バカとMMORPGと召喚獣!   作:ダーク・シリウス

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イベント~二日目

~~~二日目~~~

 

 

そして、気が付くともう朝だった。いや、良いなこのシステム。メチャクチャ気分爽快で、なんかグッスリ寝た感が凄い。イッチョウ達は・・・・・俺より後で寝たのかベッドに寝転がったまま目を閉じている。同じ部屋で他のプレイヤーより早起きすると寝顔が見れるのか。

 

「ム~?」

 

「クマー?」

 

俺が動いたせいかオルト達が起きたようだ。ゆぐゆぐとミーニィ、メリープも起き上がる。

 

「キュイ~・・・・・」

 

「――♪」

 

「メェ・・・・・」

 

まだ眠そうなオルトやクママを尻目に、ゆぐゆぐは一足早く立ち上がると窓辺に近寄り、カーテンをシャッと開けた。そして、両手を左右に広げ、朝日を全身で浴びている。そういえばゆぐゆぐは樹木の精霊だし、光合成スキルも持っていた。日光浴が好きなのかもしれないな。俺はまだまったりしているモンスたちを残して、1階に降りた。寝ている間も満腹度は減るようで、20%まで減少している。

 

実は朝食を用意してもらえるのかどうか聞いていなかった。もし用意してもらえないのなら、台所を借りようと思ったのだ。

 

「おはよう。よく眠れたかい?」

 

「はい。俺もモンスターたちもグッスリでした」

 

「それは良かった。今朝食を用意するでね、少し待っていてくれるかい?」

 

おお、俺の分まで用意してくれるらしい。

 

「まあ、昨日のスープとパンだがね」

 

「だったら、俺に作らせてもらえませんか?」

 

「おお、そうかい? だったらパンのレシピから教えてあげよう」

 

ということで、お爺さんからパンのレシピを教えてもらうことになった。レシピを貰うんじゃなくて、一緒に作ることで教わるパターンらしい。

 

「まずはこれじゃ」

 

「食用草の粉末?」

 

 

名称:食用草・粉末

 

レア度:1 品質:★6

 

効果:食材。

 

 

お爺さんに聞くと、食用草を乾燥させて、臼で挽いて粉々にした物らしい。まあ、頑張れば俺でも作れるかな?ただ、品質が★5以下だと食用草の苦みが残ってしまうようで、気を付けなきゃいけないらしい。

 

「これを水で溶いて、塩を入れる」

 

「ふむ」

 

「こうやって捏ねて・・・・・」

 

お爺さんが普通に生地を練っていく。

 

「捏ね上がったらこのままボウルに入れて、30分ほど置いておく」

 

「イースト菌はいらないんですか?」

 

「なんじゃそりゃ?」

 

どうやらゲームの中にイースト菌は存在していないらしい。どこかにはあるのかもしれないが、この村では知られてないんだろう。

 

「これで15分経つと生地が良い感じに膨らむから、それを平らにしてオーブンで焼けば完成じゃ」

 

「なるほど」

 

イースト菌なしでも問題なく生地が膨らむんだな。

 

俺たちは生地が膨らむのを待つ間に、サラダを用意することにした。白トマト、ホレン草、それにキャベツそっくりの野菜、キャベ菜のサラダである。味付けは塩コショウだけだが、野菜が美味しそうだから問題ないだろう。

 

サラダが出来上がる頃には、パン生地は倍くらいに膨らんでいた。これは凄いな。食用草の効果なのか?

 

それを4分割して、さらに平たく延ばしてオーブンの中に並べた。このオーブンは魔力で点火できるタイプらしく、魔力を流して温度を設定したらそれで終わりだ。

 

「スープは昨日の分がまだあるが、もう一品くらい作ってくれるかね?」

 

「そうですね・・・・・。やってみましょうか」

 

「なあに、食材はたくさんある。好きに作ってみたらどうだい? 失敗しても構わないから」

 

「いいんですか?」

 

「ええよええよ。どうせわしが作るんじゃ、ろくなものはできないし。ハーデスくんの料理に期待じゃ」

 

これは嬉しい申し出だ。実は、色々な食材を見て、幾つかレシピが解放されているのだ。

とりあえず俺は、肉と野菜2種で解放されている????を作ってみることにした。多分、肉野菜炒めだと思うんだが・・・・・。

システムの指示に従い、ウサギ肉を切って小さくして、群青ナス、ホレン草を切ったものと一緒にフライパンで炒めていく。最後に塩を振って完成だ。

 

「やっぱり肉野菜炒めだったか」

 

「ほほう。美味しそうじゃないか」

 

朝からちょっとガッツリだけど、ゲームの中なら気にはならない。というか、平パン、スープ、サラダ、肉野菜炒めと、昨日の夕食より豪華なんだけど。出来上がった頃にはイッチョウ達が一階に降りて来た。挨拶を交わしつつ席に座って用意された料理に手を伸ばす。

 

「うむ、美味いな」

 

「そうですね」

 

俺はカイエンお爺さんと村のことを話しながら朝食を食べた。村は農業や林業、木工細工などが主な産業らしい。また、村の周りにはそれなりに強い魔獣がいるらしく、俺たちだとちょっと厳しいかもしれない。

一番弱いモンスターはラビット。その次にはリトルベアなどが出現すると言うから、少なくとも第2エリア相当の敵が出現するんだろう。

 

あと、お爺さんは昼食は外食で済ませるそうだ。なので、次に作るのは夕食だな。

 

「今日はどうするんだい?」

 

「畑仕事を済ませたら、冒険者ギルドに行ってみます」

 

「そうかい。頑張ってな」

 

「はい」

 

よし、みんなを呼んで畑に行こう。

 

 

 

 

 

 

「皆、行くぞー」

 

朝食後、俺はオルトたちを連れて畑に出た。まずは爺さんの畑からだな。

 

オルトとゆぐゆぐ、クママが水を運びつつ、俺とメリープが草むしりだ。まあ、メリープは大きな雑草なんかにむしゃむしゃと食べているだけだから、仕事しているのかと訊かれたら何とも言えない。なお、ミーニィは戦力外通告により、人の頭の上で寝ている。

 

「まだ収穫できないか」

 

鑑定してみると、白トマト、群青ナス、ホレン草、青ニンジン、橙カボチャ、キャベ菜となっている。

 

オルトの能力ならもう収穫出来ていてもおかしくはないと思うんだが・・・・・。昨日の水まきなどが、一部をカイエンお爺さんがすでに終えていたため、オルトの栽培促成exが機能しなかったのだろうか? もしくは、俺が畑の所有者ではないため、オルトのスキルが適用されないかだろう。

明日だな。明日収穫可能になっている作物があれば、オルトのスキルの効果があるってことになるからな。

 

「さて、次は果樹園に行くぞー」

 

果物屋さんの果樹園に到着すると、収穫可能な果物が目に入ってきた。こっちは問題なくオルトたちの育樹が仕事をしてくれたみたいだな。

 

だとすると、お爺さんの畑も明日は期待できそうだ。

 

 

「収穫するぞー」

 

「ム!」

 

「――♪」

 

「クマ!」

 

「キュイ!」

 

「メェー」

 

ここにリックがいたら収穫用のどんぐりを食べ出さないか心配だが、キチンと収穫してくれるよな?

 

 

報酬は今日の収穫物から4つなのだが・・・・・。とりあえず紫柿、緑桃を1つずつ、白梨を2つにしておいた。オルトとクママにどれが好きか聞いたら、オルトは白梨、クママは緑桃が好きらしい。

 

さて、ジュース用の果物は確保できた。後はこの果物が株分できるかどうかなんだが・・・・・。

 

「オルト、この果物は株分できるか?」

 

「ム~」

 

「無理か?」

 

「ム!」

 

無理らしい。NPCの畑の収穫物という時点で、株分の対象じゃなくなってしまうんだろう。盗みは駄目ってことか。まあ、この村にいるうちにできるだけ白梨を確保しておこうかな。オルトの好物なわけだし。

 

「さて、あとは収穫物をアイテムボックスに入れて――っと。これで仕事は一段落だな」

 

畑仕事を終えた俺たちは、再び冒険者ギルドに向かっていた。この村のギルドにはまだ足を踏み入れたことさえないからね。どんな依頼があって、どれくらいポイントがもらえるのかは知っておきたい。

 

「よし、今日はそこまで混雑してないな」

 

ギルドの外に列もないし、中を覗いても10人くらいのプレイヤーがいるだけだ。おお、空いてるっ!

 

「これだけなら問題ないな。行くぞ」

 

「ム!」

 

「クマ!」

 

「――♪」

 

ピシッと敬礼するオルト達だった。お前等、何時の間にそんなポーズを覚えた?一度もお前等の前にしたことは無い筈なんだが?

 

 

初めて入ったギルドは、非常に簡素な作りだった。木製のカウンターに、一応は冒険者が並ぶためのマークのような物が床に描かれている。ちょっと田舎のファーストフード店ぽいな。

 

ただ、小さいながらもクエストボードが設置してあり、冒険者ギルドなのだとなんとか分かった。

 

「依頼は普通の冒険者ギルドっぽいな」

 

採取や討伐依頼が多いんだが、常設依頼もある。ハニービーの討伐依頼となっている。片手間にやってみるか?あと、労働依頼が幾つかあるな。相変わらず屋根の補修とか、釣り竿の作成とか地味な依頼が多い。俺ができそうな依頼・・・・・ああ、畑の世話もあるな。

 

「場所によるんだよな。カイエンお爺さんの畑の側だったら、ついでにできるんだけど」

 

そう思って依頼の場所などを調べていたら、なんとお爺さんの畑の隣の畑だった。しかも結構大きいな。10面くらいはある。

うーん。これはかなり時間がかかりそうだ。それこそ、2時間くらいは取られるだろう。お爺さんや果物屋さんの畑と合わせたら、4時間か・・・・・。せっかくのイベント中なのに、やってることがいつもと同じになっちゃうんだよね。

 

でも、俺がポイントを稼ぐにはこういう依頼をこなすしかなさそうだし、受けておこうかな。まあ、達成条件は収穫を1回することとなっているから、オルトがいれば他の人よりも早く達成できるだろう。

それに、労働クエストは実は悪くない選択肢だ。労働クエストは報酬は安いが、イベントポイントが多めみたいだし。村の貢献度にもつながるかも?

 

因みに、依頼の報酬や経験値は普段の依頼と変わらないらしい。ただ、ギルドポイントが貰えず、代わりにイベントポイントが手に入るようだった。

 

「じゃあ、この依頼を受けます」

 

「はい。では、依頼の場所はマーキングしておきますので」

 

マップを見ると、畑ではなくて一軒の家に依頼マークが付いている。依頼主の家なんだろう。

 

俺たちはさっそくその家に向かった。歩いて向かううちに妙な違和感を覚えた。なんだ? そして、依頼主の家の前に辿りつくと、ようやく違和感の正体が理解できた。

 

1回来たことがある場所だったのだ。

 

「こんにちは~」

 

「いらっしゃい」

 

依頼主の家は、なんとあの気難しそうなおばあさんが営む雑貨屋さんだった。相変わらず不機嫌そうなおばあさんに、依頼を受けてきたことを伝える。

 

「ふーん・・・・・」

 

なんか値踏みされてる!余所者故なのか頼みごとをきちんとこなしてくれるか半信半疑なんだろうな。

 

「まあ、仕事さえしっかりしてくれりゃ構わないよ。場所は教えてやるから、世話をしておくれ」

 

「はい、お任せください」

 

「ム!」

 

「――♪」

 

「クマー!」

 

「キュイキュイ!」

 

「メェー」

 

「ふむ、従魔かい。ほうほう」

 

おや、もしかして従魔好き? 右手を上げて挨拶するオルトたちを見下ろす目が僅かに細められる。一瞬、孫でも見ているかのような優しげな雰囲気が感じられた気がした。

 

「ええ、大切な家族ですよ。特にこの羊のメリープ、触ってみますか?モッコモコですよ」

 

「そ・・・そうかい?じゃあ、触らせてもらうよ・・・・・」

 

と言ってメリープの羊毛を一度触れると頬が心なしか緩んで雰囲気も和らいだ感じがした。

 

「どう?すっごいモッコモコでしょ」

 

「そ、そうだね。確かに柔らかい羊毛だよ。私も欲しいぐらいにね」

 

「お?それなら丁度ここに二つほどの毛糸玉がありますが、編める道具があるならどうぞお近づきの印に」

 

金色の毛糸玉を献上してみると、おばさんの目が輝いたのを見逃さなかった。ふふん、NPCでもモフモフの魅了には逆らえないらしいな。これはいいことを知ったぞ。

 

「では、仕事してきますね」

 

ということで、俺たちはおばあさんの畑に向かい、水撒きや草むしりを皆で行ったのだった。明日収穫できたら嬉しいんだけどね。「さて、畑仕事も一段落したな」

 

まだお昼過ぎだし、夕食まで時間がある。どうしようかな。

 

「村の側だったら、そこまで危険じゃないと思うし」

 

一歩も外に出られないほどの凶悪な設定ではないはずなのだ。そもそも、戦闘に自信があるプレイヤーは武闘大会に参加してしまっている者が多い。

こちらのイベントには生産職や、まったり組が多いはずなのだ。そんなプレイヤーに対して、外出したら即死というレベルのモンスターをぶつけるような真似はしないだろう。それが俺の予想だ。

 

まあ、俺はそんなまったり系プレイヤーの中でも特に貧弱だから、気を付けなきゃいけないことに変わりはないんだが。俺はオルトたちを連れて村の入り口に向かった。村を囲む木の壁に唯一存在する門だ。門と言っても、出入りに制限があったりするわけではなく、普通に通り抜けることができた。

 

村の周囲は森に囲まれているので、遠くを見渡すことはできない。山に囲まれているのは分かるんだけどね。

 

「森に生えてる樹木は第1エリアと変わらないな」

 

ただ、採取ポイントの数が少ないのだろうか? 10分ほど歩いてみても、薬草などが採取できなかった。

 

 

さらに5分後。

 

 

ようやく現れたのは2匹のラビットだった。

 

 

「みんな、頑張れー」

 

「ム!」

 

「キュイー!」

 

「クマッ!」

 

「――!」

 

「メェー!」

 

おお、みんなやる気だ。この戦闘で、イベント期間中ずっと村に引きこもるかどうかが決まる。重要な戦闘だぞ?とか思ってたんだけど・・・・・。相手が弱すぎた。ラビット自体のレベルも低めだった様で、クママの爪にミーニィの魔法攻撃よって瞬殺であった。

 

俺抜きでもフィールドボスに勝てるくらいには強くなってるし、さすがにこの程度の敵には苦戦しなくなっているようだ。

 

「もう何回かこの辺りで戦ってみよう」

 

「ムム!」

 

あまり村から離れないように、フィールドを歩いてみる。村の近辺ではラビットしか出現しないようだ。しかも、3匹以上は現れない。やはりそこまで難易度は高くないようだ。

 

「全然歯ごたえが無いな」

 

「クマー」

 

「キュイ」

 

どちらかと言えば好戦的な性格のミーニィとクママが、どこか残念そうだ。実入りも悪いし、もう少し強い敵と戦ってみるか・・・・・。いたらの話だがもうちょっと奥まで行くか。常設クエストもあるし

 

ということで、村から少し離れてみた。村の周辺には杉の木が多かったんだが、この辺りからは杉が減り始め、多様な雑木が姿を見せ始めている。

 

「あ、そうだ。ミーニィ、ここで巨大化してくれるか?」

 

一度も試していないスキルを試さないと。ミーニィは俺の頭から飛んで離れて地面に降り立つと、小さな身体がオルト達も乗っても大丈夫なほどに大きくなった。しかもモフ度が上がっただろうこれ!

 

「おお、凄いな」

 

「グルル」

 

「あ、鳴き声が変わるんだ?乗ってもいいか?」

 

姿勢を低くするミーニィに自力で登れないオルト達をひょいっと俺を最後に乗せていく。俺も乗るとミーニィは力強く翼を羽ばたかせて空へと飛んだ。

 

「おおー!」

 

「ムムー!」

 

自力で飛ぶ以外に空を移動することが出来た感動に声を出すのは俺だけでなく、空の移動を堪能するオルト達も楽し気に声を上げる。ミーニィは己の意思で飛び回って森の奥へと連れて行ってくれた。

 

途中で降ろしてもらうと常設クエスト用のハニービーがいて、近くの木にはハニービーの巣があった。おお、しかもたくさんハニービーがいる。いい狩場を見つけてしまった。ん?黒い靄を纏ったハニービーが一匹交じってるがあれは?

 

「クックマー!」

 

「って、クママー!?」

 

蜂の巣=ハチミツに繋がってしまったか、クママが手から爪を生やしてハニービーに襲い掛かった。止める間もなく無双を振る舞い、黒いハニービー諸共蹴散らしながら巣に飛びついてしまった。ああ、もうしょうもないな・・・・・。

 

「クマ!」

 

巣をポリゴン化にしたクママが何かを差し出してきた。アイテムと化したハチミツに・・・お、ロイヤルゼリーじゃないか。

 

「くれるのか?」

 

「クママ!」

 

「因みにお前はどっちが一番の好物?」

 

ハチミツとロイヤルゼリーを指しながら訊くと、片方を上げた。ロイヤルゼリーの方だ。流石は熊のモンスター、舌も肥えているようだ。

 

「んじゃ、ロイヤルゼリーは食べていいぞ。頑張ったご褒美だ」

 

「クママー!」

 

ハチミツを受け取った俺の了承を得て、ロイヤルゼリーを食べるクママの顏は蕩けた。スクショで保存案件だ。パシャパシャっと。

 

「ムー・・・・・」

 

「オルト?って、ミーニィお前等も何だその目」

 

何か、クママだけズルい!とばかりのジト目で俺を見てくるのだが・・・・・。

 

「ああ、わかってるわかってる。この村でいっぱい頑張ったら必ずお前等の好物をたくさん食べさせてやるよ。約束だ」

 

「ムム!」

 

「グルル!」

 

「メェー!」

 

喜びを露にする現金な奴らめ。そこが可愛いがな!ただ、ゆぐゆぐはオルト達と違って食用の好物はない。なのでその代わり俺に向かって頭を下げ撫でろと訴えてくるので抱きしめながら撫でる。すると俺の首に腕を回して抱き着いてきては顔を摺り寄せるゆぐゆぐ。

 

「ムムー!」

 

ゆぐゆぐの行動に触発された模様のオルトまで抱き着いてきて、メリープも脚に身体を擦り付ける。ロイヤルゼリーを食べ終えたクママや巨大化した顔でミーニィも引っ付いてくる。

 

「ちょ、またこのパターンか!」

 

村からかなり離れた森の奥で俺は従魔にもみくちゃされる。幸いプレイヤーの誰もいなかったから誰にも見られることもなく恥ずかしい気まずい思いせずに済んだ。

 

 

 

 

 

「ただいまー」

 

家に戻ると、どうやらカイエンお爺さんはまだ帰ってきていないらしい。

じゃあ、お爺さんが戻ってくる前に、夕食の準備をしちゃいますかね? 色々と試してみたいこともあるし。まずは、失敗の恐れがなさそうなスープからだな。

 

「調味料はっと・・・・・あったあった。結構色々あるじゃないか」

 

NWOで料理を作るとき、何も調味料を入れなくても僅かに塩味が付く。まあ、ギリギリ不味くない程度だけど。だが、キチンと調味料を使えばもっと美味しい料理が作れるはずなのだ。始まりの町では塩と胡椒しか見たこと無かった。しかし、カイエンお爺さんの家にはそれ以外にも数種の調味料類が置かれていた。

 

「塩、胡椒、醤油、味噌、オリーブオイルか。いつか栽培して入手したいもんだ」

 

俺はとりあえず醤油と味噌を取り出してみる。軽く手に取って舐めてみると、それはまさしく醤油と味噌だった。ただ、味と匂いはそこまで良くはないかな? リアルで食べている物よりは劣ると思う。

 

「まあ、それでも醤油で味噌だからな。これでスープが作れるぞ」

 

スープと言うか、味噌汁だけどね。本当は出汁も取りたいところなんだが、出汁が出そうな物が何もない。和食の料理人さんがやってるような野菜で出汁を取るなんて高度な真似、俺にはできないし。魚介類でもあればいいんだけど。明日、村で売ってないか探してみよう。

 

おっと、スープの前にパンの生地を捏ねておこう。

 

「ムー?」

 

「――?」

 

「なんだ? 気になるのか?」

 

「ムム!」

 

ミーニィとメリープとクママは部屋の隅で寝ているが、オルトとゆぐゆぐは俺がやっていることが気になったらしい。ボウルでパン生地を捏ねていると、左右からのぞき込んできた。

 

「ムム!」

 

オルトの鼻息で吹き飛んだ乾燥食用草の粉が、ゆぐゆぐの顔に降りかかる。

 

「――!」

 

粉が目に沁みたのか、ゆぐゆぐは目をゴシゴシこすりつつ呻いていた。その後、ちょっと怒った顔のゆぐゆぐに睨まれ、オルトは気まずそうに首をすくめる。

 

「――!」

 

「ム~・・・・・」

 

「ふふっ」

 

そんな姿を見て思わず笑ったら、オルトに怒られてしまった。ムッとした顔で俺の足をポカポカ叩いている。だが、その可愛い怒り方がより笑いを誘う。

 

「わはははは」

 

「ムー!」

 

オルトと追いかけっこをしていたら、あっと言う間に時間が過ぎてしまった。危ない危ない、お爺さんが帰ってきちゃうよ。

 

俺はオルトたちに少し離れた場所で見学するように言うと、料理に戻った。さて、パン生地の発酵を待つ間にスープへと取りかかろう。

 

「具は、ウサギ肉、青ニンジンだ。待てよ、群青ナスも入れちゃおうか?」

 

スープのレシピは水に具材2種類なのだが、昨日のお爺さんのスープには具材が3種類入っていた。ということは、俺でも具材が増やせるのではなかろうか?

 

「物は試しだ。やってみよう」

 

鍋に水を沸かし、青ニンジン、群青ナス、兎肉を投入する。味噌と少量の塩もだ。

 

そのままグツグツと煮込んでいくと、良い匂いが漂ってきた。うーん、いい感じにおいしそうだ。まあ、見た目は最悪だけどな。想像してみてほしい。茶色の味噌汁の中に、色鮮やかな青と群青の具材が大量に浮いているのだ。非常に食欲をそそらない光景だった。

 

だが失敗してはいない。鑑定してみると、きちんと味噌汁と表示されているからな。鍋1つで4人前らしい。

 

 

名称:味噌汁

 

レア度:2 品質:★3

 

効果:満腹度を28%回復させる。HPを4%回復させる。

 

スープを作っている間に生地の発酵が終わったので、延ばしてオーブンに入れておく。これで2品目だ。

 

「あと2品は欲しいところだな。サラダでも作っておくか」

 

作るのはもう手慣れたもので、4分くらいでチャチャッと作れてしまった。白トマトとホレン草、キャベ菜のサラダである。味付けは塩、胡椒、オリーブオイルでイタリア風に仕上げてみた。

 

「最後はメインか・・・・・。よし、焼肉だな!」

 

これも焼くだけだから簡単だ。だが、味付けに少し凝ってみようと思う。

 

「乾燥!」

 

まずはバジルル、セージを乾燥でハーブティーの茶葉にする。そこに混ぜるのは塩だ。ハーブ塩を作ってみるつもりなのだ。擂り粉木でゴリゴリと混ぜていくと、茶葉は粉々になって塩と混ざりあっていく。お、微かにハーブの香りがしてきたぞ!

 

「よし、完成だ」

 

鑑定してみると、きちんとハーブ塩という名前に変化しているではないか。品質は★2だから、作り方が悪いんだろうが、成功は成功である。

 

焼いたウサギ肉にパラパラと振りかければウサギの焼肉、ハーブ塩仕立ての完成である。まあ、名前は焼肉・ウサギ肉という素っ気ない物だったが。

 

とりあえず自分の分を味見してみよう。不味い物をお爺さんに出すわけにはいかないからな。実際、品質が★2の調味料を使っているわけだし、本当に美味しいかどうかは分からない。

 

「じゃあ、いただきまーす」

 

「ちょっと待ったー!!!」

 

食事をしようとする俺に待ったをかけたプレイヤー、イッチョウ。続いてイズまでもが現れる。

 

「やっぱり一人で食べようとしてたね。ハーデス君の手料理は見逃さないよん!」

 

「く、何故分かった」

 

「いや、この時間帯ってリアルでも夕食の準備、夕餉の時間じゃない」

 

・・・・・リアルでの生活習慣が原因か!こいつも料理は作れるが俺の料理のレベルに一週間の殆んどは俺に作らせるんだよな。

 

「しょうがない・・・・・こんなことあろうかと作り置きしていたもんを出すか。言っとくがまだ作っている最中だからな。これは味見用だ」

 

「え、何?」

 

蟹チャーハンをドン!と二人の前にインベントリから取り出した。これを見て二人は驚いた風に目を丸くした。

 

「え、チャーハン?まさか、まだ見つかっていないお米を見つけたのハーデス」

 

「そこにいるイッチョウと一緒にな。運がいいことにイベントが始まる前に収穫が出来たんだ。で、速攻で料理した」

 

「流石は防御極振りのテイマーにしてファーマーしてる先駆者のハーデス君!お米料理を実現させたね。あとは豆を発酵して納豆の完成頑張って!」

 

他力本願の納豆小町に豆は自分で見つけてこいと言い返して焼肉を口に入れてみると、肉は多少硬いものの、きちんとハーブ塩の味がする。ハーブの香りもしっかりと残っている。うーん・・・30点だな。

 

ハーブの香りがかなり強いのだ。俺はハーブ類が好きだから気にならないが、ハーブが苦手な人だったら、エグ味や雑味が残ってしまっているように感じられるかもしれない。

 

「・・・・・今日のところは醤油味噌で味付けしとこうかな」

 

ハーブ塩味を出すのは、味見をしてもらってからにしておこう。大人しく醤油と味噌で味付けをした焼肉を作っておいた。さて、これで4種類。夕食には十分だろう。

 

だが、お爺さんはまだ帰ってこない。だったら、少しだけ実験をしてみようかな。

 

実は、平パンを見たときからどうしても作ってみたい料理があったのだ。今日、オリーブオイルを見てその思いはさらに増してしまった。

 

平パンに、トマトに、バジルル、オリーブオイル。そう、ピザである。サクサクモチモチの平パンに、たっぷりのオリーブオイルとトマトソース。それだけでも十分美味しそうだ。チーズがあれば完璧だったんだが、この世界ではまだ見たことが無かった。心の底から残念だ。

 

課題はそれだけではない。まずは肝心のトマトソースを作れるかどうかを確かめなくてはならなかった。

 

刻んだ白トマトを鍋にかけ、塩、胡椒を振った後はただひたすら混ぜていく。色は白いホワイトソースみたいなのに、匂いはトマト。すっごく違和感があるな。

 

だが、15分ほど混ぜ続けていたら、それっぽくなってきたぞ。トマトの原形はほとんどなくなり、見た目やドロドロ具合は完全にソースのそれだ。

 

「よし、最後の仕上げだ」

 

俺は意を決して鍋に魔力を流し込んだ。上手くいけば何かが出来上がるし、失敗していればゴミとなる。

 

すると、ポンという音を立てて、俺の目の前に白いソースの入った小瓶が置かれていた。名前は白トマトソースとなっている。品質は★3だが、紛れもなくトマトソースだ。

 

「おし、やったぞ!」

 

これでピザが作れる! いや、それだけじゃない。一気に料理の幅が増えたぞ!

 

「ふっふっふ、明日はこのトマトソースでピザだな!」

 

ということは、俺がやることは1つだ。なんとしてもチーズを手に入れる。モッツァレラとは言わん。チーズであれば何でもよい。それさえあれば、ピザが完璧なピッツァとなるのだ!フハハハハハ!

 

「ハーデス、料理に関するとイキイキしてない?」

 

「リアルだと料理を極めすぎたあまりにオリジナルの調味料まで作っちゃうほどだよ。その調味料も美味しいからついつい食べ過ぎて最近体重が・・・・・」

 

「完全に主夫・・・・・でも、興味があるなぁ」

 

「そう?神奈川県の川神市に来てくれるなら家に案内してあげるよん」

 

「あら、そこなのね?今度遊びに行っていいかしら?」

 

「どーぞどーぞ」

 

何やらリアルで会う約束をしているらしいが、遅れてペイン達が顔を出してきた。

 

「お?飯を作ってくれたのか?」

 

「これは俺とカイエンのお爺さんの分だ」

 

「なら、二人の前に置いてるチャーハンは?」

 

「事前に作り置きしてた料理だ。お前等は何か夜食用に食べなかったのか?」

 

「また料理を用意してくれると思ってたからね」

 

「あのお爺さんがいないとするとまだ用意されていなかったのかぁ~。不味い携帯食で空腹度を満たすしかないか・・・・・」

 

嫌そうに携帯食を出して食べるフレデリカを見て、誰も料理を作らないのかと思ってしまった。

 

「はぁ・・・しょうがない。作り置きした料理を出してやるよ」

 

塩もあるし丁度いいな。四人に対しては茹でガニと焼きガニ、蟹チャーハンに蟹ピラフと現状作れるカニ料理×2を惜しみなく出した。

 

「か、蟹だぁー!?」

 

「まさか、このイベントで蟹を食べられるとは驚いたぜ・・・!」

 

「どれを食おうか迷ってしまうな」

 

「確かに、どれも美味しそうだよ。ハーデス、お礼はお金でいいかな」

 

「お礼は前線プレイヤーとして食用のアイテムを譲ってくれればいい。簡単だろ?」

 

ペインは薄く笑って頷き交渉を成立した。四人は蟹料理を食べ始め美味い!と舌鼓を打つ。

 

「イッチョウ、守り神の情報は?」

 

「うーうん。見つからなかったよん。どこにいるのかなー」

 

「俺達もクエストをこなしながら探してみたが、影の形も見当たらなかったぜ」

 

ペイン一行も見当たらないで今日を終えたか。

 

「ていうか。この料理にバフまでついているのかよ。勿体ねぇな」

 

「確かに。AGIが一定時間+10は凄すぎだ。フレデリカ、お前もできない?」

 

「むーり。前線プレイヤーは不味い携帯食で空腹度を満たすことしか考えてないじゃん。そんなプレイヤーに交じってる私やペイン達も料理スキル取得してると思ってる?」

 

ペイン自身も否定しない辺り、攻略に専念しているのが良ーくわかった。イズが顎に指で触れ視線を上に向いたまま口にした。

 

「第3エリアから解放されたから今度は第6エリアまでしか進めないかしら?仮にだけど」

 

「となるとさらに先に進むためのギミックは当然のようにあるということだね」

 

「俺もそろそろ進まないとな。第3エリアの町すら入ってないでこのプレイ状態だぞ」

 

「「「「はっ?」」」」

 

ペイン達が呆けてこっちを見る視線は敢えて無視する。事実なんだからしょうがねぇだろ。

 

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