修理求む装備の耐久値が残り四割以下になったプレイヤーのみ対応。それ以外のプレイヤーは修理に応じることはできません。
という木製の看板をサイナとイカルに持って、長蛇の列を作るプレイヤーの横に立ってもらう。そしてそんなプレイヤーの前にいるイズとセレーネが修理を求む装備の審査をする。
「この装備はまだ六割も残っているわ。修理は四割になってからまた来てちょうだい」
「はい。この装備は四割以下だからハーデスからアイテムを貰って」
「いらっしゃい。この10個の薬とおまけにこっちの秘薬もセットだ」
「本当に無料で貰えるのかよ。ありがてぇ」
二人の審査を通ったプレイヤーのみ装備の耐久値を回復する秘薬を提供する。出来れば渡したアイテムを他のプレイヤーに渡してくれると助かるがな。でも中にはまだ修理しなくてもいい耐久値の装備を修理してくれとしつこく迫って来るプレイヤーもいたが、ボディガード用に召喚したフレイヤに蹴られて、フェルに追い返される。
400人を超えるプレイヤーを相手に、装備の修理の対応を真にしたのは大体100人ほどだった。それでも二人だけで修理するにしても肉体的にも精神的にも疲労必須な二人にとって、今回のやり方は大変ありがたかったようで、プレイヤーが作った長蛇の列が消えると凄く感謝された。
「うーん、ははは・・・・・大赤字も大赤字。莫大なGがなければできないことだこれ」
善意で値下げしたとは言えど、これがリアルだったら破産は確定で倒産待ったなしだぞ。いやーゲームでよかった!
「本当にごめんなさい。ありがとうねハーデス」
「お礼、しなくちゃね。何がいいかな」
「セレーネさんや。億を越える額の相応のお礼は無理だろ。気にする必要はないぞ」
その一言でセレーネはシュンと落ち込み、イズは苦笑する。
「まぁまぁ、セレーネが出来ることをすればいいのよ」
「イズ、例えば? それはイズも同じ場合だったら出来ることなのか?」
「え、えーとそうね・・・・・?」
そこで悩むぐらいなら言わなければいいのに。セレーネもイズの答えを待っているじゃないか。
「・・・・・セレーネ」
「なに?」
セレーネに耳打ちする何か思いついたイズ。何を言ったのかは知らないが、セレーネの顏が林檎のように紅潮したのはなぜだろうか?
「軽い気持ちじゃなくて本気でお礼をしたいなら嫌じゃなければ、今のところそれしかないわよ」
「う、ううう・・・・・!」
「お金には代えられない事をするしかないわよセレーネ。頑張りなさい」
「あのー、そこまで恥かしがるならお礼はしなくていいし。寧ろこっちが困るわ。イズも自分が出来ないかもしれない変なお礼の方法をセレーネに吹き込むな」
と、呆れ顔で言うと二人は沈黙した。
「・・・・・ハーデス、それ、本気で言っている?」
「じゃあ言うが。イズはリアルでもその方法でお礼できるのか? したいのか? それも見知らぬ相手にだぞ」
「・・・・・それは」
「否と答えるなら、やっぱり気にするなって話だ。俺は結果を口にしただけなんだから。しかもこれはゲームだ。遊びなんだ。負けられないイベントをしているんだから、多少のリスクを背負う覚悟が無ければ勝つことも楽しむこともできない。違うか?」
イズに問い、問われたイズは沈黙で返した。そこで不安そうなイカルが話に入って来た。
「あの、喧嘩をしているんですか?」
「違う。注意をしているんだ。お礼はしなくていいってな」
「お礼をしなくていい注意? お母さんはお礼をするのは大切だと言ってましたよ」
「それは正しい。間違ってないぞイカル。でもな、お礼って時に人によっては重たくなるし困ることもあるんだよ」
まだそれが判らないイカルは小首を傾げて不思議そうに俺を見つめてくる。
「例えばだイカル。お腹空いている子供にイカルがご飯をあげたとしよう」
「はい」
「ご飯をたくさん食べれたその子供は、実は家出をしたお金持ちの子供でお腹が空いて死にそうだったところを助けたイカルにお礼をしたいと子供や、その子供の親がそう言った。イカルはどんなお礼をしてもらいたい?」
「えっと・・・・・」
「最初はそう悩むよな? じゃあ、悩むイカルの代わりにお腹を空かせた子供の親が一億円をあげると言ったら?」
「そ、それはさすがに多すぎ・・・・・ですか?」
「お礼される側は嬉しすぎる大金だ。でも中には当然のことをしただけだから、と言ってお礼の大金は入らないという人間も必ずいる。なら他のお礼をと言い出す親は―――イカルに自分の子供と結婚させるつもりで婚約者にしようと言い出したら? しかも、イカルとイカルの親が絶対に逆らえないほどのお金持ちの相手にそう言われたら?」
「こ、困ります!? それは嫌です!」
本気でそう思っているのか首を強く左右に振るイカルが次の瞬間、ハッと目を開いた。
「あ、お礼をされるのが困るのって・・・こういうことなんです?」
「そう言うことだ。世の中には自分にとってお礼とは良いばかりじゃないんだよイカル。だけど大人の世界じゃあお礼を受けないと相手に失礼な時が必ずあるから大変なんだよ本当」
「ハーデス・・・・・なんか実際にハーデスもそんなことがあったの的な感じなのだけれど?」
俺はフッと小さく笑ってその時の事を思い出す。きっと遠い目をしているだろう俺は事実を述べた。
「・・・・・あるんだよなぁー」
「「「あるんだ」」」
こほん。
「だからセレーネ」
「は、はい」
「どうして畏まる。まぁ、だからだ。無理にお礼はするなってことだ。イズに何を言われたのかリアルで問い詰めてみるが、自分の意思ではないやり方でお礼をされるのは俺も嫌だからしなくていい。いいな」
「・・・・・うん」
ならよし。話はこれでお終い、以上だ! ん、何だイズ。恐る恐ると聞きたそうだな?
「・・・ハーデス? リアルで問い詰めて、それが問題だったら・・・・・怒る?」
「嘘を見抜くのは得意だから、虚言した場合は尻を10回。内容次第でも10回叩くぞ」
「ほ、本気・・・・・?」
「本気と書いてマジだ。だから覚悟しとけよイズ。なに、軽く林檎を叩いて壁にぶつけて砕け散らすような力でしないさ」
ハハハッ、イズさん、何をそんな真っ青な顔をしているのかなー?
「イズ・・・・・頑張ってね」
「セレーネ、待って、私を見捨てないで」
「大人の人でも悪い事をしたらお尻を叩かれるんですね。反省しなくちゃダメですよ」
「イカルちゃん。私は悪い事をしてないわ!」
セレーネとイカルからまさかの同情の言葉。
「ゲームの中で自分でも出来ないことを唆すことは悪い事ではないのか?」
「うっ!? ご、ごめんなさい・・・・・この歳でお尻を叩かれるのは嫌だから許してください」
その場で深々と土下座をしだすイズ。そこまで嫌なのかよお前ェ・・・・・。
「はぁ・・・まったく。許すけど次は本気だかんな」
「はい、以後気を付けます。肝に銘じておきます」
許したことで立ち上がるイズ。フェルとフレイヤをホームに送還した後、かまくらに戻って腰を落とす。さて・・・・・。
「明日はどこの門のレイドボスに挑もうか。クジラとマンモス、チョウチンアンコウとオオサンショウウオが融合したみたいなモンスターみたいだが」
「マンモスって凄い硬いみたいよ? どうする?」
「それ以上の【STR】で攻撃する他ないんだが、方法はある」
「あるんだ。じゃあチョウチンアンコウとオオサンショウウオが融合したモンスターは?」
「まどろっこしいからキメラウオって名前で言おうか。キメラウオは掲示板で見る限り捕食行動をするらしいな。ちょっと試したいことがある、手伝ってくれ」
「いいけど何をするつもりなの?」
なーにちょっとしたクッキングをするだけですよー? 食べたら猛毒になるか麻痺になるか眠るような罠の料理をねー。
四日目―――。
「よーし、スキルのクールタイムも終わって万全だ。後は―――キメラウオを倒しに行くぞ」
「はい!」
「昨日は特に何もできなかったから頑張るわ」
「私も今日も頑張る」
「微力ながらマスターをサポートいたします」
東門に向かう。防衛戦の開始時間は朝の9時から始まり、レイドボスに挑む際は100人以上ではないと戦えない設定になっている。兜の緒を緩めない精神で7時から待っている間に他のプレイヤーも時間が過ぎるにつれて続々と集まって来る・・・・・ん?
「300人、越えた?」
「ううん、もう400人よ」
「・・・もしかして、分散して戦わず一つに絞ってレイドボスに挑むつもりじゃ?」
「そうなんですか?」
・・・・・なるほどな。これだったら可能だ。
「誰かが指摘したか、あるいはトッププレイヤーと戦えば楽に勝てるという精神で来たかは分からないが。東門に500人全員が揃ったら他の北門と南門のレイドボスとその日の内に戦えるな」
「え? ・・・あ、そっか。そういうことなのね」
「どういうことなんです?」
「昨日、他の門にも向かったけど他のプレイヤーが先に戦ってたから参加できなかったでしょ? じゃあ、最初から全員が同じ場所で同じモンスターと戦ったら?」
「全員同じ・・・他のレイドボスのモンスターは戦っていませんから戦えるようになるんです?」
その通りだイカル。個人的な理想は昨日の内に125人ずつ戦い、四体のレイドボスを倒せたらよかった。結果は一勝三敗だがな。
「でも、それも問題はあるにはある」
「どんな問題?」
「連戦できるほど装備の耐久値が残っていないことだ。だからキメラウオと戦った後は昨日と同じことをするぞ。もちろん他のプレイヤーが連戦を望むつもりでいるならの話だ」
などなどと言っている間にここに集まった人数を表明するパネルが500人に達した。先頭にいるプレイヤー達が全員集まったのを見計らったかのように開始時間になると門の向こうへと消えて行った。