとネコの粛清を受けたのだった。難を逃れた同じパーティーの最後のプレイヤーは地獄から生還した(運営からペナルティを食らった)4人から事の顛末を聞き、後悔よりも巻き込まれずに済んだ安心感から安堵で胸を撫で下ろした。だが4人は後悔など一切していなかった。NWOで唯一の百合の添い寝のスクショという一生の宝物を得たのだから。